エルフ転生(仮)   作:ホタルイカ

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誰が彼を奪ったのか

人混みが場を囲む。何者かによって荒らされた王都の一画、その道路には一般人が侵入し、場を荒らさないように立ち入り禁止のテープが巻かれている。

いわゆる事件現場の中には、我らが小説の主人公————最近影が薄いような気がしてならない—————自分の事をプロトマーリンだと思い込んでいる一般エルフことプーリンと、赤いレザージャケットを着込んだハードボイルド、照井竜。それと側に助手の様に立っているアリーゼ・ローヴェルがいた。

 彼らの周辺は青いブルーシート状のもので囲まれており、さらにその外を何かしら作業をしているのか、忙しなく人が動いていた。

さながらキャンプのようであるが、雰囲気は重々しく到底そのような冗談を言っている場合ではなかった。

彼らの雰囲気を重くしている原因、それは、目の前で鉄状の縄で拘束された海東大樹という名の転生者が原因である。

 

「....君の話を聞くに、海東が強盗を気絶させた後、突然呻いて頭を抑えたと思ったら、暴れ出した、と。」

 

「はい、そうなんです。....まるで人が変わってしまったかのように。」

 

照井が状況を咀嚼するようにふむ、と相槌を打つ。

 

「俺の海東の印象を言うに、とてもそんな事をするような青年には見えなかった。仕事柄他の転生者達にはあまり会えないが、以前会った時話しただけでも、他人を害するような人間では無かったはずだ。」

 

「私もそう思います。彼は一般市民を守る、正義の味方の仮面ライダーでした。そんなことをするようにはとても...」

 

照井が気絶している海東を見て話す。

照井の言葉に、アリーゼも続けてそんなことを言う。プーリンも当然同意見であった。

まだ会って1日と経っていないが、ここまで彼を見ていて、とても平気で他人を害する人間だとは思えなかった。

プーリンはここで、一つ伝え忘れていたことを思い出した

 

「そうだ、海東さん、変な事を言ってました。僕の杖を『お宝』と呼んで、奪おうとしてたんです。」

 

「何?お宝だと....?その杖に対して言ったのか?」

 

照井が訝しみながら問い返す。ここで照井は、前世の記憶に引っかかった。この、目の前にいる青年の身体の本来の持ち主、原作;仮面ライダーディケイド

に出てくる、海東大樹その人についてだ。

 

彼は確か、自分の欲しいものに対して、『お宝』と、そう確かに言っていたはず。彼にとってお宝が欲しいものなのか、欲しいものをお宝と呼ぶのかは定かでは無いが、確かそうだった、と。

しかし照井は辿り着いた結論を空想だと決めつけ、記憶の内から葬った。

 

「とにかく、海東が起きるのを待とう。治療師に診てもらって、大事ない事は分かっている。こんな格好で彼には悪いが、治療院で暴れてもらっても困る。下に布をひいているだけ感謝してもらいたい」

 

「それに治療院は今、俺たちの部下が搬送されている。シスター・クレアにこれ以上の負担はかけられん。」

 

————————————————————-

 

 

ボクの目の前には縛られながら眠っている海東さんと、照井さん、そしてアリーゼさんがいる。照井さん達は、ボクや海東さんと同じ転生者らしい。

 

海東さんは突然人が変わってしまった。以前はそうではなかったらしい。海東さんの、以前との違いはなんだ?何が起こった?誰に何をされた?

—————————誰と関わった?

 

嫌な考えに行き着いてしまう。自己嫌悪はボクの専売特許だったか、と思わず悩んでしまうほどにだ。

アリーゼさんに、あまり無茶はしないように、と注意された。アリーゼさんと海東さんが競り合っている間に、死角を突いて海東さんの頭をぶん殴ったことについて咎められた。

アリーゼさんは危険だからと、ボクに対して注意し、そして怪我が無くてよかった。と、ボクを心配してくれた。その言葉が心の底から言っているのだということを、理解できる。

ああ、優しい人だ。初対面の、関係の無いボクを、本気で心配してくれている。

 

自分はなんと情けない人間なのだろう。海東さんを変えてしまった。アリーゼさん達を心配させてしまった。自分はなんと不出来で、情けなくて、不器用な、人間なのだろうか。

せっかく異世界に来て、これまでとは違う自分になれたというのに。

そんな鬱屈な自己嫌悪に陥っていたボクは、海東さんの呻く声で、考えていた事を掻き消された。

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