―神道家―
先程の戦いで門太にまんまと逃げられてしまった拓斗はタカカンドロイドに門太の追跡を任せ、何故か学校に戻ろうとしないティアを追い掛け神道家へと戻って来ていた。因みに紗奈はまだ帰ってきておらず、美那子も買い物にでも言ってるのか家には誰もいなかった。
「ちょっ、待ってってティアちゃん!なんで家に戻るのさ?!」
「騒ぐな、いいから黙ってついて来い」
靴を脱いで家に上がり込むと、ティアはそのまま2階へと上がって拓斗の自室に入り、拓斗の勉強机の上に置かれていたある物を発見して勉強机へと近づき、机の上に置かれたそれを手に取った。そしてティアの後を追い掛けて拓斗も部屋に入ると、ティアが手にするソレを見て足を止めた。
「あ、ソレ俺の…?」
ティアが手にしてるのは、以前美那子が無理して自分の誕生日に贈ってくれたiPhoneであった。ティアはiPhoneを手にしたまま、拓斗の方へと振り返りiPhoneを見せた。
「拓斗、暫くコイツを貸せ」
「え?貸せって、何に使うんだよ?」
「情報収集の為に決まってるだろ。学校は確かに知識を得るために使える施設だが、それでも教えることに限界がある。だからそれ以外のことはコイツで調べるんだよ」
つまり、学校の授業では教わらないメディアや情報をネットを使って得るという事だろうか。早速iPhoneを操作し始めるティアの説明に拓斗も納得したように頷いた。
「そういうことか……っていうか、良くそれがその為の道具だって分かったね?」
「お前が昨日寝る前にコイツを弄ってたのを見て、気になって使ってみたんだよ。中々使える道具だからな、コイツを利用して色んな情報を集めていこうって訳だ」
「なるほど……って、そんな事なら別に学校終わってからでも良かったじゃないか?!」
「今はそれよりヤミーが優先だろう。それに、学校ならもうとっくに終わってるぞ」
「……へ?」
そう言ってティアが顎で壁を指すと、拓斗はその方を視線で追った。其処には壁に掛けられた時計があり、時計の針は既に学校が終わってる時間を刺していた。
「嘘だろっ……ヤバい、教科書も鞄も全部学校に置いてきちゃってるしっ―ピンポーン!―……あれ?お客さん?」
既に学校の授業が終わってしまってる事に頭を抱えてしまう拓斗だったが、その時家のインターホンが鳴り響き、拓斗はティアを一度見るも今は客に応対せねばと思い慌てて部屋から飛び出していった。そしてティアはというと……
「――さあて、調べないとな……メダルを集めてる人間と、封印されてた間になくなったコアメダルを……進化した方法でな」
部屋を飛び出した拓斗には目もくれず、iPhoneを操作しせっせと情報収集を始めていたのだった。
◆◆◆
その頃、星華市内のとある料理店。クスクシエという名のこの店は、日替わりで世界各国の料理を出す多国籍料理店となっている。更に店長の趣向により、毎回様々な国際料理のフェアをしており、従業員もテーマに沿った衣裳を身に包む決まりとなってる。そしてこの店は、拓斗の顔見知りである二人の友人……椎名と夏目のバイト先でもあり、二人は今日も学校を終えてクスクシエでバイトをしていたのだが……
「…………だあぁーーーーーもうッ!!やっぱりイライラするっ!!」
客が少なくなった店内で、バンッ!とお盆をテーブルに叩き付けたのは椎名だった。今日はインド料理という事でそれらしい衣裳に身を包んでいるのだが、その顔にはイライラが浮かび上がっており、同じくインドに沿った衣裳を纏った夏目はそんな夏目の様子を見て苦笑いした。
「し、仕方ないですよ椎名ちゃん。拓斗君たち、結局教室に戻ってきませんでしたし……」
