真・恋姫†一刀無双 ~初出会は少女仙人-混沌の外史~ 作:カメル~ン
真っ黒なぼんやりとした中、意識が少しずつ掴め始めた。瞼は未だ閉じてられている。
一刀は、自分が普通に眠っていたのだと思っていた。
しかし、そうではない。ふと、急速に記憶が、途切れた時の瞬間を思い出した。
自分は……雲華に狩られた?……と。
また同時に、順々と雲華に対して行なったそれまでのムチモモなでなで等、『不埒な行為』の数々を思い出していた。
そして最後に、『どこでも掴んでいい』とは言われていたが、我ながら本当に『栄光の部位』を掴んでしまうとは……プリンッと柔らかかったなぁ♪……あ、イヤイヤ! 調子に乗り過ぎてしまったと、自分は修行中に一体何をやっているんだろうと、若気の至りとは言え、一刀には猛烈に後悔の念が湧いてきていた。
だが……ほんのちょっとだけ……手をワキワキすればよかったかなぁ、とも考えていた。
……当然ながら、また晩飯抜きなんですよね? そして、再び冷たい長椅子の上に放り出られて、きっと独り寂しい朝を迎えているんだろうなぁと思っているのだが………どうもおかしい。
なにやら頭の後ろが、暖かく……そして程よく柔らかかったり……。さらになにげなく、周囲に女の子のいい香りもするのですが。
一刀は、ゆっくりと目を開けてみる。すると―――
雲華が心配そうな、少し申し訳なさそうな顔をして、凄く近い位置の上から一刀の表情の様子を見ていた。
周りの景色が赤くなっている。朝焼けなのか……一瞬、気温の感覚や周囲の木々を見てみたが、影の方向から夕暮れか? 一刀は、目覚めた直後で少し回っていない頭ながら考える。真剣に考える。
一つ、状況からしてこれは『ご褒美』的要素の強い、伝説のムチムチぃな『ひざまくら』状態ではないだろうか?
一つ、著しい失態により、気を失ったのに晩飯が食べれそうである。
(……何ガオコッテイルンダロウ?)
一刀は、かつて経験したことのないこの状況に―――恐怖した。
『悪魔』さまのお怒りが限界を超えて……まさか『最後の晩餐』の食材が、自分自身になったのではないだろうか?と。『ひざまくら』は食材の『熟成』に必要だからではないかと……。
そんな『バカ』なことを考えている一刀へ、ずっと静かに待っていたのだろうか、膝の上へ大事に頭を乗せている雲華が一刀に声を掛けてくる。
「大丈夫?『超速気』で思わず殴っちゃったから……ごめんね」
そう言って、なんと一刀へ謝ってきたのだ。
そういえば、首の角度や顔の右側の形や感覚が『少し』変わっているような気もしないでもない。しかし一刀は、正直なところ『超速気』でと聞いて、首がどこかへ飛んで行ってなくてよかった~と考えていたので、にこやかに雲華へ答える。どうやら、生命の危険を感じて、瞬間的に『剛気』によって一刀の体へそれなりの防御力が働いたのだろう。
「大丈夫だよ。生きてるし……それに、今、雲華のしてくれてる膝枕で元気になりそうだから」
一刀は一度目を閉じると、快適を示すように少し首をスリスリするように振って、その枕の高性能さを改めて『堪能』する。
すると、気が一刀の体に無駄に満ちるのである。同時に瞬間完全回復するのであった。
チャイナドレスが膝上程まではあるので、直接的なその肌の滑らかさは『堪能』出来ないのが少々残念だが、生地の肌触りもよいので悪くない……悪くないよ! スリスリは『正義』であり、自分も悪くない。これは不可抗力というものだと、一刀は最後に変な持論を頭の中で考えながら、閉じていた目を開いて雲華を見る。
そんな一刀の、顔の眉を寄せたりニヤけたりの三段変化から、感情が丸わかりの様子を黙って見守っていた雲華は、少し顔を赤らめながらも呆れるように一刀へ言う。
「さあ、もう体はすっかり回復したでしょ? ……そろそろ起きなさい。夕食の準備をしないと」
「そうだね……膝枕……名残惜しいけど、すごく未練あるけど」
雲華から促されてながらも、その果てなき願望を口にしつつ、一刀は横に手を付いてゆっくりと頭を起こし立ち上がる。
雲華も立ち上がり、一刀の前へ立つと、上目使いに照れながらこう言ってくれる。
「……そんなに良かったの? しょうがないわね……またしてあげる……ね」
「ホント!? やったー!」
一刀の嬉しそうな顔を見る雲華だが、釘を刺すのも忘れない。
「次の鬼ごっこは、こうは行かないから……しっかりやるのよ。それと……ん」
雲華はそう言ったところで、少し遠慮がちに一刀の右手の近い所へ左手を出してきた。一刀の『バカ』な脳ミソが回る。うーむ。どうやら、雲華はお礼が先に欲しいらしい。手を握って、繋いでもらうという『お礼』が!
