美琴に見事にはめられて戦うこととなったツナ。現在ツナは運動場にいた。運動場にはツナと美琴しかいなかった。
「この日をどんなに待ちわびたことか……覚悟しなさい沢田!」
「はぁ……うん……」
やる気満々の美琴に対して、ツナは全くといっていい程やる気がなかった。
美琴が戦うという噂が広がったのか、運動場の外にはたくさんのギャラリーがいた。
「御坂様が戦うらしいですわ。相手はあの殿方だとか」
「何であの殿方と御坂様が?」
「御坂様が戦いたいと言ったらしいですわよ」
「え!? じゃあ相当な能力者ってことですの!?」
「でも相手は学園都市第3位の御坂様ですよ。あの殿方に万に一つも勝ち目は……」
コソコソと話し始める常盤台の生徒たち。生徒たちは美琴の圧勝と思っていた。
「凄い人気ですね」
「当然ですの。常盤台のエースであるお姉様が戦うのですから」
「それにしてもツナさんやる気が無さそう……大丈夫かな……?」
ギャラリーの多さに驚く初春であるが、黒子は全く驚いてはいなかった。佐天はやる気のないツナの姿を見て、少し心配になっていた。
「何の騒ぎですの?」
「げっ! 婚后光子……」
黒子たちの元へ扇子を持ち、帽子を深く被った黒髪のロングの少女がやって来る。黒子は少女の名を嫌そうな顔をしながら呟いた。実は重福に気絶させられた被害者の一人でもある。
「白井さん。知り合いですか?」
「ええ、まぁ……」
佐天が知り合いかと尋ねるも、黒子は適当にしか答えなかった。
「それよりもこれは一体、何の騒ぎですの?」
「御坂さんが戦うっていう噂を聞いて集まっているんです。ほら。あそこに」
説明を終えると初春は運動場を指を指す。婚后は初春の指を指した方向を見る。
「御坂……? まさか
「そうですわ」
「そんな相手に勝負を挑むなんて一体、誰が……って男!? な、なぜこの学舎の園に!?」
「彼は
「無様……!?」
黒子の言葉に怒りを露にする婚后。実は婚后は重福に気絶させられた被害者の一人である。
「とはいえこの勝負。結果は見えていますの」
「そうでしょうね。いくらあの殿方が犯人を検挙したと言っても、レベル5。それも第3位に勝てるわけ……」
「お姉様に勝ち目はありませんわ」
「はぁ!? な、何を言っていますの!?」
「見ていればわかりますの」
「今日は厄日だったわ! 手柄は取られるわ! ナッツは私に怯えるわ!」
「いや! ナッツの件は自業自得だよね!?」
「とにかく! さっさとやるわよ!」
「はいはい……」
ツナは27と書かれた手袋をはめると目を閉じると、大きく深呼吸した。そしてツナの瞳の色が変化し、額に炎が灯り、手袋が赤いグローブへ変化する。
「その手袋どうなってんのよ……まぁいいわ! これで思う存分暴れられるわね!」
ツナの手袋が変化したことに驚く美琴であったが、すぐに電気を迸らせる。
「一つだけ約束して欲しいことがある」
「何よ?」
「この勝負。俺が勝ったらもう俺に勝負を挑むのを止めて欲しい」
「何? もう勝った気? 余裕ね」
「別に。そんなんじゃない」
「でもその条件を素直に私が呑むと思う?」
「何だ? 負けるのが怖いのか?」
「何ですって?」
ツナの言葉に少しだけイラついたのか、ピクッと美琴は反応する。
「それともお前は約束の一つも守ることができない人間なのか?」
「言ってくれるじゃない。いいわよ。その条件呑んであげるわ。その代わり私が勝ったら私のパシりになってもらうわ」
「わかった」
「随分と素直ね。自分に言っておいてアレだけど」
「お前に俺が倒せるとは到底、思えないからな」
「本当にイラつくわねアンタって! 後で吠え面かいても知らないわよ!」
そう言うと美琴の右手の周りに黒い粉のようなものが集束していく。そして黒い粉は固まっていき、剣が造形される。
「砂鉄でできた剣か」
「ご明察。流石ね」
「元いた世界にお前と同じ力を使う奴がいたからな」
ツナの脳裏には居候であり、雷の守護者である子供のランボと、十年後の自分と現在の自分を5分間だけ入れ替える兵器、十年バズーカによって召還された大人ランボの姿が浮かんでいた。シモンファミリーの一人である大山らうじとの戦いで、大人ランボは砂鉄でできた角を造形していた。
「砂鉄が振動してチェンソーみたいになってるから、触れるとちょーっと血が出るかもね」
そう言うと美琴は砂鉄でできた剣でツナに斬りかかる。ツナはその場から一歩も動くことなく、美琴の斬撃を最低限の動きだけで躱していく。
