ヴァイオレットの道行きークリム・アンデルセンの課題論文ー   作:あじたまんぼー

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公開恋文編突入…です。しかし今回は牛歩回です。


第一章 公開恋文
ドールという仕事


 教会に探索に行った三日後。ゼミナール同期組で行くことになったフリューゲル=ドロッセル共和国への論文合宿まであと四日まで控えた日。クリムは、ある場所にいた。以前行けなかった郵便局の見た目をした小規模な博物館ではなく、もっと大規模な国立博物館。それは、

 

「ライデン郵便記念博物館ね…。この前行けなかったところ」

「ダメってわけじゃないけど、ここはドールの職業の歴史と、ドールが関与した世界の歴史も細かく情報化して保存してある。ここなら彼女についての情報もたくさんあるはず。…姉さんはなぜここに?」

「言ってなかったかしら。今日からドラマのクランクアップだって。私、警部役やるのよ!すごくない!?」

「あー…確かにミステリー系の撮影にもってこいの撮影スポットこの辺りだったね。」

 

 警部役なのか、スーツを身にまとっている姉のエドナが本当に偶然通りがかったそこは、ライデン郵便記念博物館。郵便、公共電波事業の歴史が詰まっている国立博物館であり、もちろんヴァイオレットをはじめとしたドールと呼ばれる代筆屋の歴史も事細かく情報が管理されている。

 

「で、姉さんは今丁度休憩がてらこっそり抜け出した感じだけど…そろそろ戻らないと怒られるんじゃない?」

 

 おそらく誰にも断りを入れずに抜け出してきたのであろうエドナにそう言うと、彼女は静かにデバイスを見る。

 

「いやー…一応、ロザリアさんには「ちょっと息抜きしてきなさい。私が言っておくから」と言われてここにいるんだけど…」

「ロザリアさんって、ロザリア・ブルーノ!?大物女優に気を使われるなって、一体どんなミスをしたの?」

「ミスはしてないわよ!」

 

 弟のかなり失礼な言葉に流石に姉は反論をする。しかしその後。

 

「まぁ、撮影機材が故障して少し撮影時間がストップしただけよ。でも、そろそろ戻るわ。頑張りなさいよー…」

 

 エドナが、そう言いながら手をふらふら振りながら撮影場所の方に戻る。

 

「…なんだったんだ?」

 

 と、嵐のように過ぎ去った姉に少し困惑しながらも博物館の入り口に足を向ける。

 

 博物館に入ってから、クリムが真っ先に足を運んだのは郵便の歴史の最初。つまりはヴァイオレットたちが活躍していた頃のコーナーである。

 

「歴史の授業ではさわり程度だったもんな。ドールの仕事って結局何だったのかなんて教わってなかったしな…」

 

 ライデンシャフトリヒの歴史教育において、旧石器時代から、現在に至るまでバランスよく教えられている。ただし、郵便の歴史、ひいてはドールの存在が注目されたのは、エドナが主役をやっていたヴァイオレット・エヴァ―ガーデンがドラマとして大ヒットしてから。それまでは、ドールという仕事は見向きもされなかったのである。しかし、100年程前の時代ではドールという職業は、女性にとっては特別だった。何故なら、

 

「そういえば、あの時代は…女性の社会進出がようやく始まった時代だったか。」

 

 その当時の女性の社会進出には数多な障壁が存在していた。法整備をしている現在においても、女性の社会的な立ち位置が平等とは言えない状態。その100年前のであるならさらに厳しいものになる。そんな封鎖的な状態のところに現れたのがドールと呼ばれる仕事。社会的な自立を求めた女性たちにとってはこれほど目的に沿った仕事は存在しなかっただろう。

 

「…なるほど、ドールが女性の社会進出の旗印だったんだな。そういや、タイプライターを打っている人って、決まって女性だよな。…資料室?」

 

 そう呟きながら、クリムが展示を眺めていると、突如として現れた文字。その奥にはおびただしい数の資料が並んでいる。

 

「ヴァイオレットに関するものとか眠っているかな?」

 

 そう思って、資料室に足を向けた。博物館の係員に許可をもらって、資料室の鍵を開ける。なんでも、資料の保存性の問題で一般的な公開はしていない。しかし、研究目的の閲覧であるならば許可がされるようで、ライデン国立大学の学生証を見せたらすぐに許可をもらって鍵を渡された。

 

「古めかしい資料もあるが、ここにあるのは殆ど電子化されているんだったな…」

 

