―クスクシエ―
場所は戻りクスクシエでは、未だ門太が厨房で食材を端から全部食い散らかしていた。生身の野菜や生肉に果物、冷蔵庫の中の飲み物やアイスや氷等食べれる物は全て食い尽されていき、その光景を怯えて見ていた千世子は慌てて二人に呼び掛けた。
「け、警察っ!早く警察にっ……!」
「は、はい!―ガシャンッ!―……ッ?!」
千世子に言われて早く警察に連絡しようと慌てて携帯を取り出す夏目だが、厨房から響き渡った騒音に驚き思わず手を止めてそちらに目を向けた。すると其処には、食材を食い散らかしていた門太がふらつきながら厨房から出てきて近づいてくる姿があった。
『食い物ぉ……もっと食い物おぉっ!!』
「ひっ?!」
「ア、アンタいい加減にしなさい?!これ以上暴れたら、警察に突き出すわよッ?!」
「だ、駄目よ椎名ちゃん!下手に刺激しちゃ!」
怯える夏目と千世子を庇うように前に出て門太を睨みつける椎名だが、やはり恐いのかその体は若干震えていた。しかし門太はそんな椎名に億する様子もなく、もっと食いものを寄越せと言わんばかりに手を伸ばし後ずさる三人に近づき襲い掛かろうとした。そんな時……
―……ガチャッ、コロコロコロコロッ―
『……え?』
門太が椎名達に襲い掛かろうとしたその時、突然店の扉が独りでに開き、開いた扉の隙間から何かが転がって店の中へと入ってきたのだ。そして一同がそちらに視線をやって店内に入ってきた何かを見ると、それは一つの青い缶……タコカンドロイドがコロコロと床を転がり門太へと近づいてきてたのだ。
『ッ!く、食い物!』
タコカンドロイドを食べ物だと勘違いした門太は三人からタコカンドロイドへと意識を向け、四つん這いになってタコカンドロイドを捕まえようとする。しかしタコカンドロイドは不自然な動きでUターンし扉から出ていってしまい、門太もその後を追い掛けて店の外へと出ていった。
「い、今よ椎名ちゃん!ドア閉めて!」
「は、はい!」
門太が店の外へ出た隙に、椎名は直ぐさま扉に近付きドアノブを掴んで扉を閉めようとした。その際……
「……フッ」
(……え?)
扉が完全に閉まる際、扉の向こうで何故かほくそ笑むティアの姿が扉の隙間から見えたのであった……
◇◆◆
そしてその頃、門太を呼び寄せるように転がるタコカンドロイドが向かった先は、クスクシエの近くに存在する広場だった。だが地面を転がるタコカンドロイドを背後から追ってきた門太がタコカンドロイドへと飛び付いて捕まえてしまい、門太は捕まえたタコカンドロイドを食おうとプルトップを起こそうとするが、その時突然タコカンドロイドがアニマルモードに変形して宙に飛び、口から黒墨を噴き出して目潰しを喰らわせていった。
『あっ、あああああああああああぁぁっ?!』
「今だっ!」
黒墨で目潰しされた門太を目にした拓斗は物陰から勢いよく飛び出し、そのまま門太を押さえ込もうと背後から羽交い締めにしていくが、門太は信じられない力で暴れ上手く押さえ込む事が出来ずにいた。
「このっ、大人しくしろっ!」
『があああぁぁぁ!!あああぁぁぁぁ!!』
暴れる門太の力に振り回されて苦戦する拓斗。すると其処へ、タコカンドロイドと入れ替わるように祐輔が持ってきてくれたケーキ箱を口にくわえたタカカンドロイドが門太の前に現れ、門太はその箱を見た瞬間目の色を変えた。
『食い物おぉッ!!』
ケーキ箱をくわえるタカカンドロイドに飛び付こうとするが、体は拓斗に押さえ込まれて動く事が出来ず、ケーキにつられて門太の体から寄生型のヤミーが外に出て来ようとしていた。
「ッ!いいぞっ!このままっ―ドンッ!―うあぁっ?!」
門太を押さえ込んでヤミーのみケーキで釣ろうとする拓斗だが、突然横から誰かに突き飛ばされてしまい、門太の身体から出かかっていたヤミーも再び門太の中に引っ込んでしまった。そして拓斗達を突き飛ばした人物……ティアはタカカンドロイドから奪ったケーキ箱を門太に投げ渡しケーキを食わせてしまう。
「ッ?!何するんだよティアちゃん?!」
「さっきも言った筈だろう?このヤミーはまだデカくなるってな」
「そんなっ、まだそんな事っ!」
「問題あるか?食ってるだけなら周りで誰も死なない」
「ッ!」
確かに、人の命とメダルも優先したような方法に聞こえるが……だが……
「この人はどうなるんだよッ!」
「フン、これは自業自得だ。いいか?ヤミーのせいでこうなったんじゃない、この人間が持っている欲望のせいでこうなったんだ……欲望に塗れて死ねるなら本望だろ?」
「そんなっ……!」
だからこの人間がどうなろうが知ったことではない。そう告げるティアに拓斗は悲痛な表情を浮かべながら門太に目を向ければ、門太はケーキを食べ終えた事で体内のメダルが一定の量を越えたらしく、体が一回り大きく膨張し始めた。
