緋弾のアリア~裏方にいきたい男の物語~   作:蒼海空河

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裏方の円
始まりの一日


 男子学生寮。

 今日から二年生として武偵高に通う。

 少し肌寒く、しかし太陽の光は春の訪れを学園島全体に降り注ぐ。

 薄紅色の花びらが空に舞い、空気も雰囲気も香り立ちこめる。

 そんな新学期の朝。

 俺はなにをしているかというと。

(可愛ええなぁ、ネコ~。ほっこりするわ~)

 やっているのはネットサーフィン。

 遠足前の小学生ではないが、始業式に遅れたら沸点の低い教師がブチ切れかねない。念のためにと夜の十時に寝たら、五時に起きてしまうというオチ。二度寝もうまくできなかった。東側に窓があるから、徐々に朝日が差しこんでくるし。

 暇つぶしにPCで記事などを見ていたら、偶然猫の動画を見つけた。

 猫のあのだらーんとしたスタイルが好きなので、リンクを使ってポンポン見ているとなぜか、通販サイトに。

 マタタビが格安――って買う奴いるのか?

 

「高くないし、ギャグで買うのも面白いかも。……いやいややっぱ止めよ。えーっと戻す戻す」

 

 なんとなくポチってカートに入れたが冷静に考えたらゴミが増えるだけだ。

 ――――ピンポーン……キンちゃん…………お前か……。

 ん? 朝から呼び鈴、でも俺の部屋じゃないな。あー、キンジか。どうせ白雪さんといちゃこらしてるんだろーなー。

 外を見ると明るく、完全に日が上がっている。準備もしたいしそろそろやめるか。

 小鳥たちが騒がしくなってきた朝の一時。

 チュンチュン、チュ――ズドンッ! ……チュンチュンチュン!

 

「うひゃぁ!? くっそ、まじくっそ! 誰だよ寮内で発砲した野郎! 心臓に悪いんだよっ」

 

 発砲音にビビったぞ!?

 普通なら警察に一一○するところなのに、そう思わない自分が悲しい。たまに寝ぼけて拳銃の引き金を引くバカ野郎がいるらしい。アホな奴は目覚まし代わりにする奴もいる、らしい。空砲だから問題ないとほざく野郎には、猪木さんばりのドロップキックをかましてやりたい。

 死人がいままでいないことが奇跡に思える。頼むから白黒車輌が寮の前に止まる事態だけは勘弁してほしい。

 銃社会怖い。発砲、ダメ絶対。

 思わず握ってしまったマウスをパットの上に戻し、て――あ。

 画面に大きく表示された一文。

《スペシャルネコセット、購入ありがとうございました!》

 ビックリしたときにマウス握ったときにクリックした、のか?

 ネット決済完了。

 九八○○円なり。

 

「…………あーーー! なんでカート入れっぱだったんだよ俺!? アホかアホなのか!? キャンセル、いやもう決済してるから無理だろ。なんで朝からこんな目に……」

 

 いらんゴミを買っちまった……。いや貯金はあるし、マネー的には大丈夫なんだけど、こうなんての、衝動買いしたあとやっぱり別にいいものあるじゃんって後悔する気分というか、なぁ。

 いたずらでカートに入れるのは、今後やめよう……。

 変に気分が落ちこんだ。お隣さんはテンパっているのか僅かに白雪さんの美声が聞こえる。

 ドジった俺と幸せ一直線のお隣。

 ……よし、今日はさっさと出よう。

 キンジとダベりながら登校しようかと思ったが、考えてみると野郎二人で登校とか空しすぎる。

 ついでだ、学園島をぐるりと回ってみよう。ちょっとしたヒューマンウォッチングとシャレこもうじゃないか。

 

 鞄に筆記用具を詰めこみ、生徒手帳を胸ポケットに入れる。

 腰のホルスターに形見のシグP-216をさす。

 「ですだ」の口調がキュートな平賀さんには特注の十手ホルダーも作っていただいたので、背中にキチンと納めておく。

 始業式だから、今日は伝達事項があるだけだ。

 諜報科だと、頭の湧いたどこぞの犯罪者がウィルスをバラまくらしく、早々に依頼をこなしているらしいが。

 探偵科に所属して三ヵ月。

 要領がまだ掴めないからランクはE。どのみち来年には武偵高校からオサラバして平和なハイスクールライフの予定だけ。

 

