まずはシャングリラ・ナラティブ第1話をお読み頂きありがとうございました。独特な世界観になりますが読んで頂いていると思うと非常にありがたいです。それでは第2話をお楽しみ下さい。
ノードがボートを走らせること約30分。二人は街にたどり着つく。
トシュ達は小休憩がてらに、ハンバーガー屋に入り席を取った。
「どうだ、ノード。有益な情報はあったか?」
「うーん……いくらなんでも多すぎますね」
ノードは小型端末を使いながら、情報を捜索する。目的は勿論ノヴァの情報だ。荒廃前に構築されたネットワークは今なお存在しており、何者かの手によって運営されている。
もっとも、疑問に思った者はいても誰も正体を探ろうとはしない。
ただ使えればよいのだから。
「さっきまでトシュ様がいたような遺跡にある噂、ノヴァはとある山の頂きにある噂……」
「んな……。似たようなばっかじゃねぇか」
「そうなんですよ。中にはノヴァのカード自体が世界を巡っているってものもありますからね。信憑性が薄すぎますよ……」
「そりゃ俺でも絶対無いと思うぜ……」
突拍子のない噂が大量に流れている現状。
その真偽を確かめるのは実際に行かなくては分からない。
ノヴァのカードを見つける困難さを体現していた。
「とりあえずノードも何か腹に入れとけよ」
「分かりました。これも楽しみですしね」
トシュとノードは前もって注文していたハンバーガーを豪快に頬張り、腹の中に食べ物を押し込む。進化した生命体であるオーヴァーに本来は食事等を必要としないのだが、
進化する前と変わった事があるといえば生命維持の為の食事ではなく、嗜好・娯楽の為の食事といえよう。
数分後、食べ終わった彼らは店を後にする。
「ごちそうさん!美味かったぜ!」
「それはありがたいな。また来てくれると嬉しいぞ」
この店の店長らしい人物がグラスを拭きながら、応答する。
この男もまたオーヴァーなのだが、彼の趣味で店を経営している。
もしかしたら彼は
「……『また来てくれると嬉しい』か。ここのバーガーも美味いしな、また食いに来たいよな」
「トシュ様……」
「その為にもノヴァは絶対見つける。俺がアイツらと
彼女の瞼を閉じると思い出す。
燃え盛る炎と虐殺が行われたあの日をー。
数年前。彼女の仲間が形成した集落。
慎ましくも幸せである穏やかな日々が永遠に続くと思っていたあの頃。絶望が彼女に襲いかかった。
「やっちまいなぁ!テメェら!」
「おう!」
獣人タイプのオーヴァーだった。
彼らはここら一帯を支配しようとする徒党。
この世界の快楽を貪りつくそうとする者達だった。
「女は子供を連れて逃げろ!」
「貴方!行かないで!」
「クソっ!村に火をつけられた!」
「お前、綺麗だな!俺が娶ってやるよ!」
「きゃああああ!助けてぇ!」
「俺のアンナにぃ!」
村は一種の地獄と化した。
獣人は手に持つ武器で村人を一刺しする。男性のオーヴァーから溢れ出る血とコア。それを獣人は口へと入れてゆく。
オーヴァーが自身のコアを回復する唯一の方法。
それは
彼らのような集団によって同じ種族からコアを略奪する行為が横行していた。理想郷という名前の世界とはかけ離れた卑劣な行為だ。
しかし、それらを行う者がいるのもオーヴァーの背負うべき宿命というべきかもしれない。
そして、村はことごとく焼き尽くされた。
男は問答無用でコアを奪われ、消滅。女は襲ってきた獣人達の快楽に消費され、最終的には男性達と同じ末路を辿った。
ただ一人、地獄を生き残こった少女は絶望を感じた。
何故自分はただ一人生き残ったのか。家族や村の仲間は消えなくてはならなかったのか。何も出来なかった。
少女はその感情をどこにも向かわせることが出来ない。
(なんでわたしはいきているんだろう)
からっぽのこころ。
満たされていたものは失われ、存在するのは空虚のみ。このまま朽ちていくだけの存在になると彼女自身もどこかで分かっていた。
