ヒーローの息子だからお前もヒーローやれって言われたけど俺はもう駄目かも知れない 作:疾風怒号
最近寝不足気味なので初投稿です。
______ォアァアアアアアアアアッ!!!!
______ガルルルゥアァァアアアッ!!!!
凄まじい叫びを上げながら走り寄ろうとした怪人二体の身体が連続して仰反る。
柊が構えた、僅かに震える黒縄の銃口から次々に衝撃波が吐き出され、先頭にいた一体がもんどり打って倒れた。だが息吐く暇もなくその身体を踏み付けてもう片方が跳躍、しかし飛び掛からんとする巨体に後ろから飛んできた立て掛け看板が激突し、運動エネルギーを打ち消されて地に落ちる。
「助かります」
「はァ……ッ、一つ貸しな!」
「ご冗談をッ!」
琥太郎に端末が手渡されてから未だ数分、しかし2人の表情には既に色濃い疲労と緊張が滲み出ていた。一体だけでも正規装備の対怪人災害部隊員数人から10人分の戦力と言われる怪人が二体、その攻撃をたった2人、そして装備は決定打を与えられない黒縄と怪人が通って来た時に出来たのであろう瓦礫だけで凌ぎ切っているのだから無理もない。
「あと何分だ……!?」
「……あと3分程、短ければ数秒後にでも」
「じゃあ頑張るか!」
諦め悪く回り込んで近寄ろうとした怪人の頭に割れたレンガが突き刺さり、そこに衝撃波がぶつかる事でより大きく押し戻す。両目を抑えて怯んだうちに立ち上がった金色鬣にも同じように攻撃を加えて牽制。これで上手く抵抗出来ているように見えるが、それはひとえに黒縄の性能故だ。元々継戦能力が高い黒縄の確かな威力があってこそ、突っ込んでくるだけの二体を押し留められている。
だが如何に優れた装備であっても限界はある。黒縄のバレル上部に備わった
「あっ」
「どうした!?」
「…………5分くらい、撃てないです、これ……」
「…………ヤバイな」
「ヤバイですね」
「逃げるか」
顔面蒼白になった柊が首を横に振った。
「逃げるんじゃありません、戦略的撤退です、時間稼ぎです!」
「それを逃げるって言うんだよ! 行くぞ転ぶなよ!」
怪人が弾切れを察するよりも早く、瓦礫の山を避けて2人は駆け出す。遅れて追いかけ始めた怪人が飛び掛かるが、すんでの所で横っ跳びに避けてみせた。しかしそれも僅かな猶予を作り出しただけに過ぎない、もう一体が2人を踏み潰そうと先程のように飛び上がり、それをまた転がって避ける。
先程まで赫怒に染まっていた怪人の顔が、土埃に塗れた2人を見るやニヤニヤと歪む。散々自分たちを転がし、レンガやゴミを散々ぶつけてきた目の前の人間を嘲るような笑み。
『死』、琥太郎の脳裏に明確な死のイメージが過った。急速に頭の芯が冷え、絶望が手を伸ばす。
だが、その絶望は
「琥太郎さん」
「……はい?」
長くは続かなかった。
「この賭け、一先ず私達の勝ちです。 上を見て」
「…………う、わ……、」
上空が一瞬きらりと光る。 風切りのような、猛禽の声のような音を響かせて、何かが急速に近付いて、否、落ちてくる。
それは棺のような真っ黒い光沢のある長方形。細かい傷こそあれど、遠くから見るだけでも頑丈さと重さが伝わる造形。
そしてその見た目に違わず、凄まじい音を撒き散らして"それ"は地面に突き刺さった。
______グゥゥウウウウ……!?
強靭な体躯を持つ怪人ですら怯む程の風圧、そして陥没した地面から察せられるその重さ、側面に刻まれた『KOTETU』の文字が眩しい。
「これが…………、虎徹?」
「いいえまだです! その『匣』に触れてください!」
「了解!」
《仮設認証キー、確認。 装着シークエンスを開始します》
「うおおぉ!?」
琥太郎がそれに触れた瞬間、『匣』の後方が一斉に展開され、彼が呑み込まれる。内部には夥しい程の大小様々な画面が所狭しと並び、見ているだけで目が痛くなりそうだ。
《怪人反応確認、拘束用ワイヤを射出します》
《装着シークエンス続行、対象の服装…問題無し》
《強化外骨格、各部問題無し》
《装着シークエンスを続行します》
次々に無機質な合成音声が鳴り、前面から撃ち出されたワイヤーが怪人を雁字搦めに拘束する。この程度何だと二体はワイヤーを引き千切り始めるが、必要なのはその僅かな時間だけだった。
「琥太郎さん!聞こえますか!」
「うるさいけど聞こえてる!!!!」
「よく聞いてください! 虎徹の人工筋肉は出力調整システムが不完全なんです!」
「それで!!??」
「私が手動で、出力を調整します!」
「俺はどうすればいい!?」
「私から5メートル以上離れないで!」
「無茶言うな」と琥太郎は溢したが、そうしている間にも自らの身体が何かに包まれていく感覚に覆われる。熱くも冷たくもないが、ただ背中に僅かな痛痒と、そこから広がるびりびりとした電撃のような何かを感じた。
恐れはある、現在進行形で今にも襲い掛からんとする化物の姿が見えているから。それでも迷いは無い、自分がやらなければ、後ろにいる彼女が死んでしまうから。
自分にしか出来ない事を放り出したら、駄目だ。そう言い聞かせて、拳を固く握る。
「よしッ……行くぞ…………!」
