それから半日が過ぎ、学校を終えた拓斗はそのまま家には帰らず、交番を探して街を歩いていた。その理由は勿論、今朝拾ったメダルを届ける為である。
「まぁ、こんなメダル一枚を取りに来るとは思えないけど……このまま貰うって訳にもいかないしね」
家が貧乏な為か、それともただ甘いだけなのか。人に対する優しさが人一倍ある拓斗は基本お人よしな性格なので、落ちてる物を拾ってそのまま貰ってしまうという考え事態がない。困っている人がいればすぐに助けに向かう。それが当たり前だと考えているから、よくトラブルに巻き込まれるのだが……
「さてと、早く交番に届けてバイトに行かないと…………ん?」
腕時計で現在の時刻を確認し急いで交番に向かおうとする拓斗だが、その時目の前に映ったあるものを見て足を止めた。
拓斗の視界に映ったのは道の片隅に置かれた自販機。自販機というだけなら大して珍しくないが、その自販機はこの辺りでは見当たらないメーカーの黒い自販機だったのだ。
「…?こんな自販機、昨日までなかったはずだけど……」
拓斗は自販機の前に立って訝しげに小首を傾げ、黒い自販機に並ぶ缶を見ていく。缶はどれも知らないモノばかりで、テレビや雑誌でも見たことがない。もしかして新作だろうか?と考えた拓斗は自販機の前で少し悩むと、お試し感覚でズボンのポケットから財布を取り出した。その時……
「――おい、お前」
「……ん?」
背後からいきなり誰かに声を掛けられ、拓斗は財布を手にしたまま思わず背後へと振り返った。すると其処には、一人の見知らぬ少女……銀髪碧眼の少女が拓斗のすぐ背後に立っていた。
「?君は……?」
「…………」
いきなり知らない少女に声を掛けられて半ば困惑気味に尋ねる拓斗。しかし少女はそんな拓斗の問いには答えず、拓斗の身体を見回して僅かに顔を険しくさせた。
「やはり……お前がメダルを持ってたのか……」
「へ?今なんて―ドンッ!!―ガッ?!」
良く聞き取れない声で何かを呟いた少女に不思議そうに聞き返そうとした拓斗だが、少女はいきなり拓斗の胸倉を乱暴に掴み、そのまま背後の自販機へと叩き付けたのだ。
「ぐぁ……な、何……いきなり……?」
「お前、持ってるんだろ?今すぐ寄越せ」
「ぐっ!も、持ってるって、何の話……っ?!」
拓斗は少女の言葉の意味が分からず首を左右に振ろうとするが、ふと自分の手に握られる財布を見て何かに気付き、胸倉を掴んでくる少女の目に視線を向けた。
(ま、まさかこの子っ……カツアゲ?!寄越せって財布のことか?!昨日も被害に遭ったのにまた同じ目に逢うなんて……!)
拓斗は目の前の少女が自分の財布を目的に掴み掛かってきたのだと予測し、頭の中で何とかこの状況を切り抜ける方法を模索していく。その間にも少女の顔に苛立ちが浮かび上がり、拓斗の胸倉を更に締め上げた。
「早く出せ!それとも、私が全部剥ぎ取って見付けてやろうか?!」
(っ?!そ、それってまさか、此処で服まで剥がされるって意味ですか?!それは流石にまずいっ!)
流石にこんな場所で真っ裸されたら色んな意味で終わる!と、拓斗は勝手に最悪な未来に想像を膨らませ、よりいっそこの状況を切り抜ける方法を必死に考えていく。
(っ!どうする?相手は女の子だから暴力なんて振るえないし、此処で財布を取られたら明日のパンが買えないから困る…………そうだ!)