「それもこれも全部、あのティアのせいでしょっ?!人が頑張って今度こそ誘おうって思った時に邪魔して、しかもアイツ連れ出してそのまま帰ってこないとかっ……ああぁーーーーーー思い出したらまたイライラしてきたあぁ!!」
「ま、まあまあ!落ち着いて下さい椎名ちゃん!今はまだ仕事中ですし、ね?」
馬鹿にした様に笑うティアの顔を思い出し、ワシャワシャワシャと頭を掻きながら苛立ちを込め叫ぶ椎名。そして夏目が苦笑しながらそんな椎名をなんとか宥めようとしていると、厨房から一人の女性……このクスクシエの店長である白石 千世子が二人の下へやって来た。
「あらら、どうしたの椎名ちゃん?何か今日はすんごい荒れてるみたいだけど……」
「あ、千世子さん!実はその、なんと言いますか……ほら、前に何度か話しましたよね?椎名ちゃんが此処で働いてる姿を見てもらいたいって思ってる男の子のこと」
「あぁ、確か神道 拓斗君だっけ?椎名ちゃんが気になってるっていう男の子♪」
「ッ?!ち、違いますよ千世子!なに言ってるんですか?!私は別にそんなつもりじゃ……!」
「照れない照れない♪それで、その子がどうかしたの?……ハッ!もしかして遂に、その子を誘えたとか?!」
「い、いえそのぉ……実は……」
期待を込めて瞳をキラキラさせる千世子を見て若干言い淀んでしまうが、夏目は今日あった出来事について簡潔に話し始めた。そして夏目から一通り話を聞いた千世子は腕を組み、深刻な表情を浮かべていた。
「――なるほどねえ……神道拓斗君の家で居候してる美少女転入生ちゃんかぁ……それで神道君は、椎名ちゃんが今日バイト先に誘おうとした時にティアちゃんに捕まって何処かに連れてかれたって訳ね?」
「えぇ、まあ……」
「しかもアイツ等、その後の授業投げ出して帰って来なかったんですよ?拓斗はともかく転入生が転入初日で授業を放り出すなんて、何考えてるのやら……」
テーブルに肘を付き、不満げな表情でティアの行動に呆れて溜め息を吐く椎名。だが二人から話しを聞いた千世子は……
「うーん……これはもしかすると、強敵登場かもしれないわね」
椎名「……へ?」
「強敵、ですか?」
「そう!ライバル、つまりは恋敵!だって一つ屋根の下に一緒に暮らしてて、椎名ちゃんと話してる最中にいきなり神道君を連れてちゃったんでしょう?これはもうライバルと見て間違いないわ!」
「ちょっ、な、何なんですかライバルとか恋敵とかいきなり?!大体、私は別にティアをそんな風に「椎名ちゃん!」……ッ?!」
自分は別にティアを恋敵としてなんて見ていない。声を荒げながらテーブルから身を乗り出してそう否定しようとする椎名だが、突然千世子が声をあげて椎名の両肩を掴んできた。
「駄目よそんなことじゃ!何時までも意地なんか張ってたって、神道君は振り向いてはくれないわ!」
「ち、千世子さん……だから私はっ……」
「ただでさえ一緒に住んでるってだけでも優位なのに、そのうえ積極的で大胆に攻める子はかなりの難敵よ!私も応援するから、いい加減自分の気持ちに素直にならなきゃっ!そうだわ……今日はお客さんも少ないし、早めにお店閉めて作戦会議しましょ!ね?ね?!」
「いや、『ね?』って言われてもっ……」
椎名の恋愛成就を手伝うと意気込む千世子のテンションに圧されてしまい、嫌とは言えず困り果ててしまう椎名。千世子はそんな椎名の様子に気付かず早くも店を閉める準備をせっせと始めてしまい、夏目もそんな光景にただただ苦笑いを浮かべるしか出来ずにいた。そんな時……
―ガチャッ!―
『く……食い物おぉぉぉぉぉぉっ……』
