仮面ライダーディケイド&リリカルなのは 九つの世界を歩む破壊神 劇場版編 作:風人Ⅱ
―――そしてその後、神樹カーラーンの消滅によって戦国世界と全ての平行世界への天下統一という名の侵略は収まり、神樹の触手に取り込まれた人々も死人が出ることもなく解放されたらしい。
他の平行世界も似たような状況らしく、被害も思ったほど広がらずに済んだようだったが、それでも神樹の発生源であった戦国世界の各国は壊滅的な打撃を受け、武者ライダー達と神樹の消滅もあって戦国バトルロワイヤルのこれ以上の続行は不可、不毛であると断定された。
今後一体どうするべきか、それについて一度腰を据え話し合う必要があると考え、連合軍は一先ず一時休戦、各国を治める他の武将達にも休戦協定を持ち掛ける方針を決め、それまでの間は神樹の被害に遭った民達の救護と壊された町の修繕に力を入れる事を決めた。
そんな中……
◇◇◇
―城下町・公園―
零「――――何故に俺だけ絶対安静で留守番なんだよ……」
事件から翌日が経ち、仲間と共に信長等の国に戻ってきた零は包帯だらけの格好で以前信長と子供達が花火をして遊んでた公園の滑り台に腰を下ろし、不満げに頬杖を突きながら溜め息を吐き、首に掛けたカメラで修繕が進む町の光景を撮影する姿があった。
零「もうこの程度なんでもないっていうのに、過保護にも程があるだろアイツ等……」
袖をめくり包帯が巻かれた腕を眺めてそう呟き、そのままふと遠くを見つめると、此処から見える町の一角にある巨大な瓦礫を纏めてツヴァイギャリーで何処かへと引っ張っていく光景が目に映り、それを見て更に溜息してしまう零。
因みに何故彼がこんな場所にいるのかと言うと、先の神樹カーラーン事変の際に邪武者ディケイドとの戦いでまた無茶をやったことをなのは達に咎められ、安静にして休んでろと言い渡されたのである。
だが今はもう動き回っても特に痛みを感じぬし、大人しくしているのは性に合わないから、町の修繕や瓦礫の処理を手伝うと信長達に申し出たというなのは達に付いていこうとしたのだが……
『良いから大人しくしてるっ!』
『無茶した後の君の"大丈夫"は絶対信じないようにすると決めているんだっ!』
『そもそもこれだけの人数が揃っているんですから、貴方がいなくても問題はありませんし』
『というか必要ない』
『ってか頼むからジッとしててくれ、作業中に倒れられても迷惑だから』
『邪魔』
……若干凹んで泣きそうになったのは秘密だ。
しかも治ったら治ったで、『信長さんとの結婚の話はその時に改めて問いただせて頂きます』などと笑顔で言われるものだから、気分はもう処刑執行を持つ罪人のソレである。
まあそんなこんなで智大達が町の人達の手助けをしている間、零は信長の屋敷で言われた通りに今まで安静にして休んでいた訳なのだが、屋敷の中でも町の修繕や被害報告などでバタバタと走り回る声や足音が絶え間なく聞こえてくるため、とてもじゃないがあの屋敷で何も気にせず安静に休むなど到底無理だった。
なのでこっそり屋敷を抜け出し、町の様子を一通り見てからこの公園にまで足を運んだ訳だが……
零「やる事が何もないな……これだったら、アイツ等に無理言ってでも何か作業をさせてもらった方がまだマシだったか……」
信長「―――成る程。そうやっていつもあの娘達を困らせている訳か。貴様も罪な男だな」
零「怪我が治ってる後まで心配する必要ないだろう?別に今から働いたところで死ぬ訳じゃ、な――――ぅおおおおおおおおおおッ!!!?」
と、其処で零は漸く自身が誰かと話をしている事に気付いて驚愕し、勢いよく飛び退き自分が今まで座っていた滑り台の横を見てみれば、其処には何故か秀吉や家康などの大名達が集まる城の評定に出席している筈の信長が、町娘の格好で頬を膨らませながら佇む姿があった。
信長「なんだその反応は?まるで人をもののけみたいに、失敬な奴だな」
零「前触れもなくいきなり現れれば驚くに決まってるだろうがッ!こっちは右目に包帯を巻いてる上に気を抜いてたんだぞッ?!死角から声掛けんなッ!」