 依頼の誘いもあるけど全て断っている。

 一年弱の経験で判った。ぶっちゃけ依頼は出れば出るだけ墓穴を掘る。

 バカの一念岩をも通すっていうか、死に物狂いでやってるおかげか、いまはまだ大丈夫だがいつ死ぬか判らないんだ。

 だったら適当な理由をでっちあげて断ればいい。

 女の子のお誘いは、正直、非常に、とっっっても! 断るのは辛かったのだが、命が掛かっているんだ。

 ご期待連鎖を止めるには何処かでストップしないといけない。

 心の中で号泣しつつ、お断りの返事を入れた。

 なぜかすんなり引き下がっていったけど。

 ああいうのはプロフェッショナルの仕事。俺にはやっぱりきつい。

 腕時計を見る。

 時刻は七時四○分。二十分は余裕で回れるし、問題ない。

 玄関の扉を開く。

 

 眼下に広がる学園の施設群と埃くさい東京の空気、そして髪先を揺らす冷たくも、どこか心安らぐ風の感触だった。

 キンジの部屋をスルーしながら一階まで降りていく。

 陽の当らない部分はまだ寒い。

 さっさと行こうと学生寮の入り口を出ると、

 

「あ、おはよう大石さん。いい天気だね」

「あれ白雪さん? とりあえずおはよう!」

 

 お淑やかに笑みを浮かべた女生徒、星伽白雪だった。

 常日頃からケアをしているであろう黒髪がサラサラと揺れている。

 大山のごとき二つの胸部装甲が素晴らしいし、紅白の巫女服が良いアクセントを出している。

 着物って胸が無い方がいいっていうけど、この盛り上がりもまたいいよな!

 だけど……キンジと一緒にいるとばかり思っていたんだが。

 

「キンジはどうしたん? 一緒に登校するかとばかり思ってたんだけど」

「キンちゃんは……メールのチェックしてから、来るって言ってたから……」

「あー、それで待ってたとか?」

「先に行くように言われたから、もう……行くつもりだよ」

「アイツは、まったく……」

 

 気にしていないと軽い調子で微笑むが、憂いの混じった表情をにじませていた。

 俺は無神経な友を思い呆れながら溜め息を吐く。

 良妻賢母の鏡とも言える和風美人な白雪さんだが、キンジはどうも彼女を煙たがっている節がある。

 それは彼女だけでなく、女生徒全般に、だ。

 何度も見た光景なので慣れたものだけど、アイツはどうして女性を嫌うんだろうなあ。中学校でなにかあったらしいことは伝え聞いたんだけど。

 

 お兄さんも結局見つからなかった。トラウマとかメンタル面に触れるのも気まずい。

 TVの騒動は潮が引いたようになくなり、身辺は落ちついたんだけど、まだ気にしているのかもしれない。

(……あとで奢れよコノヤロウ)

 フォローだけでもしておこう。ただでさえ美人な白雪さんが暗い顔すると、なにもしてないのにものすごい罪悪感が襲ってくる。

 微妙な空気を払うように言う。

 

「まああれだよな! キンジって照れ屋っつか、白雪さんが綺麗過ぎて恥ずかしいだぜきっと! だから気に病むことないんじゃないかっ」

「え、キンちゃん……もしかして白雪のせいで……そんなぁ……」

 

 え、更に落ち込んだ? 

 さりげに褒めてポイントアップと思ったら地雷を踏んだのか俺!?

 

「いや白雪さんのせいじゃなくって……なんつーかキンジは幸せものだってことだよ!」

「だめだよ、白雪はキンちゃんの迷惑にはなりたくないから……でもやっぱり側にいたいし、うぅ~~!」

「だぁーー!? 俺から見てもベストカップルだから問題ないって! お弁当とか受け取って貰ったんだろ。白雪さん以外にそんな奴いないって!」

「そう……そうだよねっ、殿方の心を掴むにはまず胃袋から! 明日も明後日もずっとずっと側にいるからねキンちゃん……!」

 

 パアアッと表情は明るさを取りもどし、というより今でも輝かんばかりになっている。

 なんか涎を垂らしたり、真っ赤になったり、している。

 ……というかなんで俺は他人の恋路を必死に応援しているのだろうか?