「は~い♪」
そう言って、一刀は指の間が大きく開いて出されていた雲華の左手に、自分も指を開いて合わせるようにしっかりと組んで繋ぐ。
すると、雲華はとても嬉しそうに笑顔で一刀へ見上げるように顔を向けると「さあ中に戻りましょう」と言って、ゆっくりとゆっくりと、歩幅も短く無駄にくっ付いて梯子のところまで行き、上りにくいはずなのだが、あえて腕を繋いだまま梯子を二人で上っていった。
『バカ』なのだがしょうがないのである。誰も見ていないし、手を離した方が安全だと教えてくれる人もいないのだから。もはや諦めが肝心である。
部屋に入ってもまだ手を繋いでいた二人だが、さすがに食事の用意をするためには手を離さなければならなかった。調理室のところまで来ると雲華が「また、後でね」と恥ずかしそうに言いながら、手を繋いでいないその右手も今組んでいる一刀との手を包むように重ねると名残惜しそうに組んだ左手を組み外すと、左の手を小さく振りながらにこやかに調理室へ入って行った。
一刀は、部屋に入ってからも、調理室前で手を離した今も、だらしなく『ほわわん』とした表情で、おまけに「あとなの?あとなの?」と意味不明な言葉を呟きながら、まだそこに立ち尽くしていた。
もはや通路に立ち尽くした邪魔なオブジェと化していたが、さすがに三分程すると、意識が戻って来たようであった。
「おっといけない。基本、基本」と今更か?と言われそうなことを口にしながら、窓横の台で手を洗うと、食卓拭き用の台拭きを水で濯いで食卓を拭いたり、長椅子に座って床が汚れていないか確認していると、調理室から出てきた雲華によって机へお皿が一気に並んでゆく。
以前からずっとそうだったかのように、二人の食事は昼と同じように二人分横に並べられている。
「さあ一刀、座って」
雲華は先に一刀へ座るように勧める。一刀の『バカ』となっている脳ミソは桃色に冴えていた。それによると、どうやら彼女は一刀の横へピッタリくっ付いて座りたいらしい……。なので、基準となる一刀にまず座って欲しかったのだ。
レディに待たせるなど言語道断である。速やかに一刀は着席すると、雲華がくっ付いてくるのを彼女の方を軽く笑顔で見守りながら待つ。すると雲華は恥ずかしそうに静々と期待通りに桃尻をくっ付けて来て座ってくれるのであった。
「さあ、食べましょう」
「ああ。いただきます」
「いただきます」
この揺蕩(たゆた)う、ほのぼのとした食事が進む状況の中にもかかわらず、一刀の今の脳ミソには、フィットした桃尻についても大いに関心はあるのだが、それ以上に『あの無念』を晴らさなければならないという考えが勝っていた。その思いで溢れかえりだしていた。
今日の夕餉は煮物である。そして得物はお箸。そう、残念ながら――レンゲではない……。
イヤイヤ、それでも――
『あーん』は出来るのである! そう、X(エックス)計画の実行だ!
漢は決めたことはやり通さなくてはならない。すでにロマンと言えよう。諦めないのである。失敗は取り戻さなければ、死活問題にも発展しかねないのだ。もはや、夕食における最優先事項なのであった! 御託はもういいだろう。
とにかく『なめたい』のである! この件にはしつこいのだ。変態でもOK~!
一刀は、蹂躙出来る対象を割り切っていた。「体」と「唾液」は別物なのだ……と。『ダエキ』や『ケ』は違うんだと! もはや、決めればなんでも正義と言えるのだ。正義にしちゃうのである!
一刀は慌てない。失敗は一度で十分。戦力が豊富なうちに仕掛けるのも兵法のうち。早速、華麗な箸さばきでほぼ手つかずのまだ豊富な状態の煮物を掴むと、雲華の方へスィっと差し出すとイケメン風のクールで優しい笑顔を精一杯作って、彼女へ勧める。
「雲華、はい。あ~ん♪」
雲華は、一刀からの熱愛なアタックに目をぱちくりと少し驚いた表情をするが、一刀の顔を見ると嬉しそうにニッコリと照れながら笑って、可愛くあ~んと……一刀の使っているお箸をパクリと、その可愛いお口で包み込み、彼のお箸から煮物を受け取ると口元へ手を上品に当てながら、「おいしい」と言って食べてくれた。
一刀は、再び『貴重なお宝物』をGETしたぁぁ☆☆☆!
