緋弾のアリア~裏方にいきたい男の物語~   作:蒼海空河

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試験ー1

「蘭豹先生!」

「んだよ?」

「どうもこうもありません! 何故、一般中学出身の生徒を対テロ試験に捻じ込んだんですか!? あれは武偵中出身の者じゃなければダメでしょう!!」

 

 禿頭の先生が蘭豹に詰め寄る。

 問題というのは生徒の一人――大石啓という少年を危険な実技試験に参加させるというものだ。

 武偵中の生徒は総じて銃器の扱いやテロなどの事件に対処法を知っている。

 なのに蘭豹は試験官という立場を利用し、かの生徒は筆記でなく実技で実力を測るべし、と現場判断を下したのだ。

 万が一のことがあってはならない。少なくとも武偵高に所属していない時点では。

 そのことを詰問する禿頭だが彼女の表情は変わらない。

 めんごくせーな、と吐き捨てるように呟くと説明をし始める。

 

「九発中四発」

「はい?」

「重役出勤の、大石啓の最初の成績や」

「その成績で決めたと? 初めてなら上々でしょうが、命中率80%を超える受験生もいました。彼を理由に沿える意味が判りませんっ」

 

 懐からジッポライターを取り出し、口にくわえた煙草に火を付ける。

 肺の中の煙をゆっくり吐き出しながら蘭豹は言う。

 

「肩と腕。犯人制圧に欠かせない二点を正確無比の精度で撃ち抜いたんや。まあ腕は狙わんてもいいんだが……。もう一度やらせたら九発――全弾を二点に交互で打ちぬく神業を見せた。この意味くらいおどれだって判るだろ」

「それは……」

 

 蘭豹の意図が判り言葉に窮する相手。

 射撃はセンスだ。どんなに努力しても秀才は天才になりえない――否。努力では到底達しえない基準が他の技能より格段に低いのだ。

 ダメな奴はいつまで経ってもダメ。

 逆に神より授かった才能を持つ奴は、初めてでも容易に目標を撃ち抜ける。やり方さえわかれば。

 大石啓という少年は、交互に正確に……たった二点、二十五m先の数センチの穴を狙い撃ちできる才能を見せたのだ。

 慣れない銃で修正したのか、撃ちはじめこそブレてはいたが、それでも二発ずつ計四発を当てた。まったく同じ場所に。

 針の穴を通す、とはまさにこのことだ。

 並の才能ではできない。

 蘭豹はその底知れない才能を認め、だからこそ他の実力者が集う試験に放り込んだ。

 身体も鍛えている。

 射撃もでき、さらに肩と腕だけを狙う非殺傷の精神も持つ。

 武偵としての心構えは上々。

 

「文句なら試験後に聞いてやる。だが他の奴らが度肝を抜く結果を引っさげるだろうやけどな」

「…………判りました。ですが事故があってはいけない。彼には私が付いておきますがよろしいですね?」

「勝手にすりゃいい。ついでに防弾制服、煙幕&閃光弾、マガジン二つ届けてやってくれや。アタシはモニター室で監督だからな」

「ええ」

 

 教諭と別れ、専用のモニター室へと向かう蘭豹。

 歩いて数分、目的の部屋へ入る。

 全員、教務科(マスターズ)――ようは教師陣が集まっていた。

 この試験は強襲科(アサルト)。犯人逮捕では最前線で戦う武偵高でも一、二を争う危険なものだ。

 今回は敷地内の対テロ用として練習に使っているビル四つを丸々使用した大規模な試験だった。これは試験監督である蘭豹のゴリ押しで決まったもの。スパルタな彼女流の試験ついでに武偵の実力も鍛えてしまおうという理由だ。

 ただ弊害として教諭の手が足りなくなってしまった。

 そのためある条件付きで他の教師の手を借りていたのだった

 室内を見回す。すると本来いるべき人間が一人いないことに気づく。

 

