――これは、拓斗とティアが出会う数ヶ月前の話しである……
―型月の世界・衛宮邸―
ドール「――バリボリバリッ……ぶふぅっ、やっぱり炬燵に入りながら食うせんべいとお茶は格別ですなぁ」
季節は十二月の上旬。新年が明けるまで、あと数週間を切った今日現在の衛宮家の居間では、冬の必須アイテムである炬燵に足を突っ込みながらテーブルの上で煎餅とお茶を食し、TVを視聴してマッタリとくつろぐドールの姿があった。
ドール「いやぁ、もうすぐ新しい年を迎えますかぁ。やはり季節が移り変わるのは早いもんですなぁ」
バリッ!と、袋から出した煎餅をかじりながらTVを見てシミジミとそう呟き、ドールは窓の外を見ながらお茶を手にして啜っていく。
ドール「ふいぃ……今日も士郎さんと凜さんと桜さんに大河さんは学校でいないし、ライダーさんはバイト、バゼットさんも士郎さんが紹介した新しいバイトに行ってるし、イリヤさんもまだ来ないし、セイバーさんは道場で座禅をしてるし、まだ暫くはマッタリ出来そうですねぇ……暫く此処で居眠りでもしますかね」
ドールはそう言うと、どっこらせぇーと年寄りくさい掛け声と共に炬燵に入ったまま横になり、そのまま炬燵の温もりに身を委ねて眠りに付こうとする。が……
―……PPPP!PPPP!―
ドール「……んあ?電話?」
テーブルの上に置いてあるドールの携帯が、着信音を鳴らした。その音でパチリと目を覚ましたドールは体を起こそうかと考えるが、面倒くさいからこのままでと、横になっまま手探りでテーブルの上の携帯を探していき、目当ての携帯を掴むと直ぐ相手を確かめないまま電話に出た。
ドール「ウッハッハーイ。こちらただ今仮眠に入ろうとして、貴方に邪魔されたドールさんでぇーす」
ユリカ『そう。だったら良かったわ、今電話して。私よ……』
ドール「…………………………………………」
電話の向こうから聞こえたのは、物静かな声音で淡々とした女性の声。その声を聞いた途端、ドールは先程まで面倒くさそうだった顔を突然ピシリと固まらせ、暫く硬直した後、ゆっくりと通話ボタンを切って丁寧に携帯を傍らに置き、そのまま何事もなかったかのように再び仮眠に入ろうとする。が……
―PPPP!PPPP!PPPP!―
ドール「……………………………………」
―PPPP!PPPP!PPPP!―
ドール「……………………………………」
―PPPP!PPPP!……プッ―
ドール「私だ、鳳凰院凶真だぁ」
ユリカ『今すぐ借金を取り立てに行くわよ?』
ドール「ちゅいまてん、許してくだせぇ」
再度電話に出て他人の振りをしてみるが、やはり無駄でした。ドールが畳みに顔を埋めながら深く謝罪すると、通話相手のユリカは呆れるように溜め息を吐いた。
ユリカ『毎度毎度……いい加減、私からの電話を無視しようとするのは止めてもらえないかしら……』
ドール「いや、だってね?アータが電話してくる目的なんて借金の返済についてでしょ?んなもん、電話を切った時点でまだ準備出来てないと察して下さいよ」
ユリカ『何も言わないまま電話を切られると、流石に私でもイラッと来る……。それに、今回電話したのは借金の事でじゃない』
ドール「んー?じゃあなんですか?遂に婚期を逃したことを今更ながら後悔しましたか?はははは馬鹿め、だーから早く男を見付けろと何度も忠告したんですよ」
ユリカ『そんな話を貴方に持ち掛けるないでしょう……そうじゃなくて、貴方に手伝ってもらいたい依頼がある』
ドール「うむ?これはまた珍しいお誘いですね。何時もはひとりか弟子のチェスさんとで依頼を行う貴方が、私に依頼を手伝ってもらいたいと?」
普段のユリカなら、依頼に関する事で他人に手助けを求めるなんて事はないし、なにより自分にそれを頼むなんて絶対にありえない。一体どういう風の吹き回しだ?と、訝しげに眉を寄せながらユリカに問い掛けると、ユリカは変わらず淡々と話を続けた。