見ると、お箸の先はまだツヤツヤとしていた。何度も言うが、これは『鮮度』が大事である。乾く前がもっとも重要なのと言える。一刀は、千載一遇のこの好機を逃さない! 選択肢は、『保存せず味わう』の一択なのだ。
しかし、ダイレクトにただ『ねぶる』のは些かマナーや優雅さに欠ける行為だった。一刀にも矜持はある。
わずかにご飯を『貴重なお宝』で掬うと、内心でドキドキなのを感じさせない多少ぎこちない不自然な微笑みの表情で、パクリと食べていた。
お箸を口から抜き取る時に、唇からお箸へ『異常な力』が掛っていたことは言うまでもない。
食事はそのあと何事もなく、一刀は当然のように雲華の方から数回、あ~んをしてもらった。その一口一口が猛烈にうまい! それ以外の言葉は脳ミソからすでに消去されていた感じだ。思いつくのは不可能だと言えた。
お返しに、一刀も雲華へあ~んを返すのであった。
もはや食卓周辺には、他者が見ちゃいられない……とても入り込めない空気が満ちていたことは間違いないだろう。他に誰もいなくて、よかった、よかった。
食事の片づけが終わると、雲華は『剛気』の応用である『硬気功』の修行をしましょうと言って来た。今日のようなことで、一刀にぽっくり逝かれても困るというのだ。
一刀も死ぬ確率が減る修行なので、断る理由など有りはしない。まあ、有ったとしても『悪魔』さまがやりましょうと言ったのだ。さぁ、やりましょう。
さて、『硬気功』である。
雲華が、食卓を挟んで一刀へ改めて少し説明を始める。
「神気瞬導において、『剛気』をもって主に皮膚、骨格、筋力等を強化し硬質化することで『硬気功』を実現しているの。もうそれは、一刀も少しは使ってるから分かると思うけど」
確かに一刀は、五千人隊長並みの木人との実戦剣術修行で、打ち込むときや受けるときに力負けや打撃されそうな時に防御用で、軽く骨や筋肉に強くなれ強固になれと『剛気』で補強していたのであった。肯定の意を込めて一刀は雲華へ頷く。それを受けて、雲華は話を進める。
「それで重要なのは、どのくらい気を強くすれば、剣で切られても耐えられるのかということよね? それは、個人差があるのでやってみないと分からないんだけど……」
その瞬間に、向き合って座っている一刀の背筋に非常に寒いものが走った。雲華の目を見ながら話を聞いていた一刀だったが、思わず、目線を逸らす。
『ヤッテミナイト分カラナイ』……それは『悪魔』さま理論だと、ダメでもとりあえずヤルってことですよね? それも刃のある剣で。要点は本当にソコなんですかね?
色々と何か追いつめられてる?感のある一刀の頭に疑念が浮かぶ。
再び一刀は、『悪魔』さまをそっと見てみる。
ニヤリとしていた――――。
ダメだ。
彼女にとって、修行と普段がキッチリ割り切られている。
さりげなく、静かに一刀に死亡フラグが立ちました……。
先ほどまでの、桃源郷のようなまったりとした亜空間は、一体どこへ行ってしまったんだろう。
一刀は、なぜいきなり剣に飛躍するのか理由が知りたかった。死んじゃうよ?ふざけるな!である。しかし『悪魔』さまにより、実行することが決まっている以上、それを聞いても意味がない事であった。
一刀が今、しなければならない事、それは剣撃に耐えられる『硬気功』をすぐに身に付けることだ。そうと決まったら、一刀の動きは早い。一刀は雲華へ聞いてみる。
「確かに今の俺には、これなら剣の一撃に耐えられそうという基準が分からない。それってどれぐらいなのか、雲華自身が将軍らの剣の一撃に耐えるときを想定した『硬気功』を見せてもらえるか?」
「ふふっ、やっぱりアノ技を使う事に気付いたのね」
一刀の知能は、今の一気に緊迫した状況により『幸せバカ』な状態から、偏差値五十ちょっとまで回復してきた。使えるものは何でも使うしかないのだ。
そう、今朝の木人との実戦剣術修行と鬼ごっこで使っていた、『視鏡命遂』である。もはや一刀は、気を使った『硬気功』の現物を見れば大体加減が理解できるのだ。
雲華の顔には笑いが浮かんでいた。それは、一刀がそのことに気付いてくれての嬉しさからである。
雲華は長椅子から立つと、洗面の台のある窓側へ出てくる。そして左手を曲げて軽く袖を捲って腕を出すと一刀の方を向いて声を掛ける。
「じゃあ、左腕に将軍並みの剣撃に耐えることを想定した『硬気功』を掛けるから。しっかり見ていなさいよ」
「ああ」
一刀は、雲華の全身の気の流れを見ている。すでに全身に強い『剛気』が走っていて筋力、骨格等を強化している。気の流れに全く淀みや無駄などなくさすがだと思う。彼女の場合、本来常にこの状態が普通なのだ。これで、おそらく将軍らの膂力でも十二分に耐えれるだろう。そして、その『硬気功』を掛けられた左腕は……表面に至るまで内側まで気で覆われていた。つまり皮膚も血管も神経線維もなにもかもすべて剛気で完全に強化されているのだ。その強さは、普段彼女が全身に掛けている剛気の三倍ぐらいか。
一刀は長椅子から立ち上がる。すでに彼の『視鏡命遂』は発動されている。もう昼間までのダメージは無く、食事も取って気力は満タンである。雲華の状態を写し取るように『硬気功』を同じく左手に実行する。やってみると分かるのだが、これは……大量の気を消費する。ほぼ全力で気を投入し続けながら維持しなければならない。今の一刀にはこの強度を保てるのは十分ぐらいが限界そうだ。
雲華の気の流れを、さらに良く見てみると……なんと、その消費分を体外から薄く広く集めるように気が流入しているではないか。これは、第五条の『周りの気の取込み』というやつだろう。減った分が補填され続けるのだ。これならいつまででも発動していられるのだ。
一刀も負けてはいられない。今は、戦っている状態ではないのだ。そう……温泉タイム記憶映像の出番である!!
