真・恋姫†一刀無双 ~初出会は少女仙人-混沌の外史~ 作:カメル~ン
黄巾党の乱末期、張三姉妹は冀州鉅鹿の広宗へ二十万以上の兵で立てこもり、当時の皇帝である霊帝の命により派遣されて来た盧植将軍(失脚)、董卓を退ける。そして配下に優秀な指揮官の波才が合流し、彼の指揮で曹操、皇甫嵩将軍連合軍をも敗走させたが、糧食の問題から冀州黄巾党の二十万は青州へ姉妹らと移動した。張三姉妹を支持する青州黄巾党軍の総兵力は百二十万となった。この移動の際、張三姉妹は『太平要術の書』の一部を紛失する。
袁紹は洛陽にて何進大将軍の推薦で司隷校尉の職にも就き、兵権の一部を乱用して自分の代わりに中央の命として便利に曹操軍を使い、西と南へと同時での黄巾党討伐を課した。曹操は先の敗戦の汚名を、五分の一や、十分の一の通常では考えられない寡兵にもかかわらず、夏候惇や荀彧の活躍によりこれらへ一方的に且つ同時に勝利する。
この二面作戦で人材増強の早急な必要性を痛感した曹操は、人材探しを始め、その一人として面識のある司馬防へ彼女の長子仕官要望の手紙を送った。
中央の皇甫嵩将軍や朱儁将軍、諸侯らである董卓、孫策と共闘した袁術、曹操、公孫賛らにより、青州を除く各地で十万を大幅に超えるような大軍を有する黄巾党勢力は鎮圧され、取り敢えず大乱の一時終息となった。
黄巾党の乱で戦果を挙げたものらは、官位や領地を新たに得る事になった。
一方、劉備らは義勇兵とともに公孫賛陣営から黄巾党の乱の始まりを契機に独立しようとしたが、人材なく時流を見誤り、立身出来ずに予州沛国の北限近くで途方に暮れていた。劉備らは近くを商隊で通りかかった麋芳と出会い、まだ黄巾党が残る徐州へと向かう。
そんな時、管輅より、天下を平穏にする存在の力を持つと言う『天の御遣い』の噂を聞いた諸葛亮と鳳統は、荊州から泰山の周辺にやってきたが出会うことが出来ず、野盗に襲われるが謎の人物に助けられ難を逃れると荊州へと戻っていった。
袁紹配下の審配は、伝手の情報取集屋から張三姉妹の持っていた『太平要術の書』の一部を入手する。
董卓は、今の後漢の皇帝の治世に疑問を抱く荀攸や盧植将軍、帝の妹の献帝ら等多くの顔触れを集め、洛陽でのクーデタを計画する。動員兵力は五万。その決行は間もなくである。
袁紹は、何進大将軍より休暇を貰い洛陽より兵三万五千を率いて本拠地である鄴へ帰ってきた。だが奇妙な仮面を着けてであった。それは到着前夜に配下の審配による『太平要術の書』を利用したであろう謀略に因るものだった。それにより袁紹の思考は別人のように変わっていた。華北袁家は千年帝国の建国に動き出す。袁紹は軍師であった田豊の千年帝国へ反対の諫言を一蹴し、彼女を投獄してしまう。
その際、袁家千年帝国の建国への協力の為、公孫賛への使者が立てられる。
曹操は袁紹の代わりに兵八千を率いて洛陽の近郊に駐留する。
袁術は、孫堅と黄巾党討伐の時に築いた共闘関係を、より良い信頼関係に発展させ、連合勢力として動き出そうとしていた。それは配下の者達にも良い形で浸透し始めていく。
公孫賛は黄巾党の乱で客将の趙雲の働きもあり、二つの郡の太守となったが、引き留めておきたい趙雲は世を見て回る旅に向かうという。結局、友として送り出そうとしていた矢先に、袁紹からの使者が来るというので、趙雲も謁見の際に同席することになった。
そのころ麋芳に付いて来た劉備らは徐州へ入るとすぐに、徐州黄巾党らと五連続での遭遇戦を経て義勇兵団らは壊滅してしまう。麋芳は最後に逃れるも、劉備らは追い回され続け、負傷した関羽は独りで殿へ残り、張飛に劉備を託した。そんな時、徐州黄巾党軍を徐州州牧の陶謙の軍六万が後方より襲い壊滅させる。関羽は黄巾党の敗走により助かった。そこへ陶謙より兵を借りて来た麋芳が到着し、兵も使って劉備らを探すが発見出来なかった。関羽は麋芳へ礼を言うと劉備らを探しに独り行く。
そして西方では劉焉が亡くなり、継いだのは劉璋(かわぃぃ幼女)だった。
一方、一刀は暗殺仙人の死龍との戦いで敬愛する雲華を亡くしたことで、オカシクなり漠然と『カタキを討つため』と四ヶ月も無駄に放浪した末に、司隷河内郡温県の街へたどり着く。
偶然に街中から門の守備らを切り倒して逃げてきた剣豪の強盗を、条件反射的に仙術の『神気瞬導』の無手の一撃で吹き飛ばす。だが、一刀は旅の影響の疲れでその場に倒れ込んでしまう。そこに黄巾党の乱でずっと洛陽に詰めており、久しぶりに帰郷した街の名士の司馬防が通りかかり、一刀の闘いの一部始終を見る。倒れていた一刀は司馬防にその武を認め惚れられ、また顔役としてこの街の『鉄壁の治安』を守ってくれた感謝から司馬家に家族同然の食客として招かれ暮らすことになり、一番良い客間を与えられる。
一刀は部屋に広がっていた若い女の子な香りにより、正気を取り戻す。目覚めた一刀は司馬防と彼女の八人の娘の長子である司馬朗に会う。一刀は会話の中で司馬朗を「可愛い」と告げる。彼女は美人で文官であったが背がかなり高く(文官は背の大きくない小っちゃい方が好ましいとされている?のか)仕官の誘いも縁談も皆無に近かった。そのため、司馬朗は「言われたの初めて♡」と一刀の事がとても気に入ってしまう。
初日の晩は、司馬防と娘達全員で歓迎の宴をしてくれた。一刀はその席で次女の司馬懿に会うが、この家に住む価値があるのかと、剣舞と称していきなり剣を向けられ試される。一向に動じない一刀を司馬懿は武人の食客として認めた。
三女の司馬孚は絶世の美女であった。しかし、その美しい容姿は見ただけで『男を常に肉欲へと狂わせる』呪いの様な現象を引き起こしていた。そのため、山程の仕官口や縁談はあれど成立しなかった。しかし一刀だけは違った。彼は『神気瞬導』によりイカガワシイ気持ちを即、全て気に全転換出来る為、司馬孚の呪いを全く受けない体質だったのだ。司馬孚は、自分と普通に会話が出来る男の子である一刀の存在に衝撃を受け、強い好感を持つに至る。
その他の下の五人の妹達も、母が認める一刀の事が兄の様に気に入ったようであった。宴では司馬防を初め、八人の娘が一芸を披露してくれる。一刀も余興で早技を披露した。宴が終わる時、一刀は何か一言と乞われるがお礼の言葉の後に、「静養の終わったひと月後には旅に出る」と告げる。
その夜、司馬防は部屋へ司馬朗を呼び、曹操からの仕官の誘いの手紙を渡す。司馬朗は司馬懿の部屋を訪れ仕官の話を相談する。司馬懿は消去法だと曹操が残ると告げる。
そして……夜が更ける頃、一刀の客間を司馬防が男と女の関係を求めて訪れていた。一刀は雲華への想いに悩むも、雲華を失った寂しさから司馬防の暖かい求めを受け入れる。だが、一刀は旅の疲れもあったのかサワサワの途中で寝落ちしてしまう。