 空しさだけが積もってきたので、さっさと駐輪場へと向おうとしたところ、

 ガツッ!

 

「うわわぁっと!? なんだこれ? 木材?」

「あ、気を付けた方がいいよ。春だから」

「春と木材ってなんか関係あるのか?」

 

 俺の大声に気が付いたのか、白雪さんはこっちを見ながら丁寧に説明してくれた。

 

「春は新入生が来るんだけど……戦徒の申請をする生徒も多くて、先輩が戦徒にするかの試験をするの。学園島を使って銃撃戦とか追跡試験とか……だから障害物にするために木材や鉄材をワザと置いてたりするの。建物が破損したら、業者の人がすぐ修理できるからね」

「なにそれ怖い」

 

 相変わらず俺の予想を斜め上どころか、真上に飛ぶ宇宙船ロケット並にぶっ飛んでるよこの学校。

 さも当たり前のように話す白雪さんだけど……。

 今日はあまりうろ付かずに帰ろう。

 パコンと軽く木材を蹴ったあと、背を向けると、

 

「大石さん!」

「どしたん白雪さん?」

「武偵殺しとかの事件もあったし、最近物騒だから気をつけた方がいいよ。あと励ましてくれてありがとうッ」

「お、おう、どりゃサンキュー」

 

 タッタッタッと小走りに去っていった。

 

「は、ははどりゃってなんだよ。……うしっ、張り切って学園島の散策に行きますかね!」

 

 御礼一つであった言う間に気分が上向きになった。

 いやー、いいことするとやっぱ気持ちいいねー!

 安値で買った古自転車を引っ張りだし、走り出したのだった。

 

 

 

 シャーーーッ!

 風を後ろに軽快な調子でペダルを漕ぐ。

 あちこちに植えられた桜の花びらが道路を桃色に染める。

 まさに春といっていい光景だ。

 中等部も非常に初々しい美少女たちを拝めたし眼福眼福。

 心地良い風が顔面に当たる。

 微妙に逆立ってしまった髪を手ぐしで直しつつ、俺は東京武偵高校へと目指していた。

(にしてもいい天気だなー……ん?)

 ふと陰が差したせいだろうか。

 上を見て、日差しに目を細めたときに誰かがビルの屋上にいたような気がした。

 んん?

 パチパチと数回瞬きをしたが良く見えない。

 別に気にしなくてもいいのだが、黒いシルエット。ひらひらと舞うスカートにツインテール。変態じゃなければまず女子。

 屋上、スカート、女子――――つまり。

 

「下から見える! カメラーカメラー……くそ忘れた! こうなったら脳内シャッターを使ってやる!」

 

 ガッデム!

 風景を撮るつもりが偶然、白の絶対領域を映し出してしまった、という寸法だったのに!

 ビルが高いのでダメかもしれないが、そこはそれ。

 視力はこれでも両方とも2・0。全神経を眼球に集中させたらあるいはっ!

 上を見ながら猛然と走りだす。

 なぜ美少女(確定)が屋上にとか関係ない!

 そこにパンツがあるから俺は全力で足もとへ行く。

 古い自転車はいきなり全力で走りだしたせいかギィギィと錆ついた音を奏でる。

 頼む、持ってくれ。俺をあの理想郷まで連れてってくれ!

 走っていると後ろから誰かの気配を感じた。

 風を切って走ってきたそいつは俺の隣を併走してきた。

 

「お、お前……はぁっ、ケイか! もしかして同じ状況かっ!?」

「うくっ……はぁはぁ……おうお早うっ、キンジ! お前もか!」

 

 息を切らしながら猛追してきたキンジ。

 お前もか! 白雪さんのお誘いは断りながらパンツはちゃっかり覗こうと……! 最低だが、最高だなお前っ。興味ないふりして、やはり漢の本能には逆らえんようだな!