 クリムは、係員から聞いた話を思い出しながら資料室の奥に進む。その先には、開いた所にたどり着き、おそらく資料室のデータを網羅しているだろうパソコンが鎮座していた。

 

「よし…やりますか」

 

 そう、気合を入れなおしてイスに座って電源を入れる。少しの時間をおいて起動してクリムはカーソルを動かす。そこには、寄贈されたドールによる代筆の手紙の数々が電子化してまとめられた。もちろん、かの有名な公開恋文や、ヴァイオレットが手掛けたことで有名な、自分亡き後に数十年の間娘の誕生日に届くようにした通称「マグノリアの手紙」も記録されている。

 

「情報の海というよりも、手紙の海だな…。これをかき集めてまとめるのにどれだけの労力が…ん?」

 

 おびただしい数のデータに唖然とするクリムだが、よく見ると所々で手紙ではないものが別枠で記録されているのを見つける。そのデータを閲覧しようと、クリックすると、

 

「これって…ガルダリクとの外交文書?まあ、ガルダリクはベルンに滅ぼされたから雑においていいのかも知れないが…なんでここ?」

 

 かつて、ライデンシャフトリヒが所属する南方の連合と、ガルダリクが率いる北方の連合との大戦争があった。血で血を洗う醜い戦場において、ヴァイオレットが英雄として活躍したことでも有名なのだが、この戦争の後にライデンシャフトリヒとガルダリクとの和平交渉、後に通商協定を締結させるまでに国交を回復させた。しかし、その通商条約の二年後に世界大戦が勃発。ベルン帝国の侵略に屈して、屈指の軍事力を誇っていたガルダリクは崩壊した。世界大戦終結後、帝国の支配から脱却したが元の鞘に戻らず。パリス、ヴィシー、ミクローシュの三か国に分裂。そして現在に至る。

 

「…あぁ、ガルダリクとの和平交渉はヴァイオレットを含めたC.H郵便社の面々が関わっていたんだっけ。しかし、通商条約の秘書もやっていたとは…ドールの仕事って代筆だけじゃないってことか。」

 

 そう呟きながら、クリムはデータの閲覧をする。ガルダリクとの和平交渉の秘書の名前が、カトレア・ボードレール。ヴァイオレット・エヴァ―ガーデンにおいて、ヴァイオレットの先輩にあたる凄腕のドールであったそうだ。彼女の秘書の仕事の他に、様々なドールが多様な仕事を請け負っていたことが伺える。

 

「…本当に、あの当時の字を扱えるスキルが稀少だったんだな。扶桑国は開国以前から識字率が80%くらいって聞くし…扶桑国にはドールっていう仕事は無かったよな。通信使はいたけど。」

 

 資料を漁りながら、改めて過去の識字率の低さに驚くと共に、文字を読める女性が如何に貴重な資源だったのかというのを改めて知った。

 

 資料室から出た後、ライデンシャフトリヒの郵便の歴史の資料を眺めてから、博物館を後にした。半ば缶詰のようなことをした後で、凝った体を解すように動かしていると、デバイスから軽快な音が鳴った。

 

「おう、デイビッド。論文の調子はどうだ?」

『あぁ、順調に進んでいる。で、来週の話は?』

「あぁ、ナオから連絡が来た。お前も来るんだろ?」

『まあな…』

 

 デバイス越しにどこか上の空のデイビッドの声が響く。クリムは、それを心配しつつも笑いながら、

 

「どうした?覇気がねーな。何?せっかくの夏だから告白しようっての?」

『あぁ…』

「そっかそっかー…遂にデイブにも春が…ん?」

 

 そのまま会話が流されそうになるところに、クリムが違和感を感じて会話を止める。そこから数瞬の間をおいて、

 

「…マジ?」

『マジ』

「差し支えなければ…誰?」

 

 少しデリケートながら、わずかに好奇心が勝ったクリムが、慎重に聞いてみた。当事者でもないのに、少し冷や汗をかいている。そこから少しの間を置いて、デイビッドが沈黙を破った。

 

『…今度の論文合宿で、ナオに告白しようと思う……』

 

 そう絞り出すような声に、クリムは確信した。彼にとって、公開恋文を巡るヴァイオレットの足跡を辿る目的に、もう一つ、少々厄介だが無視も出来ない課題が増えた…と




ようやく次からクリム以外のメンバーが本格的に出てきます。しかし、この先の事はまだプロットも出来ていないため更新まで時間がかかります…
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