《装着シークエンス、全工程完了》
《システムスタンバイ》
《試製強化外骨格・虎徹》
《______起動します》
暴れ回る怪人の力に耐えかねてワイヤーが破壊されるのと、『匣』の中から彼が現れるのは同時だった。弾け飛んだ『匣』の装甲に巻き込まれ、怪人が吹き飛ばされる。
大量の蒸気を撒き散らしながら、アスファルトを砕かんばかりに踏み締めて、漆黒のボディが姿を現した。
「…………反撃開始ですよ、琥太郎さん。 いや、今は虎徹と呼びましょうか」
「どっちでも構わない。 俺は、俺に出来る事をするだけだから」
黒の装甲の隙間から灰色が覗き、鶯色のラインが胸から広がって四肢を貫く。爛々と輝く両眼は赫灼の赤、眉間の辺りからは一対のブレードアンテナが伸びて、鋭く光を反射した。
そのボディはお世辞にも綺麗とは言い難い、アンテナの片方は半ばで折れ、右半身の装甲は大部分が破損している。それでも、日の光を浴びて真っ直ぐに立つ虎徹の姿は、柊の記憶に残る『対怪人災害専用強化外骨格』そのものだ。
「着装は問題なさそうですね」
「ああ。 よく分からないけど、多分大丈夫」
「多分ですか、……心強い限りですね。 さぁ、来ますよ!」
「了解!」
見れば金色鬣が地面を蹴り付けて既に走り出していた、真っ直ぐに、陸上選手もかくやというスピードで接近してくる。
「タイミングは私が合わせます、貴方は全力でぶん殴って!」
「任せろ!」
「何か経験が!?」
「高校じゃ喧嘩ばっかりしてたよ!!!!」
避けるのが精一杯だった筈の大振りの一撃が今はしっかりと見えた。はすに振り下ろされる豪腕を屈んで潜り抜け、ガラ空きの胴に向かって拳を突き込む。
「らあぁッ!!!!」
拳がぶつかると同時に装甲の隙間に見えていたラインが眩く発光する。その輝きが一際強くなった次の瞬間だった。
ズドンッッッ!!!!
黒縄の発砲音を何倍にも増幅したような爆音が弾けると、再び吹き飛んだ怪人が大通りのビル壁に激突し反動で床に叩き付けられる。 遅れて思い出したように暴風が吹き荒れ、舞い上がった白煙と砂埃を掻き消した。
「すげ……」
琥太郎は自然と感嘆の声を漏らしていた。いつだったか、怪人の身体に詰まった高密度の筋肉はそれだけで150キロは下らないと聞いた事がある。それを簡単に吹き飛ばす虎徹の力に単純に驚愕する他ない。そしてそれは、背後で『匣』から取り出した端末を操作する柊も同じだった。
「これが、適合者が扱う強化外骨格の力……」
彼女は虎徹と無線接続された端末を操作する事で、虎徹が持つ装着者を守るシステムを起動させ、攻撃の反動から彼を守っている。それ故に端末の画面には各種の数値が映っているが、普段はリミッターが掛けられている筈の出力は完全に解放され、既に彼女の想定をオーバーしていた。
リミッターが解除された要因は柊本人が語った通り、楢木 琥太郎が強化外骨格の適合者であるからだ。では、『適合者』とは何か?
答えは、『強化外骨格の装着時、投与される薬剤に対して拒否反応を起こさない人間』である。
強化外骨格は、ボディ各部に搭載されたジェネレーターから人工筋肉に電力を供給して力を発揮する。それ自体は自動で行われるが、それに伴って起こる無理な筋肉の収縮や血圧の上昇に対するケアは、外骨格単体では行う事が出来ない。
この問題を補う為に開発されたのが件の薬剤だった。
怪人のウイルスを解析して製造され、
勿論、この強力な効果は身体に強い負担を掛ける事と引き換えに得られるものであり、殆どの人間は投与された時点で死亡してしまう。だが、何事にも例外は存在する。
この場合の例外は楢木 真兜を含む4人であり、今現在、虎徹を着装した楢木 琥太郎だった。
「また来ます!」
「大丈夫見えてる!」
虎徹の拳が振られる度に爆音が響き渡り、怪人の身体に痛々しい痕が刻まれていく。試作型と言えど、かつて日本を救った4機と同等の力を持つのだ、まして柊からのバックアップを受けられる状態であれば、怪人二体程度に負ける事は無い。
この調子なら大丈夫、対怪が来るまで耐えられる。少なくとも2人はそう思っていた。
「…………ぅ、ぐすっ、……いたいよ、おかあさん……」
助けを求める幼い声が、瓦礫の下から聞こえて来るまでは。
【試作型対怪人災害専用強化外骨格・虎徹】
18年前まで運用されていた4機の対怪人災害専用強化外骨格の試作機。試作機とは記されているが、ジェネレーター出力を含む基本スペックは後の4機と遜色無い。適合者が見つかる迄の捨て石として運用され、その結果大破していなければ正規運用されていた可能性すらある程のポテンシャルを持つ。
現在は柊を含む怪人災害対策局・深森台支部にて修理と改修が行われた状態で保管されているが、当時のデータに失われた部分があるため100%のスペックを引き出せてはいない。
高出力人工筋肉によるパワーと、対怪が使用する武装にも転用された衝撃波発振機能が武器。
また『匣』と呼ばれるコンテナに格納された状態で認証キーを持つ者のもとに急行する機能も搭載されており、この機能は再運用にあたって急ピッチで復元された。