あれから数十分後、拓斗は救急車を呼んだ後謎の少女……"ティア"と共に先程の現場から離れた学園の近場にある海が見える高台へと訪れ、ティアと落ち着いて話しが出来る場所を探していた。
(うーん……取りあえず色々話を聞かなきゃなんだけど……)
ティア「…………」
(うぅ……何か凄く声を掛けづらい……)
先程現れた謎の鷹のメカ達にメダルを殆ど横取りされたせいか、ティアは現場を離れてからもずっと不機嫌オーラを漂わせてばかりだったのだ。拓斗もそれが気まずいせいで中々話を切り出すことが出来ず、此処に来るまでずっと彼女に一言も話し掛けられずにいた。
(どうしようかな……何とか機嫌を直してもらわないと……ん?)
このままではいつまで経っても話を進めることが出来ない。何とか機嫌を直してもらう方法はないかと困り果てた拓斗が歩きながら辺りを見渡していると、近くのベンチに座るカップルにアイスを渡すアイス屋のおじさんの姿を見付けた。
「そうだ……えっと、気分転換にアイスでも食べない?」
「……アイス?」
不意に話しかけられたティアは不機嫌オーラを漂わせたまま訝しげに聞き返し、拓斗はアイス屋のおじさんの下へと駆け寄ると女の子が好みそうな味のアイスを三本購入し、ティアの下へ戻ってアイスを差し出した。
「どうぞ。どんな味が好きなのか分からないから、適当に買って来ちゃったけど……」
「…………」
ティアは拓斗が差し出してくるアイスを疑い深く睨むと、拓斗の手から三本のアイスを若干乱暴に受け取り、試しに一口食べてみる。
「……美味いな……」
「そ、そっか、気に入ってもらえて良かったよ」
「……ふん」
思ったより好反応の少女の安心するように吐息を漏らした拓斗にティアは鼻を鳴らし、アイスを一本くわえながら拓斗の横を通りすぎて先へと進んでいき、拓斗も慌ててその後を追い掛けていく。
「えっと…それでさ、そろそろ聞いてもいいかな?さっきの事とか……」
「それについてはさっきも説明したろう?私達は八百年ほど前に作られたコアメダルを元に生まれたグリードであり、長い間封印されて―――」
「いやいやそうじゃなくて!ちゃんと一から説明して欲しいんだ!それじゃ全然分かんないし……!」
「ちっ……まあいいだろ……少なくともお前には借りがあるからな」
言ってる意味が分からないと困る拓斗にそう言うと、ティアは適当なベンチに腰掛けてアイスを左手で纏めて持ち、右手をポケットに突っ込んでそこから二枚の赤と銀の色違いのメダルを取り出した。
「あ…それって確か、さっきの奴が……?」
「あぁ、ヤミーの事だろ?メダルにも二種あってな。こっちがコアメダルで、こっちがセルメダルだ」
ティアはそう言いながら赤と銀のメダル、コアメダルとセルメダルを拓斗に交互に見せながら説明すると、左手に纏めて持つアイスの一本を拓斗の前に差し出していく。
「例えて説明するなら、このアイス。私が食っている部分がセルで、棒がコアってところだ。コアを中心にセルがくっついてるのが私達、封印されていたグリード……お前が倒したヤミーは、棒のないアイスって感じだ。覚えたか?」
「あ、うん、まあ大体は……」
分かったのか分かってないのか微妙な反応だが、取りあえず重要なことに関して一通り覚えた拓斗はぎこちなく頷いた。ティアはそんな拓斗の様子に疑わしく目を細めるが、まあいいかと溜め息を吐きながらメダルをポケットに仕舞った。
「セルもそうだが、私達グリードにとって一番重要なのはコアメダルだ。ソイツが封印されてた間に何枚かなくなった。棒がなければアイスはくっつかないからな……だから誰一人として、完全な復活は出来ないって訳だ」
「……でも、他の奴のコアは君が持ってるだろ?それはどうして?」
「奴らが封印される前に奪っておいたのさ……奴らがまた復活した時に、完全復活を防ぐ為にな」
「…………」
それはつまり、彼女は封印される前からグリード達と敵対していたという事だろうか?拓斗は黙々とアイスを口にするティアを見つめ、彼女の過去に何があったのかと、一人静かに考えていたのであった。
◇◆◆
その頃、星華市内にあるとある病院。この病院の庭にある散歩スペースのベンチには、今二人の包帯だらけの男が海より深い溜め息を吐いて沈んでいた。
「ちきしょぉ…何で俺達がこんな目に合わなきゃなんねえんだよぉ…」
「やっぱアレだろ?美術館に盗みに入ったりしたから罰が……」
「んなわけねえよ!あんなのは何かの偶然だよ偶然!」
そんな会話をするこの二人組、実は昨日黒いローブの人物が襲撃した美術館に盗みに入った泥棒コンビなのだ。
美術館の高価なお宝目当てで計画を企て、警備員を装って侵入したところまでは良かったのだが……盗みに入ったタイミングが悪く、その時丁度黒いローブの人物がグリードが封印された棺を盗み出した際に美術館を破壊した為、建物の瓦礫に埋もれて大怪我を負い、そのままこの病院へと運び込まれてきたのだ。
そんな酷い目に遭ったのだから、これに懲りて盗みから足を洗うのではないかと思いきや……
「……よし、今度は銀行を襲おう!」
「え、えぇ?!また?!俺もういいよぉ~……」
「バッカなに言ってんだ?!金だぞ金?!それにこのままじゃ悔しいじゃねえか?!」
…どうやら美術館での失敗が片方の男に更に火を付けたらしく、暴走気味に相棒である男に迫り寄る。そんな暴走する男に相棒の男は呆れの篭った溜め息を吐くが、その時男の顔を見て目を見開いた。
「あ、あれ……お前、何だソレ……?」
「へ?」
戸惑った様子で暴走する男の額に指差すと、其処には先の宝石店でウヴァがセルメダルを投入する際に女性の後頭部に出現したのと同じ、コイン入れの投入口のような物が浮かび上がっていたのだ。更に……
―ジャラッジャラッジャラッジャラッ……バシュウゥンッ!―
投入口の現れた男の背後に突如何処からか数枚の緑のコアメダルを中心に無数のセルメダルが飛来して一箇所に集まり、一瞬淡く発光したと共に人型の異形……ウヴァとなって姿を現したのだ。
「ッ?!ひ、ひああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ?!」
「あ?お、おい?どうし…―ガシッ―…へ?」
いきなり顔を青ざめて悲鳴を上げながら後退りし出した相棒を見て戸惑う男だが、その時ウヴァが投入口が浮かぶ男の肩を掴んで乱暴に自分と向き合わせ、何処からか一枚のセルメダルを取り出した。
『その欲望、解放しろ』
そう言って男の額に浮かぶ投入口にセルメダルを投げ入れた瞬間、男の腹に突如不気味な歪みが発生し其処から一体の異形……先程の宝石店で女性客から現れたのと同じ、脱皮する前のヤミーである白ヤミーが薄気味悪く這いずり出て来たのである。
「…っ?!ひあぁ?!ば、化け物おおぉぉぉぉぉぉっ?!!」
今まで呆然としていた男は自分の身体から出て来た白ヤミーを見てすぐさま相棒の男と共に慌てて逃げ出し、他の患者や看護師達も白ヤミーとウヴァを見て悲鳴を上げながら逃げていく。そしてウヴァはそんな男達の様子を他所に、不気味な呻き声を上げる白ヤミーを見て不敵な笑みを浮かべていたのだった。