叫び声を上げる木山。これで勝負が着いた
『木山センセー』
(何? 頭の中に直接……)
と思ったその時、美琴の頭の中に小さな少女と少年の姿が写る。
「美琴!? どうした!?」
木山を捕えたまま動かなくなった美琴を見て、ツナは木山が何か美琴にしたのではないかと思い、美琴の肩を掴んで美琴を木山から引き剥がそうとする。
「これは……!?」
美琴の肩を掴んだ途端、ツナの頭の中にも美琴と同じ映像が流れていく。
木山の記憶
『今日から君たちの担任になった木山春生だ』
『厄介なことになった。だがこの実験を成功させる為の辛抱だ』
『子供は嫌いだ。騒がしいし、デリカシーがないし、失礼だし、悪戯するし、論理的じゃないし、馴れ馴れしいし、すぐに懐いてくるし』
『センセー。私でも頑張ったら
『私たちは学園都市に育ててもらってるから。この街の役に立てるようになりたいなー』
『研究の時間がなくなってしまった。本当にいい迷惑だ』
『AIM拡散力場制御実験。長い時間をかけて何度も計算を繰り返し準備してきた。何も問題はない。これで先生ゴッコもおしまいだ』
『怖くないか?』
『全然。だって木山センセーの実験なんでしょ。センセーのこと信じてるもん。怖くないよ』
『これでおしまい……』
木山は研究の一環で親が入学費を払って子供を学園都市の寮に入れたまま行方を眩まし学園都市に置いてけぼりにされた子供、
担任することとなった。だが当の木山は乗り気ではなく嫌々、研究ということで仕方なく引き受けた。そして長かった教師としての役目もこの実験が終了することで自由の身になれる……
『……のドーパミン値低下中!』
『抗コリン剤投与しても効果ありません!』
『早く病院に連絡を!』
そう思っていた。だが実験の途中でアクシデントが起きる。木山の教え子たちが実験の途中で昏睡状態に陥ってしまったのである。木山はあまりのショックに顔を真っ青にする。
『木山君。よくやってくれた。彼らには気の毒だが科学の発展に犠牲はつきものだ。今回の事件は気にしなくていい。君には今後も期待しているからね』
老人が邪悪な笑みを浮かべながら木山の肩に手を置いた。この老人は木原幻生。マッドサイエンティストである。木山の教え子たちが昏睡状態に陥ったのは事故ではなくこの木原幻生によって人為的に仕組まれたものであった。
木山の記憶が終わると、木山は地面にうつ伏せの状態で倒れる。ツナと美琴はあまりに悲惨な木山の過去にショックを受けていた。
「観られたのか……!?」
木山はツナと美琴の表情から自分の記憶を見られたことを察し、肩で息をしながら二人のことを睨んでいた。木山はすぐに抵抗しようとするが頭痛が発生し演算に集中することができず能力が使えずにいた。
「何で……」
「っ!?」
ツナがそう一言、呟いた途端、木山はツナの顔を見て驚いてしまっていた。そこには
「何でこんなことができるんだよ!! 何であの子たちが犠牲にならなきゃいけないんだよ!! 人を何だと思っているんだ!!」
「沢田……」
「……」
ツナは涙を溢しながら怒りをぶち撒けた。そんなツナを見て美琴はツナに同情しており、木山は見ず知らずの人の為に涙を流し怒るツナに驚いていた。
「あの実験の正体は暴走実験の法則性解析用誘爆実験。能力者のAIM拡散力場を刺激して条件を探るものだったんだ。あの子たちを使い捨てのモルモットにしてね」
「人体実験……だったらそれこそ
「23回」
美琴が提案すると、木山は23回という回数を呟いた。木山は語る。教え子たちの恢復手段を探る為、そして事故の原因を究明するシミュレーションを行う為に、
「統括理事会がグルなんだ。
「でもそれじゃあんたのやってることも同じになっちゃ……」
「君たちに何がわかる!! あんな悲劇を二度と繰り返させはしない!! その為なら私は何だってする!! この街の全てを敵に回しても止まる訳にはいかないんだ!!」
木山は声を荒らげる。美琴は木山の言葉を聞いて、何も言い返すことができなかった。
「その為に他人を……学生たちを犠牲にしたんですか?」
「犠牲にはしないさ。昏睡状態になった学生は治すと言ったはずだ」
「治りませんよ。学生たちも木山さんの生徒たちも」
「何を言っている? 君にそんなことがわかるわけ……」
「わかりますよ」
研究者ですらないツナがそんなことを言った為、木山は怪訝な顔をする。ツナは真剣な眼差しで木山の言葉を遮る。
「体は治っても心の傷は治りませんよ」
ツナは真剣な眼差し、それでいてどこか悲しそうな表情で木山に言い放った。
「心に受けた傷は簡単に治らない。それは木山さん自身が一番わかってますよね?」
「そ、それは……」
「それに木山さんが自分や他人を犠牲にして助かったと知って、喜んでくれると思いますか? 笑ってくれると思いますか?」
「じゃあどうすればいいと言うんだ!! 他に助ける方法はないんだ!! このままあの子たちを放っておけというのか!?」
ツナの言葉を聞いて、木山は再び声を荒らげる。
「ぐっ……!? あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
突如、木山は両手で頭を抑えながら苦しみ始める。
突如、苦しみ出した木山。一体、何が!?
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