(ああ……。わたし、なにもせずに消えちゃうんだ……)
孤独では何も満たされない。何をしても楽しくない。たった一人で何が出来るのだろう。
「なんで」という疑問は尽きない。
そんな時、何かが近づいてくる足音がした。
恐怖を感じた彼女は急いで物陰に隠れることにした。
「……こりゃひでぇな」
「誰もいないっすね……。こりゃ、アイツらの仕業ですよ」
「ヤツらは中々の過激派だったからな。避けてきたが俺らもこうなってたのかもしれねぇ」
声を上げるのはかつて闘神とよばれていたスピリット達に近い肉体をした男。
白く長い顎髭を伸ばし、左眼は眼帯で覆い隠されている。
彼に付き添う男も鍛え上げられた成果なのか筋肉が非常に多いオーヴァーだった。
「とりあえず少し休憩していくか……」
男は焼け落ちた木の上に腰を降ろす。
そんな彼らを見た彼女は恐れることなく、近づいてゆく。見ず知らずの人物は自分の村を襲った人物達と同じ事をするかもしれなかった。それにも関わらず、少女は恐れを感じていなかった。
歩みを止めることなく、彼女は男の前に姿を表す。
「……つれてって」
「何だお前は」
「……ひとりぼっちはイヤ」
今にも泣きそうな感情を我慢して、男に顔を見せる。
彼女自身は気づいていなかったが、その眼からは涙が零れていた。
「船長、もしかして……」
「この村の生き残りかもしれねぇな。……嬢ちゃん、俺らの旅は厳しいぜ。それでも来れんのか?」
「……いきたい」
「そうか。じゃあ乗ってけ。俺たちの船へ」
その言葉を聞いた瞬間。涙は笑顔へと変わる。
「うん……!」
「ところで名前は何ていうんだ?」
男の部下が少女に尋ねる。
「……わかんない。なまえなんて忘れちゃった」
「オイオイ……。どうします、船長」
「俺がつけりゃいいんだよ。トシュ・ハマーだ。俺らの仲間になったからにはハマーも名乗って貰うぜ」
「トシュ……ハマー……?これがわたしの名前?」
「いくぜ、トシュ」
こうしてトシュ・ハマーというオーヴァーは生まれた。
トシュが乗ったのはハマー海賊団。
ヴァイン・ハマー船長を筆頭とし、荒廃したスピリット・シャングリラに自由と浪漫を求める男達の船だった。
人見知りの彼女だったが、彼らの生活に馴染んでゆくうちに仲間達と打ち解けていった。
時が経ち、成長したトシュの姿は村で拾われた時と打って変わって、海賊らしい活発な女性となっていた。
ある日、トシュはヴァインにこんな質問をしたことがある。
「なぁ、船長ってどうして旅をしてるんだ?自由と浪漫ってやつ?それは分かり始めたんだけど……」
「ん?……ああ、まだ話した事無かったな。俺は世界中に散らばったお宝を集めるためだ」
「散らばったお宝って俺らが持ってる本みたいな?」
「それもお宝だな。ネットワークって奴が出来ちまってからいつしか紙の本っていうのは姿を消しちまってな。恐らくだが、こんなに本を持ってるヤツらは他にゃ居ねぇよ」
船長の言う通り、彼の船に所蔵しているものは数度の世界の衰退をくぐり抜けてきた書物。
今はもう作られる事のない紙の本ということもあり、この世界でも古書マニアと呼ばれるオーヴァーが存在している。
「特に古書マニアっていうのは居ること自体が珍しいんだが、そいつらが一生を賭けてでも手に入れたいって本が俺ん所にはあるらしい。確か、『異界見聞録』とか言ったか」
「へーっ。本はよく分かんねぇけど、すっげぇお宝ってのは分かったよ」
「他にもあるぜ。俺が一生を賭けて欲しいお宝が2つあんだ。1つはポセイドンの秘宝だな」
「ポセイドン?」
「エラい昔に
「ん?……って船長、その槍持ってんじゃねぇか!」
トシュが振り向くと、そこには1本の巨大な槍が見える。誇らしげに飾られているのはかつて