ビシィッ!と、頭から右目に掛けて巻かれた白い包帯を指差し、バクバクと早鐘を打つ心臓を押さえながらまくし立てるように文句を叫ぶ零。だが……
信長「ああ……そうだったのか……すまなかった……我もまだ、貴様の怪我の具合を知らなかったものでな……」
零「……は……?」
「気を抜いてた貴様が悪い」などの皮肉や意趣返しの言葉などが返ってくるかと思いきや、髪を掻き分ける彼女から返ってきたのは、妙にしおらしい謝罪の言葉だった。そんな反応に対し零も流石に予想外で目を白黒させ、信長はそんな零の様子に気づかずに彼が座っていた滑り台に無言のまま腰を下ろすが、零の様子を見て訝しげに眉を寄せた。
信長「どうした?そんな珍妙な顔をして、腹でも下したか?」
零「……いや、別になんでも……」
また直ぐにいつもの態度に戻った信長にそう言われ、ただの気のせいか?と小首を傾げながら、取りあえず信長のすぐ隣のもう片方の滑り台の台に腰掛ける零。
零「……というか、こんな所で何やってんだお前?確か暫くは秀吉達と城での話し合いで屋敷にも顔を見せられなかったんじゃなかったか……?」
信長「ん?ああ……今日の評定は確認と顔見せぐらいだったから、早く終わってな。まぁ、また何かあれば向こうから知らせが来て呼びに来るだろうし、屋敷に戻っても仕事が待っているだろうから、今の内に息抜きをな」
零「……流石にお忙しいな……大丈夫なのか?あの事変からすぐに連日で働き詰めで、身体が持つか?」
信長「ふ、なんだ?らしくもない心配をしてくれるのか?」
零「……別に……ただこっちがあれだけ苦労して助けたってのに、過労なんかでぶっ倒れられておっ死られたらやり切れんからな」
信長「……相変わらず意地の悪い物言いだな。神樹の中で助けに来た時はあんなに優しかったというのに」
両手で抱いた膝に口元を埋め、不満げに「むぅ…」と唸りながら零を睨む信長。しかし零も其処を突かれると都合が悪いのか口を閉ざしてそっぽを向いてしまい、信長はそんな零の横顔を見て軽く溜め息を吐くと、懐から紙包みを取り出し、紙包みを開いて様々な色が綺麗に付いた粒状の菓子を露わにさせた。
零「……?何だ、それ?」
信長「我の好物の金平糖だ。此処へ来る前に我が贔屓にしている店に寄ってな。幸運にも彼処は無事だったから、一つ買ってきた」
零「ほう……随分洒落た物を好むんだな……」
信長「……む。何だ、何か可笑しいか?」
零「いいや。俺もそういう菓子は結構好む方だが、俺がいた世界や今まで巡った世界でも、其処まで綺麗な金平糖はあまり見た事ないんでな。物珍しく思ってる所だ」
信長「……なら……食べる、か?」
零「ん……じゃ、何粒か」
おずおずと問い掛ける信長にそう言って手の平を差し出すと、その上に金平糖を何粒か乗せてもらい、一粒摘んで口に運んだ途端、目を僅かに見開いた。
零「美味いな……」
信長「ふふん、だろう?我も初めて食した時は一発で惚れ込んでしまってな……だから、お主達や武者ライダー達のお陰で、またこの味を噛み締める事が出来て、嬉しく思っておる」
零「…………そう、か」
ポツリとそう呟いた信長にそう短く返し、再び金平糖を口の中へと放り込んで舌の上で転がすと、ほんのりとした甘みが口の中に広がっていくのを感じながら、晴れ晴れとした青空を無言のまま見上げていく。
零「…………」
信長「…………」
閑寂。互いに目を合わせず無言となる二人の間に響くのは、遠くから聞こえて来る修繕作業や人々の声と、二人が口にする金平糖を口の中に転がす音だけ。そうして暫く時間ばかりが過ぎてゆく中……
零「……なあ」
信長「あの……」
零&信長『……え?』
二人ほぼ同じタイミングに声を発して重なり、思わず顔を見合わせる二人。
零「……そっちから話していいぞ」
信長「い、いや、我は別に……貴様から話せ……我もまだ、心の準備が足りていなくてだな……」
零「?……そうか」
物憂い様子で髪を弄る信長に少し疑問を抱きはするも、こちらも彼女に聞きたいことがあるのは確かなので、お言葉に甘えて先に質問させてもらうと、零は手の平の上の最後の一粒を摘み口の中に放り込んだ。
零「―――お前、これから一体どうする気なんだ?」
