ヴァイオレットの道行きークリム・アンデルセンの課題論文ー   作:あじたまんぼー

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絢爛と咲き誇るブーゲンビリアの花。その先に待ち受けるものは?


ブーゲンビリアの花言葉は2

 屋敷に続く庭園。燦々と咲き誇るブーゲンビリアの花。整備が行き届いた庭園には様々な花が活き活きとしている。そんな庭園の道を、クリムは案内人の後に付いて行きながら花を眺めながら屋敷に向かっていた。

 

「この先に、主人様がおられます。ここから先はアンデルセン様が。」

 

 と、初老に差し掛かっているであろう使用人が言ってその場を離れた。その背中に、「どうも」と返してからクリムは扉の前に立つ。

 

「エピソード0。ブーゲンビリア…」

 

 ヴァイオレット・エヴァーガーデンのプロローグともいえる第零章は、北方の孤児だったヴァイオレットが、物として「鹵獲」されてから戦場で戦い、その果てにギルベルト・ブーゲンビリア少佐が頭を撃たれ、片腕をなくし、ヴァイオレットもまた両腕を失い「あいしてる」の言葉を送って別れるという話。この話の真偽は置いておいて、この作品が名作たらしめる要因の一つがこの始まりだといえる。最も、クリムの師、バーリーの祖母にして著作者であるシオン=アンデルセンが残した取材記録にはそう書いてあるため、これは事実なのだろうと定義付けている。

 して、その戦乙女が生まれる要因を作ったのがディートフリート・ブーゲンビリア大佐。ギルベルトの兄にして、後にブーゲンビリアの家督を継いだ軍人。今回奇跡的に話すことができるのは、そのディートフリートの子孫にあたる人物。

 

「ライデン大学社会学部社会学科。バーリー研究室から来ました。クリム・アンデルセンです。」

 

ドアをノックした後に自分の身元を明かす。そして、少しの間をおいて

 

「まっていたよ。入りたまえ」

 

 と、比較的に若い男の声が聞こえたのを確認してドアを開けた。

 

「お初にお目にかかれて光栄です。エレン・ブーゲンビリア准将。」

 

 そう言いながら、クリムは軽くお辞儀をした。その前には、四十代程の、藍色のズボンと白のワイシャツというシンプルな服装の男性がそこにいた。42歳という若さで准将にまで上り詰めた若き俊英は、その実績に反して柔らかい物腰で迎えてくれた。

 

「話は聞いているよ。大叔母様の話を聞きたいそうだね。」

「はい。まさか、貴方が応じてくれるとは思いませんでした。」

「俺がドラマのじーさんのように意地悪だと思ったのかい?」

「いえ…そのつもりでは…」

 

 いたずら好きな大人の意地悪な言葉に真面目に戸惑うクリムを、エレンは笑った。

 

「すまないすまない…。本当に、そんなつもりじゃなかったんだ。ここから長くなる。座って話さないか?」

 

 准将がにこやかに、扉が開いている部屋に案内した。

 

 准将に案内されて入ったのは物静かな書斎。自室の二倍ほどの高さの天井を支えるように、大きな本棚が立ち並んでいた。クリムは案内されるままに、書斎に用意されていたソファーに腰を下ろした。エレンも続くように座ったタイミングで、先ほど扉まで案内していた使用人が、紅茶を用意してやってきた。その手際のいい手つきで、あっという間に目の前に香りのよい紅茶が用意されていた。

 

「紅茶は嫌いかね?」

「いえ、好きですよ。」

 

 二人は、そう話した後に紅茶の入ったカップを口につけた。紅茶が好きで、ある程度茶葉にこだわるクリムだったが、そのおいしさに目を丸くしてしまった。

 

「これは…香りといい風味といい、完璧…」

「お気に召されて何よりだ。」

 

 そう微笑みつつも、准将は「さて」とつぶやいてカップを置く。

 

