全ての任務を終えた私はマインとレオーネの二人と共にアジトへ戻った。そして、メンバー全員が集まる会議室にて先ずはゲンセイの件を報告する。
「現役時代は堅物すぎてお偉い方から煙たがられるくらいだったんだぜ、あの師範………なのに何故っ」
ブラートが切なそうに事実を噛み締めていた。
「恨んで頂いて構いません。どんな理由にせよ、あなたの師匠を殺したのは私です」
謝罪も言い訳も意味が無い。
「恨んだりしねぇよ。キリカとの真っ向勝負で敗れたんなら、寧ろ今頃喜んでそうだしな」
「闇の世界に身を置く以上、親しい者との決別は避けて通れない道だ。気に病む必要はない。それに尾雪会は元々地方のチームが追っていた標的でもある。今後も活動が続くようなら残りも消さねばならん。それでイヲカルの方はどうなったんだ」
タバコの煙を一息吐き出すナジェンダ。
「イヲカルは予定通り私が狙撃で仕留めたわ。あとはその、あんまりにも呆気なさ過ぎて………」
「ああ、追撃に出てきた五人共ほぼ同時に首が落ちてたな」
何処か遠い目をして答えるマインとレオーネ。
「幸い、達人としては弱い方達でしたので」
一人だけ位階_参が混じっていたものの、他4人は位階_弍程度の実力しかなかった。
「達人を弱いって言えるキリカ姉ぇさんがヤバい」
と、呟くラバック。
「
「なんでしょう?」
「革命決行までの間に全員を鍛え上げて貰えないか?」
「皆さん任務もある訳ですから短期間で劇的に強くなるのは難しいと思いますよ」
「もちろん可能な範囲で構わない」
「………」
可能な範囲と言われても、修練を施したところであまり意味がない者もいる。
ブラートは既に完成されきっていて伸び代自体が残っていない。
シェーレの方は武芸の才能自体が皆無。一応、位階_壱クラスの実力はあるものの、そこへ至るまで血の滲むような努力をしたに違いない。
糸使いのラバックと狙撃手のマインは元から特殊な感覚と技能を持っており、鍛え方は当人達が一番良く分かっている筈。
レオーネに関してはまだそれなりに成長性が残っている。しかし、半年間鍛錬に明け暮れたとしてもライオネル有きで位階_
「………難しいか?」
「一つご提案があります。伸び代のある人を集中的に鍛えて私に次ぐ戦力にする、というのはどうでしょう?」
「ふむ………お前が考える伸び代のある者は誰だ?」
「アカメさん、ですね。多分、私がしっかり指導すれば決戦時にはインクルシオを纏ったブラートさんと同等レベルかそれ以上になるかもしれません」
年齢を鑑みると現時点で破格の実力を持つアカメ。先日の手合わせを思い出してみても伸び代は計り知れない。
「本当か!? いや、元々才能の塊だとは思っていたが………」
「たとえ同じ技量だとしても私では正面からブラートに勝つのは難しい。インクルシオは硬いからな」
表情をしかめるアカメ。
「鎧ごと斬れば良いじゃないですか?」
「斬れるのか?」
「ええ、金属なんかの切断は慣れれば割と簡単ですよ」
仮に絶対防御の鎧というのであれば、発勁を使って中身を破壊すれば良い。
「期待出来そうだな。なら、アカメとキリカは革命決行時までなるべく鍛錬に集中して貰う。難易度の高い任務以外は他のメンバーで何とかしよう」
その後、新たな標的の割り振りなどがなされ会議は終了。私はとりあえずシェーレに声を掛け訓練用の器具がある倉庫へ案内して貰った。見回してみると室内には各種ダンベルや模擬戦用の武器が完備されている。
「何か使えそうなモノはありますか?」
「筋肉のつき方にムラのある場所を狙って鍛えられるような器具があれば………」
「用意します。少し待っていて下さい」
「お願いします」
ふと、棚にある訓練用マニュアルを開いてみると、鎧を着用しての水中訓練のやり方が書かれていた。
