このデジモンは一体何者なのか。
一方、幻想郷の迷いの竹林で生活する藤原妹紅。そんな妹紅の前に八雲紫が現れる。
幻想と電脳を結ぶ絆の物語がまた1つ語られる。
全てが天然自然によって構築されている上、自然を基盤に文明を高度に発達させた人間が生活を営んでいる現実世界。そのような現実世界とは対照的にありとあらゆるものが電子情報で構築された世界・デジタルワールドが存在する。
デジタルワールドのどこかに存在している空間。その最深部に空間の主であるゴッドドラモンは鎮座していた。ゴッドドラモンは今、デジタルワールドの各地域の様子を観察していた。どうやら、今日も問題はなさそうだ。
「ん?」
この時、自身のいる空間に生じた異変を察知するゴッドドラモン。何者かがゴッドドラモンのいる空間に侵入しようとしているのだ。
すると突然、黄金の粒子が舞う純白の空間に裂け目が生じる。純白の空間に生じた裂け目、空間の裂け目からは神聖なこの空間に似つかわしくない禍々しい無数の目玉が見えた。
やがて、この禍々しい空間の裂け目から何者かが姿を現す。神聖なる空間に生じた禍々しい裂け目から現れた者、それは道士服に身を包んだ金色の長い髪の女性であった。
「八雲紫か……ここに何の用だ?」
不思議な雰囲気を漂わせた女性の出現に対し、やや困惑気味の様子のゴッドドラモン。ゴッドドラモンはこの金色の髪の女性のことを知っていた。女性の名前は八雲紫、一見すると美しい人間の女性に見えるが、その正体は妖怪の賢者と呼ばれるスキマ妖怪である。
なお、ゴッドドラモンが守護するデジタルワールド、八雲紫が管理している幻想郷、両者の間に相互不干渉を提唱したのも他ならぬ紫である。
「少しばかり、世間話がしたくてお邪魔させていただきました」
そんな言葉と共に不適に笑ってみせる紫。そんな紫の笑みには胡散臭ささえ漂っていた。本心を見抜かれまいとする紫のいつもの癖である。
「デジタルワールド……しかも、この空間に入ってくるほどのことだ。世間話で済む話ではないだろう」
前置きを抜きにして話を先に進めようとするゴッドドラモン。本来、不干渉を取り決めている幻想郷からの、しかも、幻想郷の管理者の直々の来訪。余程の事態が起こっていると言っても過言ではなかった。
「え~こほん、それじゃ本題に移らせていただきますわ」
ゴッドドラモンの問いを聞いて軽く咳払いをする紫。その途端、紫の表情が一変する。いつもの胡散臭さは影を潜め、今までに真剣な表情をしている。そんな紫の姿は妖怪の賢者と呼ぶに相応しかった。
「実は先日、幻想郷周辺の巡視を行っていましたところ、私達で言うところの外の世界でもなければ、デジタルワールドでもない、ましてや我々の幻想郷でもない不思議な空間を見つけましたの」
「不思議な空間?」
「ええ……」
ゴッドドラモンの質問に対し、不思議な空間についての詳細を説明する紫。紫の話によれば、幻想郷を保護している博麗大結界の巡視を行っていたところ、結界の近辺で謎の空間を発見したのだ。
「一応、調査は行いましたが、何とも不思議な空間でしたわ」
「それでその空間の何が問題なのだ?」
単刀直入に空間の問題点を紫に聞くゴッドドラモン。もしも、紫が発見した空間に何の問題もなければ、わざわざ紫がゴッドドラモンのいる場所を訪ねてくるはずがなかった。
「ええ、私が発見した空間で1体の怪物を発見しましたの」
「怪物?」
「はい。しかも、その怪物、私が知っている情報と照合したところ、デジタルワールドのデジモンであることが判明しましたわ」
「何だと!?」
紫の口から告げられる事実に驚きを隠せないゴッドドラモン。デジタルワールドでもない場所に何故、デジモンが存在しているのだろうか。しかし、紫の話はこれで終わらなかった。
「しかも、そのデジモンは私が見たところゴッドドラモン、貴方に匹敵する実力を持っていると考えられますわ。その上、そのデジモンがいる空間は極めて不安定、いつ破壊されてもおかしくない状況ですわ」
