真・恋姫†一刀無双 ~初出会は少女仙人-混沌の外史~ 作:カメル~ン
その戦いぶりは、紅の花を思わせる妖艶な衣装姿も合わせて、まさに赤き烈火のごとくであった。さすがは、江東の虎と号されるほどである。
彼女は、抜き放たれた純金の装飾がなされている自慢の宝刀『南海覇王』を右手に握り、それを前方の敵軍へ指し向けていた。
そして、己が頭に掲げる金細工の施された大きく立派な冠を振り乱すがごとく、両脇の騎馬群で疾走する味方の軍勢へ向かって交互に振り返り、自ら先頭を駆ける馬上から劈(つんざ)くほどの大声で叫ぶ。
「オラァ、お前ら突撃だ! さあ、いざ戦わん! 奴らの命を食い尽くせぇーー!」
そして、敵軍より降り注ぐ矢の中を、身に迫るそのすべての矢を鮮やかに撃ち落とし、先頭で敵陣へ切り込んで行く。
「オラァ、オラァ、死にたいヤツはガンガン掛って来な! 我(われ)があの世に送ってやる!」
彼女の名は孫堅、字は文台(ぶんだい)。孫策、孫権、孫尚香の母である。
切り込んだその彼女の周りは、数撃で血と屍の絨毯と化していた。
黄巾党の乱の討伐では、予州において参戦し、今は青州に居る波才をも一度敗走させている。黄巾党の乱が収まった今は、荊州南方で中央の力が弱まったことで多発していた反乱の平定に明け暮れていた。
今日も、寡兵にも関わらず、彼女は恐れることなく真っ先に敵陣へ切り込んで行った。
孫堅の勢力は、まだまだ貧弱な状況であった。私兵は三千程しかいない。若き少女のころより江東など各所の守備兵団に協力して反乱の鎮圧、そして黄巾党の乱でも少数の私兵を引き連れて各地を転戦して名をあげた。その際、いくつかの地方の県の次官を歴任したが評判がよく、それが袁術の耳に入る。
袁術は、袁紹の従姉妹だが、袁紹の母は正妻ではないため、自分とは血筋的に劣ると思い『袁紹ごときが』と下に考えていたのだ。しかし、いつの間にか袁紹は華北で自分以上の勢力(すでに冀州の州牧)を誇る上、配下に顔良、文醜という豪傑に加え、田豊なる高名な軍師まで揃えるに至っていた。
それに引き替え、自分には主な武将がお気に入りの『何でも不満なくは熟すけれど』の張勲しかいない。
そのため袁術は友軍として、まだ小規模ながら噂に高い孫堅を呼び寄せ、突出した武力と統率力を誇る彼女を厚遇した。袁術は時に孫堅へ、その潤沢で膨大な資金と兵力を貸し与えて事に当たってもらっていた。
孫堅はそれらを使って期待に応え、袁術が手を焼いていた荊州黄巾党の本拠地であった巨大な荊州南陽郡の宛(エン)城を攻略し、その周辺をも平定する。
だが先日の黄巾党討伐の恩賞において、孫堅は武功はあれどその資金・兵力はほぼ袁術の力と評価され、一人の武将としての評価に留まり明確な官位が得られなかった。皇帝より、武功を称え下賜されたという立派な装飾が施された剣と砂金の大袋のみであった。
さすがに袁術も、これだけでは申し訳なく孫堅は自分の元から離れると考え、現在、袁術により予州刺史として上表中であった。さらに袁術は、宛にほど近い南方にある県の棘陽城を孫堅へ丸ごと貸し与え、加えて兵一千と資金・兵糧を与えていた。
これを受け孫堅は、今はことさら大きな不満を言うことなく続く戦いに染まっていた。
孫堅は、しばらく敵陣をねじ込むように進むと、敵の将であろう本陣らしき軍勢のところに出た。
先頭の敵歩兵群の槍の矛先が十以上も孫堅へ同時に迫るが、馬上からヒラリと躱しそれを捻り込むように飛び越えつつ上空で剣を数撃煌めかせると、素早く華麗に敵兵の背後へ着地した。そして、ゆっくりと再び彼女が姿勢を正したときには、後方の槍兵はことごとく絶命しており倒れていった。
その一部始終を見て対峙していた敵の将は、その背中へ猛烈に寒気が走っていた。
目の前に『怪物』が現れた……と。
それから五度も呼吸することなく、敵の将は地面に赤い血だまりを広げながら倒れていた。
敵の将の死を確認して、新たな敵を探すために、ゆっくり周囲を伺う孫堅のその雰囲気と剣を握る立ち姿と鋭い彼女の眼光は、まさに野生の虎を彷彿とさせるものだった。
敵の兵は、恐怖しかなかった。さらに己らの将が撃たれたことで勝機が無くなり、そして虎のごとき『怪物』から一刻も早く逃げようと自然と惑い、敵陣中央部からの崩壊が始まっていく。
完全に戦意喪失状態な敵兵群に、孫堅は「張り合いが無くなった」とばかりにため息を付いていた。そこへ、二人の将が飛び込んで来る。
「母(かあ)様! 私よりも無茶しないでください」
「大殿、無謀が過ぎますよ」
一人突出した孫堅を急ぎ追って来た孫策と程普であった。
「遅いぞ、二人とも。だが、丁度いい。面白いところは食ってしまったからなぁ。後は適当に片付けておけ」
孫堅はすでに『用は済んだ』とご帰還の乗りであった。
それを二人はげんなりと聞いていた――――。
一方、ここは袁術の本拠地、荊州南陽郡魯陽(ろよう)県城の宮殿内の謁見用大広間。袁術と張勲の二人は、戦の緊張には程度遠い『のほほん』とした時間をこの地で過ごしていた。
位置的な関係を言うと、魯陽は南陽郡本来の治所(郡庁のような場所)の宛より二百二十里(九十キロメートル)ほど北北東にある。魯陽と南方の劉表の治める襄陽(じょうよう)を結んだ直線上のほぼ中間点に宛がある形だ。宛と襄陽までの距離は二百四十里(約百キロメートル)。ちなみに宛と襄陽(じょうよう)を結んだ直線上の中間付近に新野がある。
現在、宛城は総構え的な街周辺外郭部も合わせて改修中であり、今後袁術陣営は本拠地を魯陽から宛に移す予定でいる。
三階層に近い吹き抜けの天井を支える豪奢な柱が並ぶ大広間の広い空間の中、今は袁術の傍近くに張勲のみがいたのだが、その張勲が散歩をするように室内をゆっくりと優雅に歩いていた袁術へ声を掛ける。
「美羽(みう:袁術)様は、少し孫堅さんにお甘いのではありませんか?」
張勲には珍しく、袁術へ問いただすように質問ていた。袁紹に対抗するために孫堅が必要な人材だと進言し、取り込む為の工作・手筈を整えてきた張勲であったが、予州刺史として上表するのはいいとしても、さらに一つの県城と兵と兵糧から資金まで無償提供するのは行き過ぎだと考えていたのだ。それに貸し与えた棘陽城は宛までの距離が魯陽の三分の一しかない。ヘタをすれば多くの兵と資金を費やした宛を取られる可能性もありえるのだった。
袁術は少し拗ねたように、そして少し恥ずかしそうに張勲へ話し出した。
「なんじゃ、七乃。七乃が炎蓮(イェンレン:孫堅)殿に力を貸してもらうように言ったのではないか」
「そうですが、県城を貸し与え、兵や資金・兵糧などまで出すのは行き過ぎですよ。孫堅さんは虎なのです。猫だと思っておいででしたらたら、そのうち餌と一緒に美羽様も丸ごとパクリと食べられてしまいますよ?」
張勲は、少し脅かすように袁術へ進言する。だが袁術は、小柄で子栗鼠のような体をさらに縮こまらせ、涙目になりながらも反論してきた。
「そ、そんなことはないぞよ。炎蓮殿は信用できるのじゃ。わらわの為に頑張ってくれておる。そ、それに、確かに厳しい事を言われるが……母(はは)様のように優しいのじゃぞ」
張勲は、ハッとした。漸く袁術の考えが理解できたのであった。確かに張勲が見る限りにおいても、今のところ孫堅に目立った不穏な動きは無い。
洛陽から戻って来た後に、この広間で一同を前にして黄巾党討伐関連の論功行賞が行われたのだが、袁術が張勲へ相談なく、いきなりその場で県城の一つを孫堅に貸し与えると言い出したのであった。
君主が公の場で言った事であるし、そこで家臣の張勲が口を挟めば色々と問題になりそうであった。それにあのままの待遇では、確かに孫堅はその後にどんな動きに出るのかという不安もあった。
張勲としては長年袁術に仕えているが、自分に相談無く勝手に公の取り決めをした例がなかったため、その行動に少し不安があったが、結果として良かったのかもしれない。
確かにこれまでの孫堅の働きは、県城の一つを完全に与えるぐらいしても多くのお釣りがくるほどであったのだ。
(しかし―――母様のように孫堅さんを慕っておいでだったとは)
張勲は、失礼にあたるが密かに時には自分が、主君である袁術の姉のような気持ちで小言を言っている事も少なくないのであった。しかし、母のような気持ちになった事は無かったのに気が付く。
袁術がそういう人物を先に望んでいたという事はないと思うが、丁度それに当て嵌まってしまった人物が現れたという事だろう。
それが今後どういう影響を及ぼすかを、「さてさて……」という感じで張勲はまだ掴みかねているところだった。
「母(かあ)様、先の論功行賞ですが、あれで満足なのですか?」
孫策は、普段は誰にでもタメ口な話し方なのだが尊敬する母に対してだけは違った。そんな敬意を払う孫堅の考えが知りたくて直接その事を、今、隊列の先頭で共に馬を並べて左側を行く母へ確認するように尋ねていた。
彼女らは現在、一つの戦いをさっさと終えて漸く手に入れたというべき自らの居城へ引き揚げる途中である。
居城の棘陽城はさほど大きいものではない。一辺が一・五里(六百メートル)四方よりも広い程度の城塞を中心とした、その外に街が広がるこじんまりとした都市であった。
娘の孫策の質問に、しばらく黙っていた孫堅は前を向いたままこう返す。