二日目の早朝、一刀は慕われていた下の五人姉妹らと義兄妹になる。朝食はすでに家族として母屋の家族用の食堂へ招かれていた。一刀は雲華を失い孤独感があり、このような新しい関係を嬉しく思う反面、また死龍のような突然の脅威を自分が『司馬家』へ呼び込むのではと苦悶し始める。
朝食のあとの午前中、司馬孚に広大な司馬家屋敷内を案内される。最後に司馬孚の部屋へ招かれ「ずっと傍に居させてほしい」と熱く告白され真名も託される。
そして昼食のあとには司馬朗の部屋を訪れる。そこで今度は、「ずっと共に歩みたい」と求婚のような告白を受ける。一刀は司馬孚と司馬朗からも真名まで受けたが、自分へ迫る謎の脅威と天秤に掛け、態度に迷っていた。
その折、司馬朗より「皆が一刀の武を見込んで街の警備参加へ期待していて、明日の街会議へ出て欲しい」とも頼まれる。
そんな一刀であったが司馬朗の部屋を出た後に、今日はお風呂の日だと彼女に引っ張られ湯殿へ……そこで待ち受けていた司馬防、司馬孚らも加え三美女に桃源郷を見せられた。
その夜、一刀は葛藤していた。謎の脅威と孤独と寂しさと司馬家との結びつきとに。そこへ再び夜の客間を司馬防が訪れる。一刀は司馬防に葛藤する内心を打ち明けると、彼女より親身に提言された。それは、『確約もない事象に対して、必要以上に気に留めても良い事はなくて、人生の有用な時間は思うほど長く無い。だからその時に出来る事、やりたい事へ精一杯努力して生きるべき。一刀殿には強く生きて行ってほしい』と。
一刀はそんな母性豊かで自分を好いてくれている司馬防を好ましく思った。子作りには至らなかったが司馬防を喜ばせ、イロイロ楽しんでしまうのであった。
三日目の早朝、司馬懿を除く七姉妹が一刀の客間前に集結し、なぜか段階的に司馬防との夜の関係がほぼ発覚。だがそこへ登場した厳しい母からの、好きな男性への女の想いが皆へ告げられる。それを聞いた司馬防の娘達は、各地で大きな戦いが起こり、時代が不穏な動きの中、人生の長さや限られた出会いの機会等の状況を鑑みて、思い切った決断をする―――七姉妹が順々に一刀へ告白し始める。その中で司馬朗は、曹操への仕官を受ける旨の返事を今日出すと宣言するのだった。
この日、一刀は司馬朗と街会議へ出席の予定があり、その場所までの移動手段である馬や牛のいる厩舎を、司馬懿に朝食のあと案内してもらう。
そのあと、司馬朗と共に牛車で街中を少し回り街会議へ。そこで、一刀は県令の王渙や顔役らと顔を合わせる。会議が始まったが、一刀は上の空で別の不埒な事を考えていた。その時に重要な決定の是非を振られるも、確認せず不用意に是と答えてしまう。
それは、『神出鬼没な盗賊集団の対策責任者』就任であった。
一刀は自分の不用意さを悔いるが、司馬朗より「一刀様に恥など掻かせません!」と信のある力強い言葉を貰いその場は立ち直る。
夕方に司馬家へ帰宅した一刀は自室で色々考え悩むが、最後は役目を受け入れ対策を考え始めていた。
司馬朗は自室で、曹操への書状の最終確認を行い、八通用意した中の一通に決定する。それは仕官に『即赴く』でなく『街の顔役の急務により一、二ヶ月有余を』という内容だった。その書状は使いの者により曹操の本拠地、兗州陳留郡の陳留城へと送られた。
夕食の席にて、今日の街会議で一刀が『盗賊対策責任者』になったことが告げられる。皆は驚いたり喜んだりした。
その方針について司馬朗が司馬懿に目線で助言を求め、司馬懿は予見的ながら鋭い意見を述べる。それは次の目標がなんと『この街』で、盗賊団の拠点は近くの森だとその理由等の説明もし、一刀へ「どうするか」と行動の決断を確認してきた。
一刀は盗賊団に逃げられる前にと即決し、作戦は「明晩決行」とし、すぐ偵察に向かった。それには情報を提供した司馬懿と、力になれればと司馬敏も馬車で同行する。
偵察で賊の拠点に侵入する三人だが、その際に女の子が乱暴されそうになるのを目撃してしまう。司馬懿と司馬敏は明晩決行の前に葛藤するが、それを見た一刀は『一日早めてしてもいいかな?』と言い、あっさり一刀を主力に皆で鎮圧に乗り出し賊を一網打尽にする。
役所へ知らせに行っていた司馬朗も兵を引き連れ賊の移送に加わり、街まで連行すると、夜の明けぬ深夜に司馬家へ帰宅した。
だが、夜の女の戦いがまだ残っていた。寝ずに待ち構えていた司馬防、司馬孚に司馬朗の三人は、疲れと汚れを落とす為と湯殿にて一刀へ桃源郷な奉仕をする。その後、司馬防だけが一刀と客間へ向かう姿に、司馬朗は異議を訴え再び四人は食堂にて会合となり、短期では司馬防に有利だが『司馬家の夜の決まり』を制定するのだった。
だがそれには、もちろんずっと横にいた一刀の意見など入っていなかった……。
一刀の愛情の籠もった気による身体復元のお陰で復活した『魔王さま』こと雲華は、一刀を襲った背景を知らべるため、師匠である天仙の真征を南岳衡山に訪ねる。
慎重に進められた調査は三か月を要したが、その間に雲華は師匠の元でさらに鍛え直していた。
そして、首謀者らは左慈、于吉、弧炉、蛇蝎ら十名程の仙人で構成されている『辿り着けるもの』達という仙術によって歴史を飛び越え何かを企てる者らの存在を掴む。
雲華は、真征より『聖仙木人』の体を送られ劇的に進化した木人くん(女の子だったのだが)へ『ジンメ』と名を与え従えると、動きを掴むことが出来た弧炉、蛇蝎ら七名を西涼の辺境にて排除する。
そして泰山へ戻って来ると、偶然野盗に襲われていた諸葛亮らを見つけ助けた。
その後、左慈、于吉の動きが掴めないため、便鳥を使って管輅を呼び出し、天の御使いについて占うと、悪い内容が出る。当たる可能性は高いと感じた雲華は、木人と徐州まで対応に出ると、気絶した関羽へ近付く于吉と遭遇するが取り逃がしてしまう。
加えて、管輅の占いにより、一刀へ「おっぱいX8」の接近に気付くのだった……。
一刀は『司馬家』四日目の朝を迎えようとしていた―――。
日の出も近いので、夜の女の戦いは「お開き」のはずであった。しかし、家主であるがまだ若き美貌を誇る司馬防の「一刀殿を客間まで送りたい」との言葉に、それならばと背は高いが可愛い司馬朗、絶世の美女な司馬孚も一緒について来ていた。そして互いのささやかな対抗意識の所為か……結局、三人は寝床の中までついて来ていた。一刀もこんな時間までも待っていたのかという彼女達へ、お断り的な意味の言葉を告げられなかった。
客間の寝台が広く大きいので可能な事もあったのだが、一刀を中心に彼女ら四人は寝転び三角形崩れの位置を形成していた。これも添い寝と言えるのか分からないが、各々が一刀の表情が見える位置に陣取りニコニコしている。司馬朗と司馬孚は、殿方と一緒に臥所に入る事自体が生まれて初めてであったため、ドキドキと僅かに緊張もしていた。一方で司馬防は、一刀や娘達をゆったりと眺めている。
