バトルスピリッツ シャングリラ・ナラティブ   作:置き物

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物語も半ばに突入。
ということで第3話です。


第3話 【ノヴァの鼓動】

「ちくしょう……!止められねぇのか!」

 

舵を握って船を止めようとするも、オート操縦が設定されている船のシステムには敵わない。

彼女の意志とは反対に船は加速するばかりだった。

 

「どうなってるんだ……?」

 

「ワケわかんねぇ!」

 

彼女の部下も驚きを隠せず、戸惑ってしまう。

 

『あー、あー。聞こえるかな?』

 

「……!!」

 

船内が混乱する中、突如としてスピーカーからノイズ混じった男の声が聞こえた。

 

『どうやらプログラムは無事機能してるみたいだね』

 

「何だお前!俺達の船にこんなマネしやがって!」

 

『おお、そんなに声出さないでって。私はただ単に道案内をしようと思っただけだよ』

 

「道案内だぁ……?海賊はなぁ進みたがっている航路をジャマされんのが嫌いなんだよ!」

 

『それがノヴァのカードに辿りつくものだとしてもかい?』

 

「……何!?」

 

謎の声は思ってもみない言葉をトシュにかける。エジル砂漠とノヴァに何か関係があるのだろうか。彼女はそう思わざる得なかった。

 

『食いついたね。私が君をノヴァに引き合わせようと思って、このプログラムを仕組んだんだ』

 

「へっ。だけどよ、そんな事お前が出来んのか?」

 

現れた動揺を隠すようにトシュは質問する。

 

『だって君たちが使ってるネットワーク、管理してるのは私だからね』

 

「……は?」

 

トシュにはその言葉が単純なものではないと分かっていていた。ネットワークの管理者は幻の存在である。その正体を捜索するものはいないといえど、驚きを隠せない。

 

「じゃあノヴァの噂を流したのもアナタの仕業で……?」

 

思わずノードが声を上げる。

 

『それはネットワークの掲示板や情報サイトを使ってる誰かが勝手に流した噂さ。その中には偶然だけど()()()()()()()()()()()()()()()

そして、これだけは言っておこう』

 

 

()()()()()()()()()()()()

 

「……本当か!?」

 

ノヴァ伝説の真偽が不明だった以上、トシュにとってこれほど有益な情報はないだろう。

先代船長が。彼女が。

追い続けた伝説は本当だったのだ。

 

『今の私が出来るのはノヴァまでの道案内だけだ。けど、知っておいてほしい。君の進むべき道は君が選ぶんだ』

 

その言葉が終わると、彼の声は聞こえなくなる。ただ、聞こえなくなっても制御プログラムは止まる気配がない。このまま彼女達、ハマー海賊団をエジル砂漠へと案内する気なのだろう。

 

「船長、どうしますか」

 

「……俺はこの話に乗ろうと思う」

 

「船長……!!」

 

「やっとノヴァを手に入れられそうだっていうのにそのチャンスを逃す訳にはいかない」

 

トシュは何かの思いを込めるように拳を握りしめる。

 

「俺の守ってくれた、生まれ故郷の仲間。俺を受け入れてくれたこの船の仲間。そして、ノヴァを探してくれって頼んで消えていった先代船長。俺はこの仲間達の為に絶対手に入れてみせる!」

 

トシュの思いは変わる事はない。

彼女がノヴァのカードを手に入れようとする理由。

それを手に入れる事を夢見た船長の意志を継ぐため。

そしてノヴァの力を使い、消えていった生まれ故郷の仲間の分までこの世界で生き抜く事だった。

 

『自分は生き残ったのだから他の人の分まで生きなくてはならない』

 

本人も気づいていない事だが、彼女は無意識のうちにそれが自分の成す責任だと思っているのだ。それは使命を通り越したものだった。

 

「船長の言う通りだぜ!」

 

「俺達はどこまでも着いてくぞ!」

 

トシュの言葉に船員達は活気づく。

先代船長の時からいる仲間も、トシュが船長になってから加わった仲間も彼女の行動に賛成だった。

 

「ずっとついていきますよ、トシュ様!」

 

「お前ら……!!目指すはエジル砂漠だ!」

 

「まっ、オート操縦なんで目指すも関係ないんですがね」

 

「余計な事言うなよ!」

 

「いってぇ〜!そりゃないっすよ船長ォ〜」

 