「そうだな、今は……特に大きな不満は無い」
その言葉に孫策は「なぜ?」と問い返す。我々が戦って平定した地域の多さを考えると到底納得できないのであった。その理由を是非聞きたいと詰め寄る。
「私は納得できません。明らかに成した事に対して公平でないと思いますが?」
すると、前を向いていた孫堅が僅かに孫策へ顔を向け言うのだった。
「雪蓮(シェレン:孫策)よ。今の時代、敵を作るのならあっと言う間だ。だが、信用できる味方となると千里の道の険しさが楽に思えるほどのものだ。先の論功行賞で初めから思いやりなく淡々と今の待遇を示されていれば……私もここを去っていた」
孫策は複雑な顔をしていた。母の考えの先に気付き困惑しているのだろう。孫堅の話は続く。
「お前もその場にいて、当初から聞いていたから知っている通りだが、初めは剣と砂金だけであった。そのあと、張勲が無表情にただ予州刺史として上表する旨を伝えて来たが……本当はそこで恩賞は終わっていたのだ。だが袁術殿は……あの子は、必死の思いの表情をして独断であの棘陽の貸し出しに加え、兵と資金と兵糧を付けてくれたのだ。張勲のかなり焦った表情を見て確信が出来た。おそらく、張勲をあの場で黙らせておける所を選んでくれたのだろう。嬉しいではないか、友軍の幼い主が自ら心を砕いてくれたのだ。それに実際の所、この地盤無き中途半端な我が兵団規模であれば、厳しい運営になるのが常であるが、今の我々は常時潤沢な資金・兵糧、そして補充兵に補給と後方に付いては全く心配なく戦えている。袁術殿に協力する前と後では天と地ほどの安心感があるのではないか?」
孫策も以前のギリギリな運営状況に良い思い出は無い。母のいう事にも一理ある。今の袁術陣営の規模は、潤沢な資金・兵糧を有し六、七万の兵でもすぐに動かせ長期間戦えるのだ。精鋭ながら三、四千で短期戦ですら限界が見える自兵団とは地盤が違う。また、孫策自身も、何度か直接会話をしたが子栗鼠のような可愛いさで素直なところもある袁術をはなから嫌っているわけではない。だが、一言だけ言うのであった。
「しかし、我々が矢面に立つことが多いことを、そして討死する同胞がそれだけに多く出ている事をお忘れになりませんように」
「同胞が多く逝くことは確かに悲しいことだ……だが、最前線で剣を振るって血みどろで戦うことこそが我々の本懐ではないのか……雪蓮?」
孫堅は孫策の顔をしっかりと見た上でニヤリと笑うのであった。
孫策にも、同胞らの多くにも熱き戦いの血が流れていることを孫堅は良く知っているのであった。
「棘陽は今は空に近い宛に最も近い南の位置にある。袁術殿が我々を信用し軽く見ていない何よりの証拠であろう。それに予州刺史になれば、軍権は無いが収入はそれなりに見込める。そして大きいのが、それらの地域にも足掛かりや協力者を得やすくなる事だろう。孫策よ……わが娘よ、戦うべき敵が華北にも東南にも大勢いる事を忘れるな」
「はい、母様」
これ以後、孫策も母の考えに同調するようになっていった。
袁術は『無二の友軍』であると。静かに孫堅・孫策、袁術連合は結成されていくのだった。
司馬家の朝は結構早い。
そんな時間から一刀は、客間前の廊下から続く庭で下の五人姉妹に囲まれていた。
卯時正刻(午前六時)過ぎには全員が起きていますと、六女の司馬進(しばしん)からハキハキと聞かされる。
まあ、一刀も雲華と居た時はそれよりも早く起きていたぐらいなので、この時代は朝日と共に起きて夕日と共に眠るような感じだからと、特に気にすることはなかった。
それよりも気を払うべき事があった。
姉妹らの顔は見覚えたが、それに合う姉妹全員の名と字はまだまだ怪しい感じなのだ。
八姉妹は伊達では無い。
(確か『朗が伯』に始まり、『懿が仲』、『孚が叔』、『馗が季』、『恂が顕』、『進が恵』、『通が雅』、『敏が幼』……ハキハキな子は恂の次の『進が恵』だったっけ……)
そんな体たらくな頭の中の状態だ。
司馬進は髪を首下辺りまでで切り揃えられている、いわゆる『おかっぱ』な髪型だ。
まだ司馬馗以下四人のどれが誰なのかの認識が昨日今日では余り付いてなく、もっと明確な記憶力が欲しいと思う一刀であった。今はまだ雰囲気と髪型が頼りで、連想して思い出す感じであった。
早朝の鍛錬の後、司馬敏はずっと一刀の腕にしがみ付いていたが、頭へ大きめの頭冠を乗せ眼鏡を掛けた、髪が太腿まである見事なストレートロングな女の子に「はしたないですわ」と早々に引き剥がされていた……。
(眼鏡を掛けた子? 誰だっけ……えっ、あれ? 昨日は掛けた子は居なかったよなぁ)
その声とその子の表情を良く見ると、少しキツめな釣り目と雰囲気、ストレートロングな髪型……どうやら五女の司馬恂(しばじゅん)のようだ。下の五人姉妹では一番背が高い。頭冠の大きさが更に差をつけていた。密かに指折りながら名を思い出す。
(えぇっと……五女……『恂が顕』、司馬恂かな……)
「えっと……顕達さん? 昨日は眼鏡を掛けてなかったよね?」と司馬恂へ聞いてみると「普段は掛けています」と僅かにムスっとした感じで答えたが、すかさず一刀に「可愛い感じに似合ってるね」と言われると、恥ずかしそうに「……ど、どうも」と答え、少し嬉しそうにして俯いてしまうのであった。
「……ぁぁぅ、ぉはょぅござぃますぅ……」
一刀の傍で無言で恥ずかしそうに長い間モジモジとしていたが、ついに顔を赤くしながら意を決して言葉を伝えてくる子がいた。姿と長くカーブを描く髪形は優雅だが無口な七女の司馬通(しばとう)だ。
(大人しい子……七女の『通が雅』、司馬通か……名が六女の司馬進と『しんにょう』繋がり……って連想クイズかよ)
彼女は、家族や古くからの奉公人以外とは話を殆どしないという。そんな彼女にとっては、一刀との挨拶一つも大変な事なのであった。そんな苦労を知ってか知らずか、一刀は自然と彼女の長くカーブする優美で艶(つや)やかな髪の頭を優しく撫でながら「おはよう、雅達(ガタツ)さん」と笑顔で返事を返すのであった。
すると、「きゅぅ」と可愛く声を上げて一刀の方へ倒れ掛かって来たのである。失神したのかと思いきや、自分の事を変に思わずに優しく返事をしてくれた事が『嬉しくて』抱き付いて来たのであった。
おっぱい、いっぱい当たってるから……。
しかしそれは当然早々と、キツめな司馬恂に「まぁ!ハレンチですわ」と引きはがされていた。
そしてやはりというか、司馬通のあとを争う様に皆の明るい挨拶の応酬になった。
その際、一刀は挨拶と共に各自の字の後に『さん』と敬称を付けていたが、年下だからと皆そろって「「「「呼び捨てで」」」」と言われてしまう。
加えて是非にと『兄様/兄上様』の呼び名で呼ばれることとなった。
五人の中で一番年長の、ふわふわな腰程まである髪でほわわんな感じの司馬馗(シバキ)が音頭を取る。雰囲気はほわほわしているが、人見知りや物怖じ等は全くない子のようだ。
「それでは~よろしく~お願いします~です、兄上様~」「お兄様」「兄(にい)様」「……ぁにぃさまぁ」「兄上様!」
「おう」
一刀は宴会で『気楽に接してほしい』と言っていたので、これもまあ悪くないかと受け入れていた。
これだけいれば一人ぐらい低血圧な子がいそうな感じがしていたが、司馬防が言ったように本当に皆健康な可愛い娘たちに育っていたみたいだ。
確かに朝早くから客室前に広がる庭にて、個人差があるがこのように楽しそうに姦しくワイワイとされていると、彼女たちの健康さを納得せざるを得ない。
さらに、目のやり場に困る揺れる大きめな栄光の掴む為の部位×五人攻撃と、加えて包囲されたことでほのかに匂い立つ女の子な香りに、一刀は抗う術無く堪らず密かにクンカクンカし堪能してしまうのであった。
そんな五人の娘達に囲まれていた所へ、母の司馬防と絶世の美女な三女の司馬孚が静々と一刀の客室周りの回廊を歩いてくるのが見えた。
その司馬孚は、運命的な男の子と思っている一刀へ妹達だけが寄り添って姦しくしている様子に、自分はまだ殆ど話も出来ていない事の不満な気持ちから、澄んで美しいが彼女にしては珍しくキツめの声を掛ける。
「もう! あなた達、朝早くから失礼にもお客人の寛ぎのお時間を邪魔しているのではありませんか?」
姉の声に、そして何より母の姿に下の五人は慌てて輪を解いて、一刀の後方へ一歩下がると歳の順で横に一列に並んで頭を僅かに下げ『鞠躬』(ジュイゴン)の礼を取る。普段の司馬防は優しくも厳しい母なのである。そんな中、一刀がまず口を開く。
「おはようございます。昨日は、楽しき宴会に色々と『最後まで』ありがとうございました」
一刀は深夜の件も含めて、なるべく自然に二人へ言う形で昨日の礼を述べていた。
司馬孚も母へ主に礼を言っているのだろうと笑顔で「おはようございます」と受ける。そして彼女は密かに思っていた。
(……やはりこうして、私の顔や姿をちゃんと見ても普通の対応をしてもらえてる♪)
そして司馬防は――『最後まで』の部分で、彼が先に寝てしまった事への詫びが入っている事に気付き、笑顔で僅かに照れながら一度首を横へ振ると答えた。
「おはようございます、北郷殿。『最後まで』楽しんで頂けたようで何よりですわ」
静かに僅かの間、二人は見詰め合う……が、司馬防は自然な感じに話を前へ進める。