「もしも、そのような事態になれば……」
神のような知識と演算能力で起こりうる未来事象を予測するゴッドドラモン。強大な力を持ったデジモンが今いる空間を破壊すれば、その余波が現実世界、デジタルワールド、幻想郷にも押し寄せることになるだろう。
もしも、そんなことになれば、デジタルワールド、幻想郷、2つの世界の基点となっている現実世界、3つの世界に甚大な被害が発生する恐れがあった。
「そこでゴッドドラモン、お願いがあります。これから、我々はその空間に潜むデジモンを討伐しようと考えております。心苦しいですが、どうかお許しのほどを願いたいのです」
「許すも何もこれは非常事態だ。私も力を貸そう」
「いいえ、それには及びません。こちらが派遣するのは屈強の手練ですし、私も現場に立ち会うつもりですわ」
そう言った後、ゴッドドラモンに深々とお辞儀をする紫。そして、紫は自身の目の前にスキマと呼ばれる空間の裂け目を発生させる。事態はゴッドドラモンが想定している以上に切迫しているようだ。
「もしも、何かあった時、連絡をさせていただきますが、よろしいでしょうか?」
「ああ、それで構わない。十分に気をつけてくれ」
ゴッドドラモンから承認を受けた後、自身が展開したスキマの中に入っていく紫。そんな紫の帰っていく様子を後方からゴッドドラモンは見守っていた。
高度な文明を築いた人間が暮らす現実世界とは博麗大結界と呼ばれる強固な結界で隔離された幻想郷。そのような幻想郷はある意味において、デジタルワールドと対極的な世界とも言えた。
そのような幻想郷に迷いの竹林と呼ばれる場所がある。迷いの竹林とはその名のとおり、人が足を踏み入れれば、方向を把握することができずに迷い込んでしまう竹林である。なお、そのような迷いの竹林には永遠亭と呼ばれる医療施設があると言われている。
そうした性質を持つ迷いの竹林の中、1軒の古びた家があった。そんな家に1人の少女が住んでいた。
家の主である少女の名前は藤原妹紅。普段は迷いの竹林で迷い込んだ人間の道案内をしている、そして今、妹紅は居間で昼寝をしていた。
「ふわあぁぁ~!」
大きな欠伸をして布団の中から起き上がる妹紅。そして、起き上がった妹紅は床に敷いていた布団を片付ける。
さて、これからどうしたものか、妹紅がそのようなことを考えている時であった。突然、妹紅の前に空間の裂け目が現れる。
「あら、御機嫌よう」
スキマの中から現れた者、それは幻想郷の管理人である紫であった。
すると、妹紅の目の前で正座を始める紫。そんな礼儀正しい紫を目の当たりにして、反射的に妹紅もその場で正座をしてしまう。
「貴方、これから何か予定はあるかしら?」
「別にないけれど?それがどうしたっていうのよ?」
紫の問いに対して素直に答える妹紅。確かに今日は特にこれといって用事はない。
「貴方に頼みたいことがあるの?」
「頼みたいこと?」
「ええ、そう。貴方にある怪物を退治して欲しいの」
単刀直入に話を切り出す紫。弾幕ごっこが制定される以前、妖怪を退治してきた妹紅であれば、戦闘に特化したデジモンにも対応することができるだろうと考えたのだ。
「このことを博麗の巫女は知っているの?」
「いいえ、知らないわ。そもそも、このことは霊夢が知るべきことではないもの」
「(霊夢に知らせないなんて、どういうつもりなの?)」
紫の返答に引っかかりを覚える妹紅。博麗の巫女の博麗霊夢と言えば、博麗大結界を管理する重要人物である。大袈裟な言い方をすれば、霊夢は幻想郷においても必要不可欠な存在と呼んでも過言ではなかった。
そもそも、妖怪退治や怪物退治の類は霊夢、もしくは守矢神社で風祝を務めている東風谷早苗の専門分野であった。しかし、紫は霊夢や早苗ではなく、あえて妹紅に怪物退治を依頼したのだ。
「分かったわ。その依頼、やってみるわ」
