真・恋姫†一刀無双 ~初出会は少女仙人-混沌の外史~   作:カメル~ン

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第➋●話 (熱い夜)

 

 

 

 四ケ月近く前の、あの暗殺仙人による襲撃の次の日の昼前の事。

 

 

 

「……誰カナ?」

 

 

 

 この時はまだ『悪魔』さまだった、蘇った雲華の第一声である。

 それは、邪気に取り込まれた一刀の、心の叫びの様な呟きと同じ内容の言葉であった。

 彼女の体は、一刀が作ってくれた小さなお墓下の土中から、木人によって掘り起こされていた。

 

 

 

 

 雲華は、一刀の腕の中で亡くなる直前に、最後の力で仙術の『魂の憑依』を行っていた。まだ、自分の気力の一部を残していた木人側へ退避したのだ。

 彼女は、『死んで』からも窮地の連続であった。

 まず憑依自体も、初めから成功が約束されていない掛けであり、その事すらも一時的な処置に過ぎない。

 そしてこの後すぐ、次に大きく損傷を受けた自分の体を復元する必要があった。

 なぜこの時点で、一刀に協力を頼まなかったのか……一つは、損傷の酷い体に対しては『膨大な良質の気』が必要であった。完全な修復が行なわれ、そのあと実行予定の『魂の帰還』までたどり着け、確実に成功するかは不明であった。もう一つは冷静な判断が出来なくなっている今の一刀が、一気に死力を尽くし過ぎて自身のすべての気を使い果たし、死ぬ可能性も高かったからであった。雲華としては、一刀を巻き込んでまでの共倒れは絶対に避けたかったのだ。

 そのため、雲華が初めに対応すべき問題は気が全く足らない事であった。彼女は、木人に憑依してから延々と気を周囲から集め続けている。自力で最後の『魂の帰還』まで出来るかの可能性は……二割ほどしかないと考えていた。早くしないと体が腐敗してしまい、魂も霧散してしまうという常に厳しい時間との戦いであった。

 結局、魂の霧散の刻限が迫る中、次の日の昼まで掛けて膨大に集めはしたが十分とは言えない気の量に、傷みが進んでいるであろう自分の体を復元できるかは、すでに非常に『分の悪い掛け』になっていた。

 物置小屋から外に出る頃に辺りを探ってみると、すでに一刀の気を周辺に感じることは無く、巨木の家の近くに『彗光の剣』を立て掛けて置かれた自分の墓のみが残されているのを見つけた。

 そして、彼がもうここを立ち去っていたという現実に寂しい気持ちが込み上げる中、木人姿で慎重に自分の墓を掘り起こしてみて驚いた。なんとそこにある自身の体は―――復元が完璧な状態で、さらに細胞までがどういうわけか新鮮保持されていたのだ。

 

(一刀……ありがとう)

 

 雲華は、彼からの思いやりと大きな愛を感じていた。すでにボロボロの朽ち果てた体であったのに、欠損や負傷のない状態まで綺麗に復元してくれてから葬られていたのである。

 彼女はその状態を無駄にしない為、すぐに丸々残った自身の充分な気力を使い、慎重に仙術の『魂の帰還』を行った。

 

 

 

 

 雲華は元の体で墓穴から起き上がると、全身の土まみれな状況と肺の中の空気が埃っぽい事に僅かに顔を顰める。そして、この状況の原因となった襲撃の指示者へ、その怒りを含んだ「誰カナ?」という疑問の言葉は向けられていた。

 過去に暗殺仙人を何名も退けた自分ならまだしも、命(体というべきか)の恩人で且つ、唯一の愛しい者を殺そうとした相手……。彼女の表情と眼光は凄まじい殺気を帯びていた。

 

 

 

 『悪魔』さまは―――『ゆるさない』のである!

 

 

 

 当然彼女は、すぐに一刀を追う事も考えた。だが、それよりも自分にしか出来ない、しなければならない事があるのではないかと考えたのだ。

 

『ずっと、ずっと見てるから――』

 

 傍に居る事だけが『見ている事』にはならない。まず得体のしれない人の外にいて、彼を排除しようとする敵を葬り去ってやると決意していた。

 

 雲華は、穴が開(あ)き胸元の露わになったボロボロの紅のチャイナ服と埃まみれの体を着替えようと、倉庫横の庇の下にある水瓶から水を汲んで近くに掛っていた手ぬぐいを濡らして顔と手足を何度か拭う。この後、着替えを取って温泉に行かざるを得ないと考えていた。

 そして、広場から梯子を上り家の食堂へと入っていった。

 するとそこには……食卓の上に一刀の旅の荷物がまとめて静かに置かれていた。まるで別れを告げるかのように、想い出を置いていくかのように彼女には見えたのであった。

 それを見ると猛烈に寂しくなり、一刀に会いたい!元気な自分の姿を見せ、抱きしめて彼にスリスリしたい!という衝動が噴き出してきた。

 雲華は着替えの事など忘れ、扉を開けて一刀の後を追うべく、家の外へ『超速気』で飛び出していった。

 しかし、結界の出口へと続くあの直線の曲がり角へ来た時に、左脇から森の奥へと広がる広大な一刀の放った『神・気導砲』の跡地が目に入り、思わず歩を止める。

 あの時、直接目視していたわけではないが、気を捉える事でほぼ見たままの状況は掴んでいた。当然あの一刀の纏った圧倒的に途方もない気も。

 

(……今すぐ一刀に会いたい。しかし―――彼は普通とは違う。いつの間にか奥義の『現想行体』をも使っていたりと、あの力は『神』に通じるものだわ。間違いなく……何かを成す為にこの世界へ降りて来たのよ。彼はもう十分強い。わたしが傍に居ては甘やかしてしまいそうだし、ううん……私が甘えてしまいそうだわ。……きっとすぐに……子供が出来ちゃうかも。形は違うけど、これも彼の『旅立ち』なのかな……)

 

 そう、彼と再会し『メロメロのデレデレな夫婦生活』をするのは『一通り』終わってからよね♪と思ったのだ。

 

 雲華は、その状況を想像してゾクリとし、そして不敵に―――ニヤリとしていた。

 

 

 

 ここに、『魔王』さまが誕生する!

 

 

 

 そうなった時、彼はきっともっと『強く大きな人物』になっている事だろう――私の伴侶にさらに相応しくと。

 

(もしかしたら、多少の色(女)が付いてくるかもしれないけど………彼に相応しいかはその子達の器量とともに彼の総合評価として判断しましょう♪)

 

 これが本妻の余裕なのか―――雲華はそう考えているのであった。

 

 雲華は再び巨木の家へ戻り、軽く食事を取ると着替えを持って温泉へ向かう。そして、自分の体は一刀が治してくれたものだと感謝しながら、丁寧に身綺麗にして家まで戻って来ると、温泉に浸かりながら考えていた行動へとすぐに取掛かった。

 彼女は、あの愛用していた紅のチャイナ服を失ったが、お揃いの紺色の光沢のあるチャイナ服を作っていた。黄色の刺繍による見事な花びらを持った華麗な花が描かれている。今はそれを身に着けていた。

 さて襲撃者のアテだが、一刀にはさっぱりだったが、雲華には当然伝手がある。

 

「余りあの方を煩わせたくはないのだけれど……しかたないわね」

 

 そう、彼女の使う仙術『神気瞬導』の師匠である真征(しんせい)だ。

 数少ない超一流の仙人だけの称号、天仙の位にある女性仙人だ。年齢は……弟子の嗜みと共に怖くて聞いたことはないが、千を軽く超えているのは間違いない。齢千三百歳を超える老仙を小童扱いで呼んでいたのを知っているからだ。当然、経験も知識も情報網も非常に豊富と言える。

 旅支度を整えると、師匠の元へ早速出発していった……木人と木馬を従えて。

 

 

 

 

 

 

 五岳(ごがく)。

 大陸にある道教の聖地となっている五つの山の総称である。

 五名山とも呼ばれ、陰陽五行説に基づき、木行=東、火行=南、土行=中、金行=西、水行=北の各方位に位置し、その五つの山、東岳泰山、南岳衡山、中岳嵩山、西岳華山、北岳恒山が聖山とされる。

 位置関係は簡単に並べると以下の感じになる。

 

      北岳恒山

 西岳華山 中岳嵩山 東岳泰山

      南岳衡山

 

 それぞれの山は仙人界の重鎮らが住み守っている。

 雲華の師匠の真征(しんせい)は揚州予章郡廬陵(ろりょう)県にある南岳衡山に居を構えていた。

 衡山は、泰山からおよそ三千里(千二百キロ)南にあった。雲華の住む泰山にも仙人界の重鎮らはいる。なぜに雲華は師匠の傍にいないのか。

 仙人界には、人の世界とは違ういくつもの常識が存在する。

 その中の代表的な一つが――― 一人前の仙人は、師匠から遠く離れて自らの存在を示すのが好ましいとされているのだ。師匠の傍でいつまでもヌクヌクとして、その威を借る者は能力がいかに長けていようと『下仙』とされた。雲華は、幼いころからおちゃめが過ぎるところもあったが、早い段階で独立している。一人で暮らすようになり経験も積み、今はかなり丸くなって来ていた。

 また、世話になった師匠や目上、義理の者への接し方にも暗黙の決まりがあった。

 それが、『低姿低頭挺身』と言われるもの。

 常に一歩下がり、頭を低くし、有事には共に身をささげる事を是とする、と言う考えである。

 そのため訪問に際し、飛ぶ、瞬間移動すると言う『短縮・楽』な方法で訪れる事は有事以外において避けねばならないのであった。(逆に師が弟子等の目下の者へ訪れる場合はアリ)

 特に、高く(師匠の居る場所よりも上から)飛んで行くというのは『失礼極まりない』行為と言えた。

 何と言っても、真征は天仙である上に、育ての親でもあり師匠でもあるのだ。今回は更に、愛する者の為になる情報を教えてもらいに行くことになる。僅かの礼も失する訳には行かなかった。

 このため、雲華は三千里(千二百キロ)を陸路で粛々と移動するのであった。

 木馬のいいところは、周囲から集めた気力さえ分けてやれば、餌も水もいらない所である。それで、半時(一時間)に六十里(時速二十五キロ)ほどで移動してくれるのだ。

 雲華は、例の襲撃側からの追手がないか周囲へ慎重に注意を払いながら、十日ほどで三千里の道程を踏破し衡山へ到着する。天気も晴れが続いたこともあり、途中はお得意の野宿になる。移動はもっぱら『気による暗視』を使った夜間であった。さらに、木人は『従者』らしく、木馬はより『馬』らしく見えるように幻術が掛けられていた。

 雲華は衡山へ入る前に、沢を見つけて身を清めると、旋毛に丸めていた髪を丁寧に梳いて、カラフルな色の付いた紐で纏めてポニーテールへと結い直すと、正装のような非常に落ち着いた感じの服装に着替えていた。それは純白に白い糸による繊細な刺繍の施した生地をベースに、襟元等に赤と黒のアクセントが入っている裾の長めのチャイナドレスである。そして、白地に黒と赤と金細工の入った小さ目の頭冠を、僅かに左後頭部寄りの辺りに付けていた。

 着替え終わると彼女は、武器を続く木人に持たせ、本人は丸腰で静かに山を登りはじめる。

 雲華が真征の元を離れ泰山に来てからは、年に数度、仙術の『便鳥(びんちょう)』によって文をやり取りするぐらいで、直接には二回ほどしか会っていない。今回も十年ぶりぐらいに会うため、雲華にしては珍しく少し緊張気味であった。

 深い森の中の仙人の通る道を辿り、結界の門を数か所潜る。基本、聖山内での戦闘は厳禁となっている。そのため襲われることは基本的には無いと言えた。

 万が一戦いが起こった際には、天仙の武闘派が仲裁……もしくは粛清に来る。正直、天仙の武闘派は絶望的にヤバイ。名高い暗殺仙人達でも退ける実力のある雲華だが、天仙達の練達は度合いが違う。雲華の全力でも一撃掠れられるだろうかという程度だろう。ほぼ瞬殺と言える。

 だがここは、師匠のいる聖山でもある。天仙真征が応援に来てくれる可能性は高い。その場合は相手が武闘派の天仙でも、引き上げざるを得ないだろう。天仙同士の戦いも厳禁なのだ。まあそれ以上に、天仙真征に勝てる天仙が殆どいないというべきか。だが真征でも相手の天仙を必ず完全に倒しきれるわけでもない。天仙とはそう言う存在なのだった。

 山の中腹に建物が見えてきた。聖山内には天仙の住む館がいくつか点在している。

 それらは絶壁や尾根の上部付近にあり、一部が崖や岩を刳り貫かれて足場や通路等が作られた朱塗りの木造の中華風な建物である。渡り廊下や回廊もあり、見晴しや下界の眺めも絶景であった。

 そんな建物の一つ、その外周部の壁に建てられた、大きく繊細な彫刻と金の金具類で装飾された朱色の門の前に雲華一行は立っていた。

 雲華は仙術の『伝鳥(でんちょう)』(文ではなく言葉を伝えてくれる)を呼び出して師匠に来訪を知らせようとしていると、門が僅かに軋む音を立てて静かに開いた。

 そして隙間からひょっこりと一人、短めの黒髪から猫耳が出ている使用人風な恰好をした小さな女の子が顔を出す。

 

「……雲華……様?」

「あら、黒(へー)ね、久しぶり。元気にしていた?」

「―――雲華様ぁ!」

 

 その子は半泣きで雲華へ駆け寄って来るとしがみ付き、スリスリして幼げに甘えてきた。

 背が五尺七寸(百三十センチ)程と小柄で胸のなだらかな体からは、二尺(四十五センチ)程のしっぽも生えていて、それも雲華の腕に巻きつけて親愛を示して来る。

 この子は真征の僕(しもべ)の一匹。

 もともとはただの猫だったらしいが、仙猫と化しても真征に仕えている。見た目は可愛いのだが、これでも武闘派だ。俊速で左右から襲い来る猫パンチの連打は野生の熊をも軽くKOする程だ。