当初は、一刀も女性陣らの方を交互に見て微笑んでいたが、いつの間にか動きが止まる。
一刀は、女の子らの甘く良い匂いが、疲れに加え心地よい安心感と眠気をもたらしたのか一番最初に寝息を立て始めてしまっていた……。痛恨と言えよう。
三人の女性陣は、「あら、一刀殿」「ふぅ、お疲れなのですね」「あぁ、一刀様」と残念そうな小声を上げる。だが、司馬防は「良い夢を」と一刀の前髪を愛しく撫でるように軽く触ていた。女性陣三人は無言で顔を見合すと、そんな一刀を静かにゆっくり休ませてあげましょうと、こっそりと寝台を降りて静かに彼の客間から各自の部屋へ戻って行った。
どれぐらい眠っていただろうか。一刀が寝床に入ったのは卯時(午前五時)を一刻(十五分)は回っていたころのはずだ。寝入ってから二時(四時間)ほど経っているようである。彼は、家の中の人の気の動きが急に慌ただしくなったため目を覚ましたのであった。廊下からの客間へ入る間接的な光は、すでに日が十分高い様子だ。
司馬防らはいつの間にか部屋から去っていた。最近、気が抜ける時があるのか、周囲の気を捉え損なう事がある一刀だった。雲華を失う原因となった『油断』をしないようにいつも気を張っているつもりなんだけと、少し小首を傾げる。まあ調子の悪い時もあるのだろう。
さて、決まりだと言うので銀さんを呼ぶ『呼び鈴』を鳴らす。自分で着替えた方が早いのだが、いつも「いけません! 奥様や伯達お嬢様より、北郷様は家族の一員だと言われております。当家に見合った行動を取られますように」と言われてしまうためだ。今は周りが慌ただしい理由を聞けるので丁度いいのもあった。
銀さんは扉の前に来ると、呼ばれた事を小声で確認してきたので、一刀は「起きますので着替えを」とお願いする。銀さんは失礼しますと静かに扉を開けて入って来ると、部屋の一角にある鏡付きの台にて洗顔や歯磨き等を手伝い、そのあと手慣れた手付きで一刀を着替えさせてくれる。その間に一刀は司馬家内のとても慌ただしい様子を銀さんに確認した。
すると、銀さんは―――
「北郷様は、昨日の朝に『神出鬼没の凶悪な賊の対策担当官』へ就任されたばかりなのに、昨夜のうちにその賊を全員生かして一網打尽にされたことが街で評判になっていて、お祝いや贈り物、寄付金が山のように届いており、色々な方面の方々も当家へ挨拶に来られているのでございます」
聞けばすでに、普通の家一軒が優に買えるほどの財が集まっているという。
「な、なんだって?(そりゃ家の中の人の気の流れが、慌ただしくもなるよな。だけど……どうするよ、俺)」
面倒な仕事を片付け、これから当分ゆっくり休めると思っていた一刀は、実はとんでもないことをしてしまったのでは?と非常に焦るのだった。だが、もう遅い気もしていた。
「一刀様、優華です。今、よろしいですか?」
(優華も余り寝ていないはずなのに、今はこの家を預かっているから大変な事になっているんじゃ……)
丁度着替えを終えた一刀は、銀さんに礼を言い、身を正すと「どうぞ」と扉の外に立つ司馬家の長子として最近の家を切り盛りしている司馬朗へ声を掛ける。銀さんが折り畳み戸の扉を開け一歩脇へ下がり礼を取ると、司馬朗が入って来た。
「お目覚めと聞きました。少しは休めましたか?」
「ああ。あの、先に寝てしまって……ごめんね」
「い、いえ。お疲れの様でしたし、みんな気にしていないかと」
二人は、寝る前の事を思い出し少し照れていたが、一刀が思い出したように尋ねる。
「そうだ、どうやら大変な事になっているみたいな……」
「はい。街中は一刀様の見事な活躍にお祭り騒ぎのようです。就任初日に加え、今まで大小二十以上の街や村が被害に遭っていて対策に苦慮し、近隣のどの街や村にとっても心配事になっていましたので。そして、この温の街が狙われていた所での捕縛で、この街の大きな被害を直前に防ぐことが出来ましたから、もうすっかり『街の大英雄』と」
いつの間にか呼称にさり気なく『大』が増えてるのであった。
「えっと……確かに捕まえたのは俺だけど……拠点は仲達さんが調べて考えて教えてくれたことだし、小嵐華が上手く賊らを引き付けてくれたから、裏でどんどん倒せたし。優華も賊を逃さず運んでくれたし―――」
「でも、その時の状況判断と決断と指揮官は一刀様でしたから。そしてそれを見事に成功させました」
そう、最大評価はその一団の指揮官になる事が当然多いと言える。副官や参謀は確かに局所的に高く評価されるも、最後の決断を下す総指揮官には比べるまでもないことなのだ。
「それから、今日のお祭り騒ぎはこの街『だけ』ですが、数日後には周辺の街へ広がることでしょう。もう、この近隣で一刀様の名前を知らない者は、いなくなると思いますよ。今晩はお城の御屋敷にて県令さまが、一刀様と我が司馬家の働きに宴を開かれるとの事です。中央から派遣されている武官の方も来られるとか」
司馬朗は、一刀の活躍と周りの評価にとても嬉しそうにニッコリと微笑んでいた。
「なっ……」
逆に一刀は、そんな大げさな状態になっている事に顔が引きつり青くなってきたのであった。学校の中の、いやクラスの中ですら、それほど目立つ存在ではなかった一刀は、それなりに友達はいたが、隣のクラスでも自分を知らない奴は結構いたと思うのだ。それが……街単位でしかもそれがいくつもと言う。このお祭り騒ぎは、すべてがこの街へ来た時にたった一人の賊を一刀が、それもほぼ無意識で反射的に倒したところから始まった事だが、スケールが想像できず……『わらしべ長者』の比じゃないなと、ふと彼は考えていた。
昨晩の事も、一つの面倒事をただ早く無くそうとしただけなのだ。とはいえ、達成した時にどうなるのかを全く想像していなかった訳ではない。幾らかの報酬を見込めてこの司馬家に栄誉ももたらせて恩を返せると考えていた。夜中の報告会でも王渙へ、これは司馬家の協力のお陰と強調していたのだ。それなのに、今自分がこれほど前面に出されて持ち上げられるとは思っていなかった。一刀は、戸惑いではなく……正直困っていた。
だが街中を含め皆が喜び、わざわざ宴を開いてくれと言うのだ。もはや一刀に反論する事も断れるはずもなかった。
司馬朗がさっそく再び面倒そうな事を話して来る。
「それで一刀様、事を聞き付けた街の皆さんが一刀様にお会いしたいと、隣接する応接屋敷の方に徐々にお集まりです。朝食を取った後にお顔を出して頂けますか? 今は母様が皆のお相手をしていますから大丈夫ですので」
すでに司馬防までも訪問客へ対応しているという事だ。ここで自分が断るわけには絶対にいかないだろう。どう考えてもそれは恩を受けている『司馬家』に酷い泥を塗ることになるのだ。
