真・恋姫†一刀無双 ~初出会は少女仙人-混沌の外史~   作:カメル~ン

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第➀➂話 楽しい日々よ、ありがとう

 

 

 

 うららかな午後、たまに巨木の枝の間から柔らかい陽射しのある、いつも平和な巨木下の広場のはずが――先ほどから武器同志の金属がかち合う、殺伐とした音が辺りに響いていた。

 

 一刀は、いきなり行き詰っていた。

 

 『速気』にも思わぬ弊害があった。

 武力が猛将並みまで一気に上げられた、木人との実戦剣術修行の戦いが始まって、まだ僅かに十分もない程度である。

 しかし、すでに一刀は開始当初から、木人の間合いの長い槍と素早く練達な槍術の前に、ほぼ防戦一方であった。

 雲華ほどではないにしろ木人の強さが、苦行に耐えて身に付けた仙術を以ってしてもなお、互角にすらなれない状況にその心は膨らんでいく。

 その体感時間が『速気』によって何倍にも引き延ばされていくのであった。

 

 そう、恐怖の時間がである。

 

 そして、木人はさらに容赦なく、一刀の弱点をどんどん突いてくるのであった。

 一刀の弱点……それはあくまでも武人としては、まだまだ素人という点である。

 ここ十数日で一刀が武術に関して身に付けた事は、実はほぼ『何も無い』のである。神気瞬導で身に付けたのはあくまでも、『速さ』と『力』と『体の丈夫さ』等であり、功夫や剣術のような具体的な武術ではないのであった。木人との実戦剣術修行も、戦場での感を養う為であり、剣術そのものを習っているわけではなかった。

 武術は、基本の型の習得と日々の鍛錬が重要である。猛将たちは『速さ』と『力』と『体の強さ』に加え、武術を長年磨き練り上げてきた者達である。

 おまけに今日の一刀は得物が木人と違うために、槍術を『視鏡命遂』で盗んでも剣ではほぼ活用できなのである。

 状況が完全に八方塞がりであった。

 

 これも……『悪魔』さまの思惑通りなのであろう。

 

 さぞかし、ご満悦の表情をしていらっしゃる事だろうと、雲華の気を一瞬探ってみる。どうやら一刀の常に真後ろにいるようである。

 これは……隙があったら、更に後ろからバッサリと切られるということなのだろうか……?

 一刀は思わず、昼食の御茶碗のご飯へ垂直に突き刺さったお箸の情景が目に浮かんだ。ぞっとして身震いしてしまう。

 近いぃぃ、現実がそれに近いんですけど!

 だが、そんな事を考えている場合ではない。木人が放った俊敏な槍先が、顔面へ迫って来たのだ!

 一刀は『速気』を必死の全開にして、首を振ってそれをギリギリで躱す。しかし、撓りが混ざっての変則さに躱しきれず、額を槍が僅かに掠ったのか血が舞うのが微かに見えた。

 危なかった。『硬気功』も焦りからほぼ間に合わなく掛けられなかったのだ。

 畳みかけて襲いかかってくる終末の現実に、一刀の膝がさらにガクガクと震えだす。力みもあって気も大量に減っていく。後、何分持つだろうか?

 そしておまけだったが、その首を振った瞬間に僅かに後ろが見えた。

 雲華の立ち姿に、その表情がちらりと見えた……。

 一刀は思っていた。さぞかしご機嫌な事だろうと。

 

 しかし――――彼女は、何故かいつものあの余裕の微笑みを浮かべた『ニタリ』としていなかったのだ……。

 

 先ほど捉えた真後ろに立つ雲華の気は……そう言えば、彼女にしては何故か少し弱かった。

 一刀はその原因が、雲華の姿と表情を自分の目で見て、ようやく理解することができた。

 

 

 

 雲華は、口元を両手で押さえ、小さく震えながら、必死に心配し涙を堪えるように一刀の戦いをずっと静かに見守っていたのだった……。

 

 

 

(な……んだと?!)

 

 一刀は、震えた。雲華が『悪魔』さまではなく、『こねこ』さまになっていたことに……。

 彼は完全に誤解をしていた。この今日の苦境は、すべて彼女の『ニヤリ』のためだと思っていた事を。そして、自分が余りにも情けなく感じていた。

 雲華は覚悟を決めて、その姿を俺に極力見せないようにしてまで、今日のこの時に臨んでいたのだというのに―――。

 一刀は、静かに目を閉じて思う。

 

(俺が強くなるのは、何のためか……そう、それは彼女を……雲華を泣かせる事じゃなく―― 守れる男になるために!!)

 

 一刀の心に、一閃と『輝くもの』があった。

 雲華を思い、立ち尽くす一刀へ、容赦なく猛将クラスである木人の膂力の乗った強烈な槍の振り下ろしが頭頂へ迫る。

 『輝くもの』――それは街で一人の幼い少女を助けた時にも一刀が見せたものであった。

 

 

 

 『勇気』である。それは溢れんばかりの量であった……。一瞬で満ちているのである!

 

 

 

 一刀の目は、静かに見開かれていく。それは、双方の瞳の奥より鋭い白き光の輝きを放っていた。

 そして、一刀は木人の強烈な槍の振り下ろしを、持てる最高の『速気』と『剛気』を帯びた体と右手でビタリと目前にて掴んでいた……。

 もはや、『無限の気力』を発動した一刀に気の枯渇などない。

 一刀は、先ほどまで圧倒的な力量差に、恐怖を感じて怖気づき掛けていた木人を、逆に力の籠もった眼光で睨みつける。そして言い放っていた。

 

 

 

「お前は強い、圧倒的に。だが、俺はここで引くわけにはいかない。負けるわけにもいかない。だから―――俺に倒されろ!」

 

 

 

 一刀の先ほどまでとは別人の凄まじい気迫に、木馬上の木人も一瞬怯むほどであった。だが、猛将並みの武人がこの程度で本気に怯むことはない。

 木人は、掴まれた槍を力を入れて横に振ってみるが、驚くことに槍は撓(たわ)むもビクともしない。だが、ならばと木人は脇を閉めると、膂力に任せて左片手で一刀ごと引き揚げようとする。

 棒の端にぶら下がった人間一人を持ち上げようというのである。木人の力もさすが『怪物』並みのものがあった。

 一刀は、さっと膝を曲げてしゃがみ気味に重心を下げ、更に槍をこちら側へ引っ張ることで持ち上げ難くする。

 さて、倒すような大口を叩いた一刀だったが、冷静になり少し考えるとこの修行開始直後から、すでに気力を全開で戦っても力は兎も角、早さも、武術の技量も木人には及ばない事は分かってきている。

 気は無尽蔵にあるので、『硬気功』を使い続ければ二時(四時間)の間、死なずには済むだろう。

 しかしそれだとおそらく、何も出来ずにこのままジリ貧である。だがこの修行……いや勝負は何としても勝たなくてはならない。

 一刀は、この状況で勝つためにあえて―――雲華に質問する!

 

「雲華、教えてくれ! 『超速気』ってどうやるんだ?」

「えっ?」

 

 追いつめられる一刀を必死に心配しながら見ていた雲華だが、いきなり一刀が復調し出して何が起こったのかその理由を考えていたところで、急に声を掛けられ驚く。一刀の声はまだ続いた。

 

「戦いの途中での……質問は禁止されていないよね? そこで『超速気』をやって見せてよ」

 

 木人がそんなことはさせるかと、木馬も動かし一刀を前後に揺さぶる。この木馬が予想以上に良く出来ている。馬だけに力もかなりのものだ。戦いが無事に終われたら、後で乗せてもらいたいところだ。

 激しく地面近くで引きずられ、揺すられる一刀に、雲華が叫ぶ。

 

「手順的には難しくないわ。でも、この技には相性に個人差が凄くあるから『超速気』が掛るかどうかはやってみないと分からないわ。百人に一人ぐらいしかできないから。それに出来たとしてもそこにも個人差がある。そうね……まあ、ダメ元でやって見て。手順は、まず『速気』を掛けた状態にする。そして――その状態のまま、さらに上に『速気』を掛けるのよ、こうよ!」

 

 雲華は、先ほどまでの心配げな態度は隠し、『速気』で腕を動かして見せた上でさらに『速気』を掛けて見せてくれた。それを一刀は、木人と対峙しながら『視鏡命遂』でチラチラと見る。チラチラと見るのが得意だったのが助かった。『芸は身を助ける』である。普通に見ると僅かに残像が見えていた彼女の腕先が、肘から上の残像が消えて無いように見える程早くなる。一方気の流れを見ると、『速気』の素早い気の流れの外を、更に包むように気の早い流れが包んでいる。

 

「よし!やってみる。ありがとう、雲華! 大丈夫、俺は勝つよ……君のために」

 

 『君のために』に雲華は、赤くなって固まっていた。

 そう言い終わった瞬間、全身に『硬気功』を掛け、『視鏡命遂』で雲華に見せてもらったように全身へ『速気』を掛け、さらにその上へ『速気』を意識して地面を蹴り瞬動する。

 この二重の『速気』を完全に分けて形成出来る能力と、お互いの気の流れに乗せて『速気』を加速させられるかどうかは、確かに個人差が大きいと思う。

 百人に一人というのは数少ない神気瞬導の使い手の中ということだろう。それは、まあつまり殆どのヤツは身に付かず失敗するという事だろう。

 実は、一刀はそれでよかったのだ。これは、『なにかするぞ』という木人に対するフェイントであるのだから。そもそも、『硬気功』のようにいきなり使う技がそう何度も上手く行くはずがないのだ。次は雲華に『風羽来動』を見せてもらうつもりである。

 

 

 

 だが――――木人の動きが止まっていた。

 

 

 

「あれっ?」

 

 いや、ゆっくりとは動いている。雲華の方を一瞬見ると、彼女も『超速気』で見ているようである……マグレって続く事もあるものなのだという、一刀の動きに驚いた後に、笑顔で喜んで手を振ってくれている。

 木人とは、槍を挟んで引き合っての棒相撲な状態であったが、一刀は木人が引きに入った瞬間を狙って動作を起こしていた。そして槍を木人側へ体ごと一気に突っ込み、加えて剛気で押し込んだ。そして槍より手を離す。

 木人は、逆を突かれたことと『超速気』に付いていけない事もあり、木馬から引きはがされて後ろへゆっくり落下して行く。

 一刀の『超速気』が予想外に成功したのであった。一刀は『速気』の状態へ戻して木人の様子を見る。

 鈍い音を立てて馬の反対側へ木人が落ちる。しかし、すぐに木人は速攻で立ち上がって来た。

 そして、馬には乗らずに槍先を円を小さく描くように、小揺らせ撓ませながら疾風のような全速で走り近づいて来ながら一刀へ閃光の一撃を突き込んで来た。『速気』で見てもこの対応力である。猛将の水準は、ヤバすぎる!!