 雲華が、真征によってここに連れられて来た時には、すでにこの姿で居た。小さいころからの遊び相手でもあり、稽古相手でもある。

 犬が飼い主を出迎えるのはよくあることだが、実は猫も出迎える場合がある。ただ、犬のように帰って来たのが分かるわけではない。猫の場合は、その時間近くになると迎える場所まで行ってしばらく待っているのだ。猫は気分屋なので出迎えてくれる場合、相当気に入られていると思ってよい。

 

「黒、どうしたの……って、そう、お師匠さまが知らせてくれたのね」

「はい。雲華様が間もなく来るからと。便鳥も来ていませんでしたから、驚きましたけど」

 

 久しぶりにかつて見慣れた門をくぐり、大きな木の生い茂った馴染みの石畳の道を雲華は黒と並んで歩いていた。木人は後方から武器や荷物と木馬を連れて付いて来ていた。

 その途中で黒は急に、雲華の顔をその黄色の瞳でじっと見つめてきた。

 

「どうかしたの、黒(へー)?」

「あの……もしかして、雲華様は結婚されました?」

「えぇっ!? してないわよ……黒は急に何を言い出すのよ」

「そのぉ……とても女性らしく綺麗になられたかなと」

 

 黒は、以前の雲華との差を感じていた。昔馴染みなので率直に言ってくる。

 

「それに、以前は気を抜く間もなく、寝ても起きても常に鋭敏な気が漂っていて、中々スリスリするのも大変だったのですが、今日はゆったりとした大きな気を感じます。前回来た時よりもまた強くなりましたね」

「ふふっ」

 

 やはり黒は良く見ているし、鋭いなと思う雲華だった。

 

「結婚はまだしていないけど……したいと思う人に出会えたわ。彼の詳しい話はお師匠様に会ってからするつもりだけど」

「はぁぁ、いいですにゃぁ……黒にもそんな方が欲しいです」

 

 黒は歩を進めつつ、人差し指同士をくっつけ合いながらそんな事を言っていた。

 そうこうしていると館の入口にたどり着く。

 真征の館は絶壁をも取り込み、巨大な岩を繰り抜いて木造の内壁を施してある部分も多い。そして、最上部との高低差が五十丈(百十五メートル)程もある雄大な建物であった。

 その館の入口に、僕長をしている大柄な老仙虎の黄光(おうこう)が出迎えてくれた。

 当然、雲華とは旧知な間柄の一頭。

 

「お帰りなさいませ、雲華様」

「黄爺(おうじい)! 相変わらず元気そうね」

「雲華様も。ほっほー、良い気を纏われるようになりましたな。滞在中に一度手合せさせていただけますかな」

 

 黄光は、真征に一番古くから仕える獣僕だ。僕の中で最も忠実で……もっとも強い。この者はただの僕ではない。

 真征とともに天仙らと戦ったこともあるそうだ。

 黄色く長い髪に、黄色く長い立派な髭を蓄えており、背は八尺七寸(二メートル)程もあった。今は人の姿をしているが、もちろん元は虎である。

 雲華が小さいころは、たまに獣姿で背中に乗せてもらい空を飛んだものだった。

 今までの手合せで、雲華が勝てたことは無い。

 

「お手柔らかにね」

「ははっ。さぁ、主様がお待ちかねですぞ」

 

 黄光が先導し、雲華と黒が並んで続く。他にもいた僕らに木馬を預けた木人も一応、雲華の後に武器を持って付いて来ていた。

 ちなみに幼いころに拾われた雲華は、真征にとって養女待遇であった。なので、ここへ来た当初から僕(しもべ)らから主である真征の親族として敬意を払われていた。そして、彼女は真征と同様に僕達を大事に扱ったので敬愛されていた。かつて黄光が病に掛った際には、他の僕達と共に雲華も付きっ切りで看病をしている。

 いくつかの階段を上り廊下を通り、橋を渡り、そして一つの部屋の豪華な大扉の前で立ち止まると、黄光が中へ声を掛ける。

 

「主様、雲華様が戻られました」

「どうぞ、待っていましたよ」

 

 黄光によって扉が開かれ雲華らは通される。黄光と黒は扉から入った脇へ控えている。雲華と二歩後方に木人が部屋の中を進む。

 そこは、崖の側面を大きく掘り込み、床を崖から大きくせり出して広く作られた横五丈弱(一十一メートル)縦九丈(二十一メートル)ほどの雄大な大展望の部屋であった。

 その奥に一人の女性が静かに立って出迎えていた。

 雲華がその人物――真征の立つ二歩ほど手前で片膝を突き『叩頭礼』の礼を取って静かに声を掛ける。

 

「ただ今、戻りました。お師匠様」

「良かった。元気そうね、雲華」

 

 真征は優しい笑顔で娘であり弟子の帰還を喜んでいた。

 彼女は、背丈が七尺四寸(百七十一センチ)程あった。真っ黒で真っ直ぐな髪は、地面に巻くほど伸びて垂れていた。前髪は長い髪が髪留めされ、真ん中で軽く分けられているだけの形。顔立ちは眉は細く長い。目元はやや切れ長だが瞳は蒼く大きい。鼻筋は通り高く、唇は小さ目だが少し分厚い。艶があり色気のある表情をしていた。

 まさにアジアンビューティーな雰囲気と容姿である。

 一方服装は、真珠貝を削り出して作られた小片群でスパンコールの装飾のされた、先切り金鎚(片側が平らで片側が細くとがった形状)に似た独特の帽子を被り、同じく全面に真珠貝製のスパンコール装飾のされた、裾が五尺は地面を引きずっているだろう胸元が開いた袖の無いチャイナドレス風の衣装を纏っていた。

 髪も服も仙術によって僅かに床からは浮いているので汚れる事はない。

 驚くことに顔立ちや肌の色艶は、雲華とそれほど変わらないほど若く見えるのだ。それは雲華が初めて会った時と全く変わらない。

 師匠はきっと歳を取らないのだろうと、雲華はすでにそう考えていた。

 

 天仙真征――実力は仙人を推して化け物なのだが、普段は物静かで外見は女神さまのような姿をしているのだった。

 

「お師匠様も、変わらずお元気そうで何よりです」

「今日は、どうしたのです? ……『便鳥』も無く来たということは、難しい事のようね」

「はい。ご慧眼恐れ入ります。実は私の前に……想い人が現れました」

「まぁまぁ」

 

 少し顔を赤らめながら言う雲華に、真征は胸前で手を合わせながら喜んだ。雲華は、ですがと告げながら一刀との天から落ちてきた出会いの辺りをまず話す。真征は話が長くなりそうなのを察して、雄大な光景が広がる窓際の机で話を聞きましょうと言い、二人は移動する。黒は用意してあったお茶と菓子を二人に出していた。木人は黒らの近い脇へ移動している。

 雲華は、一刀を家に招いた辺りから旅立ちまでを手短に要点を纏めて二刻(三十分)ほどで話し終える。

 すると、真征は顎に左手の人差し指の先を軽く当て考えながら悪戯っぽく言う。

 

「つまり……本当は旅立ちまでに色々と期待しながらも、子作りはまだと……」

「そ、そうですが……重要なのはそこではありません!」

 

 雲華は、気持ちを見透かされている事に、顔を真っ赤にしながらも真征の論点のズレを思わず指摘してしまうのであった。

 真征は可愛いわねと言いながら、本題に入る。

 

「確かにその北郷という少年は、尋常ではないようね。我が奥義の『神・気導砲』に『現想行体』となると……『超・超速気』の速度次第では、私に匹敵する『神気瞬導』の使い手になるわね。それも――あくまで脇の力でしかなさそうだしね」

 

 そう言う真征の表情は、静かで落ち着いている。この方も極めるのは『神気瞬導』だけではないのだ。懐の深さは計り知れない。

 

「少年の『神気瞬導』への異常な適応力は、おそらく本来の使命を達するため、生き残るのに必要だった部分が大きいでしょう。相手が死龍ではなく仮に天仙だったとしても……彼は倒していたかもしれないわね」

「……はい」

 

 雲華もそう感じていた。そして、そんな一刀に――脅威も感じてしまうのであった。この感情は当然師匠も感じてしまうだろう……もし師匠が一刀の排除に動いたら……。

 雲華の表情は徐々に険しいものに変わって行った。

 だが、育ての親でもある師匠に隠して相談などは出来なかった。これは掛けでもある。それでも師匠は味方に付いてくれると雲華は考えている。そんな心配を汲むように真征は口を開く。

 

「彼の力は気になるところだけど、今のところその目的は我々仙人達へは影響のないもののように感じるわね。雲華、安心なさい。私は貴方の味方ですよ」

「あ、ありがとうございます!」

 

 雲華は席を立つと机の脇で再び片膝を突いて『叩頭礼』の礼を取り感謝の言葉を返していた。大きな一つ壁を越えれたのと言える。少なくとも強大な力を持つ敬愛する師匠と……争わなくて済むと。今の言葉だけで、ここへ来た甲斐があったと思う彼女だった。

 しかし本題がまだ残っている。雲華はそのままの姿勢で、さらに『ここへ来て知りたかったこと』を真征へ尋ねる。

 

「彼がこの大陸へ現れた事を知ることが出来、尚且つ排除しようとする勢力にお心当たりはないでしょうか?」

「そうね……、『辿り着けるもの』達かしら」

「『辿り着けるもの』……達……とは?」

 

 聞きなれない言葉に、雲華は真征へ聞き返していた。すると真征は答えてくれる。

 

「その少年は、ずっと先の時代から来たということだったわね。『辿り着けるもの』達は新興の勢力で、仙術によって歴史を飛び越え何かを企てる者達よ。おそらくその者達は、先の歴史を是とせず、今の歴史へ干渉し変えようとして……それに対して大きな反作用が少年をここへ呼んだのかもしれない。それに気付いた彼らは当然……」

「――― 一刀を消しに来る」

 

 真征は、脇で礼をとる雲華へ静かに頷いた。そして入口の脇へ控える老仙虎の黄光へ声を掛ける。

 

「黄光、『辿り着けるもの』達について密かに力を貸す仙人達を調べなさい」

「ははっ。お任せを」

 

 彼は、返事をすると同時に姿がその場から忽然と消えるのであった。

 

「雲華。今回は少し時間を掛けねば……急には動けません。しばらくここでゆっくりしてお行き」

「はい」

 

 相手は、歴史に干渉しようとする得体のしれない仙人達なのだ。そして時間が掛るのも当然と言える。本来は諜報に不慣れだが、自分でやらなければならないところであるのだ。

 ここは邪魔にならない様、手慣れた者達に任せるべきだと考え、雲華は素直に従うのみであった。

 

「さてと、では――」

 

 そのあと雲華は、真征から一刀について、夜の食事が終わるまで延々と根掘り葉掘り聞かれるのだった……。

 

 それから調査が終わるまで三か月を要した。

 その間、雲華は真征や黄光から久しぶりに手ほどきを受けたり、黒らと共に修練したりと、しばし館の中で昔に戻った時間を過ごしていた。

 調査はまず、数日動かずに空ける事からはじめ、さらに急には動かず、動いても少しずつ静かに調査を進めていき、最終的な仙人の特定と探索には黄光自らが出て行ってくれた。彼も、戻って来てから教えてくれた。並みの僕では見つかり、返り討ちに合うところであったと。

 『辿り着けるもの』達は十名程の仙人で構成されていた。天仙はその中にいないとのことだった。

 その中でも中核は四名。

 名は左慈、于吉、弧炉(ころ)、蛇蝎(だかつ)で、彼らは仙術によって歴史を飛び越えることが出来ると言う。

 普段は、左慈と于吉、弧炉と蛇蝎の二組に分かれて動いているという。左慈と于吉の動きはまだ完全に掴めていないが、弧炉と蛇蝎の組、計七名の仙人達の活動範囲は黄光が特定して来てくれていた。

 話を聞いた雲華は、まもなく『討ち果たす』旅の準備を静かに始める。

 雲華の部屋は、以前使っていた部屋がそのまま残されていた。定期的に綺麗に掃除がされていて、昔に自分がここに居た時と変わらない時間を過ごすことが出来た。

 そんな彼女の部屋を、旅の数日前に真征が訪れる。

 

「行くのね? 相手は七名と聞いてるけど」

「はい。何名居ようと私としては、この戦いは避けられません。彼に害成す者らは討つのみです」

 

 愛する者の為に闘う決意を述べる雲華に、逡巡する気配は微塵も感じられなかった。

 

「誰か付けましょうか? すでにあなたは一度襲われているし、我が家が手を貸しても名分は立つわ」

「いえ、すでに困難な情報を集めてもらい十分助けて頂きました。特に黄爺には」

「そうね、最初にあなたが土の中に入ったと聞いた時に、入口の脇で凄まじい怒気と殺気を放っていたものね」

「ふふっ、横にいた黒も切れていましたが、途中でその凄まじい殺気に押されて最後は恐れおののいていましたね」

 

 ここで、真征は手を二度叩いて鳴らす。するとバツが悪そうに顔の照れた黒が部屋の扉をまず開けると外へ戻り、再び人一人が入るほどの大きな木箱を持って部屋へ入って来た。

 そして、黒はそれを静かに床へ置くと箱の蓋をゆっくりと開いた。

 すると―――中には精巧に作られた女性体形の人型の木人が入っていた。

 

「これをお使いなさい」

「こ、これは……『聖仙木人』!」

 

 『聖仙木人』……木人制作の達人となっている聖老仙が作った最高の木人である。その体には余りの精巧さに、動き始めると間もなく魂が宿ると言われ、通常の木人の十倍は強くなると言われるものであった。

 