「駄目だっ……おい!メダル出せよ!出せって!―ドンッ!―うあぁ?!」
オーズに変身しようとティアに詰め寄りメダルを出せと促す拓斗だが、ティアはそんな拓斗を突き飛ばしてしまい、尻餅を着く拓斗に近付き右腕で拓斗を指差した。
「覚えろ!命令するのは私だ!言っておくが、私の意志でお前を捨てる事も何時だって出来る!そうなれば人間が救えなくなって困るのはお前の方だ!」
オーズはあくまで手段の一つであり、例えなくなったとしても拓斗が困るだけでティアは一向に困らない。警告するようにそう告げるとティアは拓斗から背を向けて何処かへと歩き出し、拓斗はティアからケーキを食べ続ける門太に目を向けて門太に駆け寄り手を掴んだ。
「止めろっ!これ以上食べたら死ぬっ!!」
『うあぁぁぁああああああああ!!がああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』
―バキイィッ!!―
「ぐあぁッ?!」
変身もせず生身のまま門太を止めようとするが、相手も少なからずヤミーの力を持っている為に力では敵わず殴り飛ばされてしまう。それでも拓斗は諦めようとはせずふらつきながら立ち上がり、敵わないと分かっていながら門太を止めようと掴み掛かっていく。
「馬鹿が……拓斗、止めておけ!お前の方が先に死ぬぞ!」
ヤミーがセルメダルを溜め込むのを待って離れた場所に佇むティアが忠告して叫ぶが、拓斗はそれを聞かず門太に突っ込んで再び殴り飛ばされ、柱に叩き付けられ崩れ落ちてしまう。だが……
「っ……でも……それでも、何も出来ないよりはっ……!」
そう呟きながら立ち上がり、拓斗の脳裏にフラッシュバックして流れる映像……オトシブミヤミーがビルを襲っていた時にも見た瓦礫に埋もれる血まみれの人々の死体。それを思い浮かべる度に拓斗は拳を強く握り締め、キッと門太を見据えながら再び突っ込もうとした。その時……
『――ッ?!あぁ……あああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?!』
「……え?」
拓斗が再び突っ込もうとした時、突如門太が苦しげな声を上げ出したのである。その様子を目にした拓斗が思わず動きを止めると、門太の身体から突然白ヤミーが出てきた。
「ッ?!ヤミーが出て来た?!」
「さっきも言っただろ?そいつは成長するまで出て来ないと。つまり……」
「成長の為に出て来た、って事か……!」
拓斗とティアがそんな会話を行ってる間に、白ヤミーは苦しげな声を上げながら全身を纏う包帯姿から脱皮し別の姿へと変わっていった。成長を果たしたその姿は、肥満体質で巨大な青いデブ猫……
「ド、ドラ〇もん?!嘘、ドラ〇もんってヤミーだったのかっ?!」
「アホかッ!!変なこと言ってないでさっさと変身しろッ!!」
青いデブ猫……ネコヤミーを見てリアルにショックを受ける拓斗を一喝し、三枚のコアメダルを取り出して拓斗に投げつけるティア。そしてティアの怒号で正気に戻った拓斗は投げられたメダルを咄嗟に受け取ると、ネコヤミーの攻撃を避けながらオーズドライバーを出して腰に巻き、バックルにメダルをセットして斜めに傾け右腰のオースキャナーを取り出し、そして……
―キィーンッキィーンッキィーンッ!―
「……変身ッ!」
『TAKA!TORA!BATTA!TA・TO・BA!TATOBA!TA・TO・BA!』
スキャナーからの電子音声と共にメダルの残像が拓斗の周りを駆け巡り、縦一列に赤、黄色、緑のメダルの残像が揃うと拓斗はオーズに変身した。そしてオーズは変身を完了させたと同時にメダジャリバーを構えて走り出し、ネコヤミーへと斬り掛かっていくが……
―ブヨォンッ!―
『フシャアァッ!』
『ッ?!な、えぇッ?!』
メダジャリバーの刃がネコヤミーの体に直撃した瞬間、ネコヤミーの全身を纏う厚い脂肪に斬撃の衝撃が吸収されてメダジャリバーが弾かれてしまったのである。オーズはメダジャリバーとネコヤミーを交互に見て驚愕するも、もう一度メダジャリバーでネコヤミーに斬り掛かっていくが……
―ブヨンッ!ブヨッブヨッブヨッ!ブヨンッ!―
『うわっと?!だ、駄目だっ、攻撃が通らない?!―バキィッ!―グアッ?!』
何度斬り掛かってみても、ネコヤミーの脂肪に衝撃を吸収されてメダジャリバーごと跳ね返されてしまい、遂にはネコヤミーにメダジャリバーを弾かれそのまま吹っ飛ばされてしまった。
『グウゥッ……だったらっ!』
―ガオオォォォッ!ガシャアァンッ!―