 一刀は迷わない。使えるものは何でも使うのである。

 直ちに、再び力を込めて『超速気』を発動する。

 

 やはり、木人の動きが止まってるほどにノロくなった。

 

 一刀は、油断せず『硬気功』を纏い、テクテクとゆっくり気味に歩いて木人の傍へ行く。そして、剣を持っていない右手を木人の右足太腿へ当てると、ヤツの両足の太腿へ絶気を送り込んだ。ここで『飛加攻害』である。

 それから、少し離れたところに移動して『速気』まで落とした。

 すると、木人はゆっくりと俯せに倒れて行った。すぐに手を付いて立ち上がろうとするが両足が、最早言う事を利かないのである。

 一刀は『硬気功』は解かなかったが、周りに気を配りながら『速気』も弱くして様子を見る。彼は雲華の言葉を守り、戦いの最中は出来るだけ基本を守っているのだ。

 どうやら、木人は結局立ち上がれない。地面に座る形で槍を構えるのが精一杯だった。

 一気に勝負は決したと考えられる状況に変わった。

 

 

 

 

 雲華が歩いてこちらへ近づいて来た。そして、木人の様子を見ながら話し出す。

 

「完全に予想外ね……。これだけ速度に差があると、もう勝負にならないわね。これが神気瞬導の怖いところだけど」

「じゃあ……これで、おわ―――」

「しょうがないわね。続きは、私が相手になるしかないでしょ?」

「…………(そう来ますか……なるほど!)」

 

 彼女の気持ちはどうあれ、『悪魔』さまの宣言した二時(四時間)は絶対らしい。言葉とはそれほど重たいのである。

 一刀もそれを理解する。

 雲華は、座り込んでいる木人の傍へ行って太腿の気を回復させると、木人から槍を受け取ろうとしていた。

 

「ちょ~っと、いいかな?」

「なに、一刀?」

「剣の勝負でお願いします! 可愛い可愛い雲華さん」

 

 一刀は、彼女が槍を受け取る前に割り込んだ。割り込まざるを得ない。『視鏡命遂』を使えるようにしておかないと。そして、彼女へゴマを摺るのを忘れないのだ。基本である。

 しかし、雲華はニッコリと言葉を返してくる。

 

「剣で……いいの? 『彗光の剣』になるけど。あれ、並みの硬気功なら真っ二つよ?」

「…………」

 

 まだ、死ぬわけにはいかない! 彼は、潔くそう内心で言い訳すると、にこやかに何事もなかったかのように述べた。

 

「槍でお願いします。可愛くて美人で料理が上手い、雲華さん♪」

「料理……美味しい?」

「うん、美味しいよ。俺は幸せだなぁ、雲華の作ってくれる食事が毎日食べられて」

 

 雲華は、一刀とのノロケ話に頬を染めながら上目使いに可愛く言ってくれたのだ、その言葉を。

 

「じゃあ、夕飯も頑張るね……だから―――生き残ってね」

「………あれ?」

 

 いつの間にか、雲華の表情が『悪魔』さまのニタリな表情になっていた。

 一刀は、にこやかに固まった表情で思う。また俺は油断していたのだろうかと……。そして内心で叫んでいた。

 

(女心が、わからなーーーーい!!)

 

 さて、成行きで雲華とあと一時半(三時間)以上も戦わなければならない一刀だったが、問題が発生していた。

 それは、『こねこ』さまな雲華の気持ちに応える為に、圧倒的力量差にも怯まず立ち向かうために木人へ見せた『勇気』である。『無限の気力』の元になったものであった。

 しかし、相手が雲華に変わってしまったのである。

 彼の『勇気』はすでに消滅していたのだ。

 それは、相手が敬愛する雲華である事とともに……『悪魔』さまへすでに完全降伏していたためである。『勇気』のカケラも湧いてこないほどの恐怖と力量差のみがあった。

 だが……彼には切り札がまだ残されていた。前へ吊るされているニンジンが有るのだ!

 

 

 

 そう、これが終われば―――『温泉タイム』である! プリーズなのだ! カムオンでインなのである!

 

 

 

 漢(おとこ)にとっての望みがある。桃尻郷……桃胸郷、いや! 桃源郷はそこに見えているのだ! ムチモモ、プルンプリン♪ 栄光の、至高の部位も待っているのである!

(こんなところで到底終われない……生き残るのだぁぁ!)

 

 一刀のそんな思いの丈が、それを生み出していた。まさに、究極の気がすでに満ちていたのだ。

 

 圧倒的に『イカガワシイ』……彼の気が!

 

 木人は雲華へ槍を渡すと、馬を従えて広場の端に下がっていく。

 巨木上の家へ上る梯子から時計周りに九十度ほど回った位置で、剣を持った一刀は、槍を構えた雲華と対峙する。

 雲華は槍を眺め、それを僅かに握り直しながら一刀へ教えてくれる。

 

「木人の槍術は、私のが元になっているから少し参考にしてね。じゃあ、始めるかな」

 

 それは、木人より雲華の方が槍術が上ということを伝えるものであった。

 お互いに初めから本気全開である!

 一刀は雲華の「始めるか――」の辺りで、すでに全力の『超速気』に入った。もちろん、自分の気の流れを希薄にし相手へ見せない『暗行疎影』と、それを補う『剛気』、気の流れから相手の先読みをする『思考発極』、技を使う相手の気の流れを捉え、技を自分のものにする『視鏡命遂』も駆使してである。

 だが雲華を見ると、彼女もすでに同様に対応していたようだ。すでに彼女の体には気の流れを確認できない状況であった。

 雲華もこちらに気付いているようで、表情から「残念でした」と伝わって来た。そして、地面を軽やかに蹴ってこちらに突撃してきたのである。

 だが、『超速気』同士である。見えないほどの速度差がない……いや、まさか……そんなことは……一刀はその現実に焦っていた。

 

 

 

 あの、達人仙人の雲華の動きが……自分よりも遅いのではないだろうか――そんな現実にである。

 

 

 

 一刀は、その場を動かずに雲華が近づいて来るのを待っていた。

 彼女は一直線に槍を突き入れてくる。一刀は『暗行疎影』をやめて、全身へ普通の剛気の五倍程度の強力な『硬気功』を掛けて防御を固める。そして槍の一番手前の、刃ではなく柄の部分を掴もうとする。

 しかしその瞬間、掴むどころか見失うほど一気に彼女の槍の速度が上がったのだ。

 そして一刀は、右胸をまともに突かれたのであった。その勢いで飛ばされるが『超速気』で体制を立て直す。幸い『硬気功』のお陰で体にダメージはない。

 雲華は一度、一刀との間合いをとって槍を構え直す。

 一刀はふと、雲華の体に気の流れが薄っすらと見える事に気が付いた。良く考えると、先ほどから雲華も『暗行疎影』で体の気の流れを落としていたのである。そのため、動作の速度が落ちるのは当然と言えた。

 これは、雲華からの一種のフェイント攻撃であった。

 午後のこの修行で、初めてまともに攻撃を受けたが、完全に一刀の体を突いて来るという、まさに真剣勝負と化してきていた。『硬気功』が無ければ大けがをしていただろう。雲華は本気なのである。

 だが、一刀は自分の怪我についてよりもショックなことがあった。

 それは……雲華にもらった大事な水色の服が、槍で突かれたことで右胸のところが破れてしまっているのに気が付いたのだ。

 

(雲華の可愛い手で作ってもらった、大事な大事な服が……)

 

 一刀の目付きが変わる。

 雲華にも、一刀が服の破れ目を見てから、その表情の変化に気が付くことが出来た。それは体に一撃を受けて、一刀の目が覚めたかなというぐらいに感じていたのだ。なので、雲華はまさか一刀が、自分の体より服の事を気にしているとは思っていなかった。

 一刀は『硬気功』の強さを少し落とすと、その分を『超速気』に当てた。そして『暗行疎影』は一旦やめる。『暗行疎影』は相手に気の流れを読ませない事には優れているが、自らの動きを大きく制限するのだ。

 一刀は攻める事にした。

 そう、雲華の持つ槍をまず、なんとか無力化しようと考えたのだ。

 両手で剣を握ると、間合いのある槍を構える雲華へ向かって行った。

 雲華は、もちろん槍で迎え撃つ。手加減などしない。『思考発極』で先読みすら加えている。そして一刀へ、上段、中段、下段に剣よりも遥かに早く鋭い突きが五月雨式に撃たれる。剣と槍が得意だと言っていたのは伊達ではない。