「連れている木人は、すでに自分の意思であなたに懐いている様子。移してあげるといいでしょう」

「しかし、お師匠様……」

「『うん』と言ってくれないと、きっと黄光が横に付いて行くと言って聞かないことになるでしょう」

「……分かりました」

 

 黄光は、本当に付いてきそうな感じなので受けざるを得なかった。ほどなく雲華が連れていた木人から『核』が、聖仙木人の体へ移された。

 再び動き始めた木人は、同時に用意されていた新しい衣服を自ら身に着けると、雲華に対して―――言葉を話し始める。

 

「主様、素晴らしい体をありがとうございます。これからもよろしくお願いいたします」

 

 木人は、綺麗な体形の女の子らしい新しい体を大層気に入った様子であった。

 

 そう、木人くんは実は―――『女の子』だったのである。

 

 雲華が真征へするように、木人は雲華へ片膝を突いて礼を取っていた。その姿と動きは非常に滑らかで、もはや生きているようにしか見えない。

 彼女は雲華より『ジンメ』と呼ばれるようになる。

 

 それから十日後――― 一刀の抹殺を企てる『辿り着けるもの』達の構成員である弧炉と蛇蝎の組、計七名は大陸の歴史から土の中へと人知れず居場所を変えるのであった。

 その際、弧炉だけを生かしたまま捕えて仙術で詳しい理由や事情を履かそうとしたが、この組の者は詳しい事は知らない様子であった。ただ、死龍に指示を出したのは于吉だと言うことは分かった。

 

「あと三名ね……。ジンメ、今日は見事な働きだったわ」

「はっ、ありがとうございます。残り三人もお任せください」

 

 雲華は、頭の中で戦いを振り返る。

 雲華と『ジンメ』は共に戦装束として、これまでに見たことのない異彩を放つ『とても可愛らしい』衣装と装備を身に着け、それぞれ槍を手にして木馬へ跨っていた。

 そして、七名の仙人達へまず木馬ごと突撃して行ったのは『ジンメ』であった。美しく長い紺の髪を靡かせ、彼女の閃光の槍があっという間に格下の五名を倒していた。

 そのあとは、弧炉と蛇蝎らとの一対一になる。

 元から暗殺仙人を屠る実力のあり、さらにこの三か月を師匠らの元で気合いを入れて鍛え直した雲華と、『聖仙木人』の体を得て、雲華に近い実力となった木人『ジンメ』を相手に一対一では相手が悪すぎた。それぞれ三合以内で勝負が付いていた。

 

「さて、一度衡山へ寄ってから泰山へ戻りましょう。左慈、于吉らの組の動きの情報が入っているかもしれないし」

「はっ」

 

 弧炉と蛇蝎の組の根城は、ひと気の少ない涼州の辺境に近いところであった。

 雲華とジンメは、ここから追跡者や周囲に気を配りながらゆっくりと衡山へ寄った。しかし有力な情報は得られず、情報は掴み次第知らせてもらえるということで、真征らへ礼と別れを告げると雲華らは一度泰山へと帰って行く。

 そして……泰山の森の傍で左慈、于吉らとの関係者かと勘違いし、見慣れない『人』の集団とその中に僅かな仙気を纏った者を探し当てた結果、窮地の諸葛亮らに出会うのである―――。

 

 

 

 

 

 

「北郷様はこの先、我が家から旅へ出られて……その後、何処かへ仕官されるのでしょうか?」

 

 一刀は絶世の美女な三女の司馬孚から広い司馬家の屋敷内を時計回りに一周ぐるりと回遊するように案内してもらったあと、彼女の部屋から二人とも『食堂広間』まで戻って来ていた。

 一方司馬懿と下の五人の姉妹達らは『寛ぎの広間』で勉強会をしており、それが終わったころ、『食堂広間』へ再び司馬防を始め、司馬家の面々が一堂に会しての昼食となった。

 今回の席順は、一刀が食堂へ入った直後から末っ子二人、元気な司馬敏と無口だが優雅な雰囲気の司馬通に両手を取られたまま円卓への着席となっていた。

 その昼食の最中、一刀は司馬朗により先の質問を受けていた。

 

「仕官……?」

 

 そんなことはこれまで微塵も考えたことが無いため、一刀は司馬朗の質問に意表を突かれたように箸が止り、驚いた発音で言葉を返した。

 軽い話かなと思い、一刀は別の話題へ流そうかと司馬朗の表情を伺うと―――彼女の表情は真剣に見えた。

 一刀へ余り関心がなさそうな司馬懿も、一瞬じっと一刀を見てくる。彼の発言次第で、司馬朗の決断に影響が出る可能性が大きいからだ。

 姉の仕官の話を知らない他の姉妹達も、一刀の話でもあり、微妙にこの質問の行き先に注目しているようであった。

 一刀は、どう答えようかと迷った。

 そんな二人の様子に、司馬防が助け船を出してくれる。

 

「優華(ヨウファ)、北郷殿は体調を戻す為に昨日、我が家へ来られたばかりですよ? 今はまだ、ゆっくりして頂かないと」

 

 司馬朗は、自分の事で頭が一杯になっていた事に、はっとして慌てて一刀へ謝った。

 

「も、申し訳ありません。母様の言う通りですね……北郷様、今の私の言葉はお忘れください……」

 

 司馬朗は、昨日も同じような事があり、自己嫌悪でしゅんと意気消沈してしまう。

 その姿に可愛そうになった一刀は、ここで話すのは相応しくないかなと思い、彼女へ伝える。

 

「あの伯達さん。後で伯達さんの部屋を見せてもらえないかな? 朝は仕事中とのことで見せてもらえていないから……」

 

 女の子の部屋をと言うのが一刀には少し恥ずかしかったが、朝の続きと言うのであれば不自然でもないだろうと思ったのだ。

 司馬朗としては好意を寄せている一刀が、自分の部屋へ来てくれると言うのだ。また、一刀の素早く優しい気遣いも感じて、意気消沈していた彼女は表情が明るくなった。

 

「はい、喜んで。あの、明日の街会議の準備の方は纏め終わりましたので、この後どうでしょうか?」

「じゃあ、昼食後に案内してもらおうかな」

 

 一刀の言葉に、司馬朗は嬉しそうに「はい」と頷いた。姉思いな姉妹達は、食後に一刀と話をしたり自分の部屋にも来てもらって遊びたかったが、皆長姉へと譲ってあげることにする。

 その様子を、司馬防もにこやかに見守っていた。

 

 母屋の二階の廊下を南へ向かい、司馬朗と一刀は並んで歩いていた。昼食を終え、二人は先ほどの約束通り司馬朗の部屋へ移動中である。

 司馬朗はそんな中でも、幾つも一刀について考えていた。

 彼女は、使用人らも含めて司馬家で一番背が高かった。しかしそれは昨日の朝までであったようだ。司馬朗は、昨晩の宴会と今朝の朝食時にて食堂の入口で挨拶をした時に、一刀が自分に近い身長だということは分かっていたが今、横に並んで歩いて漸く彼の方が自分よりも僅かに背が高いということが分かった。

 司馬朗には『一番背が高い』というのは、彼女にとって嫌な意味での無意識的な精神圧力になっていた。一刀の存在は、それを大きく軽減してくれていたのだ。

 それと同時に彼女はほっとし嬉しく思っていた。少なくとも一刀には『自分より大きな女の子』とは思われなくて済む……『自分より小さな可愛い女の子』でいられることに。

 そして、彼とは近い背丈ということでほかの家族達と違い、目線を下げることなく会話が出来る。また、先ほども階段で僅かに躓いたときもサッと肩を支えて貰えたりと。他の者達では、体格負けで支えきれない者も多いことだろう。

 司馬朗は、一刀の自分より広い肩幅から想像すると、抱きしめられたら……きっと包まれるような抱擁感を味わえるのではないかと、内心でその時を思い描いている。

 歩を進めながら思考の片隅で、彼女はそんな感じに彼の良い点や甘い接触をあれこれ妄想していた。

 

 そのうちに廊下の突き当たりとなり、右へ向くと両開きの装飾の施された朱塗りの扉が現れる。部屋の前へ着いたようだ。

 司馬朗はその扉を右側から、そして左側と順にゆっくりと引いて開くと、「どうぞ」と一刀を中へ招いてくれる。

 「では、おじゃまします」と一刀は控えめに辺りを見まわしながら中へ入って行く。

 母屋二階の南に位置する部屋の南半分が『寛ぎの広間』に乗っているというこの部屋は、南側が一階の高い天井のため、五尺(百十五センチ)ほどの段差の存在する床に変化のある部屋になっていた。第一印象は『日当たりがよく植物が多い部屋』。

 扉から近い方の床は、天井までの高さが一丈半弱(三メートル四十センチ)ほどあるので、南側の高くなっている床の部分も十分な天井高があった。扉近く側の床部分が就寝と勉強や仕事場の様で、壁面部分が収納になっており、多くの書物が収納されていたり仕事用だろうか机等が置かれていた。寝台は折り畳み式の繊細な彫刻の施された衝立で仕切られた一角に置かれていて、やはり木枠の天井の付いた朱色のお姫様ベッド仕様なものが置かれていた。一方、南側の高い床の部分は日当たりが良く、寛げるような長椅子や脇机に敷物が配置され、また窓扉越しに続く広い屋上庭園風のルーフバルコニーが見えている。

 一刀はその窓扉に近い、長椅子のところへ通された。

 そのあと、司馬朗は自らお茶を入れてくれる。それを頂きながら、窓扉越しの屋上庭園の眺めを楽しみつつ二人は雑談を交わす。

 

「伯達さんの部屋は植物がいっぱいだなぁ。良い感じに落ち着いた雰囲気がいいね。まだ他のみんなの部屋を見たわけじゃないけど、日当たりが良くて、それぞれの部屋に個性がありそうだね」

「白華(パイファ:司馬進)の……恵達(けいたつ)の部屋はもっと植物が多いのですよ、ふふっ」

 

 恵達といえば、ハキハキしたおかっぱな髪の子だよなと考えながら、どんな部屋なのか今度見せてもらおうかと思ったりする。

 続いて、一刀は壁際の書籍の話をする。かなりの数があるみたいだけど、姉妹で共有して使っているのかと聞いてみる。

 すると、この家の書物庫は母屋から東に廊下で繋がった別館が一棟あるという事であった。それでも、各々が返すのが面倒で部屋に持ち込んだままになっているものも多いとか。年に一度、年末にそれらを全部書物庫に戻すのが慣例になっているそうだ。ちなみに司馬懿は一冊も自分の部屋には持ち込まないらしい。というか、部屋では仕事や勉強は一切しないということである。司馬懿のイメージが当初の予想とズレすぎてるなぁ……と思う一刀であった。もっとバリバリの文学少女だと思っていたからだ。それに、今はまだ彼女とは余り話す機会が無い感じで、想像が全く追いついていない感じであった。

 司馬孚曰く、司馬進の方が裏表がない分、司馬懿より気難しいと言う話だったのを思い出し、一刀には懐いてくれていて普通にハキハキキビキビした可愛い良い子にしか思えない……そのギャップをいつか見ることがあるのだろうか。

 一刀は、その事を少し司馬朗に聞いてみた。

 すると、やはり司馬進は最近ようやく大人に近づいて来て、少しは我慢するようだが……二、三年前までは、会った瞬間から気に入らないと「私はあなたと話をしたくありません」とハッキリ言ってしまっていたとのことだ。そして、そのあと近寄りもしないという。だが、どうやらそれは相手がどういう人物かを見抜くのが優れているところから来ているようで、彼女の気に入らない人物は必ず裏で賄賂や汚職の常習者や、高圧的に女性を弄ぶ等の問題のある者であったというのだ。

 一刀は、「じゃあ俺には懐いてくれてるし、光栄なことなのかな」と言うと、司馬朗は「ふふっ、でも白華は北郷様には、いつもとは少し違う対応をしていますけど」と意味深な事を言ってきた。

 そして一刀が「ん?」と小首を傾げて不思議そうな顔をしても、司馬朗はニッコリと笑っているだけであった。

 それは……司馬進は、ハキハキしていてハッキリ言う女の子なので、これまでも気に入った人には「良い人ですね」や「優しい人ですね」や「好ましい人柄ですね」等当人へ伝えるはずなのだが、一刀にはまだ『ハッキリと直接』伝えていなかった。そう――直接にその決定的な想いを一刀へ伝えるには、まだ『恥ずかしい』らしいのだ。

 司馬朗は、昼食前に司馬進へさり気なく『ハッキリしない事』を確認してみると、本当は「勇気と思いやりがあって、兄のように頼り甲斐があり、そして……(……も優しそうで、……にしたい)理想の男性です」と一部聞き取りにくい所もあったが、好意を寄せていることを一刀へ伝えたい様子であった。

 

 一刀と司馬朗は、窓扉から外の屋上庭園風なバルコニーへ移動する。天気はまずまずで、風も穏やか。そして二人で、遠くの空をのんびりと眺めていた。

 そんな中、司馬朗は静かな口調で話を始める。

 

「私の元に仕官のお話が来ました。……私は司馬家の長子であり、私の選択する所属先は妹達の将来にも直結してくるものだと慎重に考えています」

「……そうだね。姉妹らは皆、伯達さんを慕っているようだしね」

 

 一刀の言葉に頷きつつ、司馬朗は話を続ける。

 

「その仕官先は母様も、次女の仲達(司馬懿)も良いところだと言ってくれています。私自身も……そう考えています。実は妹の仲達には、かつていくつか仕官の話が来ていました。残念ながらすでに当人が全て断ってしまったのですが……それは、武官としてでした。私の腕は大したことはないのですが、仲達の武はかなりの腕前です。しかし北郷様は、その仲達をさらに凌がれている武人です。……昼食での質問はそんな力をお持ちの北郷様が、我が家へ留まらずという事は、さらにより良い待遇を求めてどこか大きな諸侯へ仕官されるおつもりではないかと思い、その考えをお聞きしたかったのです」