信長「?どう、とは……?」
零「……武者ライダー達も神樹も、俺達が潰して消えたから戦国バトルロワイヤルもなくなった……同時にそれは……お前が目指していた天下統一の夢もなくなった、って意味だろう?」
信長「…………」
零「ずっと追い求めていた夢を失った……今の現状が回復した後……そんなお前は、これから一体どうする気なんだ……?」
先程と同じ問いを投げ掛けながら、零は脳裏に以前、この公園の影でシャドーと交わした会話を思い出していく。
シャドーはあの時、信長は自分に似ていると言った。
国や民達の事を自分という勘定に入れ、夢の為に自身の幸福や身を削る事も厭わない矛盾した自己犠牲の精神を持った女だと。
だが、その自分自身を犠牲に出来るだけの物を失った時、信長は自ずと自壊していく脆さを持った人間でもあると。
その自身を犠牲にしてでも追い求めた夢を失った今、彼女はどうするつもりなのか……。
一抹の不安を胸に隣に座る信長の横顔を見つめると、信長は金平糖を一粒頬張りながら……
信長「さて、どうしたものか……町の再建が片付いた後、同盟国の浅井と我の妹にでも国を任せて風来坊にでもなるかどうか……」
零「茶化すなっ……ん?というかお前、妹なんていたのか?」
信長「ああ、そういえば話してなかったか?まあ今は浅井の下に嫁いでこの国にはいないのだが、我に似てお転婆な娘だ。それ以上に可愛い奴でもあるがな」
零「ほぉう……お前に似たお転婆となると、その浅井って男も夫として苦労が絶えんだろうなぁ」
信長「どういう意味だっ。あと、長政を勝手に男にするな。彼奴はれっきとした女子だぞ?」
零「…………は?いや……長政の下に嫁いだとか……まさか、女同士で……?」
信長「?同性でも、大事な親友同士でならそれくらい普通ではないか?」
零(……この世界の結婚の定義は一体どうなっとるんだ……)
此処に来てどうでもいい新たな謎が増えて頭を思わず押さえてしまう零。信長はそんな零を見て不思議そうに小首を傾げつつも、ふとその顔に複雑げな笑みを浮かべ前を向いた。
信長「まあ確かに……武者ライダー達も消え、神樹による被害の爪痕で我等の国を含むこの世界は、最早戦などしていられる状況ではないだろうな。貴様の言う通り、我の悲願である天下統一を果たすのはほぼ無理と言っていい」
零「……と言う割りには、お前もいつも通りに見えるが?」
信長「まさか……正直、これでも落ち込んではいるのだ……邪武者ディケイドに天下を取られ、天下を支配するほどの力であると言い伝えられていた神樹があんな邪悪なモノだったと知った時には、愕然とした……我等はこんな植物如きの為に戦っていたのかと、自分を見失い掛けた……だが……」
膝に口元を埋め、瞼を伏せながらポツポツと話の続きを紡ぐ。
信長「それ以上に……このままでは、長秀達や秀吉や家康、あの場にいた皆も、我らの国も民も、この世界も、あの樹に全て呑み込まれてしまう。そう思った時には落ち込むよりも先に、皆を守らねばという気持ちから邪武者ディケイドに挑んでた……それに、貴様達や武者ライダー達が我らとこの戦国世界を守ってくれなければ、きっと我は本当に、今まで戦ってきた意味を失って生きる事すら諦めていたと思う……だから、我は感謝している。貴様達にな」
零「……財団を追ってきた智大達はともかく、俺達の方は殆ど成り行きみたいなものだがな。それが結果的に、お前達を助けたってだけだ」
信長「例えそうであっても、我等が助けられた事に違いはなかろう?……貴様達には確かに感謝しておるのだ。おかげで我も、新しい目的を得られたのだからな」
零「……新しい目的?」
零が訝しげに聞き返すと、信長は「うむ」と頷き返しながら滑り台から腰を上げて立ち上がり、遥か頭上の太陽に向けて掌を伸ばした。
信長「天下統一という夢想を果たすことは今や不可能になってしまったが、我が目指すのは、この日ノ本の民達が二度と戦の影に怯えずに済む世を築く事。その出発点として天下統一を目指したのであり、天下統一が到達点という訳ではないのだ。だから我は……戦国バトルロワイヤルとは別の道で、この日ノ本中の民達を平穏の世へと導いてみせる……秀吉や家康達と共にな」