「おい、チャンはどこいった鼠ィ」

「チ? チャンちゃんは忙しいからねずちゃんに任せたーって」

「あんのヤツ。フケたか」

 

 答えたのは諜報科の教諭の一人、大逃鉄鼠(だいとうてっさ)

 お団子頭と小学生にしか見えない合法ロリっぷりが特徴。だが、アメリカのペンタゴンにさえ鼻歌まじりに侵入できるといわれる現役Sランク武偵だ。

 彼女はいつもの朗らかな笑顔でチャンがいないと言った。

 チャン・ウー……諜報科の教諭兼徒友(アミカ)制度の副監督。いつも姿を見せず声だけしか聞こえないのだが、今回は本当にいないらしい。仕方ない。

 蘭豹は画面で映る一人の少年について聞いた。

 

「おい鼠、モニター下のふらふらしてる受験生をどう思う?」

「ちー、あーあの隙だらけの子? 蘭ちゃんが推薦したんだっけ」

「……今度その名で呼んだら生皮剥いで死なす!」

「ちぎゃあ!?」

 

 ゲンコツをかまそうとした蘭豹の手をすり抜け、部屋の隅に逃走する鼠。

 こういうときの逃げ足は見事なものだった。

 ふるふる震えながら、気を逸らすために「あ、あの子のことだけど」と言う。

 

「み、ミジンコにしか思えない」

「……ほう」

 

 彼女は生来の怖がりだ。逆にだからこそ侵入など諜報任務において無類の実力を発揮できる。

 その鉄鼠独特の評価が相手を大きさで表現すること。

 鼠を基準に、相手の気配を大小を言い表す。

 つまりミジンコとは、

 

「まったく、これっぽっちも、ちり芥ですら劣る力なの。だから、どうして蘭ちゃ……蘭豹せんせが推薦したか全然判らないの」

 

 蘭ちゃ、でぎろりと睨まれながらも、彼女の評価はお世辞にも良いものではなかった。

 いや、最低最悪のものといっていい。

 びくびくしながら上目使いをする彼女に蘭豹も頷く。

 

「なるほど。アタシも同感や」

「へ?」

「ゴミでへタレでクズにしか思えねえ。ちょっとハジキがうまいだけ。他の奴には大袈裟に言ったが、ぶっちゃけ素人やろな」

「じゃ、じゃあなんで……」

「勘」

「勘って……」

「お前も良く知ってるやろうが、窮鼠(きゅうそ)猫をかむってよぉ。死にかければ案外化けるかもと思ってなわけや」

「ちぃ……なんか一部、気になる単語があるけど、まあいいや。もう始まるし」

「お手並み拝見ってやつやな」

 

 平面な画面に大石啓が映る。

 きょろきょろと挙動不審な彼は今動きだそうとしていた。

 

 

 

 ×  ×  ×  ×

 

 

 

 うすぐらい灰色の空間。

 もう逃げていいですか。帰ってネットの写真画像とか眺めたいんだけど。

 

「とまあ、愚痴ってもしょーがないのは判るけどさあ……ゴム弾使ってサバイバルごっことか、なあ」

 

 俺が渡されたのは、マガジン二つと煙幕弾&閃光弾。そして赤茶色の少し派手目な服――防弾制服とかいうらしい。

 制服と防弾ってちょっと訳が判らないんですけどね……弾丸が直撃したら普通に死ぬんじゃないの?

 俺が来ていた学校の制服より厚めだけど、さ。それでも薄い。

 防弾チョッキって着たことあるけど重い。十キログラムはある。走ったら一キロともたず汗だくだくになるくらいの代物だ。

 それでも弾をまともに喰らえば骨折しかねない。それをこのペラペラな制服で防げるのか?