 

 司馬朗の話す表情は真剣なものだった。当然だろう、仕官とは人生の大きな分岐点なのだから。しかし、今の一刀にはそんな大きな考えは微塵もないと言える。空っぽな感じなのだ。

 一刀が、この『司馬家』から離れようと考えているのは、大切なものを守れない自分から逃げるように、只々……彼女らを巻き込みたくないだけである。その先は考えていない。それはただ、あの時の『絶望的な喪失感』からずっと逃げているだけなのかもしれない。今も考えるほど、一刀は分からなくなっていった。

 そして―――弱々しく震えるように思わず呟く。

 

「……俺は……これから何をすればいいんだろうか……」

 

 すると司馬朗は、街の英雄で且つ一流の武人と慕っている一刀のそんな言葉に一瞬驚いた表情を見せたが、両手で彼の手を静かに優しく握ると、熱い視線を一刀へ向けてその言葉を述べた。

 

「私と……共に人生を歩いて貰えませんか?」

「え゛ぇっ?」

 

 彼女の、余りに突然の大告白に戸惑う一刀であった。完全に『プロポーズ』と言えよう。

 妹の司馬孚もそうだが、そこまで一気に人生を掛けられるものだろうか。

 

 一刀の、甘い時代の考えや想像は届かない。

 そう、この世界の人生は概ね短い。疫病、戦争等が絶えない事で、目にする命の遣り取りも多い。そして、そのことが人々へ常に死を意識して生きさせているのだ。

 だからこそ彼女達は熱く、鮮烈で率直な考えなのだという事に。

 現代のように、はじめから老後など考えていない。いつ死んでも悔いが残らないように全力で生きているのだ。

 また、家柄の問題もある。彼女らは母からは伝えられていた。限られた人間関係……広いようで案外狭いものだということを。母が認め、自分も……それだけに一刀への司馬朗ら姉妹の決断はシンプルになって来ていた。

 

「北郷様は記憶を失くされ、体調も戻っていない苦しい時期なのだ思います。しかし、人は目標を掲げてそれに向かって努力して行くべきです。そうでなければ……人生に意味を見い出せず、空虚感に襲われる事でしょう。だから、私と目標を立て前に進んでいきませんか? その……あの……一緒に子孫を残す、とかでも全然構いませんから!」

 

 司馬朗は真っ赤になりつつも、その熱い想いをぶつけて来る。普段なら一刀も共に真っ赤になっているところだが、『絶望的な喪失感』がぶり返しているのか、先ほどよりも状態が悪化してきていた。

 

「でも、俺の傍は……守ってあげられない程どうしようもないような……恐ろしい死が近くにあるかもしれないんだ……」

 

 一刀にははっきりと震えが見て取れ、その表情が、そして存在が更に弱々しく無感情に感じられた。しかし、そんな一刀へ、司馬朗は静かだが力強く言葉を述べる。

 

「―――それでも構いません。貴方と少しでも共に歩めるなら」

 

 そう言って彼女は、何か絶望的な恐怖に立ちすくむ一刀を、慰めるように優しく包むように抱きしめていた。

 

 

 

「そうなっても貴方の所為ではありません。なぜならそれは―――私が自分で選んだことなのですから、後悔もしないことでしょう」

 

 

 

(………!! 大切ダッタ人カラ、同ジヨウナ事ヲ聞イタ気ガスル………………なんと思われようとあんな思い――二度とゴメンだ!)

 

 一刀の目と表情に力が戻る。だがそれは拒絶へのものだった。

 この時代での約束は重い。一刀は、司馬朗の想いを『仕官先へまず振り向けさせよう!』そう考えるに至った。

 

「ありがとう。でも今は……君の想いへの返事をすることは出来ないかな……。俺はまだ自分の……記憶も含めて色々な事に納得や整理がついていない」

「えっ?」

 

 司馬朗は、一刀の返して来た言葉に少し違和感を感じつつ、そして内容が前向きでないことに声をあげた。

 一刀は、司馬朗の両肩へ優しく触れて体を少し離す。

 司馬朗は一刀の返事の続きに注目していた。自分の想いに『では、いつ答えてくれるのか? それとも……』と。

 一刀は、司馬朗の不安そうに変わった表情を、優しい表情を作って見ながら『彼女の為を』と思い、『選択肢を無理やりに未来へ伸ばす』言葉を続ける。

 

「君の言う通り、目標は生きるために大事だと思うから、俺は体調が戻るまでに仕官先か目標を考えてそこへ向かって進む事にするよ。だから、伯達さんはこの司馬家の繁栄の事もあるし、今考えている良さそうな仕官先へ―――早く返事をした方がいいと思う。そして先ほどの話は、俺がもう少し先の目標をしっかりと考えることが出来たぐらいの時に改めて。……それでどうかな?」

 

 すでに一刀は――焦っていた。そう言い終わる前には、司馬朗の表情は……彼女の目には涙を一杯ためて悲しみのどん底であったからだ。

 

「それはやはり、私ではお気に召さないと……妹達とは義兄妹の契りを結んで、蘭華からは真名を預かり、そして―――母様とは、ょよ夜を共に……なのに私には……何も……それは背が高いからですかぁぁーーーー? デカい女はイヤですかぁぁーーー? ぅぅぁぁあ~~ん」

 

(―――!? 夜の事まで全部、この子にバレテルヨォォォーーーー?! というか伯達さん壊れてる?)

 

 まだ、間近にいた彼女は、一刀の胸を軽くポカポカと叩いたあとに、彼の肩に顔を寄せながら啜り泣いていた。

 物静かで知的で、少し一刀よりお姉さんぽい女性と思っていたのだが……やはり可愛い人だなと、一刀は思ってしまう。

 そして一刀は―――司馬朗を優しく抱きしめて、思い出したかのように密着した彼女の圧倒的ボリュームな栄光の部位の、柔らかく心地よいフィット感を堪能すると共に、彼女のスバラしい芳香をそっとクンカクンカしながら、頭をナデナデしつつ慰めの言葉を自然に話していた。

 

「伯達さんはとても可愛いよ。美人だし、物静かな雰囲気もいいし、性格も妹達思いで優しいから好きだし……本当だったら喜んですぐに受けてるよ」

「ぐすっ……ほ、本当ですか? ……好きって……喜んでって……本当ですか?」

「う、うん」

 

 すると、司馬朗も一刀の背中に手を回して抱きしめてくる。先ほどまで泣いていたのだが、すでに目尻を拭うと照れながら笑顔を浮かべつつ言ってくる。

 

「ふふっ嬉しい……私達、相思相愛ですね」

「でもやっぱり……俺といれば危ないからダメ―――」

「いやです……離れませんから」

 

 そうクールに言うと、司馬朗は綺麗な顔と豊満でプルンプリン♪な胸を、一刀の頬と胸へゆっくりとスリスリして来た……彼にとって反則技と言える。スリスリは、雲華と交わした気持ちのイイ触れ合いを思い出させる。

 一刀は、欲望に負けそうになりながらも言葉を絞り出す。

 

「で、でも、君には現実に司馬家を背負っての大事な仕官の話があって、早々に決めないといけないだろうし、俺は目標を決めて旅に出るわけだし」

 

 司馬朗のスリスリが静かに止る。そして一刀の肩から顔を僅かに離した。

 

「それは、少しじっくりと共に考えましょう。立ちはだかる障害には手に手を取って当たることこそ絆を深めますから。……あの北郷様……是非、私の真名を預かって欲しいのですが」

 

 司馬朗は、静かに顔を上げて一刀へ確認してくきた。背丈が近いので顔が近い! 一刀としては司馬孚の真名の件があり、それを司馬朗が知っている事もあって「うん」としか言えないのであった。小さく一刀は頷いた。すると、司馬朗は嬉しそうに伝えてくる。

 

「私の真名は優華です。以後、幾久しく……私も名前で北郷様を呼んでもいいですか?」

「……いいよ、優華さん」

「はい、一刀様。あぁ一刀様~」

 

 そう言って、司馬朗は再び一刀の背中に回していた手に少し力を入れてスリスリと抱き付いてきた。

 だが、すぐにそれを緩めると司馬朗は一刀へ話し出す。

 

「そうでした、現実にで思い出しました。一刀様、明日の街会議なのですが私と一緒に出て頂けませんか?」

「へっ? なに?」

 

 話が飛び過ぎて一刀は話に付いていけていない。明日、街会議があるのは司馬孚のツッコミで聞いているから知っていたのだが、なぜそれに自分が出るのかよく分からないからだ。

 

「実は、役所の方や他の顔役の方々が是非、『街の英雄』の一刀様にお会いしたいと。それと仕事のような話なのですが、昨日のような凶悪な賊が近づかないように不定期に街や門を見に来てほしい様な事を……」

「それって、警備の仕事の手助けみたいな感じになるのかな? 俺のような武人が、不定期に門や街を回っているという噂を周辺に流して賊の接近を減らすと言う感じなのかな」

「まさにそうですね、おそらくそれに近い詳しい話は明日あると思いますが……如何でしょうか?」

 

 ここで断ると、まず顔役の『司馬家』の立場がないだろうと一刀は考えた。どのみち暇でもあるし、何か少しでも世話になっている司馬家の役に立つならと思っていた。可能な期間を先に断っておけば、この街を離れる時も文句は言われないだろう。

 

「分かったよ。あとは街会議の時間を知らせて貰えれば」

「では、夕食と朝食の時にお知らせと確認をしましょう」

「………あのぉ優華さん、そろそろ離れませんか?」

 

 そう言った一刀であったが……内心では司馬朗の、豊かな胸を含めた柔らかな抱き心地と髪や体からのスバラしい女の子な芳香を堪能していたのだ。好きな女の子には弱い彼。何度か癖のようにサワサワナデナデしたくなったのだが、一刀は何とか耐える。

 一方、司馬朗は可愛く一刀へしばらく微笑えむと一刀の肩に顔を寄せてより密着してきていた。

 

「…………ふふっ……」

 

 彼女は、一刀のイカガワシイ思いを知ってか知らずか、更に一刻(十五分)ほども彼の背中に回した腕と肩に乗せた頭と彼の胸にくっ付けた胸を、解き離す事はなかった。

 まるで一刀に、自分の体の感触を覚えてもらえるようにと……。

 その間、二人は別々の方向の景色を見ながら静かに雑談をするのであった。この街の中の話が多かったが、孤児達の救済所や災害受難者への支援等で彼女が慈善家でもあることは良くわかった。とても心の広い優しい可愛い女の子なんだと。

 そして漸く背中に回した腕を解いてくれたかと思ったが、さらにとんでもない爆弾発言が続いたのだ。

 

「今日は、お風呂があるのですが……一刀様、この後、間もなくですし、一緒に入りましょうね。申時正刻(午後三時)の一番で♪ 今日は、母屋側の湯船になりますから近いですし」

 

 どうやら離してくれなかった最後の長い時間の抱擁は、お風呂までの時間を稼ぐ為であったみたいだ。

 しかし、非常に不味いのではないだろうか。偶然ならともかく、いきなり一緒に入るというのがさすがに周りへの説明が付かない。一刀は、もう一度確認するように聞いてみる。

 

「一緒に? 大丈夫かなぁ……いろいろと不味くないかなぁ?」

「いいえ、問題はありません。すでに一刀様へ真名も預けましたし、それに……相思相愛の仲ですもの……」

 

 いやいや、そう言う問題ではないと思うのだが。

 ポっと頬を染め、両手を頬に当てながら司馬朗は可愛い仕草で言っている。

 しかし、ホントに真名を預けられると許される話なのだろうか。一刀は、今一つ真名についての常識を把握できていないのだ。

 まあ一般的には、真名を預けるにも個人差があるので、当然混浴まで許されない場合も多いと思うが、一刀のこれまでの雲華との経験では相当深い意味があるものだと認識していたのだ。

 もちろん、一刀も混浴が嫌なわけがない。断じてないと言える。女の子が好きなのだから。その一糸纏わぬ姿を見たいんです。クンカクンカしたいのだ。サワサワもダイスキなんだ。

 なぜなら――彼は絶倫なのであるから。

 しかし、一刀は客人とは言え世話になっている身の上。節度は守りたいのであった。まず、家主の司馬防に筋を通さなければ……と考えていると、いつの間にかすでに母屋の風呂場まで来ていた……。

 雲華の時といい、一刀は混浴への欲望に弱いのである。

 どうやら、司馬朗に静々と手を引かれて、途中で使用人達にも頭を下げられ(見られ)、その際に司馬朗は普通に「もうお風呂は入れるかしら?」と全く隠す様子もなく確認までされていた。

 もはや、司馬防の耳に入るのは時間の問題―――。

 広い脱衣場へ司馬朗に続き入ると……この屋敷では使用人が服を脱着してくれるのであった。

 故に混浴もバレバレ過ぎている。

 もはや言い逃れはできまい。司馬防さんは、怒ってしまうのではないだろうか……ここはもはや開き直って堂々と行くしかない!

 一刀は、すでにもっこり気味になっている事も込みで、桃源郷へ堂々と入って行った。

 幸い、一人ひとりの脱居場所が横に八尺ほどの幅で板により間仕切られているので、いきなり司馬朗の使用人によりヌギヌギされていくあられもない姿が見れなくて残念……イヤイヤ、節度が守られていて結構である!