「分かった。朝食を取ったら急いで顔を出すよ。建公殿にもそう伝えておいて」
「はい。すみません、お疲れのところを」
「いや、大丈夫大丈夫」
一刀は複雑な気持ちであったが、頑張って自然な笑顔を作って返した。そう伝えると、司馬朗は一刀の客間から急ぎ気味に出て行くのであった。
その様子に一刀も早速、朝食を取る為に食堂広間へ移動する。一刀に続いていた銀さんが厨房へ朝食の用意を指示していた。
食堂広間の円卓には司馬懿が待っていたかのように、一人座ってお茶を飲んでいた。一刀から声を掛ける。
「おはよう、仲達さん。昨日はお疲れ様」
「おはよう、北郷様。あの、なんか他人行儀だからもう呼び捨てでいい。仲達でも司馬懿でも」
「じゃあ、俺も一刀と名前でいいよ」
「……貴方の方が少し早生まれだし、昨日の指揮と戦いに敬意を表して……一刀兄さんで」
司馬懿は眠そうに無表情ながら、少し照れくさいようにも見えた。だが、一刀はそれには触れずにその呼び名を受けた。
「わかったよ。しかし、なんか街の雰囲気が大変な事になってるらしいんだけど。でも、昨日の捕り物は仲達の事前調査と、その統計からの正確に考察された情報が無ければ絶対に無理だったよ。ありがとう」
「いや。情報や意見を提供できても、それを信用し、そして上手く活用して実行できるかが重要で本当は難しい。……少し不思議なんだが? 一刀兄さんが私の提言にほぼ即答していたけど……まるで私の言う事が高確率で正解だという事を知っているような、ね」
一刀は、目の前へ運ばれ並べられた食事をいただく前に、その質問について司馬懿へ答える。それは、未来から来たから司馬懿の能力の高さを知っているとは言えず、気付かれないように―――嘘ではない答えを。
「実は……街会議の帰りに牛車で街を回っていると、優華(司馬朗)が仲達はとても頼りになると言っていたから、それを信じたのさ」
「ふぅん、ありがとう」
姉の司馬朗からということで、彼女は納得したようだ。
一刀は、朝食をいつもより少し早いペースで食べ始める。そして、その合間に司馬懿に訪ねるように話を投げる。
「そういえば、このあと挨拶に顔を出す隣の屋敷なんだけど、まだ行ったことが無いな」
司馬懿は「応接屋敷か」と呟くように言うと簡単に説明してくれた。一刀はそれを食事を進めながら聞いていた。
応接屋敷は、本家屋敷敷地の西南の一角にあり、東西七十六歩(百五メートル)南北四十三歩(六十メートル)ほどの敷地に建っていて、一部二階建ての立派な邸宅風の建物を中心に多くの建物が建つ。本家屋敷とは高い塀で完全に仕切られている。それは男性が本家屋敷側へ迷い込んで、司馬孚に会うと大変な事になるからだ。本家へ親族以外を招く場合、殆どはこちらへ通され、泊まる場合もこの応接屋敷となるという。
「正面玄関から行くと、応接屋敷の玄関前広場でも皆で待ち構えてるはず。こちらの裏門から向こうの裏門へと入って行った方がいいと思う」
「そうか、ありがとう。そうするよ。しかし……賊一人倒した事から始まって、司馬家に招かれたのは嬉しい事だけど、なんでこんな事になって来るのか……」
「……貴方は時流……『時』を味方に付けているのだと思う。それはとても大きな力(一つの時代に数名だけの―――誰もが持てるものじゃない)」
司馬懿は、それが重要な事でも、いつも眠そうな無表情の顔で淡々と話す。まあ一刀には、それをどうして良いかよく分からない話ではある。
そんな時、食堂広間の入口をストレートロングな髪にいつもの眼鏡をした五女の司馬恂(しばじゅん)が通りかかる。
「っ、お兄様! おはようございます。昨晩は見事なお働きでしたわね」
いつもは気難しそうに眼鏡をスッと指で掛け直している彼女であったが、今は嬉しそうな笑顔で その太腿ほどまであるロングストレートの薄緑な髪を揺らしながら一刀の座る席の横へ来ると、胸の前で拳に一方の手を包むように合わせながら笑顔で話してきた。
すると、司馬懿が司馬恂へ促した。
「丁度いい、環華(ファンファ)。一刀兄さんを裏から応接屋敷へ連れていってあげて」
「それはお兄様がどうしても私でというなら……いいけど。って……『一刀兄さん』?」
いつもの口調だが、司馬恂は訝しげに眼鏡を指で掛け直しながら、司馬懿の一刀への呼び方の変化とそれが『兄』という呼び方に内心驚く。その意味に。
「なんだ、変か? 私でも認める時もあるということ」
「いえ。そ、そう……ですか」
司馬恂ら姉妹は、実の姉妹で一緒に暮らすゆえに司馬懿を良く知っている。司馬家の姉妹は勉学において皆優秀だが、彼女らから見ても司馬懿は突出していた。長子である司馬朗や母の司馬防をも優に凌ぐ才能を持っていると。勉学のみならず、武人としても大成出来るほどの腕前であろう。
だが司馬懿という人物は、小さい頃からずっと、他人には絶対に仕える気はないと言っており、母の司馬防と姉の司馬朗以外には無理に我慢して従うところをほぼ見たことが無いのであった。そして、ぶっきらぼうな風でも姉妹らや家の者には微妙に甘い。だがその反動か、外の者には遠回しに情け少なく厳しい性格なのだ。
そんな外の者に対して司馬懿が動くのは、相手に乞われたから従うわけでもなく、相手が優秀だからでもなく、正しいからでもなく、富豪だからでもなく、貴人だからでもなく、強いからでもない。
ただ単に『人物』もしくは『考え』が気に入るかどうか、気も使わなくて済むかどうかだけなのだ。そのため、これまで縁談や仕官の口も来ていたが、すべて即日に断っている。
その司馬懿が一刀を――『兄さん』と呼んでいるのだ。大きな変化であった。
司馬恂には、司馬朗の仕官の話並みの驚きと言えた。
まあ、その予兆はあった。厩舎を案内したり、昨晩の偵察にも付いて行き、急な『作戦変更』にも司馬懿は従ったのであるから。
司馬恂は一刀が朝食を終えるのを見計らうように声を掛ける。
「じゃあ、お兄様。裏門経由で移動しましょう」
「おう、って仲達は送ってくれないの?」
「一刀兄さんが来いと言うのなら、私も行ってもいいが隅に立っているだけだと思うぞ」
「はは……そうか、まあ俺への客というし。仲達はこちらでのんびりしててよ」
「そうさせてもらう」
一刀は司馬恂へ、じゃあいくかと応接屋敷までの先導を頼んだ。
すると、一歩前に立つ司馬恂が振り向き気味に、少し頬を染めながら左手を出してくる。
「どうしても、私と手を繋ぎたいというのなら……仕方ないですけど」
どうやら、前払いで正当報酬をご所望のご様子である。一刀が手を繋いであげると、司馬恂はきゅっと握り返して来てニッコリと笑顔になったかと思ったが、思い出したように慌ててツンとした表情に戻し、ゆっくりと歩き出した。
二人は食堂広間を後にし一刀の客間の通路を南へ曲がり、姉妹屋敷中の廊下を西奥へ抜けて庭へ出る。