 無理っす。ぜってー撃たれたくねえ。

 もしかしたら、武偵高ならではの超技術とかあるのかもしれんが、それでも戦いたくない。

 

「あー、どーすりゃいっかな…………ひっ!」

 

 パンパンとどこかで銃声が聞こえた。

 破裂音がする。おそらく試験とやらが始まっているからだろう。

 正直逃げたい。だがあのマフィアすら裸足で逃げそうな先生にシバかれそうでいやだし、曲がりなりにもじーさんが申し込んだ高校だ。

(でも……無理だ……人なんて撃ちたくない。だって当たりどころが悪ければ死ぬだろ?)

 俺をがんじがらめにしばり付けるのは前世の記憶だった。

 レーザールール……それは自衛隊で教官からいやってほど叩きこまれた規則だ。

 銃口からレーザーが出ていると思え。だから必要じゃないときは決して銃口を人に向けてはならない。

 根本的にダメなのだ。俺は。的は撃てても人など撃てるわけがない。

 

 うじうじ悩んでいた俺は腰にぶら下げた手榴弾型の閃光弾をこつこつ叩きながら、フロア内をうろうろする。

 幸い室内は廃墟ビルを想定しているせいか、ドラム缶やら壊れた机やらゴミが散乱している。

 しかも日当たりが悪く部屋の隅は、局地的に陽が沈んだように暗い。

 角っこで隠れながらしばらく時間を過ごした。

 十分か……一時間か……ときは過ぎる。

 そして決断した。

(帰ろう。ビル内で戦うならそっと一階から外に出てしまえばいい。じーさんには悪いけど、たとえゴム弾でも人に銃を向けるなんて御免だ。失格なら失格にしろ)

 やけ糞だった。

 とはいえ誰かにあってバン! は回避したい。

 そろそろと猫も気づかぬスピードで暗がりから遮蔽物を利用しつつ、動きだす。

 こういうときはむしろ何気ない動作で歩くのがいい。

 じーさんの稽古から逃げているときに役だったやりかただ。

 慣れない動作はむしろコケたり、物音を発しやすい。人間一番慣れている動作こそ理想の歩法。

 さりげに激写するために鍛えた俺なりの生きる糧さ! ……なんか言ってて空しくなってきた。早く帰ろう……。

 ドンッ。

 また上の甲斐から破裂音がした。近い。

 まるで死神が俺を急かしているようだ。

 角を曲がりもうすぐ階下へ――というところで足もとに転がっていた石を蹴飛ばしてしまった。

 そして目の前には。

 

「――な、背後にいるだと!?」

「あ」

 

 どーもこんにちわとばかりにお互い目を合わせる。すべての時が止まった。

 動いたのはおっさんだ。

 腰のホルスターから拳銃を取りだし、こちらに銃口を合わせようとする。

 つか至近距離で撃つ気!? やめてくれ死んじまう!

 

「いっきなりっ! 銃向けんなや!」

「この……離せ!」

「銃口向けんなって親に教えられなかったんかよっ」

 

 無意識に銃口から逃れようとして上にカチあげた。相手が俺を撃とうとしたのか天井に向けて銃弾が発射される。

 もう嫌だ、なんでこんな事態になってんのさ! もう負けでいいから…………ってあ、降参すりゃいいじゃん!

 そう思い、力を緩めると当然相手が俺に覆いかぶさる恰好となった。

 俺は負けです、と言おうとしたのだが、ゴンッと鈍い音がした。

 驚愕の表情で俺を見るおっさん。

 え、どうしたの!?

 

「ガァッ!? ……ま……これ、ねら……って……――――!?」

「え、おいおいどうしたんだよ! ……石?」

 

 バラバラと降ってきた石の破片。

 なんだよこれ。

 上を見ると天井の一部がごっそりと欠けていた。

 えーーーつまりあれですか。古いビルの天井に銃弾を撃ち込まれたせいでおっこちた、と。

 天井のコンクリが相手の後頭部にドガン、って?

