緋弾のアリア~裏方にいきたい男の物語~   作:蒼海空河

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いつもお読みいただいてありがとうございます。



茜色の空の下で

 いつの時代でも変わらないものはある。

 個人的には、ダルい行事ナンバーワンの始業式&終業式……いや長期休暇を目前にした終業式はまだメンタル的に楽ちんだな。

 ただそんな睡魔との決闘場である始業式を回避することができた。ただし蘭豹や綴先生のジト目を全身に浴びながら、ネチネチお言葉をいただく試練を課されたのでプラマイゼロだった。

 ボロボロな姿で教務科に呼び出され、爆弾事件について聞かれたり、“円”(シルクロ)の啓としての心構えがどうたら言われたり……。

 爆弾で死にかける出来事もあって精神限界を軽く突破した。右から左に聞き流して、途中から「はい、判りました、気を付けます」ばかりしか言っていない。

 まあ名前とかどうでもいいや。

 始業式が終わったころやっと解放され、教室へと向かう。

(うーん、二年生かぁ~修学旅行楽しみだなー)

 高校生活の一大イベント修学旅行。学校にもよるが大概は二年の春~秋が時期だろう。たしか夏にやるって聞いた。

 転校するにしても来年になってしまう。だから修学旅行は武偵高の生徒として行くことになる。

 さすがの武偵高校でも修学旅行くらい普通にやるだろう。

 寺まわったりとか、遊園地いったりとか。

 いい思い出になるし、それまでに仲の良い女友達でもできないかなーと妄想していたら、目的地についていた。

 二年A組。

 入ると最初に目に入ったのは、

 

「よーう始業式フケたキングじゃねえか。しかもイカした格好しやがって。教務科でしっぽり楽しんだかぁ?」

 

 武藤のニヤケ面だった。チェンジだ暑苦しい。しかも変なアダ名を呼ぶな。

 ボロボロの姿にそれだけで終わらすのは地味に凄いが。

 訓練とかでしょっちゅうボロくなるから見慣れたものなのだろう。

 一部の先生方は俺をロックオンしているという認めたくない事実もある。よく格闘訓練では蘭豹にしばかれているからなぁ。

 かといって言われるがままなのもシャクなので、仕返しにこの前の出来事を突いてみる。

 

「これはこれは妹にエロ本捨てられたゴーキー君じゃあーりませんかぁ」

「テ、テンメ、痛いところを突きやがって! あと名前はやめろっての!」

「別に剛気ってかっこいい名前だけどなぁ」

 

 ずっと前に軽口で腐女子が喜びそうな熱い名前だなっていっただけなんだけど……。

 何を思ったのか武藤がちょっとこっち来いと手招きをする。

 良く判らないけど、隣の席だし座りながら顔を寄せる。

 「ここだけの話な」とひそひそ声。

 

「キンジ&不知火ってその手の女子に人気なんだよ。アレな意味で」

 

 おい、まさか。

 

「……腐ってる?」

「ああ、いい具合に腐臭漂う内容だ。偶然、知る機会があったんだが中身は……うえぇっ」

 

 顔色の悪い武藤。それだけで察してしまった。

 ヤバイ方の薔薇が咲き誇っているのだと……お、恐ろしい……。

 禁書なんて生易しいものじゃない。いろんな意味で次元を超えた悪魔学書(グリモア)だ。

 顔がヒクヒクしてしまう。俺はある可能性に至り、身震いした。

 恐る恐る聞いてみる。

 

「……もしかして、俺等も?」

「い、いや、そこは大丈夫だ。俺らはアイツらのオマケ程度にしか思われてないのが現実だからな。『月が二つあるのにスッポンを足す必要なんてないでしょう?』っていってたぜ」

「なんだろう……それはそれで胸をグサリと突き刺された錯覚が……」

「おい、ばかやめろ、轢くぞ。新学期早々、しょっぱい涙が止まらなくなるじゃないかよ。まあそういうわけだから、そっち方面にいかないよう気をつけてるってわけだ」

「お、おう」

 

 ……うん、この話題はなかったことにしよう。

 お互い頷きあう。先ほどのことは記憶から綺麗さっぱり消去しよう。

 無知は罪という言葉はあれど、知らない方が幸せな場合もある。

 気分転換に違う話題でもと思ったとき、変な匂いがした。どうも武藤が発生源のようだ。

 

「お前なんか匂うぞ? ……なんかベリー系のやつ」

「臭そうに言うなって。男なら体臭にも気を付けるべきだとって思ってな。通販で『魅惑のフェロモンβ』って香水買ったんだよ。五万円もしたがいい買い物だったぜ。くくく、ケイ悪く思うなよ。一足先に彼女持ちにさせてもらう!」