「いつまでグズグズしてるっ……出さないつもりなら力付くでも――!」
と、少女が拓斗の胸倉を掴んだまま左腕を振り上げた瞬間……
「――あ、あぁーーー?!なんだアレ?!メダルの怪人があんな所で暴れてるっ?!」
「っ!何っ?!」
拓斗はいきなり彼方を指差しながら今日夏目が見せてくれた記事の内容にあったメダルの怪人の事を叫ぶと、少女は何故か焦りと敵意を浮かべてそちらの方へと振り返った。だがメダルの怪人など何処にも見当たらず、少女が頭上に疑問符を並べていると、拓斗はその隙に少女の腕から脱出して逃げ出していった。
「あっ?!おいこら!待てお前っ!!」
「フハハハハハハ!!待てと言われて待つほど俺は出来た人間ではないのだよお嬢さん!!という訳で逃げさせてもらう!!主に明日のパンの為にぃ!!」
じゃあねッ!と、片手を軽く振って来た道を戻るように全速力で走り抜けていく拓斗。しかし……
「こん、の――待てと言ってるだろうこの馬鹿がァぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーっっ!!!」
「お、おぉ?!なにあのスポーツマンばりの足の速さ?!だが負けん!!これ以上巻き上げられたら今月ピンチなんだぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーっっ!!!」
貧乏人の底力見せてやるぜええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっ!!!と、わりと死に物狂いで少女からダッシュで逃げていく拓斗。少女はそんな拓斗を追い掛けて爆走し、二人はそのまま何処かへと走り去ってしまった。
◇◆◆
―ガシャアァァァァァァァァァァアンッ!!―
「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ?!」
「う、うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ?!」
拓斗と少女が追いかけっこを開始した頃、二人の近くの宝石店内ではある騒ぎが起きていた。宝石店での騒ぎと言えば強盗や窃盗等のイメージが真っ先に浮かぶが、そのどちらでもない。何故なら……
『――さて、どいつにするか……』
店内を荒らし歩いてるのは一体の異形……グリードの一人であるウヴァだったのだ。客や店員達が店の奥へと後退りして怯える中、ウヴァはそんな彼等を品定めするように見ていく。その時……
『……ん?』
「うぁ、あぁぁ……」
物影で頭を抱えながら震える女性を見付け、ウヴァは女性に近付いて肩を掴むと乱暴に振り向かせた。
「ひ、ひいぃぃぃ?!」
『その欲望、丁度いい』
怯える女性を見て笑みを浮かべると、ウヴァは一枚の銀色のメダルを取り出して女性に無理矢理背中を向けさせた。するとその時、女性の後頭部にコイン入れの挿入口のような物が浮かび上がり、ウヴァが挿入口に銀色のメダルを投げ入れた瞬間、女性の腹部から突如全身を包帯のようなモノで包んだ白い異形が這いずり出るように出て来た。
「?!ば、化けも―ガシッ!―ひぃっ?!」
『騒ぐな……これはお前の欲望が生んだ、お前の姿そのものだ』
ウヴァは叫びを上げようとした女性の肩を乱暴に掴んで黙らせ囁くように呟くと、女性を白い異形の前へと突き出した。すると、白い異形はいきなり女性の右手に食らい付いて何かを食べ始め、女性は悲鳴を上げながら慌てて異形の口から手を引っ込めた。だが……
「あ、あぁ?!い、一億円のダイヤがぁぁぁぁぁ……!!」
白い異形が食べていたのは女性の右手ではなく、その右手に身につけていた高級な指輪だったのだ。指輪を喰われてしまった女性は泣きながら奥の客達の中へと逃げ込んでいき、白い異形はそれを他所に店内にある宝石を食い荒らしていく。そして全ての宝石を食い尽くした瞬間……
『ウァ……ヴヴァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!』
白い異形が雄叫びを上げた瞬間、突如異形の体の皮膚が徐々に崩れ落ちていき、先程の包帯だらけのような姿とは違うカマキリのような姿へと変わっていったのであった。そしてウヴァは異形へと歩み寄り、小声で語り掛けていく。
『俺のコアメダルを探せ、取り戻せ……!』
『御意』
ウヴァは自分のメダル……コアメダルを取り返してくるように異形へと指示し、異形は命令通りにメダルを探す為に店の窓を突き破り外へと出ていった。そして異形は宝石店の道路沿いに出て辺りを見渡すと……
『――匂う……コアメダル……』
メダルの匂いを感じ取ったのか、異形はその匂いが漂ってくる方へと飛び出し、そのまま何処かに向かって走り出していった。