「まだまだ!」
美琴は右足に電撃を纏わせ、ツナの首に向かっておもいっきり蹴りを喰らわせる。だがツナは炎を纏った左腕で美琴の蹴りを防いだ。美琴はこのままやっても埒が明かないと判断すると、一旦、ツナから距離を取る。
「こんなことだってできるのよ!」
砂鉄の剣が鞭のようにしなやかになり、ツナへと向かっていく。だがツナはこれでもその場から動くことはなかった。
「っ!?」
「この程度か?」
ツナは砂鉄の剣を右手で掴んだ。砂鉄の剣を受け止めたことに美琴は驚きを隠せないでいた。ツナにとってこの程度の攻撃は避けるまでもなかった。
「死ぬ気の零地点突破。
「っ!?」
ツナがそう呟いた瞬間、砂鉄の剣を凍らせる。氷はどんどんと侵食していき、美琴の腕に迫っていくが美琴は自分の腕が氷で侵食される前に砂鉄の剣を手放し、凍らされるのを防いだ。
一方でギャラリーはざわついていた。どう見ても発火能力しか使えないであろうツナが氷を使ったのだから。
「御坂さんの剣を凍らせた!?」
「まさか炎だけでなく氷も扱えたとは……一体、どれだけ隠し球を持っているんですの……!?」
「流石、ツナさん……」
能力者ではないと知っている初春、黒子、佐天もツナが炎だけでなく氷まで使えたことに驚いていた。
「あの殿方、発火能力以外の能力まで……!? まさか
「沢田さんは能力者ではありませんの。レベル0ですわ」
「な、何を言っていますの!? あれが能力じゃないわけ……!?」
「あの力は私たちの使う能力と原理が違いますの。やろうと思えば私たちもできるらしいですの」
「氷……!?」
「隙だらけだ」
「しまった……!?」
美琴は砂鉄の剣を凍らされたことに驚く。ツナはその隙をつき、炎を逆噴射させて美琴の後ろを取る。
「終わりだ」
「何の真似よ」
ツナは美琴の首元に手刀を突きつける。美琴はなぜか攻撃を当てないことに不満の様子だった。
「俺はお前を傷つけるつもりはない。それだけだ」
「強者の余裕ってわけ?」
「俺はさっさとお前に負けを認めさせて、こんなどうでもいい勝負を終わらせて帰りたいだけだ」
「どうでもいいですって……!?」
どうでもいいと言われて怒りを露にする美琴。
「ふざけんじゃないわよ!」
美琴の全身から広範囲に渡って電流が放たれる。ツナは炎を逆噴射させてこの場から離れる。
「こっちは真剣にやってるのよ!」
「真剣だと? 無理やり戦わせておいてよくそんな台詞が吐けるな」
「うるさい!」
美琴は右手の掌から連続で電撃を放っていく。だがツナは空中や地上に何度も何度も高速移動を繰り返して、いとも容易く躱していく。
「このっ!」
「いくら一撃一撃が強くても、頭に血が昇ってる今のお前じゃ当てるのは無理だ」
「偉そうなことばっか言ってんじゃないわよ! ちょっとは黙って戦いなさいよ!」
美琴は砂鉄を粉状にしたまま操ると砂鉄の竜巻を発生させて、ツナを竜巻の中に閉じ込める。
「私の全身全霊の一撃よ! 喰らいなさい!」
「ナッツ。
轟音と共に雷雲から雷がツナに向かって一直線に降り注ぐ。美琴の放った電撃によって辺り一面が煙に包まれていく。
「はぁはぁ……どうよ……? 人間相手にこの技を使うのはどうかと思ったんだけど……アンタにはこれぐらいやらないとね……」
煙の中にいるであろうツナに向かって不適な笑みを浮かべながら美琴はそう言う。
「でなくっちゃな」
「っ!?」
煙の中からツナの声が聞こえてくる。そして徐々に煙が晴れていく。
「お前の実力がこんなものなら拍子抜けだぜ」
「マント……!?」
そこにはマントを纏い、五体無傷のツナがいた。あれだけの攻撃をマントで防御したことに美琴は驚きを隠せないでいた。
「サンキューナッツ」
「ガウ」
「マントがナッツに……!? どうなってるのよ……!?」
マントが消えるとナッツはツナの肩に乗る。ナッツがマントになっていたことに美琴は驚きを隠せないでいた。
「言ったはずだぞ。ナッツは俺の相棒だと」
「い、いや! それよりも! ただのマントで私の雷撃を防いだわけ!?」
「このマントはただのマントじゃない。俺の炎と同じ効果を持ったマントだ」
「どういうことよ?」
「俺の炎の特徴は調和。調和とは矛盾や綻びのない状態。つまりこのマントでお前の雷撃そのものを無力化したんだ」
(無力化ですって……!? これじゃますますあいつと同じじゃない……!?)
