【急募】メイドロボ「この疑似生殖行為に生産性を見い出せません」←論破する方法   作:酉のひと

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◇◇◇◇◇◇


アイデア消化第3弾
(アンドロイド相続ネタ=ひださん兄貴、専スレ勧誘ネタ=FRISK01兄貴、その他)

ちょっと長め


【急募】祖父からアンドロイドを相続してしまったんですが、どうすればいいですか

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 バスを降りると、セミの合唱と共に、むっとする緑の匂いが鼻をついた。

 

 何年も前から変わらない、夏を感じさせる匂い。

 

『ドアが閉まります、ご注意下さい。ドアが閉まります───』

 

 僕以外誰も(運転手も含めてだ。自動運転である)乗っていなかったバスがエンジン音を模した電子音を鳴らし、過ぎ去っていく。

 

 この時間を除くと、後は夕方に一本しか無い貴重なバスだ。自動運転、EVを導入して一時期は平成初頭の頃まで路線数が回復した公営バスも、やはりコストの問題から徐々にその数を減らしつつあった。

 

 暗がりを歩くと蚊にまとわりつかれるので、敢えて日差しの下を歩いていく。目的地は直ぐそこだった。

 

 ひび割れた舗装の緩やかな坂の途中、右に逸れる道を、更に登った先に、その門は見えてくる。

 

 年月によって磨かれ、黒ずんだ鉄の面構え。車が通るからと言ってその門扉は何年も開け放たれたままだ。

 

 そこから漂う香りの源、梔子(くちなし)をここの持ち主が好んで植えさせていた事を思い出す。

 

 奥に見える立派な屋敷に続く、砂利の海に浮かぶ石畳の橋……その淵に彼女は居た。

 

「おかえりなさいませ、坊っちゃま」

 

 曲げた腰の角度、下げた頭に流れる黒髪、作法なんて知らないけれど、相変わらず美しいと思わされる。

 

「……こんにちは、芽衣子さん」

 

 ヴィクトリアンメイドの装いにホワイトブリムが揺れ、人間とは違う耳の装置に嫌でも目が引き寄せられた。

 

 人間みたいで人間よりも完璧な彼女は、じいちゃん、祖父の所持していた個人用のハウスキーピングアンドロイドだ。

 

 そして、祖父の遺言で僕が相続した遺産の一つでもある───

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

【急募】祖父からアンドロイドを相続してしまったんですが、どうすればいいですか

 

 

 

1: 名無しさん太郎: ID : 2g8yheay

助けて下さいオナシャス!

 

2: 名無しさん太郎: ID : bnvupeqp

>>1

祝え! 新たなアンドロイドオーナーの誕生を!

 

3: 名無しさん太郎: ID : rzfynien

>>1

オメシャス!

 

4: 名無しさん太郎: ID : 4ax8gd3s

>>1

ヘイ構わん、祝うぞ♂

 

5: 名無しさん太郎: ID : y2aef5hn

>>1

ようこそ……

『男の世界』へ……

 

6: 名無しさん太郎: ID : y5q9ootk

>>5

おっ、待てい

ユーザーの4割は女性ゾ

 

7: 名無しさん太郎: ID : jbv68t2o

とにかくめでたい

 

8: 名無しさん太郎: ID : op9hb4wc

目出TIT

 

9: 名無しさん太郎: ID : 2g8yheay

自分アンドロイドの事とかほとんど知らないんですけど、こ↑こ↓にいる淫夢人の兄貴達が助けてくれると聞いてやって来ました

宜しくオナシャス!