トシュは船員の一人にゲンコツを決めた。

だが、エジル砂漠まではここから2日ほどかかる。

何故ならば大陸間を跨がなければならないからだ。

エジル砂漠はかつて紫のスピリットが繁栄していたと言われる大陸に位置している。

謎の声の主に航路が設定されている上に、ノヴァと繋がりがある場所だ。

今更辞める訳にもいかない。

幸い食糧は積んである。彼女達は立ち止まる事無く、突き進むことにしたのだった。

 

-時は経ち、2日後。

 

エジル砂漠 リシスの街。

かつてエジットと呼ばれた世界から創界神と呼ばれる存在が現れ、この地に降り立ったという伝承を残す街。

砂漠や街の名前はその創界神から取られている。そして、住まうオーヴァー達は妖蛇と呼ばれたスピリット達に近い進化を遂げたものが多く、集まっていた。

そんな街のある小さな家に、あの少年は運び込まれていた。

 

「クアン、コイツの容態は?」

 

とある男性にクアンと尋ねられたオーヴァー。

この街のスピリットらしく妖蛇型。

十字架に似た首飾りを掛けており、彼は椅子に座っていた。

 

「まだ眠ったままだよ」

 

「そうか……。街の前で倒れていたコイツを拾ったのはいいけどよ、全然起きねぇしな」

 

「この子供、とんでもないんだよ」

 

「どこがだ?」

 

「足の疲労を見るに、この歳で歩ける限界を超えてるんだよ。俺の見立てだが、エジル砂漠を三日も歩いてる」

 

「はぁ!?じゃあこいつはエジル砂漠に入ってからこの街に辿こうとするまでずっと歩いてたってことか!?とっくに死んでるだろ!」

 

「だからとんでもないっていっただろうに。お前も気づいているとは思うが、この子はヒューマンタイプのオーヴァーだ」

 

「ヒューマンタイプか……。たしか進化する以前の人間って種族に最も近いやつだっけな」

 

「そうだ。このタイプのオーヴァーはスピリット系統のオーヴァーに比べて若干だが非力なところがある。それなのにこの子は砂漠を横断してきた。何かあると思わないか?」

 

「そりゃなんかあると思うけどよ、俺らが知って得することでもねーよ」

 

「……そうかねぇ。とにかく様子を見てみよう」

 

「頼む。俺もちょくちょく様子は見に来るからよ」

 

「この子を拾ったのはお前だからな、面倒は見てくれよアウザー」

 

「あいあい、分かってるっての」

 

アウザーと呼ばれた妖蛇型のオーヴァーはそのままクアンの家を出る。

 

(しっかし、アイツ……何モンなんだ?子供のクセしてエジル砂漠を横断しようとするやつは考えられねぇ……)

 

先程、アウザーはクアンに対して少年の正体に興味無いとは答えたものの、内心どこか気になっているところはあった。

そんな疑問を抱えたまま彼は街の中を散策する事にした。

 

 

 

アウザーがクアンの去ってから数分後。

カリュブ号がエジル砂漠へと到着した。

 

「ここか……エジル砂漠ってのは」

 

船から見渡す限り一面に広がる砂漠地帯。

その近くに砂漠地帯であるのにも関わらず、栄えている街があった。

 

『おお、無事に着いたようだねぇ』

 

「んな……!?お前!いなくなったんじゃなかったのかよ!」

 

『いや?単純にスリープモードに移行してただけだよ』

 

「なんだよそりゃ……」

 

『それじゃあ私の案内もここまでだ。最後にヒントをあげよう』

 

 

『この近くに街がある。そこでローブの少年を探してごらん』

 

 

「……って言ってたが本当に見つかんのか?」

 

近くにある街、リシスへと彼女達は辿り着いた。

先程、トシュは謎の声から街でローブの少年を探せという言葉を聞いたが、あまりにも抽象的すぎる。ため息を少しつきながら、考えてもしょうがないと感じた彼女は街中で地道な聞き込みをする事にした。

 

「あのちょっと聞きたいことあるんだけどさ、ローブのガ……いや、子供って見かけなかったか?」

 

「ローブの子供ォ……?ああ、確かアウザーが担いでいたあの子供か」

 

彼女が話しかけたオーヴァーはローブの少年とそれに関係する人物について知っているようだった。

 

「そのアウザーってやつはどこにいる?」

 