 

「お、お~いおっさん生きてるか。息はしてるけど。……もしかしなくてもやばいよな。結構デカイ石だったし」

 

 ちらりと見る。

 白目を向いたむさいおっさん。享年、推定40歳。

 冷たく、嫌な汗が背筋を撫でるように流れる。

 

「やばい……脳の大事なところって後頭部に集中してるじゃねえか!? おい起きてくれっ、頼むから!」

 

 頭を揺らさんよう、胸を揺らす。どうしようと思っていると。

 

「動くな! そのまま手を上げろ!」

「だぁぁぁぁ! なんでこうなるんだよ!」

 

 今度は筋肉ムキムキの……つか俺が最初きたときスクワットしてた野郎じゃねえか。

 丁度いい!

 

「おいアンタちょっとこっち来てくれ! このおっさん後頭部に石直撃しちまったんだよ!」

「そんなことより武器を捨てて投降しろ!」 

「そんなことだと? おい、このサッカーボールクラスのコンクリが頭にぶつかったんだぞ!? 最悪、記憶障害とか起こるかもしれねえ。でも俺じゃどうしていいかわかんないんだよ。お前武偵目指してんだろ! 怪我人の介抱とサバイバルごっこどっちが大事なんだよくそったれ!」

「なッ!? ……ぐ」

 

 どうしていいか判らない俺は怒鳴り声をあげる。

 口をつむぐ筋肉だるま。

 必死の訴えが功を奏したのか、拳銃を降ろして近づいてきた。

 

「……わかった。とりあえず一時休戦だ」

「ああ、助かる。情けない話だが応急処置の仕方もよう判らんから」

「一般校出身だってな。そりゃ付属の俺らと違ってしかたねえさ」 

 

 なんだ……すげえイイ奴じゃん。

 筋肉だるまっていうと馬鹿ってイメージがあるんだけど勝手にそう思っててすまん……。

 俺は横にどけようと立ち上がろうとしたのだが、そのとき変なひっかかりを覚えた。

 ピンッ!

 

「え?」

「は?」

 

 ドドンッ!

 音に遅れてくるのは真っ白な煙と閃光。

 耳をつんざく大轟音。

 

「ぐわッ!? 目がァァァァァァ!!」

「耳が……ぐわんって!」 

 

 もしかしなくても腰のピンひっこ抜いちまった!?

 上を向いてたおかげで閃光はあまり目に入らんかったけど……耳……みみがァッ! 鼓膜破れるかとッ。

 まじすんません!

 と、とりあえず立たないとあれだよな。

 

「くっそまじ厄日だ……ん、なんだこれ?」

 

 足先にぶつかる物体。

 硬く重いようでそのままにするとやばいと思い、拾い上げる。たぶん拳銃だろうな。床に置いたままじゃ危険だ。返そう。

 煙幕も晴れてきたし。

 俺はさっきの男の前に行こうとして、

 コツン。

 

「あ……?」

「え……?」

 

 

 拳銃持って歩きだそうと手を振った。

 なにかにぶつかる。

 相手の眉間にゼロ距離で銃口をあて見下ろす俺。

 人の気配を察し、上を見上げて事態を把握していく筋肉さん。

 おもむろに両手をあげて、

 

「こ、降参だ。まいった……」

「いや、俺」

「いい、何も言うな。お前は正しいし、卑怯じゃない。一般校出身なら手札が少なくて当然なんだ。どんな手だって駆使しなくちゃいけないだろう。俺が、甘かった。……テロじゃ民間人を装った犯人だっている。こんなんじゃまだまだだな……」

 

 やだこのイケメンかっこいい…………じゃねーよ! 俺の話を……。

 

「だか――」

「慰めはいらない。恥の上塗りだ。ほれ使ってない煙幕と閃光弾やるよ」

 

 だめだ俺の話を聞く気がねぇ!

 野暮なことは言いっこなしだぜ、みたいに暑苦しい見た目と反して爽やか過ぎるお兄さんだ。

 これ偶然でしたって言ったら傷つく、よな?

