―星華市・住宅街―
戦いが終わってから半日が経ち、メダルをすべて回収し終えた頃には日も沈み、辺りはすっかり暗くなってしまっていた。そして拓斗は現在神道家の前に戻ってきた訳だが、中々家の中へ入ることが出来ずにいた。何故なら……
「―――おい、いつまでこんなとこで待たせる気だ?」
「あっ、う、うん……ちょっとね……」
……彼女が原因だからだ。先程の戦いの後に思い出したのだが、グリードである彼女に家などというモノがある筈がない。なのでこれからどうするのかと聞いた所、どうやら『適当に木の上で寝る』らしい。流石に女の子を一人野宿させる訳にもいかないので、従って拓斗が彼女を引き取る訳になったのだが……
(どうしよう……母さんと紗奈にはなんて説明したら……)
問題は自分の家族に彼女のことをどう説明するかだ。犬猫を拾ってきたわけではないのだし、流石に女の子を連れて帰ってきたとなればちゃんとした説明が必要になる。勿論、オーズやグリードの事を抜きにしてである。
(けどどうやって説明する?たまたま日本に旅行しに来ててホテルを探して困ってたところを連れてきた?それとも前の仕事先でお世話になった知り合いから預かって欲しいって頼まれたとか?……うーーーん……)
「………おい拓斗、いい加減にしろ。こっちは肌寒ゆくて参ってるんだ、早く中に入れろ」
「ッ!あ、ごめんごめん、ちょっと考え事しててっ」
ええいっ、もうどうにでもなれ!と拓斗も内心覚悟を決め、扉を開けてティアと共に家の中へと入っていったのだった。
◇◆◆
―神道家―
「―――良かった……二人共まだ帰ってきてないみたいだ」
家に戻ってみれば、母親と紗奈はまだ帰ってきてはいなかった。恐らく、夕飯の買い出しにでも行ってるのかもしれない。拓斗はそう考えながら教材の入った鞄を担いでティアを自室へと案内すると、部屋の電気を付けて鞄を机の上へと置き、ティアは拓斗の部屋を見渡して眉を寄せた。
「……随分と質素な部屋だな」
「ぅ……し、仕方ないだろ?うちは他の一般家庭と比べてそんな裕福って訳じゃないんだから」
とは言ったものの、ティアが言うことには確かに一理ある。部屋には勉強机以外にクローゼットが一つ、教材が入った本棚が二つ、古ぼけたストーブが一つだけと、高校生の部屋にしては余りにも質素過ぎる。以前和也達を部屋に招いた時に部屋を見て驚かられたのは、今でも鮮明に覚えてる。
「ええと……とにかく暫くの間、此処で過ごしてもらっていいかな?母さんや紗奈達への上手い言い訳も考えないといけないし、それまで此処を好きに使ってくれていいから」
「お前に言われなくても、私は私で好きにさせてもらうさ」
「あ、そうですか……えーっと……後は寝る所に……あっ!服とかどうしよう?紗奈のを黙って借りる訳にはいかないしなぁ」
何処かに母さんのお古とか仕舞ってなかったかな?と、拓斗は部屋の押し入れを開けてティアの服になりそうな物を探し、押し入れの中を漁っていく。
「全く、一々面倒な奴だ……ん?」
そんな拓斗の後ろ姿を見たティアは気怠るそうに溜め息を吐いていくが、その時勉強机の上に置かれた鏡に自分の姿が写し出されてるのが見えた。白いシャツは昼間にヤミーに襲われた時やビルの中を駆け回った時のせいで汚れ、スカートにも所々泥が付いており、正直今の気心地はかなり気持ち悪い。
「お?母さんが若い時に着てた服もあるな。でもティアちゃんがコレ着れるかどうか怪しいし……取りあえず俺の服とかでも構わないかな?もう少ししたらバイト代も入って安い服とか買えるから、それまで……―パサッ―……え?」
昔母親が着てた服を幾つか取り出していく中、不意に背後からなにかを脱ぎ去るような音が聞こえてきた。それを聞いた拓斗が思わず背後に振り返ると、其処には……スカートを床に脱ぎ捨て、パンツとワイシャツというラフな格好になったティアの姿が―――
「―――ってぇ?!!なにやってるんですか貴方はぁっ?!!」
「は?見て分からないのか?脱いでるんだよ」
「なんの恥ずかしげもなく言い切ったっ?!っていうかそういう事を言ってるんじゃないからっ?!!ちょ、下!!下が見えてる!!見えるってっ?!!」
「ギャアギャア騒ぐな。お前がさっき暴走したせいで服もこんなに汚れたんだぞ?こんな気持ち悪いの、いつまでも着てられるか」
「いやだからって此処で脱ぐ事ないでしょっ?!大体そういうことに対してもうちょっと恥じらいってのを……おおおおおおおい待ってっ?!!シャツまで脱ごうとしないでえええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ?!!!」
ギャースッ?!しかもこの子ノーブラァーッ?!!と、ワイシャツのボタンを外し始めたティアの手を必死に止めながら、スカートを手に取ってなんとか履かせようと慌てふためく拓斗。その時……
―ガチャッ―
「やあやあお兄ちゃん、喜んでくれたまえ。今日懸賞で男物の水着が見事に当たったからお兄ちゃんにプレゼン――――え?」
「……へっ?」
「……あ?」
前触れもなく部屋に入ってきたのは、拓斗の妹である紗奈。
彼女は新品のトランクス型の水着を両手で広げながら意気揚々と室内へと入ってきたが、その顔が、動きが突然ピシリと固まった。
何故ならドアを開けて入った室内では、拓斗が下着姿にワイシャツというラフな格好をした見知らぬ美少女と一緒にいたからである。
「……す、すすすすす紗奈?い、いいいいいつの間に帰ってっ……?」
「…………」
ダラダラダラダラダラダラと、文字通り滝のような汗を流しながら顔を真っ青に染め上げる拓斗だが、紗奈はそんな兄の問いに答えずティアを見て、ティアの姿を見て、そして拓斗の手に握られたスカートを見て、パタンッと静かに部屋から出ると……
『お母さん大変だぁー、お兄ちゃんが遂に売春を始めてしまったよー』
「紗奈ぁああああああああああああああああああああああああっっ?!!待って違う誤解だぁっっ?!!兄の話を聞いてくれぇええええええええええええええええええええええええっっ?!!!」
―――今日はホントに最高の不幸日和だ。心の底から本気でそう思う神道拓斗であった。
第二章/欲望とアイスとプレゼント END