ユリカ『簡単な話、今回は少し人手が欲しくてね……だから貴方にも手伝って欲しい……因みに現場には、依頼者とチェスも同行することになってる』
ドール「えー、別に貴方とチェスさんがいればそれで足りるでしょ?何故に関係ねー私まで駆り出さなければならぬのですか。だるい、めんどい、しんどいっす。特に今の寒い季節は人形にとっても辛い時期なんで、余計にだっりぃーです。うい」
ユリカ『関係ない……ねぇ……けど残念ながら、今回の件は貴方には関係ないと言い切れない……』
ドール「ぬむ?つまり、私にも何か関係があることって訳ですか?ふぅーむ…………色々ありすぎて逆に分からないんですが、何の事です?」
生憎、この世界も含め長年色んなとこで問題を起こしてきた為か、何のことか分からず首を傾げながら聞き返すドール。すると、電話越しにガサガサと紙を開くような音が聞こえ、その後にユリカの声が再び聞こえた。
ユリカ『―――今回の依頼は、とある無人世界に存在する研究所の制圧、並びにその研究所で研究・開発が進められてる人工生命体のデータの入手、及び破壊……その研究所のスポンサーが誰なのか、分かる?』
ドール「スポンサー……」
ユリカ『……黒月八雲……貴方の"嘗ての友人"よ』
ドール「…………」
電話越しにユリカの口から語られた名前。それを耳にしたドールは口を閉ざして暫く無言になるが、すぐに納得がいったという表情を浮かべて息を吐いた。
ドール「なるほどなるほど……つまり、あの人はその研究所を使って造り出した人工生命体とやらを使って、イレイザーが数を揃えるまでそれを戦力に使おうという魂胆ですか」
ユリカ『そういうこと……納得してくれた……?』
ドール「ウィース、確かにこれは関係ねーとは言い切れませんなぁ……。まあ、あの人がそんな研究所使ってなーに造ってるのか個人的に気になりますし、別に良いっすかね。てなわけで、その人工生命体とやらの詳細をプゥリィーズ?」
ユリカ『来れば教える、来なければ教えない。以上』
と、ユリカはそれだけ言い残して勝手に通話を切ってしまった。ツー、ツー、という通話が切れた音声だけが携帯から聞こえ、ドールは携帯をジッと見つめたあと深く溜め息を吐き、炬燵からゆっくりと立ち上がった。
ドール「あんにゃろーめ、人が気になってる事をわざと言わずに来させるとか、なんて意地汚いんでしょうかね。あんな育てた方した覚えねーっすよ。……ま、それでも言ってしまう私もアレなんですがー」
おっと、その前に書き置きしておかねばと、ドールはその辺に置いてあったメモ用紙に書き置きを残すと、メモ用紙をテーブルの上に置いてそのまま玄関へと向かい、靴を履いてユリカが待つ無人世界へと転移していったのだった。
◇◆◇
―とある無人世界―
何処までも荒野だけが続く無人世界。その名の通り、街や人や自然すらも存在しない岩だらけのこの世界の断崖の上で、両腕を組みながら瞼を伏せるユリカと、ベルトの整備を行う弟子のチェスの姿があった。するとその時、ユリカが何かに気付いたように僅かに顔を上げ、伏せていた瞼を開きある方向に視線を向けた。其処には……
ドール「ケロッケロッケロッいざっすすンめ~、地球侵略せーよー!ケッケロッケロッ~~……っと、おおいたいた。お二人方~」
チェス「ん?うげっ……」
ユリカ「来たわね……」
ユリカが視線を向けた先には、何故か右手に持つ木の棒を振りながらノリノリで歌い歩み寄ってくるドールの姿があった。それに気付いたチェスは一瞬嫌そうな顔をし、ユリカはドールの姿を見て組んでいた両腕を解き腰に手を当てた。
ドール「チョッウィース。どうもお二人方、お久しぶりでーす、ナマハゲ~」
チェス「いや久しぶりって、つい最近会ったばかりだろ……っていうか、何だよナマハゲ~って」
ドール「いや何、私が適当に作った一種の挨拶みたいなもんですから深い意味はねーです。なので適当に流してください、ナマハゲ~」