 一刀の衣服の脱着担当は、『丸洗い』の時から慣れている使用人長の銀さんであった。なので特に緊張することもない。腰に湯浴み用の腰布を巻かれる時に「リッパでお若いですわね」と言われてしまったが……。

 『いざ桃源郷へ!』と思っていると、後ろから司馬朗の声が掛かる。

 

「あの、準備はいいですか?」

「……うん、入ろうか」

 

 と、一刀はすでに観念気味にそう言って、声のした後ろへ振り向くと……なんということでしょう……白いビーナスが立っているのかと思ってしまった。

 彼女は湯浴み着を着ていた。だがそれは、あるものに似ていた、そう―――白いスクール水着に。

 薄めの白生地は、当然伸び縮みしないので胸や腰やお尻の形の大きさに調整されて作られていた。そのため濡れていなくても、完全フィットしていて、絶対領域な至高の部位や掴む栄光の部位の先っぽまでもが、すでに透けて色等イロイロと見えてしまっている気がしないでもない。

 しかし、司馬朗は頬を染めながらも手を後ろに組んで斜め気味に立って全身がよく見てもらえる可愛いポーズを取ってくれている。

 一刀は風呂場のためか、いつもよりも何か匂い立つ女の子の香りに、一瞬クンカクンカして惚けそうになったが、なんとか正気を保って声を掛けてあげる。

 

「とても綺麗だね。似合ってるよ」

「はい……嬉しいです。じゃあ、入りましょう」

 

 司馬朗より差し伸べられた右手を左手にて一刀が取ると、一刀の手を引いて彼女が一歩前に出る形になった。すると、スク水風の湯浴み着の背中が一刀の目に入る。それは、桃尻の部分には布があるが、背中部分には……何も無かったのだ……。首の後ろで紐閉じされている形で、肩甲骨やその脇下横からはみ出て見える胸の外周。シミ一つない美しい背中の肌と背骨の線を降りて腰のクビれが桃尻へと繋がっていくラインを至近距離から最大解像度での閲覧を堪能出来たのだ。

 たくさんの至高なご褒美に、一刀はもはや司馬防から来るであろう、愛娘へ対しての混浴に加え視姦という幾多のハレンチ行為へのお叱りは、甘んじて受けようと考えていた。もはや悔いナシな思いがある。

 そして湯殿への扉を通り、湯気と木のよい香りのする浴室へ入る。すると―――

 

 

 

「北郷殿、自慢の湯殿へようこそ。貴方が来るのを待っていましたよ」

 

 

 

 なんと司馬防もスク水風の白い湯浴み着姿で中央の湯船にすでに寛いで入っているではないか!

 一刀は……思考が混乱から停滞し体が硬直してしまう。これは、どうすればイイノダロウカと。

 しかし、司馬防は優しく言葉を伝えて来る。

 

「ここには、真名を貴方へ預けた……すべてを貴方へ許す女達しかいませんから、安心して入ってくださいね」

「は、はぃ」

 

 その気遣いの声に辛うじて返事を返し、一刀は漸く動き出す。気が付くと、司馬防の左側の少し奥の湯船に、司馬孚までがスク水風の白い湯浴み着姿でお湯に浸かっていた。一刀と目線が会うと、顔を赤く染めながら会釈してきた。

 ここは室内だが湯殿の広さは、縦が三丈超(七メートル)、横が五丈半超(十三メートル)ほどとかなり広い。更に奥の部分が可動式の屋根になっており、屋根が開放状態ならば露天させることが出来る。今は日もまだ高く天気も良いので露天状態であった。

 ここには四つの湯船があり、露天下には木々や花等の植物も植えられていた。元から天井自体が高いのでここも開放感がすごいと感じる場所だった。

 とは言え、一刀はまだ開放的にはなれないでいた。先ほど予想外の声を司馬防より掛けられて立ち止まったため、軽く握っていた司馬朗の手が離れて推進力を失い、その場で停滞していたのだ。

 すると司馬防が静かに湯船から立ち上がると、一刀のところまでゆっくりと近づいて来た。湯船から上がったことで水が滴り張り付いた薄い湯浴み着は、栄光の部位から至高の絶対領域までの殆どが、透過している感じに見えちゃっているのであった。

 しかし、司馬防は綺麗な立ち姿の整った優雅な歩調で、その状態の姿を見せつけるかのように静かに歩いて一刀へ近づいて来るのであった。司馬朗も「母様……大胆」と横で呟いているのが聞こえた。

 若い一刀は、司馬防のその豊満な女性の神秘な姿に見入ってしまっていた。

 激しくもっこりな状態の一刀から、視線が熱いのであった。司馬防は、頬を染めながらもそんな一刀へ近付くと彼の右手を取ると優しく握る。

 

「さあ、まず体を洗いましょうね」

 

 司馬防は、一刀の横まで来ると、まるで子供の手を引くように洗い場の椅子へ座らせた。そして手ぬぐいを使って、優しく背中や腕を洗ってあげる。その際に彼女は、自分の豊かな胸や体を湯浴み着越しに、さり気なくスリスリとして来る事を忘れない。その司馬防の一刀を独り占めの様子に、「母様/お母(かあ)様だけ楽しんでる!」と、慌てて司馬朗と司馬孚も参戦してくるのであった。

 結局、一刀は三人掛りで隅々まで綺麗にされてしまっていた……。まさに桃尻……イヤ桃源郷が見えてしまっていた。

 髪を洗われる時は、正面から司馬孚が洗ってくれたのだが、真近な距離でその美しい胸から腰、さらにその下への湯浴み着が透けた光景に目を閉じることが出来ず、一刀は目に水が入って少し痛い目に合っていた……バカである。でも、それが北郷一刀なのだ。

 そして……もっこりな部分は――――なんと慈愛溢れる純情な司馬朗が恐る恐る、母の司馬防からアドバイスを受けながら丁寧に洗ってくれたのだ。

 体を綺麗に洗われたそのあと、一刀は浅目な湯船に入るのだが入った当初から茹るような興奮が最後まで続くのであった。

 一刀は三人の美人に、桃尻やタワーワなおっぱいをその身に代わる代わるスリスリやバインと押し付けられ、囲まれて、いっぱいおっぱいいい思いを堪能したのだった。

 

 

 

(桃源郷は、ここにもあったんだぁぁぁーーーー!)

 

 

 

 一刀は、思いがけず堪能する中で彼の内なる『本能』と戦い、悩み始めていた。

 彼の『正義』と言えるイカガワシイ気が、魂が、訴え始めていたのだ。

 それは漢として、こんな『桃源郷』を、ひと月という短い期間で―――本気で手放し出ていく気か……と。

 そして、その夜はさらにダメ押しがやって来る。

 ひと月後にここを離れるという『現実』に立ち向かい、耐え切れるのだろうか。

 一刀は自身の持つ『本能』との敗色濃厚な鬩ぎ合いが始まっていた―――。

 

 

 

 

 司馬防は夕食が終わり、家族皆で寛ぎ、そして娘達へのおやすみの挨拶までは、微笑む優しい母の顔であった。

 しかし、下の娘達が一人、二人、三人と寝静まる頃―――これから毎夜、始まるであろう想いを寄せる男との、共に臥所で迎える熱き情事に頬を染める一人の女の顔になっていた。

 彼女は静々と一刀の客間へ向かう。そして、部屋の前に着くと扉越しに中に居る愛しい男へ小声を掛けた。すると暫しの後、中からの……僅かに戸惑いながらも承諾の返事を受け、彼女は恥ずかしげに、しかし満足げに微笑みながら、粛々と中へ入って行くのであった。

 再び彼女が部屋を出て来たのは―――日の出の少し前であった。

 

 

 

 

 

 

 夜の静まり返る森の中。

 月夜の僅かな光に浮かびあがる左慈と于吉の表情は、僅かに衝撃を受けているようであった。

 急に連絡が取れなくなった、弧炉と蛇蝎らの組の根城へ慎重に近付き気を探ったが誰も見つけられない事に。

 そしてしばらく後、巧妙に離れた場所に埋められ隠された彼らの躯を見つける。

 

「左慈、我々の計画に気が付いたものがいるようですね、あの女仙人でしょうか?」

「どうかな。先日気のせいかと思ったが、周囲に天仙のような気を一瞬感じたのは偶然ではないな」

「天仙……ですか。さすがに、いささか分が悪いのでは」

「心配するな、猛毒の餌はすでに撒いてある。しばらくは、竿から垂れた針へ獲物が掛るのを、ひっそりと見聞と行こうではないか」

「ふふふっ、貴方も楽しみますねぇ」

 

 二人は静かに去って行く。その後ろにもう一人仙人らしき者を連れて―――。

 

 

 

つづく

 

 

 

 

             *  *  *

 

 

 

 R-15版)一刀と司馬防さんの熱い夜♡ (完全版はR-18カテゴリへ♪)

 

 

 

 夕食が終わり『寛ぎの広間』へ移動しても、一刀の周りは司馬防を含め彼女の娘達に囲まれていた。

 司馬防は司馬孚から義兄妹の話は聞いていたが、目の前の一刀はまさに下の五人の姉妹からは兄として慕われ、姉妹達の身近な他愛のない議論の狭間で、誰の味方なんですか?と詰め寄られながら、彼はうまく妥協点を探りながら公平に彼女達を納得させていたのであった。

 司馬防は長椅子にて静かに寛ぎながら、傍の娘達や一刀をにこやかに微笑む優しい母の顔で見守っていた。

 そんな彼女は、心の奥で密かにこう考えている。『将来的に』と前置きしながら、彼が愛娘達の何人かの良き夫になってもらえればよいのだけれど、と。

 

 そして―――今はまず私の……と。

 

 皆での寛ぎの時間はいつもより少し長かったが、戌時の終わり(午後九時前)にはお開きとなり、娘達は各自の部屋へと別れて戻って行く。

 一刀も下の五人姉妹達に「途中までいっしょに」と連れられながら司馬防や司馬朗、司馬懿、司馬孚へ軽く「おやすみなさい」と告げる。上の三人の娘達も一刀へ「おやすみなさい」と返す。司馬防もゆったりと長椅子に寛いだ姿勢にて、皆の母の顔のまま「おやすみなさい」と笑顔で返していた。

 一刀は、五人の姉妹らと和気あいあいで『寛ぎの広間』を後にし客間へと戻って行った。

 そして、夜は更けて行く……。

 

 司馬防は、『北の屋敷』の自室で一人、夜の深さが満ちるのを静かに待っていた。

 今は母の顔では無く――― 一人の男に恋焦がれる熟れた雌の顔になっていた。

 すでに、昨夜のように華やかな打掛姿の下には、一刀の欲情を掻きたてるように水色のシースルーでベビードール風の膝程まで裾のある衣装と、腰横下の辺りに紐で二ヵ所を結んでいる布が少なめで、僅かに絶対領域を隠す透けた水色の腰帯を身に着けている。胸は、昨夜同様に彼へ見てもらう為に何も付けていなかった。再び一刀を悩殺する準備は万端である。

 待つ間、彼女は考えていた。

 司馬防の男性経験は前にも述べたように、無くなった夫ただ一人で、夜の数も非常に少ない。

 なので、臥所(ふしど)にて男女で愛し合う子作り行為の経験は少しある程度(一方で出産経験は豊富♪)だ。しかし、そんな彼女でも湯殿での一刀の反応が少し不可解に思うのであった。

 娘二人は、若く美しく、そして自画自賛ではないが、自身の姿も胸やお尻を含めて肌の張りもまだまだ悪くないと思っている。

 そんな女人達が三人も、素肌が透け透けの欲情的な白い湯浴み着を着て、胸を初め柔らかな体を強くスリスリと接触してくれている状態。そして、『すべてを貴方へ許す女達』とも当初から告げているのであった。

 健全な男であれば間違いなく『食いついて』、手を伸ばし、至る所を……そしてイケない所もサワサワしたり、モミモミしたりスリスリしたりしてくる『はず』。

 亡くなった淡泊な夫ですら、司馬防が数度共に湯殿へと誘った時には、毎回掴む為の栄光の部位へ手を伸ばしてきたものである。そして、その夜は決まって熱いモノになったほどであったのだ。

 中央から偶に来る好色で下卑た高官の男達なら、間違いなくその場で自分を含めた三人の綺麗な女の子らに対して延々と気が済むまで何回も子作り行為に励むことだろう。

 ところが一刀は、この三人の綺麗な女の子らのスリスリやサワサワを―――受けるのみであった。それも表情から、ぐっと耐えるように、何かの想いと鬩ぎ合っているように見えた。

 彼が女の子に興味があり興奮できることは、入浴中の当初から最後まで某ヵ所が『もっこり』し続けていたのを見ていれば分かる。『もっこり』だけではない。司馬朗の恐る恐るでたどたどしい手による『洗う』所作によって、彼は堪らず『天国』気分を味わったのだから。

 そして司馬防には、彼が欲望に『耐えている』その原因が分かっていた。

 それは昨晩、一刀より『亡くなったが心の整理が付いていない大事な人』の存在を知らされていたからだ。

 司馬防はそれを今晩、なんとしても取り除こうと考えていた。それは、彼へ想いを寄せる娘達の為に―――いや……これはやはり……自分の彼への熱い想いを叶えるためなのだと、彼女は気が付くのであった。

 司馬防は、男との夜の営みが……キモチイイのが実は結構好きと言える。イケナイ所も含めてをサワサワ、スリスリ、ナデナデ……チュッチュやペロペロもしたい気持ちを持っている。

 今も女盛りでもあり、そのため夜が随分寂しい期間も長かったのだ。

 そんな彼女だが、誰でも良いというわけではない。

 この熟れた体と財産目当てに、言い寄って来る男も多かったが、一向に気持ちが昂ったり、興味をそそる人物には出会えないでいた。

 しかし、偶然が重なり一刀と出会った。

 まだ出会って二日だが、彼の姿を見たり彼の事を想うと、体がとても熱くなってくるのを感じている。これが一目惚れなのかもしれない。

 年は十程も離れて若いけれども、彼は憧れの真の武人であり、謙虚で娘達や自分へも優しい彼に引かれているのが大きいのだと思う。

 加えて司馬防は、会った瞬間に運命を直感していた。『この人を逃せば次は無い……最後の男性』だろうと。

 ゆえに彼女は今夜、この体のすべてを使ってでも彼に完全に振り向いて貰おうと、そしてその先へ……と考え、すでに熱く疼くお臍の下辺りを意味深に軽く撫でるのだった。

 

