ヒーローの息子だからお前もヒーローやれって言われたけど俺はもう駄目かも知れない 作:疾風怒号
『ヒーロー』という言葉にあなたはどんなイメージを持つだろうか。もしくはあなたには、『私のヒーロー』と呼べる相手がいるだろうか。
英雄、勇士、正義の味方。彼らを呼ぶ言葉は多々あるし、強く気高く清廉な彼らに憧れた事がある人も多い。
または……、「ヒーローが本当にいたら」「自分がヒーローだったら」と想像を膨らませた経験がある人がいるのかも知れない。
そして、これは『彼ら』が実際に存在する、正しくは存在"した"世界の物語だ。 完結した物語のアフターストーリーと言ってもいい。
だがハッピーエンドのその先が、その先に生きる人間が幸福だとは限らない。少なくとも、『彼』はどうしようもなく不幸だ。不幸故に恵まれて、不幸故に望まれる。
それが彼の運命だと言うのならば、まさしく彼は『
ピピピピ、ピピピピ、ピー!
微睡の中を揺蕩っていた意識が甲高い電子音に殴り付けられ、半強制的に覚醒する。時計の頭を叩いて時刻を確認すれば、傷塗れの液晶はいつも通り午前6時半を示していた。毛布からのっそりと這い出してテレビを点け、寝ぼけ眼で今日の天気を確認する……筈だったのだが、今日は様子が違うらしい。
画面はどうやら携帯で撮られた映像を映しているようだ、手ブレが激しいが、異形の影とそれを取り囲む盾を構えた集団を捉えようとしているのが分かる。
画面の右上方を占有するテロップは『"何故" 増加する怪人災害』
成る程最近よく聞く話題だ。 対怪人災害部隊の怠慢だとか、怪人そのものが強くなっただとか、原因となるウイルスの変異が原因だとか、まぁ好き勝手な憶測を専門家でもないコメンテーターとアナウンサーが並べ立てている。
「っと、急がないとな」
とは言っても、この手の話題は何年かに一度は盛んになるものだ。実際何かと物騒になる時期はあるし、俺自身本物の怪人が暴れ回っている現場に出会した事も2回ほどある。 それでも世の中が呑気なのは、きっと親父が生きていた頃は今よりずっと酷かったからだ。
そんな事を考えながら着替えを済ませて適当に身嗜みを整え、ゼリー飲料を咥えると玄関から飛び出す。ポストから新聞紙を取り出していたお隣のおばちゃんに会釈して、自転車に跨りかっ飛ばした。
高台になった此処から見下ろす都市部が、朝日に照らされて光っている。親父が守り、そして今まで守り続けられてきたこの景色が、俺は何よりも大好きだ。
「遅えぞコタロー!」
「悪い悪い。 道案内してたんだ、許せ」
「また人助けか、
「おいコラ、優しいヤツって言えよ」
日曜の駅前は人波でごった返している、往来の少ない一角で友達二人と合流した俺は、朝一早々にお叱りを頂く事になった。
出会い頭に俺を
しょうもない絡みも程々に改札を抜けてホームに向かっていると、山松が振り返って尋ねる。
「楢木」
「ん?」
「お前が道案内したのって、マケドニアナルドの辺りか?」
「おお、そこだそこ。 いや待て、何で分かんだよ」
俺の疑問に黒縁の眼鏡を持ち上げて、山松がすらすらと応える。
「あの辺り、昨日怪人が出たんだ。通行止めが一杯あったから、道に迷うならそこかと思って」
「あー……、成る程そういう事か。凄えな、正解だよ」
他愛もない話を交わしながらホームへの階段を登り切れば、『
「つーかよぉ、最近また怪人増えてねえか? 俺、この前アイツらが出てきたせいでフラれたんだけど!」
それから二駅ほど過ぎた時、今回トレジャーパークに行こうと言い出した毬栗頭がぼやいた。怪人が暴れ回る現場に出会した時、折角出来た彼女に「ビビり散らして情けない」とフラれたというのは本人の談だ。
「それ昨日も聞いたぞ柳本。……まぁ、増えてるのは分かる、ネットニュースも持ちきりだしな」
「対怪も何やってんだか……、前なんて中央線止まったんだぜ?」
「電車が真っ二つになったってやつか」
「そうそう。実物見たけどありゃヤバいわ、なぁ楢木」
「……ん、えっ、あ、そうだな、あれは凄かった」
唐突に話を振られるものだから、しどろもどろに応えてしまった。当たり前だが柳本は機嫌を損ねたようで、俺の額に人差し指を突き込んでくる。
「お前な、遅れて来るわ話聞いてねぇわ、ボーッとしすぎだろ」
「いてッ、ちょっ悪い、ごめんって」
「柳本、その辺にしとけ。 楢木もだ、お前大丈夫か?」
日に焼けた柳本の腕を山松が払って助け舟を出してくれた、その上純粋に心配してくる。
俺達3人はいつもこんな感じだ、誰かが遅れて、誰かがツッコみ、残った1人がやり過ぎないよう適度に止める三すくみ。妙な関係だとは思っているが、これも長く続けば案外心地良い。
「あーいや、大丈夫。本当ボーッとしてただけ」
「ならいいんだが……」
「なぁにシケてんだよお前ら、今日はパーっと楽しもうぜパーっとよ!」
「半分はお前のせいだからな?」
わいわいがやがや、周りの迷惑にならない程度に騒ぐ俺達を他所に、電車は一定のペースで進んでいく。窓の向こうにはビル群の隙間に観覧車やジェットコースターのシルエットが見えた。少し視線をずらせば、晴天の太陽を受けて光る海。どうやらもう目的地が近いらしい。
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暮れかかる日が長く影を落とす坂を、彼は自転車を押して登っていく。前籠にはポップコーンとチュロス、
彼の家は深森台市の端、小高い丘にある閑静な住宅街の一角にある。『深森荘』と書かれた門を潜り共有駐輪場に自転車を停めた所で、彼は自室、105号室の前に立つ2人の人影を見とめた。 片方は身長190センチはあろうかという筋骨隆々の大男、角刈りの頭がなんとも厳しい。もう片方は対照的に小柄な女性、どこそこの国とのハーフだろうか、銀色の髪は薄暗い中でもよく目立っている。
2人とも似たようなスーツ姿だったが、一見親子ほど歳の離れていそうな男女が並んで立っている様は中々に怪しい。
「あの……、どちら様でしょうか」
彼はゆっくりと近付くと、出来るだけ穏やかに声を搾り出した。するとすぐさま、何事か話し合っていた2人がぐるんと振り返る。
「ここ、俺の家……なんですけど……」
「という事は、貴方が
応えたのは女の方だった。落ち着いた聞き取りやすい声で彼_____楢木 琥太郎の名を呼んだが、突然見知らぬ者に本名を言い当てられた本人は困惑気味だ。
「そ、そうですけど、そちらは……?」
「あぁ、申し遅れました。 私は
「同じく防衛省・怪人災害対策局、深森台支部所属、
そう言って男女は琥太郎に一礼する、そして頭を上げるやいなや、彼の眼を真っ直ぐに見てこう言った。
「楢木 琥太郎さん、楢木
初めましての方は初めまして、そうでない方はこんばんは、疾風怒号です。
連休中の全くの思い付きにてハーメルンでは初めてのオリジナルに挑戦する運びとなりました。いつも通り不定期更新のなめくじ更新ですが、応援して頂ければ幸いです
それはそうと最近めっきり寒くなって来ましたね、飼ってるクワガタも冬眠に入ってしまいました。皆さんもお体にお気をつけて。