スピリット・シャングリラではその名はもう残ってはいないが時間が過ぎてなお、その槍の存在感は大きなものだった。
「ハハハハハハ!!そういえば手に入れちまってたなぁ!」
「ったく、忘れんなよ!」
「ハハハ!それにポセイドンに関係する神海賊団っていうのに憧れてな、俺は海賊を始めたって訳だ」
この海賊団のルーツとなったのはかつて神海賊団と呼ばれたスピリット達。
ヴァインの憧れであり、目標。
彼らを尊敬して海賊を始めたと語るヴァインの目は輝いていた。
「そしてもう1つ。ノヴァのカードだ」
「ノヴァ……」
「そう。ノヴァ伝説ぐらいお前も聞いた事があるはずだ」
「確か持っている者に永遠のコアをもたらす存在……だっけ?」
「俺達はオーヴァーだ。進化の代償にコアを日に日に消費しちまう。だが、ノヴァのカードさえあれば俺達は永遠にお宝探しを続ける事が出来るって訳だ」
「俺達って言うけどノヴァは1人しかコアを与えてくれないと思うぜ?」
「そんなもん皆で使い回せばいいだろよ」
「そんなのアリかよ!?」
「ハハハハ!そう思えばそうじゃないか?さぁ、いくぞテメェら!次のお宝探しに出航だ!」
「おう!」
…様。トシュ様!
「トシュ様!」
「うわぁっ!?」
「大丈夫ですか…?」
「あー、悪ィ。ちょっと考え事しててな。」
(また思い出しちまったか……)
再び思い出すヴァイン・ハマーとの記憶。
彼の仲間となったトシュは楽しい日々を過ごしていた。家族や仲間を失った喪失感は徐々に満たされてゆき、彼女の生活は幸福に満ちたものとなった。この幸せがずっと続けば良いと彼女は願っていた。
だが、ノヴァを探し続けて一緒に世界を巡った彼も数年前に消滅した。
「船長!大丈夫か!?」
「……悪いな。俺のコアが尽きちまったようでよ」
ヴァインの薄れていく身体。身体の一部は少しずつ光の粒子となって天に登ってゆく。
「トシュ……俺の手に入れられなかったノヴァのカードを探してくれ……。仲間を、この海賊団を頼んだぞ……」
「船長!オイ!消えるなよ!」
「俺の1番のお宝……それはお前だったのかもしれないな、トシュ」
散り際だというのにその笑顔はどんなお宝を手に入れた時の彼の表情よりも眩しかった。その場に残るのは彼の身につけていた眼帯のみ。
それが彼自身がこの世界に生きていたという唯一の証。
大事な人はまた彼女の前から姿を消していった-。
トシュはその辛い記憶を押し込むかのように唇を噛む。
「……ノード、一旦船に戻るぞ」
「了解しました」
彼はボートを急加速させると船を停めている岩場まで向かっていった。
先代船長の時から使われている彼女達の船。その名はカリュブ号。
いままでこのスピリット・シャングリラの世界を何周もしてきた、ハマー海賊団のシンボルだ。
「船長!ノードさん!お疲れ様です!」
「お疲れ様です!!」
「出迎えご苦労だったな、ソル」
船に戻ったトシュ達を出迎えるのはハマー海賊団の船員たち。ソルと呼ばれた昆虫型のオーヴァーは軽く礼をしてから、その場を立ち去った。
「さて、次はどこへ向かおうとする……」
トシュがそう言いかけた時、船内でサイレンが鳴り響く。
「大変です!船長!」
「どうした!」
「計器が勝手に動いています!」
「何だと!?」
「どうやらオート操縦が設定されてて……うぉっ!?」
部下の報告に驚く暇もなく、船は作動する。
勝手に動いた船は船内を大きく揺らしながら進んでゆく。
「問題は操縦制御システム……!!」
トシュは走り出し、操縦制御システムの元へと走り出す。
モニターに映る目的地は。
「エジル砂漠……?」
-邂逅の時は近い。
次回予告
走る船は砂漠を目指す。
そこにいるのはカードを託された少年。
彼は声に意識を誘われながらも、抗い続ける。
その決断は正解か誤りか。
次回
バトルスピリッツシャングリラ・ナラティブ
『ノヴァの鼓動』
……君を感じていたい。