ヴァイオレットの道行きークリム・アンデルセンの課題論文ー 作:あじたまんぼー
フリューゲル=ドロッセル共和国に論文合宿に向かう前日の夜。クリムは自室で荷物の確認をしていた。
「滞在期間は一週間。肌着は余裕を持って…あぁ、充電器と歯ブラシ忘れそうだったわ…」
荷物の確認をしながら、一週間分の荷物を詰めている。現在、家にいるのはクリムただ一人。姉のエドナはドラマの撮影で遠方に。父のフューリーは扶桑国での劇団の興行に向かっており長期出張中である。そんな一人きりの準備の最中。
「…」
突如、作業を止めてとあることを巡らす。これから向かう場所は、過去に戦争で対立していた場所でもあり、
「旧ヒュージの隣国…つまりは故郷の隣か。」
ニュースで報じられていることが事実であるなら。未だに、嘗ての故郷は戦争に怯える生活をしているはずである。クリムが四歳、そしてエドナが六歳の時にライデン市に流れ着いた頃に、ようやくヒュージ帝国を構成していたそれぞれの国が講和条約を結んでいる。現在のダガールは社会主義政党「ユリウス党」が一党独裁をしている「エパルタ人民共和国」が支配しているため、クリム達は戻ることも出来ない。最も、フューリーの養子に養子になったことで二人共ライデンシャフトリヒの国籍を得て帰化しているのだが。
二度目の戦争。世界大戦と呼ばれるこの戦いは、大陸全土のみならず、文字通り世界中を焼いた。メリン合衆国は扶桑国を。ベルン帝国は、「天民専制」思想の下多くの文化や人民を虐殺してきた。それも、アドルフ総統の荒唐無稽な思想故に。この狂気の帝国によって、ライデンシャフトリヒも大きな傷を負い、嘗て敵対していたガルダリク含めた北方の連合諸国が根こそぎ蹂躙された。そうして暴れ回った結果、戦争が終わった後に深刻な問題だけが残された。
「総統の忘れ物」と呼ばれたこの問題は、各地に散らばった不発弾、地雷。しかし、兵器の不法投棄だけならまだかわいいものだった。本当の問題は。民族同士で、宗教同士で、そしてイデオロギー同士での対立の表面化である。総統が残した火種は今尚燻り続け、民族同士の争いに。そして宗教同士の果ての無い対立が紛争として現れてしまった。そんな地獄の中で、クリムは榴弾を受けたのである。ダガール内戦は一年という長い間続いた後に、各武装勢力同士が停戦協定を結んで一時的な平和が訪れるも、静謐な平和がやってくるはずもなく、各地ではテロ事件も頻繁に起こっている。
その隣国に位置するフリューゲル=ドロッセル共和国はその境界線をしっかり守護している傍ら、連日やってくる密入国者の対処や、難民の保護に奔走しているようだ。中でも、人民共和国からの逃亡者が多く、故郷であるダガールは衰退の一途に向かっているそうである。
「…まぁ、扶桑国陸軍やブリテン連合王国の駐屯地もあるわけだし、治安的には問題ないだろうけど。」
それに加えて、今回向かう場所は、そんな境界線から離れた首都であるためそこまで心配することでもない。しかし、
「腐っても故郷だしなー…」
と、変わり果てた故郷に思いを馳せた後に、荷物の確認作業に戻る。そして荷造りをしながら、あることを思い出す。
「あー…クッソ面倒なものがあったわ…」
デイビッドの恋路の事である。自分の恋愛に興味がないクリムは、時折彼の恋愛相談を受けていたが、まさか好意の対象が奈緒だったのは予想外だったようで、大きなため息をつく。
「ポリシーとしては、組織内での恋愛とか気は乗らないんだよなー…破局した時が面倒だし。」
そう言って、ベッドに飛び乗る。そして再び深いため息をつく。
「そっかー、デイブがナオのことをねぇ…。俺言う程彼女の好みとか知らないんだけど。」
そう愚痴りながらため息を三度つくが、頭の中では思考を巡らせていた。他でもない友人の恋路である。相談された以上は適当なことはできない。
「さて、デートプランとやらを立案しておかないといけないよな。しかし、俺はナオのことをそこまで知らない。アイツとよく遊んでいる奴ってベルベットくらいだしなー……まてよー?」
あることを思いついて、デバイスを手に取る。
「ただ、これってデリケートなことだしなー…」
と、行動に移る前に躊躇をしたところで、デバイスが鳴った。
「おう、どうしたベルベット。あれか?誰かから恋愛相談を受けたのか?」
『……どうしてわかったの?』
「丁度俺も、ベルに相談しようか迷ってたところ。本当にいいタイミングだわ。この際、互いに情報交換しようや。」
その後、互いに恋愛の相談を受けた友人同士での恋愛成就の大作戦を夜更けまで対談をすることになる。
様々な想いと記憶が交錯する公開恋文編。
ようやく、次から本編スタートです。