紫からの依頼を受け入れる妹紅。八雲紫が一体何を企んでいるのか、その真意は分からない。だが、妖怪の賢者が直々に頼み込んでくることは余程の理由があるのだろう。紅妹は直感的にそう感じたのだ。
「ふふふ、有り難う。やっぱり、優しいのね」
妹紅の心意気に感謝の意を述べる紫。立ち振る舞いこそ大仰で胡散臭さを感じさせるものの、感謝の言葉に込められた想いは極めて真摯なものであった。
「あまり時間をかけられないの。今から付いてきてくれる?」
「ええ」
妹紅の承諾を得た後、紫は自身の片手を素早く掲げる。次の瞬間、紫と妹紅の目の前にはスキマと呼ばれる空間の裂け目が展開される。
「さあ、中に入って頂戴」
「分かったわ」
紫に続いて妹紅もスキマの中に入る。このようにして、八雲紫と藤原妹紅は謎の怪物を討伐するために出陣するのであった。
紫のスキマの中に入ってからどのぐらいの時間が経過したのだろうか。気がつけば、藤原妹紅の目の前には砂の海が広がっていた。
「見渡す限り砂だらけ……何とも殺風景な光景なの?」
妹紅は口から目の前の光景に対する率直な第一印象を漏らす。何とも味気なく、無味乾燥の空間が広がっているだけと言っても過言ではなかった。
「ええ、貴方の言うとおりね」
すぐ近くで聞き覚えのある声が聞こえてくる。気がつけば、妹紅のすぐ傍には紫の姿があった。
「ゆ、紫、どうして?」
突然の紫の登場に驚きを隠せない妹紅。まさか、紫がここまで同行するとは思っていたからだ。
「私は幻想郷の管理人。そして、ここは幻想郷ではないわ。ここで怪物退治を貴方に依頼する以上、私には最初から最後まで立ち会う義務があるわ」
意外そうな表情をしている妹紅に対し、母親が娘を諭すようにして語る紫。紫は幻想郷の管理者として、妹紅に依頼した仕事を見守る義務があると考えていたのだ。
「そうなの。でもま、私1人で十分なところを見せてあげるわ」
紫に対して強気の発言をする妹紅。しかし、憎まれ口とは裏腹に妹紅は頼もしさを感じていた。
しばらくの間、目の前に広がっている砂の海を行進している紅妹と紫。しかし、歩けど歩けども目の前に広がるものは砂の海である。一体どこまで続いているのだろうか。
「(本当にこんな場所に怪物なんているのかしら?)」
本当にこんな何もない場所に怪物はいるのだろうか、次第に妹紅はそのような疑念を抱くようになる。そうした時であった。
「うっ!?」
「っ!?」
突然、強烈な勢いで吹き付けてくる高温の突風、何とかして凌ぎ切る妹紅と紫。だが、並大抵の生物であれば、身体の水分が一気に蒸発してしまうほどの熱量である。
気がつけば、目の前には1体の怪物の姿があった。妹紅と紫の前に出現した怪物、それは全身を黄金の鎧で身を固めた巨大な鳥であった。
「私の名前はクロスモン、お前達がこの空間に入り込んだ異物か?」
自らをデジモンのクロスモンと名乗る黄金の巨鳥。このデジモンの名前はクロスモン、成長段階は究極体であり、サイボーグ型デジモンである。
「紫、あれが……?」
「ええ、そうよ」
妹紅の質問にそう答える紫。どうやら、クロスモンと言う巨大な鳥の怪物を倒すこと、それこそが紫から与えられた自身の役目であることを妹紅は悟る。
「異物だか何だかよく分からないけど、急に攻撃を仕掛けてくるなんて良い度胸してるわ」
そう言った後、すぐに身構える妹紅。妹紅には既にクロスモンとの戦闘を始める準備ができていた。
「むっ!やる気か……よかろう!来い!!」
妹紅と同様、クロスモンもまた戦闘態勢を整える。こうして、不思議な空間の中、幻想郷の住人である藤原妹紅、デジタルワールドの怪物であるクロスモンの戦闘が開始されるのであった。
開始された藤原妹紅とクロスモンとの戦闘。お互いに睨み合いによる鍔迫り合いを続けている両者。戦闘を見守っている紫もまた、妹紅とクロスモンの殺気を感じ取っていた。そうした最中、不意に紅妹の方が動いた。
「いくわよ!!」