彼は目を軽く閉じる。その頭の中に一瞬であの湯気漂う桃源郷な光景が蘇る……。
あの、お湯の滴りピッタリと体に張り付いた雲華の白い湯あみ着の、二つの胸の膨らみの、その中に薄っすらとだがその色はハッキリとピ―――――。
一刀の目が鋭く再び開く。その二つの瞳の奥からはあの白き光の輝きが漏れている。そして全身は圧倒的な気力に満ちているのであった。まあヨコシマな気なのだけど。
そして、彼は再び告げるのである。
「我が気力は無限なり! ブツブツ……(湯あみ着の……二つの胸の……薄っすらと……ピ―――ンク)」
あとに続く一刀の言葉が、ブツブツと小声で少々聞き取りにくいのだが、なにやらイカガワシイ単語がチラホラと繰り返し聞こえるのは、きっと気のせいだろう。
おまけに一刀はその有り余る気で、全身丸ごと『硬気功』を掛けていたのだ。これには雲華も驚きを隠せない表情に変わっていた。
さすがに普通、全身一気に『硬気功』を掛けるのは彼女にしても気力の消耗が非常に大きい技なのだ。もちろん彼女にも可能だが、初心者的な一刀がやってのけるとは思わなかったのである。
しかし今、彼の溢れ出ているイカガワシイ気力は無限・無尽蔵であった。
肉眼でもその輝きの一部が捉えられ、夜になってろうそく等が灯されたこの食堂の中でもぼんやりとその白き光を放っていた。
ふと、一刀は雲華が右手に得物を握っているのに気が付いた。それは、ここに来た日の夜に彼女が仙人の証として『硬気功』を実演するために使った、刃渡り十四センチほどの小刀だった。
その時と同じように彼女は左の袖を捲ると、再び自分の左手に鋭い刃先を突き立てるが当然赤くもならない。
すると、雲華はこちらを向いて一刀へ近づいてくる。そして、左手でゆっくりと一刀の左手を掴む。
このときの感覚が凄い。
お互いに強力な『硬気功』が掛った手同士である。動くけど固いという不思議な感覚なのだ。互いに軽く当たると鈍い岩や金属の様なゴツゴツという感じの弱い音がしていた。一刀は思わず感想が口から出る。
「すごい……な」
「そうね。まあ、自分の体だけでもその感じは分かるけれど、痛覚や感覚を共有していない他の人の体だと特に不思議なものがあるわね」
「さて」と言うと、雲華は一刀の眼前に小刀を翳す。一刀も雲華が近づいて来たときに意図は分かっていた。これで、まず試そうというのである。雲華は、一刀の左袖を軽く下げ手首から肘までを露出させると声を掛けて来る。
「じゃあ、行くわよ」
「はい」
最悪、左腕一本飛ぶことになるだろう。しかし、イエスマンに否はなかった。しかし代償が腕一本なので、一刀はかなりビクビクと緊張気味ではある。
雲華は、躊躇いなく結果が分かっている気軽さで、ヒュッと一刀の左腕に素早く切りつける。
すると、僅かに固いものが擦れるような音がしただけであった。
一刀は左腕に特に痛みを感じない。どうやら一刀の強力な『硬気功』は成功していたようだ。
一刀は一瞬、無邪気に喜ぼうとしたが、雲華はニヤリとしながら告げた。
「これで、明日の昼食の後に、木人くんと実剣での剣術修行ができるかな」
「ちょ! えっ?」
「一刀、実剣で経験や実績を積まないと、戦場では役に立たないわよ」
雲華の言うことは最もである。ここは現代の日本とは違うのだ。強力な殺傷能力のある互いの自慢の武器をぶつけ合い、技量を競い合って自らの血飛沫を飛ばし合い、常にギリギリで命のやり取りが行われている時代であり場所なのだ。
一刀は、雲華と厳しく目を合わせている。夕食の時のような浮ついた感は今、互いにない。
「常に油断しないで。気を抜かずに、出来るだけ周囲の敵意のある気を警戒することよ。死は……いつもすぐそこに、傍にあるから。……一刀、君はどうか死なないでね」
雲華は、とても大事な事を教えるようにそう言うと、愛おしいものを見る優しい笑顔を一刀に向けてくれていた。
彼女は無茶な事を言うようでも、いつも一刀の事を考えてくれている。一刀自身もその気持ちになんとか応えたいと思っている。
一刀は早く、敬愛する雲華へ恩返しが出来る、力になることが出来る、守ってあげることが出来る、そんな一人前の存在になりたかった。
それには、一刀も決意として雲華に言っておかねばならない大事な事があった。
一刀は『硬気功』を解いて、雲華の前へ立つ。
その一刀の何かを訴える様子を見て、雲華も『硬気功』を解いた。一刀は両手で、静かに雲華の右手を取る。
雲華は、どうしたの?という風に小首を傾げて一刀を見つめている。
すると、一刀は静かに話し出す。
「雲華。俺、修行が終わったら森の外の世界へ出るけど……一人前になって、なるべく早くここに帰ってくるから。必ず帰ってくるから。それまで……待っててほしい。その時に君へ大事な事を言うよ」
いきなりな告白モードの一刀に、雲華は一瞬固まってしまう。しかし、一刀の真剣な表情にその意を汲み取る。そして、彼女も素直な気持ちの返事を返していた。