――随分、効率が悪そうなやり方ですね。
軽く目を通していると倉庫の置くから身体の各部位へ細々と装着することの可能なギブスを抱え戻ってくるシェーレ。
「これなんか色々な場所に使えっ、あ!」
しかし、足元の器具に気付かず躓いてしまう。
「危ない」
前のめりに倒れ込もうとするシェーレを抱きとめる。
「す、すみません」
「………」
単なる日常生活においてこのそそっかしさ。任務の最中、あっさり命を落としてしまわないか心配になってしまう。
「キリカさん?」
「アカメさんの前に少しだけ身体の動かし方をお教えします。これから訓練場へ来て下さい」
早速、シェーレを訓練場へ連れて行き、先ずは巻藁に向かって何度かエクスタスを振るって貰った。
エクスタスはハサミ型の武器だが、側面も切れるようになっている。その為、敵との交戦時は挟みこむより、寧ろ大剣に近い使い方をする場合が多いようだ。
「どうでしょうか?」
「大体分かりました。次は私がやってみますね」
帝具は適正者以外が下手に装備すると拒絶反応を起こすらしい。なので、訓練用の大剣を使う事にする。
巻藁の前に立ちシェーレと寸分違わぬ斬撃を行い、続いて位階_弍へ到達した彼女の動きを想定して大剣を振るった。
「今のは!?」
「シェーレさんが目指すべき到達点です」
力の流れを把握して、己の肉体を細部まで緻密に操れる技能を生かしたお手本。これを数回繰り返して披露する。手取り早く他人の成長を促すなら未来の可能性を実際に見せてやれば良い。
「凄いです。なにかしっくりくる動きって言うか………」
「だと思いますよ。じゃあ、軽く手合わせといきましょうか」
「………お願いします」
「………」
エクスタスから訓練用の大剣に持ち替えたシェーレと向かい合って鏡合わせのように同じ構えを取った。
あとはシェーレの技量の変化に合わせて、ほんの少し上の実力で模擬戦を続けていくだけだ。問題はこの修練方を用いても、彼女が位階_弍へ至るには恐らく数年は掛かるという事。
――でも、きっと無駄にはならない筈です。
理想的な身体の動かし方を意識するだけでも生き残る確率は上がるものだ。
◇
数週間後。私はアカメの予想を遥かに超える成長速度に驚いていた。修練方法はシェーレと変わらないのだが、既に位階_伍までその力量を上げている。正に桁違いの才能としか言いようが無く、しかも未だに伸びしろを多く残していた。やはり、アカメを重点的に鍛える判断は正解だったようだ。これは本当にブラートを超える強さになるかもしれない。
そんな折、久々に私とアカメにも任務の招集がかかった。ナジェンダが私たちを会議室へ呼んだという事は、かなり難しい任務が発生したようだ。
「今回の標的は噂の連続通り魔だ。深夜無差別に現れ首を斬り取っていく。もう何十人殺されたかわからん」
「犠牲者のうち三割は警備隊員って話だし、間違いなくあの首斬りザンクだろうね」
深く頷くラバック。
「………」
配られた標的の資料に目を通すとザンクは元々帝国の監獄で働く首斬り役人だった。しかし大臣の影響で処刑する人数は日々増える一方。命乞いをする人間の首を無数に斬り落としているうちおかしくなってしまったらしい。終いには監獄で働く同僚を手に掛けて逃亡している。
「討伐隊が組織された直後に姿を消しちまったんだが、まさか帝都に戻ってくるとはな」
「ザンクは当時獄長の持っていた帝具を奪っている。警備隊の被害状況を鑑みても恐らくかなりの腕利きだ」
と、危機感を露わにするブラートとナジェンダ。
「獄長さんの持っていた帝具というのは?」
「機密情報扱いだったので噂に過ぎないが、罪人の心を読むことが出来たらしい」
「心を読む………該当する帝具は五視万能スペクテッドあたりでしょうか?」