 言わぬが花なのかな……。

 

「……じゃあそこのおっさんに介抱頼んでいい? 俺、ちょっくらひとっ走りしてせんせー見つけてくっから」

「あん? その設定はもういいって…………いや武偵はそれぞれ自分のスタイルがあるし、俺がいうことじゃないか。頑張れよ新人」

「あ、ああ……」

 

 もうどうにでもなれや。

 俺は貰った煙幕&閃光弾を受け取りつつ、階下へと向かった。

 だが途中でなにかが反射する光が見えた。

 なにげなしにそっちを見る。

 

「……ま、いっか」

 

 手に持ったリボルバータイプの拳銃をひらひらさせて降りる。あ、拳銃もパクッちまった……。

 

「………………」

 

 

 

 

 

 夕陽が廃ビルの窓から差し込む。

 茜色の屋内で俺は息をひそめながら歩く。おっさんは筋肉さんがいるし大丈夫だろうけど、安全圏に行きたい気持ちは変わらない。

 あれから三十分。

 随分静かになったもんだ。

 今は四階。もうすぐだ。

 くそ、ドクドク心臓が鳴っていやがる。

 こういう息が詰まるタイプのものはホント好きになれねえ。

 ジョットコースターならまだいいのに。

 

「もう誰にも会いませんように……」

 

 ぼそっと呟く。マジでお願いしたい。

 でもこういうことを言うとお約束のように、

 

「ちょっとお兄さんいいかしら?」

「あーへいへいそっすよねー、そうなりますよねー」

 

 まーた捕まった。今度は前髪ぱっつんの黒髪ロングさん。背が低いけど本当に高校生?

 でも幼い体躯に対して、冷たい表情がすごくお似合いだ。

 結論――とっても強そうです。しかもSっ気ありそう。こういうパターンのお約束として。

 現実逃避したい。

 後ろを振り向く。誰もいない。

 向き直す。

 

「なにかしら?」

 

 無論敵さんがいる。このビル、すぐに降りれないようにか階段が両端にある。

 つまりフロアの西、東、西、東ってなってるからめんどくさい。

 その途中に敵がいる以上、スルーできない。

 拳を握る。ぐっぱーしながら考える。

 うん、降参しま――

 

「勘違いしないで欲しいのだけど私、失格してますから」

「え、あ、ああーなんだ! んじゃなんてここに?」

「降りてる途中なのですけど、よろしかったらエスコートしてくださらない? あ、拳銃も既に盗られてるので」

 

 ちらっと流し眼でこちらを見る少女。風でスカートが気持ち浮き上がる。

 10mは開いているのにふわりとバラの甘い香りがした。

 

「そういうことならお任せあれ!」

「あら嬉しい。じゃあお願いしますねナイトさん♪」

 

 男って単純。うるせいこちとらストレスがマッハでやばいんだよ。

 あのふあっふあなスカートの内部に惹かれるのは間違いじゃない! うん。

 罠っぽい気がしないでもないけど、どーせ負けていいし。

 相手が手を差し出す。え、手を繋ごうって?

 是非是非やらせていただきます!

 カツン。

 

「……おっとっと」

 

 足もとの出っ張りに引っかかったようだ。

 中腰になる。

 

「あら、大丈夫ですか?」

「へーきへー――」

 

 バババンッ!

 

「――き?」

「か、はぁ……そん……」

 

 がくりと倒れる女生徒。

 薄い、もとい胸部装甲が軽めの胸から落ちるのは三つの弾。撃たれた?

 だがそれより重要なのは、

 

「……パン――ッ!」

 

 仰向けで倒れた少女。俺がすべきは銃弾の主に撃たれないよう逃げること。

 だが動けない! 動けない!

 

「は、はぁ……はぁ……!」

 

 なぜならそこにパンツがあるから。こう見えそうなんだよ!

 真っ白な肌と黒のハイストが生み出す芸術線。まさにこの世の楽園。見ないなんてとんでもない。

 すぐさま介抱せねば!