 走りながら目を見つめる。真剣な表情で頷いた。

 ならばともに往こうエルドラドへ!

 友が頑張るなら俺もとペダルにより一層力を込めた。

《減速させやがると爆発しやがります》

 なんかボーカロイドっぽい機械音。

 キンジ、いつから変声機なんて持ってたんだ? 小学生名探偵にでもなるのか?

 などと思いながら隣を見ようとしたそのとき――

 バギンッ!

 

「あ゛ッ」

 

 ペダルが急に軽くなった。やば、チェーンが外れたかのか!?

 勢いを付けたところでの故障に思わず、前のめりになる。

 体勢を直そうとしたが、突然のことで訳が分からず、俺は自転車から投げ出された。

 

「いっつッ!?」

 

 伊達に一年間、武偵高校に通ってない。

 なんとか受け身を取りつつも、ゴロゴロとアスファルトの上を転がり、身体中に擦り傷が出来上がる。木にぶつかったところでやっと止まった。

 くそうっ、覗きを敢行した天罰ですか神様! ちょっとは寛容になれよもうっ。

 

 ――ばかはそっちだ……そんな助けかた……!――

 

 あれなんかキンジが浮かんで、いやパラシュートに逆さの少女? お前らなにやって……。

 土を払いながら立ち上がろうとしたとき、奇妙な光景が目の前を通りすぎたその瞬間――

 ドカカァァァァン!!

 耳をつんざく大轟音にひっくりかえる。

 

「けほっけほっ! え……えぇ~…………爆発ってどういうこと……?」

 

 数十m先でもくもくと黒い煙が立ち上っている。

 制服の裾で煙たさを緩和しようと頑張っていると段々煙が晴れてきた。

 そして見えたのは無残に散った俺の自転車。

 あと隣になぜか拳銃……いやでっぷりしたマシンガンっぽい銃――UZIっていうのか? が隣に転がっていた。

 中古だけど去年から愛用してた自転車なのに……ッ!

 なんで俺ってこう、災難に巻き込まれるんだろう……って。

 

「そうだ、キンジ大丈夫か!?」

 

 自転車の件で大いに嘆きたいところだが、とりあえず友人の安否が気になる。

 一瞬だがキンジが逆方向に飛んでいったのは見えていた。

 急いで立ち上がり逆方向へと向かおうとしたのだが、ガクリと足の力が抜けてよろける。

 ダメージ……自転車から落っこちた上に、爆発で耳の鼓膜がキーンと甲高い音が鳴り続けている。

 やばい、なにか支えがないと倒れる……。

 左手を前に突きだし、硬い感触があったので背中を預けようとしたのだが、グラリと何故か後ろに倒れる。

 ガランガランガランガラン!

 

「うわわぁ、て、鉄骨をこんなとこに放置すんじゃねえよ!?」

 

 よくみたら壁に立てかけてあったらしい鉄骨が数本横倒しになっていた。

 こわッ、下敷きになったら死んでたかもしれん。泣きっ面に蜂ってまさにこのことだよ、まったく!

 ジ、ジジ……ジジジ……。

 良く見ると鉄骨の下に変な機械が潰れていた。

 さっきの自転車の側にあった奴といい、もしかして戦徒制度の試験の、なんだっけ……そう街の各所に置いた障害物。

 先輩と後輩がきゃっきゃうふふの銃撃戦でもやっているのだろうか?

 頼むから俺を巻き込まないで欲しい。切実に。

 今も制服の端っこが擦り切れてるし。

 近くに体育館があり、側に大きな布切れが落ちていた。

 おそらく、あそこら辺にキンジがいるかもしれない。

 

「はぁ~~~~っ、大丈夫か確かめるか……ってあのオモチャはなんだ?」

 

 さっきのオモチャと同じタイプの機械が三台。体育館のある敷地のまん前に陣取っていた。

 俺との距離は三、四○mほど。

 なのをするのかと思って見ていたら、

 バラララララララッ!

 UZIが体育館の入り口に向かって火を吹き始めた。

 銃撃!? あれ撃てるの!?