文献の一頁を思い出す。帝具に関する記述は徹底的に読み込んだ。そのおかげで殆どのページを諳じられるようになっていた。
「スペクテッド、どんな能力だ?」
「確か遠視、透視、洞視、未来視の四つの機能に奥の手が一つあるって書いてありました。それぞれの能力がどの程度かは不明ですが………」
因みに全ての帝具には必ず一つ、奥の手という強力な切り札が備わっている。
「多機能型か、厄介そうだな」
「遠視や透視が行えるなら索敵能力にも優れていると思われます。複数人で出向くのは得策じゃないかもしれません。なので、今回は私一人に任せて貰えませんか?」
「帝具持ち相手に単独で挑むのは無謀………でもないな。お前の場合」
「これ以上犠牲者を増やさない為にも速やかに犯人を釣りあげます。もちろん勝てないと判断したら即座に撤退しますので」
「分かった。任せよう」
――兎のフリをした狼作戦、そんな感じでいきましょうか。
宵の口。私は真っ白なワンピース姿で帝都市内を散策していた。今回、刀を持って来ておらず衣装はマインの私服をラバックが仕立て直したモノ。変装コンセプトは中流階級のお嬢様といった感じだ。また、夜歩きの理由は【ダンス教室に通っており、今日はうっかり忘れ物をして帰る時間が遅くなってしまった】という設定である。なので、時折不安そうに後ろを振り返ってみたりと、そういった所作を挟みつつ
少し離れた表通りでは警備隊員達が世話しなく巡回を行っていて、物々しい雰囲気を醸し出していた。補導されたりしたら当然任務は失敗となる。鉢合わせにならないよう注意していこう。
か弱い仕草で歩き続けること十数分。唐突にねっとりした視線が纏わりついて来きた。
――おや、思いのほか早く食いついてくれましたね。
充分に視線の主を引きつけ、一直線の路地裏へ入ってからゆっくり後ろを振り返る。すると、10メートル程先に白いコートを纏った長身の男が立っていた。
「愉快愉快。美しいお嬢さん、こォんな夜更けに一人で出歩るいたら危ないよぉ」
ニィっと不気味な笑みを浮かべる男。額には目玉模様の悪趣味なアクセサリー――帝具スペクテッドを装着していた。手配書の人相書きとも特徴が一致しており、標的のザンクで間違いない。つぶさに観察すると腰のベルトに血の滴る人間の頭部をぶら下げている。生首はボサッとした茶髪で
「ひぃ!!……く、首! 人の首が!?」
哀れな兎らしくプルプル震えながら指差してみる。
「ん~~♪ この小僧は最高だったなァ。なんとこいつは首斬りの達人であるザンク様の首を狙って来たんだぜぇ。軍に志願するための手みやげがどうとか言ってなっ! 愉快っ! 愉快愉快、愉快な話だろう? 俺を楽しませたんだから褒美をやらないとなぁ。だから、干し首コレクションに加えてやったのさァ」
ザンクが両腕に装着している二本の中剣を交差させ悠然と歩いて来た。
「人殺し……いやぁ、助けて!!」
もう演技をする必要はないのだが、つい深窓の令嬢っぽいリアクションを続けてしまった。
通り魔の実力は位階_参程度。帝具の能力を加味しても殺害方法はざっと数十通りくらいある。
「駄目駄目。夜に出歩いてる方が悪い。さあ、お嬢さんは首を斬られた後どんな表情を俺に………っっ!?」
ビクッっと全身を硬直させザンクが立ち止まった。
「どうか、されました?」
「は、ははっ。なんなんだお前は!? どう足掻いても俺が死ぬ未来しか見えん」
「………」
スペクテッドでこちらの思考や直近の未来を予見したらしい。圧倒的な実力差を前に狩られる側がどちらであるかを悟ったようだ。
ザンクは私の間合いへ入った段階で完全に積んでいる。未来を視る、思考を読む、どちらも結果を変えられなければ意味はない。
「だが、どんな手練れであろうと………」
スペクテッドの目玉模様が怪しく発光。
――っ! 目くらまし!?