零「戦以外の別の方法で、か……それはいいが、秀吉はともかくとして、家康がそう簡単にお前に協力してくれるのか?アイツ、お前の事やけに目の敵にしてただろう?」
信長「ふふっ、確かに……しかし彼奴も悪い人間ではない。例え今は無理でも、真摯に向き合い、言を重ねていけば、いずれ納得して力を貸してくれるやもしれんしな」
零「そう上手くいくものかね……」
信長「なに、もしもの時は彼奴が飛び付いてきそうな取引を幾つか用意しておるから心配はしとらんさ。家康の扱い方を昔から誰よりも理解しておるのは、我だと自負しているぐらいだしな♪」
零「…………俺の時もそうだったが、お前大概腹の内が真っ黒だよな…………」
信長「それぐらいの強引さが、時には国を引っ張ってゆくのに必要な時もあるからな。……それとも貴様は、綺麗事を述べる大名の方が好きか?」
零「……いや。少なくとも俺は、そういう駆け引きも出来る奴でないと安心して国を任せられない方だな」
おどけるように肩を竦めてそう言えば、信長は小さく微笑し「そうか」と呟き、そんな彼女の顔を見て零も胸の内の不安が消えていくのを感じていた。
彼女の選択が正しいのか、間違いなのかはわからないが、それでも何かの為に前に進む事を諦めない気概がある限り、彼女はきっと大丈夫なのだろうと確信させられる何かを感じる。
それが彼の織田信長だからか、それとも彼女の本質からなのかと考えるが……これ以上は蛇足だなと考えるのを止め、同時に先程信長が何かを言い掛けてたのを思い出す。
零「そういえば、お前からも何か話があるんだったよな?何だったんだ?」
信長「む?…………ああ…………それ、は…………」
思い出したように零がそう問い掛ければ、途端に信長は先程まで饒舌に話してた時と打って変わってあからさまに口数が少なくなっていき、そんな信長の様子の変化に零が訝しげな視線を向けると、信長は妙に落ち着かない表情でそわそわしながら……
信長「ぁ…………その、な…………以前、貴様と城で話した、離婚の話……なんだが…………」
零「ああ、その話か。離婚届が届いたのか?」
この世界に来たばかりの頃、詐欺紛いというか、まんま詐欺行為で信長と結婚させられた日に彼女と取り交わした条件である離婚の話。その為の用紙が漸く届いたのかと零が聞くと、信長は小さく頷き返した。
信長「昨日の夜に届いてな…………後は、貴様と我が必要な署名をして、届けを出せば離婚は成立する…………らしい…………」
零「で、晴れて俺とお前はバツイチか……最初の頃はそうなると知った時は鬱々とした気分にばかりなったが、此処まで来ると不思議とそうでもなくなるものだな……お前はもう署名したのか?」
信長「いや……まだ……」
零「そうか……まあお前も昨日はそんな事してる余裕もないぐらい忙しかっただろうしな。何なら、今から行って一緒に署名するか?何処にある?……信長?」
信長「…………」
顔を覗き込んで声を掛けてみるが、信長は両手を前の方で組んで俯いたまま何も答えない。
……可笑しい。先程まではあんなに自分達のこれからについて生き生きと話していたのに、何故か離婚の話になった途端あからさまに元気を無くしてしまってる。
零「信長……?おい、どうしたんだ?」
信長「…………なぁ、零…………その…………一つ、貴様に聞いてもいいか…………?」
零「……?別に構わんが……何だ?」
信長「……ぁ……あ、の………その、な……」
聞いてもいいかと言いつつも、所在無さげに視線をさ迷わせたり、腹部の下で組んだ両手をジッと見つめたりなどして中々本題に移れないでいる。よほど言いにくい事なのか、時折思案するように物憂いげに瞼を伏せたり、溜息にも似た深呼吸を繰り返し、やがて……
信長「あの……も、もし、我―――私、が……結婚をなかったことにするのを、なかったことにして欲しいと言ったら……貴様、どうする……?」
零「……?なかったことにするのを、なかったことにして欲しいって……」
それはつまり……要するに、離婚の話をなかった事に出来ないか、という……?