「分かったわ。私、待ってる。ずっと……ずっと待ってるから。……でも、大事な事……今は言ってくれないの?」
雲華は顔を赤くしながら、恥ずかしそうに一刀へ上目使いに可愛く、そして少し意地悪そうに聞いてくるのであった。その内容をもう知っているかのように――である。
一刀は照れながら、しかしすでに言葉に出した意地を見せなければならないとして答える。
「今はまだ……ね。楽しみにしていて欲しいかな」
「うん。楽しみに待ってる」
二人は、しばし見詰め合う。ろうそくの柔らかな灯りに包まれ良い雰囲気だ。
一刀は握った彼女の右手を引いて優しく引き寄せる。雲華も引かれるまま近づき、一刀の胸に頭を付け背中に手を回し甘えてくる。
またハグハグです、四度目ですよ。フィットしますよ? 柔らかな二つの丘が完全にフィットしてますから! 一刀が、自分でフィットさせましたよ。
一刀も雲華の背中に手を回し時折、彼女の頭をなでなでしながらハグハグを満喫していた。そして、一刀はさらに大胆な行動に出ていく。
一刀は雲華の頭を撫でていた手を、彼女の顎に当て上を向かせるのであった。もう、お分かりですよね?
チューしたいんです! 『ダエキ』がロマンなんです! ベロベロしたいんです!!
しかし、一刀はまたしても油断していた――――。
少し上を向く形になっていた雲華のその可憐な唇から、その冷静な言葉が流れるのである。
「でも、待つ必要があるかどうかは……一刀が、明日の夕日を見れたらの話かな」
そうですね♪
そうだった……一刀の死亡フラグは、まだヘシ折れていないのだ。木人との実剣による剣術修行……今日と同じ準将軍並みなのか? いやいや、『悪魔』さまが同じにするわけがない。その日のうちに百人隊長が千人隊長水準になったこともあるのだ。
間違いなく将軍並みだろう……デンジャラス。英雄たちと肩を並べるレベルで、実剣で殺し合いですか?
シャレとか冗談とかじゃない。現実が過酷すぎる。
気が付くと、雲華は静かに一刀からすでに離れていた。あぁ、一刀には過酷な状況が続いていた。
彼女が抱き付いていたときの温もりが徐々に冷めていくのが寂しい……一刀は柔らかな二つの感触の余韻をまだ楽しむも背中の悪寒が強くなって行くのであった。
雲華はゆっくりと食卓に戻ると、一刀へ声を掛けた。
「さあ一刀、次は読み書きの学習にするわよ」
「はい……」
一刀は少し元気なく、雲華の向かい側へ筆記用具や竹簡の冊、木簡等を揃えると座る。雲華はいつもの通りで淡々と学習は進んで行く。今日は難しい文章の読みが中心だった。その中で読めない漢字を木簡に書き留めておいて後で説明を受ける感じだ。結局、『硬気功』は二刻(三十分)ほどもしていなくて、その分読み書きの学習が一時半(三時間)ほど行われた。それでも、幾分早い感じで今日の修行や学習は終了した。雲華は、笑顔で労いの言葉を掛けてくれる。
「おつかれさま、一刀」
「今日もありがとう、雲華」
一刀のお礼を聞くと雲華は、窓横の洗面台で歯を磨き、それが終わると一刀へ向かって少し照れながら言葉を伝える。
「さあ、一緒に寝ましょう。……早く着替えて上がって来てね。待ってるから」
まだ、明日の剣術修行が頭にあって憂鬱な気分の一刀なのだが――「待ってるから」……。
(キタァーーーーーーーー!♪)
一気に彼のテンションが上がって来る。
そうだ!今晩も雲華と楽しく一緒に寝よっと、と割り切り始めていた。
ラストナイトフィーバーに成りかねないが、それはそれでヨシである。
明日は明日の風が吹くのだ。そうと決まれば一刀は歯を丁寧に磨くと、急いであの囚人服のような寝間着へ速気でもないのに速攻で着替え終わると、梯子の下から上へ声を掛ける。
「もう、上がってもいい?」
「いいわよ♪」
一刀は梯子をゆっくりと上がっていくと……途中まで上がった段階で、えっ?となった。
雲華が、梯子の傍まで笑顔で、後ろ手を組み可愛いポーズで迎えに来てくれていたのだ。くれていたんだが……どうも一刀は自分の目が壊れているのではないかと思ってしまった。
雲華の寝間着なのだが、色が桃色に紫のヒラヒラではなく、薄い水色に紺のヒラヒラに変わっていた。それはまあ似合っているのでいいだろう。そして、透けて下の可愛らしい下着が見えているのも昨日と同じなので嬉しいことだ。それも問題ない。
さて、問題?なのは裾である。昨日のは十センチはないが裾はあったのだ。しかし……今日のは『無い』のだ。『無い』どころか『マイナス』である。元々着ている衣装の生地が股下まで無かったのだ。
とりあえず冷静に、分かりやすく言おう。
可愛い刺繍細工の入った桃尻パンティがほぼ丸見えですよ? フリースルーです! おみ足も素足でムチムチぃなまま、寝間着色に合わせた薄い水色の耳帽な可愛いお姿でお出迎えですよ?