「いや……それって典型的な騙し商品じゃ」

「いや以前αバージョンを買ったときは綺麗なお姉さんに道を聞かれたんだ! 当社比二倍の効果ってあったからな、きっとお姉さんも二倍来てくれるさ!」

「その心は?」

「モテるって文字に思わず食指が動いてましたー!」

 

 ガクリと膝をつき項垂れる武藤。まあ俺もそれを見たら思わずクリックしてしまうかもしれない。

 そう考えるとスペシャルネコセットなんて安いもんなのかもなー。香水でトータル十万使ったらしいし。

 つか、話がループしてねえか、これ?

 

 そんなやり取りをしていたら、花も照れそうなほどの爽やかスマイル不知火君が手をあげてやってきた。

 性格的にはすんごい良い奴なんだけど、キャーキャー騒ぐ女子がバックに添えられると非常に複雑だ。

 僻んでも空しいだけなのでスルーする。考えるだけ無駄だ。

 普通に対応する。

 

「やあ、今年も同じクラスだね。一年間よろしく」

「おーっす不知火。つーか俺の前の席なんだなー」

 

 不知火が目の前の机に座る。

 俺の前が不知火、左隣が武藤。

 武偵高って五十音順で決めているわけじゃないみたいなんだよな。

 成績か所属している科なのかは不明だが、まあ一生徒の俺に判るわけがない。

 いつの間にか復活していた武藤も自分の席に座る。

 

「先生に当てられたときは頼むぜケイ!」

「つっても武偵高の先生は勘がいいからなー、一回一学食くらいの御礼は頼むぜ武藤さんよ」

 

 武藤は車輌科(ロジ)のAランクなので武偵としては優秀なのだが、通常の授業の成績はあまり良くない。

 俺は逆に成績はいいが、ランクは低い。なので授業ではお互いサポートしたらメシを奢りあう約束を去年もしていた。

 とはいえ専攻科目が違うので、俺が助けることが多かった。

 

「うぐ、しっかりしてやがるなぁ。まあ最近は懐も暖かいし大丈夫だ」

「おっけー、契約完了ってな!」

 

 武偵とはいえ高校生。一限~四限は通常の授業なこともあって武藤には宿題の手伝いもたまに頼まれているから慣れたものだ。

 午後は所属科の授業か依頼をこなす時間なので、一般的な高校生より勉強時間が少ない。

 武偵高生はどーも偏差値が五十未満と低い。

 よく言えば資格取得や将来のためになる実戦的な授業をしている。悪く言えば脳筋、偏った知識の集団といったところか。

 HRが始まるまで武藤たちと雑談をしようとしたとき、もう一人の存在に気付いた。

 来たなら声でもかけてくれればいいのに、疲れたように突っ伏していた。

 

「よう無事だったみたいだなキンジ! それにしてもなんでぐったりしてるんだ? 怪我はしてなさそうだけど……」

 

 爆発事件に関してはキンジに怪我がないことは遠目だが一応確認できていた。

 そういやどーっかで見たことがある子だと思ったら、三学期のときに出会ってたな。今更だけど。

 確か神崎アリアさんだったはず。

 あんときは爆弾と銃撃のダブルショックな出来事で余裕がなかったけど、声かければよかったかなぁ。

 ……まあ同学年のはずだし、いつか会う事もあるか。

 

 見た目からして気が強そうな子だったし喧嘩したのかもしれない。

 キンジは近づいてくる女子には拒絶オーラ全開だし、あの手のタイプとキンジなら水と油だろう。火薬と拳銃も追加だな。

 俺の声に反応してか、キンジが顔だけこちらに向けた。

 

「……おぉ、ケイかぁ、さっきはありがとうよ。でも頼む、今だけは女の子の話はしないでくれ、頼むから……!」

「わ、判ったから、そう睨むなって。お前、目つきが鋭いから微妙に怖いぞ」

 

 触れて欲しくないようだ。

 御礼を言われるようなことをしたつもりはないけど、とりあえず黙っておく。

 というかあれだけの騒ぎでも武偵高って普通に授業とか始業式をやるんだよなぁ。

 銃撃戦が当たり前にある日常って何年もいると感覚がおかしくなりそうで怖い。

 俺たちの会話に武藤と不知火も興味津々な様子だった。

 どう話そうか悩んでいると、ガラリ教室の扉が開かれる。

 

「皆さーん、席に着いてくださ~い! 二年最初のHRを始めますよー」

 

 入ってきたのは近所のお姉さん的な雰囲気を醸しだす眼鏡の女性。いつも笑顔を絶やさない聖母。

 探偵科の教諭――高天原(たかまがはら)ゆとり先生だった。

 心の中でガッツポーズする。

 よっしゃ! 武偵高で一、二を争うほどの常識人様が担任とは幸先がいいぜ! 