「さあ、そろそろ朝食の時間ですので、北郷殿も食堂へお越しくださいませ」
司馬孚も含めた娘達は、母の言葉に一瞬驚いた表情をした。
司馬家の食事は、いつも母屋内のあの宴会が開かれた身内用の『食堂広間』で家族揃ってとなる。『家族揃って』なのだ……朝食のそんな席へ一刀はすでに呼ばれてしまっていた……。
家主の言葉に、早朝のひと時は終了となった。
一刀は一度部屋に戻り、着替えてから食堂広間へ移動することになる。皆が食堂に行くのと入れ替わるように、使用人長である銀さんが来て急ぎの着替えを手伝ってくれた。
少しみんなを待たせているかもしれないと思い、急ぎ気味で銀さんに案内されながら広間へやって来た。
入口の両開きの見事な彫刻細工のされた大扉付近で、スラリと背の高い司馬朗が「おはようございます」と優しくにこやかに出迎えてくれた。
一刀も「おはようございます、伯達さん」と笑顔で答える。
家主は司馬防なのだが、一年の大半は都務めの為、現在家は若いながら長子の彼女がほぼ仕切っているのだ。今朝も、使用人長らへ準備の指示を行っていた。
さて、一刀が広間に入った瞬間――みんなの視線がなぜか鋭く、熱いのであった。
そこには直径が二丈(四メートル六十センチ)程の巨大な黒塗りの繊細な彫刻の施された立派な円卓が用意されていた。それは金具で連結・分解出来るもので、延長部分を足せば楕円にも、さらに大きな円卓状にもできる優れものであった。
円卓には華やかな花々も飾られ、すでに椅子が一刀の分も合わせ十席用意されていた。そして……次女の司馬懿のみが席に着き、司馬防を始め、皆なぜか不自然な感じに全員がまだ立っていた。
普段の司馬家の円卓は、司馬朗が家を預かるようになってから席順が『自由』なのであった。司馬防も今は概ね家を任せている事からそれに従っていた。そのため、一刀の横に座るには、一刀が来る前に最後に空いた席の両横に座っているか、一刀の座った横に座るしかないというわけだ。
そんな事に興味が無く、すでに独りだけ席に着いていた司馬懿は、片肘を付いて呆れた感じで周りを見ている。
だが、その光景の事情がよく分からない一刀は敢えて聞いてみる。
「あの……皆さん、どうしたんですか?」
すると、司馬防がいたずらっぽい顔をして、一刀へサッと近付いて右手を取ると共に円卓へ向かっていった。
一刀に少し遅れて広間へ入って来た司馬朗と、すでに中にいたが感の良い司馬孚が同時に「ああっ!」と声を上げるが遅かった。
司馬防は、司馬懿の座る右の席に一刀を座らせた。一刀は思わず司馬懿へ挨拶する。
「お、おはよう、仲達さん」
「おはようです、北郷様。まあ……周りは一過性のものだと思って気にしないでくれると」
「はあ」
一刀へ母の客人として敬称を付けてくれるが、司馬懿は初めからもっぱら普通の対応だ。
そんな会話を右に聞きつつ司馬防も、一刀の右側にさっと座ってしまったのである。
その様子に、司馬馗以下五姉妹も、「あーぁ」と残念そうに声を下げていった。だが、敬愛する母に対して『ズルい』とは、娘達は言えないのであった……。
しかしここで、司馬防は「白華(パイファ)」と六女の司馬進を呼び寄せた。『おかっぱ』風の髪の頭をピクリとさせて司馬進が「はい、なんでしょうか、母様」とハキハキと答えながらキビキビと司馬防の席の傍まで行く。すると、司馬防は静かに立ち上がって席を替わってあげる。
「昨日の宴会では良くやってくれましたね」
宴会の一芸の際、自然な流れで恥ずかしがり屋である妹の司馬通と一緒に演奏したのだ。その気遣いへのご褒美と言うわけみたいだ。司馬進が「いいのですか?」と周りを見ると、姉妹たちも納得した笑顔で頷いてくれ、そろそろと各々周りの席へと座り始めた。司馬防は司馬通のその一つ右に座る。
そんなこんなで全員が席に着くと、ほどなく使用人達が料理を運んでくる。だがそれは、昨晩の宴会のような驚くほど豪華で多数の料理ではなかった。食材は質や味は良いが贅沢過ぎるものではなく、量も必要な適量程度に抑えられている。
そのことに一刀は―――安心していた。
毎日をお客人だとして無尽蔵で豪勢に歓待され続けたら、息もつまり恩も溜まり過ぎて申し訳なさすぎると。
司馬防は、一刀へ顔を向け尋ねる。
「うちでは普段は必要以上には振舞っておりません。……北郷殿はどう思われますか?」
そう、食事が『家族揃って』と言うのは、お客人には見せていないそんな部分も含まれてくるのだ。おそらく客人扱いだと、昨日の昼食のような感じで毎回豪勢な料理が運ばれてくると思う。だが……それは特別な部屋で、そして一人で食べなければならないだろう。
そんな気がして一刀は、微笑みを返しながら自然に答えが出ていた。
「人とは欲を言えば切りがないものです。だからこそ本当に必要な時に、惜しみなく必要なだけ使う、それがとても良い事かと。そして……みんなで揃って笑顔で食べる食事は、いつも最高に美味しいと思いますよ」
一刀は、雲華との生活で、『贅沢』が『幸せ』に直結するわけではないことを良く学んでいたのだ。
司馬防を始め、娘達も一刀の言葉に頷き笑顔になっていた。
もちろん『司馬家』には、司馬防の中央からの定収入のほか、この屋敷以外にも別の屋敷や広大な領地もあり、毎日豪勢に三代過ごそうともなお有り余るほどの財がある。
だが普段から厳しい司馬防は、自らの生活にもしっかりした考えを持っていた。
そんな司馬防は仕事柄、中央からの使者やお客を迎える事も少なくない。だがその多くが、決まって『賄賂』に加え、連日の爛(ただ)れたような『豪勢』な歓待を要望してきていた。
そんな目障りな輩は、ハナから家族の住むこの屋敷に宿泊させることはしない。この街の別の格の落ちる屋敷に迎えるのが常である。稀に姉妹代表として、司馬朗や司馬懿が顔を僅かに見せるのみな感じだ。
このように家族全員で食卓を囲んで迎えて過ごす客人は、身内以外では一刀が初めてであった。
「北郷殿には、余りにつまらないことを聞いてしまったようですね。……中央から訪れる多くの者は心を失くしているものが多いものですから、つい」
司馬防が申し訳なさそうに言ってきた。
一刀は「そんなことないです」と、箸を休めて右手を振りながら答える。
「そのような時代に俺は、立派な見識を持たれる建公殿や、やさしい皆さんが居るこの司馬家と出会えたことに感謝しています」
一刀も、この大陸の少なくない地域が無法地帯になっていることを目の当たりにしており、人々の心の多くが荒んでいるのがある意味『常識』のこの世界なのだ。そして、今の国家中枢の人々も多くが『人として』病んでいる大変な時代なのだと改めて理解していた。
「わたくしたちも北郷様に出会えたことに感謝しています。昨日の恐ろしく、そして残酷な賊から、街内の正義が守られたのは貴方様のおかげですから。さあ、北郷様、母様、みんな、楽しく朝食を頂きましょう」
司馬朗が、姉妹を代表するようにそう纏めてくれていた。
その後、歓談を交えながら楽しい朝食の時間となった。
司馬朗は一刀の考えに共感と共にとても満足していた。そして彼女は、頬を僅かに染めながら円卓の正面の席から一刀を見つめていた。
彼は、奢ることなく謙虚であり優しく、そしてあのような立派な剣も持ち、武人としても一流に加えて、異様に背の高い自分の事を『とても可愛い』と言ってくれる人――それはおそらくもう現れない『大切な人』……という思いが彼女の中でさらに強くなるのであった。
司馬孚も一刀の考えへ共感し、とても好ましく思いながら、時折静かに司馬朗の横の席から彼を見つめていた。そして考える。
彼は、自分には想像も出来ない長き間、極限の過酷な放浪を経験しながら、それでも奢りなくとても謙虚であり、その視線がいつも皆に優しい。武人としても勇敢で立派で……そして私が『いつもの罪』を感じないで過ごせる初めての『男の方』――こんな人はきっと二度と現れない……この出会いと好機を逃がすものですかと決意していた。
司馬防は、一刀の考えの話から――確信していた。
彼が『心』『技』『体』すべてを持ち合わせている『憧れていた真の漢(おとこ)の武人』だと。自分の直感は間違えていなかったのだと。
そして、決めるのだった……残りの女盛りは『すべて彼の為に』と―――。
その瞬間から、彼女の体は熱くなっていった。
朝食が終わると、その場で解散となる。
すると司馬防が、一刀へ「先ほど変な事を聞いたお詫びに」となにやら熱い眼差しで自ら屋敷を案内する旨を伝えて来たので、一刀はそれではと気楽に笑顔で案内をお願いしようとしていた。
司馬朗と司馬孚はまたしても同時に「ああっ!」と声を上げ、今度は負けられない気持ちで母と一刀の傍へ詰め寄って来た。
口火を切ったのは、声も美しい司馬孚である。
「お母(かあ)様は、都でのお仕事明けで気付かぬ内にお疲れが溜まっているはずですし、優華(ヨウファ)姉様も明日の街会議の準備で何かとお忙しいはず。ここは、わたくしに任せて頂くのが最良かと思いますが」
「えぇっ?!」と司馬朗は痛いところを突かれるのであった、確かに事前の準備があったのだ。そういう事はまず片付けなさいとの母からの厳しい教えがある為、突っ込まれては断念せざるを得えない。しかし、いつの間に把握されていたのか……侮れない妹と言える。