(それでいいの?! ほんとにいいの?!)
梯子の途中で止まり、一刀は思わず笑顔で小首を傾げてしまった。雲華は、少し恥ずかしそうに顔を僅かに赤くしているのだが全く隠そうという素振りはない。むしろ見てください的なポーズではないだろうか。
もはや、超高解像度での記憶録画しながら見ちゃってるので手遅れだけど。特に先ほどから縦皺の入った彼女のデルタゾーン周辺に、一刀は目が釘付けなのであった。
「どうしたの……? 早く上がって来て」
じっくりと自分の着衣と、体が見られているのが分かっている雲華だが、相手は一刀なのである。もはや咎める事はないのだ。
ハッキリ言っておくと、彼以外の男性がこの情景を見た場合、あと温泉の情景も同様だろうが……ほぼ命はない。良くても眼球は無くなっているはずだ。雲華は容赦しないことを忘れてはいけない。
雲華から催促を受けた一刀だったが、きつく抑え込んでいたはずのリビドーがここへ来て活動を再開しました!とアソコがモッコリな状況になってしまっていたのだ。
雲華の前に出辛い状況に陥っていたのである。困った、どうしようかと悩み始めた所に解決案?なのか雲華から予想外の言葉をもらう。
「その……前は気にしなくてもいいから! 早く上って来なさい」
強めに促される言葉に従い、一刀は梯子を上がりきると、少し前屈み気味でモッコリをなんとか目立たなくしようとしていたが、雲華からさらに告げられた。
「一刀、恥ずかしがる必要はないの。男の子なんだから、堂々とすればいいのよ。だって……ここには私と二人しかいないんだから。それにそれは……私の今の姿が気に入ったからでしょう?……一刀に気に入ってもらえて嬉しいから」
そして、雲華は恥ずかしげに微笑むと、長い袖の中にある一刀の手をそっと両手に取ってベッドへ案内してくれていた。
こ、これは……雲華にとって一刀のモッコリがすでに容認されている?! しかし、その意味を本当に分かっているのだろうか? いや、温泉の時もそうだが、話の前後からもそれが『ナニの為』のどういう現象かは知っていると思われる。
ふと、一刀はなぜ、どうやって雲華がその事を知ってるんだろうと考えてしまった。そう、雲華は『今は一人』だが、もしかして『以前は誰かといっしょに住んで』いて……と。
一刀は一瞬、落ち込む感じになった……しかし、改めて考え直す。自分は今の敬愛する雲華が良いのではないのか? 執着する必要のある過去なのかと。
そんな考えをしていたからなのか、一刀の足がバリアフリーな綺麗に板が敷き詰められた床にも関わらず、つっかかり僅かにカクンとなる。その僅かな振動が、横にあった小さ目の机に慌てて積んだのか不安定であった竹簡や書物の山を崩してしまう。
床に広がった書籍たち……雲華が「ああっ!」と慌てた声を上げる。なんとなく一刀が目線をそれらに向けると、その難しそうな書籍名のなかに紛れていたいくつかの書籍名に目が留まった。
『必見!男性の体の神秘』『阿蘇阿蘇~彼が喜ぶ寝間着特集~』『男女の良い雰囲気の作り方』『女性からのお誘い百選』『仲良き夫婦の夜の過ごし方』――などなど。
些か文学には程遠い題名のそれらは、見た目がまだ新しい書物ばかりで、優に二、三十冊はあった。
……あれれ? 一刀の杞憂はどうやら取り越し苦労であったようだ。そういえば、街へ行った帰りに、「学習用の本を買ったから持って」と言われて不機嫌な雲華から持たされた気がする。
そう彼女は、実に初々しいのである。
一刀は手を引いてくれていた雲華の方をゆっくり見ると、ミダラな今のその姿を見られるよりも遥かに恥ずかしいのか、すでに真っ赤になっていて、一刀と目線が合うとその目線をゆっくり横に逸らしていった。
かわいい。
彼女はさらにかわいい言い訳をする。
「わ、私にだって知らないことはあるんだから……そう! これは、勉強よ、勉強……」
そう言いながら、珍しく気弱そうに目線を戻して来て、上目使いに可愛いく一刀を見上げてくる雲華だった。一刀は、ニヤけながらよせばいいのに少し意地悪な質問をしていく。
「じゃあ、これについても知ってるんだよね?」
わざわざモッコリな部分を指差して聞いたのだ。
「そ、それは……こ、子作りに……重要な部位で……」
「それから?」
「そ、そういう気持ちになると……膨らむのよ」
「そういう気持ちって?」