 蘭豹あたりが来た日には絶望しかないからな。弾丸避けの小テストとぬかして、教室内でマシンガンを乱射するなんて朝飯前だし。しかも理由がネットでムカつく奴がいたからなんてやってられん。

 ゆとり先生はおっとりした口調で声をあげながら両手をパンパンと叩く。

 

「はいは~い、注目ちゅうも~く! 早速ですが自己紹介のお時間にしちゃいます! まずは三学期から転入してきた神崎・H・アリアちゃんの紹介をしまーす。入って来て~♪」

「女の子かぁ~! 可愛い子なら嬉しいん、だけ、ど……あれ?」

 

 入ってきたのは桃色髪のツインテールに吊りあがった赤紫の瞳。

 体躯は小学生かと思う容姿だが、俺は彼女が高校生であることを知っている。

 教壇に上がった彼女はキョロキョロとなにかを探すような仕草をした。

 一度、こちらを見たあとで視線が左……彼女から見れば右にズレる。

 たぶんキンジを見たのだろう。

 憮然とした表情。波乱の予感がする。

 とはいえとびきりの美少女には違いない。

 クラスの主に男子連中の熱い視線を浴びながら少女が最初に発したのは、

 

「アタシ、あいつらの隣に座りたい」

 

 俺とキンジを交互に指さして言った。

 カチン――――教室内の空気が固まる。

 キンジは教壇にいるアリアさんの姿を目にした途端、金魚のように口をパクパクさせながら茫然としていた。

 俺は……うん、どう反応すればいいか判らない。

 困惑した空気の中、最初に反応したのは意外にも武藤だった。

 

「マジか! キンジにもようやく春が訪れたんだな! 先生ーオレ変わりまっす! あ、でもケイの隣ってのはちょっとムカつくが……」

 

 野郎あとで校舎裏こいや。

 逡巡した武藤だったが考えは変わらないようだ。

 ゆとり先生もポンッと掌を合わせて喜ぶ。

 

「最近の女の子は積極的ね♪ じゃあ武藤君お願いねぇ~」

「はい了解であります!」

 

 アリアさんは顔を赤くし始めたが、それで止まる奴らでもない。

 俺も大歓迎だ。

 先生が確認するように聞いてきた。

 

「遠山君も大石君もそれでいいかしら~?」

「万事オッケーっす! むしろこっちからお願いしたいですし!」

「えっ!? いやちょっと待てよ、俺はいいなんて一度も――」

「……キンジ、これ返すわ」

 

 アリアさんが細長い革製のベルトをキンジの机に放ってきた。

 え、なんでお前のベルトをアリアさんが持ってんの?

 そんな疑問がよぎった瞬間、キンジの左隣の女子がガタンと勢いよく立ちあがった。

 金髪巨乳の女神様――理子さんだ。

 にししと笑いながら廊下に届くようなでっかい声で言った。

 

「理子判っちゃった! 判っちゃった! これフラグがばっきばきにできてるよ! キー君のベルトをアリアが持っていた――謎だね謎だねっ。その事実が意味するところは、太陽も羨むあっつあつな恋愛真っ最中なんだよ!」

「えええええええええええええええ!?」

 

 クラス中の人間が大声をあげて叫ぶ。

 「あの朴念仁のキンジが……嘘だろ」「遠山君は不知火君とデキてたんじゃないの? 不潔!」「待て、俺とアリアさんがデキている可能性はないのか? 俺の名前もあったよな?」「お前があんな美少女を捕まえられるわけないだろ」などなど教室中で騒ぎ合う。

 一部、ひじょ~~に侮辱的なご発言が混じっていたが、そいつはあとでシメておこう。

 とりあえず俺だけでも弁護することにした。

 

「いや違うだろ。キンジがそんなウラヤマ――じゃなくて恋愛してるのを俺や武藤が気付かないわけねーし」

 

 冷静に突っ込む。

 キンジとはつるむことも多いので割とそこら辺の事情は知っている。

 女子に冷たい態度をとるコイツがそんなオイシイ――いや素敵――でもなくて、朝の爆弾事件に関しても昔からの知り合いって感じじゃなかった。

 ただ俺の発言を聞く奴はいなかった。

 アリアさんは顔を瞬間沸騰させ、キンジはふざけるなとばかりに立ちあがる。

 