一方、司馬防は司馬孚の表情を見つめ余裕な構えをしている。だが、美しい愛娘が『初めて好意を寄せる人』へ近付くために頑張ってアセアセと割り込もうとする姿が可愛くて――折れてあげるのだった。
「そうね……北郷殿、申し訳ありませんが、少し疲れがありますので私とはまたの機会に。本日は変わって、この叔達が私や伯達の代わりに案内をいたしますので、どうか我が家をご賢覧ください」
そう言ってもらった司馬孚はとても嬉しそうに、そして少し恥ずかしそうに一刀へ促した。
「それでは北郷様、行きましょうか。まずは慣れてもらうためによく使う主なところを回りましょう」
「あ、そうですね」
一刀と司馬孚は、司馬防と司馬朗に会釈をすると見送られながら食堂を後にした。一刀と司馬孚は二人並ぶように歩いている。この屋敷の主な廊下は、横に六人ほど並んでも十分歩けるほど広いのであった。これが個人宅とはと、本当に現代とは違うなと格差を感じていた。
そして一刀は―――やはり横を静々と共に歩く、とびきりの美人が気にはなった。いや、気にしないのは男として不可能と言えよう。
こんな感じで一刀の衝撃を想像できないだろうか……映像や写真も含めて今までに見てきたすべての女性の中で一番の美人と思える人……よりもさらに一段階綺麗な人に出会ってしまったと。そんなレベルに透き通るような艶やかな白い肌に文句の無いスタイルで万人が完璧美人と思うのが司馬孚である。現代で言うまさにワールドクラスな美貌なのだ。
同時に一刀は、司馬孚の想いや苦悩は全く知らないため、まさに高嶺の花だと。きっと引く手あまたで近いうちに凄い名家か英傑に嫁ぐんだろうなぁと、相手のヤツは全く羨ましい事だと完全に他人事として呑気に考えていたのだ。
一方、司馬孚は時折一刀からの視線を感じていた。
だがそれは普段、男達から受ける狂うように全身を舐って来る感じの不快感は全くなかった。なにせ、家の使用人ですら影響が出てしまうため、本家屋敷側には基本的に男の使用人はいないのだ。
かつて姉妹達にも当然聞いてみたが、そんな感覚は自分だけであった。
初めて普通な感覚で、男の人と並んで歩くという体験が出来たのであった。一刀からの視線を楽しむぐらいの感じであった。
二人が通っている廊下は、一刀の客間へ向かう廊下とは九十度違い、食堂広間から南へ向かっている。因みに一刀の客間屋敷は西側に向かう廊下の先にある。
一刀がまず案内されたのは、巨大な母屋の一階南側にある『寛ぎの広間』と言われる家族のリビング的な部屋だった。その天井は二階まで一部が吹き抜けで高くなっており、食堂よりも一回り更に広い。部屋の中には階段もありキャットウォークのような天井通路やロフト的な寛げる空中空間まで備えていた。また外への壁際は全て格子状で開閉することが出来、優しい風と明るい光を取りこむ事が出来る仕掛けを備えているうえに、全開放が出来て庭の敷石状のテラスと一体となるとても開放的な場所だ。内側の壁際には天井まで続く巨大な書棚が並び、室内のあちこちに座卓や長椅子があり、床にも分厚い敷物がされていて実にのんびりと過ごせそうな大広間であった。
「特に用が無い家族はここに揃っていますので、北郷様も自由にお越しくださいませ」
「うん、ありがとう。すごくいい部屋だね」
やはり中華な風で中華じゃない部分があるなぁと、一刀は内心思いながら楽しげに室内を見回しつつ感想を述べた。
「それでは」と司馬孚は、次の場所へ案内してくれる。『寛ぎの広間』へ来た廊下とは違うもう一つの部屋の対にある扉より出て廊下を北へ進む。少し進むと廊下から左に曲がり少し細い廊下を進んで大き目な建物の中に入った。そこで司馬孚が説明してくれた。
「姉妹用の屋敷です。ここには十二部屋あります。その五つを司馬馗以下五人の妹達が使っています。一応私を含め上の三人も割り振られていますが、普段は使っていません」
廊下から見た外観は、横長な三階建ての普通のマンションほどの大きさがあった。それがたった十二の部屋しかない?
その部屋群の一つの扉の前に二人は立った。高さが十尺(二メートル三十センチ)ほどもある両開きの立派な折り畳み戸の厚めな朱塗りの木製の大扉であった。司馬孚が中へ声を掛ける。
「和華(ホウファ:司馬馗)、いますか? 蘭華です。北郷様に部屋の中を見せてあげて欲しいのですが」
「は~い、少しお待ちください~ませ」
どうやらこの部屋は四女の司馬馗の部屋らしい。一刀は考える。
(『馗といえば季達』か。綺麗でふわふわなウェーブの髪形だよな)
ほわわんとした返事が聞こえたが、すぐに中で小さく「えぇ~っと、どうしましょう~」という声が聞こえたと思うと、急にガタガタと音がし始めるのだった。
その音に一刀と司馬孚は顔を見合わせて笑っている。そして「もう素直にあきらめなさい」と司馬孚は優しく大き目の声を掛けるのだが「でも~兄上様が~折角いらしたのに~です」と返てくる。その言葉を聞いて司馬孚の表情が微妙に変わる。
司馬孚は、一刀に向かって少し小声で聞いてきた。
「北郷様、兄上様……とはいつの間に季達と兄妹の契りを?」
朝食の時には皆、母の前だったからかまだ『北郷様』と呼んでいたのだ。
司馬孚は『兄』という言葉に凄く親しい感じが羨ましくて……いや、司馬家ではこう言った『義兄妹』の契り等は非常に重要であったのだ。安易に結ぶものでは決してないものだと。当然、その事は末妹の幼達まで周知なはずなのだ。
「えーっと……」
一刀は、言い淀む。それに対して、司馬孚は改めて問う。
「あの、季達だけ……ですか?」
「いえ、季達以下五人と……」
『五人』と『もう呼び捨ての間柄?』に思わず「まぁ」と声が出る司馬孚であった。
「皆からはもう『兄』と呼ばれましたか?」
「……はい、最初は五人から同時にですけど」
一刀は正直に答えるしかない。隠しても良い事ではないだろう。司馬孚は、少し呆れながらも、妹達が決めた事に少し優しい顔になっていた。
「北郷様……あなたには司馬家の娘達と『義理の兄』としての義務が発生しています。それは互いに解約が無い限り死んで以降もずっと残ります。……妹達を大事にしてやってくださいね」
「はい」
司馬孚へしっかりと頷き、真摯に返事をする一刀だった。司馬孚の只ならぬ雰囲気だが、一刀は『兄』について引っ込めるつもりは毛頭なかった。彼女達から是非にと頼まれ、自分も承諾したことなのだ。
雲華から一度口にしたことは、そう簡単には曲げられない事を学んでいる。『義理の兄』として最善を尽くすのみである。それに……天涯孤独はやはり寂しいのであった。
司馬孚の頬は、少し赤らんでいた。
司馬孚と一番仲の良い六女の司馬進はハキハキしている分、気に入らない者にもハッキリとした態度で示す実はかなり気難しい子なのであった。その彼女にまでアッサリと兄と慕われているとは――さすがは私の『想い人』だと。
「お、おまたせ~しました~です。兄上様~、蘭華姉上様~少し散らかっておりますが~どうぞ~です」
見た目は重そうな折り畳み戸の扉だが、スムーズに内側から頭冠を乗せたほわわんな髪を揺らし笑顔の……少しバツが悪い表情の司馬馗が二人を部屋へ迎えてくれた。
「おおおっ!」
散らかっていると言われたが、一刀の現代の部屋に比べれば全く気にならない。また、それがどうでもいいぐらい良い光景の部屋であった。それに……少女の部屋中に漂う女の子な香りが素晴らしいの一言である。
そこは、三階まで吹き抜けの南窓側が三丈半(八メートル)、奥行七丈(十六メートル)程の広い長方形な部屋に、窓際は二階三階まで階段によって繋がれた奥行二丈(四メートル五十センチ)ほどの床がそれぞれ有り、長椅子等が置かれ、外にもバルコニーが続き、各階の窓際で外や庭の景色をゆったりと見れるようになっていた。まさに圧倒的な解放感がそこにあった。
また入口側の壁も二階まで階段によって繋がれロフトのようになっているとともに全面が巨大な壁面収納になっていた。
この建物は二年ほど前に司馬懿が考案して改装したらしい……先進的すぎるよなぁ。
司馬馗の大きく古風な中華様式の寝台は、一階の窓際に置かれ朱色で平らな木枠の天井の有るお姫様仕様なものであった。
床にはよく磨かれた黒の石材と木材がバランスよく敷き詰められ、柔らかい敷物が幾つも敷かれていた。
そして……可愛い動物のぬいぐるみのようなものが部屋中に多数置かれていた。
どうやら、先ほどはこれを片付けようとしたらしい。入口上のロフトから一つ二つと目の前に落ちてきた。
「ああ~」と司馬馗は慌てるが、一刀が先に猫のような丸っこい枕程のそれをゆっくりと拾い上げる。良く見るとそのデザインは兎も角……非常に丁寧に縫われ造られていた。
「これは……? もしかして季達が作ったの?」
「は、はい~」
この時代では一般的ではないのだろう。すごく照れたように、そして秘密を知られどう判断されるのか、ほわわんながら緊張している感じであった。
一刀はそのぬいぐるみを優しく撫でながら笑顔で答えてあげる。
「良く出来ているね、これ。女の子らしくて俺はいいと思うよ」
その答えに、司馬馗の表情がパッと明るく可愛い笑顔になる。そして彼女は、少し大きめな優しい瞳を一刀へ向けて可愛いお願いをする。
「あの~兄上様~その子を記念に~貰ってくれません~か?」