 

 

 一刀は下の五人姉妹達に姦しく客間まで送られると、その後ろに静かに続いていた銀さんに寝間着へ着替えの手伝いをしてもらうと、すぐに寝床へ入った。銀さんから「お休みなさいませ」と声を掛けられ、「ありがとう、お休みなさい」と手伝いの礼と挨拶を返した。

 そして銀さんが部屋を離れると、横になった布団の中で静かに今日の事を考えていた。

 昨日に続き今日も楽しい一日だった。しかし、色々とこれからの自分について、考えさせられる一日でもあった。

  特に、昼間に自ら呟いた言葉を改めて思い出していた。

 

 『俺はこれから何をすればいいんだろうか?』

 

 司馬家へ来るまでの四か月程の放浪の間、途方もない殺気に飲まれた結果が招いた、負の感情状態ながら持ち続けていた『雲華のカタキを取る』という思いは―――。

 

(ぐっ……今もあの最後の光景を思い出すと、負の感情に引っ張られる……)

 

 一刀は、少し気を落ち着けながら、視点を少しずらして考える。

 あの暗殺仙人に指示した背景や黒幕については、調べるにしても今も全くアテが無く、目的としては現実的でないように思う。確かに今の自分なら、予州中の街をしらみつぶしに回れば例のお店へたどり着けるだろう。

 しかし、良く考えればそのお店で情報を聞けば、その無関係であろう仙人の親族も巻き込む可能性があるのだ。それに実際の所、気軽に聞ける話ではない上に、暗殺仙人らの情報など知っている可能性も殆どないだろう。さらに雲華の、自分が仙人だという事すらお店の彼女らは知らないと言っていたのも思い出した。

 今は『カタキを取りたい』という自身の思いを、再確認するに留めるしかないように思えた。

 他には手掛りがないのだ。

 もちろん、諦めたという事では断じてない! 歯がゆい思いであった……。

 それと入れ替わるように一刀は、雲華との最後の話の中で彼女が言っていた、『一刀がこの世界で何かを成し遂げなければいけない存在』であり『それを探し成し遂げて欲しい』という言葉を思い出していた。

 だがこれも、雲を掴むような話であった。まずその『何か』を探さなければならないのだ。

 改めて一刀は思う。雲華と一緒なら、その『何か』や暗殺仙人に指示した背景や黒幕についても、きっと探せ出せたのではないだろうかと。

 

 だが、もう彼女はいない。大きな『残件』に対して自分は独りなのだと―――。

 

 一刀は、つくづく自分がまだ何もできない小さな存在だと考えさせられていた。

 そんな悲しくなる思いから逃避するように、一刀は今朝早くからのこの家での出来事を思い起こしていた。

 夜中には司馬防から優しく蕩ける様に体を合わせての添い寝をしてもらい、早朝には司馬馗以下五人の義姉妹が出来、午前中には司馬孚からこの家を案内された後に旅立った後も一緒に行きたいと言われ、午後には司馬朗からこれから共に人生を歩みたいと求婚のように親しく詰め寄られ……。

 あと司馬懿がいるが、彼女にも特に嫌われているわけではなさそうに見える。初日の宴会の時から、一刀はすでに母の客人として認められているように感じられた。

 今日の夕食後にも『寛ぎの広間』にて、彼女から少し剣術について、いつ頃から始めたのか師はいるのか等の質問を受けたが、普通に気軽な感じでベタベタされることも無く、むしろ少しホッと寛げるぐらいだった。

 残念ながらと言うべきか司馬懿は、一刀について男性としてはあまり感心がないのだろう。

 とは言え司馬家の人達は、一刀へ積極的に暖かく強く結び付こうとしてくれているように感じた。

 一刀は『一人は寂しい』と強く感じている為、すごく嬉しい思いがある反面、やはり死と脅威を呼ぶであろう自分からは『関わりを控えて距離を取っておかなければ』という矛盾した思いをどうすればいいのかとの考えに至る。

 そのため司馬朗と司馬孚には、中途半端で先延ばしのような対応になってしまっていた。

 

 『死』『脅威』『独り』『寂しい』『添い寝』『義兄妹』『一緒に』『求婚?』『距離を取る』―――もはやどう収拾させればいいのか、一刀は完全な混乱状態であった。

 

 さらに有無を言わせぬ湯殿にての、もはや『すべてを許す』と言う、司馬防、司馬朗、司馬孚の三人の親しく綺麗な女の子達の、お湯に透けた白い生地下で肌が恥じらいから赤に染まっての桃源郷……。

 一刀は若い。そして、絶倫なのである!

 司馬家の家族らは皆、美人でおっぱいいっぱいで魅力的な上に、一刀へ家族愛以上な『激しいスキンシップ』を繰り広げてきていた。

 彼にとって、その同意による『イカガワシイ』&『ハレンチ』は、まさに『正義』となっているのだ。本能であり理屈などなかった。

 だが、そんな気持ちに対抗するものもあった。

 

 それは――『雲華への想い』。

 

 一刀にとって『唯一』として愛おしかった者への気持ち。

 それを守るために『正義』に抗おうとすることは、絶倫な彼にとっては拷問とも言えるかもしれない。

 彼の中では「聖人のごとく雲華への想いを守るんだ」と言う天使と「本能の赴くままにヤリまくれ」という圧倒的に強大な悪魔(正義)の思考が『激しいスキンシップ』を受けるたびに交錯し続けていた。

 そんな状態で、湯殿にて司馬朗より恥らいながらも腰の辺りを丁寧に洗われながら「一刀様、一刀様」と耳横にて小声で艶めかしく言われ続けると共に、背中を司馬防のタワーワな栄光の部位でゆっくりと擦られ「ふふっ、我慢なさらずに」と言われながら洗われ、さらに正面には片膝を付いて頭を濯いでくれる絶世の美女な司馬孚の至高の絶対領域が至近距離にて、白布越しに張り付いてハッキリと見えちゃっても「一刀様……」と隠さないでいる強烈な光景が……トリプルで激しく攻めて来ていたのだ。

 一刀は盛んなオスとして、圧倒的な物理的且つ現物攻撃を前に、この一家の人達へ熱い想いを向けてはいけないと思いつつも、ついに耐えきれず―――『天国』気分になってしまっていた……。

 

(ゴチソウさまです……イヤ、いかんいかん!)

 

 まだここへ来たばかりだが、司馬家面々の自分への尋常ではない狂おしい程親しげな愛情を強く感じているのだった。

 それは、もうずっと以前から繋がりがあるような。そして少し贅沢過ぎる部分があるが、不思議と一刀もあまり違和感なく、ここでは気分よく暮らせている。

 そんな司馬家の現状に、一刀は湯殿の時にも男としての本能的な思考(もはや生殖プレイorサワナデスリモミプレイ)が芽生え始めていたが、こんな状態がひと月も続いた後にはどういう状況になるのか想像してみる。

 それはもはや『バッサリとすべての関係(愛情、肉欲、まさかの血縁?!)を断ち切る』という形でここを旅立つのは不可能なのでは……という考えにぼんやりと至ろうとしていた。

 しかしそれは『司馬家』を正体不明な敵からの『死』や『脅威』へと巻き込み、引きずりこむ事に繋がりかねないのだ―――と、一刀の思考は、ここで再び一番初めに戻り堂々巡りをする。

 それが、どれぐらい続いただろうか。

 気が付くと、一刀は再び部屋へゆっくりと近づいてくる司馬防の気を捉えていた。

 

 

 

 下の娘達が一人、二人、三人と寝静まっていき、夜の深さが満ちる頃、司馬防は静々と一刀の客間へ向かい始める。

 彼女は―――ドキドキしていた。胸の高鳴りが抑えられない。何も知らぬ処女でもあるまいしと思うのだが……。

 今晩何が起こるのか、どこまで関係が進むのか、彼の心を最後まで開くことが出来るのだろうか……司馬防の心に期待と不安が交錯する。

 一歩一歩一刀の客間へ近づくにつれて、顔と体の火照りは増すばかりである。

 そして、一刀の客間の前に着いてしまう。

 だが司馬防は、躊躇することなく両開きの折り畳み戸の扉越しにて、中に居る愛しい男へ小声を掛ける。

 

「水華(シェイファ)です。北郷殿……起きていますか」

「……はい」

 

 僅かに間があるも、中から眠気を感じない彼の声が聞こえて来た。司馬防は、昨晩も彼の声は寝起きではない声であった事に気付く。

 それは武人だからなのか、寝るのがいつも遅いからなのか、それとも誰かの来訪を持ちわびていたのか……と考えが頭を過ったが、今は後に回すことにする。そして、続けて少し照れながら声を掛ける。

 

「今宵も……お話をしに参りました……中へ入っても構いませんか?」

 

 彼女は今夜も来てくれた。

 一刀は、気に掛けて貰えることが嬉しくもあり、先ほどまでの葛藤もあり、とても複雑な気持ちであった。

 さらに、司馬防は恩人と言える存在。

 謎の残る脅威から生き残ったが、オカシクなった状態で再び孤独となり世界へ放り出されていた一刀に、元へ戻る切っ掛けや贅沢な居場所と、愛娘らと共に家族のような暖かい結び付きを与えてくれたのだ。

 加えて、彼女は美人で優しく母性に溢れ、雲華の体の温もりを失って寂しい一刀に対して、昨晩も唇と共に体の温もりと真名まで預けてくれて、一刀へ一人の男として熱い好意を持ってくれているようだった。

 一刀は、なんとなく少し雲華との関係に似ているように感じていた。

 今も思考が無限回廊に落ち入り掛けている一刀にとって、救世主の女神が現れたようにも思えた。

 だが、昨晩の臥所内で睦み合っての添い寝の事もある。今夜は、サワサワスリスリな添い寝だけで済むだろうかとも思う。しかし―――

 

(今は彼女と話がしたいな)

 

 一刀は、ふとそんな自然な思いから、布団の中で横になっていた状態から体を起こすと、外の司馬防に対して声を掛けていた。

 

「……はい。どうぞ」

 

 暫しの間の後、中から一刀の……僅かに戸惑いながらも承諾の返事を受け、司馬防は恥ずかしげに、しかし満足げに微笑みながら、折り畳み戸の扉の片方を静かに開け、粛々と部屋の中へ入って行くのであった。

 扉を通りながら司馬防は『お話をしに』とは言ったけれど、それが『言葉の綾』であることは一刀も分かっていながらの了承だと思うと、嬉しく感じていた。当然、昨夜の熱く唇を合わせたり、互いの体の大事な箇所へ触れての、サワサワスリスリな確かめ合いを当然踏まえての入室同意ということは間違いないと。

 彼も再びそのことに……気持ちよくなることに期待しているのかもと考えると、彼女の下腹部の女性的な内なる大事なところが自然と徐々に熱くなってくるのであった……。

 静かに扉を閉めると、司馬防は寝台へ向き直る。

 開いた扉からの僅かな空気の流れが、一刀のところへ司馬防の女の子な良い香りを運ぶ。

 一刀は、無意識的に気付かれないよう、静かにそのいい匂いをクンカクンカする。

 これは既に、彼の本能的行動になっている。もはや誰にも止められないのだ。

 湯殿では、司馬朗ら三身一体の香りがムンムンと充満していたが、白スク湯浴み着でのの直接接触バインバインスリスリ攻撃により、クンカを堪能する余裕などなかったのだ。

 やはり、静かに落ち着いて粛々と匂いを堪能するに限るとともに、『極み』を感じるのであった。

 司馬防は、昨日と同じように自らの打掛着を床へ脱ぎ落とす為、腰帯に手を掛けようとした。

 しかし一刀は、それを制するように、そしてそのままの姿でここに座るようにと、起き上がり布団の上に座るその傍らの位置を、ポフポフと軽く叩きながら声を掛ける。

 

「水華殿、そのままこちらに来て座ってください。少し話がしたいんだけど」

 

 一刀からの意外な申し出に僅かに驚きながらも、司馬防はちゃんと真名で呼ばれた事も含めて笑顔で頷くと寝台の横まで静かに進んでゆく。

 近寄る間に彼女は、話の終わった後どうせなら、打掛を一刀に脱がしてもらおうと思い付く。そして、そうお願いしたときの彼の反応を想像して、笑顔にその少し楽しみな気持ちも加わっていた。

 司馬防は寝台に腰掛けて履物を脱ぐと、一刀の右横へお尻を滑らせるように移動する。

 この客間には夜間も蝋燭が灯されている。

 近くで見る司馬防は、蝋燭の薄明りに浮かび上がりとても幻想的に見えていた。

 昼間と違い、頭には頭冠ではなく赤い花の飾りがされていて、後ろの髪も束ねることなくすべてが自然体な感じで流されていた。

 昨晩は、いきなり彼女に打掛を脱がれてシースルーな衣装越しに豊満で形の良い栄光の部位をまざまざと見せつけられ、きちんと落ち着いて姿を眺める余裕がなかったのだが、やはりこうして改めて近くで見る司馬防は、雰囲気が母性に溢れており優しそうで綺麗で、傍に居てもらえると安心出来るような、心地よい空気に包まれている女性なのだった。

 司馬防はすぐ横まで来ると、落ち着くように、そして一刀へ僅かにくっ付くように座り直す。すると彼女へ、一刀の口から頭に浮かんだその考えが自然に漏れていた。

 

「綺麗だし、やっぱり落ち着くな……」

「えっ?」

 

 司馬防は、とんでもなくドキリとしてしまう。まだ悩殺スタイルに移行してもなく、気構えすらもしていない状態なのに、不意打ち的に一刀から言って欲しい言葉の一つを自然な感じに聞かされたからだ。

 司馬防は完全に顔を赤らめ、両手で頬を隠して一刀のいない寝台の外へ顔を逸らせてしまった。

 

「あっ、俺……」

 