広大な本家屋敷には四か所に門があり、そのうち玄関側を含めた三か所は馬車等が余裕を持って出入り出来る大きな門だ。残る一箇所が応接屋敷に近い門となっている。その門は西側から本家屋敷と応接屋敷を区切るように短い長さ十五歩(二十メートル)、幅三歩強(四メートル五十センチ)程の袋小路になっている道に出る。裏門は両屋敷間での荷物の出し入れもあるので、無理をすれば馬車も通れなくもないが、普段は荷物と人が時々通るのみの門だ。普通の家で言えば勝手口見たいな雰囲気の場所と言える。
門の内側のところには、女性の守衛が一人いて門は閉められた状態だった。一刀らが近付くと身を正し礼を取る。家中でも一刀の武勇の話は伝わっており、『街の大英雄』を前に守衛の子は少し緊張しているようであった。司馬恂が声を掛ける。
「応接屋敷へ向かいます。門を開けて」
「はっ」
すると、守衛は門の外に用向きと開門を知らせ、門を内と外から開いてくれた。
門の外側の道には応接屋敷側も合わせて男性六人の守衛がいた。全員が一刀らへ礼をとる。彼らはもう何代も司馬家へ仕えている者達のため、主従の間ながら司馬恂からも安心している雰囲気が伝わってくる。
門の外側は本家側と応接側でそれぞれ男性が三人ずつおり、その中に守衛長の一人の荘(ソウ)さんもいた。彼は良い使い手のように見える。他の者より明らかに感じる気が大きかった。
彼は、応接屋敷側の門を開けさせると、二人へ「どうぞお通り下さい」と伝える。
一刀らは「ありがとう」と言って応接屋敷の裏門を潜り応接屋敷側へ入った。
広い庭に厩舎や馬車等も本家屋敷並みに備えてられていて、ここだけでも広大で立派な邸宅なのである。客人用の階級別の宿泊部屋や湯殿を初め、当然司馬家の家族全員分の部屋等も区画別けされた場所に用意されている。また、使用人や守衛らの住む場所も敷地内にある。
ただ、この屋敷は客人との面会に幾らか特化している。
屋敷内の一角に、東西南北二十二歩(三十メートル)四方で二階まで吹き抜けの大広間が用意されている。 今、一刀らは廊下を歩き、一刀らに気付き一瞬礼を取りながらも客人らへの振る舞いに慌ただしく働いている使用人らを横に、その広間へ近づいていった。気で確認すると中の人数は五十人を超えている。
司馬恂は慣れているようだが、一刀はどんどん緊張してきていた。街会議の時は人数が絞られていたし、王渙の後に続いて歩いてということもあったが、今回はそうはいかない感じだ。
大広間には正面の大扉の他に、側面へさらに二か所の出入り口がある。その一つの扉の前まで来ると、司馬恂は一刀の脇へ周り「頑張って」と声を掛けた。
一刀もここまで来たので腹を括るしかなく「じゃあ行くか」と声を出すと、そこにも控えている使用人が扉を開けてくれた。
一刀は司馬恂を後ろに伴って入って行く。
すると、その場の歓談が、「おおお」っというどよめきにすぐ変わる。大広間の中央の位置までの進路上にいる人たちが、一刀がそこへ歩いて行くために各々が横へずれるように移動し開けられる。
一刀が真ん中まで行くと司馬朗がすぐ横へ、司馬防と司馬恂はその少し脇へ立った。司馬朗がそこにいる五十名ほどの皆に一刀を紹介する。
「こちらが、周辺の街を脅かし対処に困っていた凶悪な賊の一団を、昨晩全員捕える武功を挙げられた北郷様です!」
改めて、広間内は先ほどよりも大きい「わぁぁー」「うおおー」とどよめくのだった。司馬朗に促され、一刀は自己紹介する。
「私は姓を北郷、名は一刀と申します。字はありません。今は、こちらの司馬家にお世話になっています。みなさん、今日はお集まり頂きありがとうございます」
司馬家の面子もあり、可能な限り堂々と述べた。
一刀の挨拶に再度、広場内は湧く。その中、一刀の前に身なりの良い白い髭を蓄えた老人が後ろに二人ほど従え現れる。どうやら街の長老の一人のようだ。
「北郷様、まずは街の長老としてお礼を。この街が襲われる直前だったと聞きおよびました。恐ろしい厄災から守っていただき感謝しています。そして―――かの盗賊らはすでに二十以上の街や村で千人近くを殺していると聞く。その親族たちは数万に上るはずです。その者達は皆、貴方に感謝することだろう。……儂もその一人です。本当にありがとうございました」
「!? っ……(死者が千人だって?! あいつらどんだけ凶悪なんだよ。極刑間違いなしだな。……しかし俺、それ聞き漏らしてるよ……知ってたら……知ってたら?)」
一刀は、思わず狼狽えそうになったが、皆の前なのでなんとか持ちこたえる。
「さ、昨晩の自分の行動によって、みなさんの命や安全が守れてよかったです。枕を高くして今晩からお休みください」
「うむ、確かに! 北郷様が居てくだされば安心じゃ」
「そうじゃ、そうじゃ」
「そうよ。そうよね」
一刀の言葉を聞き、周りの皆が同意と喜びと安心の声が広がった。一刀の挨拶や、皆を代表した長老の言葉もあり、場を仕切る司馬朗が「みなさま軽い食べ物や飲み物でご歓談を」といつの間にか大広間の外周に沿うように多くの席が設けられていた。
一刀は食客にも関わらず司馬家で上から三番目の上座の席に座らされる。さりげなく司馬恂が脇から色々と教えてくれるのだった。お客達は周りを埋めるように座りはじめる。そして、一刀はお客からのお酌を延々と受けていく。
そんなとき、その中で先ほど長老の後ろに控えていた二人のうち、背の大きい左手を布で吊った男性が、一刀の前に膝をついて重々しく礼を取るのだった。
「私は、北郷様が初めてこの街の門へこられたおり、貴方様を道の脇へ突き飛ばした無礼な守衛にございます。あのときは知らぬとは言え、大変失礼な事をしてしまいました。この場にてお詫びいたします。申し訳ございませんでした」
一刀は彼をよく見るが、実は余りよく覚えていないのだ。だが、このまま覚えてないとも言えず、とりあえず気にしていないからと伝えてあげた。一刀は彼の怪我が気になったので聞いてみる。
「その傷は?」
「はい……。北郷様が倒される前に、あの門を破ろうとした賊に切られた折、腱や筋ごと持っていかれました。治ってももう剣は……。きっとバチが当たったのでしょう」
彼は寂しそうに左手の肘の辺りを摩っていた。
すると、一刀はちょっと診せてもらえますか?と席を立ってその彼の傍へ行き、その左肘に両掌を挟んで気の流れを確認すると、部分的に気による『完全修復』を掛けてあげる。
少しすると、その守衛の男は痛みが大きく引き「おやっ」という言葉が漏れた。
一刀が手を放すと、先ほどまで動かなかった守衛の男の左腕が彼の意思で曲げたり伸ばしたり出来たのだ。
「こ、これは……」