 さらに、撓(たわ)みを生かして一刀の防ぐ剣を回り込むようにも突いてくるのだ。自由自在である。特に下段攻撃後の上段への連続攻撃が厳しく、その対応が難しいものだった。

 このため、一刀は剣で切り込もうとするも、迎撃の槍先を十何合かを全開の『超速気』の剣で辛うじて受けて凌ぐのだが、結局、雲華の槍の間合いの外で足踏みする形となり、中へ入ることは出来なかった。

 そして、撓みの攻撃は槍術の経験のない一刀では『思考発極』を使ってもまだ先読み出来ないのである。だが、『視鏡命遂』は撓ます時の腕の気の強弱まで読めるので、普通に見ていれば遠くないうちに軌道まで掴むことは可能である。

 しかし、雲華もその辺りは工夫する。動作を起こす直前まで『暗行疎影』で気の流れを隠し、個々の動きの思考と動作をなるべく短い時間で俊敏に行う事で、読ませる間隔を極端に短くするのだ。これで、もはや読み切るのは武人としての才能が突出していないと無理である。一刀は、武人として今後頑張ったとしても精々百人隊長レベルである。

 彼は考えた。

 

(なにか……何でもいい、突破口はないだろうか)

 

 雲華のペースや形式で戦われると、一刀は勝ち目のない非常に苦しい戦いになるのは確実であった。一刀は自分でも、武術関係において雲華には刃が立たない事はすでに分かっていた。なので……彼は別の所に着目することにした。

 ふと、先ほど服が『突き破られた』ことで閃いたものがあった。常識では雲華を出し抜けない。そう、常識を突き破らないと、と。

 それは――神気瞬導の『超速気』である。

 『超速気』は『速気』の状態の上に『速気』を掛けるのだ。ただし、出来る奴は非常に少ないという事だった。

 じゃあ、その『超速気』のさらに上に『速気』を掛けるとどうなるのだろうと、一刀は考えた。

 確率で言うと出来たヤツなど、よくて一人か誰もいないのであろう。

 しかし、決めたら迷わないのが、北郷一刀である。

 やってみる。

 

 その瞬間、一刀へ攻撃を続けていた雲華は、彼の動きに異変を感じた。一瞬、一刀を絶対的に入らせない自信のあった得意な槍の間合いに、彼が入って来たように見えたのであった。それも、槍の攻撃をすり抜けて、である。

 目の錯覚かと思ったが、それが一度ではないのであった。

 起こるわけがないことが起こる。この違和感を表現すると、心霊現象が目の前で起こって、それをまさに見てしまった……そんな感じであった。背筋が寒くなる感じなのだ。

 そして、雲華は驚愕する。

 目の前にいた一刀の姿がいつの間にかスッと消えて――気が付くと……すぐ真横に旋風を共なって立っていることに。

 その現象に恐怖した雲華は、条件反射で槍を横に立つ一刀へ全力で振った――つもりだった。

 そこでさらに、彼女は戦慄する。手に持っていたはずの槍が、すでに無かったのである……。

 雲華は、知っている。

 『超速気』に『速気』を掛けても早くならない事を。

 それは、『自分には出来ない』からだ。だから、それは――誰も出来ないものだと思っていた。

 

 雲華は、『超速気』を解いて、ゆっくりと後ろを振り向く。

 そこには、槍の柄を地面について左腕を絡ませた形で持った一刀が、笑顔で静かに立っていた。そして、彼は空いた右手の人差し指で右胸を指しながら言う。

 

「実戦剣術修行、終わっていいかな? ほら、大事な服が破れちゃうからさ」

「……しょうがないわね」

 

 雲華は、はにかんで首を少し傾けながら、そう答えるしかなかった。

 だが次の瞬間、一刀は力が抜けるように槍を手放し、ゆっくりとその場に倒れて行く。

 

「一刀!」

 

 雲華は『速気』で慌てて掛け寄り、すぐに一刀を抱き留め支える。

 

「ははは、『超速気』に『速気』を掛けるのは、俺には少し無理があるみたいだ……」

「当たり前でしょ、速気系は無理をすれば、筋肉系や神経系が速度に耐えられずに砕け散っちゃうのよ! それをいきなり全身に掛けるなんて。 それに……師匠以外誰も成功したことがなかったのよ。師匠も現想行体が有るし『超・超速気』は危険度が高いのでほとんど使わないのに」

 

 雲華は、そう言いながら全力で一刀へ気功回復を掛けてくれていた。

 

「やっぱり、ほとんど成功者はいないんだ」

「ええ、でも君は成功者よ。あの瞬動……いえ刹那の動きから生還しているのだから。……どんな光景なの?」

 

 雲華は、自分の見る事のない世界を尋ねていた。

 

「大丈夫、『超速気』の世界と感覚はそう変わらないよ。ただ、風がすごい重たい壁になっているとは思う」

「そう。それと……私に一撃も入れなかったのは?」

 

 雲華の声のトーンが少し下がる。

 しまった、と一刀は思った。この槍の無効化作戦では雲華に対して、手を抜いた事になりそうである。それに、確かに雲華へ一撃を加えるチャンスは、十分にあったのだから。

 一刀は『超・超速気』で受けたダメージの時よりも……厳しい表情になった。

 回復を受ける中、あえて『悪魔』さまからの致命傷な御仕置の一撃は勘弁してもらいたいところである。

 一刀は、持てる力をすべて出すことにする。まさに全開である!――そう、ゴマ摺りに。

 

「正直に言おう……その、雲華が可愛くて、可愛くて、可愛くて、とても可愛くて……それに、その瑞々しい綺麗な肌にアザを付けるかもと思うと、どうしても攻撃が出来なかったんだよ。……このあと温泉だし、痛んだ箇所を回復させてもアザがもし万が一、残ってるのが見えたりしたらとか、俺、耐えられないし……」

 

「……『可愛くて』が四回しかなかったけど、とてもも一回―――」

 

 雲華は一刀の目を見ながら、まず静かにそこを突っ込んでキターー! やはり、五回以上『可愛く』とかがないと好評価されないようであった。もはや、非常に重要事項なのだと一刀は認識する。

 

「……それで、温泉で見えたら……ねぇ」

 

 一刀は、本気で焦った。先走って溢れるヨコシマな気持ちが、この後の桃源郷を口走ってしまったのだ。ま、まさか、今日は行かないなんて世紀末な事にならないだろうかと、一刀は血の気が引く思いであった。

 しかし、雲華は一刀から目線を外して少し考えると「……今日は不問とします」と今日の真剣な戦いの中での、一刀の攻撃の不十分さを許してくれた。

 

(んんっ?)

 

 雲華の言葉の中に一刀は、一瞬意味深なものがあったような気もしたがあえてスルーする。

 一刀は、いつの間にか巨木の広場の木陰で、雲華のムチムチィな膝枕の形で介抱を受けていた。

 さすがに、『超・超速気』で引き裂けかけていた筋肉、神経系の完全回復には雲華も少し時間が掛るみたいであった。「じっとしてなきゃだめ」とゆっくりと寝かされ、大事そうに頭を膝の上に抱かれるように置かれる一刀であった。

 雲華の一刀の両肩へ軽く手を掛けている所から、心地の良い暖かな気功がじんわりと伝わって来ていた。

 時折、午後の日が枝の間から差し込み、そよ風が流れる、平和な時間が過ぎて行こうとしていた。一刀は、のんびりと雲華の顔を見上げている。雲華も時折微笑んで応えてくれる。

 

(なにげに、最高の時間じゃないかぁぁ♪)

 

 しかしこの、ほわほわな状況により、一刀の幸福感が一気に飽和してしまう。

 それは、すべて一刀の瞬間回復へ雪崩れ込んでいった。その急速な回復に雲華も気付く。もはや、一刀のコンディションは依然と変わらない体調に戻ったのであった。

 しかし……この体制が気に入ってしまった一刀は、動かない。動くもんか!雲華が動こうとしても、しがみ付いてやるぅと、それぐらい考えていた。

 ところが、雲華も一刀の両肩に置いていた手を離したが……立ち上がる事もなく、それどころか、右手で一刀の髪を撫でたり弄ったりと、のんびりしていた。

 彼女は考えていた。

 自分に出来ない事をいくつも出来る人に出会えた事を。それも気に入っている人がであった。それはとてもとても素敵なことなのだと、膝上の一刀を優しく見下ろしながら雲華は改めて感じていた。

 そんな自然と微笑んでいる彼女へ、一刀は自分の方から声を掛ける。

 

「雲華、そのぉ、いいの? こう、のんびりしてても」

「ん? そうね……い、いいんじゃないかな。たまには」

「いいよね、たまには」

 

 二人とも、昨晩も今朝ものんびりジャレていたような気もしないでもないが……そう、誰も見ていないのである。関係ないのだ。好き勝手な二人の時間なのである。

 なのでその間に、互いの手をニギニギしたり、指で顔をチョンチョンとしたり、頬をナデナデしたり、ニタニタと夕食の話をしたり……そろそろ凶暴な虎か熊の大群にでも襲われればいいのにと、いないはずの外野に思われたり思われなかったりの一刻(十五分)ほどを過ごすのであった。

 

 だが、雲華は雲華である。

 彼女が二時(四時間)と言った、木人との実剣での剣術修行は介抱までの時間を合わせても、まだ半時程しか経っていなかった。

 

 そして残った一時半(三時間)について……実剣による木人剣術修行は再開されるのである!

