ヒーローの息子だからお前もヒーローやれって言われたけど俺はもう駄目かも知れない 作:疾風怒号
秋も深まってきたので初投稿です。
俺があの2人から渡された連絡先に電話を掛けたのは、突然の来客から二日後、火曜日の事だった。
電話口に出たのは全く知らない声だったが、名前と事情を話せばすぐに代わって櫟谷の声が聞こえる。確認したい事があるから、直接会って話せないかと尋ねれば彼は快く承諾し、「私が出向く事は出来ませんが、柊なら今からでも会える筈です」と言った。
正直な所、真っ直ぐ過ぎる視線の銀髪女と不動明王もとい金剛力士のどちらか選べと言われるならノータイムで前者に飛び付くのが俺だ、申し訳ないが小さくガッツポーズをしたのは秘密にしよう。そんな滅茶苦茶に失礼な俺の思考も知らず、彼の声は前より明らかに明るかった。 そんな声を聞いただけで嬉しくなってしまうのだから、山松の言う通り、俺は少しお人好しなのかも知れない。
「あ、楢木さん、こっちです」
所変わって駅前の喫茶店。
数時間前に連絡された通りの時刻に到着すれば、既に柊は席についていた。一昨日のスーツ姿ではない何処にでもありそうな夏服姿を見ると随分印象が違って見える。これまでは"女性"と言ってきたが、今はどちらかと言えば"女子"といった風体だ。もしかしたら歳もそう変わらないかも知れない。