 

10: 名無しさん太郎: ID : o4nkkkr5

>>9

お前こ↑こ↓(メイドロボ掲示板)は初めてか? 力抜けよ

 

11: 名無しさん太郎: ID : evi9qxex

>>9

よく来たわね、いらっしゃい

 

12: 名無しさん太郎: ID : c3ii8i6z

淫夢人(いんむびと)すき

 

13: 名無しさん太郎: ID : e4t7jdda

淫夢人(いんむちゅ)すき

 

14: 名無しさん太郎: ID : xznvhmz5

淫夢人(いんむじん)すき

 

15: 名無しさん太郎: ID : bnvupeqp

>>14

イマジンみたいでこれだけすき

 

16: 名無しさん太郎: ID : wt27axug

この掲示板の必須スキルである語録は身に付いているようで安心したゾ

 

17: 名無しさん太郎: ID : 4ax8gd3s

>>16

こんなもん必須スキルにするな

 

18: 名無しさん太郎: ID : rdpsvd3b

とりあえず>>1のスペック教えてくれよな〜頼むよ〜

 

19: 名無しさん太郎: ID : 2g8yheay

>>18

オッスお願いしま〜す

 

えー身長は176センチ、体重が60キロです

21歳です

学生です

 

20: 名無しさん太郎: ID : xdosysj4

>>19

ちょっと痩せてんよ〜

もっと食べてほら

 

21: 名無しさん太郎: ID : y2aef5hn

24歳学生じゃない、-1145141919810点

 

22: 名無しさん太郎: ID : 84ypsftp

彼女とかいる? 今

 

23: 名無しさん太郎: ID : 2g8yheay

>>22

こ、去年ですね(大嘘)

 

24: 名無しさん太郎: ID : o4nkkkr5

3年生?

 

25: 名無しさん太郎: ID : 2g8yheay

>>24

4年生です

 

26: 名無しさん太郎: ID : 7k9tms4s

必修取って後はリモート授業受ければいいくらいか

 

27: 名無しさん太郎: ID : 3fivgc87

自分の時間あって羨ましいゾ(社畜並感)

 

28: 名無しさん太郎: ID : 87aoipoa

そうすると維持費が大変っすね……

 

29: 名無しさん太郎: ID : 5oktf47u

>>28

時間余ってるしバイトでもなんでもすれば大丈夫大丈夫ヘーキヘーキ

 

30: 名無しさん太郎: ID : dimndyj5

相続したアンドロイドってどんな型式ゾ?

 

31: 名無しさん太郎: ID : 2g8yheay

>>30

この型式らしいゾ

[https://www.takayama.android.com/product〜]

 

32: 名無しさん太郎: ID : 4ax8gd3s

>>31

ファッ!?

 

33: 名無しさん太郎: ID : xznvhmz5

>>31

ウッソだろお前www

 

34: 名無しさん太郎: ID : rzfynien

>>31

最新のハイエンドモデルで草

 

35: 名無しさん太郎: ID : 73hmoofz

>>31

グワーッ金持ち!

あからさまに金持ちなのだ!

 

36: 名無しさん太郎: ID : evi9qxex

>>31

タカヤマさんの最新モデルクソほど羨ましいゾ

 

37: 名無しさん太郎: ID : jbv68t2o

車で言えばどのくらいだ?

 

38: 名無しさん太郎: ID : dt8jj89t

>>37

レクサスです……

 

39: 名無しさん太郎: ID : zpxif26t

>>37

センチュリーです……

 

40: 名無しさん太郎: ID : 2g8yheay

黒塗りの高級車レベルなのか……(無知)

 

41: 名無しさん太郎: ID : dk87aj8g

まあアンドロイドの範疇で、だゾ

 

42: 名無しさん太郎: ID : bnvupeqp

拡張何入れてるのか聞いてくれよな〜

 

43: 名無しさん太郎: ID : 2g8yheay

>>42

拡張? って良く分からないけど、

今本人に聞いたらフルオプション? らしいゾ

 

44: 名無しさん太郎: ID : xdosysj4

>>43

おファッ!?