 

 えっ?終わったんじゃないのかよ、という一刀の発言は、雲華の「一旦終わったでしょ?」と言う言葉に軽く一蹴される。

 そして、雲華は一刀の『超・超速気』は今後一切禁じ手としたのだった。体が壊れるものであったからである。そこでさらに彼女は、木人剣術修行を行う時に『超速気』までも禁じたのである。

 だが、これには一刀も反論する。当然である。木人くんに贔屓し過ぎである。自分にも構ってほしいのである!

 いやいや、『超速気』がないと武術の技量ではヤツに勝てる見込みがゼロに近いのだ。ヒキニクになっちゃうのだ。

 すると、雲華はやさしくと言う。

 

「しょうがないか。じゃあ……木人くんの馬を外して、槍を剣にしましょう」

 

 よし!ただの剣同士なら『思考発極』と『視鏡命遂』が使える!と、一刀は右手で拳を握ると震わせる。

 先ほど、温泉は否定されなかったことからこの後の『温泉タイム』は確定である! ヨシヨシと彼は、溢れ出るヨコシマな気力と共に、そう喜びかけたが……『剣』?

 そう、一刀には瞬間に『自分が真っ二つ』な光景が目に浮かんだ。

 彼はゆっくりと雲華の表情を伺った。『ニタリ』なら――それは木人による彗光の剣の一撃で斬殺な『死』を……享年十●才を迎えることに……。

 

 

 

 しかし、彼女は「んっ?」と、笑顔で可愛く僅かに首を傾けて一刀に応えながら、『普通の剣』を木人へ手渡していた。

 

 

 

(おやや?)

 

 これで生き残れそうだが、一刀にはこれはこれで、強烈な『違和感』であった。

 何かが変わった風にも思う。しかし考える間もなくそのまま、木人剣術修行は再開される。

 始まる前に、一刀は小走りで雲華へ近づき、水色の服の上着と肌着を脱いで雲華に渡す。

 

 「悪いけど、破れたところを直しておいてほしい。大事な君の作ってくれた服だから、また着たいんだ」

 

 手渡す時に、雲華の手も優しく握っていた。彼女は頬を染めて小さく頷き、それを受け取る。

 そして一刀は、漢(おとこ)らしく、表情を精一杯イケメン風な表情を作って爽やかに微笑むと木人に向かってゆっくり歩を進めていく。

 だが、一刀の内心には――『温泉タイム』への渇望に寄せた『ウヘヘ、ムヒヒ』的なヨコシマな『無限の気力』で溢れ返っていたのであるが。

 その気力を背景に、彼の体には全開の『速気』と『剛気』と『硬気功』と『思考発極』と『視鏡命遂』の五重のコンボが常に掛り続ける。

 そして再び戦いが始まる。

 一刀は、猛将並みの木人の猛攻に対して、先読みでの先制、先読みで剣の軌道変更、先読みでの『速気』見切り避け、剣撃を『硬気功』の腕でわざと受けての同時にカウンター的な反撃など、『速気』と『剛気』と『硬気功』と『思考発極』を中心にした技で凌ぐ。

 現実は凌ぐしかないのだ。動作と剣速について言うと木人の方がかなり早いのだ。そして武術の技量には圧倒的な差があると言えた。なので、ほとんど防ぐので精一杯である。

 すでに何撃か頭や肩、腰にもまともに受けていた。いずれも『硬気功』が無ければ間違いなく致命傷の攻撃だった。

 だが、一刀もその技量をただ見て受けているわけではない。『視鏡命遂』にて、木人の繰り出す剣術を、その気の流れから掴んで一刀も同技を自ら放つのである。

 木人の出して来る上からの剣の振り下ろしの下ろしたあと、剣先を百六十度近く返し、直ちに剣で斜め上側に切り上げる技を盗むのであった。これは一刀(いっとう)流の技に近い。

 これなら、剣を振り下ろしてから、本来剣を上に引き揚げる間に攻撃できない隙にも攻撃が出来るのである。

 一刀は、木人の剣撃を『硬気功』の左腕で受けて肘まで流し、さらに肘で下へ追い落とすのに連動してそのままカウンターで木人の頭頂点に剣を強烈に打ち込み下へ振り切る。そして上へ返す剣でヤツの右胸を、一刀から見て左上に切り上げる。すると木人の鎧の武具の一部が今の鋭い攻撃の衝撃で壊れ、今日の為に誂(あつら)えたのであろう分厚い胸当てが外れそうになった。戦うにはかなり邪魔であった。

 一刀は一旦距離を取ると、木人に言ってあげる。

 今、雲華は先ほどいそいそと一刀の服を直すために家の中へ戻っていったので、この場にはいない。

 

「胸当てを外したらどうです。待ちますよ。服を脱いだ俺の、上半身にしか攻撃して来ない礼です」

 

 木人とはいえ、武人として力量に敬意を表して丁寧に伝えていた。

 そうなのだ。木人は気付かせないようにしていたのだろうが、一刀に対して下の服がある腰以下に、ほとんど剣による攻撃が来ていなかった。来てもすべてフェイント程度であった。

 相変わらず、ヤツの行為はイケメンすぎるのである。

 すると木人は、いかにもな顎を斜め上に少し上げるようにした。まるで、「ふん、小僧め、余計な気を使いよって」と言っているかのようであった。

 だがこの時代、戦いは互いの名誉と命を掛けた神聖なものでもある。そのような気遣いも悪くは無い、尊いものなのである。

 木人は静かに膝を付いて剣を置くと、手慣れた様に胸の武具を外す。そして、邪魔にならないように軽く広場の外周傍へ放ると、木馬が静かに歩いて来て、それをカプリと口に銜えて脇へ下がって行った。

 一刀は思う。どのような仙術なのか知らないが、芸が細かいな……こいつら本当に作り物か?と。

 木人は再び剣を左手で握り、立ちあがる。そして右手でクイクイッと「さあ、掛ってこい小僧」と一刀に合図すしてくる。

 再び激しい戦闘を再開する二人だった。木人も、先読みばかりされるわけではない。一刀の動作のクセを間も無く読んで、先読みしてくるのだ。本当にヤバイ武将なのである。

 逆にクセから木人に先読みされ、頭に連撃を食らった一刀はクラクラさせられた。

 しかしと、一刀は一瞬考える。この水準で猛将かも?という強さなら、最強クラスは一体どうなるんだと。

 だが、激しい戦いと別の想いにその思考は、端へと追いやられていく。

 必死で剣をぶつけ合い、二人の間に剣閃の火花が舞う。

 一刀は当然再開当初から再び『飛加攻害』も狙っているのだが、木人はそれも警戒し全く傍へ近寄らせなかった。

 熱い戦いは、まだまだ中盤にも届いていない。休憩なく終わりも遠く、切り合いは続いて行く。しかし開始当初、一刀が三対七で取れていた攻撃が、じわじわと二対八にまで下がって来ていた。武術については対応の才能も比例してゆく。

 時間はそれなりに経過してきている。

 しかし、益々厳しい、ヤバイ、また打たれたと一刀の考えが行き詰ってくる。

 そんな中、一刀の胸中を過り、彼を支え続ける大部分の熱きその想いは―――

 

 

 

(温泉温泉温泉温泉温泉桃尻温泉温泉胸温泉温泉桃尻温泉温泉胸温泉温泉温泉腰桃尻温泉温泉胸温泉温泉腰温泉胸温泉桃尻温泉温泉腰温泉桃尻温泉胸温泉桃尻胸桃尻温泉胸桃尻腰胸桃尻胸腰桃尻胸ムチムチモモ―――)

 

 

 

 一部ヘンな所があるが、一応漢字で表現してみる。

 ヒドイのである。悪化してると言っていい。

 途切れない彼のその果てなき想いは、続いていく。

 最後の方は、想いがすり替わって当初の想いがアヤしい状況になりつつあるのだが……。

 もう少し、戦いに集中すればどうかと思うのだが、これは『無限の気力』に必要なのであった。もはや、生き残る生命線なのだ。これは『正義』なのであるよ!(最後はエセ中華風に発音)

 そんな一刀の考えなのだが、これで勝とう戦おうと言うのがそもそも武人に対して失礼千万なのである。

 だが、見た目の彼の戦う姿は必死で非難されることはまずない。

 今、目指すものは、温泉胸腰桃尻ムチムチモモと、勝利である!