 

 ――――ってはっ!?

 いやいやいや、ダメだダメだ。いくらパンツァーニストの俺でもそれはイカン。これは自分から求めるものではない。

 風で揺れる刹那の一瞬こそこのスカートの奥の宝は光輝くのだ。下から覗いたらただの変態! 

 犯罪行為を犯そうとする愚か者には、ただの布切れになってしまう。

 

 ……く……恐ろしや。理性が飛びそうだった。まるでそう、毒だ。するすると内側から俺を犯そうとした媚毒。だがしかし俺は耐えたぜ! もう二度とこんなことはしないと誓おう。

 

「俺に毒は効かん……二度目はない……ッ!」

 

 だから黒パンティ(推定)さん今度は風におなしゃす!

 俺が女生徒を見てると足音が聞こえてきた。

 顔を上げてそちらを見る。

 

「お前は……キンジか」

「さっきぶりだな。はは……」

「なにがおかしい」

「だって敵同士なのに協力し合うってのがな。それに女生徒は基本傷つけないのが主義だから気絶だけさせるって案外難しいもんだ。毒なんて危ないものを使う子だ。助けるためなら仕方ない」

「……判らん」

 

 さっぱり判らん。

 協力? 毒?

 武偵さんってどうしてこう一般人に判らない言葉で話したかるのかね。

 でもいいや。どーでも。

 相手は爽やかに笑っているが目は全然笑ってない。

 構えてこそいないが銃を片手にこちらをどうしようか考えているのだろう。

 だがそーはいかない。もう終わりだ。

 俺はスッと手をあげ、

 

「降参だ、こーさん」

「その手は喰わない。兎のように振舞い、隠した獅子の牙で喰らう。一般であることを逆手にとった見事な策士だった」

 

 おーい! 犯人が両手あげてるのにダメなんすか!

 

「だから降参するって! ほらほら、拳銃落としちゃうよ! 両手でバンザイしちゃうよ!」

「油断を誘おうという作戦は通じない。隙だらけで教官を倒す手腕を見ていたからな……アンタは間違いなく、この試験で最強の相手だ」 

「だーかーらーッ!」

 

 なんでこう俺の行動を裏目になるの。ど、どうすりゃいい。痛いのはごめんだ。

 右手を握りしめる。と硬い感触が。

 思いつく。そう拳銃を捨てればいいじゃん。

 思い立ったが即行動。

 俺は数m先に銃を投げ捨てた。

 怪訝そうなキンジ。銃を構えつつ、俺の意図を探ろうとした。

 だが拳銃がコンクリートの上に落ちた瞬間、

 バンッ!

 一筋の弾丸の飛翔しキンジの額へと。

 

「な――くぅ!? ……まさかそうくるとはな」

「…………」

 

 絶句。いろんな意味で絶句した。

 暴発。

 リボルバーの撃鉄を上げっぱなしだった……。落ちた瞬間運悪く撃鉄が落ちて発射。それがキンジの眉間に偶然直撃しかけた、と。

 

 キンジが人間の限界を超えてるんじゃないかという反射神経で銃弾を避けたのが凄すぎる。

 なにが嬉しいのかはっはっは、と笑いながら眉間を抑えていた。

 

「引き金を引かず、投げた拳銃の暴発で死角から撃つ、しかも正確に眉間を狙って、か。兄さんの不可視の銃撃(インヴィジビレ)と同系統の技術だな。さしずめ無意識の銃弾(アンコンビレ)。ますます油断ならない」

「あーうん、もーどーでもいいや……」

 

 たらりと血を流しているのに凄い笑顔だ。まるで好敵手にあえた、とばかりに。

 言葉じゃ通じあえない、よなぁ。なんかもうどこぞの戦闘民族っぽいし。

 盛り上がっているのかキンジはさあやろうじゃないか、とばかりに臨戦態勢に移っている。

 俺も一つの決意を胸にシグを構えた。

 

「やる気になったか。そうこなくちゃな!」

「ああ……やる気になったよ。手段は一つしかない」

「そう、やることは一つすなわち――」

「逃げることだばっきゃろーーーー!!!!」

「たたかい……ってそう来るか!?」

「まともにやってられるかってんだ!」

 

 へタレと言いたければ言えばいい!