 

45: 名無しさん太郎: ID : 5i8qdwyp

>>43

いくらするんですかね……(震え声)

 

46: 名無しさん太郎: ID : o4nkkkr5

>>43

こいつ全身高級車状態に堕ちたな(錯乱)

 

47: 名無しさん太郎: ID : 4ax8gd3s

>>43

やべえな(ボキャ貧)

 

48: 名無しさん太郎: ID : yqn5zm4f

>>1兄貴のおじいさんは石油王か何か?

 

49: 名無しさん太郎: ID : 2g8yheay

>>48

(石油王では)ないです。平成後期生まれの重度のオタクってイメージしかない

1ヶ月前くらいに亡くなったゾ

104歳の大往生でしたねぇ!

 

50: 名無しさん太郎: ID : 68guuusb

>>49

生きすぎィ!

 

51: 名無しさん太郎: ID : z87qrjv4

これは……OKか(健康長寿推進)

 

52: 名無しさん太郎: ID : su67vquu

>>51

そうですね(適当)

 

53: 名無しさん太郎: ID : opbgnm77

>>1兄貴の父方の祖父なのか母方なのか分からないんですけど、親が相続しなかったんですかね?

 

54: 名無しさん太郎: ID : 2g8yheay

>>53

自分もその辺ちょっと分かって無くて、なんか目録の中に自分の名前が入ってたんですよね……

何かと思ったら祖父の持ってたアンドロイドという

昔それっぽい話されたくらいで完全に不意打ちだったんだよなあ

 

55: 名無しさん太郎: ID : 2g8yheay

それで、何すればいいのか全然分からんからアドバイス貰いに来たゾ(他力本願の屑)

 

56: 名無しさん太郎: ID : 4ax8gd3s

まずはマスター登録ですかね……?

 

57: 名無しさん太郎: ID : 2g8yheay

>>56

え、何それは……(無知)

 

58: 名無しさん太郎: ID : rzfynien

とりあえず虹彩と静脈と指紋を登録してもらうんだよ、おうあくしろよ

 

59: 名無しさん太郎: ID : 84ypsftp

声紋と顔も必要だゾ

 

60: 名無しさん太郎: ID : 2g8yheay

>>58-59

どうすればいいんですかね……(無能)

 

61: 名無しさん太郎: ID : opbgnm77

とりあえず自分が新しい所有者ですって伝えてから登録作業に移るといいゾ〜これ

 

62: 名無しさん太郎: ID : 3tvrod3v

DNAの登録もしとけよしとけよ〜(ゲス顔)

 

63: 名無しさん太郎: ID : 2g8yheay

>>62

マジすか(DNA)

唾液とか……?

 

64: 名無しさん太郎: ID : xznvhmz5

>>63

フフフ……SEX!

 

65: 名無しさん太郎: ID : y2aef5hn

>>64

やめないか!(バシィ)

 

66: 名無しさん太郎: ID : o4nkkkr5

まあ確かにDNA情報の塊ではあるが……

 

67: 名無しさん太郎: ID : ub9hez5p

>>58の虹彩、静脈、指紋と顔が1番簡単だと思うゾ

 

68: 名無しさん太郎: ID : 2g8yheay

色々ありますね……とりあえず状況見計らってやってみるゾ

 

69: 名無しさん太郎: ID : kag3raiq

他に何か聞きたい事あれば言ってくれよな〜

 

70: 名無しさん太郎: ID : 2g8yheay

気になってたんですけど、

拡張? って何なんですかね

 

71: 名無しさん太郎: ID : jbv68t2o

>>70

アンドロイドはそのままでも優秀だけど、他の会社から出てる色んなパーツを付け替えることによって姿形を自由に変えられるんだゾ

 

72: 名無しさん太郎: ID : bnvupeqp

>>70

ソフト面とかも色々あって、例えば格闘技の動きとか覚えさせる事もできるゾ

 

73: 名無しさん太郎: ID : msmkgwmf

>>70

とりあえずこっちに来るんだよォ!(オク男)

ふたなり専スレっていうんですけど(暴露)

 

74: 名無しさん太郎: ID : ddhz6gdm

>>70

自分、コスプレ専スレへ誘導いいすか?