 そろそろ、こう表現している方が何を書いているのだろうと、ヤバくオカしくなってくる程であった。――いやいやそんな事はどうでもいいのだ。

 

 一刀は、木人に対しての攻撃比率が三対七、二対八と、そこからさらに下がりながら、行き詰まりつつもまだ、この稽古の最終的な勝利を諦めていなかった。

 それは……木人に対してまだ、彼が勝っている部分があったからだ。

 最後に勝てばいい、それまでは現状で凌いでやろう。だが、気付かれてはいけない。一刀は、密かに頭の隅でそう考えながら、木人の攻撃を切り返しつつ時間が過ぎていくのを待っていた。

 ふと、気が付くと雲華が服の修復が終わったのか広場へ戻って来ていた。

 『温泉タイム』へ抱く、熱きその想いを念仏のように内心で唱える一刀は、雲華の見守る中、木人の猛攻をその後一時(二時間)近く耐えたのである。

 終盤は更に攻撃比率が下がって、一対九ほどになり、一刀はボコボコにされる状況になって来ていた。だが、木人も永久に動けるわけではないみたいであった。

 ヤツも少し、攻撃の切れが悪くなっている感じがあった。

 それもそうであろう。二人は互いの攻撃が決まっても致命傷にならず、戦いを続けて常に高い気力と体力の消費を続けているのである。そして単純な考えで言うと木人は、一刀の九倍攻撃してくるわけである。

 ダメージを別にすると、体力、気力は攻める方が明らかに消費するのだ。

 また、一刀のような大量の気を無尽蔵に生み出す『無限の気力』など、そう誰でも出来るわけがないのだ。

 木人にも活動の限界はあるようだ。

 一方の一刀は、更に直前まで近づいてきた『温泉タイム』に『無限の気力』は最高値を記録する勢いにより、全身に無駄に分厚い『硬気功』を展開しており、延々と瞬間回復も掛り続けていることもあって体調はすこぶる万全であった。

 さて、一刀が狙っている逆転の可能性。それは『剛気』である。パワーだけは、現状でもこの猛将並みの木人に負けていないのである。

 そろそろかなと、一刀は動き出す。

 不自然にならないように木人と対峙しながら、木人が正面から力一杯に打ち込んでくるのを待っていた。

 そしてそれは、キタ。

 一刀はそれを剣で受ける――ふりをして、途中で持っていた剣を手放していた。

 木人はそれを見て、一瞬動きが鈍るが振り下ろしは続いた。

 振り下ろされてくる剣を、一刀は白羽どりではなく、初めから『硬気功』で固めた手をブイ型にして鈍い音と共に手に当てて止め、挟み込んでいた。

 そして、この剣術修行の途中で試していた『超剛気』で挟み込んだ剣ごと木人を地面へと一気にねじ伏せようとする動きをとる。

 だが――木人はそれを察知して、持っていた剣を手放し、素早く距離を確保していた。

 

(あれっ……?)

 

 一刀の作戦は、なんと失敗してしまった。

 木人は、徒手で構えを取っていた。功夫の嗜みもある様に見える……。

 

(ヤバイ、どうしよう……)

 

 その時一刀は、自分で手放した足元に落とした剣に気が付いた。そこで閃くのである。

 挟み込んだ剣を左手で持ち直し、一刀はゆっくりと足元の自分の剣を右手で掴む。

 そう、二刀流である。まあ、恰好だけであるが。

 しかし、二刀流で重要なのは、実は腕力と言える。 

 相手が両手で打ち込んでくる剛剣を、片手で止められなければ優位性は半減するのである。

 その点は『剛気』や『超剛気』があれば、全く問題がないのであった。

 

(さて、どこまで反撃できるのか?)

 

 一刀がそんな事を考えていた時に、雲華が両者へ声を掛けてきた。

 

「そこまでにしましょう」

「えっ? これからいいところ――」

「そんなわけないでしょ。君はどれだけ、木人くんにやられてたのよ」

 

 反論しようとした一刀を、吹き出しながら一蹴する雲華だった。

 「まあ、確かにやられまくってたけど」と一刀も認めるしかない。

 雲華はさらに厳しい事を彼へ言う。

 

「最後仕掛けた技、やるのならもっと前にやりなさい。最後にいいところを見せても、修行にならないじゃない」

「……ごめん。そう言われるとそうだな」

 

 そして、続けて雲華は厳しい、余りにも厳しい制約を一刀へ言い渡すのであった。

 

「あと、『無限の気力』も当面禁止かな」

「えぇーーーー!?」

「あんなに無尽蔵に気があったら、君の極限での修行が出来ないじゃない」

 

 『無限の気力』は『悪魔』さまご希望の『一刀の極限状態』には邪魔らしい。『悪魔』さまの御言葉である。もはや、守らざるを得ない。

 一刀は、ようやく生き延びて折れたはずの死亡フラグが、再び確実に立ち上がったような気がした……。

 ガックリと力なく項垂(うなだ)れその場に座り込む一刀へ、雲華は彼の肩へそっと手を置くと、静かに……そして恥ずかしそうに声を掛けてあげる。

 じゃあそろそろ、山菜取りと―――温泉にいきましょうか、と。

 

 

 

 一刀は――――――復活する!

 

 

 

「温泉だぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」

 

 タイムでプリーズなんです!と、彼は力強く立ち上がり、咆哮していた。

 体は力みで震えながら、両拳を握り、絞り出すように声を出していた。

 まさに魂の叫びであった。

 もはや、明日の『死』などどうでもいい感がある。今を、温泉を、桃源郷を楽しもうではないか!

 そんな、一刀の本心がそこには溢れていた。当然、ヨコシマな気も無限に溢れていた――――。

 

「禁止って言ったのにぃーーー!!」

 

 気が付いたときには一瞬で気が飽和している一刀の状態に、雲華の声が空しく近くの森に響き渡るのであった。

 

 

 

 

 さあ、温泉である! 

 本来は、水汲みと山菜取りのついでなのだが……そんなことはすでに一刀の記憶には残っていない。

 彼の脳ミソには、温泉に行くついでに、水汲みや背負っている籠へ道すがら食材を見つけて集める、そんな感じにすり替わっていた。

 いつもの様に二人で森の中の獣道を行く。

 一刀の背負う籠はすでに一杯になっていて、しばらく散策のごとく歩いたころ、バチャバチャと水の音が聞こえてきた。

 前回と違うのは……道中ずっと二人が手を繋いでいる事だ。互いに指と指の間にガッチリ組んでいるのである。時々、無意味に手を前後に振ったり、無意味に肩もくっ付けたり、無意味に互いの顔を見合ってニコニコするのである。

 もはや、どうしようもない感じなのだ。甘えるのは寝る前と、起きた時だけじゃねぇのかよ?と口調を乱暴にして問い正したい……あ、いやいや、いいんですよ。だれも見てないから、ホントにもーね。……何も言うまい。

 

 さて、雲華は一刀の『無限の気力』について禁止したのだが、どうも無意識に飽和するので、一刀自身も止めようがなかった。

 なので、禁止はやめて――『無限の気力』になっていない時に修行する事になった。

 雲華としては、一刀が限界状態での修行になればいいのだ。

 逆に言うと、雲華を推して『無限の気力』を使う一刀は、修行の意味が無くなるほどの脅威になって来ていた。

 しかしいずれにしても、『無限の気力』がない状態の一刀にとっては、修行を『死が間近』な地獄として行う事になるのであった。

 

 でも、それは『明日から』だ!

 

 一刀は『前向き』にこう考えていた。

 

(今晩寝ている間に、自分の絶とかの心臓発作でぽっくり行くかもしれないじゃないか! きっとその方が幸せな人生だったと振り返れる気がするんだ。だから……今を楽しむんだぁぁぁ!)

 

 思考が完全に追いつめられた人間のものであった。それほど『悪魔』さまの修行は、一刀にとって怖いのだ。

 もっとも、横で一緒に寝ている雲華が、そんなぽっくりを見逃すはずがないのであるが、モルモットのように怯える一刀はすでに頭が回っていなかった。

 

 湯気の上がる見慣れてきた温泉に付くと、雲華は水を汲んで入るから先に入っていてと、いつもの様に言われ、彼女の肩に掛っている袋から手ぬぐいが出されて渡される。そして、組み合っていた二人の指と手が離された。

 雲華と手が、彼女の温もりが離れて少し寂しい一刀であったが、服を脱がなければいけないので気を取り直して、いつもの位置へ行くと籠を下ろして、服を畳みながら抜いでいく。

 雲華は、いつもの様に奥の湯溜まりで、豪快に背負ってきた水瓶を満水にすると蓋をして帰り口に近い場所へ置く。そしていつも着替えをしている岩場へ行く。

 一刀は脱ぎ終わって手ぬぐいで前を隠すと、湯船際で掛り湯をしてゆっくりと温泉に浸かる。ここは、熱すぎずぬるすぎない良い湯加減なのだ。

 いつも靠(もた)れ掛かっている定位置の浅瀬の岩へ寄り掛かって雲華を待っていた。

 まもなく、雲華が手ぬぐいを携えていつもの様に岩場から出てくる。

 一刀に対して横を向いていたため余計に……出てきた瞬間から、一刀は白い湯あみ着を着いている雲華へ目が釘付けである。

 初めから言っておこう。

 

 なにかがオカシイ♪

 

 そして、彼女はいつものように湯船際の岩場で掛り湯をする。

 当然、彼女の白い湯あみ着は、お湯によって滴り張り付きスケ透けになって、彼女の綺麗で見事なボディラインを浮かび上がらせるのである。

 そのことは、もちろん当の本人も気付いていることだ。知っているのにも拘わらず、雲華はなんと……『正面』を向いてこちらへゆっくり歩いて来るではないか……。

 すでに湯船際で、こちらを向いて入る時にイロイロ見えた気もしないでもない。

 そのためか、彼女の顔は温泉に入ったばかりだと言うのに、すでにのぼせたような赤さであった。恥ずかしそうに顎を少し引いて上目使い気味にしている。

 湯船際はすぐに深くなるのだが、一刀の傍は浅瀬である。そして一刀は岩へ靠れ掛かっている低い位置から見上げる事になる。

 こ、これは……アウトでしょ?

 雲華は近づいて来る。浅瀬に近づき水面から出ている部位が多くなってゆく。

 以前のように、膝を折って首まで浸かって横に移動して来る事をしない。

 初めから見えていた肩から、徐々に胸……お腹……おヘソ……腰下……お股……フトモモ……と露わになってくるのだった。

 彼女の手ぬぐいは、肘を曲げた右手に持たれているが、湯あみ着にはほとんど掛っていなかった。

 つまり―――

 

 

 

 パーフェクト(二十七個連続アウトで完全試合)である!

 

 お、おまけに……その状態で、一刀の目前で雲華は立ち止まっていたりする。

 完全に識別できるのである、凹凸にイロイロと。

 

 

 

 少年誌エロ的に文字で限界表現すると……胸部は『肌桃肌谷間肌桃肌』、お股は『肌ケ(少し)肌』、な感じである。

 完全にお湯で張り付き水滴を滴らせ、かなりの率で透けている湯あみ着に意味などあるのだろうか……?