一刀は、司馬馗の気持ちを汲んで「いいの?」と確認すると、「はい~是非」と。一刀は「それじゃあ」と言って笑顔でお腹の前にそのぬいぐるみを抱えるのだった。
そのすでに自然な『兄妹』二人の遣り取りに司馬孚は驚くも、安心して見守っていた。
司馬馗は、「さあ~こちらへ~」と二人を窓際の二階の長椅子へ案内してくれた。入口に向かって部屋の全体がよく見えると共に、窓際の窓扉は全開にされていて庭の景色も窺える特等席だった。
司馬馗曰くぬいぐるみは、この場所や『寛ぎの広間』で作っているとのこと。
その後窓際の三階まで上がったりと、司馬馗の部屋を十分見せてもらった二人はしばらくのち退出した。後ろから司馬馗に「いつでも~また来てください~です」と、照れながら小さく手を振って見送られた。
こちらへ来た細めの廊下を戻りながら、一刀がここの部屋の作りを気に入った風に見えたので、司馬孚は一瞬『よろしければここを使いますか』と言いそうになったが、くっと言葉を飲み込んでいた。
そんなことになれば、先の雰囲気から自分より先に妹達が『想い人』とあっという間に、男女のねんごろな関係になる事が自然と想像出来たからであった。先ほどの照れながら「いつでも」というのは『夜』も当然入ってくるはずだ。
ほわわんながら欠点の少ない司馬馗には司馬孚と違い、すでに中央から普通に良い縁談がいくつも来ていた。しかし、まだ仕官する先が決まっていないとしていつも断るのであった。だがその時の曇っていた表情から、どれも元から乗り気でないのがはっきりと分かっていた。でももし今、一刀との縁談はどうかと尋ねたら……司馬馗は頬を染めながら「あの~私で~よろしければ~」と小さく頷くのが目に浮かぶようである。
司馬馗だけではなく、その下の四人にも縁談は舞い込んで来ている。司馬朗と司馬懿には殆ど来ていないのが不思議ではあるが、下の四人も同様の仕官を理由にやんわりと断っていたのだ。
司馬孚自身も含めて姉妹は皆、姉へ協力したいという気持ちから、司馬朗の仕官先には一族の大事な問題として注視している。だがそれへの追随は、今の司馬孚としては絶対的ではないと考えていた。『想い人』には姉の仕官先に共に入ってもらえれば最高ではあるが、別の陣営でも『集中による一族の断絶を防ぐ為』と彼への追随に言い分は通るはずだ。司馬孚の『彼しかいない』という想いは、司馬朗への協力以上に切実なのであった。
だが……下の四人も次の縁談相手が『北郷様』と言われれば――皆、恥ずかしそうに小さく頷くような気がするのだ。
この人には、武や謙虚さも魅力だが加えて不思議と強く引き付けられる何かがあるように司馬孚は感じていた。
二人は、先程の廊下まで戻って来るとさらに北へ進む。すると、一刀の滞在している平屋の客間屋敷へたどり着いた。ここには一刀の部屋も合わせると十五の部屋があった。ちなみに一刀の部屋はその中で一番良い部屋の一つである。同じ階級の部屋は五つずつ用意されている。それは、同時に同じ階級の人達が複数来た時に困るという理由からだ。
更に廊下を北へ進むと、二つ目の客間屋敷があった。そこは厠もある場所だ。ここは以前、一刀が銀さんに連れて来てもらった所でもある。右側には中庭を望み、左側に広大な庭の眺望が広がっている。ここは二階建てで二十ほどの部屋があった。先ほどの客間屋敷の一番下の階級がここの最上位になっている。
さらに廊下を北へ進む。すると、母屋に準じる大きさの『北の屋敷』と呼ばれる三階層の建物に付いた。ここの部屋数は五十を超える。
「ここは、一階の多くを母の建公が使っております。あと、二階の数部屋と三階のいくつかの部屋を次女の仲達が使っています」
入口付近では使用人が三人で掃除をしていたが、二人が近付くと壁際に並び直して恭しく礼の形を取ってくれていた。司馬孚は「ごくろうさま」と笑顔と右手を軽く上げて応える。使用人達は、一刀のお腹の辺りに持っていた司馬馗のぬいぐるみへ目を止めると微笑んだ。
漸くここで東へ方向が変わる。そして『北の屋敷』を抜けるとすぐの北側へ向かう廊下への分かれ道の所で司馬孚が説明してくれる。
「この北側への通路の先が湯殿になります。当家では二日に一度、入浴となっています。母屋にもありますがそちらは屋根があり、こちらは露天風呂となっています。毎回どちらか一か所が使われます」
「天気や季節で変えている感じなのかな?」
「そうですね。……あと、お客人用の湯殿も先ほど途中にあった二つ目の客間屋敷にあるのですが……北郷様にはそちらではなく、私達家族と同じこちら側を使ってもらう事になります」
うおお!……一刀は思わず口から出そうになった言葉を抑え込んでいた。自分だけの為に別で用意してもらうという気が引ける事にはならないし、これぞ至高に香り立つと言っても過言ではない女の子風呂なのを凄く嬉しく思ったが……良く良く考えると、かち合わないように注意しないと超不味いよなぁと考えていたのだ。姉妹達の気持ちを殆ど把握していない今の一刀にとっては、ある意味、ロシアンルーレット(覗き=即追放?)である。
一刀は、もはやこの司馬家内では完全に家族扱いなのであった。
しかし司馬孚も、もし同じ時間に入浴が重なってしまったらと、少し想像して恥ずかしそうな表情になっていた。しかしそれはそれで――と思う気持ちもあるのだった。
あえて時間を分けないのは、湯殿や洗い場が広いからでもあるのだが。
「申時(午後三時)から、戌時の終わり(午後九時前)まで使えますので。また、宴のある日は子時正刻(午前零時)までと伸びます」
「うん、分かったよ」
結構時間に幅があるので、少し安心する一刀だった。一時間しかなかったら絶対にカチ合ってしまうところである。
そのまま二人は廊下を東へ更に進むと、母屋の最も北の部分に繋がっていた。
母屋は一部三階層の巨大な建物で、『食堂広間』『大広間』『応接広間』『寛ぎの広間』と四つの大部屋を有し、二つの調理室や厠、室内浴場(大浴場と小浴場)の他、八十余の部屋があるということだ。
歩きながら司馬孚より母屋の説明を受けていると、二人は先ほどの出発点へ戻って来た。
とりあえず一周したし、そろそろ終わりかと思っていたが、司馬孚は「こちらへ」と一刀を少し歩いたところにある二階へ続く立派な彫刻の施された幅の広い大階段へ案内していった。
「長女の伯達の部屋と私の部屋が二階にあります」
司馬孚は先に階段を上りつつ、振り返って一刀を二階へ招いてゆく。二階まで上がるとまずホールのような、ゆったりした長椅子も置かれた高い天井の広い空間があった。
「ここより南への廊下を行くと伯達の使う部屋があります。今はまだ仕事中だと思いますのでこちらへ」
先程聞いていた、明日の街会議への準備だろう。
二人は北側へ向かう廊下を少し行くと、大きな両開きの引き戸の扉が見えた。それは高さが九尺ほど(二メートル十センチ)あるものだった。
司馬孚は「ここが私の部屋です」と引き戸の左側の扉をスライドさせた。思ったよりも軽くすべるように開いていく。
「さぁ、どうぞお入りください」
彼女の勧めに、「お邪魔します」と一刀は部屋の中へと進んで行った。
先ほどから一緒に歩いていて、微かに匂っていた司馬孚の甘く爽やかな女の子の香りが、部屋に入った瞬間から一刀の全身を包んでいた。当然密かに複式呼吸+深呼吸クンカ中なのは言うまでもない。
ここは北側の部屋だと思ったのだが……とても明るかった。
二階から三階までが吹き抜けで二階から突き出た三階部分から光が燦々と降り注いでいるのだ。太い梁や柱は部分的に部屋の雰囲気へ溶け込むように露出されている。
ここも七丈(十六メートル)四方ほどもある広い大空間な部屋であった。部屋の中にある階段によって三階窓際のロフト風な場所まで行け、そこから広い屋上庭園なルーフバルコニーに出る事が出来るようだ。
広い部屋の中は低い家具でいくつかに仕切られていた。
寝室には水色のシースルーな生地で覆われた木枠天井の付いた中華風ではあるが純白に塗装されたお姫様寝台が設けられていた。
低い書物棚で区切られた座卓のある書斎のような場所もあった。
その区切られた中でもっとも広い場所の床には、繊細な刺繍の施された敷物が敷き詰められていた。
そしてその隣接する壁の一部には……驚いたことに剣や槍や戟が多く飾られていた。
中には、華やかな飾りとリボンで装飾された木剣もあった。剣舞用のものだろう。
それらを見て立ち止まると、一刀は傍らの彼女へ尋ねる。
「叔達さんは、もしかして武術も?」
一刀の言葉に、司馬孚は壁に掛けられた一メートルほどの重そうな実剣を左手でひょいと持ち上げると、鞘から手慣れた様に右手で剣を抜いて見せながら少し照れるように述べる。
「はい、姉の仲達には少し及びませんが……」
そう言いながら、一刀から少し離れると素早い風切り音をさせながら、鮮やかに剣を振って見せてくれた。
「おおおっ」
一刀からの驚きの声に、そのまま彼女は暫し舞い続ける。実戦剣舞である。絶世の美女な司馬孚の舞は、その容姿に加えて本当に最高で美しく素晴らしいものだった。
そして、動きと錬度を見ればかなりの武力だということも分かってくる。
だが、やはり、そう………揺れるおっぱいは最高であるよ~(中華発音)。プルンプリン♪万歳!