 三十六計逃げるにしかず。

 こうなったら全速力で一階まで駆け降りるんだ。最初からこうすりゃよかったんだ。

 階段を三段抜かしで降りていく。

 キンジは俺のこの行動も予測していたのか、すぐ背後から追っている気配がする。もう男のケツなんて追うじゃねえよ!

 キンジの銃弾であろう――時折ピュンピュンと背後でいやな発射音がするが気にしない。気にしないっったら気にしねえ。

 俺は前だけを見て走るんだ!

 勢いよく降りたせいか、煙幕と閃光弾を落としてしまった。

 ピンごとだから爆発しない。よかった、もう一度破裂したらのたうちまわること確実だった。

 

 そして、三階にところでガランゴロンガランゴロンと鐘の音が響く。

 

「鐘の音……?」

「よーしガキどもー! 試験終了や!」

「お、終わったのか……は、ははは……はぁ~~~~~」

 

 いつからいたのか蘭豹先生が手を叩いてやってきた。

 肩の力が抜ける。

 まじで……本当に……疲れた。

 

「おい大石、貸し出した装備一式を返せや」

「あーはいどうぞ」

 

 シグを渡すとなにやらいじっている。そして更に笑みを深めて高笑い。……何したいの?

 

「ほう、そう来たか……クックックッ。んだよ、しけた面しやがって。入学したらたっぷり絞ってやるからな覚えとけ!」

「え、は、はあ……」

 

 インパラを見つけたハイエナみたいな顔の蘭豹先生。怖いっす。

 あと俺は逃げてばっかだったから落ちるんじゃないかと。

 

「とりあえず早期入寮の準備は終わっている。今日からここがお前の学校や」

「は……いぃ? そうきにゅうりょうってなんですか?」

「なんだ聞いてないのか? お前の祖父って名乗るじじいが、合格したらすぐ武偵高校に入れて欲しいって申請書類に入ってってのや。武偵は特殊な職業だ。高校入学までの一ヵ月弱。武偵付属中三年分の内容をみっっっっっっちり叩きこんでやるから覚悟しなっ!」

「い、いやでも不合格じゃ意味ないんじゃ……」

 

 最後の希望にすがり、そう聞いてみると口角を広げる先生。

 

「安心しろ、武偵は結果が全てだ。試験の裁定では、BいやAはかたい。……もしかしたらSランク武偵の誕生かもしれんな」

「つ、つまり……?」

「合格や」

「…………うっそぉ」

 

 

 良く判らないまま東京武偵高校に受かってしまった。

 しかも後日送られた書類にはSランク相当の文字。

 武偵のランクは低い順にE、D、C、B、A、S……そして世界で数人しかいない(ロイヤル)

 上から二番目のランク。

 野球ならいきなり一軍スタメンみたいなもんなのだろうか。逃げたい。けど合格した以上やめるにやめられなかった。もう流されるしか俺に残された選択肢はなかった。 

 

 とりあえず死亡率がトップとかいう強襲科に入らされそうになり、全力拒否。

 なんか鼠とかいうチビ可愛い先生に助けられ、諜報科へ入ることになった。

 もう、ホント、どうしてなんだろうね。

 

「うわぁぁぁ……死にそう………………あ、あの無表情&ヘッドホンさん可愛い。風でも吹かんかな?」

 

 武偵高校ってレベルの高い子が多いようだ。少しだけ救われた。

 なんか現金だなと思いつつ俺は東京武偵高校諜報科へと入ることになるのだった――

 

 

 

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