 いや、大アリである!

 完璧なほど、余計に盛大にエロいのだ!!

 一刀は茫然と彼女の艶姿を見上げていたが、称賛しなければイケナイと僕(しもべ)的な本能がハッと気付くと、いつものように『他人にはとても聞かせられないハズカシイ』言葉を述べ始める。

 

「とても可愛くて、とても可愛くて、とても可愛くて、とても可愛くて、とても可愛くてすごく綺麗だよ、雲華」

 

 大事な事なので、キチンと五回言う一刀だった。

 もちろん、そんな事をしている一刀の脳ミソの片隅では、最大解像度ですべての光景が記憶録画され続けているのは言うまでもない。

 雲華は、一刀の顔を見ながら、とても恥ずかしいそうに小さく頷く。

 だが、実はまだ終わっていなかったのである。

 雲華は一刀の言葉に満足し、岩場に靠れてのんびりするために、ゆっくりと背を向けていく。

 だが……その後ろを向いた彼女の光景に、口を少し開けたまま一刀は凝固する。

 

 

 

 雲華の背中側には―――湯あみ着の白い生地が無かったのだぁぁ☆☆☆!!!

 

 

 

 あったのは、幅が一センチほどの白い布紐だけであった。腰からT字に近いお尻の形に沿ってカーブを描く三本の紐と背中に横に入った紐だけしかなかったのである。

 彼女が着替えの岩場より出てきた当初から、一刀も見た目に白色が何か少ないような違和感があった気がしていた。

 

 健康的なうら若き女の子が、無抵抗に見た目がほぼ全裸で、栄光の胸も桃尻も、シークレットなケをも彼の目の前に晒してくれたのだ。

 

 先ほどからの桃源郷な情景に、彼の歴史は『刷新』されていた。

 もはや、動いたという次元ではなかった。新規に刊行である。新しいページが開くのである。

 ヤバイ……コレはどう褒めればいいのか、さらに……一気にリビドーが満ちて来てアソコまでモッコリとしてしまった一刀は、もはや混乱の境地に達してしまった。

 雲華は、寛ぐようにゆっくりと一刀の横の岩場に並んで寄り掛っていた。もちろん一刀へ肩と桃尻をくっ付けてである。そして彼に向ける表情は、ほぼすべての自らの体の外見を間近でジックリと見られたであろう事を思ってか、非常に赤く恥ずかしそうであり、首を少し斜めにし上目使いで見てくるのだ。

 それは一刀の脳ミソとハートを完全に打ち抜き……砕いていた。

 雲華は、微妙に複雑な作り笑いをしている一刀の表情から、その下の水面の揺らぎを通して見える彼のシモな変化に目線が行き……その熱き想いのリビドーに気付いていた。

 

「ねぇ……それが、私の姿への一刀の返事なの?」

 

 右横から伝わる雲華の小さな声と感じる目線に、一刀は温泉に浸かっているからではなく、『これは……危険な状態?』と戸惑いから額に油汗を感じていた。

 『絶対絶命』、自分に明日なんてこないのだろうか。でも、すでに満喫した気もしないではない。一刀は雲華の質問に――繕える自信が無くて、今の気持ちを正直に答えていた。

 

「そうだね、雲華の可愛く綺麗な姿にとても熱く興奮しちゃった。……でも俺も言ったことは守るつもりだよ。余り待たせないように頑張るから」

「そう…………(嬉しい)。私も……(期待して)待ってる」

 

 なんと、怒りの言葉やお仕置きでないだけでなく、やや不鮮明な箇所もあったがそう言うと、雲華はコトリと頭を一刀の肩に傾けて乗せて来たのだ。

 一刀も自然と右手で雲華の肩をやさしく抱くのであった。

 暖かい湯船で静かに身を寄せ合う、二人の平和で幸せな時間はゆっくりと流れていく――――。

 

 すでに夕暮れ前のいい時間になりそうであった。

 もはや、別々に着替えている意味もあるのかと思われるが、それは違うのだ。

 親しき中にもけじめやメリハリは必要なのである。それがないのは只の堕落だろう。基本を大事にする雲華には妥協できない部分であった。

 着替えを終え、帰る支度が整うと二人は再び手を握って帰るのである。それは行きと反対の手と手を繋いでいた……もはや長き付き合いを感じさせる雰囲気を醸し出していた。

 

 

 

 

 二人が、巨木の家へ戻って来る頃には日が沈みかけていた。帰るのに少しゆっくり歩き過ぎたようである。

 結局、またしても家の中の調理室前まで、手を繋いで来てしまう二人であった。

 

「じゃあ、夕食の準備をするね」

 

 そう言って雲華は空いている手で握っている二人の手を包むようにして、名残惜しそうに一刀との手を解いて調理室に入って行った。

 一刀も背負っていた籠を調理室前へ下ろすと、食堂の卓上を拭いたり床の軽い掃除をし始める。

 ほどなく、山菜取りで収穫したものが活かされた、夕食の用意が出来あがる。

 今日は吹かしものである。干し肉を使ったシュウマイやイモ類と、洗って刻んだ野菜のサラダなどであった。

 彼女のご飯は、いつも出来立てで暖かくおいしかった。そして彼女のあ~んが甘~いのだ。

 一刀もお返しのあ~んをするのであった。

 すると、更にくっ付けてくる桃尻も暖かいのである。もはやどうしようもない感じだ。

 

 夕食の片付けが終わると、夜の修行となった。

 まず、読み書きの勉強である。再び雲華と向い合って筆記用具や竹簡の冊や木簡を用意して始める。

 今朝、新しく増やした漢字を覚えているかの復習も含めて、みっちりきっちり行われた。難しい長文の読解も増えてきた。一刀も地道に読める文が増えて来たので、気分が乗って進めやすかった。最後の方は作文である。やはり自分の意思を他人に伝えられる文が書けることは重要である。

 また雲華曰く、文章の出来で、その人を見る目も違ってくる事だろうというのだ。確かにこの時代、文官としての能力を学がある者も判断するのだろうし、それは色々な所や場面で十分有る事だと考えられる。

 雲華としては、まだ今一つな文章であるらしい。すでに四則計算が出来るのだから、文面が向上できれば、県の最下級役職ぐらいなら雇ってもらえるかもしれないとのことだ。

 一刀が目指す、『一人前』とは……彼なりに少しまとまってきていた。

 それは、どこかの君主や太守になるとか、そんな強大なものでは決してないのだ。

 実にささやかな物である。

 

 

 

『この荒れた時代にそれなりの家を自力で構えて、食うのに困らない財と奥さんと子供を養え守れて、堂々と生きていける人物に』

 

 

 

 ただそういう普通の話であった。

 なので、現状の『猛将との血飛沫上げてのガチバトル』な修行は完全に範疇外であった。

 正直、そんな職業には就きたくないと言える。ゴメン被るのである。

 平和で、奥さんと木陰でまったりとイチャイチャして、食事時にはあ~んをしていたいのだ。

 だが、今は雲華が……『悪魔』さまから『神気瞬導の第三条までの習得!』と掲げられているため従っているだけである。

 しかし、それも大詰めを迎えていた。

 読み書きの学習を一時(二時間)程行ったあと、頭部の絶についての修行が行われた。

 これが終われば、『神気瞬導』の第三条までの、

 

『一つ、気道を絶ち、気道の流れを再開させること。それが気を理解する者なり

 一つ、気によって体は動くものなり。すなわち、より気の強いものはより強い力、より気の早いものはより早い動きが出来るものなり

 一つ、気によって体は回復するものなり。回復への気の大きさ、強さは偉大なり』

 

 が大体終わったことになる。おまけで第四条の、

 

『一つ、気に限界なし。体力とは違うものなり。限界と思ったところに限界が出来るものなり』

 

 まで行ってしまっているんだが。

 雲華は、食卓の机から少し離した食堂の長椅子へ静かに再び横になっていた。

 一刀もこれは少し緊張気味である。

 なにせ脳を完全に絶にすれば……雲華が本当に死んでしまうのだから。

 だが、雲華は一刀を信じている。落ち着いて彼にアドバイスを始めた。

 

「落ち着いて、自分の頭に行った手順と同じ感じを思い出しながらお願いね。順番は筋肉系から内部へ進んでね」

「分かったよ」

 

 一刀は、ゆっくり静かに雲華の言葉に頷いた。

 そして、首や、顔の筋肉系、顎、頬や目の周りなど順に気の流れを絶にしてゆく。次は、視覚、聴覚、嗅覚などの感覚、神経系を絶にしてゆく。

そして、脊髄、小脳の一部、大脳の一部へとどんどん絶にしてゆく。

 脊髄が絶になった段階で首から下の全身が動かなくなるので一気に緊張する。

 一通り終わると直ちに、瞬間回復を掛ける。

 

「どうかな……?」

「君には、武術の才覚はそれほどないのだけれど……『神気瞬導』については末恐ろしいものがあるかな。問題ないわ」

 

 雲華は、一刀に向かってとても嬉しそうに微笑んでくれていた。そして、次の指示と共に言っちゃうのである。

 

「じゃあ、今のを後、二十回しっかりやってみて。それが終わったら……寝ましょうか」

「うん。頑張るよ」

 

 持てる力のすべてを使っての速攻で終わらせようと動くのである! しかしその間、一刀の思考は全く別のところに移っていた。

 彼女の『終わったら寝ましょうか、終わったら寝ましょうか』と、その言葉が彼の思考の中で延々と繰り返されているのである。

 雲華の頭部への絶技二十回は、一刀の脳内で機械的にカウントダウンされていき、ほどなく終了する。

 そして、一刀は正常な思考が戻ってこないまま、雲華へ声を掛けていた。

 