チェス「いや、流せって言われてもさ……」
ドール「おや、チェスさんはお気に召しませんか。ではそうですね……ナマハゲ~の『ナマ』の部分を取って短くしてみましょう。というわけでテイク2!ハゲ~、チェスさんハゲ~」
チェス「それじゃ俺がハゲみたいに聞こえるだろ!!」
ドール「もう、何です一体?めんどくせーなアンタ」
チェス「そこでヤレヤレって顔されると俺が悪いみたいに見えるだろうがっ」
両手でヤレヤレとポーズを取りながら溜め息を漏らすドールに、顔を引き攣りながらツッコミを入れるチェス。そんな二人の掛け合いをジッと見ていたユリカも痺れを切らしたのか、ドールに向けて口を開いた。
ユリカ「チェス弄りもそれくらいにしておきなさい、これじゃ何時まで経っても話が進められない……」
ドール「いや、だってねぇ?チェスさんが出会い頭に弄って欲しそうな顔をするもんだから、つい」
チェス「何時俺がそんな顔したっ?!」
ドール「あらま、人の顔を見ていきなり『うげっ』とか言っておきながら覚えがないと?」
チェス「嘘っ、見えてたのかよ?!」
ドール「当然。私の目が白い内はごまかそうとしても無意味です」
チェス「いや、そこは白じゃなくて黒だろ」
ドール「いいえ、私の場合は白いんですよ。ほーら、クワァッ!!」
チェス「うわああぁっ?!両目かっ開いたら白目剥き出した?!こええ?!」
ドール「なんてウッソーン。ただ白いカラコン入れてただけでした、ざーんねーん」
チェス「こ……こいつ殴りてえぇぇぇぇぇっ……」
ユリカ「……そろそろ作戦会議を始めるわよ。依頼者がもう来たみたいだし」
もういい加減止めるのが面倒になったのか、白いカラコンを両手に某狂気のマッドサイエンティストみたいな高笑いを上げるドールと悔しげに拳を地面に叩きつけるチェスから目を外し、ユリカはある方へと視線を向けた。すると、その方向から一人の青年……海道 大輝がゆっくりと歩み寄ってきた。
大輝「やあ皆さん、お揃いで。ちゃんと時間通りに来てくれましたか」
ユリカ「……それが普通でしょう……それより、早く作戦会議を」
大輝「はいはい、分かってますよ。先ず、今から襲撃する研究所の事ですかね。ほら、彼処」
そう言って大輝が自分達のいる断崖の下を顎で指すと、三人もその方へと振り向いた。其処には、此処から数十キロほど離れた場所に荒野には不釣り合いな感じに建っている巨大な研究所が存在し、大輝はそれを見つめながら説明を始めた。
大輝「あれが、黒月八雲がスポンサーを勤めてる研究施設です。彼処では、イレイザーに変わる戦力として肉体をナノマシンで構成した強化人間……マシンチャイルドと、センチュリオシリーズをライダー化させた量産型ライダーが造られているらしいですよ」
ドール「ヲイヲイヲイヲイ……マシンチャイルドって、レギオンシリーズですか?しかもセンチュリオをもとか、まためんどくせーのに目を付けましたなぁあの人」
チェス「?何なんだよその、マシンチャイルドとか、レギオンシリーズとか」
ユリカ「……元々は、『SDガンダム GジェネーレションDS』の世界の一年戦争を生き残ったギレン・ザビが、人類を粛清するためにムーンレィスから強奪した知識を使って作り出した強化人間よ。その性能は他の強化人間を上回っていて、中には『ニュータイプとスーパーコーディネーターとガンダムファイターの遺伝子を掛け合わせたクローンをDG細胞を基にして作成されたナノマシンで強化した』なんてのもいたわ」
チェス「……なんですか、そのカオス極まりないハイパースペック」
ドール「そんなのはまだまだ序の口。レギオンの一人一人が、パイロットの能力と機体のスペックを著しく強化させるオーバーブーストとかいう、ニュータイプとSEED以上のビックリな力を持ってますからね。更にレギオンが乗るセンチュリオシリーズも、∀ガンダムやターンXを解析して得たデータを用いて簡易コピーした機体でして。その為にターンタイプが持つ月光蝶と同じ性能のフィールドを持ち、ナノマシンを使った驚異的な回復能力を持っているなど、ホントにジオンが作ったのかよ?と疑いたくなるような馬鹿みたいな性能を持ってますから」