突然店の扉が開かれ、其処からある人物……先程港でオーズから逃亡した門太がふらつきながら店の中へと入ってきたのだ。すると、千世子は門太に気付いて店を閉める作業を止め、門太へと駆け寄っていく。
「あ、すみません。今日はもうお店は終わりで……」
『食い物っ……食い物おぉぉぉぉぉぉ!!』
「でっ、ですから、今日はもうお店は―ドンッ!!―きゃあぁっ?!」
「?!千世子さん?!」
店はもう終わりだと入店を断ろうとする千世子だが、門太はそんな千世子を邪魔だと言わんばかりに勢いよく突き飛ばしてしまった。それを見た椎名と夏目は慌てて千世子へと駆け寄っていき、門太はそれに構わず厨房へと駆け込んだ。
『食い物!食い物!!食い物ぉっ!!』
厨房に侵入した門太は厨房にある生の食材や調味料を狂ったように食い散らかしていく。そして丁度その時、拓斗が飛ばしたタカカンドロイドが厨房の窓からその様子を捉え、拓斗に知らせるべく再び上空へと羽ばたいていった。
◇◆◆
―ピンポーンッ!―
「はいはーい!今出まーす!」
そしてその頃、神道家では未だインターホンの音が鳴り響き、拓斗は慌てて階段を一気に駆け降り玄関で靴を履いて扉を開けた。其処には……
「どうもぉー、Green Cafeでーす。先程お電話でご注文頂いたケーキをお届けにきましたぁー」
扉を開けた先に立っていたのは、白いケーキ箱を手に柔らかい笑みを浮かべる二十代前半ほどの青年だったのだ。だが拓斗は青年の顔と箱を交互に見ると、頭上に疑問符を浮かべた。
「えーと……ケーキの注文ですか?うちに?」
「はい、神道さんのお宅ですよね?さっきショートケーキ二つにモンブラン、チーズケーキのご注文を頂いたんですが……」
「えっと……あ、もしかして母さんかな?ったく、注文したの忘れて出てっちゃったのか……」
しょーがないなぁと、仕方なそうに呟きながら青年からケーキ箱を受け取ろうとする拓斗。だが……
「あ、危なぁーーいッ!!」
「……へ?」
「……え?―メキョッ!!―ゴハアァッ?!」
突然何処からか聞こえてきた悲痛な声。それを聞いた拓斗と青年が声のした方へと振り返った瞬間、空から飛来した野球ボールが拓斗の顔面に減り込んでいったのだ。拓斗は顔面にモロに入ったボールに痛み悶絶し、そこへ野球のユニフォームを纏った小学生が慌ててやって来た。
「ご、ごめんなさいっ!!大丈夫ですかっ?!」
「ごおぉぉぉぉぉ……だ、大丈夫大丈夫!ほら、この通りピンピンしてるしっ。はい、ボール」
「あ、はい……ホントに、すみませんでしたっ」
拓斗に頭を下げて謝罪し、背を向けて走り去る小学生に向かって、気にしないでいいよーと笑いながら呼び掛ける拓斗。その様子を見ていた青年は突然の事態に唖然となり、拓斗の顔を見て口を開いた。
「だ、大丈夫?今、モロにボール入ったみたいだけど……」
「え?あ、大丈夫ですよ大丈夫!この程度何とも―ドシュウゥッ!!―グフウゥッ?!」
心配する青年に向けて笑いながら手を振る拓斗だが、その時隣の家の塀から何故かラケットが飛来し、拓斗の横顔に減り込み吹っ飛ばしてしまったのだ。すると今度は、隣の家から中学生の女の子が慌てた様子でやって来た。
「ご、ごめんなさい!ラケットで素振りしてたらすっぽ抜けちゃってっ!あの、大丈夫ですか……?」
「イタタタタタッ……ダイジョーブダイジョーブ!気にしないで良いから!」
謝罪する女の子に笑って気にしないでと告げ、頬を摩りながらラケットを返していく拓斗。そしてその様子を一部始終見ていた青年は隣の家に帰っていく女の子の背中を見送ると、拓斗の方へと振り返った。
「ホ、ホントに大丈夫?今すんごい勢いで吹っ飛ばれちゃってたけど……」