無駄な足掻きを、と思った瞬間視界が不自然にぶれた。フワリと現実感が喪失してザンクの居た場所に着物姿の美しい女性が現れる。その髪には赤い花の髪飾りが付いていた。
『キリカ………おいで』
「………かあさま?」
母――レイリの温かくて穏やかな声。急に現実感が喪失して安心感に包まれた。
目の前、手を伸ばせば届く距離に大事な人がいる。大切な母様があの頃のように微笑んでくれている。私は思わず、温もりを確かめようと一歩踏み出した。すると、レイリがかつてのように赤い花の髪飾りを差し出してくる。
『始末の依頼………対価はもう渡してあるでしょう』
――っ!!
そうだ、悪鬼外道を彼岸へ送る決意を固めて以来、母の髪飾りは今も私が付けている。
母――レイリは15年程前に
我に返ると同時にバックステップで後退する。
首筋に微かな痛みと一筋の赤い傷。不覚にも薄皮一枚斬られてしまった。
――ふざけた真似をっ!!
幻覚の影響で狂う距離感を空気の流れ等から補い、左足を軸に渾身の回し蹴りを放つ。
我流・操身術
パキンッ
レイリの姿がかき消えてザンクの剣が二本共砕け散る。
「何故だぁぁぁぁ!? お前にとって一番大切な者が見えた筈だっ!」
「ええ、久々に母様と逢えました。ありがとうございます」
「ちっ! 死人を見たな。うおぉぉぉぉぉ! まだだ、殺されてたまるかぁぁぁぁ!!!」
必死の形相で殴りかかってくるザンク。
「…………」
静かに息を吸い、全身の筋肉と関節を連動。右手に運動エネルギーを集約させ、ザンクの首元目掛けて神速の手刀を振り抜いた。
我流・操身術
「っっ!!? 音が、止んだ………信じられん。素手で俺の首を!? ははっ、まさかこんな斬り方がっ―――」
ドチャリッ
音を立ててザンクの頭部が胴体から離れて地面へ落ちる。
「依頼、完了です」
手に付いた血糊を払いザンクの死体からスペクテッドを回収しておく。
――帝具、改めて恐ろしい武器でした。
スペクテッドの奥の手は相手の視界に幻影を映すだけではなく、大切な人間が間近にいると錯覚させる暗示的な効果も含まれていた。ただ、どんな幻影が現れるかは相手の記憶次第。使用者が自由に内容を決められる訳ではないのだろう。そうでなければ今頃、死んでいたのは私の方だ。
ここ最近、アリア一家、ゲンセイ、ザンクと立て続けに殺されかけている。シェーレや仲間の心配をしておきながら、真っ先にやられてしまっては笑い話にもならない。
今回も運良く生き延びられた事に安堵の息を吐き、足元へ目をやると少年の首が転がっていた。命を奪われ人としての尊厳さえ踏みにじられてしまった悲しい犠牲者。開いたままの瞼をそっと閉じてやり、やるせない思いを胸にアジトへの帰路に着いた。
余談
原作のキャッチフレーズは【恋か死か】
タツミさん、恋を知らずモブキャラのままさり気なく退場致しました。ナイトレイドに加入出来なかった場合、オリ主がいなくてもザンクに殺される可能性は高いと思っています。
原作における場合、この時点での彼の実力は当作品に当てはめると位階_弍。決死の覚悟を決めた状態で位階_参くらいと考えています。ザンクに一太刀は入れてましたし。
ただ、この世界線だとアカメやブラートから修練を受けておらず、初期段階の位階_壱の状態でおります。危険種ばかり狩っていても、対人戦技能の伸びには限界があるんじゃないかと。
もし、ザンクと出会わなければ、エスデスさん主催の大会に出場してのイェーガーズ入隊ルートもあり得たんですが………。
あと、うちのキリちゃんはデバフ、状態異常にめっちゃ弱い。ステータス自体は殆どカンストしてるのに………。最強と無敵は違うのです。