「オワッタヨ」

「なんか、心ここにあらずという感じね。ホントにしょうがないわねぇ」

「ソンナコトナイヨ」

 

 一刀の受け答えがまだ、機械的であった。雲華は諦めたように言ってあげた。

 

「まあ、問題なく出来てたかな。……じゃあ、寝ましょうか」

「―――喜んで!」

 

 一刀は、雲華から待望のオンタイム宣言により、思考の彼方から一瞬で帰還する。

 二人はいそいそと仲よく窓横の洗面台で歯を磨くと、雲華は先に梯子を伝って上に上がって行った。

 雲華が居なくなると、一刀は、食卓から修行のために離していた長椅子を机へ寄せると、部屋周りを整頓する。気持ちが急くが、基本は守らなければならないのだ……『死』は、ほらそこにあるよ?『悪魔』さまは恐ろしいのである。

 一通り終わってから、一刀は棚から『囚人寝間着』を取り出すとあっという間に着替えを終える。すでに、何カ月も前から着慣れているような手際に見えた。

 そして、梯子の下から上の雲華へ声を掛けるのである。

 

「もう上に上ってもいい?」

「……いいわよ」

 

 一拍の間があった……が、一刀は気にせずに一歩一歩梯子を上ってゆく。

 今日も、梯子の近くまで出迎えてくれる雲華である。

 一刀は梯子を上り切る。

 その見た目は、寝間着と耳帽の色が、昨日の水色から橙色系になっていた。そのため寝間着は下の下着が少し透けて見える橙色の透過生地に変わって、ヒラヒラの装飾も赤に変わっている、服のデザインは少し変わっていたが、裾が短すぎるのは昨日と同じであった。

 なので、桃尻の下着が丸見えなのも昨日と同じである。

 ここまでは、まあ良いだろう。

 だが……だがである。これは、イケナイことだと思うのですがドウでしょう?

 

 

 

 胸元の下着と桃尻の下着も、僅かに透けかけているというのは?!!

 

 

 

「ちょ!雲華!?」

 

 スバラシイィィ!! 口から出る言葉と感情が違うことは、よくあることである。一刀はその眺めに感激するとともに、この時代に透過するように見せる裁縫技術を持つ雲華に感心していた。

 一方の雲華は、さすがに正面からまじまじと見られるのは恥ずかしい様子だ。照れた表情の雲華は、いつもの一刀の彼女を称賛する言葉を待たずに早々と彼の右側へ回って来て、彼の右肘に腕を絡めてベッドの方へ誘(いざな)おうとするのであった。

 しかし、彼女との距離が近いため、余計に詳細な姿が一刀の目に見えて、入って来てしまうのである。すでに彼の脳ミソへの記憶録画も、視覚の最大解像度でバッチリ撮られてしまっていた。

 一刀の目線と『無限の気力』が発動しているので、雲華も薄々は見られている事に気が付いている。

 まあ、一刀に見られるのは嬉しい事なのだ。なにせ、見せる為に自分で作ったのだから。

 二人はベッドへ上がると、なんと雲華が一刀に膝枕をおねだりしてきたではないか。一刀は「俺だと固いんじゃないかな?」と言うが、雲華はいいのと言う。

 一刀にイヤはない。可愛い雲華が言うことである。一刀が正座をすると、雲華が嬉しそうに仰向けになり彼の膝へゆっくりと頭を置いた。

 その具合について一刀は声を掛ける。

 

「固くない?」

「うん、固くないかな。ふふっ」

 

 雲華は嬉しそうに一刀を見上げて微笑んでいた。一刀も見下ろして笑顔を返す。返すのだが……一刀から真っ直ぐ正面に仰向けで横たわる雲華……寝間着と下着が薄く透けているのである。

 そちらに思わず一刀の目が行っていると、下から雲華の手が伸びて来て、一刀の頭を両手でやさしく包むように掴むとゴキッと下へ、雲華の顔を向くように角度を変えるのである。一刀は思わず懇願する。

 

「雲華……『剛気』で首の方向を矯正するのはどうかと思うよ? もげちゃうから」

「今は顔を見ていて欲しいの。お話したいの」

「分かりました」

 

 逆らうことは、愚かなことである。イエスマンの宿命である。そして、雲華は静かに話し始める。

 

「一通り、君の修行が終わっちゃった」

「そうだね」

「でも、まだまだなんだから……」

「雲華……」

 

 雲華は一刀の膝上で顔を横に向けると、膝へ頬をスリスリしてくるのだった。一刀はそんな雲華の頭を耳帽の上から優しく撫でている。

 この二人のまったりな時間の中で、雲華からそれが一気に氷付くような、デスオアライブの問いが出るのである。

 

「一刀も……まだ修行したいわよね?」

「え゛っ?」

 

 地獄の修行である。一刀が思わず、聞き返すように言葉に詰まるのも無理はなかった。『悪魔』さまの修行なのだ。今のような、甘える時間なら聞き返すことなどアリはしないノダ!

 一刀の思考が固まる中、容赦なく『悪魔』さまのダメ押しがやって来る。

 

「修行したいわよね?」

 

 甘えの時間なのに、『悪魔』さまの甘えの時間になってるんですが。

 一刀の額には、条件反射的に脂汗が浮かび上がってきていた。

 だが……イエスマンに『否』は無いのである。『悪魔』さまが『黒』と言えば、色が存在しない空気の色でも『黒』なのである。一刀は、恐怖にカクカクと小さく震えながら棒読みでオウム返しのごとく答えるのみである。

 

「修行、シタイ(死体)、デス(Death)」

 

 不思議に複雑ながら意味は合っていた……さすが『悪魔』さまのお導きと言えよう。

 その答えに満足した雲華は、今度は自分が膝枕をしてあげると告げてきた。そして、「スリスリやナデナデしてもいいから」とちゃんと甘いアメも付けてくれたのである。

 位置を変えて、雲華の膝枕にスリスリ、ナデナデとやりたい放題の一刀であった。だが、雲華の膝枕を散々堪能しながらも、これだけは言っておくのだった。

 

「まだ不十分な読み書きと、これまでに教えてもらった『飛加攻害』なんかが、もう少し上手くなるまでだね。雲華を、待たせないようにしないといけないから」

 

 先ほどから、一刀に太腿へのスリスリや足回りから桃尻までさり気なくサワサワされて、「あん」とか「うぅん」などちょっと際どい声が出かけていた雲華であったが、一刀の想いには小さく答えるのである。

 

「……うん、わかってる」

 

 そして間もなく二人は、再び並んで布団へ入った。やがて明かりが消され、雲華は一刀の手をいつもの様にしっかり握ると、昨日よりも寄り添ってくるのであった。そして、スリスリしてくるのであった。挨拶もスリスリしながらであった。

 

「じゃあ一刀……おやすみ」

 

 間もなく、修行を終えてここを離れなくてはならない。それはとてつもなく寂しい。本当は、ここに残ってずっと彼女に甘えて、そして甘えられていたいのだ。スリスリしていたいのである。

 だが、彼女は強く素晴らしいのだ。だから、傍に居るには自分もその価値が無ければいけない。それは自分の我儘なのだろう。しかし、それが北郷一刀の矜持でもあるのだ。

 だから、男として早く一人前になって、ここへ帰って来て、そして―――彼女に伝えたい想いの言葉があるのだ。

 

(だから、前へ進んで俺は伝えるよ)

 

「おやすみ。雲華」

 

 

 

 

 しかし気が付けば、さらに七日が過ぎていた―――。

 もやは、溺れそうである……いや、イカンイカン!

 これも北郷一刀である。

 一通り『神気瞬導』の修行は終わったのだが、それらの完成度を上げるという名目である。

 『飛加攻害』を相手に飛ばして絶技を掛ける方法や、急な瞬間的状況の中での『硬気功』等の発動などである。

 読み書きの勉強も、集中して行われた。使えるようになった漢字は、千六百近くになってそこそこ難しい文も前後の意脈で読める物が随分増えてきた。作文もまあ、それなりに幼稚さの無い、なるべく雲華から教わった文官が好みそうな言い回しを当てて書けるようになりつつあった。

 その中でも、相変わらず地獄的にキツイのが実剣による木人との実戦剣術修行である。

 『無限の気力』と『超速気』が使えないと、もはや一刀には逃げ回るしか生き残る術がないのである。だが、なんと雲華はそれを認めていた。まあ、木人くんがそう簡単に逃がさないのを分かっているからだが。いつも一刀は、ボコボコの極限状態ながらなんとか生き延びて終了していた。

 雲華は気功で一刀のダメージを直しながら、「この時代では、生き残るのが一番大事だからそれでいいの」と言ってくれる。

 それと、修行の合間に僅かだが基本的な剣術、体術も教わった。

 接近戦での剣術や関節技などである。剣術の切り返しにも色々あるのだった。また、組み伏せたあと相手を締め上げる技も有効そうに思えた。

 それから、木馬にも乗せてもらった。足を置く鐙(あぶみ)が無かったので、一刀は雲華に提案し、イメージを木簡に描いて木を削り出して作ってもらい付けてもらった。この時代に鐙は、まだ余り普及していない感じである。

 雲華も「これは便利ね」と喜んでいた。

 乗馬だが、馬の上下に合わせてこちらも調子を取らないと、馬はノってくれないみたいだ。そして、普段の木馬は気分によって首を上下に振ったりと、やたらにリアルな動きをしていた。

 一刀は、木馬に名前が無いと聞き、赤兎馬風に木兎(もくと)と名付けてやった。

 名前を付けて呼んでやると懐いて来た。木馬でも可愛いなぁと思う。

 天気が良い日は毎日、木馬に乗るのであった。

 だが途中、三日も雨の日があった。

 家で過ごすのだが、雲華から約束の仙術と役に立ちそうな仙術をいくつか教えてもらった。あの指で特定のろうそくを消すヤツとかもである。

 屋根裏の服の裁縫部屋も見せてもらった。

 メイド服は帰って来た時に見せてあげると言われた。これは、速攻で目的を達成して帰って来ざるを得ない。今の雲華に着てもらいたいのである!