元が最高な美貌なだけに、昨晩の演舞以上にヤバイものがあった。だが、一刀は『狂う』ことは無く見終えていた。おそらく一刀が平気なのは、彼女の舞を見る事で膨大に発生する常人の男ではまず耐え切れない膨大なイカガワシイ想いが、『気』へ全転換されるからであろう。
剣舞が終わると一刀は、司馬孚へ惜しみない笑顔と拍手を送った。こんな高級な『剣舞』は二度と見れないだろうという感動と万感の思いを込めて。
一方司馬孚は、一刀の先ほどとそれほど変わらぬ笑顔と拍手に『安心』していた。そして、彼を強く想うと共に真剣な表情になり―――突然その言葉を述べ始めるのであった。
「私の舞をお気に入りいただけましたか?」
「うん、とっても。昨晩の演舞もすごかったけど、今のはそれ以上によかっ―――」
「では、私の事も――体もお気に入りいただけそうですか?」
「それはもう!うん!……って……ええっ?!」
一刀は、言葉を遮られたようで且つ、思わず応えてしまったが余りの内容に聞き違えたかと思い改めて司馬孚の顔を見ると、頬を赤く染め恥ずかしそうにしながらも、真剣な『告白』のように感じられた。
彼女は静かに片膝を付いて剣を床へ置くと、一刀へ恭順を示すように『鞠躬』の礼を取っていた。
「お願いいたします。今より、北郷様のお側近くにわたくしが居る事をお許しください。そして……司馬家を離れる際にも是非ともお連れいただきたいのです」
そんな熱い彼女の言葉に、一刀は―――首を縦に振れなかった。
正直一刀は、男としてめちゃめちゃ嬉しかったのだ。まるで確率が数億分の一の全米宝くじに当たったようなものと言えるのだから。こんな絶世の美女に告白と帯同をお願いされているのだから。こんなマグレは絶対に二度とないだろうと考えていた。
『想われる』のは個人の心の中だけの問題なので、気分で舞い上がることも出来た。
だが、『共に行く』となると話が全く違ってくる。
一刀の傍にいると、圧倒的な敵にまたいつ不意に襲われるかもしれないのだ。
それは、愛しく大切だった雲華ほどの使い手でもいきなりの暴力に死んでしまうのである。
そんなことに、優しく素敵な『司馬家』の面々を断じて巻き込むわけにはいかないのであった。
それに、司馬孚ほどの超美人なのだ。正直その相手が、容姿において平凡な範囲に収まる自身である必要性を全く感じない一刀であった。嬉しいけれど正直、なぜ選ばれたのかがよく分からないのも乗り切れない理由であった。
自分の熱い願いに対して動かない、そんな一刀へ司馬孚は不安が募るのであった。
彼女は今までで一番必死であった。人生を掛けていると言っていい瞬間と言えた。
いままでは『狂ってしまう』男の人の中から相手を選ぶしかない状況だったのだ。それではおそらくこの見た目の姿から起こる欲望的な肉欲の世界のみで、自分の人生は終わってしまうことだろう。彼女はそんな人生を望んではいなかった。敬愛する司馬朗を応援しつつ、愛しい人と共に支え合って普通に生きていきたいとずっと考えていた。
一刀のような人が現れる『この時を待っていた!』のだ。
司馬孚は……自分の『すべて』を話そうかと思ったが出来なかった。それは、すべてを知った彼に自分の業ごと押し付けるのではなく、知らない一刀にきちんと選んでもらいたかったからだ。
「やはり……私ではお気に入りいただけそうにありませんか?」
司馬孚は、凄く切なく悲しそうな表情で訴え―――食い下がるのであった。
これは、男にとってはかなりキツイ展開と言えた……特に経験の少ない一刀は解決方法がまるで浮かばなかった。
なのであまり良くないが……一刀は結論を伸ばすことにした。
「あの、叔達さん」
「は、はいぃ」
司馬孚は余り緊張しない娘であったが、この瞬間に人生が決まるかもと思い、上ずった声で返していた。それに一刀は話し掛ける。
「叔達さんのことは……とても美人で素敵な女の子だと思っているよ」
「で、では……」
「でも、俺の傍は何故か死が付き纏うんだ。短い人生で終わるかもしれない。それに、君ほどの相手が、俺である必要は無いと思うんだ。だから……叔達さんはもうしばらく良く考えてみて。俺も考えてみるから」
片膝を付いて『鞠躬』の礼を取る司馬孚へ、一刀は左手にぬいぐるみを抱きかかえ直して右手を差し伸べで立たせようとする。
すると、彼女は静かに言ってきた。
「……分かりました。貴方様がそう言われるなら……。しかし、人はいつか死ぬものです。そして、私の貴方様への気持ちはきっと変わりません。だから―――私の真名を北郷様へ預けます。私の真名は、蘭華(ランファ)です。どうか、蘭華とお呼び捨て下さい、北郷様」
「―――!」
『鞠躬』の形から頭を一段と下げて、一刀へ恭順の礼をとる司馬孚であった。
彼女の方も一刀の事情を知らないため、『街の外の無法地帯では死と隣り合わせなのは当然』というぐらいに考え、自分の剣の腕とを測りに掛けて答えていた。
全身を『超・硬気功』で固める死龍のような、人外の強大な殺人仙人が相手になるかもしれないとはもちろん想像していない。
真名―――雲華が教えてくれたのは……死ぬ間際だった。個人差はあるだろうが、とても大事な物なはずである。それを預けるのはある意味『覚悟』と言えるだろう。司馬孚は真名を告げてから微動だにしない。呼ばれるのを静かに待っているのだ。
そんな姿に、一刀は――――
「蘭華」
「はい!」
司馬孚は嬉しそうに顔を上げ、一刀より差し伸べられていた右手を掴んで立ち上がる。そして……静々と一刀の間近へ寄って来た。
「あの、蘭華……さん? すごく近いんだけど」
「はい……」
一刀の真ん前に立つ司馬孚との距離は十センチもない。一刀の眼前に立つ彼女の美しい髪から、更に濃い天使な良い香りが流れて来ていた。
すでに真っ赤な顔をして照れている上目使いな彼女だが、さらに一刀の手を両手で優しく掴むとその胸元に引き寄せるのだった。
一刀の右手の甲に、彼女の柔らかな栄光の部位の温かみが強く感じられた。
そして、彼女は更にくっ付いて来た。その頬を一刀の胸に寄せるほどに。
「蘭華……?」
一刀が気が付くと、彼女は――――泣いていた。
「……嬉しいんです。こんな日が来た事が。もう少しこのままで居させてください……」
彼女は、まるで何かとずっと戦っていたかのようであった。
一刀は……家族としてポンポンと背中を叩いてあげながら、やさしく彼女を抱きしめていた。
感覚的には七、八分経っただろうか、一刀はまだ司馬孚の背中を時折ポンポンと叩いてあげていた。もう、泣いている気配は感じられなかったが。
すると彼女から声を掛けられた。
「……北郷様は、お優しいんですね。抱きしめていただいて……とても嬉しいです。あの……その……お礼に、このまま寝台まで……行きますか?」
「行かないから!」
「う~ん、残念です。あの……いつでもお声を掛けくださいね」
司馬孚は、飛びきりの笑顔でそう言ってきた。
彼女は、涙を流して数分は本当に泣いていたのだが、そのあと愛しの一刀がどんな態度を取ってくれるのか観察していたようであった。そのあとにこうして少し誘ってみたのだ。
すでに、熱い想いを固めている彼女には早いか遅いかの事と言えるのだ。覚悟を決めた女の子は強いのである。
しかし一刀はさぁさぁと、顔は笑顔で心で超~悔やみつつ、いつもの距離まで司馬孚の両肩を軽く掴んで離していく。
「屋敷の案内をありがとう、蘭華。それから……真名を預かる代わりに俺のことは一刀と呼んで欲しいかな」
「……はい。では、一刀様……で」
「うん、改めてよろしくね」
「はい」
敬称はいらないんだが司馬家の客人では付いてるのが自然そうなので、それで納得する一刀であった。
袁紹の黄巾党討伐の洛陽遠征軍三万五千は、予定通り翌日昼前に本拠地の冀州魏郡鄴城へ到着した。
久しぶりの主君の帰還を、文醜、田豊、張郃(ちょうこう)ら主な将達が城門の外まで閲兵と共に迎え出ていた。
馬六頭立ての戦車から、皆が迎える城門前広場へ颯爽と袁紹は降り立った。その姿を見ていた諸将らは静かに少しずつざわめいていく。そして、袁紹の本質的な雰囲気の異変に気付いた田豊は止めようとしたが、文醜が自然といつものノリで声を掛けてしまう。
「姫さま~、それ~なんですか? 似合わないっすよ~?」
そう、袁紹はあの蝶の仮面を着けて戦車から降りて来たのだ。宴会のときならまだしも、平日の職務中にその姿を見ると、パッと見は異次元的に違和感を覚えるものである。なのでまともな臣下なら、普通は声を掛けてしまうのも当然と言えた。
だが、あの側近にはお気楽で割と温厚であった袁紹から返ってきた、ゆっくり気味で且つ後半の低く厳しい声の言葉に―――皆が震え上がる。
「なんですの文醜さん。主君の私に何か文句でも? 余り軽口を言っていると許しませんわよ」
「文ちゃん、麗羽様に謝って! お願い!!」
後方から馬で掛け込んで、慌てて飛び降りて来た顔良の雰囲気が只事ではない。
それに――袁紹の雰囲気がいつもの呑気で明るい部分が完全に消えていたのだ。そして、目が冷たくギラギラとしているのだった……。
文醜は、顔良の悲愴な表情を信じて、右手のこぶしを目の前で左手のひらで包み、お辞儀の姿勢をとる『叩頭礼』で主君へ恭順を示し、普段は流すように言う言葉をきちんと述べて詫びる。