 

75: 名無しさん太郎: ID : mg9egg5w

>>70

この逸材を逃すわけにはいかないんだよな〜

ケモナー専スレへ来て、どうぞ

 

76: 名無しさん太郎: ID : xdosysj4

一気に湧いて草

 

77: 名無しさん太郎: ID : wa2q3yrf

無垢な兄ちゃんを沼に引きずり込んではいけない(戒め)

 

78: 名無しさん太郎: ID : evi9qxex

>>77

語録に汚染されてるから言うほど無垢でも無いゾ

 

79: 名無しさん太郎: ID : 2g8yheay

こんなに揃ってるとは思わなかった(無知)

すげー目移りして目が滑るゾ

 

80: 名無しさん太郎: ID : 4ax8gd3s

検索サイトで見るとパーツOOSGなのは分かる分かる……

 

81: 名無しさん太郎: ID : aenetpky

とりあえず一緒に過ごしてて「こういう風になってほしい」「こっちの方が可愛い」となったら変えていくのがいいですね

 

82: 名無しさん太郎: ID : 2g8yheay

>>81

はえ^〜……

とりあえず一緒に生活してればいいんですかね

 

83: 名無しさん太郎: ID : bnvupeqp

ところで>>1兄貴とそのメイドさんは面識あるんですかね

 

84: 名無しさん太郎: ID : 2g8yheay

>>83

小さい頃は一緒に遊んで貰ってたりしたゾ

 

85: 名無しさん太郎: ID : o4nkkkr5

>>84

ヌッ!(早漏)

 

86: 名無しさん太郎: ID : xznvhmz5

>>84

ふーん、エッチじゃん

 

87: 名無しさん太郎: ID : hr4wikme

>>84

スケベェ……(レ)

 

88: 名無しさん太郎: ID : y5q9ootk

>>84

ちょうだい ちょうだい

ちょうだいそういうの もっと(画像略)

 

89: 名無しさん太郎: ID : 7xwkkvjo

>>84

ああ^〜いいっすね

 

90: 名無しさん太郎: ID : 84ypsftp

>>84

たまらねぇぜ。

 

91: 名無しさん太郎: ID : 8vwcjkc6

>>84

アリですね

 

92: 名無しさん太郎: ID : a4zohxpj

ちょっとスケベ脳のやつ多すぎんよ〜(指摘)

 

93: 名無しさん太郎: ID : 8h98fjio

>>92

ま、多少はね?

 

94: 名無しさん太郎: ID : rzfynien

>>92

いいじゃん求めたって(NYN)

 

95: 名無しさん太郎: ID : hr4wikme

あっ、そうだ(唐突)

>>1

これは余計なお世話かもしれないアドバイスなんですが

 

96: 名無しさん太郎: ID : 2g8yheay

>>95

今の自分にはどんな助言もありがたいから教えて下さいオナシャス!

 

97: 名無しさん太郎: ID : hr4wikme

>>96

主人が無くなるとかなり不安定になるのがアンドロイドだから、迎える側もそれなりに強い気持ちを持って迎えてあげないと駄目ゾ

 

98: 名無しさん太郎: ID : 3q6ozc86

確かに引きずる子は引きずるからメンタルケアっていうか、安定させるのは大事ですね

 

99: 名無しさん太郎: ID : 2g8yheay

>>97-98

なるほど……

 

100: 名無しさん太郎: ID : 4ax8gd3s

俺が、神様(一般的なアンドロイドオーナーのイメージ)

 

101: 名無しさん太郎: ID : y2aef5hn

じゃあオラ来いよオラァ! YO!(一般的な強いオーナーのイメージ)

 

102: 名無しさん太郎: ID : kag3raiq

>>100-101

アンドロイド警察だ!

