―和神高校・2ーA―
「……あー……」
今朝のティアVS椎名の対決から数十分後。現在拓斗は今朝の騒動の疲れからか、ホームルーム前の教室の机にべちゃりと突っ伏していた。そんな拓斗の俯伏せる机の隣では、親友の和也が拓斗の様子を見て苦笑いしていた。
「おいおい、朝っぱらから随分お疲れ気味だなぁ拓斗?大丈夫か?」
「あー……うん……何とか……ねえ……」
「って全然大丈夫そうに見えねえな……また毎度の不運のせいか?」
拓斗「ああ……まぁ、今朝も学校来る前にまた不良さん達に追いかけ回されて……んで逃げてる最中に横から突っ込んできた車に跳ね飛ばされてー……跳ね飛ばされた先にあったゴミの山にまで吹っ飛ばされたりとか……結構色々あったよ?今日も……」
「うっは、相変わらずハードな日常送ってんなぁおいっ。そんで今はお疲れモードに突入中ってとこか?」
「あ~……いつもならそう大した事じゃないんだけど……今日は家出る前に体力と気力を根こそぎ消費しちゃったからなぁ……」
「?まっ、取りあえず今日もいつもと変わらずツイてないって事は分かったよ……でもな?今日は目茶苦茶ビッグなニュースがあんだぜえ?」
「……?今日何かあったっけ……?」
楽しげにビッグなニュースとやらを話す和也に拓斗も顔を上げて聞き返し、和也はフフンッと鼻の下を軽く擦って人差し指を立てた。
「実はなぁ?なんと今日、うちのクラスに転入生が来るらしいんだよ!しかも職員室に偵察しに行ったクラスの連中からの話じゃ、かなりの美少女だったんだとさ!」
「…………………」
意気揚々とビッグなニュースとやらを語る和也だが、拓斗はそれを聞いて眉間に皺を寄せ、深海よりも深い溜め息を吐きながら再び机に突っ伏してしまった。
「おいおいなんだよ?せっかくビッグなニュースを教えてやったのにその反応は?」
「いや……そのぉ……今はそれ聞きたくなかったっていうか……なんていうか……」
「???」
グッタリと机に顔を埋めて唸るように言う拓斗だが、和也はその意味が全く分からず頭上に疑問符を並べてばかりいる。拓斗はそんな和也を他所にちょっとだけ腕の隙間からある方向……椎名の席の方を覗き見ると、あからさまに不機嫌そうな顔で机に肘を付き、シャーペンを何度もカチカチさせている椎名の姿があった。
(うわぁ……あの癖、椎名ちゃんが機嫌が悪い時にいつもやってる奴だ……やっぱり怒ってるのかなぁティアちゃんの事……)
だとしたら、今このタイミングでの彼女の転入はかなりマズイやもしれん。大事な第一印象がよりによってアレだったし。そう考えて拓斗がもう一度深い溜め息を吐いてると、HRの始まりを告げるチャイムが鳴り響いた。
「おぉっと、チャイム鳴っちまったか。んじゃ、互いに美少女転入生に期待してようぜ♪」
(……期待っていうか……俺には悪夢の始まりにしか思えないよ和也……)
たのっしみだなぁ~♪と、意気揚々と自分の席へ戻る和也の背中を遠い目で見つめる拓斗。そして生徒全員が席に着いた後も転入生の話で騒ぐ中、教室のドアが開かれてこのクラスの担任である女性……束崎 紫が教室に入ってきた。
「ハイハイハーイ、静かにしてねー静かに。静かにしない奴はロープで縛ってこっから吊すよー?」
教師と思えぬ物騒な発言を軽く口にした瞬間、生徒達の騒ぎ声がピタリと止んだ。紫はそんな生徒達を見渡すと「よろしい」と頷き、頭を掻きながら喋り出した。
「あーっと、もうみんな知ってるとは思うんだけど、今日からうちのクラスに――」
「ハーイ先生っ!転入生が来るんですよね?!しかもとびっきりの上玉っ!」
「って、静かにしろっつったでしょ石山!あーもう……まあそういうことで、今日からうちのクラスに新しい仲間が加わる事になったから、仲良くしてあげなさい?んじゃ、入ってきていーわよー?」
そう言って紫が教室のドアに呼び掛けると、ガララッとドアが音を立てて開かれた。其処から現れたのは……
「…………」
「うわあぁ……」
「スッゴ、キレ~……」
「こ、これはアレだっ……あれぞ正しくクールビューティーって奴だ!」
「やべえ……俺、一目惚れかも……」
ドアの奥から教室の中へと入ってきた少女……ティアの姿にクラスの男子は思わず声を漏らし、女子もティアの余りの華麗さに思わず見入っていた。
(こうして見ると本当に綺麗なんだけど……それにしても、よく学校に来る気になったよなぁ)
ゆっくりと教壇まで歩いていくティアの姿を見つめながら心の中でそう呟く拓斗の脳裏に、昨日の夜ティアと交わした会話がふと蘇る。
『――えっ、行くの?学校に?』
『あぁ、学校っていうのは、知識のない人間が知識を得る為に通う学び舎なんだろう?私も丁度この800年の間に起きた出来事について知りたいと思ってたからな……有り難く通わせてもらうさ』
……とまあ、なんとも彼女らしい理由だった。そして拓斗がそんなことを思い出してる間にティアは教壇の上に立ち、生徒達の方へと振り返って口を開いた。
「―――ティアだ。今日からこのクラスに入る事になった。宜しく……」
『ワァアアアアアアアアアアアアァッ!!!』
若干無愛想さが残る口調で今朝拓斗から教わった自己紹介をした瞬間、クラス中から盛大な拍手と歓声が響き渡っていった。
「はい静かに静かに!!他のクラスに迷惑でしょうが!!ったく……んじゃまあ、ティアの席はー……っと、神道の後ろが空いてるわね。彼処使ってくれる?」
そう言って紫が指差したのは、拓斗のすぐ後ろにある席。ティアは紫の指先を目で追い、その途中で見つけた拓斗を見て険しげに眉を寄せ……
「何だ……此処でもお前と一緒か拓斗……」
『……………え?』
(おいぃいいいいいいいいいいいいっっ?!!!なに人の名前ポロリと出してんのあの子ぉおおおおおおおおおおおおおおおっっ?!!!)