「すいません柊さん、待たせてしまったみたいで」
「いえいえ、頼み事をしているのは我々の方ですから。 店員さん、アイスカフェモカ一つお願いします」
「あー、俺は抹茶ラテをアイスで」
挨拶もそこそこに向かいに座る。幸い昼下がりの店はそこまで混んでいない、10分もしないうちにコップが二つ運ばれてきた。
「それで、確認とは?」
先に口を開いたのは彼女の方だった。特に気負った様子もなく、初対面の時と変わらない細まった眼で俺を見ている。
「2人から頼まれた事なんですけど。 俺、あの後色々考えたんです」
「はい」
「本当に、俺しかいないんですよね、適合者」
「……ええ、今現在確認できているのは、貴方1人です」
口が急速に乾くのを感じる、『これを言ったら後戻り出来ない』という確信に近い予感。
それでも__________
「__________なら、俺にやらせて下さい」
言った。言い切って頭を下げた。一面大写しになった机の向かいから、僅かに息を呑む気配がする。果たして柊は、あくまで俺に淡々と告げた。
「頭を上げてください、楢木さん。 ……良いんですか、本当に」
恐らく最後の確認なのだろう。 そりゃあそうだ、いざ本番でビビり切って使い物にならない、何て事があったら笑い事ではない。
けれど俺はゆっくりと頷いた。二日間と言えば短いかもしれないが、それでも自分なりに考えて決めた事だ。今更変える気はさらさら無い。
「自分にしか出来ない事放り出したら、駄目だって思うんです。 だから、やります」
小っ恥ずかしい事を言っている自覚はある。だがこれが本心なのだから他に言いようもなかった。
「……分かりました。 ではこちらにサインを…………と言いたい所なんですけど、実は私、何も持ってきてないんですよ」
「えぇ……」
「まさか此処で承諾されるとは思っていなかったので……、取り敢えず、今日対策局の方に連絡を回します、また各書類が用意出来ましたら、すぐに連絡しますから」
少し茶目っ気のある仕草で、柊が両手を合わせて頭を下げる。まぁ、こればかりは俺も『確認したい事がある』としか言っていなかったから仕方ない。
「あ、そう言えば」
「はい、何でしょう」
「…………給料とかって、出ます?」
「それは勿論」
「ッしゃ!」
今度こそガッツポーズ。少なくともタダ働きでは無さそうで安心した。
「私からも一つ良いですか?」
「はい?」
「私の事は柊ではなく、"待春"と、皆からそう呼ばれていますので」
「じゃあ、俺も楢木じゃなくて、琥太郎って呼んで貰えたら嬉しいかな。 宜しく、待春さん」
「こちらこそよろしくお願いします、琥太郎さん」
差し出された小さな手に応えて握手を返す。握り合った手がとても暖かい。そう思った時だった。
_____ォォォオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!
辺り一帯を揺るがさんばかりのつんざくような咆哮が響き渡る。思わずその方向に振り向いた先で、アスファルトの地面が激しい激突音と共に打ち砕かれ、もうもうと煙が舞った。
"それ"は、溢れ出す凶暴性が形になったような姿をしていた。醜悪な野猿のような灰色の
「…………"怪人"」
恐るべき怪人そのものだった。
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辺りは一瞬にして狂騒の只中に放り込まれた。 その場から逃げようと人々が散らばり、それを追い立てるように怪人は駆け回る。
偶然近くにいた男に眼を付けた奴が、鋭爪の連なった腕を振り下ろし、だが爪が届く前にその豪腕は弾かれた。
「対怪の者です、早く逃げて!」
柊が拳銃のような道具を構え、トリガーを引くたびに怪人の身体が大きく仰け反り後ずさる。ずどん、ずどんと連続して重々しい音が鳴り、苛立った奴はその場から跳び退いた。
「深森台支部聞こえますか、柊です。深森台駅前に怪人が一体、繰り返します、深森台駅前に怪人一体、出動願います!」
『既に通報を受けて櫟谷達が向かっている、それまで上手く奴を抑えろ』
「もうやってます……ってうわぁ!!?」
耳に付けた通信機に向かい話しながらも、正確に道具から衝撃波を発し続ける柊に近付き辛いと判断したのか、怪人は辺りの物を手当たり次第に投げつけ始めていた。レンガや看板、果ては自販機に至るまで次々に殺到し、街路樹の影に隠れざるを得なくなる。だが既に見渡せる範囲には一般人の姿は見られない、なら後はこのまま此処で投擲を凌いでいればいい、近付いてこようとも手に持った『対怪人専用個人携行火器・黒縄』なら十分対応出来る。
そう柊が考えた瞬間、聞こえる筈の無い声が聞こえた。
「待春さんッ!!!! 逃げろォッ!!!!」
何故此処に彼が、先に逃げろと伝えた筈、そう思う間もなく
見上げれば巨大なナニカが降ってくる所だった、鍛えた筈の身体が強張り、避ける事は叶わない。しかし次の瞬間、横殴りの衝撃に見舞われ身体が宙を舞う。
地面に強かに打ち据えられ、だが結果的に落下物を上手く避ける。起き上がってちかちかと瞬く視界に映ったのは、他ならぬ楢木 琥太郎の姿だった。
「怪我無いか!?」
「何で戻ってきたんですか!」
「それは後で説明する!」
「怪我はありません助かりました! って後ろ後ろ後ろ!!!!」
すぐ背後に迫って来ていた影を見とめ黒縄を三発。見事全弾命中し奴が引き下がると同時に、落下物による砂煙が晴れた。
「…………なるほど、最初から二体いたって訳ですか」
落下物とばかり考えていた物は、二体目の怪人だったのだろう。一体目とよく似た姿だが鬣と爪は眩しい金色、体格も一回り大きく2メートル半近い。
「櫟谷さん聞こえますか」
『丁度良かった待春! こっちは現在怪人に足止めを食らった、お前は一旦その場から逃げろ!』
「…………」
泣きっ面に蜂とはこういう事か、と柊は顔を歪めた。目の前には二体の化物、此処は大通り、隣には一般人、一口に逃げると言ってもこの状態を脱するのは簡単な事ではない。ちらり、と細まった目が琥太郎を見た。
「……琥太郎さん」
「聞こえてた、逃げるんだよな」
「いいえ、私から絶対に離れないで、此処で耐えます」
「……それ、大丈夫なのか」
「これは賭けです。私達の命と、貴方の勇気をベットした賭け」
一度切っていた通信を繋ぎ直して、柊が静かに告げる。
「櫟谷さん、『虎徹』を使います」
『柊、馬鹿な事言ってないで』
「私の隣には楢木 琥太郎がいます。支部長に連絡を。 ご心配なく、既に合意は取っていますし、録音もしてます」
「おいマジかよ」
そうしている間にも、怪人達はじりじりと距離を詰めてくる。大きく踏み出した金色鬣に黒縄を一発発砲して牽制、彼女の額に一筋汗が伝った。
『…………今支部長に連絡が付いた。待春、録音してんのは本当なんだろうな』
「私が嘘をついた事がありますか?」
『ふっ……、なら俺はお前と楢木さんに任せる。俺達が着くまで耐えるんだぞ』
「勿論です、櫟谷隊長」
通信機を指で押さえた柊が、薄い携帯端末を素早く操作して琥太郎に投げ渡す。
「それをズボンのポケットに入れていて下さい、仮の認証キーになります、それと上着は脱いで」
「……アンタ、割とアグレッシブなんだな…………」
「それはどうも。数分ですっ飛んでくる筈ですから、それまではじっとしていて下さいね」
「りょ、了解」
『すっ飛んでくる』という表現に首を捻っていたものの、有無を言わせない雰囲気に彼は頷いた。相変わらず距離を詰めようとしては衝撃波を撃ち込まれている怪人が耐え兼ねたように咆哮し、我先にと駆け出してくる。
その先頭の脳天に震える黒縄を向けながら、柊 待春は己を叱咤するように叫んだ。
「野郎に混じった訓練の成果、今が見せる時、ですッ!」
ヤダ……、待春さんイケメン…………な3話でした、これもう主人公でしょ(適当)
これから登場する道具やガジェットの類は後書きでちょっと詳細な説明を書いていきたいと思います。それでは第一弾、『対怪人専用個人携行火器・黒縄』です
【対怪人専用個人携行火器・黒縄】
対怪人災害部隊が使用するハンドガン型の武装。携帯性と経線能力に長け、指向性を持った強力な衝撃波を発生させて相手にダメージを与える事が可能。
だが"強力"とは言っても怪人相手に決定打を与える事は難しい、彼らは基本的に強固な外殻に身を包んでおり、衝撃波(=激しい空気の振動)程度ではそれを打ち破る事はほぼ不可能だからである。
対怪人専用とは付いているが、その実この武装が開発されたのは『人間を鎮圧する為』という意図も含まれている。とある事件が、対怪が対人武装を持つことの必要性を浮き彫りにしたのだ。