食欲を抑えられない男……門太に寄生したネコヤミーと激闘を繰り広げるオーズの前に突如現れたグリードの一人、カザリ。カザリは不敵な笑みを浮かべながら物陰から姿を現し、オーズ達と対峙していった。
『フフッ……久しぶりだね、ティア』
「こそこそ人の周りを付き纏ってるとは、お前らしいな……そういえば、人間に寄生するヤミーはお前のお得意だったか」
鼻を軽く鳴らしながら思い出したようにグリード化した赤い右腕でカザリを指差すティア。そうしてる間にネコヤミーは気絶する門太に近付いて再び寄生し、ネコヤミーに寄生された門太は苦しげな雄叫びを上げながら勢い良く立ち上がった。
『うぁっ、あぁっ?!もっとぉ、食い物をッ!!』
『あっ、ま、待てッ!!』
再び食い物を求めて何処かへと向かい出す門太を引き止めようと慌てて走り出すオーズ。しかし……
『フンッ!』
―ドシュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーーッッ!!!!―
『ッ?!なっ、ぐあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ?!!』
カザリがそれを妨害する様にオーズに片腕を突き出して強力な金色の竜巻を巻き起こし、オーズを吹っ飛ばしていってしまったのだ。オーズはそのまま勢いよく吹っ飛ばされて地面を何度も転がっていき、ティアも竜巻の余波で後退りしながらオーズに叫んだ。
「気をつけろッ!そいつは取り返しに来たんだッ!お前の持っているその一枚は、奴のコアメダルだからなッ!」
『グッ!コアメダル……?じゃあ、グリードの一人ッ?!』
切羽詰まった様子でオーズのドライバーにセットされたトラメダルを指差すティアの言葉に、目の前の敵がティアと同じグリードだと気付いたオーズはふらつきながら起き上がりカザリに身構えていく。だがカザリはそんなオーズとティアを見て軽く鼻で笑い……
『そう警戒しないで、別に戦う気はないから』
「……なに?」
自分達と戦うつもりはない。そう言い放ったカザリの言葉が以外だったのか、ティアは僅かに眉間に皺を寄せて訝しげに聞き返し、カザリは一歩前に踏み出しながら言葉を続けた。
『まあ聞いてよ。なくなったコアメダルだけど、流石に君が全部持ってるとは思ってないよ。何しろ、君がそんなだしね』
「……で?」
『オーズなんか捨てて……グリード同士僕と組まない?』
『なッ?!』
「……ほぉ」
冷静に状況を見てカザリが結論を出したのは、ティアに自分と組まないかと言う申し出であった。オーズはそれを聞いて戦慄が走り、ティアは興味深そうな声を漏らした。
『分かってると思うけど、オーズなんて元は僕たちを封印する存在じゃないか。そんなのと組むなんて無理がある』
「…………」
『ティア、僕は昔からグリードの中でも君に注目していた。僕と組んだ方が、メダル集めも効率的だよ?』
確かにカザリの言う通り、ヤミーを生み出せるカザリと組めばオーズを使うよりセルメダルが大量に稼ぐ事が出来る。ティアは無表情のまま頭の中でどちらが一番自分にとって効率が良いか考え、小さく笑みを浮かべた。
「まぁ、私としても仕方なくオーズを使ってるだけだ。何しろ、たったこの程度の力しか取り戻せていない……が、人間はやっぱりめんどくさい。確かにお前の方がマシかもな?」
『ッ?!ティアちゃんッ?!』
『決まりだ、ならオーズはもう要らないね……』
此処に来て無茶な要求をしてきたツケが回り、オーズよりカザリの方がマシだと笑ってそう告げるティア。それを聞いたカザリは不敵な笑みを浮かべながら早速オーズを始末しようとオーズに近付き、オーズも思わず後退りしながらもカザリに向けて身構えようとするが……
「――ちょっと待て、カザリ」
『……ん?』
不意にティアが、オーズを始末しようとしたカザリを横から呼び止めたのである。カザリは頭上に疑問符を浮かべながらティアに顔を向け、ティアは自分のこめかみを右腕の指で叩きながら口を開いた。
「グリードのお前と組むにしても、それはそれでデメリットはある。少し考えさせろ」
『……フン、分かった。でも長くは駄目だよ?君は油断ならない……ハッ!』
―ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガンッ!!!!―
『ッ?!グアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアッ?!!』
もう少し考えさせろと告げるティアの言葉を承知し、カザリは自身の周りに竜巻を発生させてオーズを巻き込み吹っ飛ばしてしまう。そして竜巻が徐々に晴れていくと、其処にはいつの間にかカザリの姿が何処にもなく、その場にカザリの声だけが響き渡った。
『頭の良い君なら、きっと正しい答えを出せる筈だ』
『ぐっ……これが……ティアちゃんと同じ、グリードの力っ……?』
「……………」
何処からか響き渡るカザリの声を聞き、ふらつきながら起き上がろうとするもダメージのせいで上手く立ち上がれないオーズ。ティアはそんなオーズを横目に見つめるとグリード化させた自分の右腕をジッと眺め、オーズは近くのフェンスに手を掛けながら何とか立ち上がって変身を解き、ボロボロの姿の拓斗へと戻っていった。
「はぁっ…はぁっ……グリードって、ヤミーとは全然違うんだな……強さがって言うより、力の質がっ……」
「当然だ。カザリの他にあと三人、ウヴァ、ガメル、メズール……もし奴らのコアメダルが全部揃っていたら、今頃どうなっていたか……」
「確か、世界を喰らうって……ぐっ!」
