受け取ったプロットの詳しい内容、書いた方、そして親友気取りのプロットがどなたに叩きつけられたのかはマイページの活動報告をご覧ください。では。
「……子供、こんな所に?」
ある日の森の入り口。誰も立ち寄らないだろう場所にその子はいた。
私が転生してここへやってくる前に住んでいた日本のような治安もなく、魔物もいて、こんな所に放置するなんて普通はあり得ない。
捨て子だろうとはすぐに分かった。
「見捨てるなんて事は、駄目だよね……」
母性本能だろうか? なんて自分に冗談を飛ばして苦笑しつつ拾い上げて森の中へ戻る。
今は確かに女で、所謂TSってやつかも知れないけど精神は男だ。母性本能なんてあるわけない。
「いつか魔女に育てられたなんてなるのかな?」
魔物払いの結界を抜けて、畑の脇を歩き、ようやくついたボロ小屋に辿り着いた。
「ここが君の家だよ。少なくても、出ていきたいと思うまではね」
私は魔女。……っていう名前な訳じゃないけど、これで大体通じる程度には名が知れた転生者だ。
死因は何かの事故だったと思う。学校の帰りに親友と歩いていたら、その時に。
テンプレ的な神様とは会えなかったけど、テンプレ的な中世風異世界に決して弱くない魔法力を持って産まれ出た事は幸いだった。
性別が変わってしまった事こそ戸惑いはしたけど、新たな生を得られた事と若干のオレTUEEEで生活には困らなかったね。
様々な依頼をこなしてお金を得て、豪華な食事を食べて、あれやこれやと持て囃される。
人によっては新たな目標を目指したり野望を抱いたりと調子に乗っていくのだろうけど、私にはそれができなかった。
しばらくはそんな生活に満足していたけど、段々疲れて来たのだ。
結局の所、異世界転生して力を手にした所で私の精神は現代で育った事に変わりない。
有名になるにつれて高まりかかる期待の声にまともな返事もできず、降りかかるやっかみをどうする事もできない。
だって戦いの場において魔法で幾らでも敵を吹っ飛ばす事はできても、街中でそんな事をする訳にもいかないでしょ?
やがて疲れ果てた私は、逃げるしかできなかった。
真夜中にフードを深く被って、懐にお金とかなんか大事な物だけ持って。夜逃げだね。
正しく魔女と呼ばれるにふさわしい格好で飛び出した後はあっちこっちを放浪して、あっちこっちで例の魔女だと噂されて、いたずらに自分の名前を広めるだけの結果だったけど。
今住んでる森の中の小屋に辿り着いたのは偶然だ。
人目を避けてもう魔女らしくどこか山奥に籠って過ごそうとふらふらと森へ入った時に偶然辿り着いた。
その時は驚いたよ。
だって誰も住んでいないと思ってたのに老人が一人で住んでいたんだもの。
冷静に考えれば周りの畑や手入れの行き届いた道具の数々を見て気が付くんだけど、当時はそんな余裕もなくてね。
その人は、なんというかとても、偏屈って言葉が似合ってた。
急いで立ち去ろうとすれば引き留めるし、だからと言って何かする訳でもなくぶつぶつ文句を言いながら泊って行けという。
疲れてたし休めるならと乗っかっちゃったけど、あれ老人が悪い人だったらもうダメだったよね。
しばらくして今度こそ出て行こうとお金を置いてローブを被れば、仕事が残ってると言って引き留め、あるいは雪で道がなくなるからまだいろって。
そんな事をいつまでやったかと言えば……死ぬまで。
ロクな医療もない世界でそもそも長生きだったのに、老い先が長くあるわけがなく。
つい先日、ついに息を引き取った。
もう聞けなくなるからどうして私を引き留めたのかを聞いてみたらなんて言ったと思う?
「最後に見る顔がしけてるのは気に入らないから」だってさ。
小屋を引き継いでからはついに一人なんだと思っていたのに、今日のこれだ。
ベッドに寝かした子供を見て首をひねる。
「んー……」
赤子の面倒、どう見ればいいのさ?