 やばいと思って隠れたようとしたとき、一台の銃口がギュン! とこちらを向いた。

 

「――ッ!」

 

 黒光りする銃口。今まさに撃とうとしている。

 撃つ……? 誰を……? 俺に決まっている。

 当たれば――死。

 死にたくない!

 

 いままでの人生で一番早く動けた気がした。

 目の前に落ちる桜の花びらがやけにゆっくりに感じる。

 ドクンドクンと心臓の音がうるさい。

 右手で即座に拳銃を掴む――止め金を強引に外す――構えようとしながら左手でスライドを引く。

 相手はまだ、動いていない。

 狙いはUZIの銃口――当たる、そう確信しながら俺は引き金に指を掛け、力を込めた。

 

 カチン

 カチンカチン

 

「……………………あぁ、早くても遅くてもタマがないと当たらんよね。いろんな意味で」

 

 バララララ!

 

「うひゃあ、ごめんって! だから撃つんじゃねえっ!」

 

 火事場のクソ力というか間一髪、で鉄骨の裏に隠れた。

 キンキンキンと目の前で火花が散る。

 やっぱり鉄骨を配置した人最高! 本気で助かってます!

 内心で鉄骨さんに賛辞を送っていると、数回の射撃音のあと、UZIが爆発四散した。

 ……たぶん、キンジか女の子のどっちかが撃ったんだろう。

 はぁ~っ、終わった。真面目に死ぬかと思った。

 へたり込む。鉄骨の向こう側ではキンジと女の子がなにやら揉めている様子だ。「風穴!」とかいって拳銃を振りまわしている。

 行った方がいいんだろうが……時計を見る。

 うん、始業式まで時間ない。遅れたら蘭豹先生か綴先生あたりに罵倒されること受け合い。Mじゃないので勘弁してください。

 キンジも女の子も無事みたいだし、俺は一足先にふけるぜ!

 もう今日はもめごとはノーサンキューだ。

 俺は近くに落ちていた鞄を拾うと、そのまま裏道から学校へと向かった。

 

 

 

「ぜーはーぜーはー……今日の俺って、うぇ……もう色々頑張り過ぎてねぇかな……」

 

 ひーこらしながら走り続け、始業式には十分間に合うタイムで学校の前に到着できた。

 服はボロボロ、汗はダクダク。荒ぶる心臓を宥めるために深呼吸を数回。

 周囲の人間は俺の姿を見て、ひそひそを話す。

 注目されるにしても女の子だけにして欲しい。

 ええい、ぼそぼそ話すんじゃねぇ。あんな目に遭ったら誰だってこんな姿になるだろうが。

 事情を知らない人にそれを言っても仕方がないんだけどよ。

 鞄を背負い直し、ポケットに手を突っ込んで歩く。

 

 ――あれが…………円…………まじか――

 ――依頼……始業式…………オーラが――

 ――戦徒……三〇……よほど…………――

 

 き、気になる……。

 なんでここまで注目されなきゃいかんのだ。

 うん、俺だってボロボロの制服着た奴がいたらこいつ金ないの? って思うけどさ。

 そこは日本人的なスルースキルで見るなよ、頼むから。

 降り積もった桜の絨毯(じゅうたん)を踏みしめながら玄関へと向かう。

 

「ここまで注目されちゃあ新入生のチェックも出来ねえなぁ……」

 

 ボヤく。まだ見ぬ美少女たちを観察するにもこんな状況じゃやりづらい。

 無視を決めこんでいると後ろから呼びとめるハスキーボイスが一人。

 

「先輩、お、お久しぶりです!」

「ん?」

 

 振りむくと金髪をポニーテールした女子。拳一つ分は低い頭だが女子の平均では高い。誰かとよくみたら見覚えのある顔だ。

 

「あれ……火野、ライカだっけか」

「あ、はいっ、そうっす大石先輩」

「お、おおーっ、半年ぶりか!? そうか今年から高一だもんな!」

 

 随分前だけど麻薬事件のときに一緒にいた後輩の一人だ。

 正直に言えばあの事件は黒歴史の部類だが、月夜に映える金髪の少女は割と印象に残っていた。

 