「麗羽様、申し訳ないです。久しぶりにお顔を見れましたので、調子に乗ってしまいました。以後気を付けますっ!」
「ふんっ、……そうなさい」
袁紹は、仮面の奥から鋭く冷たい目線を文醜へ向けて来てそう言い放っていた。
周りは兵も含め、ざわつき驚いていた。これまでの袁紹に対して側近の文醜がこのような礼を取ったことなど殆ど見たことが無いのであった。まさに『なにを言ってもやっても大目に見てもらえる』立場の将だったのだ。
袁紹へ頭を下げていた文醜はふと気が付いた、戦車からもう一人さり気なく降りて来た事に―――それは僅かにニヤニヤした感じの審配であった。
審配は、以前からイマイチな政策と過激な戦略を主張する献策をし、会議にて田豊、顔良が反対し、田豊が改良点を添削してあげて返していた人物。陣営では武も知もほどほどの将だ。だが、彼女の長いストレートな髪で片目だけ見えてるという暗い雰囲気からか、袁紹のウケは今一つだったはずなのだ。
田豊もその意外な人物に、猛烈な違和感を覚えていた。
(なぜ彼女が麗羽様と一緒にぃ? 先日、この城で見かけたのに……鄴から外へ移動すると言う知らせは受けていないしぃ……)
袁紹は、城内に入ると休憩もそこそこに、宮殿内の謁見の間へと諸将を集めていた。 集まった居並ぶ諸将を前に、袁紹は州牧の椅子にゆったりと座り相変わらず先ほどの異色な蝶の仮面を着けている。
この招集は、現状の領内の状況の確認と、袁家の戦略の再確認かと思いきや、袁紹はこれまでの政策や戦略とは方向性が違う事を言い出すのであった。
これまでの戦略では、まず袁家の華北全域への影響力を広げる事であった。それにはまず、華北の南部を少しずつ取り込んで力をつけ、北の公孫賛を討ち、その後華北西側の幷州を制して華北全土を掌握。その後に大陸中央へ影響力を伸ばす形が基本とされている。
まだまだ始まったところに過ぎない所だが、それがなんと……公孫賛とまず話をすると言い出したのである。
「流葉(るーいえ:審配)さん、あのパッとしない白蓮(ぱいれん:公孫賛)さんをここへお呼びなさ~い。予定通り話をして、私の袁家千年帝国の建国に協力してもらいますわ」
「はっ、直ちに使者を出します」
その場にいた全員が顔色を変える。
((((袁家千年帝国の―――建国?!))))
その内容と指示に思わず田豊は、そのトレードマークと言うべき赤い縁の眼鏡を落としそうなほど驚き、大きな声を上げていた。
「麗羽様、千年帝国とは一体、ど、どういう事でしょうかっ? 袁家にはまず『華北全土を掌握』という戦略がありますのにぃ。平均的で長所のない公孫賛殿と話をするなど……無駄です。呼び出して闇討ちにするなら別ですが、それも猛将の趙雲が傍にいますし失敗するでしょう。それに、建国などとぉ……中央に伝われば、ああぁ、逆賊・逆臣と言われましょうぅぅーーー!」
すると、袁紹の横にいる審配から声が発せられた。
「田豊殿、おだまりなさい! 我々臣下は、主君のお考えを実行する立場にあります。姫様が公孫賛殿と協議したいと仰せなのです。今、中央は賄賂漬けに加え、内部の権力争いが絶えない魔窟に成り下がっています。我らの主君がそれを正すのです! ですが、まだ立つには時期尚早。今は勢力を結集する時期なのです。そのような姫様の高尚なお考えに貴方の『小さき妄想』と異なるからと、公なこの場で堂々と異論ありとは……貴方の方こそ主君に逆らう逆臣ではありませんか?」
それだけ言うと、ドヤ顔の審配であった。
だが……田豊は一歩も引くことはなかった。
「何を言いますか! 真の臣下は主君の間違いを諌めるものですぅぅーー! 麗羽様、その考えは間違っておりますぅぅ! なにとぞ、以前の戦略へ戻されますようご再考くださいませぇぇーーー!」
田豊は、審配の顔ではなく袁紹の顔を見て訴えていた。
その時、審配の反対側に立つ顔良が田豊へ合図をして来ていた。鼻先を左手の人差し指と中指で触り『わたしも加勢しましょうか』と。
田豊と顔良は、随分前から不測の事態に備えて色々考えていた。その時に、会議での加勢や助言などの合図も決めていたのだ。しかし、田豊は『加勢は見送って』という『右手を握って親指だけを立てた状態の拳を右耳に当てる』合図を送り返していた。状況から加勢する人物も危険になると判断しての事であった。
袁紹は動かない。
すると、余裕の表情で審配はこう言い始めた。
「それでは、麗羽様に決めて頂きましょう。私は麗羽様の先ほどの発言に大賛成です。さあ、麗羽様、そこの主君に逆らう物言いの田豊殿の意見か、私も大賛成の麗羽様自身のご意見かを……どうぞ」
すると、袁紹は徐(おもむろ)に立ち上がる。そして、冷たく静かに怒りの声で告げていた。
「真直(マァチ)さん……いえ、田豊よ。残念ですわ……。わたくしの考えが絶対ですのよ。そして、従わない者に―――用はありませんの」
(えっ?)
田豊は耳を疑った。お叱りの声かと覚悟していたのだが……用がない?と。
側近中の側近と言える田豊へ信じがたい厳しい内容の言葉に、謁見の間にいる諸将も緊張の余り水を打ったように静まっていた。
そこで、審配が冷酷にニヤニヤしながらワザとゆっくり言葉を述べる。
「麗羽様、逆臣など、もはや生きていても仕方がありませんわよねぇ」
袁紹は、審配のその言葉を聞き終えると、田豊へと冷酷な言葉を続けた。
「終わりの無い暗闇の獄で、新帝国建国の知らせを聞いて冷たくなるまで、ゆるりとお過ごしなさいな」
袁紹勢力の筆頭軍師である田豊は、この日より鄴城地下の薄暗い湿気た地下牢で鋼鉄の足枷を付けられた上で投獄されたのである。
つづく
司馬八令嬢小話(和華編) 『ほわわんなんて~言わせま~せん!』
司馬家四女は、名は
見た目というか、ふわふわのウェーブな髪の雰囲気や話し方はおっとりしているが、人見知りや物怖じなどはしない性格だ。
本人曰く『ほわわん』という表現は正直―――心外な表現である。
目もパッチリしている。グルグルではあるが決して眠そうではない。
そして、結構気分屋な司馬懿や、殆ど外に顔を出せない司馬孚ら二人の姉に代わって、司馬朗の代役も務めることも少なくないのだ。
頼れる四女と言える。
ただ……片付けは苦手なようであった。
彼女の趣味は縫いぐるみ造りだ。動物の、犬や猫や兎や馬や虎や熊や竜や麒麟等を可愛くしたような表情を持つ丸っこい縫いぐるみが、五日に一つくらいは増えている為、それらが彼女の広い部屋を埋め尽くそうとしていた。
そんなある日のこと―――
先程、朝食後の食堂への扉を出た辺りにて、当家のお客人である北郷様を母上様と
北郷様とは早朝義兄妹になったばかり。私は『兄上様』と呼ぶことにしている。
兄上様は、とてもお強い武人で凶悪な賊を母上様の目の前で倒したと言う、背が高くて……優しそうな素敵な方だ。
時々都や各所からお見合いや縁談が来ていたが、いつも乗り気がしなかったのは、この兄上様に出会う為だったのかもしれない。
大体、母上様や優華姉上様がここまで認める男の方は、これまで聞いたことも見たこともない。でも昨日の昼間、客間の扉の隙間からみたお休みの表情と、昨晩の宴会で初めて近くでお会いしてみて―――私も気に入ってしまった。
これは司馬家の『血』のためなのかもしれない。
兄上様が屋敷内を見て回る事を聞いた私達下の姉妹五人―――私と、
各姉妹の部屋は埃やゴミ等は使用人により掃除されていたが、基本置いてある物はそのままなのだ。
其々の妹達の部屋は散らかっていたのである。
そして、兄上様に対して恥ずかしくて『見せられない』という話になっていた。
環華は、眼鏡を人差し指で上げながらキツめに発言する。
「なんで、大事な事なのに予告がないのかしら」
「きっと母様や姉様方は早々に綺麗にして準備されてたのでしょう」
白華はズバリ確信を付いて来る。
きっとそうだろう。私もそう考えた。
「………ずるぃ……ぉ
思華もこの面子の時は、無口なりに話をしている。驚いたが、初対面な兄上様とも私達家族と同じように『かなり』普通に話が出来ている。奇跡と言える気がしている。やはり兄上様は私達と『相性』が良いのは間違いない。
思華は長年いる使用人達ですら、月に数えるほどしか会話をしていないのだから。
「私は、別に兄上様なら全部見られても気にしません!」
胡坐を掻いて頭の後ろで手を組み、ハニカみながら元気に告げる小嵐華の意味深な発言に輪を作る様に座る皆が顔を見合わせる。
((((ゴクリっ……ぜ、全部見られても……))))
そ、そういう考えもありかな。わたしもちょっと同意し掛ける。
しかし―――
「あ、兄上様達がきます!」
「え? シャオラン、ホントなの?」
環華が、急ぎ立ち上がって聞き返す。
「兄上様の雰囲気が近い気がします!」
小嵐華の動物的感は良く当たったので、全員が急いで立ち上がり、各自の部屋へ慌てて戻って行く。
『全部見られても……』
一瞬そうも考えたが、乙女として努力は放棄したくない。
とりあえず、下にある縫いぐるみだけでも―――
「
ガーン。よりにもよって私の部屋から?! いや、まだ間に合う。間に合わせるぅぅぅ!