そう叫んだ瞬間、掌から無数の炎の弾を発射する妹紅。何も難しく考えることはない。思いっきりの攻撃を敵にぶつけて撃破すれば済むだけの話である。そして、妹紅がクロスモンに向かって発射した無数の炎の弾、それはまさしく華麗で美しく炎の弾幕と呼ぶに相応しかった。
「……」
妹紅が発動した炎の弾幕を全身に受けるクロスモン。そんなクロスモンの姿はまるで妹紅の攻撃を真正面から受けて立つと言わんばかりの態度であった。
「……」
黙ったまま様子を見守っている妹紅。妹紅はクロスモンの行動に違和感を覚えていた。クロスモンほどの機動力の持ち主であれば、回避行動を行うことはできたはずだからだ。
その後、妹紅の炎の弾がクロスモンに着弾した瞬間、大規模な爆発が起こった上、同時に周囲からは煙が発生する。
「この程度か?」
やがて、爆炎と煙が消失していく中で何者かが現れる。爆炎と煙の中から姿を現した者、それは妹紅の攻撃を耐え抜いたクロスモンであった。しかも、クロスモンの身体は全く無傷の状態であった。
「な、何て奴なの!?」
炎の弾幕が効かなかったことに驚く妹紅。この時、妹紅は何故、紫が自分を指名した理由を悟った。現在の幻想郷ではスペルカードルールによる弾幕ごっこが定着しており、人と妖の間で争いが生じた際の解決手段として用いられている。
だが、クロスモンのようなデジモンにはスペルカードルールという概念が存在しない。もし仮にスペルカードルールの感覚で戦えば、逆にこちらがクロスモンに後れを取る可能性さえあった。
「今度はこちらから行くぞ!」
そう宣言した瞬間、両翼を大きく展開するクロスモン。そして、クロスモンはそのまま妹紅に向かって電光石火の勢いで突撃を仕掛ける。
「カイザーフェニックス!!」
やがて、クロスモンの身体は真紅の炎に包まれる。その姿はまさに不死鳥と呼ぶに相応しかった。そして、真紅の炎に包まれたクロスモンの突撃は妹紅の身体を焼く。
カイザーフェニックスが決まった後、対戦相手の妹紅の様子を確認するクロスモン。相手の敗北を確認しなければ、戦闘に勝利したとは言えないと考えているからだ。
「やったか……?」
妹紅の現状を確認して呟くクロスモン。衣服はボロボロに破れ、全身には酷い火傷を負っている。通常の人間であれば、死んでいるか、運が良くでも瀕死の重症だ。
妹紅の絶命を確信した上、今度は紫の方に視線を向けるクロスモン。その時であった。
「や、やってないわよ」
「何っ!?」
呻き声を上げながらも立ち上がる妹紅。予想外の妹紅の生存に驚きを隠せないクロスモン。
しかも、妹紅の姿をよく見ると、ボロボロに破れていたはずの服は元通りになっており、全身に負った火傷も徐々に塞がっている。
「これは一体?」
「残念だけど、私は不老不死なの?文字どおりね」
クロスモンの質問にそう答える妹紅。今から何百年以上も前、誤って蓬莱の薬を服用した妹紅。その結果、妹紅は不老不死の肉体を持つ蓬莱人となってしまったのだ。
蓬莱人となった妹紅は文字どおり、不老不死の肉体を持つことになった。老いもしなければ死ぬこともない。傷を受ければ肉体は再生するようになったのだ。
但し、不老不死といえども無敵ではない。飢えや渇きも感じる。その辺は普通の人間と何ら変わりがなかった。
「面白い!今度こそ完全に消滅させてやる!!」
「それはこっちの台詞よ!」
そんな言葉と共にクロスモンと妹紅はそれぞれ闘志を高める。クロスモン、妹紅の両者の間に発生する闘気は高熱の炎となり、大気を揺るがせて大地を焦がしていく。
それからしばらくの間、紅妹とクロスモンの果てしない戦闘が続く。それはまさしく己の肉体と精神と生命力を削った消耗戦に他ならなかった。
「ふぅふぅ……」
苦しげな表情と共に呼吸を荒くしている妹紅。不老不死の身体を持っているとはいえ、戦いによる傷が妹紅の身体を苛み、精神力も尽きようとしていた。
「はぁはぁ……」
長引く戦闘で同じく呼吸を荒くしているクロスモン。強固な防御力を持つ鎧は所々が破損しており、クロスモン自身の体力も限界に近づいていた。
