一方その頃、星華市内のとある銀行では口座からお金を振り込み・引き出そうと大勢の人達がその場所に集まっていた。そして窓口に並ぶ客の列を見ていた銀行員の一人が、銀行に入ってくる人影に気付いた。
「あ、いらっしゃいませ、本日はどういった―――」
銀行に入ってきた客に応対しようと笑顔で歩み寄ろうとする銀行員だが、人影の顔を見た瞬間その顔が凍り付いた。何故ならその人影は……
『ウヴゥ……ヴヴァァァッ……』
その人影の正体は、先程ウヴァが病院で泥棒コンビの片割れから生み出した怪人、白ヤミーだったからだ。
「ば、化け……?!―バキィッ!!―ガッ?!」
―ガシャアァァァァァァァァァァァァアンッ!!―
『?!なっ?!』
『きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあッ?!』
白ヤミーを見て思わず悲鳴を上げようとした銀行員だが、白ヤミーがそんな銀行員を殴り飛ばしてしまい、客達や他の銀行員達はその殴打音と白ヤミーを見て一目散に逃げ出していった。白ヤミーはそれを無視して銀行の奥へ進み、大量の札束が保管された金庫を破壊して中の札束を片っ端から食い始めたのであった。
◇◆◆
同時刻、海が見える高台でティアから話を聞いていた拓斗は、次に何を質問するべきかと頭を悩ませていた。ティアはそんな拓斗を尻目に静かに海を眺め、ふと瞳を伏せた。その時……
―……ジャラジャラジャラジャラッ……!!―
「――ッ?!今のは……メダル……セルメダルの音だ……!」
「……え?今なんて…「来い!こっちだ!」え?!ちょ、何?!ちょっとッ?!」
何処からかコインが無数に落ちる様な音を聞き取ったティアは拓斗の腕を引っ張って何処かへ向かおうと歩き出し、拓斗もいきなりの事に訳が分からずティアに無理矢理引っ張られながら困惑の顔を浮かべていたのだった。
◆◇◇
場所は戻って銀行内。客や銀行員達が外へと逃げ出していく中、未だ白ヤミーがこの場所で大量の札束や金を食い漁っていた。そしてその場所にティアと拓斗の二人が駆け付け、拓斗は金を食い漁る白ヤミーを見て驚愕した。
「あれって……?!」
「あぁ、お前もさっき見ただろう?ヤミー……棒のないアイスだ」
ティアがそう説明すると、拓斗は表情を険しくさせて白ヤミーに視線を向けた。白ヤミーはこの銀行の札束を全て食い尽くさんと言わんばかりの勢いで金を食い続けていき、拓斗はそれを見て白ヤミーを見据えたままティアに手を伸ばした。
「…何だ?」
「え?何って、メダルだよ!変身するんだろう?!―パシッ!―…なッ?!」
白ヤミーと戦う為にメダルとバックルを寄越せと促す拓斗だが、ティアは何故かメダルもバックルも出さず拓斗の手を片手で払ってしまった。
「まだだ。今ヤツを倒しても、メダルは一枚しか手に入らない」
「?メダルって…」
「ヤツは餌を食って成長する。その後で倒せば何枚も……上手くいけば、百単位を落とす」
「で、でも、アイツが食べてるのは……!」
拓斗が焦った様子で白ヤミーに視線を戻せば、白ヤミーは金庫の奥へと潜り込み大量の金を喰らっている。その様子を見つめるティアの顔に拓斗が感じてるような焦りなどなく……
「そう、アイツが今食ってるのは『欲望』……セルもコアも……メダルの元は、人間の『欲望』だ」
ただ……ただもっと食えと言わんばかりに、不敵な笑みを浮かべてそう呟いていたのだった。
◇◆◆
「――欲望……それは人間が無くしては生きていけない、純粋なるエネルギーだ」
神上ファウンデーションの最上階。其処では神上がエプロンを身に纏い、ハンドミキサーとケーキの材料を投入したボウルを手に笑みを浮かべながらそう語っていた。
「ケーキもテーブルも、家もビルも、町も国も、全て人の欲しいという欲望から生まれた塊……それがなくなった時、それは人が生きるという事を放棄したのと何も変わらない。君も分かるだろう、御藤君?」
「…………」
神上は意味深な言葉を紡ぎながら会長の執務机の前に立つ青年……御藤に笑みを浮かべながら問い掛けるが、御藤は無反応且つ姿勢を崩さぬまま何も答えない。だが神上はそんな御藤から何かを感じ取って小さく微笑みケーキ作りを再開しようとするが、その時神上の秘書であるレイカが会長室へと入ってきた。
「会長、その一つから招待状です。高層ビルの竣工記念パーティー」
そう言いながらレイカは手に持った招待状を神上へと差し出し、神上はレイカの手から招待状を受け取って内容を確認すると、口元に笑みを浮かべた。
「素晴らしい!赤ん坊は生まれた時に『欲しい』と言って泣く!生きるとは、何かを欲するという事だ!」
その顔に浮かぶのは、この世界に新たに『誕生』した何かに対する歓喜。神上はこれ以上にない程嬉しそうに笑いながら執務机の上に置かれた生クリーム絞り器を手に取り、執務机の上にある作りかけのケーキのチョコに生クリームで何かを書き始めた。
「その最大にして最強の力から生まれたメダルを最大限に集めた時、手に入るのは……無限大……」
ケーキのチョコに描かれたのは、無限大の意味を表す∞(インフィニティ)の文字。神上はそれを見て笑みを浮かべるも、すぐに真剣な表情に変わって生クリーム絞り器の先端を∞の後ろに近付け……
「そして……それよりも大きいのが……」
神上が∞の背後に描いたのは……もう一つのO。それによって完成されたのは、三つのOが並ぶ名前。その名は……
「――OOO(オーズ)……」
――――OOO(オーズ)。チョコに描かれたその名を呟くと共に、神上は至高の笑みを浮かべながら会長室の天井を仰いでいったのであった……
◇◆◆
『ウッ…ウガッ…オォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオッ!!!』
場所は戻り、大量の札束と金を喰らった白ヤミーの体の中から突如巨大な二本の腕が現れ、何かが外へ出て来ようとしていた。そしてその影では拓斗がティアと共にその様子を見て険しげに眉を寄せていた。
「人の…欲望…」
「待つんだ。ヤツがそいつをメダルにして溜め込むまでな……」
それまで手を出す気はないと言うように、白ヤミーの脱皮を静かに見守るティア。そして白ヤミーの中から現れた六本の脚を持つ昆虫そのものの姿をしたヤミー…オトシブミヤミーは完全に脱皮を終えると、不気味な奇声を上げながら何処かに向かって移動を開始した。
「ッ!追うぞっ!」
「っ……!」
ティアは移動を始めたオトシブミヤミーを追って物陰から飛び出し、拓斗も複雑な表情のまま慌ててティアの後を追い掛けていったのだった。