「だから大丈夫ですって。あれぐらい別に何とも―ベチャッ―……え?」
拓斗が青年に心配いらないと笑って告げようとした時、空から何かが降ってきて拓斗の肩に落ちていった。見るとそれは白い液体のような物であり、拓斗と青年がそれを見て空を見上げると、其処には一匹のカラスが鳴き声を上げながら二人の頭上を飛び回っていた。
「…………あの、良ければティッシュ貸そうか?」
「へ?あ、いえいえ、気にしなくて大丈夫ですよ?俺ちゃんと持ってますから!」
気の毒そうにポケットからティッシュを出して拓斗に差し出す青年にそう言うと、拓斗は胸のポケットからティッシュを取り出し肩に付いた白い液体……カラスのフンを拭き取っていく。そんな拓斗を見た青年は徐にティッシュを懐に仕舞いながら、額から汗を流して話しかけた。
「あの、さ……もしかして、今みたいな事って何度も……?」
「……え?えぇ、まあほぼ毎日こんなですけど、これならまだ軽い方ですよ?いつもなら不良さん達に追われたり車に跳ねられたり鉄骨に潰されたりとか、何時もはそっちの方が頻繁に多いですね」
「いや……多いですねって……」
余りにも平然とした態度でそう答える拓斗に、青年もただ言葉を失うしか出来ず深い溜め息を吐きながら頭を抑えた。
(この子、零次君や烈君並の不幸体質……いや、それを苦に思ってない辺り二人より質が悪いかも……)
普通なら死んでも可笑しくない目に遭っていながら、それを笑って流すだなんて感覚が麻痺してるようにしか思えない。カラスのフンを拭き終えて「よしっ!」と笑う拓斗を見てそう思うと、青年は薄い溜め息を吐きながらズボンのポケットから何かを取り出し、拓斗へと差し出した。
「はい、コレ」
「…?何ですか?」
「うちからのサービスだよ、はい」
そう言って拓斗に握り拳を出す青年。そして拓斗が差し出される拳と青年の顔を見て恐る恐る掌を出すと、青年は取り出した何か……神社などで良く見られる厄払いのお守りを手渡した。
「?お守り……ですか?」
「そっ、なんか君危なっかしいから、一応これぐらい持ってた方が良いと思うよ?だからそれ、うちからのプレゼント」
「あ、アハハ……ありがとうございます、なんか気を使わせちゃってすいません。えっと……」
「あ、僕は阿南祐輔、Green Cafeの副店長をしてるんだ。よろしく」
「え、副店長さん?!あっ、すみませんわざわざケーキ届けてもらって……俺、神道拓斗って言います。よろしく」
「うん、宜しくね拓斗君」
そう言って青年……"阿南祐輔"は笑みを浮かべながら拓斗へとケーキ箱を差し出していき、拓斗も相手が副店長だと知って若干恐れ入りながら祐輔から箱を受け取った。その時……
『ピュイィーッ!』
拓斗と祐輔が話す中、突然空から鳥の鳴き声が聞こえてきた。それを聞いた二人が上空を見上げると、其処には先程拓斗が放ったタカカンドロイドが飛んでくる姿があり、タカカンドロイドはそのまま拓斗の下へとやって来た。
「タカちゃん?……まさか、ヤミーが見付かったのか?!」
『ピュイィーッ!』
拓斗の問いに掛けに答えるように鳴き声を上げ、首を二・三回縦に振るタカカンドロイド。すると其処へ、二階でiPhoneを弄っていたティアが階段を駆け降りて拓斗の下へとやって来た。
「ッ!ティアちゃん!タカちゃんがヤミー見つけたって!」
「分かってる!急ぐぞっ!」
「あ、ちょ?!すみません祐輔さん!ケーキありがとうございました!それじゃっ!」
「え?あ、ちょっと!」
拓斗は祐輔に一度礼をすると、ケーキ箱を持ったままティアの後を追い掛けてすぐさま走り出し、ヤミーが現れた場所へと急いで向かっていったのだった。