「そろそろ始めようか。君は何が知りたい?」

 

 その言葉に、我に返ったクリムが、そっとカップを置いてから口を開いた。

 

「貴方から見たヴァイオレット・エヴァ―ガーデン。そして、戦場で戦乙女と恐れられていた彼女についてです。ディートフリートさんのお孫さんである貴方は、それを聞いているんじゃないですか?」

 

 クリムの質問に、数瞬考えた後に、

 

「まずは、一つ目の質問だが。俺からみた大叔母様はとても優しくて、そして強い人だったよ。島に行った時は、よく一緒に虫を取りに行ってたよ。虫を見ても驚かなかったからつまらなかったけどね。あ、後は心の底から大叔父様を愛していたよ。リンが言うには、最後までエメラルドのブローチを握りしめて、愛おしそうにして眺めながら息を引き取った…ってね。」

「リン…」

「遠い親戚さ。そして大叔母様の孫娘。エカルテ島で教師をやっている。どうせ行くだろう?連絡をもらえば紹介出来る。」

「ありがとうございます。その時はよろしくお願いします。…で?」

「で…だよなー。君が知りたいのはむしろ後者の方だろ?でも、全部じーさんからの受け売りだけど大丈夫か?」

 

 深い息をついてそう聞く准将に、クリムは間髪入れずに、

 

「むしろその方が良いです。ドラマみたいな脚色がないから内容が入りやすい。」

 

 と、真剣な面持ちで返した。それに対して大方予想がついたような表情で、

 

「ま、そうだよな。君ならそう言うだろうね。わかった。ここからが長くなるぞ。」

 

 と、言った後に少し間をおいて。静かに口を開いた。

 

ーこれは、俺が陸軍大佐に昇格して、それをじーさんに報告した時の話だ。確か、君が巻き込まれたというダガール内戦から帰還した時のことだよ。難民の避難誘導のために戦車大隊を指揮して最前線で応戦していたよ。もしかしたら幼かった頃の君達にも会っているかも…扶桑国の救護部隊に回収されてそのままライデンに入ったからそれは無い?それは失礼した。とにかく、その戦いが認められて少佐からの二階級特進さ。

 まぁ、じーさん。ディートフリートに報告したのは、俺の祖父であるというのもあるが、約束があったからな。「もし大佐にまで上り詰めたら、自分の過去について洗いざらい話す」っていうね。寡黙な軍人の文化なのかは知らないけど、陸軍にいた時の事、そして大叔父に当たるギルベルトのことも、そしてヴァイオレット・エヴァ―ガーデンについてすらも、この約束が無ければ聞くことも出来なかっただろう。どうしても、聞きたかったわけではないけども。それでも気になるもので、陸軍に入りたての俺が半ば冗談で建てた約束だった。でも、じーさんは話してくれたよ。それも律義に。

 まず、北方の孤児だった少女を武器として鹵獲したことは事実だ。ライデンシャフトリヒもその時は不安定な情勢の渦中にあって、人材も人員も足りていない状態だった。しかし、その事については、死ぬまで詫びていたのは覚えている。ともかく、そんな武器に名前を与えて育てたのが、ギルベルト・ブーゲンビリア。俺の大叔父。元々はギルベルトの昇格祝いとして与えられたもの。そう、物、だ。それに文字を与え、慈しみを与えて、最後に愛を与えた。