 

103: 名無しさん太郎: ID : bnvupeqp

>>102

やめろコラ! 流行らせコラ!(乳尻太ももメガ盛りメイド)

 

104: 名無しさん太郎: ID : hgms3ztd

>>102

流行らせコラ!(メカクレバイザー)

 

105: 名無しさん太郎: ID : xdosysj4

>>102

流行らせコラ!(ぴっちりスーツコス)

 

106: 名無しさん太郎: ID : jbv68t2o

流行らせたがり過ぎてて草

 

107: 名無しさん太郎: ID : g2vqfq44

いつか>>1兄貴もどこかの沼に浸かるだろうから兄貴達は専スレ籠もってて

 

108: 名無しさん太郎: ID : 2g8yheay

色々と勉強になりました

皆さんありがとナス!

とりあえずあの人と接する心構えは出来た気がするゾ

 

109: 名無しさん太郎: ID : xznvhmz5

>>108

男は度胸! なんでもやってみるもんさ

 

110: 名無しさん太郎: ID : evi9qxex

頑張れ>>1ァ ふんばれェ(やんややんや)

 

111: 名無しさん太郎: ID : o4nkkkr5

つよし頑張れよ(KBTIT)

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 スマホから顔を上げ、さらりと揺れる黒髪を追う。

 

 幸い、その背中をすぐに見つける事が出来た。今は花瓶の水を入れ替えている最中だった。

 

 見た限り、大小含めて全12室ある全ての部屋の掃除と花の手入れを毎日欠かさず行っているようだ。

 

 この広い邸宅も、彼女のスキルに掛かれば一人で切り盛り出来てしまうものらしい。

 

 嘘か本当か、裏の山も彼女が管理しているのだとか……?

 

 しかし、マスター登録、マスター登録か……

 

 なんとなく元気付けられたのは確かだけど、そういえば結局どうやってやるのか聞きそびれてしまった。

 

 スマホの個人認証みたいなものだろうけど、今からスレに戻って聞き返すのも気が引ける。

 

 そもそも初見の掲示板でスレ立てて質問するって割とやらかしてないか……?

 

 ……ま、多少はね?

 

 スマホを投げ出して伸びを一つ。

 

 祖父の遺した屋敷に来て3日、子供の頃親しんだ懐かしいこの家の匂いにも、もうそろそろ慣れて来た頃だった。

 

 既に定位置と化したリビングのソファに持たれ掛かりながら、くるくると働くメイドさんを目で追っていると、自分がどんどん駄目になっていくのが良く分かる。

 

 確かに社会に浸透していったのも分かる便利さだった。まさか背中まで流してくれるとは……

 

 ふわりと鼻腔をくすぐる、梔子の香り。

 

 気がつけば、メイドの芽衣子さんがソファの近くで控えていた。

 

「お疲れさま」

 

「ありがとうございます、坊ちゃま」

 

 いつもの完璧な角度で一礼。

 

 日課の掃除を終えた筈なのに、黒のメイド服には埃一つ見当たらない。

 

「誰もいないんだしさ、流石に花は要らないんじゃない?」

 

「折角のお言葉ですが、坊ちゃまのこの家を完璧に保つのが、御主人様にも命じられた私の役目でもあります。申し訳ありません」

 

「あっ、そっかぁ……」

 

 再び一礼。

 

 最早何も言えなかった。

 

 そういえば、この屋敷もじいちゃんから貰ったものだった。

 

 芽衣子さんと合わせてどれだけ税金掛かったのかとか考えたくもない。

 

 夏休みや冬休みになれば家族みんなでよくお泊まりに来た思い出の家だが、現金化したくなかったか? と言えばめっちゃしたかった。

 

 ……彼女が働く姿を見るまでは。

 

 アンドロイドという、睡眠も食事も要らない存在だからだろうか。

 

 彼女の興味というか行動原理は、屋敷と僕に向かっているように見えた。

 