無力化と聞いて、美琴の脳裏にある人物に浮かんでいた。それと同時に両腕の拳を握り怒りを露にする。
(だったら!)
美琴はポケットに入っているコインを取り出して、自信の得意技である
「え!?」
美琴はポケットの中を探すがコインはどこにもなかった。なぜコインがないのかわからず美琴は動揺してしまう。
「探し物はこいつか?」
「っ!?」
ツナが右手を広げると、美琴のポケットにあるはずのコインがあった。美琴はそのことに驚きを隠せないでいた。
(あ、あの時……!?)
首元に手刀を向けられていた時に、コインを盗まれていたことに美琴は気づく。
「お前のあの技は厄介だからな。封じさせてもらった」
「ぐっ!」
「降参しろ。お前のとっておきも封じた。お前に勝ち目はない」
「降参しろですって!? 笑わせるんじゃないわよ!
「諦めの悪い奴だ……仕方ないな」
そう言うとツナは持っていたコインの1枚をデコピンで弾いて美琴の前に飛ばし、ナッツをリングの中に戻す。美琴はなぜコインを返すのかわからないでいた。
「撃ってみろ。俺はこの場から一歩も動かない。防御もしない」
「はぁ!? 何、言ってるのかわかってるのあんた!?」
「お前に負けを認めさせるのは容易じゃない。そう判断しただけだ」
「馬鹿じゃないの!? 当たったらあんたといえでもタダじゃすまないのよ!?」
「当たればだろ。いくら強力な技でも当たらなければ意味はないからな」
音速の3倍以上の
「どうした? 怖じけついたか?」
「ふ、ふん! やってやろうじゃない!」
美琴は地面に落ちたコインを拾うと、コインをデコピンで弾いて上に飛ばし
「しっかり狙えよ」
(どこまでも舐めやがって! 喰らいなさい!)
上に飛ばしたコインが右手の辺りに落ちてくると、美琴はコインを弾きツナへと飛ばす。音速で飛ばしたコインの余波で地面が抉れていく。
「う、嘘でしょ……!?」
美琴の視界には信じられない光景が映っていた。少しだけ体を傾け、
「よ、避けた……!? お姉様の
黒子も美琴と同様、ツナが
「ほ、本当に私の
「お前の目線さえ見ていれば大体、どこに撃ってくるかわかる。それにこの技は真っ直ぐにしか飛ばないという弱点もある。はっきり言えば、さっきの攻撃よりも避けるのは簡単だ」
「か、簡単ですって……!? いくら撃つ場所がわかってても私の
「俺はお前のコインよりも速い奴と戦ったことがある。はっきり言ってそいつに比べたら、お前のコインは止まって見えたぞ」
「私のコインよりも速いですって……!?」
ツナの脳裏には虹の代理戦争で戦ったバミューダ・フォン・ヴェッケンシュタインの姿が浮かんでいた。
「お前のとっておきも完全に封じられた。降参する気になったか?」
「……!?」
流石の美琴も強気ではいられなくなり、何も言い返せなくなる。
(こいつはわざと私の
自身の最速最強の技まで避けられた時点で、美琴は自身の攻撃がツナには通じないということを悟る。そして美琴の脳裏に敗北という文字が浮かび上がる。だが負けを認めたくない自分が心の隅にある為、何もできず放心状態になっていた。
その時だった、
「随分と楽しいことをしてるじゃないか御坂」
「なっ!?」
(誰だ?)