 

 また一方で、結界を抜けて森の外へ、そして街までの道についても、わざわざ実際に外へ二回ほど案内してもらった。これでなんとか迷わず出て行けて、ここまで帰って来れそうである。

 そして、二日に一度は温泉に入った。

 雲華の湯あみ着姿は何度見てもいい目の保養であった。お湯の滴った、彼女の斜め前方と後方からの眺めが最高にエロいのである。そのシーンの記憶録画数は三百を下るまい!

 雨の日は、頭へ雨笠と獣の皮のマント風な雨具を身に付けて出かけた。雨の山道は足場が悪いので非常に良い経験になった。ただ、温泉までの道程は難所がほとんど無いので助かったが、彼女は山で天候が悪い時は、出来るだけ動かない方がいいと教えてくれた。

 雲華がいつも着替えをしていた岩場は少し岩の屋根をがっちりと作ってある場所で、雲華曰く「しかたないわね」と背中合わせになり……二人で着替えたのであった。

 交代で着替えれば良いのにである。

 狭い場所なので、イロイロ当たったり見えたりするのである。

 後で雲華から、可愛く「めっ、なんだから」とお叱りを受けたことは言うまでもない。

 

 そして、特筆しなければならないのが――日が経つごとに二人の関係は、ギリギリ感が上がっている気がするのは気のせいではなかった。

 甘えの時間における、互いへ触れ合うスキンシップの割合が増えていくのである。

 例えば、食事の時間は、くっ付いているのは当然として、互いのあ~んの回数が増えるのである。ゆっくりなので、時間も掛るのである。そして、あ~んで口元が汚れると互いに見詰め合いながら、相手の口元を指先で拭ってあげて……その指を舐めちゃうのである。

 バカでダメなのである。

 また、朝起きる前の状況だと、隣り合う互いの手の指同士を組んで、しっかりと握られているのはもはや見慣れて変わらないのだが……雲華と一刀は互いに向かい合って横になり、彼女は頭を一刀の胸にくっ付け、さらに左足フトモモまでが一刀の足の間へ入って絡んじゃっています。

 一刀も右腕を雲華の背中へ自然と回して包み込んでいる次第。

 もはや、『何か』あったのではと、思われても仕方のない状況なのである。

 そして、寝る前のスリスリ、サワサワ、ナデナデの時間は……少年誌エロでは、もはや書けない状況で、互いに特定の部位が思わず熱くなっちゃうほどになっていた。

 そんな過酷な状況下にて『欲望』を抑え込む精神的な部分が、究極に鍛えられすぎな気がしないでもなかった一刀であった。

 

 この時代に来て以来連日、一刀は雲華との厳しくも楽しい日々であった。

 しかし、『それ』は少しずつ近づいて来ていた………。

 

 読み書きも予定のレベルはほぼクリアしたことと、『神気瞬導』の派生技もそれなりに精度を上げれたことから、この場所へ来て二十四日目の夜なって一刀は旅立つ日を決断する。雲華も言葉にはしないが、小さく頷くのである。

 いよいよ、一刀の旅立つ日が二日後と決まる。

 

 さて二十五日目、出立前日の今日は、朝から良い天気である。

 二人は、森の結界の外までへの道順についての最終確認と、川へ遊びに――デートに出かける。雲華は、わざわざ木箱に詰めてお弁当を朝に作ってくれていた。

 そして、雲華は――離れない。

 家から目的地までの移動中も、結界にて出る呪文を確認する時も、それから移動して川に付いても、川で遊ぶ時も、辺りを一緒に散策しても、お弁当を食べる時も、昼寝しても、帰宅する道でも一切離れなかった。

 スリスリも収まらない。彼女は完全に『こねこ』さまになっていたのだった。

 ヤバイ、可愛いのである。どうしようもなく愛しいのだ。

 彼女は、行くなとは絶対に言わない。行動でその想いを示すのみであった。

 一刀も時折、彼女を寄せて抱きしめると、彼女の顔を見ながら「待ってて欲しい。すぐ戻るから」と何度も言って聞かせていた。

 彼女は、その度に小さく可愛く頷くのである。

 一刀も、本当は抱えてでも連れて行きたい気持ちなのだ。しかし、それでは自分が納得できないのであった。

 一刀も壊れたボイスレコーダーのように「雲華、雲華」と名前を呟きながら、彼女の手をニギニギして、頭や、頬や、顎や、他色々とナデナデするのだった。

 お互いの甘える行為が、夕食時も、そして寝るまで続いていた……。

 溺れすぎのダメダメである……。

 

 

 

 

 そして、ついに旅立ちの朝がくる。一刀がこの時代に来て二十六日目であった。

 雲華のベッドでの、朝の甘えが長いのであった。一刀の胸に自分の顔を押し付けて脇から手を彼の背中へ回し抱き付いて、ずっとスリスリしているのである。

 一刀は、そんな雲華の背中を優しくポンポンと叩いて宥(なだ)めている。

 生憎、快晴とはいかないが、時折日が射すまずまずの天気であった。

 今日は温泉の日でもある。

 さっぱりして旅出立ちたいという事から、朝食前に二人で早朝の温泉となった。

 ここで、最後の雲華さんアタックが来たのである!

 湯船にて、彼女の湯あみ着での抱き付きからのスリスリであった。

 これにはしばらく、一刀も完全に『壊れて』いた。

 よく覚えていない。いないんだ!

 モッコリもしてしまっていた気もしたし……ソレをやさしくそっと撫でられたような気がしないでもない。そんな妄想的な桃源郷もいい思い出であった。

 温泉から一刀は、フラフラと天国気分で雲華に寄り添われ、イチャイチャと獣道を巨木の家へと戻って来る。

 そして朝食を二人並んでゆっくりと楽しみながら終えると、昨晩最終確認した荷物を背負うと出発の準備を整え、一刀は雲華を従えて外の広場に降りてくる。

 準備した包の荷物は、雨具一式に、毛布代わりの厚手の生地、僅かな着替えと日持ちの良い食糧、読み書きの勉強は続けるようにと、筆記用具に竹簡の冊が数冊と木簡も少し、貴重な紙も持たせてくれた。

 そして広場にて、これもねと雲華から、護身用にあの軽い剣と当面のお金も贈ってくれたのだった。一刀は、「ありがとう」と実戦剣術修行で使い慣れた、この贈られた剣を早速腰に差した。

 外形は装飾について派手さはないが、鞘に収まった状態でも優美にして美しさがあった。一刀の知るところではないが、実はこの剣も高名な老師仙人が作った『龍月の剣』という稀代の一振りなのであった。あの『彗光の剣』すら受け止めきれる飛び抜けた耐久力と、仙術により重力と風圧の影響を受けにくい特性が付加されているのだ。『超速気』での効果が倍加するのである。見る人が見れば、この剣も腰を抜かすほどの名剣なのであった。

 

 森の外への結界の場所へ続く道は、巨木の家の広場から僅かに離れたところに比較的長い直線の道があった。

 見送りはいいと言う一刀に「ここまでは、ね」と、付いてくる雲華であった。

 二人はそこで向かい合っている。一刀は右手で、向かい合う雲華の右の手を優しく取って握ると出発の挨拶する。

 

「雲華、じゃあ行ってくるよ。待っててくれ。俺、戻って来るまでもう振り向かないから。その分早く帰って来るから」

「うん……待ってる。君の姿がここから居なくなっても、君との楽しい思い出と一緒に、ずっと、ずっとこの家で待ってるから」

 

 僅かに涙ぐむ雲華の頭と頬を、一刀は優しく愛おしく左手で撫でるのであった。

 一刀は、手に取っていた雲華の手をゆっくりと離すと、前を向いて静かに歩き出す。

 雲華も黙ったまま、少しずつ小さくなってゆく一刀の背中を見送るのだった。

 一刀は振り返らない。

 

(早く、早く帰って来てね)

 

 小さくなってゆく一刀を見ているのが少し辛くなり、雲華は一刀から目線を下へ外した一瞬であった。

 背筋がゾッとし、ハッとする。

 

 

 

 雲華は――――自分に対してではない、凄まじい『殺気』を捉えたのだ。

 

 

 

 一刀は、前を向いて進む。間もなく直線が終わり、道が右に曲がって、自分の姿が雲華の視界から見えなくなっちゃうなぁと考えていた時、後ろから悲痛な声が響く。

 

「一刀! 危ない!! かず―――」

「えっ?!」

 

 一刀は、雲華の急な予想外の絶叫に先ほどの約束を忘れて、思わず振り向いてしまう。

 同時になにやら、衝撃を受けて倒れ込む一刀だった――――

 

 

 

つづく

 




2014年05月26日 投稿
2014年06月06日 一部修正
2015年03月11日 文章修正(時間表現含む)



 解説)一瞬意味深なものがあったような気もしたが
 つまり、雲華も実は一刀と温泉には行きたいということ。
 そして、背中の白い布が無くなっている新しい白の湯浴み着姿を見せたかったという気持ちが溢れてしまって、一刀に気付かれそうになった。
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