「気功を使った回復です。まだ少し腱や筋が残っているようでしたので。よかったですね、時間を少し掛ければ元に戻りますよ」
本当は完全に切れていたのだが、不自然過ぎにならないように一刀は誤魔化し気味に理由を述べていた。
それでも傍にいて見ていた、司馬防や司馬恂、他の客らも驚くであった。
この守衛の男は司馬防の友人の子息で結構裕福な家であり、きちんとした医者に診てもらった上での病状だったのだ。
治る見込みはほぼないと告げられていたと聞く。だが、その腕が今動いているのだ。
「おおぉ、北郷様は気功医術の名医でもあったのか!」
「すばらしいですわ」
「この時代に救世主のようなお方が現れた」
「おお、ほんに。悪鬼の賊らを倒し、不治の病を治す偉いお人だ」
「そういえば、大陸の東方へ天の御使い様が下られたとか噂もあったが、それは北郷様のような方をいうのではないのか」
「ありがたい、ありがたい」
大広間は一刀の示した武功や人々を気持ちと傷も癒す行為に、すばらしい人物だと賞賛の声が広がり続くのであった。一部の者は一刀に神様の如くお祈りまでしてくれていた……。
一刀は、また思いつきで動いてしまったことで問題が発生したのではと考え込んでしまいそうになったが、そんなところへ慈愛に熱い司馬朗が嬉しそうに飛び込んで来る。
「あのご子息は、母様からとても深く酷い傷だと聞いていましたのに、治してしまわれるなんて……すごいです、とても素敵です!」
周りに人がいなければ、きっと抱き付かれていたのではないだろうか。興奮した喜びからか、司馬朗に一刀は両手を握られブンブンと上下に振られていた。
「ちょっと、落ち着こうか、伯達さん」
「あっ! は、はい」
幸い、まだ周りは騒然としている感じなので、司馬朗の行動は取り立てて目立つものにならずに済んだようだ。
そのあとも、街中から有力者、地主、政治関係者、商人、職人、役人、武人、そして一般の人らまで幅広くお客はひっきりなしに司馬家の応接屋敷を訪れて来ていた。一刀は杯へ注がれたお酒をほとんど飲んでいないのだが、回数が二百、三百となるとかなり『来る』のは当然と言える。一応、気を利用して代謝を上げているのもあるのかベロンベロンにはなっていないが。
合間に短く二回ほど休憩があったが、申時(午後三時)前まで続き、漸く今晩のお城での宴の準備がありますのでと本日はお開きになった。
途中、司馬孚以外の姉妹も一刀の様子を見にやってきていた。司馬懿も優雅で無口な司馬通と一緒に時間の最後の方に来ていた。
そして、この日届けられたお祝いや贈り物、寄付金の総額は、小さ目だが立派な邸宅が買えるほどに膨れ上がっていた……。
応接屋敷の片付け等の指示を使用人長らに任せると、城での夜の宴に備えて体を休める為、司馬防や司馬朗も皆と共に本家屋敷へ一刀に付いて戻って来た。当初から一刀の傍にいた司馬恂は、おっとりながら割としっかりしている司馬馗が昼食後に応接屋敷へ来た時に、一刀から休むようにと言われ、入れ替わる形で一足早く本家屋敷へ戻って来ていた。夜への準備は、本家屋敷に残っていた司馬孚を中心に司馬恂も加わりほぼ終わっていた。ここ数日、一刀以上に寝ていない司馬防にも流石に疲れの色が出ていた。多くの人を朝からずっと相手にしてきたのだ、無理もない。そのため、一刀、司馬防、司馬朗は夜に備え、半時と二刻(一時間三十分)程の仮眠を取ることにした。
仮眠を取ったことで、なんとか体調を戻すと、宴へ出席する者は早速着替えて準備に入った。一刀と司馬懿、司馬敏は帯剣を許されたので腰に剣を帯びる。
司馬防や司馬朗らも宴に相応しく、より美人が映える華やかな装いの着物を纏っていた。
ただ今夜の宴へ司馬家の全員が出るわけではなかった。司馬孚と司馬進、司馬通は欠席するという。
無理をすれば全員出れない事はなかった。魅了度の高すぎる司馬孚も薄い透過性のあるベールの風な布で顔を隠し、体形も隠れる服装で出席すれば問題ない。話すに難ありなハッキリ娘の司馬進、無口な司馬通も喋らずじっと席に座っていれば良い。
だが、そこまで無理をして出る必要もない様に思えたのだ。祝いの席なのに司馬進、司馬通は兎も角、顔を隠した姿では司馬孚がわざわざ変に皆の注目を集めれば可愛そうである。といって司馬孚だけ家へ残すのもどうかと、司馬進と司馬通も残ることにしたのだ。
三名は体調が優れないということにして、城内の御屋敷での宴には司馬家として七名での出席となった。屋敷を出たのは日が沈む二刻強(三十分)程前の夕方であった。牛車を二台出し、先頭の車には一刀を初め、昨晩に賊を捕まえるのに携わった司馬朗、司馬懿、司馬敏が、後続の二台目に司馬防、司馬馗、司馬恂が乗り込んだ。車は壁板が全部外され見通しの良い状態に設定されている。護衛に騎乗した守衛が八人付いて来ていた。
司馬家の屋敷を出てからもぽつぽつと人が見送ってくれていたが、街の中心に近付くほど沿道に人が増えていき、街の大通りへ入ると人垣がどんと厚くなっていた。
そして、歓声が上がり、お礼や安心や一刀らを称える声や言葉が城門へ入るまで続いて広がっているようだった。沿道の人数は万を優に超えているように感じられた。
初めは、余りの人の多さに戸惑っていた一刀であったが、司馬敏が元気よく手を振っているのを見て、自分も手を振りはじめていた。司馬懿と司馬朗も軽く手を上げて小さく振っている。後ろの司馬防らも軽く手を振っていた。
そうして民衆に見送られながら二台の牛車は城門を入って行った。
城門内では、守衛の兵らが閲兵の様に道の両端に横一列に並んで出迎えてくれていた。宴には街の有力者らも集まって来ているようで立派な馬車や、牛車、そして戦車のような車も止まっているのが見受けられた。司馬懿と司馬朗はその光景を見た時に一瞬静かに顔を見合わせていた。
一刀と司馬家一行は御屋敷の玄関前まで来て牛車を降りると、役所の高官数名がわざわざ待っていて出迎えてくれた。そこには一刀より役職的には僅かに上位になる県の治安の長(役職名:県尉)もいた。一刀は臨時で一時的に県令直属での『盗賊対策責任者』(臨時準県尉相当)となっていたため、県尉らとは協力関係にあるが独立組織に近い。それは行き掛り上の役割な感じの上、事後申告となるだろうが、参謀に司馬懿、司馬朗。副官が司馬敏といったところか。
昨晩の一刀の就任当日で解決してしまった功績に、今日も県尉は一刀を笑顔で迎え喜んでいた。もともと人柄が良い人物だが、あの賊らがこの街だけの長期間の問題なら彼の立場が無い所であった。幸い、あの賊らは街を幾つも巻き込んでの広域にわたり、責任は大きく分散していたのだ。それでもここ半年ほど県尉への取り締まり要望の圧力は相当なものがあった。とは言え、凶悪すぎて正直手に負えない案件でもあったのだ。しかし、一刀がそれから開放してくれたのであった。嬉しくもなるというものだ。