「にゃああっ!? そそそんにゃわけないでしょ!」 

「おい理子、誤解を招くようなことを言うな! 俺たちはそんな関係じゃないっ!」

「ねえ、どういうことか教えてよっ。不知火君のことは遊びだったの!?」

「キンジ、お前は俺たちの仲間だと思っていたのに!」

 

 ……アレだなー、俺空気扱いっすねぇ。ああ……今日は塩辛い雨がよく降る日だなー。

 いろいろ心折れたのでストンと席に座る。

 アリアさんがキレたのか「風穴あけるわよ!」と拳銃を乱射して、この場は一応の収束を終えた。

 俺はというと自分の席で不貞腐れていた。

 HRが終わったところでキンジは嫉妬にかられた男子連中に追われてフェードアウト。

 アリアさんは女子連中に囲まれて身動きが取れなくなり、隣の俺は締め出された。

 

 武藤が俺の肩をポンと叩く。

 お前の気持ちはよく判るぜ、といいたげだったが正直、今日はもう疲れた……。精神的に大ダメージを負っていたので適当に会釈を返すくらいしかできなかった。

 顔って……そんなに大切なものなのでしょうか?

 哲学に目覚めそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一人夕暮れの廊下を歩く。コツコツと寂しく靴音だけが反響する。

 爆弾事件について書いた調書に記載漏れがあったとはいえ時間がかかった。。

 他二人の書類が完璧だとは……アリアさんはともかくキンジならミスの一つもしそうなんだけどなあ。

 スタントマンばりに自転車から落下するは、真横から吹き付ける鉛の嵐に遭うはロクなことがない。

 肩を回すとこっていることがわかる。

 ……明日は筋肉痛でもう一度地獄をみるなコレ。

 

「あ~~~、もう働かない。働かないったら働かない。今日は帰りに弁当でも買って帰ろーっと……ん?」

 

 視界の端で僅かに揺れる物体が見えた。

 なんとなくそちらに向くと誰かが窓際にいる。

 ただ海に浮かぶ西日が逆光となり、黒いシルエットと大量のオレンジ光しか見えない。

 俺が脇を通り過ぎようとしたとき、相手から声をかけてきた。

 抑揚の無い聞き覚えのある声で。

 

「大石さんですか。こんばんわ」

「え、あ、あーレキさんか。夕方だけど、こんばんわ?」

 

 近づいてみると愛用のドグラノフを担いだレキさんがいた。

 夕陽を浴びたエメラルドグリーンの髪に一部の隙もない整った容姿は幻想的な魅力に溢れていた。

 クッと首を横に傾ける。

 

「以前レキでいいと言ったはずですが?」

「ああ、ごめんそうだった。失礼がないように、普段からさん付けで呼ぶ癖があるからつい」

「別に気にしていませんよ」

 

 とはいったものの、レキ……に関してはとびきりの美少女だから、つい敬称になりがちなんだけど。

 気押されるというか。

 そういう意味じゃ、キンジって凄いよなー。アイツは男女問わず相手を呼び捨てにする場合が多いし。良いか悪いかは別として。

 

 目の前の胸にスッポリ収まりそうな女神様はじっと上目遣いでこちらを見ていた。

 

「あ、あのー、どうしたんですかね……?」

「………………」

 

 答えない。返したのは視線だけだった。

 底の見えない不思議な双眸。

 夕陽の中で見つめ合う男女――って字面だとムード満点だけど、若干俺はのけぞっている。チキンと陰で罵られそうだが待ってほしい。

 目の前に容姿偏差値七○を余裕で超えるうれっこアイドルが無言でこちらを見る――しかも徐々に陽が落ちていく。整った容姿が逆に不気味さを演出しているのだ。

 照れより先に怖さが先行する。

 どうしようか迷っているとやっと口を開いてくれた。

 

「アナタの目は何を映しているのですか?」

「そりゃ目の前にいるレキさ……レキじゃないんですかね」

 

 えらく抽象的で回りくどい質問だった。

 忘れてた。レキは不思議っ子ちゃんだったのだ。

 随分前に風がどうたらと聞かれた気がするが、よく判らない。

 レキは頭の上にクエッションマークを浮かべて、言葉を変えて聞いてきた。

 

「アリアさんを見るアナタの目を見ていました」

「はい?」

「とても不思議そうな瞳で見ていました」

「は、はぁ」

 

 あ、あのー言葉のキャッチボールをお願いします。

 だが俺の内心が伝わるわけがなく、レキの言葉が続く。

 

