ヴァイオレットの道行きークリム・アンデルセンの課題論文ー 作:あじたまんぼー
ノエルの郊外にあるジュドーの別荘。手入れの行き届いた庭園を臨むバルコニーには、クリムはグラスの中のカクテルに浮かんでいるロックグラスを眺めながらため息をついた。
「あーあー…だから嫌なんだよ。同じ組織での恋愛なんて…」
と、若干酔いが回りつつある状態で愚痴をこぼした。それは少し前の話になる。
「…で?どっちを先にするかで喧嘩になったと?」
「…くだらねぇ……」
「くだらないとはなんだ!」
ノエルの繁華街にある有名なパブで、クリムは心底くだらないという表情をし、それにデイビットが苦虫を潰したような顔で返す。互いにそこそこの酒が入っている状態。それでも、サークル内でも酒豪の二人は理性を保ちながらも話している。
「俺が嫌いなもの三つ挙げてみ?」
「戦争と難民いじめ。…あとは?」
「同一組織内での恋愛…今回はどっちも友人だからいいけれど、友人じゃなかったら目を合わせてねぇ。」
ストレートのウォッカに浮かぶ氷を揺らしながらクリムはそう言う。そんな天才を、苦笑いをするしかないデイビットは、コップの中に残っているウイスキーを飲み干す。
「…で?俺は喧嘩をした後の仲直りプログラムなんて考えてないぞ。」
「協力させといてあれだけど、無責任過ぎない?」
「俺は神でも仏でも、ましてやヴァイオレットでもないぞ。だから極論言ってしまえばお前らの恋路がどうなろうと知ったことではないが…破綻したらゼミ室に行きづらいだろうが。」
「うん。そうだろうなと思ったけど、やっぱり理由それか。」
「当ったり前だろ。金と色恋の縁の切れ目程質の悪いものはねぇよ…」
互いに度数の高い酒を飲みながら、話し合う。
「明日は、確か俺以外はノエルの散策だろ?どうにかして仲直りしてくれ。でないと俺のか弱いメンタルが死ぬ。」
「どの口が言ってるんだ、大学きっての変人が。」
と、互いに言いながらも、先刻やってきたカクテルグラスで乾杯をした。
「あー…明日は論文を書き進めないとな…。」
翌日、皆とは別行動をすることが決まっているクリムは、アルコールを入れ過ぎた体を引きずりながら自分の寝室に歩みを進めた。
その次の日の、10時を過ぎた頃。ジュドーの屋敷にはクリムしかいなかった。論文を進めることと、二人の恋路をどうにかできないかと考えるためである。
「明日は…確かドロッセル側の宮殿に行くんだよな。」
明日向かう場所を検索しながら、自身が追っている相手であるヴァイオレットについて思い返す。
自分の姉であるエドナが、芝居をしてきた中で、厳しすぎて一度だけ泣いたことがあることで有名なパート。ドロッセル王国と、フリューゲル王国で交わされた恋文。嘗て大戦でいがみ合っていた勢力同士の急速な関係改善は、両国のみならず世界的にも注目された。その、ドロッセル王国側のドールとして派遣されたのがヴァイオレット。この両国間の試みは、後世に渡る平和な国が作られる要因として語り継がれる。
「姉さんは、改めてすごい人を演じたんだよね…おかげで偶に声をかけられるけど…たしか、二人が結ばれたのって…いい事思いついたかも。」
彼女の物語を思い返す内に、クリムはある案を思いついた後に、無邪気に笑った。
12時を過ぎた頃。クリムは、グループチャットで合流すると送ってからノエルの街を散策していた。ノエルは広く、どれだけ急いでも合流までは一時間はかかる。それを確認をしたクリムは、あらゆる文化が交じり合う街の匂いを感じながら一行に合流しようとゆっくりと歩く。
「恋は現実の前に折れ、現実は愛の前に歪み、愛は恋の前では無力になる…」
歩きながら、どこかで聞いて強烈に覚えている言葉を無意識に呟いた。それは誰から聞いたのかも忘れた。だけど、どうしても忘れられない言葉。
「本当に、どこで聞いたんだろうな。ここまで 特徴的な言葉なら覚えているはずなんだが…」
そう悩みながらも、歩みを進める。そんなクリムの耳に、綺麗な音色が入っていった。突如としてやってきた刺激に、クリムは好奇心のままに音のなる方へ足を進める。そして見たものは。
「…」
ストリートピアノの前で流麗な讃美歌を歌う盲目の少女がそこにいた。
盲目の少女は、一体何者でしょうか。