私ってば前世があると言っても子育てとは無縁な高校生男子、そして今も子供どころか人とすら殆ど無縁だったんだよ? どうしろって言うのさ!
「……あの人、子供いるって言ってたっけ」
あーもう、何てタイミングで逝ってるんだあの老人は! もうちょっと長生きしろよ!
あ、やばい。騒いでたらぐずりだした。
母性本能あるなら何とかしてよ! ……全然わからん!
と、とりあえず離乳食? いやでも食べられるくらいなの?
……た、食べられない、まだ離乳じゃなかったらど、どう、私か!? いやいやいや、無理無理!
うわぉーぁあ!
・・・・・
十年後。
意外と手間……かからんかったね。
確かに拾ってから数日数か月数年は当然子供の振る舞いだったけど、成長するにつれてどんどん理性的というか……。
「賢過ぎる、かな」
「うっ」
私の手伝いをしてあれこれをするのは歩けるようになってすぐ。成長が早いんじゃないかな?
数歳で既に簡単に伝えた内容の言葉でもちゃんと自分で解釈して実行できるし。
「もしかして……」
「え、ええっと……」
「天才?」
「……えー」
安心した顔をしてるけど、当然私だってこの子が天才だと本気で思ってるわけじゃない。そういうかまかけだ。
賢い理由が天才だという理由でないのはその顔で確信した。
ふふっと笑いが出てしまうと向こうも笑う。
この子も前世の記憶を持つ転生者的なアレかも知れないけど、今はいいや。
向こうからしてみれば私はこの世界の森に住む物好きな魔女。同じ転生者だって分かりやしない。
多分だけど、この子は私の方からそうなのかと聞かない限りは自分の正体については明かさないだろう。
ちゃんと秘密を言ってくれないのは寂しいけど、こればっかりは仕方ないとして諦めるしかない。
それまた数年。
あの子はもう子というよりも、青年と言った方が似合う年齢になった。
「……何じっと見てんだ?」
「ううん。何でもない」
反抗期? な訳ないよね、うん。
彼はこの世界を見て回りたいだけだ。最近は私から周りの街について聞かれたり、地図が無いかと揺すられたりしてるし。
ただ……。
「こっちの街はどういう所なんだ?」
「えーっと、確か漁港だったような……」
「こっちは?」
「なんだっけ……」
「……これは?」
「……森?」
「俺達の住んでる所じゃないのか……?」
「あ、そ、そうだ。そうそう」
放浪した末に引きこもり始めた魔女だよ!? 周辺地理なんて分かる訳ないじゃん!
というか何なら今自分の居る国すらもしかしたらわかんないかも……。
だってこの世界じゃ境界線がしっかりしてるわけでも、衛星地図がある訳でもないし。
「私は悪くない!」
「わかった、わかったよ」
軽くあしらわれた。
「で、君は旅に出るのかい?」
「……そうだ。育ててもらった恩も返せず、本当に悪いけど」
そう決意した瞳は、いやその顔立ちは。
「昔の友人によく似ているね。絶対に折れないんだ」
中身も、外見も。
今こうして見れば、そっくりそのままかつて親友だった、前世で親友だった彼に似ている。
あの時死んで、そして転生してきたのは私だけじゃなかったんだ。
一緒に暮らして来てて確信がなかったけど、ようやく納得がいった時には少し遅かった。
今更判明した再会に喜びたい所だけど、本当に今更だ。
ここで実はと切り出せば、そんな私に育てられたことをなんて思うか。
「旅に出るなら一つ忠告だよ」
「忠告?」
「自身の持つ“本当の名前”。魂に刻まれたそれは、呪術でよく使われるんだ。あるかどうかは知らないけど、絶対人に教えたら駄目だよ」
「……分かった」
そこで素直にわかっちゃう辺り、本当に確定だもん。名前がある事。
寂しくなるなぁ。
老人と過ごした数年、この子……いや彼と過ごした十数年。
人目を避けて過ごしたかったのに、いざようやく一人になれると考えて寂しいとしか思えない。
彼だから特別扱いしたのだろうか? なんて、まさか!