以前ティアから聞いた話を思い出しポツリと呟く拓斗だが、先程カザリから受けたダメージが身体に響き苦しげに胸を抑えてしまう。だがティアはそんな拓斗を手助けする素振りを見せず、ネコヤミーが去った方を見つめた。
「さてと……カザリからの有り難い申し出で、私もオーズが必要ってわけじゃなくなった。どうする?黙ってメダル集めだけやるなら、考えてやるが?」
「それは無理……」
自分の命が危機的状況に立たされているにも関わらず拓斗は迷いなく即答し、それを聞いたティアは軽く舌打ちした。
「馬鹿が……お前も見ただろ?人間なんて一皮剥けば欲望の塊だ。いくら助けてもキリがない」
そもそも救う価値がないとティアは断ずるが、拓斗はフェンスに身を預けたまま苦しげに答えた。
「そりゃあ……時々は欲望に負ける時もあるけど、最後にはちゃんと……」
「欲望に負ける……良く考えるんだな。その間に私は、コレをお勉強だ」
そう言ってティアは懐から取り出したiPhoneを拓斗に見せ、そのまま満身創痍の拓斗を置き去りにし何処かへと歩き去ってしまった。
「はぁっ…はぁっ……とにかく、早くヤミー追わないとっ……」
例えヤミーに追い付いたとしてもコアメダルを持っているティアもいない、ボロボロの今の状態では勝てる見込みはないが、何もせずにいるよりはマシだろうと、拓斗は覚束ない足取りでヤミーに寄生された門太を追い掛けようとするが……
「……拓斗?」
「えっ……」
不意に背後から、誰かに呼び止められた。何処か聞き覚えのあるその声を聞いた拓斗が後ろに振り返ると、其処には呆然と佇む少女……椎名の姿があった。
「し、椎名……ちゃん……?」
「アンタ……なんなの今の?さっき変な仮面と鎧を着て、あの怪物は……?」
(ッ?!まさか、今の見られてっ……ぁ……?)
何処となく混乱した様子を浮かべる椎名を見て、今のカザリ達との会話を見られたと悟り内心焦る拓斗だが、その時意識がぐらついてそのまま倒れ込んでしまい、それを見た椎名は慌てて拓斗に駆け寄った。
「た、拓斗…?ちょ、どうしたのよ?!ねえっ、しっかりしてよっ!!ねぇってばッ!!」
「……………」
倒れてしまった拓斗の体を揺さ振りながら必死に呼び掛ける椎名だが、拓斗は気を失っているせいでそれに答える事が出来ず、椎名はとにかく拓斗が休める場所に連れていかなければと考え、拓斗の腕を肩に回してその場を後にしたのだった。
◇◆◆
それから数十分後、都内にあるとあるスーパーの食品売り場では、ネコヤミーに寄生された門太が売り物の食品を片っ端から食い漁っていた。買い物に来ていた客達が野次馬を作って周りに集まっていく中、門太はそれに構わず食品を食い続けていくが、ふとその手が震えながら止まった。
『や、止めてくれっ……もう食いたくないっ!!もう嫌だぁああああああああああああああああああああああああッッ!!!!』
漸く意識を取り戻し、意志の上では食べることを拒絶し悲痛な叫びを上げる門太だが、体は決して止まる事なく門太の口に食べ物を捩じ込んでいくのだった……
◆◆◆
―星華市・高台―
―ジャラジャラジャラジャラッ……―
同じ頃、拓斗を置き去りにしたティアは昨日拓斗と話した高台に訪れ、ベンチに座ってiPhoneを弄りながらネコヤミーがセルメダルを集めている事を察知していた。
(フン……そうだ、もっと食え、食って溜め込め……)
しかしネコヤミーが充分にメダルを溜め込むまで動かないつもりらしく、ティアはそれを無視してiPhoneに目を戻した。どうやら既にiPhoneの扱いにも大分慣れたらしく、ネットサーフィンも可能となり様々な情報を集めていた。
「……なるほど、面白いな。こんな小さいもの一つで、とんでもない量の情報が得られる……まさにお手軽って奴だ」
手軽に莫大な情報を得られ、扱いやすいiPhoneが気にいったのかニヤリと笑みを浮かべるティア。そしてそのままベンチに寝転がってiPhoneで情報収集を続けるティアだが、その様子を陰から御藤が監視してカメラで撮影をしていたのだった……
◆◆◇
―神上ファウンデーション・会長室―
その頃、神上ファウンデーションの会長室では神上がケーキ作りを行いながら、御藤が撮影するティアの映像が映し出されたテレビを見て関心の声を漏らしていた。
「ふむ、これは大変だよ天城君……このティアというグリード、一筋縄では行かない。彼女がオーズと離れるかどうかで、我々も今後の動きを考えなければいけない」
「選択肢はかなりありますが?」
「いいや、一つだよ。我々が選ぶ道は一つだ」
神上はソファーに腰掛けて自分が作ったケーキの後始末をするレイカにそう言うと、執務机に取り付けられたオーブンに火を入れながら意味深な笑みを浮かべた。
◆◇◇
因みにその頃……
「……ん?」
ネットサーフィンを続けていたティアの視界の端に、あるものが映った。それは前に拓斗がアイスを買ったアイス屋であり、アイス屋のおじさんは昨日と変わらずむぎわら帽子を被り客にアイスを手渡していた。
「…………」
それを見たティアは無言のままベンチから起き上がると、何やら制服のポケットを漁って何故か財布……というか、拓斗の財布を取り出した。
「フッ、アイツから掏っておいて正解だったか……」
財布を見つめながらニヤリと笑うと、ティアはベンチから立ち上がってアイス屋のおじさんの下へ歩み寄っていき、自分に挨拶しようとしたおじさんにいきなり財布を投げ渡すと……
「それで買えるだけ全部、寄越せ」
哀れ、拓斗が汗水流して働いて稼いだお金はこうしてアイス代として使われる羽目になったのだった。