出迎えていた役所の高官らからも贈り物をもらっていたので、一刀と司馬防らは礼を言いその高官らに見送られつつ、御屋敷の奥へと廊下を進んでゆく。
司馬防、司馬朗が並んで先頭を歩き、少し間を空けて一刀が、その後ろを司馬懿ら姉妹が続いた。
今夜の宴は主に一刀、そして司馬家の為であるが、一般的な立場では一刀は司馬家の食客にすぎないためだ。
いよいよ宴の会場となっている御屋敷の大広間へ入る。そこは昨日の役所の謁見の間よりもかなり広い場所だった。まず司馬防と司馬朗が広間へ入り、会場では席を立って迎える皆へ盛大に紹介される。拍手等の状況が一段落し司馬防らが席へ向かうと「それでは」と言う会場内の呼び声を受け、そして一刀は入って行った。
「こちらが、北郷殿です!」と入った瞬間に紹介されると、前の司馬防ら以上の歓声と歓迎ぶりである。上から紙吹雪が舞う演出まであった。
一刀はかなり緊張していたが、とりあえず堂々としている事に注力する。これは司馬朗からの提言であった。とにかく慣れですからと。
一刀は、以前の学生のビクビクしたような軽い気持ちでは無く、名門『司馬家』の一員として、その周りの歓待を受けるように一度止まり、周りを見渡し軽く会釈するに留める感じで応える。この日も、白地に銀の繊維の織り込まれたようなキラキラ感のある生地に上等な刺繍の入った動き易そうながら上品な上着とズボン風の服装に腰へ『龍月の剣』を帯びていた。本人は余り気付いていないが、かなりカッコよく見えているのであった。
一刀に続いて少ししてから司馬懿らも紹介され会場へ入った。
一番奥の上座に県令の王渙を中心に、次席になるであろうその左(正面からは右)側に司馬家一行に交じり一刀。そして右側へ県の顔役達と高官ら、そして……中央からのこの温県へ来ていたという武官と、河内(かだい)郡太守からの使いという武官も順次座っていく。その武官らは王渙のすぐ右横近くに着座していた。
会場の中心は幅広い通路のように通されており、そこへは綺麗な刺繍を施された朱の敷物が敷かれ、それに並行する様に多くの宴席が並べられていた。
並んだ料理もかなり豪勢で、その食材も近隣の農地で昼に収穫されたものや、南を流れる黄河から昼網で水揚げされた新鮮な魚介類が、水の張られた生簀ごと運ばれて来て捌かれ調理されたものだという。
大広間内は一刀と司馬家一行らを迎えて皆が席に着き、場が落ち着くと、王渙が杯を持って静かに立ち上がると、体を一刀らへ向けながら昨日の就任からの電撃的な行動とその武功を改めて語り紹介してくれた。そして、今日はささやかながらとと言いつつ、招待者が二百人は超えているこの感謝の宴へ参加している皆へ「北郷殿と司馬家の雄姿によってもたらされた今日の平和に乾杯!」と音頭を取ると、皆の「乾杯!」という声が上がり賑やかに宴は始まる。開始当初は、しばらく食事をしながらの歓談の時間となった。
その時に一刀は、司馬防らから県令の右横に座る武官達について教えてもらえた。
中央から来ている武官に付いては司馬防が知っており、何進大将軍に連なる王匡(おうきょう)という女の子武官ということであった。
一方、太守からの使いという武官については司馬朗より、司隷河内郡太守の次子で娘の朱皓(しゅこう)なる武官だという。司馬防もその事は知っており、司隷河内郡太守についても教えてくれた。それは―――朱儁将軍だという事だった。
朱儁将軍といえば、黄巾党の乱で名前が挙がってくる官軍を率いた将軍である。河内郡の治所は温県の東北東六十二里(二十五キロ)の懐(かい)県の城にあり、馬なら半時(一時間)で来れるという。
一刀が武官の彼女らについての話を小声でひっそり聞き終わったところで、王渙の方からも武官らについて紹介が始まった。
「北郷殿は、こちらのお二人は初めてですね?」
そこで、初めて一刀は武官らと目を合わせると、まず彼から名乗った。
「はい。どうも、北郷一刀です」
「私は何進大将軍に仕える名を王匡、字を公節(こうせつ)と申す。本日は偶然、王渙殿の元を訪れていたのだが、司馬家の方々を含め北郷殿の見事なお働きを聞いた。本日はお目に掛れてうれしく思っている」
王匡は肩の辺りで綺麗に切り揃えられた薄い紫の髪を揺らしながら、整った凛々しい顔に笑みを浮かべて一刀らへ挨拶してきた。
「どうもありがとうございます」
流石に中央、それも大将軍と聞いて、一刀も恐縮気味に答えた。
続いて、その横の太守の娘の朱皓が一刀へ言葉を掛けて来た。
「私は太守の娘で名を朱皓、字は文明(ぶんめい)と申します。北郷殿、今朝一番に知らせを受け、太守を務める母上も貴殿と司馬家の見事な働きに大変喜んでおりました。この件は物的被害もさることながら犠牲者も甚大で、討伐の準備には入っていたのですが足取りが掴めず、この河内郡の大きな問題になっていた事象でしたぁ。太守である将軍の言葉として感謝をお伝えする次第です」
朱皓は肩よりか少し長めのふんわりとした薄桃色の髪をしていて、優しい顔を微笑ませ、胸元でぽふりと手を合わせながら話していた。
先程の大将軍に続いて、朱皓からもさらに太守で朱儁将軍直々に感謝と言われ、一刀の恐縮感は内心うなぎ上りであったが落ち着いて答える。
「ありがとうございます。結果として被害を出すことなく、この街の安全を守れて良かったです」
朱皓は、そんな飾らない一刀へ興味を示すように、言葉を続けて掛けてくる。
「しかし、役目を急に受けられたにも関わらず、就任当日に我々が手を焼いていた凶暴な奴らを即討伐されるとは、その武の力量と勇気を武人として尊敬いたします~。ぜひ一度、懐の城にてその武技を見せて頂きたいものですが」
その申し出に、一刀は更なる厄介事を言いつけられないように返すしていく。
「申し訳ありません。昨晩は危機が迫っていましたので戦いましたが、先日までの放浪の旅で体調を崩し、現在司馬家にて静養している身なのです。その話はまた日を改めてお願いしたいのですが」
「そうでしたか~。それでは当分司馬家に?」
「はい、そうです」
朱皓は「分かりましたぁ。では後日に。お大事に静養してください」と、そこで武官らの挨拶の会話が終わる。
だが、この二人との挨拶が後の難題へのトリガーになったことは今は誰も知らない。 開始からしばしの歓談のあと、徐々に宴に来ていた者達が一刀らの杯へお酒を注ぎに順に来始じめる。
そして、宴が進むと、中央の敷物の所にて、音楽の演奏、雑技、演舞などが次々と披露され会場の皆で楽しんだのであった。
酉時正刻(午後六時)ごろから始まった宴は亥時正刻(午後十時)過ぎまで続けられた。後半には王匡、朱皓からも一刀は酒を注がれた。