お互いに対戦相手を見据えている妹紅とクロスモン。次の一撃で全てが決まる。妹紅とクロスモンの両者はそのように判断していた。
「やああああああっ!!」
自身の身体を紅蓮の炎で包み込み、クロスモンに突進する妹紅。極めて高い機動力と防御力を持ったクロスモンに打ち勝つにはこれしかない。
「おおおおおおおっ!!」
同じく全質量を乗せた上、妹紅に向かって突撃するクロスモン。勝負を決める算段でいた。
「待ちなさい!!」
その時であった。これまで戦闘を見守っていた紫による制止の声が響き渡る。突然の制止の言葉により、妹紅とクロスモンの動きはピタリと止まる。
「邪魔しないでよ!」
「邪魔をするな!」
激しい戦闘で気分が昂ぶっているためか、戦いに水を差された妹紅とクロスモンは紫に怒りの矛先を向ける。だが、紫は動じることはなかった。
「……可哀想な子。時空の流れに翻弄されて居場所を失くしてしまったのね」
そう言った後、クロスモンの方に視線を向ける紫。クロスモンに対する憐憫の念で一杯であった。
「紫、それはどういうこと?」
「口で説明するよりも実際に見た方が早いわ」
妹紅の問いに素っ気無く答えた後、自身の能力を発動させる紫。境界を操る程度の能力、それが紫のスキマ妖怪としての固有の能力である。そして、紫は妹紅の視覚の境界を操作することにより、ある映像を妹紅に見せていた。
「こ、これは!?」
驚きの声を上げる妹紅。今、妹紅の目の前には不思議な映像が映し出されていた。そして、同時に妹紅はこの映像の正体がクロスモンの過去の記憶であることを理解した。
今から何年も前の話、東京と呼ばれる現実世界の大都市において2体のデジモンが戦闘を繰り広げていた。
1体目のデジモンについてであるが、派手な体色をしたオウムのような姿をしている。このデジモンの名前はパロットモン、完全体の巨鳥型デジモンである。
2体目のデジモンについてであるが、外殻に覆われた恐竜のような姿をしている。このデジモンの名前はグレイモン、成熟期の恐竜型デジモンである。
現実世界の東京の市街地で激しい戦いを展開するグレイモンとパロットモン。やがて、戦いの中で生じた爆発に飲み込まれ、グレイモントとパロットモンの2体のデジモンはその場から消失してしまう。
余談であるが、デジモン達の戦闘によって生じた被害は爆弾テロによるものとされ、真実を知る人間は極僅かであった。そしてまた、被害の受けた近辺で暮らしていた住人の一部は新興都市のお台場に移住することになった。
デジモンによって引き起こされた事件、この事件によって新興都市のお台場に人口流入が起こり、経済発展を支える土台が出来上がったことはまさに皮肉としか言い様がなかった。
故郷であるデジタルワールド、そして現実世界から追放された2体のデジモン。彼等は2体分のデジモンの魂(=デジコア)を結合させることにより、1体のデジモンとして生き残ることを選択した。
パロットモンとグレイモンの2体のデジモンが両者のデータを結合させた結果、世界の狭間で誕生したのが目の前のクロスモンであったのだ。
「酷い……酷過ぎる」
クロスモンが辿ってきた運命を目の当たりにして、思わずそのような言葉を漏らす妹紅。同時に戦闘意欲も失われていた。
目の前のデジモンもまた自分と同じなのだ。運命の波という抗いようのない存在に翻弄され続けてきたのだ。そんなクロスモンの生い立ちと歩んできた足跡を知り、妹紅は戦う意欲を完全に放棄していた。
「な、何……!?」
妹紅の動きに引っかかるものを感じ、動きを止めてしまうクロスモン。この時、クロスモンは紅妹から雫が零れ落ちるのを見た。
「(まさか、こいつ……泣いているのか?)」
自分のために涙を流している妹紅に愕然とするクロスモン。今の今までクロスモンは1人だと思っていた。誰も理解してくれる者などいないと考えていた。
「もう、やめましょう。ずっと1人だったのね……孤独だったのね。そんな貴方と戦うことなんて私にはできないわよ」