「………えっと……私を……押したお――」
次の瞬間、「って、ばかーーーっ!」と、一刀は雲華に再び『超速気』で見事に思いっきり張り倒されて失神したのであった。
「――ずと、一刀。起きてよ、もう。折角静かな夜なのに。傍で一緒にお話できるのにぃ。そう思って早めに修行を切り上げたのに……」
なにやら、連続する可愛い可愛い内容の言葉に、一刀は目が覚めた。『残念ながら』自慢のモッコリは、すでにお静まりのようであった。
再び雲華が、上から心配そうに優しい瞳で見下ろす感じで見つめている。一刀の頬や髪を優しく撫でてくれているようだ。
そして、頭の後ろが柔らかい肉質で暖かい……耳端にかすかに当たるのが布生地では無く、ナマな瑞々しい滑らかな肌のようである。どうやら腰から下は雲華のベッドの柔らかい綿の布団の上に横たわっていて、さらに周りは雲華の女の子らしい香りに包まれているようだ。
これって、究極の桃源郷的で生モモな『ひざまくら』ですかね? この極楽な気分によって急速に溢れ出る『無限の気力』によって、またしても角度が大幅におかしい首と、激しく変形している右側の顔面が、そして深刻なダメージを受けていた頭部が瞬間完全回復を起こしていた。……一刀が起きなければ、それなりに危険な状態だったのだが、それはまあ軽くスルーしておく。
一刀はかなりの『硬気功』を掛けて受けたつもりだが、加減の無い状態の雲華には通用しないようである。それほど剛な力なのに、体が吹っ飛んでいないのは、飛ばす力ではなく、体内へ叩き込まれた力が凄かったためだ。常人ならグチャグチャなヒキニクレベルだと思われる。
とりあえず、今回も首が一回転して取れてなくて良かった良かったと、呑気で素直に喜ぶ一刀であった。
「雲華、ひざまくらをしてくれてるんだ?」
「良かった、すぐに目を覚ましてくれて。だって、この時間は……一刀も甘えていい時間なんだから。……でも、あんまり恥ずかしいのは……まだ……ね」
「まだなの?」
「そう……まーだ♪」
そう、ふふっと嬉しそうに雲華は言ってくれる。
「……そうだね、俺、待たせてるんだよね」
「うんそうよ。……今も……ずっと待ってるんだから」
ええっ?『今』もって? 雲華を改めて見返すと嬉しそうに、そして恥ずかしそうに少し体をしをらせながら微笑んでいた。
すでに待っている、と彼女は言ってくれているのだ。
『一人前になったら』と告げている一刀は、さすがにここで、なし崩しに彼女へ向かって『行く』ことは彼の矜持としてできない事なのだ。
雲華が『慎ましく待つ女』を見せてくれている以上、『誠意ある漢』として行動しなければならない。一刀は慎重に口に出す文言を熟慮した上で、雲華の思いに応える言葉が彼女へ告げられた。
「じゃあ……モモにサワサワ、スリスリしてもいい?」
そう、彼の思いには『一線を超えなければセーフ』という新たな『正義』が芽生えていた。
彼は北郷一刀。絶倫なのである。本能なのであった。女の子に甘えたいのだ。サワサワ、スリスリしたいのである。それはすでに『正義』と化していた。
一瞬、雲華から膝枕上の自分に向かってこめかみ辺りに、人を廃人に変える威力のコークスクリューパンチ辺りが深々とめり込むんじゃないかという幻想が見えた一刀だったが、なんと雲華からの答えは小さく……「いいよ」であった。
(いいの? って、ホントにいいのかよ!?)
自分で要望したことではあったが、ヒジョーに予想外な返事に一刀は一瞬固まる。しかし、彼は北郷一刀。チャンスは逃さなかった。
じゃあ、と言うと顔を横にするように、体ごと仰向けから右向きに寝そべり直す。一刀の頬には、待望の瑞々しいうら若き少女のムチムチィなフトモモのフィットする感触が、そして真近から漂う女の子な芳香がタマラナイのである♪
ゆっくりと頬をスリスリとしてみる。
嗚呼、ス・バ・ラ・ス・ィー! スバ~ラ!(外国人風になまり気味)である。
さらに、一刀は左手で雲華のフトモモをなでなで、サワサワしてみた。本当に女の子のもち肌って瑞々しくって柔らかで滑らかなんだなぁと芳香と共に堪能していた。
その時、雲華には異変が起こりつつあった。一刀の丁寧な太腿付け根に近い部分へのスリスリと右太腿外側へのサワサワのコンボに、彼女の少年誌エロでは記述出来ないアウトな部位に変化が起こって来ちゃっていたのだ。
僅かに熱いのである!
