同じ頃、銀行のビルの隣に建つ高層ビルの最上階ではこのビルの完成を祝う竣工記念パーティーが開かれていた。正装をした大勢の人々が各々パーティーを楽しむ中、一人の男性が会場の入口から巨大なケーキを運んで現れた。
「皆さーん!神上ファウンデーションより、お祝いのケーキが届きましたー!」
『おぉーー!』
神上ファウンデーション……というより、神上から送られたプロ顔負けのケーキの登場に会場は盛り上がり、参加者達は思わず歓喜の拍手を送っていた。そして、隣の銀行のビルでは……
―ドグオォォォォォォォォォォォォオンッ!!―
『オオオオォォォンッ!!オオオォォォンッ!!』
銀行のビルの中では、オトシブミヤミーが札束や金だけでは飽き足らずビルそのものまで喰い始めていた。逃げる銀行員達の中を掻き分けてその現場に到着した拓斗はそれを見て驚愕し、ティアは徐々に大きくなりつつあるオトシブミヤミーを見て不敵な笑みを浮かべた。
「ハッ、最高だなぁ!コイツは稼げるぞ!」
「こ、こんな……おい!早く変身しないとっ!」
「あぁ、ヤツがこのビルを喰ったらなぁ」
「ッ?!そんなっ…中の人がどうなったっていいって言うのか?!―ガシッ!―グッ?!」
あのヤミーがこのビルを喰ってから変身させる。ビルの中の人達を顧みないような発言をするティアに掴み掛かる拓斗だが、ティアはそんな拓斗の顔を掴んで黙らせてしまう。
「おい、何か勘違いしてるようだから言っとくがな?私は別に人間を助ける為にお前をオーズにするんじゃない……お前の役目はあくまでメダル集めだ」
「……え?」
自分が変身するのはメダル集めの為。始めて聞かされたその目的に拓斗は思わず言葉を失ってしまうが、ティアは拓斗の顔から手を離し、上の階へと登り始めたオトシブミヤミーを見上げながら語り出した。
「今はセルメダルがいるんだよ、力を取り戻す為にもな。とにかく待て!」
「で、でも!―ドゴオォォォォォォォォォォォォォォォォォォオンッ!!―うわぁっ?!」
あのヤミーがセルメダルを集めるのを待てと、そんな言葉を言い放ったティアに拓斗が思わず反論しようとするも、突然ビルが大きく揺れ動き遮られてしまう。
そして二人が慌てて外に出てビルを見上げると、其処には20メートル以上はある巨体となったオトシブミヤミーがビルの内部から壁を突き破って外へと現れ、それによりビルがバランスを失って倒壊し、そのまま斜めに傾いて隣のビルへと激突してしまったのであった。
―ドゴオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオンッ!!!―
『う、ウワアァァァァァァァァァァァァァアッ?!』
『キャアァァァァァァァァァァァァァァァアッ?!』
ビルとビルの激突によって巨大な揺れが生じ、最上階でパーティーを行っていた参加者達も突然のそれに驚きパニックに陥ってしまい、テーブルやケーキを倒しながら蜘蛛の子を散らす様に逃げ出し始めた。そして外からその様子を見ていたティアは……
「ハッ、一気に二本も行くか?まぁ、その方がメダルも大量に稼げるから悪くないか」
「ッ!君はっ、アレを見てまだメダルの事なんか気にするのか?!こうしてる間にも、犠牲者が出てるかもしれないんだぞ?!」
未だビルの中に残った人達の事より、メダルを稼ぐ事を優先するティアに拓斗が叫ぶが……
「だから、何だって言うんだ?」
「なっ……」
ティアはそんな拓斗の言葉に冷めた態度でそう言い返し、ビルを見上げながら再び口を開いた。
「別に人間がどうなろうが私の知った事じゃない。まぁ、今助けに行ってその分のメダルを報酬としてくれるって言うなら話は別だが……そうじゃないなら、今行っても私達が損するだけだろう?」
「それは……でも!」
「それに、タダで助かる命なんてないんだよ。やるならそれなりの報酬を貰わなきゃ話にならない。だからお前は、黙って私の言う通りに動いてればいいんだ」
「クッ…!」
どんなに説得しようとしても、ティアは自分の言葉に耳を傾けてくれない。このままでは時間の無駄だと感じた拓斗はビルを見上げ、掌を強く握り締めた。
(そうだ…こうしてる間にも、彼処にはっ……)
その時、拓斗の脳裏に一瞬瓦礫に埋もれて血まみれとなった人々の姿が過ぎった。その光景を思い浮かべた拓斗は唇を強く噛み締めると、ビルに向かって走り出した。
「ッ?!おい待てっ、何をする気だっ?!」
「決まってるだろう?!中に残された人達を助けに行くんだッ!」
ティア「はあ?!何言ってるんだ?!馬鹿かお前?!何で赤の他人の為に其処までする必要があるッ?!」
流石に其処までやるとは思わなかったのか、ティアは何処か焦った様子で拓斗を引き止めるように叫んだ。それを聞いた拓斗もピタリと足を止め、ティアの方に振り返らないまま口を開いた。
「確かに他人だよ……そんな人達の為に命を張るなんて、普通なら可笑しいってことも分かってる……だけど―――」
ギュウッと拳を握り締める。その手が白く色を失うほどに強く握り締めながら、拓斗は力強い瞳でティアへと振り返った。
「――今此処で動かなかったら、絶対に後悔する!こんな不幸なんてモノに巻き込まれるのは、俺一人で十分だッ!!」
その瞳にあるのは、揺るぎない真っすぐな決意。気迫すら感じさせるその言葉にティアも思わずたじろぎ、拓斗はそんなティアを他所にビルの中へと飛び出していった。
「ッ!おい待てっ!チッ!本物の馬鹿かアイツはっ……?!」
制止を振り切ってビルの中へと向かっていった拓斗にティアは思わず毒づくが、流石に拓斗を放っておく訳にはいかないと、ティアも拓斗の後を追ってビルの中へと飛び込んでいったのだった。