前世の時みたく、また馬鹿ができればなんて期待したのかも。
この世界じゃ満たされなかった、気の合う人とあーだこーだしながらの冒険。それがようやくできるのかもって。
雪が降るからと今は引き留めて、ちょっと笑う。
彼をどこかへ行かせない為の言い訳にあの老人と全く同じ事を言ってる。
でもそれも、私のような弱い人間だから引き留められたんだ。
しばらく経って積もった雪が溶ければ、彼はすぐに準備を始めた。
「俺はある人を探さないといけないんだ」
なんてずっと言ってさ。
余計に言い出しにくいじゃん、私がそれだって! ンモォオオオオオ!
「うわびっくりした。急に発狂すんなよ」
誰のせいだと……!
ごほん。
てな感じで彼は夢でよく見るという親友を探す旅に出る。
転生だのなんだのという事は流石に言わなかったけど、それがこの世界に生まれた意味なんだーって。
「本当に、行くんだね」
「ああ!」
準備はすぐに終わる。
私の魔女としての知識で作った治療薬や小技の効く魔法が刻まれたお札(正式名称不明)を持ち、家にあった使ってないお金も持たせて。
「……駄目だよ、やっぱり」
去り行く背中を見て呟く。
外の街や割と居る魔物についても教えはしたけど、彼の性格はよく知ってる。
やっぱり心配だ。
すぐに何かに巻き込まれて、すぐに力尽きてしまうだろう。一人で行くには厳しい。
気が付けば、先回りして森の入り口に立っていた。
そして後から来た彼をびっくりさせてしまった。
「な、なんで?」
「近くの街まで、だから」
「はあ?」
「君が危ないと思って!」
「……まぁ、良いけどよ……」
これは護衛だ。うん。
だから、近くの街まで案内して、大丈夫だって分かったらそれまで。
私は魔女だから。一緒に居たら後ろ指差されて迷惑かけちゃう。
けど、それでも、私は少しでも彼と一緒にいたい。
次の街まで。
もう少し、次まで。
いいや、もうちょっと、あっちは危ないから。
そうしてあの時私を引き留めた老人のように、いつまでも付いて回った。
わがままで、駄目だというのに。
もしかしたら親友以上の感情も抱いてるのかも知れないなんて頭をよぎったりもしたけど、流石にそれは言えない。
まず第一に、向こうは何も知らないから。私が実はその探してる人間なんだって。
こうして一緒に過ごして、旅をして、お互いに気の合う仲だというのは向こうも分かってる。
向こうから言い出して恋仲にならないのは、私が育て親だからだろうだけに他ならない。
もやもやした感情を引きづったまま言い訳を続けて旅を続けて、いつの日か小さな町へ辿り着いた。
この町は昔も来たことがない。もしかしたら、私が隠居している間に新しくできたのかも。
「でもめぼしい感じはあんまりしないね。探し人はいそう?」
「わかんね。相変わらずずっと近い気配はしてるのに見つからないし、入れ違いになってんのかねぇ」
そら横にいますから。入れ違いどころか共に行動しておりますから。
「ちょっと聞いてみますか。てなわけで行ってくる」
「それじゃあ宿取ってくるね」
もう手慣れたもので、手分けして別れる。
そういえば最近あんまりもう言い訳してないなー。
旅を始めて2年くらい経っちゃったかな。たまには家に帰らないとそろそろ盗賊はこないだろうけど、ボロ小屋が自然に押し潰されちゃう。
宿を取ってから彼を探して……見つからない。
どこへ行ったんだろう?
いつも待ち合わせは広場にしているのに、いつまで経っても現れない。
それほど広くはない町だからと欲張って隅々まで探しにいったのかな。
……いいや、彼の場合だからそんな事はしない。しても、断わりを入れる。律儀な奴だから。
何か嫌な予感がする。
嫌な──
「──この魔法の気配!」
強力な呪術だ!
それも、私が警告しておいた名前を使う系な!