 昼は屋敷の隅から隅へと掃除、夜も僕が眠るまで側に控えていて、いつ頃充電ステーションに戻っているのかも分からない。

 

 それとなく仕事を減らすように言っても、御主人様に言われているので〜とこれだけは譲ろうとしない。

 

 そんな彼女から屋敷を取り上げたらどうなるのか? 少なくとも、僕はやりたくない。

 

 おじいちゃん、祖父はまあ、こんな辺鄙な所に洋館をブッ建てて自分のアンドロイドにクラシックなメイド服を着せる程の重度のオタクだったが、凄い人ではあった。

 

 新しく主人になった自分が釣り合っているかというと、比べるべくもない。

 

 だから、芽衣子さんも僕の言う事は話半分くらいで聞いてるのかもしれなかった。

 

『俺に何かあったら、芽衣子を頼むぞ』

 

 じいちゃんの膝に乗せられた時に言われた言葉が、あの人が好んでつけていたシダーウッドの香りと共に蘇る。

 

 本気だったんなら、もっとアンドロイドとの接し方とか教えておいて欲しかった。分厚い取り扱い説明書とかじゃなくてさ……

 

 その説明書は、この3日間でまだ1/10も読めていない。

 

 そして、アンドロイドとの正しい接し方なんてのもそこには書いていなかった。

 

「そういえば、何しろって言われたっけ……」

 

 ごろりとソファに横になって、スマホを再び起動。先程のスレを流し読みする。

 

『迎える側もそれなりに強い気持ちを持って迎えてあげないと───』

 

『───メンタルケアっていうか、安定させるのは大事』

 

 浮かび上がるのは、重要そうなスレのアドバイスたち。

 

 そして今の自分がしなければいけない事はマスター登録なるもの。

 

「あっ、そういうことか」

 

 ようやくスレの兄貴達が言っていた事が理解出来た……気がした。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「失礼致します───坊っちゃま?」

 

 夏の長い日も落ち、オレンジ色の電灯が優しく照らす部屋に、屋敷の管理を終えた芽衣子が訪れる。

 

 新しく屋敷の主となった青年が住むようになった1室だ。この日初めて、仕事が終わったら部屋に来るようにと言いつけられていたのだった。

 

「いらっしゃい、芽衣子さん。今日も1日お疲れさま」

 

「はい、ありがとうございます」

 

 ベッドに腰掛けていた、リネンのシャツとスラックスのラフな格好の青年が立ち上がり、今日も屋敷の管理を完璧に終えてみせた芽衣子を労う。

 

 が、それきりで、何かを話そうとして躊躇っているように見える。

 

「……あの? 坊っちゃま? どうされましたか?」

 

 芽衣子のセンサーは、青年がどこか思いつめたような、いつもと違う様子である事を看破していた。

 

 屋敷の人間に何か希望があれば、それを速やかに解決するのが彼女の仕事である。

 

 言われて決心がついたのか、所在無さげにうろついていた青年は、芽衣子の顔を真っ直ぐ見据えて口を開いた。

 

「ね、芽衣子さん。ずっと気になってたんだけど」

 

「はい、何かご入用でしょうか」

 

 芽衣子の姿勢にも自然と力が入る。

 

 1ヶ月前、主が逝去してから火が消えてしまったような屋敷。そこに来てくれたのが青年だった。

 

 彼が望むことならば、何でもしてあげたいと思う。

 

「僕の事、いつもなんて呼んでる?」

 

「坊っちゃま?」

 

「うん。それをさ、変えて欲しいんだよね」

 

 芽衣子は困惑した。

 

 青年の事は子供の頃から良く知っている。

 

 素直な性格で、主人の孫の中でも1番主人と自分に懐いていた、聡明な子だった。

 

 その彼から良く分からない事を言われたのは、これが初めてだ。

 

「晴人坊っちゃま?」

 