 思わず言ってしまった一刀も、我に返って『何を言ってしまったんだ』と、こちらも気が付くと司馬防と反対側へ目を逸らしてしまっていた。

 司馬防は自分が良い雰囲気へとリードするはずだったのだが、一刀からの気負いのない自然で素直な気持ちの先制初撃に沈黙してしまう。

 二人は互いに動けず、しばらく照れた状態で固まっていた。

 だが、間もなく一刀から話し掛ける。それは雲華との経験からだろうか。

 すでに昨夜や湯殿の関係もあり、自分の方が年下ではあるが男として引き過ぎては、わざわざ部屋まで来てくれている司馬防に悪いと思ったのだ。

 

「その……えっと、先ほどまで一人で悪い方にいろいろ悩んでいたので……水華殿が来てくれて助かりました。嬉しいです」

 

 一刀は、横にいる司馬防の方へ少しはにかむ感じの顔を向けて、静かにそう伝えた。そうして軽く彼女の膝に手を置いた。

 すると、司馬防も漸く嬉し恥ずかしの呪縛から立ち直り、膝に置かれた一刀の手の上に自分の手を重ねる。

 

「私も……嬉しいです。今宵も北郷殿のすぐ隣に居ることが出来て……好きですよ」

 

 司馬防は素直に想いの言葉を綴りながら、一刀の手の上に乗せた手をゆっくりと撫でるように何度も滑らせると共に、十分熱くなっている体と顔を一刀の方へ徐々に寄せていった。

 一刀は、蝋燭の灯りによる幻想的な司馬防の姿に目を奪われていたが、再びすぐ横にいる司馬防から匂い立つ女の子なイイ香りもクンカクンカと堪能していた。

 そして、まもなく右腕に彼女の豊かで柔らかな掴む為の栄光の部位が強くスリスリと押し付けてくるように当てられるその感触も楽しんでいた。

 この時の一刀は余り考えていなかった。素直に自身の『正義』に従っていた。

 『聖』『邪』は別として―――。

 更にお互い顔を傾けて見つめ合っていたが、近づいて来た司馬防の瑞々しい唇が軽く一刀の唇の右半分に触れる。

 

 一刀は―――拒む事はなかった。今は、司馬防に甘えたかったのだ。

 

 軽く挨拶的なキスをしてくれた司馬防へ、一刀は話し掛ける。

 

「水華殿、オレ……私の方も姓の北郷ではなく、名の一刀で呼んでくれると嬉しいです」

「……では、一刀殿と。ふふっ、もう私に余り気を使う必要はありません。普段通りに……ね」

 

 再び、司馬防は唇を寄せて来る。今度は一刀からも僅かに唇を寄せ、互いの鼻先で鞘当のような遊びが入った後に、しっかりとお互いの唇と気持ちを確かめ合っていた。

 

(んっ、檸檬と蜂蜜の味……?)

 

 司馬防の唇と唾液は、程よく甘酸っぱいものであった。美味しいと言っても過言ではない。今度は一刀からついついついばむように、彼女の柔らかな唇を堪能してしまう。更に美味しさとそして『甘さ』を求めるように唇の奥へ……。

 司馬防は、一刀にされるがまま、唇などを合わせるように甘えるように答えるようにと受け止めてあげていた。

 すでに彼女は、一刀からの甘い接吻により、すでに気持ちよくなってきてしまってもいる。体の力が徐々に抜けて行く感じであった。

 

「んっ、ぅ……ぁぁ……ぁ……ぃぃん……」

 

 司馬防からは、自然と鼻に抜けるような甘い声が漏れて来る。

 そして、司馬防はゆっくりと一刀に押されるように、後ろへゆっくりと仰向けに倒れ込んでいった。

 一刀も少し追随するが、右手で司馬防の上に倒れ込む前に自分の体は支えていた。

 一刀は、司馬防の上に覆い被さるような感じで彼女を見下ろす形になった。互いの座った位置の差で、一刀の目の前は司馬防の胸辺りになっている。

 司馬防の顔を見ると、彼女はやさしく微笑んでいた。

 そして、司馬防の右手が伸びて来ると、一刀の頬や頭をナデナデしてくれた。

 

「さぁ、一刀殿……私を……好きにされていいのですよ?」

 

 一刀には、この期に及んで司馬防の誘いの言葉を拒む気はなかった。

 しかし、このまますぐに肉欲に逃げるのではなく、まず自分の行き場の無い話を司馬防に聞いて欲しいと思った。

 

「あの水華殿……聞いて欲しい話があるんだけど」

 

 司馬防はふと思い出す。この部屋に入って来た時に、一刀は確かに「一人で悪い方にいろいろ悩んでいた」と言っていた事に。

 司馬防は焦ることなく、愛しい一刀の希望を優先してくれる。

 

「分かりました。ふふっ。では一刀殿も、こう横になられては?」

 

 そう言って、司馬防は一刀を撫でるのをやめると、体を仰向けから横向きに変える。今度は司馬防が自分の前をポフポフと軽く叩いていた。まず、一刀を気楽にさせてあげたいと思ったのだ。

 

「うん、そうだね」

 

 一刀は司馬防に従い、向かい合う様に布団の上で横向きになった。一息つく感じで一刀も司馬防に笑顔を返す。

 

「で、どうされたのです?」

 

 司馬防は優しく静かに、一刀へ話の催促する。まさに母性が溢れていて安心出来る雰囲気になっていた。

 一刀は、話始めようとしたが……待て!

 一瞬、超速気で出来るだけ長めに思考時間を稼ぐ。

 まず、さすがにこの時代に迷い込んで来たという重要な事や、仙人に関することは話せない。とっ掛りの無い自分の『成すべき事』についてもだ。

 おまけに良く考えると、司馬家で目が覚める前の事を、よく覚えていないと言った気がする……。

 だが、亡くなった『大事な人』がいることは、昨日、口に出してしまった。

 さて、どうするか。

 超速気で引き延ばされた精神世界の中でしばらく悩んだ一刀は、しかたなく現実に近い代替えの話をして司馬防に意見を求める事にした。

 それは―――

 

 以前も行き倒れていた一刀は、泰山の森で剣豪の少女に助けられ、その子と一緒にしばらく仲良く暮らすようになった。

 たがある日、急に一刀を狙って特殊な功夫を使う正体不明な強敵が現れた。そして、強敵は倒したが、その戦いで剣豪の少女は死んでしまった。

 少女の死のショックで長い間……およそ四か月程、記憶が曖昧な状態で放浪していて、この司馬家に拾われた。

 その正体不明な強敵は、泰山の森で行き倒れる前に関連があったかもしれないが、それ以前の事については何一つ思い出せないため、今は探りようも対策のしようもない。

 襲ってきた正体不明な強敵は、誰かに頼まれたという内容の事を話していた。

 そのため、またいつか別の強敵が、一刀を不意に襲ってくる可能性がある。

 泰山の森で行き倒れる原因が、その正体不明な強敵にあったかもしれないが何とも言えない―――と。

 

「俺は弱かった……。敵の不意の初撃を、彼女が代わりに受けてくれなければ……死んでいたのは間違いなく俺でした……」

 

 代替えの話であったが、一刀は落ち込み、そして―――静かに泣いていた。

 司馬防は、一刀へ顔を近づけ頬を寄せ、そして右手をやさしく一刀の背中に回して抱いてくれた。

 彼女は昨晩、一刀の『心の整理が付いていない大事な人』という言葉から、一刀が司馬家に来る前の記憶を回復して(持って)いる事に気が付いていた。それを知らされてなかったのは残念なことだが、今、事情があることを知り一刀を攻める気にはなれなかった。

 そして、一刀が湯殿で自分や娘達から受けた、あれほどの女体による苛烈な接触行為に対して、なぜ頑なに耐えていたのか改めて気が付いていた。

 そう、『大事な人への想い』だけでなかったことに。

 もし、深く結びついてしまったら……愛していたであろう、その剣豪の少女のように、司馬防や司馬朗らも巻き込んでしまうかもしれないと、一刀が考えていたのだろうということに。

 一刀が、強敵という程の使い手なのだ。やはりその敵の腕は、相当な武人だと想像できる。

 だが司馬防は、結局その者を一刀は倒してしまっているという事だとも思っていた。

 なれば……新たな強敵が現れた時に、巻き込まれて自分達が殺されてしまっても、それは運命ではなく、あくまで状況の範囲内になる。

 このご時世なのだ、戦い以外にも病魔や天災などで死ぬ要素などいくらでもあるのだ。

 さらに、もう一つの可能性を司馬防は口にする。

 

「最悪を考える事は対策として悪くないけれど、しかし、逆にもう敵は来ないかもしれないのでは、ということも考えられますね」

 

 司馬防により優しく抱かれている一刀の頭に、雲華から聞いていた事が浮かぶ。確かに仙人の掟には、制裁者を『返り討ち』にすれば許されるとあった。

 司馬防は、一刀からの話を総括し、静かに自分の考えを話し出す。

 

「一刀殿。私の経験の中の話ではありますが、確約もない事象に対して、必要以上に気に留めても良い事はないように思います。災厄を避ける努力は当然必要ですが、初めから結果を決めつけるような事があってはいけません。そのような考えが、逆に宜しくない結果を引き寄せる事に繋がるときもあるかと。そもそも人生とは、何が起こるかは分からないものなのですよ。それに人生の有用な時間は、思うほど長くはありません。ですから、直近でその時に出来る事、やりたい事へ精一杯努力して生きて行けば良いのではありませんか? きっと貴方のその『大事な人』も、そう思う方だったのではないでしょうか。私は……一刀殿に、これからも強く生きて行ってほしいですよ」

 

 司馬防の優しくも強い意味の込められた言葉を、一刀は静かに噛み締めながら聞いていた。

 

(水華殿……。確かに雲華だったら、何時までもグズグズしている俺を叱る事だろう。俺は、少し考えすぎていたのかもしれない……)

 

 まだ、自分の何が変わったわけではない。だが司馬家の人達との出会いは、大きな希望や光を取り戻す切っ掛けになりそうな事は間違いないだろう。

 一刀は、迷いに捕らわれ霞んでいた道が徐々に開けていく思いがした。その気持ちの変化を司馬防へ伝える。

 

「ありがとう、水華殿。少し気持ちの整理が出来ました。確かに俺は、必要以上にすべての関わりを怖がっていたのかもしれない。急に気持ちを切り替えるのは、まだ無理かもしれないけれど、色々な事をもっと前向きに考えていきます」

「無理もありません。『大事な人』を失う事は、半身を割かれる程寂しい思いだったでしょうから」

 

 そう言って司馬防は、右手で一刀の背中を撫でながら、彼を再び優しく抱きしめてくれていた。

 一刀からの話を聞いて、司馬防は正直な意見を聞かせてあげた。

 そんな彼女だが、しかし……今日の本当の目的を忘れたわけではない。

 

 ここは、逃がさないのである。

 

「一刀殿は、まだ当分当家にいるのですから、この街を見たり人々と会ってみたり話したり、また私を含め家の者と接しながら、体調と合わせてゆっくりで良いので強い貴方を見せてください。その間……私が少しでも、貴方の寂しさを埋めることが出来ればと思っています。私が……お嫌いでなければ……愛してくださいませんか?」

 

 ―――ごくり。

 司馬防の誘いの言葉に一刀は、思わず喉を鳴らせてしまう。彼女にも、聞かれてしまったのではないだろうか。

 『お嫌いでなければ』なんて言われて、今の状況の一刀に拒否出来るはずもない。

 雲華の事は今も大事に想っているが、悩みを聞いてくれた司馬防へも、とても感謝している一刀であった。

 そして司馬防の事を、色々な意味で気に入っているのは間違いない。それは好きという気持ちでもある。

 それに昨晩、サワサワナデナデスリスリして堪能した、女性として成熟している司馬防の体が気にならないわけがないのだ。

 ペロペロもしたいのである。

 今も体を密着した状態で『愛してください』と言われてしまっていた。

 優しく包まれた匂いがたまらない感じで、クンカクンカするのであった。

 昨晩から相思相愛と言える間柄になっている。つまり、すべてが合法な状況。一刀の『正義』以外の何物でもないのあった。

 何度も言うが、一刀は絶倫なのだ。

 昨晩の添い寝と、今日の湯殿の行為を受け、この期に及んで『何もない』となれば―――それはもはや『北郷一刀』ではないと言える。

 

 すなわち、『もう我慢できない!』が一刀の本音だった。

 

 司馬防は、体を合わせた状態で静かに一刀の答えを待っていた。

 一刀からゴクリという唾を飲む音が盛大に聞こえた。彼も呼吸が速くなって、興奮しているみたいであった。

 

(触れて欲しい……早く私に触って!)