 これは、君も知っての通りだろう。何しろあの物語は脚色されているとはいえ綿密な取材の上で出来たもの。演出はあれど、嘘はついていない。だけど、それだけじゃないんだ。

 彼女は、慈しみや文字、愛を教えられたと同時に、人を殺す術も教えられた。あの極限状態ではそれを咎めることはしないけど。確かに彼女は数えきれない程の敵を葬った。それこそ味方にすら怖れられる程に。陸軍の回顧録によれば、彼女は間違いなく戦闘の天才。時代や国が違えば、それこそジャンヌダルクイスカンダルなどの一騎無双の英雄になっていただろう。いや、彼女はあの戦争では英雄のそれだった。どういうわけか、公式記録には残されていないんだけど。それを見て大叔父様はどう思ったんだろうね。俺には伺えしれないところだけど。だけど、あれが美談だけで済ませられないのも事実。市民が許しても、神や世界は許してはくれない。神はギルベルトにはヴァイオレットの両腕を、ヴァイオレットにはギルベルトそのものを奪い去った。それ以降の話は、この後君が辿るだろうし、物語を知っているから言わないが、愛というものを理解していくようになる。それは君の眼で見てほしい。

 だが、そこで俺は疑問が生まれてじーさんに聞いてみた。「どうして、孤児を武器として実の弟に与えたのか」と。それに対する答えは何だったと思う?「人員不足、人材不足というのもあったが、彼女には戦闘の才能があると直感していたから。だけど一番は、ひねくれ者の俺が俺なりに祝おうとした結果、そうなった」と言ったんだ。人が人なら逆鱗に触れるようなことを彼は言ってのけた。偏に、罪を受け入れているという側面もあったけど。父の方針に逆らい、家督を継ごうとしなかった彼が、父親の期待に応えようと自分を捨てる弟を見て、昔から罪悪感があったんだろうね。だからこそ大叔父様を自由にするために家督を継ぐことを決めたんだと思う。君が俺のじーさんをどう思っているかはわからない。でも、世間体では意地悪な役回りになっているけど。彼もまた、彼なりに弟を想っていたことだけは知っていてほしい。…すまないね、ヴァイオレットの話からそれてしまった。

 

 彼は、そう言って冷めた紅茶を流し込んだ。准将の話を聞いたクリムは、メモを取りながら少し驚いていた。あの物語の始まりは運命に翻弄されて別れるというもの。しかし、彼女はあの時から名を遺すような働きをしていたのである。齢15にも満たない年齢で。ともあれ、少なくとも彼が欲していた情報は手に入った。クリムは、話を聞く前に展開していた、音声入力デバイスを片付ける。話し込んでいた結果、既に斜陽が窓から伸びている。

 

「…もうこの時間か。クリム君、楽しかったよ。」

「こちらこそ、貴重な話をありがとうございます。」

 

 そう言うと、誰からともなく握手をした。

 

 

 夕日に照らされる庭園。そこには美しく咲き誇る花々が夕暮れに照らされて情熱的に輝いている。そんな立派な庭園がある程広い敷地であるため、エレンが出口まで送ることになった。

 

「すみません。出口までの案内なんて…」

「いいってことさ。話続けてたから体がなまってね。いい散歩だよ。」

 

 と、准将は朗らかにそう言う。そうしている内に目の前には荘厳な門が現れ。そこが出口であるとすぐにわかるようになっていた。

 

「君のバイクは門の脇に移してある。」

「移動もしてくれたんですね。助かります。」

 

 クリムがそう感謝をすると、バイクの方に歩み寄る。バイクにまたがり、ヘルメットをしたところで、

 

「そうだ、もし君が彼女の原点を知りたいなら。ヴィリア教会跡に行くといい。あそこが、大叔父様と大叔母様が一度別れた運命の場所。戦争末期の様相も色濃く残っている負の遺産だからね」

 

 と、助言を投げかけられた。クリムは、それに頭を下げて、

 

「そうします。何から何までありがとうございます。」

 

 感謝をしてからヘルメットをかぶりなおして、屋敷を後にした。心地よいエンジン音を残して、学生が去った所を眺めながら、

 

「嘗ての戦争孤児が、過去の戦争の被害者を追う…か。何かの因果かな?」

 

 と、つぶやいた後に屋敷の中に入った。




お待たせしました。これで満足するかは置いておいて、とりあえずブーゲンビリア編は終了です。でもまたあるかもしれません。
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