「は~い、少しお待ちください~ませ」
しかし、足元や床には山ほど縫いぐるみ達が転がっていた。これを床に積んでもしょうがない。思わず私は声を上げててしまう。
「えぇ~っと、どうしましょう~」
「もう素直にあきらめなさい」
すかさず、扉の外に立つ蘭華姉上様の無情な声がした。
「(あ~ん、姉上さまはいい~ですよ、準備が~済んでるの~ですから)でも~兄上様が~折角いらしたのに~です」
同時に思った正直な気持ちも口にしながら、私は目線を上げた。
すると、入口の上には開いている空間と収納があったのを忘れていた。私は必死で傍の縫いぐるみを集めて抱え、階段を上って入口上側の空間と収納へ何往復かしていた。
漸くなんとか……山にはなったが移動させ終えると、扉の外で待つ兄上様ら二人の客人を部屋に招き入れ、部屋の中や窓際の階層等を見せて回った。
そして無事に二人を外へと見送った。
当初縫いぐるみが数個崩れて来て見苦しいところを兄上様に見られてしまったが、結果的にぬいぐるみを一つあげる事が出来たので良かったかな♪
そう思ってニッコリしながら部屋の扉を閉めた瞬間、入口の上の縫いぐるみの山が一気に崩れて来てしまった。
「うひゃぁぁ~~~ん」
私は縫いぐるみの山に埋もれてしまっていた。
――どうやら『ほわわん』と言うより司馬馗は……少し『ドジっ子』だったみたいだ………。
小話(和華編)END
司馬八令嬢小話(白華編)『ダイスキですが、なにか?』
司馬家の八人姉妹の六女は、名を
そのためか論戦に強く、司馬懿を推して国語・漢字博士とも呼ばれる。
司馬家の娘には特殊な力を持っている女の子が数名いる。
次女の司馬懿は先見の感を持つ。
三女の司馬孚は、見た者を男性を肉欲へ狂わすほどの異常な魅力があった。
そして司馬進も―――
彼女は、他人に出会うとその人物の根本を感じ取ることが出来た。
だが、そのままその事を相手にハッキリ言ってしまう大きな欠点も併せ持っていた。
過去、
母の司馬防へ、中央に勤めるまだ若いが要職に就いている徐(ジョ)という男が近づいて来た。
母も若いため、人当たりが良く気の利くその男を、ある日家に招いたのだ。
姉妹らも呼ばれ、家族が広間に揃う。
すると母から娘達の紹介が始まり、その男へ娘の一人だと紹介された瞬間―――
「この人は、いけません。身持ちが悪いです。他にも女がいっぱいいますね。それに、
「何という事を言うのですか、白華!」
母に口を塞がれ、横にいた
「すみません徐さん、お気を悪くしないでくださいませ」
「いやいやー、はははっ、気にしておりませんから――」
そんな事を言っていた徐という男は、居心地が悪かったのかその後すぐに帰って行った。
白華にも珍しくハッキリと感じ取れたのだ。
――女を食い物にする男。あの男が狙っていたのは、母をイチモツで虜にしたあとに―――綺麗な蘭華姉様をたっぷり貪ろうと元からゲスな考えだった事を。
母の司馬防は怒っていたが、しかし……そのあと、近くにいた明華が放った言葉の方が衝撃的だった。
「あの人は近いうちに―――死ぬから。やめた方がいいですよ、母君」
「「「「「「「「!………」」」」」」」」
母と、その場にいた他の姉妹達は絶句する。
そして、その男は十日ほどのちに……ホントに死んだ。弄んでいた部下の奥方にブッスリ刺されたという―――。
時は流れ―――河内郡温県で平和に過ごすそんなある日、一人の若い男が司馬家の屋敷に運び込まれて来た。
その男は、街の門を破って逃げようとした凶悪な盗賊を倒したという事で、母のお客人としてこの屋敷に住むという。
(若い男……母様にまた近寄ろうとする俗人なのか……でもまぁ)
洛陽の徐という男の一件以来、元々慎重な母だったが更に慎重になった。男を見る目が厳しくなり悪い男には、まず引っ掛からない。
また、以前の一件から『絶世の美女』な姉の蘭華は、何かに掛けて白華に良くしてくれる。病気になって寝込んだ時は、いつも母と徹夜で付いてくれたりしてくれる。
蘭華姉様の、何かに一途になる所が白華も大好きである。
白華自身も人前に余り出れない大きな欠点を持つ身でもあり、あれから『異常な魅力』の所為で、表を普通には歩けなくなっていった蘭華姉様とは共に感じる所があったのだ。
さて、我が『司馬家』へやって来たその若い男は何者なのか。
とりあえず、下の姉妹五人で話し合い、休んで寝ていると使用人から聞いた客間へコッソリ様子を見に行こうという事になった。
廊下を忍び足で進み、目的の客間の折り畳み戸の扉の前まで来る。
この五人の中で年長の
「なにか、少し優しそうな人~ですわ~」
その言葉を聞いて、
だがこの時、白華は和華姉様の表情に違和感を覚える。これまで縁談等が来る時や男の人が絡む表情は、何処か乗り気でない影が出るのだが今の表情は頬が少し赤いのだ。
「ふん、身内以外の男の方を、お母様が家に住まわせるなんて」
「どういう方なのか詳しくハッキリ知りたいですね」
「………ぁぅぅ」
「お強い方らしいので剣を習いたいです!」
しかし、これらの発言でこの直後、母に追い払われてしまい、白華はそのお客人の表情を見れずに姉妹用の屋敷へ引き上げた。
五人の姉妹で姦しく話し合う。
この場へ戻った後、やはり和華姉様はお客人を悪く言わない。母に気を使ってるわけでもなさそうだ。
環華姉様は、闘志むき出しで『他人はこの屋敷から追い出すべし!』と息巻いている。
思華は、母に気を使っているみたいで無言で発言は控えているようだ。でも内心では激しく思考が渦巻いている子なのだ。
末の小嵐華は、若い男で武が立つと聞いて嬉しそうな意見だ。
白華自身は、見ればすぐ分かる。なので夜の宴まで保留とした。
間もなく夜を迎える。
そして、白華は『食堂広間』で開かれた宴の席で若い男のお客人に会った。
何か偉大な……底知れない白く眩しさを感じる。愛するものを守ろうとする勇気、大切な者を死んでも守りたい。だが最も注目すべきは――無限で『正義』のエロス……変態紳士がここにいた!
出会ってしまったと言うべきかもしれない―――兄様にもしたい『夫』と言う人に。
白華にとって、こんなことは初めてだった。
直接、お客人の前に立ちながら、ハッキリと考えを告げられなかったのだ……。
何故だろう。
いや、この『大好き』という熱い想いをハッキリと伝えるのが―――ハズカシイからだ。
人前で言えない事、言ってはいけない事もあるという事を、白華は初めて自らの経験で強く学んでいた。
それと……もともと白華はエッチな事に興味のある子だった。
物心ついた後に、母と父の淡泊ながらもその夜の営みを見てしまってから―――。
それから、コッソリ男女の営みについての本も読んで勉強もしている。
いつか自分と子作りをする好きになる人のために。
白華は操は堅いが実は……(大事な人とのエロい事が大好きです。母の娘ですし♪)
今度、彼女はハッキリと兄様に言うつもりである、『何人子供がほしいのですか?どんな体位がお好みですか?』と。
彼女は思う。『変態淑女』が居てもいいですよね、と。
小話(白華編)END
2014年07月05日 投稿
2014年09月01日 文章修正
2014年09月12日 北の屋敷から西側→東側…文章修正
2014年10月26日 文章見直し
2014年11月13日 文章見直し
2015年03月22日 文章修正(八令嬢の真名変更、時間表現含む)&小話(和華編+白華編)追加
2015年03月28日 文章修正
2015年03月30日 小話ルビ化
解説)孫堅の各地転戦
当外史での動きとして見てくださいませ。
解説)劉表
完全なる新勢力。
ちなみに新野は、現在南陽郡に所属し袁術の領地。
解説)司馬家『本家屋敷』の奉公人(17話、18話の下人の呼称は使用人へ変えました)
守衛は四十八名(うち女性は十名)。
広大な屋敷には四か所に門がある。外壁の周囲も不定期に巡回している。
身元と合わせ、腕が優先されるため世襲制はない。勤続年数に対して退職時に特別金が支給される。
それでも二十名以上は代々仕えている。
守衛、守衛長、守衛隊長の三階級に分けられる。
その中で守衛長は三名、守衛隊長一名(女性)。
家事使用人は三十七名(うち女性は三十四名)。
こちらは、代々仕えているもののみである。
使用人、使用人長、筆頭使用人長の三階級に分けられる。
その中で使用人長は四名、その四名の一人が筆頭使用人長(女性)。
守衛隊と使用人隊の各一隊は司馬防に付いて都へ行き来している。
普通の奉公人と違い俸給も数倍高く、街中でも一目置かれる高級奉公人達である。
解説)司馬家の真名のルール
『非常に愛しい者』にのみ預けます。同僚や主君であっても預けてもらえない可能性が高い。