「そっちじゃなくて」

 

「晴人様……?」

 

「それも違うね」

 

「ええと……では、鷹山晴人様?」

 

「……そっか、分かんないか」

 

 覚えの悪い子を諭すように苦笑して、1歩、2歩と歩み寄る青年。

 

 困惑するメイドの耳元に寄せた形の良い唇から、からかうような囁きが漏れる。

 

「“御主人様”、でしょ?」

 

「あっ───」

 

 気づけば、肩を押されてベッドに倒れ込んでいた。人間より少し重い体重を、スプリングが軽快に跳ね返す。

 

 距離を詰められるうち、いつの間にかベッドの側まで下がっていたらしい。

 

 のしかかるように、青年が芽衣子に覆い被さって顔を覗き込む。強い光を宿した瞳が、彼女のアイカメラを貫いた。

 

「僕も慣れてないからさ、痛くしたらごめんね」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

204: 名無しさん太郎: ID : 2g8yheay

↑で色々相談させて貰った者ですが、兄貴達のアドバイスのお陰でうちのアンドロイドとマスター登録に成功したゾ

 

205: 名無しさん太郎: ID : rzfynien

オッツオッツ

 

206: 名無しさん太郎: ID : xznvhmz5

やりますねぇ!

 

207: 名無しさん太郎: ID : 2g8yheay

とりあえずうまく出来たと思うゾ(自画自賛)

 

208: 名無しさん太郎: ID : 8h98fjio

確かに慣れないと戸惑いますねぇ!

 

209: 名無しさん太郎: ID : o4nkkkr5

登録する情報多すぎィってなるゾ

 

210: 名無しさん太郎: ID : xdosysj4

素体アップグレードする度に手間取るクソザコ記憶力やだ恥ずかしい……やだこんな恥ずかしい……(自己嫌悪)

 

211: 名無しさん太郎: ID : 8vwcjkc6

初見だったから1時間以上掛かったゾ……

 

212: 名無しさん太郎: ID : 2g8yheay

>>211

ファッ!?

自分夜通しだったんですけど……

 

213: 名無しさん太郎: ID : 84ypsftp

>>212

かわいい

 

214: 名無しさん太郎: ID : 4ax8gd3s

>>212

機械オンチ兄貴

 

215: 名無しさん太郎: ID : q4y4efnj

>>212

 

216: 名無しさん太郎: ID : p8i8ir5f

>>212

うせやろ?

まま、ええわ

 

217: 名無しさん太郎: ID : 2g8yheay

兄貴達のアドバイスを元にやってみたんですが

加減が分からなかった(小並感)

 

218: 名無しさん太郎: ID : oda6mjtc

ま、多少はね?

 

219: 名無しさん太郎: ID : y5q9ootk

仕方ないね♂

 

220: 名無しさん太郎: ID : cwc5784m

登録出来たんだから大丈夫だって安心しろよ〜

 

221: 名無しさん太郎: ID : 2g8yheay

後はどうすればいいんですかね

 

222: 名無しさん太郎: ID : hr4wikme

>>221

一緒に生活して、時々コミュニケーション取ればいいゾ

 

223: 名無しさん太郎: ID : evi9qxex

よし、楽しく話せたな

 

224: 名無しさん太郎: ID : 2g8yheay

>>222

コミュニケーションって、今回やったみたいにやればいいんですかね

 

225: 名無しさん太郎: ID : hr4wikme

>>224

登録の時に色々話したりしたんですかね?

そんな感じで問題無いです

後は色々工夫してくといいゾ〜これ

 

226: 名無しさん太郎: ID : 2g8yheay

>>225

はえ^〜すっごい分かりやすい

自分でも色々工夫して頑張ってみるゾ

 

227: 名無しさん太郎: ID : y2aef5hn

興味が湧いたら色んな拡張に手出してみてくれよな〜

 

228: 名無しさん太郎: ID : 2g8yheay

拡張ってのもちょっと興味出てきたから勉強してみるゾ〜これ

 

229: 名無しさん太郎: ID : 8h98fjio

拡張はな、振動が気持ちいいぞ♂

 

230: 名無しさん太郎: ID : sr9j59yb

>>229

最強にした振動で前立腺弄ってもらったら大変な事になったゾ

まさか盛大におもらしまでするとは思わないじゃん?