零「いや、何言ってるんだお前っ?邪武者ディケイドを倒して、俺達が元の世界に戻ることになったら婚姻破棄するって約束だった筈だろうっ?」
信長「わ、分かっておるわ!言われずとも忘れてなどおらん!だから昨日の夜も長秀が持ってきた離婚届けに署名しようとしてっ、の、だが……出来なく、て……分からなくて……長秀に相談したら、そのっ……だからっ……だから……」
零「……っ?」
徐々に言葉尻が小さくなる信長が何を伝えたいのか分からず余計に訝しげに眉を寄せる零だが、信長は何故分からんのだと言うようにそんな零の顔を見上げて不満げに視線を投げ掛けるも途端に顔を紅くし、目尻に涙を浮かべながら地面に目を落として……
信長「離婚、したくないんだ……夫婦のままでいたい……だって―――本気で私は、貴様を……好きになってしまったのだから……」
零「…………………………………………はい?」
先程よりも数段頬を赤くし、突然愛の告白を口にしたのであった。
零「………………」
信長「……っ……///」
零「……あー……っと……それは……なんだ……友達とかそういうのでなく……男女的な意味、で?」
信長「…………ん…………///」
コクッと、面食らう零からの質問に対し控えめに頷き返す信長。その様子はまるで借りてきた猫のようで、彼女が嘘や冗談などの類を口にしているようには見えない。
零「………………」
……え、なにこの超展開?予想外DEATH。
零(いや……いやいやいやいやいやいやっ……待てっ……は?コイツが、俺を……え?どういう事だ?何故こうなったっ?!何がどうしてこうなったっ?!)
あまりに予想外過ぎる展開に理解が追い付かず、零も困惑して言葉を失い、内心動揺しまくっている。だがそんな零の心境など露知らず、信長は耳まで顔を真っ赤に染まりながらボソボソと語り出した。
信長「わ、私だって、最初からそんなつもりなんてなかったし、こうなるなんて予想もしてなかったっ……貴様と婚姻を決めた時から、女としての幸せなど捨て去ると覚悟を決めていたし……なのに……」
自分でも未だに気持ちの整理が付いていないのか、目を泳がせながらも一つ一つ自分の心の内を絞り出すように語り、おずおずと顔を上げた。その顔はこちらが心配してしまいそうなほど真っ赤で、瞳を潤ませ、思わず零もたじろいでしまうほどの女らしい艶っぽさがあった。
信長「全部……全部貴様のせいだっ……こんな気持ち、知る必要などなかったのに……一度知ってしまったせいで、手放したくない、もっと貴様に……なんて、自分でも似合いもしない事を思うようになってっ……全部、貴様のせいだ……」
零「ッ……いや……だが、なんで俺なんだっ?自分で言うのもなんだが、正直、俺を好きになる要素なんて何処にもないだろうっ?」
信長「それは、まあ……確かに貴様は、意地が悪いし、無愛想だし、女心は分からんし、デリカシーもないし、正直貴様よりも中身が整った男なぞその辺を探せば腐るほどいるだろうが」
零「おう、喧嘩売ってんのかお前」
自分の欠点はそれなりに自覚してるつもりだが、此処までボロクソに言われると流石にカチンと来る。顔を引き攣らせてそんな文句を思わず口にしてしまうが、信長は俯いて両手を忙しなく組み直しながら……
信長「だが、な……それでも私は、貴様がいい……どんなに貴様よりも、性格が良くて……頭が良くて……容姿が良くとも……貴様でなければ、意味がないんだ……だから……だから、な?」
躊躇いがちに顔を上げて、上目遣いで零を見つめる。
信長「貴様に……その……す、好きになってもらえるように、私なりに頑張るから……努力する、から……だから……貴様の、嫁のままで……いさせてはもらえない……かっ……?///」
零「ぁ……ぅ、ぐっ……」
恥ずかしさを必死に押し殺し、そんな殺し文句を口をする信長の飾りのない告白に流石の零も勘違いのしようもなくたじろぎ、目を泳がせてしまう。
……正直に言えば、信長の気持ちは物凄く嬉しい。