ギャーっ?!!皆がこっち見始めたぁーーっ?!!と、一斉に自分の方へと振り返る生徒達を見てバッ!!と明後日の方を見る拓斗。こんなに盛大に歓迎されている(主に男子に)のに、既に男と顔見知りと知られれば後がどうなるか分かったもんじゃない。心の中でそう思い内心かなり慌てふためくも、拓斗は至って平静な態度を装いながらティアに軽く手を振った。
「ハ、Hahahahahaha、ヤダナー?ナニヲイッテルノカナテンニューセイサン?ワタシハアナタノコトハシリマセンヨ?」
「は?何言ってる?お前さっき私と一緒に登校しただろうが」
「イヤイヤイヤ、ナニヲイッテルンデスカ?ダイタイアナタトハ、コウシテアウノガショタイメンジャナイデスカ?」
「初対面?昨日会ってるだろう」
「もう察してよ!!人がこうして他人の振りしてるのにどうして気付いてくれないかな?!少しは話を合わせるって事ぐらい―――アッ……」
全く話を合わせてくれないティアに拓斗も思わず立ち上がり大声を上げてしまうが、其処で「しまった…」と気付き口に手を当てた。見れば、クラスの皆(特に男子)の目が訝しげな物に変わり始めており、拓斗はそれを見て心の中で頭を抱えた。
(ま、マズイっ、どうにかしないとっ、この状況でティアちゃんとの関係がバレたりしたらっ……!)
クラス中から注目の視線を浴びながら、どうにかこの話題を反らす方法を必死に考えて額からダラダラと汗を流していく拓斗。だが、神は何処までも彼に無慈悲だった。
「あっそっか。ティアは神道ん家に居候してんだっけ?」
「ちょおおおおおおおおおおおっっ?!!!なにサラッと教師自らバクダン投下してくれてるんですか先生ええええええええっっ?!!―ギロッ!!―ヒイイイイイイイイィッ?!!!」
ほらもう男子がすんごい目で睨んで来てるじゃないですかぁ!!と、半歩後退りながら学園生活の終わりを垣間見て悲痛な叫び声を上げる拓斗であった。そして……
「し、椎名?シャーペン握り潰しちゃってるわよ?」
「……え?あっごめんごめん♪ちょっと力み過ぎて壊しちゃった♪」
「壊しちゃったって……え?そのシャーペンって確か、チタン製じゃなかったっけ……」
……こちらは怒りのケージの限界を軽くブッチギリ、ニッコリと笑いながら握り潰したシャーペンの破片をパンパンと払っていたのであった……
◇◆◆
―星華市・星華自然公園―
そしてその頃、星華市内にある自然公園。公園中央に建てられた噴水がシンボルとなっているその公園では、噴水の前で山のように積み重ねられたコンビニ弁当を食べ続ける男……昨日、深夜のファミレスで大量の料理を暴食していた男の姿があった。
「うーん……美味い、幸せだぁ~♪」
大量のコンビニ弁当を食べ続ける男……腹時 門太は弁当を食べ終えると、空になった弁当箱を隣に置いて次の弁当を手に取り、再び弁当を食べ始めていく。その時……
―チャリッ……チャリッ……チャリッ……―
「……へ?」
何処からか響き渡るコインの音。それに気付いた門太が弁当を食べる手を止めて思わず目の前に目を向けると、その表情がみるみる内に青ざめて両手から弁当と箸を落としてしまう。何故なら彼が目にしたのは……
『――丁度いい欲望、見付けたよ……』
彼の目に映ったのは、一枚のセルメダルを手にして目の前から近づいてくる異形……グリードの一人であるカザリの姿があったからであった。
「あ、あっ……あぁ……?」
『フッ……その欲望、解放しなよ』
そう言ってカザリが手に持つセルメダルを怯える門太の額に翳すと、門太の額にメダルの投入口が出現していき、カザリはそれを確認すると門太の額に浮かぶ投入口に目掛けてセルメダルを投げ入れていった。その瞬間……
「あ、うぁ……あああああああああああああああああああっっ?!!!」
突如門太の体から白ヤミーが巻き付けているのと同じ無数白い包帯が現れ、門太の身体の所々に巻き付いていったのだ。そして無数の白い包帯に巻き付かれてしまった門太は瞳の色が一瞬怪しく金色に輝いたと共に、不気味に舌舐めずりして薄気味悪い笑みを浮かべていたのだった――――