「さっきすれ違った気がするんだがなぁ……。まぁこの街にいるはずだ」

 

「おう。ありがとな」

 

それからトシュは街で聞き込みを続けた。手がかりは少なかったものの、少しずつではあるが彼に近づいているのを感じていた。

そしてついにアウザーと呼ばれたオーヴァーらしき人物を見つけたのだった。

 

「お前がアウザーか?」

 

「そうだけど。アンタ誰だ?」

 

お互いに相手の正体を聞き合う。

相手が何者か分からない以上当然のやりとりではあるのだが、やはり聞かずにはいられなかった。

 

「お前が抱えていたっていうローブの子供について知ってること教えて欲しいんだ」

 

「アンタ、もしかしてアイツの知り合いか?」

 

「まぁ……そんなところだ」

 

「そいつはありがてぇ。数日前か。アイツがこの街の前にある砂漠でぶっ倒れてたんだけどよ、ずっと目を覚まさねぇで困ってたんだ。知り合いなら安心できるしな」

 

「今どこにいるんだ?」

 

「俺の知り合いんとこに預けてる。折角だから案内しようか」

 

「助かる!」

 

トシュはアウザーに連れられ、クアンの家を訪れる。そこは先程までアウザーが居た小さな民家。そこにノヴァのカードに関する人物がいるとは思えなかったが、今はあの声を信じるしかない。

 

「クアン。忙しい時に悪いが、そいつの知り合いって奴が会いに来てるんだ」

 

「ほう、そこの嬢ちゃんが知り合いか?」

 

そこでトシュが見るのはあの声が言っていた通り、ローブを纏った少年。彼は瞳を閉じ、横になっていた。

 

「そうだ。ちょっとコイツに用があるからよ、外してもらえないか?」

 

「ん……?まぁいいけどよ、行こうぜクアン」

 

「分かった。嬢ちゃん、俺たちは近くにいるからよ。何かあったら呼んでくれよ」

 

そう言い残し、二人のオーヴァーは家を後にした。トシュは中で横になっているローブの少年へと近づく。

すると、先程まで目覚めなかった少年は意識を取り戻す。まるで三日間寝込んでいたのが嘘のようだった。

目を覚ました少年は辺りを見回していた。

見慣れぬ天井、聞きなれない街の雑踏。

そして、近づく一人の女性。

彼女が自身の持っているカードを目的に近づいているとも知らずに。

 

「お姉さん、誰……?」

 

(このガキがノヴァを持ってるのか……?)

 

トシュは再び半信半疑になりつつも少年に向かって手を伸ばす。

 

「何してるの……?」

 

「悪いようにはしねぇよ。ただお前が本当にノヴァのカードを持っているか確認したいだけだ」

 

「ノヴァ……!!」

 

その言葉を聞いた少年の反応は明らかに違っていた。だが、トシュは少年の反応をよそにカードを探ろうとしたその時-。

街を駆け抜ける足音がトシュの方へと近づくにつれ、大きくなる。

 

「船長ォ……!!」

 

「この声……。まさか、エンヴィーか!?」

 

エンヴィー。ハマー海賊団の副船長。

体力や筋力に長けた彼は数週間前にノヴァのカードが眠ると言われている山まで遠征に出かけていた。

少年のカードを探るのをやめ、思わずその声の方向を振り向く。そこにはいつも知る人物が居た。

 

「船長!お久しぶりです!」

 

「エンヴィー!!よく生きてたな!会えたのが嬉しいぜ!ところで、どうしてここを?」

 

「船が移動する時にノードが連絡くれたんですよ。それに気づいたのは山を降りてからなんですけどね」

 

「ああ。けど、悪いことしたな。ノヴァのカー……」

 

「俺……やりました。やりましたよ!()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「何……!?」

 

「あのアレックス山脈の頂にある祠にこのカードがあったんですよ!」

 

アレックス山脈。

過去にいたスピリットの名前を冠するその山脈にノヴァのカードはあったという。

だが、あの声と話が一致しない。

ノヴァのカードは目の前の少年が持っている筈なのだから。

 

「オイ、見せてみろ……」

 

エンヴィーが持つノヴァの持つノヴァのカードを見る。

()()()()()()()()()()()()()()

それがノヴァ伝説に伝えられているカードの正体。白き鎧と灼熱を思わせる赤い翼を所有する龍は果敢に咆哮を上げていた。

ならば目の前の少年が持っているのは何なのか。それを確かめる必要が出てきた。

 