すぐに息切れを起こす自分の身体に悪態をつきながら走り、気配を感じた場所に辿り着いた時には遅かった。
誰もいない路地裏の隅に、見知った顔が倒れてた。
彼はやられてしまっていた。
「なんで名前を教えたの!?」
絶対に明かしちゃ駄目だって言ったのに!
「俺が言った訳じゃねぇよ……。前の知り合いが……」
「知り合いなんて、そんな──」
この世界に来たのは、私と、親友と、他にも来ていたの……?
あの時の事故で他にも誰かが、それも知り合いが!?
「クソッ、あの馬鹿、ハーレムだのなんだのとか言いやがって……!」
「は、はーれむ……?」
「俺が邪魔だとか言って殺しに来やがった! ……ま、一杯奢ってやったがな。サービスだ」
「全く上手くないよその言い回し……」
見れば、彼の持ってるナイフには血が塗られ、点々とどこかへ続く血痕があった。
冗談を飛ばして何とか冷静を取り持とうとしてるのか、それとも私を安心させようとしてくれているのか。
とにかく駄目だ。
この魔法というか呪いは、確実に殺す為の……。
「なぁにが“今日からこの俺様がニューリーダーだ!”だよ。お前もハーレムに加えたいとか抜かしてたけど、乗るなよ。なんか癪だ」
「何遺言みたいな事言ってるの!」
「好きなように生き、好きなようには死ねなかったなぁ」
「もっと遺言に近づいてるじゃん! 勝手に諦めないでよ馬鹿!」
「俺の屍を超えて行け……ッ!」
「遺言芸はもういいよ!」
これは呪いだ。解呪する方法は、あるにはある。
強力だけどその分穴はある。
だけど……。
「それをすれば、君は死んだも同然だよ……」
簡単な事。
前世から今にかけての記憶を全部無くして、名前を無くしちゃえばいい。
呪いというのは思い込みによるものが大きい。だから自分の大切にしている名前を使われたら、どうしようもない。
その分、記憶に左右されるから消しちゃえば一緒に消える。
「記憶を、ねぇ」
「私に……君を殺せないよ……」
「いつか思い出すだろ」
「そんな気楽な!」
家に置いてある薬を組み合わせればできるけど、そんなことしたら、今までの……。
それこそ、今まで親友としてずっとの記憶が……。
「最期に見る顔がそんなじゃ死にきれねぇよ」
あの
「んじゃ、見殺しにするのかい?」
「そんな……」
真っ白な頭で何も考えられなかった。
ぼんやりとしつつ、気が付いたら森の中の家に戻ってきていた。
それに手元にはもう記憶消去の薬もある。
無意識に作ってしまっていた。
「やっぱりこんなの……駄目だよ……」
もう彼は、ほとんど動けない。
赤子に戻ったかのようにベッドで横たわったまま眠っている。
そうするしかないんだ。
彼を、救うには。
何が正解なのかは分からない。
これで命自体を救ったとして、彼自身の魂というか、それはどうなるのだろう?
「へっ、これで終わりか。悔いは無ぇ。……楽しかったぜ、お前とは……」
もう腕を上げるのも、口を動かすのも大変であろう彼が私の手元から薬をひったくるように奪った。
そして止める間もなく。
「あばよ、親友」
・・・・・
数日が経って、彼は目を覚ました。
何も知らずに。
「ここは……」
「目が覚めたかい? ここは魔女の家だよ。森の入り口に倒れていたところを拾ったのさ。……見捨てるなんてことは、駄目だからね」
それは十何年も前の話。
だけど彼はそれをつい先日の事だったかのように受け取り礼を言った。
「しばらくはここが君の家だよ。出ていきたいと思うまではね」
「ありがとうございます、レイヴン」
固まる。
私はまだ名乗っていないのに。
「あ、違いました? ……あれ、なんで俺、この名前を……」
「……寝ている内に話しかけたのを、覚えてたのかもね」
「そっか、そうかもです」
私の愛おしい親友は、今はいない。
けれどもしかしたら、いいや。
また彼が旅に出たいと言った時に教えればいい。
旅には危険が伴うと。