「同じく私を見るアナタの目もまた不思議なものをみる目でした。私とアリアさんだけを。一体、アナタはどうしてそんな感情を抱いたのでしょうか。教えてください」

 

 心の奥底まで見抜くような透き通った瞳でこちらを見るレキ。

 静かな校内で逃げても追いかけてきそうだ。俺は答えに窮していた。

 一つだけ思い当たる節があった。

 しかしそれを喋るわけにはいかない。

 おかしいと言われたらショックだし、嫌われる可能性がある。

 正直、誤魔化して逃げたいんだけど……。

 なんかレキが持つドグラノフのライフルスリングを握る手に力が入っている気がする。

 逃げたら撃つ……いやないとは思うけど、逃がしてくれなさそうだ。

 仕方なく言葉を濁すことにした。

 

「不思議というか、ただそう見えただけっていうか……レキだって風で例えることが多いだろ? 俺の場合は風を見るというか、そんな感じで……」

 

 あかん日本語になってねえよ。

 しどろもどろに答えてしまった。

 さすがにダメかなーと思っていたのだが、

 

「なるほど。大石さんの目には風が映るのですね。去年の夏に風を嫌う発言がありましたが、それも見えてしまうが故のものですか。ずっと疑問に思っていたことが解消できてよかったです」

「ああ、うん……」

 

 得心がいったとしきりに頷いている。

 よく判らんけど、それでいいのかレキさんよ。

 

「それでは私は帰ります。さようなら」

「ああ、また明日」

 

 ぺこりとレキさんは頭を下げると近くの階段に向かい姿が見えなくなった。

 はぁっ……き、緊張した……。

 可愛い子のお願いならできるだけ聞きたいけど、さすがなあ。

 

「ピンクやエメラルドグリーンなんてアバンギャルドな髪色に染めてる(・・・・)のが不思議だなーと思ってました、なんて言えるわけないし。綺麗だし似合ってるから、余計突っ込めないんだよなー」

 

 まあ気付かれなかったんだしいいや。

 やることもない。帰ることにした。

 

 体育館や武道場からは「テェイ!」と気合の入った声。

 ボゥーッと汽笛の音が茜空に木霊する。

 いまならビルの灯りが夜の都会を照らし始め、キラキラと夕陽に反射した水面が見られるだろう。

 ふとカメラのことを思いだした。

 

「そうだ。最近、写真を撮る機会が少なかったし、久しぶりに部屋から撮ってみようかな」

 

 学生寮からの眺めはなかなかのものだ。

 疲れていたが趣味は別。あのカシャッというシャッター音は例えようの無い心地良さがある。

 今日は大変な出来事ばかり起きた。心の洗濯でもしないとやってられない。

 適当に買いものでもしたら、撮ろうと思って家路を急いでいると向こう側から誰かが歩いてきた。

 武偵高の制服ではない、髪をオールバックにした二十台前半だろう男性だ。

 黒髪だが鼻が高く多分外人さん。

 関係無いし、通り過ぎようとした。

 

「すまないが少々よろしいかな」

「はい?」

 

 流暢な日本語で話しかけられた。道案内でも頼まれるかと思ったんだけど。

 

「君、この緋色に染まった空は美しいとは思わないかい。美しいといえば、桜という木はとても儚く、ゆえに一瞬の輝きが人々の心を魅了する。英国でもこれほどのものは早々ない。わざわざ来た甲斐があったというものだ」

「あーはい、それはよかったですねー。それでなんか御用ですか?」

「昔から計画を練ってきてやっと花開こうとしているんだ。やっと辿りついた。時間も残り少ない今、余計なものまで抱えこまれては困るのだ。だから直々にやってきた。君が無能か有能かを確かめるために。だから……もし舞台にすらあがれない駒なら――――」

 

 大袈裟に両手を広げ、朗々と話を続ける。こちらの返答は一切無視で。

 …………春、だなぁ。

 お父さんお母さん、アナタ方の息子はいま変な男に絡まれています。

 どーか助けていただけないでしょうか。いい加減、お家に帰りたいです。

 

 語り終えた男はじっとこちらの目を見ながら最後にこう言った。

 

「今ここで…………死んでもらおうと思う。修正可能な内に、ね」

 

 二人の男の間に風が吹き、どこかで悲鳴のような声が聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




現実にアリアやレキの髪色をした少女がいたら割と驚くと思います。
ゲームやアニメではスルーする場合が大半ですが。


もう三話使っているのに一日経っていないという事実。
段取り悪くてすいません……。
いろいろ伏線張ったりしているので、寛大なお心で読んでいただけると助かります。

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