「お前……ちょっと見せてもらうぞ!!」

 

「お姉さんっ……服のなか……ダメだって……」

 

トシュは少年の言葉を無視し、彼の衣服を探り始める。

彼女が少年が首にかけているものがノヴァのカードだと知るとそれを手に取り、引き寄せる。

そして、エンヴィーの手に入れたものと見比べた。

そのカードに描かれている絵は同じであるものの、違うのは下に書かれている文字。

先程のノヴァとは書かれてある内容が違っていた。

 

「どういう事だ……?なんでノヴァが2枚もあるんだよ……!!」

 

困惑を隠せないトシュの表情。

そしてその原因はノヴァだけではない。

彼女はエンヴィーの姿が少しずつ薄れていくのに気づいてしまったからだ。

 

「おい……。エンヴィー……」

 

「あー。気づいちゃいました?アレックス山脈の帰りに少々無理しちゃいましてね」

 

エンヴィーの身体から光の粒子が漏れ出す。

それは彼が消滅する兆しを意味していた。

彼は理由を話しはしなかったが、消滅するほどの大怪我を負っていたはずだ。

トシュはエンヴィーに。そして、彼の消滅の前兆に気づかなかった自身に怒りを覚える。

 

「馬鹿野郎……!!なんでノヴァのカードを使わなかった!」

 

「だって俺が使うと船長が使えなくなっちゃうかもしれないでしょ?そんなの俺は嫌ですからね」

 

「おい。なんでお前まで逝く必要があるんだよ……!!」

 

トシュの目から涙が止まらなかった。

エンヴィーとは彼女がヴァイン船長に拾われてからの長い付き合いだ。その時から副船長だった彼はヴァインが消滅した後、次期船長の座をトシュに譲った。

本来ならばエンヴィーが船長になるはずであったのに彼は何故かトシュを船長へと任命した。

トシュはその理由をエンヴィーから聞いた。

 

ーーーーーー

 

「トシュは前船長の()ですからね。お気に入りって事で船長、やってもらいましょうか。この船を継ぐのに一番相応しいのは、アンタだよ」

 

ーーーーーー

 

その言葉がヴァインを失ったトシュに希望を与えた。彼女が今も船長を続けていられるのもエンヴィーの言葉があってこそだ。

 

「消えんなよ……!俺の前から消えないでくれ!」

 

「前船長の言葉と似て悪いんですが、俺が海賊として生き続けてた訳が分かった気がしますよ」

 

 

 

「一生を賭けてトシュ、アンタにノヴァのカードを渡すためだったのかもしんねぇな」

 

「……!!」

 

トシュはエンヴィーに近づき、抱きしめようとする。だがその願いも届かない。身体が完全に粒子となった彼にもう触ることも出来ないのだ。

 

「これは副船長としてじゃなくてこの俺、エンヴィー自身の言葉って事で頼みますよ、トシュ船長」

 

使命を果たした彼が見せた笑み。

それはヴァインが見せたのと同じ、別れの笑顔だった。

 

「じゃっ。あばよ」

 

「エンヴィー……嘘だろ……」

 

粒子が全て天へと登ってゆく。もはや、届かない。

膝をつき、崩れたように地面に足をつけてしまう。

 

「エンヴィィィィィィィィ!」

 

彼女は叫び声を上げる。

街中であろうと家の中だろうと関係ない。

たとえ誰かがこちらを見続けようとその叫びを止めることは出来なかった。

 

「お姉さん……」

 

少年は既に疲れきっているはずなのに、その場で立ち上がる。

そして今なお、熱を帯びた身体で彼女に近づいてゆく。

 

「……慰めかよ。そんなの要らねぇ」

 

「違うんだ……。そのノヴァのカードは」

 

 

……()()()()

 

 

 




次回予告
ノヴァを持つ少年・ユノとノヴァを手に入れた少女・トシュ。
だが、エンヴィーの手に入れたノヴァは偽物だと呼ばれてしまう。
仲間が命を賭けて手に入れた形見のノヴァ。
それを侮辱され、本物だと譲らないトシュはユノに決闘を持ちかける。
激突する2体のノヴァ。勝者は果たして-。

次回
バトルスピリッツ シャングリラ・ナラティブ

『激突 2体のノヴァ』

……君に会えるね。
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