 

 司馬防は少し怖かった。

 ここで『何もない』となれば、脈が無いに等しいのだから。

 だが、それは杞憂に終わる。

 

「水華殿……ホントに、いいの?」

 

 一刀は司馬防と目を合わせて、遠慮気味に確認する。

 司馬防の待ちわびた言葉を、ついに言ってくれたのであった。

 司馬防は、高鳴る想いを秘めて控え気味に答えるとともに、すかさず当初の行動をしてもらうお願いを忘れない。

 

「……はい。……あの……帯を解いて打掛を脱がしてもらえますか」

 

 そう言うと彼女は自らの体をゆっくりと起こし、引けば緩む腰帯の先を、追う様に体を起こして来た一刀の右手へ手渡した。

 一刀は言われるままに、座って向かい合う彼女の帯を引くと、簡単に帯は解け打掛は緩んだ状態となった。

 司馬防は、一刀へ目を合わせ頷き、続けて『脱がせて』と合図する。

 一刀は正面から近寄り、彼女の肩から豪奢な打掛を浮かせ、そして――背中側に落としてあげる。

 すると一刀の眼下に、水色で透け透けのベビードール風の膝程まで裾のある、オスの気をそそる艶やかな衣装の光景が広がる。

 水色だと、肌色の透過率がかなり高いのを知っているだろうか。司馬防は確信犯と言えた。

 彼女の栄光の部位である二つの膨らみは、白い滑らかな肌と形の良さに加え、先っぽとその若々しい色が丸見えの状態であった。

 昨晩もこの栄光の部位の感触を堪能しているが、凄まじいボリュームとインパクトがある。彼女はすでに体が十分熱くなっているようで、先っぽが、スケスケの生地の下からツンと主張していた。

 一刀はもちろん言うまでもなく全編を、脳内へ超高解像度記憶録画するのを忘れていない。

 司馬防は、恥ずかしいながらも一刀の表情と反応を上目遣いに見て来るのだった。

 

「ッ……とても魅力的で綺麗だよ」

 

 一刀の興奮気味の言葉と、食い入るように釘づけな目線を見れば、まずそれが胸に……その先っぽに来ている事はすぐにわかる。さらにその下の小さく透けた腰布に隠された絶対領域へも伸びていることに。

 

「嬉しい……さぁ、遠慮せず好きに……触ってください……楽しんでください」

 

 司馬防は、女としての喜びを得ようとしていた。

 そして、彼女の目は一刀が、早くもモッコリ状態に移っている事を見逃してはいない。

 自分の体を見た一刀が、反応をしてくれている。それだけで嬉しかった。

 

 一刀は、彼女の栄光の部位を生地越しに、サワサワし始める。透過重視な荒目の生地な為に、強く快感が伝わって来るのか、司馬防の口からは「……んっ……ぁぁん…………」と悩ましい吐息のような声が漏れてきている。

 一刀は、手に伝わる柔らかさと強弱の感触とともに、すでにその彼女の声も楽しんでいる様であった。

 雲華の時にも反応があったので、司馬防にもそれなりに楽しんでもらえている感じなのが分かった。

 たまに一刀は、栄光の部位をイロイロと攻めちゃっている。一刀としては丘の柔らかさ等がタマラナイ感じだ。

 加えて彼女の反応が、悦楽の声色もソソラレるのであった。

 一刀はしばらくの間続けて、攻め続けていた。

 司馬防を――『教育している』と言っていい行為であった。

 司馬防自身も、そのキモチイイ感覚を何度も楽しんでいたいのであった。彼女の亡くなった夫からは、ほぼ無かった行為であり、一刀以上にその甘い感覚にハマっていた。

 

(サワサワしてぇ……もっとサワサワしてほしいのぉ!)

 

 司馬防は、そう声に出しそうになるが耐えていた。

 今晩は、一刀に自分の体を好きなだけ楽しんでもらいたかったからだ。

 彼女の女としての本能なのか、愛しい一刀にどんどんと自慢の部位を蹂躙されていく自分を考えると、下腹部の奥の大事な女の子な部分が更に熱くなってくるのを感じていた。

 

 一刀の右手が、栄光の部位から下がり、司馬防のお腹や桃尻をサワサワしはじめる。その新しい感覚に、司馬防は悶え始めていた。

 ちょうど、胸から他の体の部位も触って欲しくなって来ていた絶妙の頃合いであったので、余計に気持ちが良くなって来ていた。

 昨晩からなんとなくだが、すでに一刀との体の相性も良いように感じている。

 それはとてもとても、嬉しく素敵な事なのであった。

 夜の生活が変わる――男女のキモチイイ事が実は好きな司馬防にとっては、革命にも似た日常の変化と言えるだろう。

 前の夫は人物としては好きではあったが、残念ながら余り体の相性は良くなかったのである。加えて淡泊な夜の営みであったため、キモチイイと感じる事は少なかったのだ。

 夜がとても寂しく思えていた。少女に成り立てな幼い頃、『女』になってから、ずっと続いていたのだ。

 そしてここ十年ほどは熟れた豊満なこの体を、夜中に独りで慰めるしかなかったのであった。

 だがこれからは、そんな状況を一刀が救ってくれそうに思う。

 たくさんの夜を、彼と一杯楽しみたいのである。

 そして、待望の元気な男の子を一度は生んでみたいと考えている。

 司馬防は、そんな色々と『ハレンチ』な想いにより、彼をより愛おしく感じるのであった。

 その一刀が自分の体を求めて、サワサワスリスリと触れてくれていることが、今、余計に体をどんどん熱くさせている。

 栄光の部位へのサワサワと平行して、一刀の右手により、軽く背中やお腹をサワサワナデナデされているだけだったが、もはや『ダメ』なほど気持ちイイ。

 さらにその手は太腿、膝、脹脛へも、そして太腿の内側へも往復してやってくるのであった。

 司馬防の一刀への気持ちが、丁度最高になっていたためか、不思議な事にこれだけで、司馬防にとって気が遠くなるほどの悦楽を受けてしまうのであった。

 

 そして――――彼女の甲高い嬌声が不意に客間に響いていた。

 

 クンカとサワサワし続けてていた一刀は驚いたが、司馬防が、クッタリと急に横に倒れそうになったので支えてあげる。

 司馬防は、体に余り力が入らない状態になっていたのであった。

 すぐに意識ははっきりしたようだったが、一刀の右腕に寄り掛かる感じになっていた。だが、今日の彼女は精神的に『イカガワシイ』意味で、タガが外れている感じで気合いが入っていた。

 力が入らず無防備な熟れた体を一刀へ晒し、恥ずかしいのか顔を逸らしながらも、こう気持ちを伝える。

 

「わ、私は大丈夫です。……構わずに……私の体を……もっとアレコレと楽しんで……ください」

 

 そういうと司馬防は一刀の左手を……自らの絶対領域である至高の部位まで運んでいた。

 昨晩も臥所の中でサワサワナデナデしてしまっている部位とは言え、今日は布団のように覆うものは何もなく、その気になれば肉眼でクッキリハッキリ確認出来ちゃう状態だ。

 水色の透け透けな小さ目の腰布は、すでに汗なのか水気を帯びているようで体に張り付く感じになっており、おまけに彼女はパイ●ンな為、『ケ』による影などどこにも見当たらないビーナスな光景がそこにある。

 ただ一刀は今、右手で彼女を支えている為、上から腰下を見下ろしているに過ぎない。

 だが目線は、絶倫なオスとしての本能から、自然と熱いモノへと加速していくのだった。

 

 ―――彼女の腰下へ潜り込み、小さ目の腰布を剥ぎ取り、間近でサワサワしじっくり堪能して見てみたい、イロイロしてみたいのである。

 

 一刀の心には、そんな欲望が『当然』のごとく沸き起こっていた。

 そして……司馬防も……亡くなった夫にもされた事がないそれを、熱く期待しているのだ。

 さらにその先をも。

 

 とりあえず、一刀は再び―――ゴクリと唾を飲み込む。

 自然と気合いと力が入ってきていた。

 そしてまずは司馬防の期待に応える意味で、右腕に寄り掛かる彼女を、左手でサワサワナデナデしてあげる事にする。

 さらに腰のエスカレートした箇所を、ナデナデサワサワしてあげる。

 すると右腕で支えてあげている司馬防は、悦楽な『ハレンチ』行為へ気が入っていることが影響し過ぎているのか、様子がいささかオカシくなり始める。

 

「……ああぁぁーーん……ソコ……ソコの……●●…を……ぁぁぁああーーん」

 

 一刀はまだ、軽くサワサワしてあげているだけだが、どうやら彼女は特定の部分に強く悦楽を感じるようなので、そこを丹念にサワサワナデナデして攻めてあげた。

 

「……ぁあーーぁ……か、一刀…んぁ……す…きぃーー、………ソコも……すきぃ……」

 

 夜をリードしてあげるつもりであった司馬防だが―――完全に悦楽にハマってしまっていた。

 彼女自身もよく分かっていなかったのだ。体の相性の良い愛しい人が相手だと、自分が激しく艶めかしく乱れてしまう事に。

 一刀は、自分の腕の中でどこか初々しく、美しく乱れる彼女が可愛くなって来ていた。

 

 

 

 4万文字をOVERしたので…熱い夜♡の続きは、後書き最後へ

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2014年07月16日 投稿
2014年09月01日 文章修正
2014年09月12日 文章修正 熱い夜追加
2014年09月13日 熱い夜R-15版化(あんまり変わってないという話も…)
2014年10月25日 文章見直し修正(熱い夜除く)
2015年03月21日 文章修正(時間表現含む)
2015年03月28日 文章修正



 解説)さり気なく確認はいつ?
 司馬朗は、勉強会の前に司馬進へ聞いていた。
 一刀への『評価』について、いつもなら出会った宴会の席で告げているはずではと聞いてみたのだ。
 ただ、宴会の席でもハキハキとしながらも、司馬朗には司馬進が僅かに照れて見えたことから、悪い印象ではないとは思っていた。
 なお、司馬朗はこの確認の前に司馬孚より、下の姉妹五人が同時に一刀と義兄妹の契りをしたことと、司馬孚からは先ほど自らの真名を一刀へ預けたことを伝えられていた。そして、昨晩、司馬懿の部屋から母屋へ戻る時に、深夜の母の行動を目撃する。
 下の姉妹達の契りや、司馬孚の予想以上の積極的な本気度、そして母、司馬防の……圧倒的な実力行使は司馬朗の焦りを誘い、昼食での発言へも繋がっていったのだ。

 そして……司馬朗にも言っていない考えが、司馬進にもあった。
 司馬進は、今は一刀を義兄として甘えていたかったのだ。
 だがそんな中で、一刀と自分の部屋で二人きりになるのを静かに待っている。その時に「兄(にい)様は、勇気と思いやりがあって頼り甲斐があり、そして……夜も優しそうで、夫にしたい私の理想の男性です」と告げ―――真名も預けるつもりである。




 解説)『司馬家』の女性の下のケは……
 一刀は気が付くのだった。
 まず、湯船から上がってきた母性溢れる司馬防さんの湯浴み着の至高な絶対領域に……髪の色の薄緑な色を見つける事が出来なかった。
 次に、髪を洗ってくれた絶世の美女の司馬孚さんは、近距離の正面に膝立の状態で湯浴み着越しの至高な絶対領域をガン見で確認できたのだが……髪の色と同様の薄緑な色を見つける事が出来なかった。
 そして、腕や……もっこり部分を洗ってくれた優しい司馬朗さんは、片膝立ちで至高な絶対領域が湯浴み着越しながら、ほぼ○見えでしたが……やはり髪の色と同じ薄緑色を見つける事が出来なかった。
 一刀はとりあえず結論付けるのだった。彼女達は、皆、パイ●ン(アルべき所にケが無いん)だと。
 一刀の極秘調査は続く―――。




 挑戦)司馬防さんの熱い夜♡
 書いているうちに、本編に絡む一刀と司馬防の心情等の描写が多く入ったため、『一刀と司馬防さんの熱い夜♡』として、本文の『つづく』の直後に挿入しました。
 加えて、本文のページ内文字数が40600文字程となった為、最後700文字ほどがさらに後書きの最後にあります……すみません(汗




 解説)本当は……三国時代に入浴の習慣はなかった
 中国に限らず、水が豊富でない西洋なども入浴というのは余りなかったとか。濡れた手ぬぐいで体を軽く拭いたり、暑い日には桶に水を張り行水をする程度だったもよう。
 そのため、体臭を消すために部屋に香を焚いたり、香水が開発されたりしたようです。
 ちなみに三国時代は、身分の高い人は厠に行って出るたびに、いちいち服を着替えていたとか。













 R-15版)一刀と司馬防さんの熱い夜♡ つづきはここ!
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 そして、彼女はふたたび『天国』気分になってしまう。

「んぅ…ーーぃィのぉーーーぃ、●クぅーーー、●ッちャぅーーーーーーーーー!!」

 だが、司馬防も先ほどから手を差し伸べ、一刀へやさしくサワサワクイクイしてあげていた。
 司馬防の『天国』へ到達する淫らな光景とそこへ至らせた満足感に一刀も感じてしまっていて、「ぅっ、くゥゥ……」と共に『天国』気分になってしまった。

 そのあとも休むことなく、一刀はこれまでのお礼も兼ねて司馬防を何度も何度も気持ち良くしてあげる。
 しかしそれは、熱く甘く彼女を自分好みへ『教育』するようでもあった―――。
 気が付けば、もう明け方に近くになっていた。
 司馬防は、これまでに感じたことのないキモチイイ悦楽をずいぶん堪能することが出来た。
 一刀も、ペロペロまでは出来なかったが……多くの脳内への高解像度な極秘記憶映像を得るとともに、最後には間近での各所のサワサワを堪能し終えてしまっていた……。
 司馬防は今回、子作りまで行けなかった事が少し残念ではあった。
 しかし、大きな前進があった。一刀が、蝋燭の灯る良い雰囲気の明かりの中で、自分の体をじっくりと見てくれて、気に入って、弄って楽しんでくれたことが嬉しかったのである。
 真の快楽を知り始めた彼女は、艶めかしい表情を一刀へ向けながら、膨らむ楽しみはまた今夜に……と思うのであった。

 事を終えた二人は、しばし後、司馬防が日の上る前に『北の屋敷』へ戻るということで身支度をする。
 司馬防は少し乱れた髪と衣服を纏い、その気怠さへ満足げに微笑みながら客間の扉を開けて外へ向かう。そして一刀へ『再会』を約束させる。

「一刀殿。また……今晩も熱く……してくださいませ……」
「……あ、あぁ」

 扉の手前で熱いキスを交わすと、一刀も満更ではないようだった。



 熱い夜END



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 熱い夜の解説)『極み』を感じる
 ……もはや何を言っているのやら……(笑)
 静寂の中、うら若き女性からほのかに匂(にほ)い立つ香りを、気付かれることなく粛々と呼吸音を消し、ゆるりと深呼吸を行い、そしてそれを一人優雅に楽しむ……クンカの極意であ~る!




 ああ、惜しいかな……カタカナマジック……その真言を得ず♪



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