目の前の相手に自身の想いをぶちまける妹紅。真実を知った今、最早、クロスモンと戦う理由などなかった。
「わ、分かった……」
妹紅の真意を知り、クロスモンもまた矛を収める。妹紅とクロスモンの身を焦がすような戦闘、それはお互いの戦意喪失という形で沈静化したのであった。
「喧嘩はもういいかしら?」
そうした最中、妹紅とクロスモンの間に割って入る紫。両者の間に割って入った紫はとても満足そうな表情をしている。
「紫、一体何を……?」
「何をするつもりだ?」
それぞれ紫に質問をする妹紅とクロスモン。これから、紫は一体何をしようとしているのだろうか。
「ゴッドドラモン様、よろしいでしょうか!?」
紫は宙を仰いだ後、大きな声で誰かに呼びかける。次の瞬間、この不安定な空間の中に黄金の閃光が走る。
やがて閃光が消失した後、紫・妹紅・クロスモンの前にはゴッドドラモンの姿があった。紫の呼びかけに感応したゴッドドラモンは自身の空間から転移、紫達がいる空間に急いで駆けつけたのであった。
「お前がクロスモンか……」
一瞬の間で不安定な空間に出現したゴッドドラモン。黄金の巨体、荘厳なる気配、全身から発せられる威光、まさにデジタルワールドの守護者と呼ぶに相応しかった。
「は、はい」
ゴッドドラモンの問いに対して、今までとは打って変わり、素直に返事をするクロスモン。進化レベルこそ自身と同等であるが、あらゆる面においてゴッドドラモンの方が圧倒的に格が上であった。
「早速だが、デジタルワールドに戻らないか?」
「えっ!?」
予想もしなかったゴッドドラモンからの誘い。その誘いにクロスモンは驚きを隠せなかった。だが、デジタルワールドへの帰還、それはクロスモンが最も望んでいることであった。
「クロスモン、お前には素質がある。だが、まだまだ未熟で学ぶべきことも多い。だから、しばらくの間、修行をしてデジタルワールドの守護者となって欲しい」
「……」
ゴッドドラモンの周囲からは今、只ならぬ気配が発せられている。一方、ゴッドドラモンの話を黙って聞いているクロスモン。それほどまでに重要な話であるのだ。
「これはクロスモン、お前だけでなく、デジタルワールド全体にも関わってくることだ。否か応か性根を据えて返事をして欲しい」
「……分かりました。やります。いえ、やらせてください!!」
ゴッドドラモンの要請に力強い口調で返事をするクロスモン。たった今、クロスモンは数奇な道を辿ってきた過去を振り切り、デジタルワールドの守護者になる道を選択した瞬間であった。
「では、戻るぞ」
「はい」
すると、ゴッドドラモンとクロスモンの身体から閃光が発せたれたかと思うと、次の瞬間には完全に姿を消してしまっていた。彼等はデジタルワールドに帰還したのだろう。
デジモン達が自分達の世界に帰還した今、その場には今回の騒動を解決した妹紅と紫が残されていた。
「……これで良かったのよ」
ゴッドドラモンとクロスモンを見送った後、満足そうな笑みを浮かべている紫。まるで最初からこのような結末を迎えることを予測していたかのようだ。
「ええ、そう思うわ」
同じように紅妹も満足そうな表情をしていた。結局、紫からの依頼は果たせなかったが、この結末に妹紅は満足していた。
「さあ、帰るわよ。私達の幻想郷へ」
そう言った後、紫はスキマを展開させると、すぐにその中に入ってしまう。このようにして、妹紅と紫は幻想郷に帰還するのであった。
余談であるが、クロスモンがいた空間は主であるクロスモンがデジタルワールドに帰還したことで消滅した。そして、残った空間の残滓については、デジタルワールドの守護者の一員となったクロスモンの手で再活用されることになった。
「はっ!?」
気がつけば、幻想郷に戻った妹紅は自宅の居間の中にいた。紫に姿も見当たらない。現実感がまるで伴わなかったこれまでの出来事、今まで白昼夢を見ていたかのようにさえ思える。