女心にも疎く、デリカシーも致命的にないとは言え、自分とて男だし、信長のような美女に告白されて喜ばない筈がない。しかし……
零(……いや、駄目だ……俺には、コイツの気持ちに応える資格なんて……)
自分は世界を破壊する存在……悪魔、破壊者だ。
自分に関わる人達が自分のせいで何人も傷付けてきたし、その中には何かの介入がなければ取り返しの付かない事態になってたものだって沢山あった。だから、自分が傍にいれば、彼女もいずれそうなって傷付けてしまうかもしれない。
それに、結婚なんてものはもっと大事な契約だ。
苦楽を共にして一緒に生き、何物に代えてでもその人だけを守り抜くという誓いなのだ。
だが、死が二人を別つまでその人の傍にいられるかと問われれば、今の自分にはもうそれを誓う事すら出来ないし、仮に仲間達か信長かどちらかが大事かと問われれば、自分はすぐに信長を選ぶ事は出来ないと思う。
……そんな不純な気持ちのままで、こんな汚れ切った醜い手で、信長の真摯の気持ちを受け止める事などしていい筈がない。
自分なんかよりももっと、彼女の傍に相応しい人間が、きっと何処かにいるハズなのだ。だから……
零「―――信長……お前の気持ちは、正直に言えば、素直に嬉しく思う」
信長「…………」
零「けど、な……俺はお前にそんな気持ちを向けられてもらえるような人間ではないし……結婚なんてものは、互いが互いを一番に想えてから初めて成立するものだとも思う。俺はお前をそういう風には想えないし、こんな中途半端な気持ちのままお前の夫で有り続けるだなんて、お前の真っすぐな気持ちをただ侮辱するだけだ……」
信長「……っ……」
零「だから、俺は……お前の気持ちに応え―――」
―ダアァンッ!!―
なのは「ちぇええええりぃおぉおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっっっっ!!!!!!」
零「……は?―ドゴォォォォオンッ!!!!―ごはぁああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッ?!!!!!」
―ビュンッ!チュドォオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーオオォンッッッ!!!!!―
信長「ッ!!?な、何だっ?零っ?!」
零が信長に自身の気持ちをそのままに伝えようとしたその瞬間、公園の入口から突如一人の人物……何故か修繕作業を手伝いに行っている筈の作業服のなのはが高らかにジャンプしながら現れ、ライダーも顔負けの跳び蹴りを零の横っ腹に打ち噛まして公園の一角にまで吹っ飛ばしていったのだった。そしてなのはは華麗に着地しながら両手を叩き、吹っ飛んだ零をビシィッ!と指差しながら叫んだ。
なのは「こぉんの、鈍感っ!!朴念仁っ!!あんまりだよ零君っ!!奥手の信長さんが此処まで自分の気持ちを打ち明けてくれたっていうのに、ちょっとぐらい信長さんに此処から頑張るチャンスを上げてくれてもいいでしょうっ?!」
零「ぐぅおおおおおおおおおおおおおおぉっっっ……ちょ、ま、待でっ……というか、そもそもなんでお前がこんなところにっ……!「――家康さんが信長さんに確認して欲しい書類があるからと、私達に信長さんを探してきて欲しいと頼まれたんです」……ッ?!」
脇腹を押さえて悶える零の前にそう言いながら現れたのは、同じく作業服に身を包んだ二人組……魚見と姫であり、更にその後ろには意地の悪い笑みを浮かべる智大とライトの姿もあった。
零「お、お前等っ……?!何で此処にっ……!」
智大「いやぁ、なのは達が信長ちゃんを探してるって言うから手伝っててな。人探しは探偵の得意分野だし。んで、お前と信長ちゃんがなんか話してるとこを見掛けて、暫く隠れて様子を見てたってとこだな」
信長「か、隠れて、とは……どの辺からっ……」