一刀の行為は決して不快ではない……むしろ不思議と心地よいのだが、それがその……色々とムズムズしてくるのだ。つまり、気持ちいいのであった!
一刀は、暫したっぷり堪能しながらその『いい加減にしろや』的なお触りを続けていると、上の方から時折、「ぁう」と吐息が……「んっ」と小声が漏れているような気がして上の方へ「どうしたの?」と顔を向けてみた。
もちろん、下から見上げると、あの二つの、栄光の、掴むための部位が寝間着から透けた可愛らしい刺繍細工の施された下着越しにその膨らみが閲覧・堪能できるのだが、その絶景越しに雲華の顔を見る。
すると、周囲の肩や腕、気付けば一刀の目前に広がるおみ足も桃色になっていて、顔はそれ以上に赤く艶やかになった雲華がいた。
雲華は可愛く恥らいながら、モモを僅かに擦って……すり合わせるようにしながらこう伝えて来る。
「まだ……ダメなんだから。今日はこれぐらい……ね」
彼女は何かに耐えているようだった。本日の特別サービスタイムは終わりのようである。
「ああ……また、いいんだよね?」
一刀は、『獲物は逃さない!』という本能がそう言わせていた。まだまだ、味わい尽くしたいのである。雲華もイヤじゃなかったが……しかし、自分の変化に戸惑いがあった。待てるのかな……と、次は負けちゃうんじゃないかと。
「うん……また」
少し困惑気味に、でも少し期待もしていたりと、そんな返事を返すの彼女であった。
一刀は漸く、雲華の太腿から頭を上げて上体を起こすと、雲華のベッドの上で胡坐をかいて座る。
雲華は、膝立ちで掛け布団をゆっくり捲ると、顔を一刀へ向けて告げる。
「今日の罰として一刀はこれからは毎日、私と手を握って、そして……くっ付いて眠るのよ」
二人の関係はまだ加速している。一刀は思う。『罰』……もっと『厳罰』を食らわしちゃってください、と。
そう言った雲華から、指の間を大きく開かれた右手の平が一刀の方へ翳される。一刀はそれにゆっくりと自分の左手を指と指の間に互いの指を差し入れてしっかりと握り合わせる。雲華は安心したようにニッコリと微笑むと「さあ、寝ましょう」と横になる。手を組んでいる一刀も横になる。
そして布団が掛けられる。すると、仰向けの雲華はもぞもぞと一刀の方を向いて横になると枕と共に一刀の左肩と腕に当たる位置まで寄って来るのだ。
一刀の腕は今朝のように雲華の両手にすでに包まれていた。彼女はそれを二つの胸の膨らみに大事そうに引き寄せている。そして満足そうに気持ちを伝えてくる。
「ふふっ、一刀は温かい♪」
「雲華も温かいよ」
一刀の肩に当たる雲華の吐息が心地よい。腕を抱いてくれている柔らかな雲華の体も最高だ。
雲華は、指で行う例の仙術で部屋の灯りのろうそくを消すと、それから二人はしばらく桃色な互いを称える話や短めの寝間着の事をしていた。
なぜそんなに短くしたのかと一刀が聞くと、昨夜から今朝の一刀が髪を梳くまで、チラチラと雲華の下半身に目が行っていたからだと言うのだ。この水色の寝間着は桃色のと同時に作ったのだが、水色は余りに裾が短すぎた失敗作だと思っていたのだという。しかし、桃色の寝間着すらさらに下から覗こうとする一刀を見ると、裾はより短い方が喜ぶのでは?と考えて今夜着たというのだ。
「だって、一刀を喜ばす為だけに作ったんだから……」
「ありがとう、雲華。とても綺麗で可愛い姿だったよ」
「嬉しい」
気のせいか、一刀の左肩に雲華の可憐な小さめの唇が触れた気がした―――。
「さあ、そろそろ寝ましょうか」
「ああ、おやすみ、雲華」
「おやすみなさい、一刀」
今日も振り返ると幸せな良い一日だった。まあ、明日は分からないのだが……。
眠りに落ちる寸前、一刀はこっそりとあの瞬間を思い出していた。
そう、夕食の時の『貴重なお宝物』の『味』を。
それは―――
最高に甘~~~~~~~~~い!
食べ物の味ではなかった。それは『気持ち』の味だったのだ。
一刀の人生の歴史に、また金字塔が一つ追加されていた。
第十五日目が静かに平和に終了する。
つづく
2014年05月11日 投稿
2014年05月19日 文章修正
2015年03月11日 文章修正(時間表現含む)