「うっ!」
この時、身体中に痛みを感じる妹紅。クロスモンとの戦闘で生じた傷の痛みだ。夢のような出来事であったが、この痛みが実際に起こった出来事であることを教えてくれていた。そうした中、何者かが妹紅の家を訪ねてくる。
すぐに玄関に向かう妹紅。すると、そこには1人の女性が立っていた。変わった形の帽子を被り、蒼い衣装に身を包んだ長髪の女性。この女性は上白沢慧音、幻想郷の人里で寺子屋を開いており、妹紅にとっては親友とも呼べる存在であった。
「お邪魔するぞ」
「ええ、上がって」
そう言った後、慧音を玄関から上がらせて家の居間に案内する妹紅。その時、慧音は妹紅の様子がいつもと違うことに気がついた。
「妹紅、どうかしたのか?様子が変だぞ?」
心配そうな表情で妹紅に尋ねる慧音。妹紅に何かあったのだろうか、慧音は心配で仕方がなかった、
「あ、いや、別に大したことじゃないんだけど」
「良かったら、私に話してくれないか?」
「……その前にこれから私の話すことを全て信じてくれるかな?そして、私が話したことは全て秘密にしてくれないかな?」
「ああ、勿論だ」
妹紅の念押しの言葉にニッコリと笑って答えてみせる慧音。友人の妹紅の頼みであれば、慧音は快く受け入れるつもりでいた。
「こほん……さて、どこから話そうかな」
軽く咳払いした後、自身が経験したことを語り始める妹紅。藤原妹紅が語る経験談、それは幻想の歴史に残すことができないものであった。だが、世界を越えた絆の物語は妹紅の中で確かに存在していた。
了
補足
名前:クロスモン
種族:サイボーグ型デジモン
属性:ワクチン
進化レベル:究極体
必殺技:カイザーフェニックス
全身を黄金の鎧に包んだ巨鳥のような姿をした究極体のサイボーグ型デジモン。全身を覆う鎧はクロンデジゾイド製であるため、並大抵の攻撃を無効化してしまうほどの防御力を持っている。このデジモンについては不明な点が多く、デジタルワールドに入り込んだ異物を消去するのが役目とも言われている。必殺技は強靭な身体を活かして突撃する「カイザーフェニックス」
名前:パロットモン
種族:巨鳥型デジモン
属性:ワクチン
進化レベル:完全体
必殺技:ミョルニルサンダー
オウムのような姿をした完全体の巨鳥型デジモン。このデジモンについては不明な点が多く、別の次元から迷い込んだ存在とも言われている。敵を見つけると足の鋭利な爪で容赦のない攻撃を仕掛けてくる。必殺技は敵に強烈な雷を落とす「ミョルニルサンダー」
名前:グレイモン
種族:恐竜型デジモン
属性:ワクチン
進化レベル:成熟期
必殺技:メガフレイム
黄色い恐竜のような姿をした成熟期の恐竜型デジモン。頭の部分が固い殻で覆われており、高い攻撃力と防御力を持っている。その他にも鋭い爪と牙を持っている。また知性も高いため集団戦を行うことも可能である。必殺技は口から高熱の火炎を吐き出して攻撃する「メガフレイム」
名前:ゴッドドラモン
種族:聖竜型デジモン
属性:ワクチン
進化レベル:究極体
必殺技:ゴッドフレイム
黄金色に煌めく身体を持った究極体の聖竜型デジモン。デジタルワールドの神聖デジモンの中でも高位の存在に位置しており、全身からは神々しいオーラが発せられている。左腕と右腕にそれぞれ龍のデジモンを隠し持っている。デジタルワールドから集めた気のエネルギーを一気に炸裂させる「ゴッドフレイム」
お世話になります。疾風のナイトです。
今回の話ですが、劇場版「デジモンアドベンチャー」にグレイモンとパロットモンが登場しました。その後、グレイモンとパロットモンの行方を妄想して、今回の話を創作しました。
今回の話では妹紅が主役を張っていました。色々と理由をこねくり回していますが、同じ不死鳥繋がりというのもあります。
今回の話を読んでいただき、本当にありがとうございました!
これから先、皆様に楽しい作品をお届けできるよう、努力していきたいと思います。