ライト「そうだね……確か『死角から声掛けんなッ!』の辺りからだったかな?」
零「思いっきり最初辺りじゃねぇかぁあッ!!!!」
信長「ぅあっ……ぅぅ~~~~っっっっ……///」
つまりあのやり取りも全部見られていたという訳で。信長は恥ずかしさのあまり湯気が立ちそうなほど真っ赤になりながら涙目になって俯いてしまうが、そんな信長の両手を突然なのはが掴んで握り締めた。
なのは「信長さんっ!私、信長さんの勇気に感動したよっ!女を感じたっ!」
信長「……え……?」
姫「ああ、あの朴念仁の塊みたいな彼に彼処まで真っすぐに自分の気持ちを打ち明けるとは……武将にはあまり良い印象は持っていなかったが、あっぱれだ、別世界の織田信長……!」
なのは「グスッ……私なんてっ、私なんてねっ……?『家族』っていう他の皆より身近な立場のせいでっ、しかも超がいくつあっても足りないくらいありえない鈍感だって嫌ってほど知ってるから、自分の気持ちを打ち明けても『家族として好き』みたいに受け取られんじゃないかって、怖くて怖くて告白も出来なくてっ……!」
魚見「心中お察しします、高町さん……。私もあの人と契約した際にここ十年の記憶の一端を垣間見ましたけれど、アレは確かに酷い。酷すぎる」
零「……あの……さっきから一体何の話して……」
『ちょっと静かにしてて(していろ)(してて下さい)!!!』
零「」
会話に割り込もうとしたら一喝されて、無理矢理押し黙されてしまう零。そんな朴念仁を尻目に、なのはは信長の手を握ったまま……
なのは「大丈夫、諦めないで信長さんっ!零君は確かに愛想もないしふてぶてしいしマイペースで、変な所でマイナス思考だからあんな事も言っちゃうけれど、此処からいくらだって巻き返しも出来るハズだから!一緒に頑張ろっ!!」
信長「は……ぇ……あ……ああっ……?」
と、涙ながらそんな応援をするなのはに同意するように姫と魚見も頷き、信長は状況が未だに飲み込めず困惑したままだったが、何とか戸惑いがちに三人に頷き返していったのだった。
零「……なあ、早瀬探偵……」
智大「なんだい、色男」
零「俺……何か、間違ったこと言ったんだろうか……?結婚って、もっとこう、互いの真摯な気持ちが大事だと思う訳で……俺なりに正論を言ったつもりなんだが……」
智大「ふむ……まあ確かに、お前が言ってた事は正論っちゃあ正論だが」
ライト「正論が時に必ずしも正く機能するとは限らない。今回はそういうケースだったと、諦めるべきじゃないかい?」
零「……理不尽だ……」
こっちだって色々と考えて答えを出したのにと、肩を落として四つん這いになり落ち込んでしまう零だが、そんな零の隣に智大が腰を下ろして肩を叩いた。
智大「だけどまあ、どうせお前の事だ。なのはの言う通り、また良からぬ心配をして信長ちゃんを自分から引き離そうとしたんじゃないのか?」
零「……別に、そんなつもりは……」
智大「そうかい。ま、お前がそう言うなら信じるが……」
ふっと、意地の悪い笑みを浮かべていた智大の表情が真剣味を帯び、零の瞳を捉える。
智大「ただ、忘れんなよ?お前にだって、ちゃんと、人並みの幸せを得る権利はあるんだって事を……あんまりズルズル引っ張って、アイツ等に心配掛けんじゃねぇぞ」
零「っ……俺の兄貴か親父かよ、お前は……」
智大「ハッハッハッハッ、ある意味そうかもなぁ……ってな訳で、ホイ」
零「?何だ、チラシ?」
智大「うちのホテルのブライダルプランでございまーす、信長ちゃんとの結婚式の際には是非とも御参考に――♪」
零「いらんわぁああああああああああっっっ!!!!!」
結局茶化すのが目的じゃねーか!!と、HAHAHAHAHAと爽やかに笑う智大にチラシを突っ返しって怒鳴る零。その後も智大にしつこく冷やかされるわ、信長と団結したなのは達に説教されるわと散々な目にばかり遭い、最終的には逃走を謀ってなのは達に町中を追いかけ回されると心身共にボロボロになったのであった……。