「ええ、今度は正式に後輩ですんで、機会があればご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いしますっ!」

「教えることって言っても、あんまりないけどなー」

「そんなこと――」

「ライカー、おはよー!」

「あかり?」

 

 軽い足音と共に手をぶんぶん振りながらやってきたのはライトブラウンの髪をツーサイドアップにした小柄な少女。

 ライカと違い、拳一つ分じゃなく、頭一つ分以上小さい。ちょこちょこ走る姿はリスっぽい愛らしさが出ていた。

 明るく向日葵が咲いたような笑顔でやってきた少女は俺とライカを交互に見る。

 

「ライカ、この人、誰なの? なんかボロボロだけど」

「馬鹿あかりっ! “円”(シルクロ)の啓って聞いたことないのかよっ。お前の大好きなアリア先輩と同じ二つ名持ちの凄腕武偵だぞ!」

「アリア先輩と同じっ!? でも、う~~ん……なんか冴えない人だけど」

 

 さ、冴えないって酷い……。

 というかシルクロってなんだ?

 火野さんがあかり? ちゃんにチョップを喰らわせていた。

 

「見た目で判断するなっ! ……すいません先輩、あかりはこういう奴なんで」

「ま、まあ別にいいよ。実際、ボロボロだし」

「依頼でもしてたんですか?」

「いや、まあ、その……な」

 

 正直に言おうか迷った。

 ぶっちゃけ逃げ回っただけだし、かといって可愛い後輩の尊敬の眼差し(憶測)に無様な返答はしたくない。

 返事に迷っていると火野さんはどう思ったのか、

 

「あ……すいません、依頼内容を聞くのはマナー違反ですね。先輩のことだからどーせ無茶したんでしょうけど」

「あーうん、そんなところ」

 

 無茶に違いはない。

 ただUZIの銃口から逃げてただけだけど。

 話題を転換したかったので俺は疑問に思っていたことを聞いてみた。

 

「それより“円”(シルクロ)ってどういうこと?」

「あれ先輩のところに連絡いってないんですか? 四月から正式に“円”の啓という名が世界中に公表されたって。凄い名誉なことなんですよ二つ名って。武偵の憧れですよ!」

「そうそうアリア先輩も双剣双銃(カドラ)のアリアって素敵で可憐な二つ名があるんですよ!」

「二つ名って……」

 

 痛い痛い痛い痛い! なにその厨二名。

 喜色満面な顔で火野さんが言ってくるがたまったもんじゃない。思わず否定の言葉で出ても仕方がないだろう。

 

「いらねー……」

「えぇっ、二つ名ですよ。凄腕の証――」

「痛いんだよ」

「え?」

 

 びっくりしたように目を見開く火野さん。あかりちゃん同様だ。だが正直に言わせて貰おう。

 

「二つ名なんて堂々と名乗ってたら痛い目に遭うだけだ。それなら何もない方がいい」

 

 黒歴史になるだけだからな。

 シルクロの啓(キリッ!)なんてどんな厨二。

 

「誰が付けたか知らないけど、ただの大石啓で十分だよ。二つ名なんて栄誉でも名誉でもなんでもない。痛い目に遭うだけの重しだっての」

 

 キーンコーンカーンコーン

 学校の鐘が鳴る。

 

「やばチャイムだ。始業式が始まっちまう! 火野さんとあかりさんは急がなくて大丈夫なのか?」

「あ、はい……大丈夫です。新入生は別なんでまだ余裕があるんで」

「じゃあ悪いけど俺行くから!」

 

 俺は返事を待たずに、背を向けながら急いで教室へと向かったのだった――

 

 

 

 




アリアAAの主人公、間宮あかり登場です。
たまーに出てきます。

白雪のキャラがつかめない……。
ヤンな属性以外、割と普通過ぎるから扱いに困る。突きぬけたキャラの方が判りやすいなぁ……。

次回はキンジたちの三人称視点です。
勘違いの欠点――視点変更による展開の遅さが出てしまいますが出来るだけ面白くなるよう頑張ります。
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