 

231: 名無しさん太郎: ID : jbv68t2o

>>230

 

232: 名無しさん太郎: ID : 8vwcjkc6

>>230

ええ……

 

233: 名無しさん太郎: ID : kag3raiq

>>230

最強に高めた俺の振動で、最強の快感を手に入れてやるぜ!

 

234: 名無しさん太郎: ID : xznvhmz5

>>230

どうしてこんなになるまで放っておいたんだ

 

235: 名無しさん太郎: ID : xdosysj4

>>230

>>1兄貴に身を持って危険性を示す先達の鑑

社会人の屑

 

236: 名無しさん太郎: ID : o4nkkkr5

い つ も の

 

237: 名無しさん太郎: ID : 84ypsftp

平常運転すぎて草しか生えない

 

238: 名無しさん太郎: ID : 4ax8gd3s

あーもう滅茶苦茶だよ

 

239: 名無しさん太郎: ID : 2g8yheay

なんか分からんけど草

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 夏が盛りを過ぎ、梔子の残り香すら消え去った頃。

 

 ひぐらしの輪唱が響き渡る中、僕はいつものように芽衣子さんの出迎えを受けていた。

 

「お帰りなさいませ、御主人様」

 

「……ただいま、芽衣子さん」

 

 僕の生活スタイルはかなり変わった。

 

 1週間に1度、両親と大学に顔を見せて、後はこの屋敷で芽衣子さんと過ごす日々。

 

 それで良いのかとも思うが、まあ、今更だ。

 

 来年の春には、自分も大学を卒業する。

 

 この屋敷をどうするのか、未だに答えは出ていないが、彼女の希望に添えるものであればいいと思う。

 

 門をくぐると、ふわっと良い香りが鼻をくすぐった。

 

「これ、金木犀?」

 

「はい、こちらもお祖父様のお好きな花でした」

 

「へー、いい匂い……ん?」

 

「どうかされましたか?」

 

「いや、なんでもない。行こっか」

 

 かぶりを振って、芽衣子さんの先導で歩いていく。

 

 秋の訪れを告げる金木犀の匂いの中、懐かしいシダーウッドの香りがしたような気がした。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

終わり

 

 

 

「新しく御主人様になってくれた小さい頃からの知り合いの子がソフトSなムーブで迫ってきて心臓爆裂したんですけど、どうすればいいですか?」

 

「しらねーよ、そんなの」

 




ボッチャマ…

リハビリついでに地の文含めてみました

途中三人称に切り替えた所があって、滅茶苦茶読み辛いから本当に申し訳ない

◇◇◇◇◇◇


この話の彼は、要するに例のメーカーのボンボンです
実家の仕事とかアンドロイドのメンテの方法とか全然知らずに育ちました
現在勉強中です

ついでにかなり遅くに出来た孫だったので、相当可愛がられてました
芽衣子さんをアップグレードしたのも孫へのプレゼントです

あとスレのアドバイスを全部真に受けた結果完全に間違った方向に突き進んで行ってます

それとフルオプションって書いてましたが、実際は聞き間違いで芽衣子さんの今のボディは去年の最新モデルをベースに製造されたフルオーダー(・・・・・・)です
今年のはじめくらいにアップグレードされました
ワンオフ機体です

やはりヤバい(掛かった金額)


追記


DNA登録とか専用の施設がないから、その場での登録は当然不可能です
>>62はスレでよくあるジョークの1種です

それを真に受けた奴がいるらしいですね(すっとぼけ)

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