二人の前に眼鏡をかけ、スーツを着た黒髪ロングの女性が現れる。女性の姿を見て美琴は顔を青ざめ、ツナは疑問符を浮かべる。
「りょ、寮監……!?」
(寮監……? いやそれよりも美琴の様子が……?)
目の前の女性は美琴たちの住んでいる寮の寮監であった。ツナは美琴の様子がおかしいということに気づいていた。
「それで? これはどういうことだ?」
「こ、これは! その……修行です! お互いを高め合う為にと思いまして!」
「修行……確かに自分の力に慢心せずに己を磨くことは良いことだ」
美琴は寮監を恐れているのか慌てて言い訳をする。寮監は修行と聞いて、眼鏡をクイッと上げてそう呟く。
「だがこれはお互いを高め合う修行なのか? お前が無理やり付き合わせたのではないか?」
「け、決してそのようなことは!?」
「ほう。じゃあなぜお前にはほとんど砂埃がついていないのに、彼には砂埃がついているんだ?」
「っ!?」
寮監がそう言い放った瞬間、美琴は顔を真っ青にしてしまう。
「それに彼に外傷もない。にも関わらずお前は彼よりも疲弊している。これはお前の攻撃を彼が避け続けたということ。それ程の実力者がお前に反撃できないとは到底、思えないがな」
「そ、それは……!?」
「本当にお互いを高め合う修行なら彼は反撃しているはず。なのにお前には外傷どころか砂埃もついていない。これは彼に戦う意思がなかったという証拠じゃないのか?」
「……」
(俺たちの戦いを見てもいないのに……本当に寮監なのか……?)
寮監の言葉に美琴は反論できず黙ってしまっていた。寮監の分析力にツナはこの女性が本当に寮監なのか疑ってしまう。
「まぁ。本当に修行だったとしても、お前の攻撃の影響で学舎の園の電子機器がショートしたんだ。この責任を取ってもらわないとな」
そう言うと寮監はゆっくりと美琴に近づいていく。美琴は恐怖のあまり動けないでいた。
「ふん!」
「ぐぶっ!?」
「なっ!?」
寮監は美琴の腹部に拳を叩き込み、美琴を一撃で気絶させた。まさか気絶させるとは思ってはみなかった為、ツナは驚きを隠せないでいた。
(この人……ラルと同じタイプだ……)
ツナの脳裏には元イタリア海軍潜水奇襲部隊コムスビンの教官にして、ボンゴレ門外顧問の一人であるラル・ミルチの姿が浮かんでいた。
「そこの君」
「な、何だ?」
「御坂が迷惑をかけてすまなかったな。こいつにはきつく言っておく。だから御坂を責めないでやってくれ」
「あ、ああ……」
「もしまた御坂が君に迷惑をかけるようなことがあれば遠慮なく私に言ってくれ。私がみっちりと罰を下す」
「できれば酷いことはしないで欲しい。これでも美琴は俺の大事な友達なんだ」
(これだけのことをした御坂に文句の一つも言わないどころか、御坂のことを心配するとはな……)
ツナの言葉を聞いて寮監は驚いていた。そして少しだけ口元を緩ませ微笑む。
「優しいのだな。君は」
「俺は友達が傷つく姿を見たくない。それだけだ」
「仕方がないな。君の意見を聞かないわけにはいかないな」
寮監はツナの言葉を聞いて、美琴の処遇について改めることを決めた。
「今日のところは正座で反省文10枚を書かせる程度にしよう」
「え……!?」
自分の意見が通ったのかと思ったら、罰を執行することが変わらなかった為、驚きを隠せなかった。
「悪いが君の意見を全て尊重はできない。学園都市3位といっても御坂はまだ子供だ。間違ったことをした子供を正してやるのが私たち大人の役目だからな」
「……」
寮監の言っていることは間違っていない為、ツナは反論できず黙ったままであった。
「本来であれば20枚の他に1週間寮の掃除を一人でやってもらおうと考えていたんだがな」
「そ、そうか……」
「それでは私は失礼するよ」
そう言うと寮監は美琴の襟を右手で掴み、そのまま引っ張って去ってしまった。
2日で6000字…こんなに書いたのは久しぶり…
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