チェス「……そんな物が、あの研究所で造られてるってことか……」
そんな化け物染みた能力を持つライダーが、あの施設で人知れず量産されている。そう聞かされたチェスに戦慄が走り、大輝は研究所を見据えながら話を続けた。
大輝「調べたところによると、どうやら既に数百以上のマシンチャイルドとセンチュリオシリーズが彼処で量産され、その半分以上が黒月八雲の下に送られてるらしい」
ドール「既に数百体ですか。良くそれだけの数が作れたものですね……。やはり、それだけの技量を持った人間が彼処に集められてるってことですか?」
大輝「まあね。どうやら、色んな世界から追放されたマッドな科学者達を集め、ムーンレィスの知識を叩き込んで造らせたようだ。だからもしかすると、防衛用のセンチュリオもあの施設に配備されてる可能性が高い」
ユリカ「どちらにしても、これ以上マシンチャイルドとセンチュリオシリーズが量産される前に彼処を制圧し、マシンチャイルドたちを破壊しろ……それが彼の依頼よ」
ドール「なーる……しかし、何故に破壊じゃなく制圧なんです?ぶっ壊すだけなら、此処から狙撃して施設ごと破壊すれば良いでしょ?」
ってかぶっちゃけ、そっちの方が楽出来るからそうしたいんだけど、と心の中で付け足すドール。それを聞いた大輝は何時もの爽やかな笑みを向けながら施設を顎で指した。
大輝「決まってるだろう?彼処にあるマシンチャイルドと、センチュリオシリーズのデータが欲しいのさ。他の強化人間を凌ぐような驚異的な力を持つ強化人間のデータ、大したお宝だとは思わないかい?」
チェス「……お前まさか、そのデータを使って自分も強化人間を造ろうとか考えてるんじゃないだろうな?」
大輝「まさか?俺が欲しいのはデータであって、マシンチャイルドやセンチュリオシリーズそのものに興味なんてない」
ユリカ「そういう事らしいわ……だから先ず、貴方達が正面から陽動を起こして中にいるセンチュリオ達や防衛ロボットを引き付ける。その隙に私が中に侵入し、研究所のデータベースに侵入して研究所の電源を完全にすべて落とす。これで面倒な防衛装置も起動しなくなるし、他の科学者がデータを奪われまいとデータを破壊したり、研究所ごと自爆して吹っ飛ばそうなんて事も出来ない」
ドール「あー、前にそれと同じことが合って大変な目に遭いましたからねぇー。ああいう人達は自分の研究を他人に奪われるのを死ぬより嫌いますから、今回も自棄を起こして『ユニバァァァァァァァァーーーーーーーーースッ!!!』されたらたまったもんじゃねーです」
チェス「……今のにはツッコむべきなんだろうか……」
ドール「まあ、白昼堂々と私にツッコんでみたいとはなんて人なんでしょう?人形に発情とかドン引きです、この変態」
チェス「わざとらしく聞き間違えるなっ!」
ジリッと後退りしながらドン引きするような顔をするドールに、怒りながらツッコむチェス。そんな二人を尻目に、ユリカは頭を掻きながら話を続けた。
ユリカ「話を戻すわよ……その後は研究所に配備されてるセンチュリオ達を破壊し、科学者達は捕縛、連中から黒月八雲の居場所を吐かせる……期待は薄いけどね」
ドール「ま、あの人が簡単に自分の居場所を吐くとは思えませんしね。で、全部吐かせた後は彼等をどうする気で?」
ユリカ「別に、ただ殺すだけ……生かして得になる訳でもないし、また黒月八雲に組み込まれてマシンチャイルドの開発をされでもしたら面倒でしょう……」
ドール「つまり何時も通りですか、りょーかいでーす。んじゃあ、さっさと始めますか」
そう言いながらドールが指を鳴らすと、足元に一つの鞄が出現した。それに伴うようにユリカ達もそれぞれ武器を取り出し、作戦が開始されたのだった。