ネコヤミーに吹っ飛ばされてしまったオーズは態勢を立て直しながら胴体の円盤部……オーラングサークルの虎部分を輝かせると両腕に装着されたトラクローを展開し、ネコヤミーに再び突っ込みトラクローで斬り掛かった。が……
―ブヨォンッ!―
『っ?!これも駄目?!何なんだこの体?!』
トラクローを使ってもネコヤミーに通用せず厚い脂肪に弾かれてしまい、オーズはなんとかダメージを与えようと続けざまにクローで突きを放ってネコヤミーを吹っ飛ばした。が……
―ブヨオンッ!バッ!!―
『シャアッ!!』
『んなっ?!―ドグオォンッ!!―グアアァッ?!』
ネコヤミーはオーズの攻撃の勢いで背後にあった柱にぶつかって跳ね返り、そのままピンポン玉の如くオーズに体当たりを喰らわせて吹っ飛ばしてしまったのである。
『あぐっ……クソッ……剣も爪も駄目ならどうすればっ……』
攻撃が通用しないのでは話にならない。どうすれば良いものかとオーズがふらつきながら身体を起こすと、今度はオーラングサークルの飛蝗部分が輝き足の先端まで光が走っていく。それに気付いたオーズは力が漲る自分の足を見て一瞬戸惑ってしまうが、直ぐにネコヤミーに意識を向けて腰を屈め……
『ハアァァァァ……セイヤアァッ!!』
―バッ!ドガアァッ!!―
『シャアァッ?!』
―チャリンッチャリンッ!―
超人的な跳躍力で地を蹴りネコヤミーとの距離を一瞬で詰め、渾身の蹴りを打ち込んでいったのであった。オーズのキックを喰らったネコヤミーは体から無数のメダルを飛び散らせながら後退りしていき、オーズもこの攻撃が有効打だと知り続けざまにキックを連続で打ち込みネコヤミーを広場へと吹っ飛ばすと、右腰のオースキャナーを取り外しバックルにスライドさせていった。
『Scanning Charge!』
メダルをスキャンしてオースキャナーから電子音声が鳴り響くと、オーズの両足の先端がバッタの脚のように変化し、オーズは静かに両腕を構えながら腰を屈めていく。
『ハアアァァッ……ハッ!!』
―バシュウゥッ!!―
『シャッ?!』
オーズがバッタ脚となった足で地面を勢いよく蹴って上空へと空高く跳び上がると、オーズとネコヤミーの間に赤、黄色、緑のメダルの残像が一列に並んで展開されていき、オーズはそれを確認するとネコヤミーに両足を向けながらメダルのビジョンをくぐり抜けようと急降下していった。だが……
―ゴオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォオッ!!!!―
(――ッ?!あれは?!)
オーズが最初の赤いリングを潜り抜けようとした瞬間、突如オーズの前に金色の風に吹かれて無数の瓦礫群が何処からか現れたのだ。だがオーズはそれに構わず跳び蹴りで瓦礫群を破壊しながらリングを次々と潜り抜けていき、そして……
『ハアアアアアアアアアアアアァァァァッ!!セイヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!』
『?!!』
―ドッガアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァアンッ!!!!―
オーズの必殺技……タトバキックがネコヤミーに見事に炸裂し、巨大な大爆発が発生して辺りが爆炎に包まれていったのであった。そして空中で破壊した瓦礫の残骸が地面に落下していく中、オーズも地上に着地しネコヤミーに視線を向けていく。其処には……
―チャリンッチャリンッ、チャリンッ―
『シャアァァァァ……』
『――ッ?!そんな……生きてるッ?!』
其処には、オーズ渾身の必殺技を喰らってダメージは受けてるものの、生存して体中からセルメダルを飛び散らせるネコヤミーの姿があったのだ。オーズはそれを見て驚きと動揺を隠せないが、其処へティアが静かに近付き口を開いた。
「お前を邪魔した奴がいるんだよ、ソイツが生きてるのもそのせいだ」
『えっ……?』
オーズはその言葉に疑問を抱いて不思議そうにティアへと振り返るが、ティアはそんなオーズに目を向けずネコヤミーの背後の物陰を睨み……
「カザリ……お前だな……?」
『――――フフッ……久しぶりだね……ティア?』
ティアが敵意を込めた声でそう呟くと、ネコヤミーの背後の物陰から一体の異形……グリードの一人であるカザリが笑みを浮かべて姿を現し、オーズとティアと向き合っていったのだった。そして……
(……なに……アレ……?)
オーズ達から離れた場所では、先程のティアが気になりクスクシエから追ってきた椎名が、物陰からオーズ達の姿を覗き見て呆然と佇んでいたのだった。
第三章/ネコと進化と大食い END