ヴァイオレットの道行きークリム・アンデルセンの課題論文ー   作:あじたまんぼー

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最初に、この作品の時代設定をば
端的に言えば現在だと思ってもらえれば大丈夫です。なので、現在にあるような技術とかもバンバン出てきます。


プロローグ2

 技術革新とは偉大なもので、石炭から石油、ガス。そして電気がライフラインであることが当たり前となり、移動手段も馬どころか石炭で動く車なんてものは存在しない。それにとって変わったのは石油で動く車と、最近叫ばれている環境問題に際して普及が進められている水素で動く車やバイクである。多くの屋根の上では黒く輝くソーラーパネル。海を見れば、海風と波力で発電する発電設備が水面から突き出している。ここライデンは、今や世界でもエコロジー事業に精を出している街でもある。

 

「先ずは、ここからだな…」

 

 そんな時代において、散歩をする必要がなかった場所にクリムはいた。かつてのC・H郵便社。ヴァイオレット・エヴァ―ガーデンがライデンの人々に愛される要因を作った大事なターニングポイント。100年以上経った現在は、ライデンシャフトリヒの郵便の歴史を伝える博物館となっている。

 しかし、運の悪いことに臨時休館をしていて中に入ることはできなかった。

 

「…」

 

 休館の文字を見てから、改めて右手に持っているスマートデバイスの画面を見る。よく見ると、そこにも休館という文字が躍っていた。

 

「…」

 

 そしてまた扉の文字を見やる。しかし現実は変わらない。

 

「…交通費無駄になったんだが」

 

 ようやく、彼の口から出た言葉は、そんな言葉だった。休館だったことを考えていなかったクリムが、どこで時間を潰そうか悩んでいたところで後ろから声がかかった。

 

「見知った顔と思ったら、クリムじゃない。こんなところでどうしたの?」

 

 クリムが振り向くと、白磁の肌に大きな麦わら帽子にサングラス。白のワンピースの美しい女性がそこにはいた。

 

「聞きなれた声と思ったけど、なんで姉さんがここに?博物館なら閉館しているよ」

 

 弟が、綺麗な姉に全くときめかないまま気だるげな声で聞き返す。姉、エドナ・アンデルセンは「そんなこと知っているわよ」と返しながら、サングラスをずらしてブルーサファイアの瞳を見せる。

 

「昨日、口コミサイトで評判なカフェがあるって聞いてね?気になったから言ってみようと思って。」

 

 と、言いながら彼女はデバイスの画面を見せる。そこには、落ち着いた雰囲気の喫茶店のサイトがあった。それを見て、如何にも姉が好きそうな雰囲気だなと思っていたところで、

 

「そうだ、アンタ暇でしょ?一人じゃつまらないからついてきなさい。コーヒー一杯くらいなら奢るわよ。」

 

 と、にこやかに笑いながら言った。

 

 休館していた博物館から少し歩いた裏路地。そこに隠れ家のようにたたずんでいる喫茶店。口コミサイトで評判が高いのに関わらず、店内が大盛況とは言えない程人がいないのは、予約制の喫茶店であるから。

 

「しかし、予約では一人だったのに、急遽二人オッケーとか…流石はヴァイオレットを演じたシンデレラってところ?」

「あら、そこまでいい物じゃないわよ?ある程度顔を隠さないといけないし。あることない事書かれるしで…」

「『呟きすらも大声となった』ってやつ?」

「ウイスキーのCMの言葉ね。確かにその通りよ。」

 

 半ば姉の特権で入れてもらえるようになったクリムは半分呆れ、半分申し訳なく思いながら絶品のコーヒーを嗜んでいる。姉弟揃ってコーヒー好きであるためコーヒーにこだわるのだが、前に姉が気に入っていた喫茶店は、姉が常連であるというつぶやきが拡散してことでいきずらくなってしまった。彼女が予約制の喫茶店を選んだのは、そんな呟きに対抗するために、そこにいる間は特定されないようにという考えからである。

 そもそも、エドナが何故そこまで有名人なのかというと、

 

「ヴァイオレット・エヴァ―ガーデンの道行きを辿る…ねえ…」

「うん、なんでかそうなった。参考までに聞くんだけど、姉さんがヴァイオレットを演じていた時。どう演じようとした?」

 

 コーヒーを楽しみながら弟の課題論文について聞いているこの姉は、ライデンシャフトリヒでかなり有名なヒューマンドラマ「ヴァイオレット・エヴァ―ガーデン」の主人公、ヴァイオレットを初めての主演で演じるという割と出来過ぎなシンデレラストーリーを歩んだ、今や著名な女優の一人であるため。しかし、有名になったことで当然発生する世間からのやっかみ、あとは執拗なファンたちの聖地巡礼にパーソナルスペースが無くなっていっているところに辟易してきている所である。そんな姉が、初めての主役でどう思いながら演じていたのかは、弟のクリムも気になるところであるためにそう質問したところである。

 弟の質問に難しい顔で悩みながら、

 

「私…私達が紛争に巻き込まれていることが影響しているのかはわからないけど。私には普通の女の子だと思ったわ。戦場で生まれて、そして愛を知る。ストーリーもありきたりっぽいんだけどね。…アンタもそう思っているくせに何で聞くの?」

「…いや、俺も普通の女の子だとは思ったよ?なのに、うちの教授が、俺の眼で見直してほしいなんて言われたら、考えざるを得ないというか…」

 

 コーヒーに映る自分の顔を見ながら、考えるクリム。そんな弟に、姉は

 

「だったら猶更調べないとね。…まぁ、わかっているでしょうけど。で?調査の計画は決まっているの?」

 

 テーブルにやってきたスコーンをつまみながらそう言った。

 

「最初と最後は決めている。最初は、彼女が戦場でワルキューレになった転換点。最後は、彼女は行き着く終着駅。」

 

 姉の質問に、弟もスコーンにジャムを塗りながらそう答え、そして口に放り込んだ。その言葉に少し考えながら、

 

「最後は分かるけど……最初は何処の事を言っているわけ?戦場跡に行くにしてももうその痕跡を見つけるのって大変じゃない?…まって?」

 

 そこまで言って、ある考えに至った姉は困惑したように弟に目を向ける。

 

「ヴァイオレットが戦場で活躍したのは、とある陸軍将校が当時孤児になっていた彼女を兵器として使おうというところから。姉さんが演じていたものの冒頭はそこだったでしょ?」

 

 クリムは、スコーンをコーヒーで流しながら姉に目を向けた。

 

「最初は、ライデンシャフトリヒの陸軍。あわよくばブーゲンビリア家の人の話を聞ければなって思っているよ。」

 

 そう言って彼は、鞄から宛名の違う二つの手紙を出してそう言った。




呟きすらも大声になった今。
こんな時こそ、手紙という小さな声が届くと思う。
ークリム・アンデルセンー
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