王匡は六尺九寸(百五十九センチ)程のスラリとしたほろ酔い姿で、一刀の前へ立ち「まあ一杯」と注いでくれたのだった。彼女は賑やかな宴ではなく、数人で静かに飲みながら話す酒が好きらしく、「またの機会に」と言って、先に宴の席を後にしていた。
その少しあとに、六尺五寸(百五十センチ)程の武人としては小柄な体を、酔っているのかフラフラさせながら、朱皓が一刀の杯へ酒を注ぎにやって来た。
「飲んで、飲んで~♪」と口調がすっかり酔っ払いだった。まあ、半無礼講の宴なので一刀もかなり砕けて来ていて「はいはい」と気楽に注いでもらうのであった。
挨拶も一巡が終わった宴の終わり近くからは、一刀も席の横に瓶と樽を据えて注ぎに行ったり注ぎ返していた。朱皓の杯にもたっぷり注いであげていた。
一刀は、近くに座っている王渙や司馬家の面々、街の高官らとは席が近いので注がれたり注いだりして楽しいお酒を楽しんでいた。
司馬家の面々は酒に強いらしく、司馬馗も『ほわわん』なまま……いや余計にそう見えなくもないが……殆ど変らないのであった。特に司馬防、司馬朗は、朝から合計すると相当飲んでいるはずなのだが……底の無いザルなのか……恐ろしい。どうやら女の子なので最初から酒豪と見られたくなかった感じだ。家では抑え気味であったのだろう。ただ司馬防と司馬朗も、さすがに今日は疲れもあり酔いが回って来ていたのだが、一刀が見ているので粗相が無いようにと頑張って抑えて振舞っているのである。
一刀も初日の司馬家の宴ではそれほど飲んではいなかった。そのため今日、お酒を初めて沢山飲んでいた。朝から昼に掛けては、形式だけでちびちびと口に当てる程度であったが、今の宴の後半はリバースもなく普通に飲んでいた。
一刀は、自身がそれなりに飲めるということをここで知るのであった。
そして宴は終わりを迎える。
司馬朗と一刀は『司馬家』を代表して、集まって祝ってくれた多くの人らへ「ありがとうがざいました」とお礼の言葉と述べ、王渙の「え~明日以降も、また宴を楽しめるような平和であるように、皆で頑張りましょう! 解散!!」と締めくくった。
すでに時刻が亥時正刻(午後十時)過ぎということもあり、希望者らは宿泊部屋へ案内されていた。
一刀と司馬家の一行は、王渙と役所の高官ら、そしてフラフラながら朱皓や残っていた客らに見送られながら王渙の御屋敷を後にした。
司馬家へ帰って来ると、昨晩は臨時だったが今日がお風呂の日で、加えて宴のあった日なので、子時正刻(午前零時)まで湯殿が延長して解放されていた。
そのため、一刀が牛車から降りた瞬間、そのまま皆に湯殿へ引っ張られていったのである。
その中で司馬懿だけは「私は最後に独りでゆっくり入らせてもらう」と、司馬家の理性とも言える最後の砦は健在であり、一刀は何故かホッとしたのであった。
屋敷へ居残り組の司馬進、司馬通はすでに部屋へ戻って休んでいるとのことだった。しかし……司馬孚は「おかえりなさいませ。一刀様……ご一緒に♡」と『北の屋敷』の東側に位置する露天の湯殿の入口傍で待っていたのであった。
そして今回は、下の五人姉妹のうち三人もが一緒に入るという。子時正刻までにあまり時間が残ってないからという理由ではないようだ。
司馬恂は「なんとハレンチな!なんてイカガワシイ! でも、お兄様がどうしてもと言われるのなら……仕方ないですわね」と言って、頬を染めつつ眼鏡を外しながら静々と脱衣場へ、司馬馗は「はぅ~少し恥ずかしい~です。でも、兄上様~とご一緒に入るのはイロイロ楽しみ~です」と一刀へ熱い視線を向けながらほわわんと脱衣場へ、司馬敏は笑顔で「ふぁぁ……兄上様……お背中お流しします!」と一刀へ伝えるが、すでに睡魔のためか覇気少なく眠そうに脱衣場へ入って行った。
脱衣を手伝ってくれた使用人達が下がり、一刀が脱衣位置から振り向くと……スケスケパッツンパツンで、白スク風湯浴み着なおっぱいボインバインな女の子が横一列に六人も並んでいた……壮観過ぎる。
そして、一刀はすでにその場に充満している、女の子のムンムンな匂いにクンカし、興奮の余り立ち眩みを覚えるほどだ。
そんな中、「兄上様ぁ……!」と司馬敏が眠り込むように倒れ込んできたので、一刀は慌てて我に返り抱き留めていた。それでも司馬敏が「お風呂……お風呂……」と言うのでお姫様だっこで抱きかかえてあげ「じゃあ入ろうか」と湯殿へ入っていった。
司馬恂と司馬馗が「シャオ、ズル(~)い」と一刀のあとに続く。司馬防達も先手を取られたわねと、顔を見合わせながら笑顔で続いて入っていった。
一刀は軽く司馬敏と掛り湯をすると、司馬敏が溺れないようにと浅い湯船の所へ浸かるのだった。司馬恂と司馬馗も掛り湯をしてその傍に浸かっていた。
一刀は司馬敏の頭と腰を手で軽く支えているので、トテモ近いのであった……司馬敏の僅かに日焼けして健康的なプルンプリンで呼吸に合わせてゆっくりと上下する胸に。
そしてその薄く白い湯浴み着は、水を吸って張り付き、透過率は軽く五十パーセントを超えている状態なのだ。二つの柔らかな栄光の部位はお湯にも浮くように静かに揺れている。加えて焼けていない素肌の部分は結構白く、ポッチ周辺がピーンクなのでよりエロさが強調されている。
だが、それは司馬敏だけではない。司馬馗と司馬恂も色白でタワーワなのだ。浮くように揺れてそこに見えている。ポイントも桃色なのである。
そしてふと、一刀は司馬防らに目を向けると……三人とも一時湯浴み着を脱いでタワーワな体をキレイキレイに洗っていた。
ビーナス達がそこにいる。
ここはトンデモナイ桃源郷だと認識を改めていた。
挨拶や宴続きでかなり疲れているはずの一刀であったが、何もしていないのに『もっこり』が限界なのであった。
にもかかわらず、このあと湯殿から体を洗い終えた司馬防や司馬恂らに連れ出され洗われてしまっていた。もはや『天国』のみが続いていた……。
ちなみに今日の『もっこり』当番は司馬馗だった。司馬防らに丁寧に教えられつつ、ほわわんと普通に洗われちゃった一刀であった。
司馬恂も一刀の背中をタワーワに洗いながら言うのであった。
「こんな……な、なんてキモチィ……イ、イヤラシイ!ハレンチな! お兄様が無理やりこんな事をさせるなんて……でも(妻として)……仕方ありませんわ」
途中で司馬防らと交代すると、今日は司馬防が正面に陣取り、立て膝の●イパン姿で頭を洗ってくれていた。司馬朗と司馬孚は妹達以上なタワーワを駆使して一刀の手や足を丁寧に洗ってあげるのだった。
すでに寝息を立てている司馬敏は、のぼせるといけないので、一刀らが湯殿から出るころには、使用人らに体を綺麗に拭いてもらい寝間着を着せられて静かに部屋へ運ばれていった。
さて、風呂に入って体が綺麗になり、疲労も気分的に少し回復し、時間も子時(午後十一時)を過ぎれば―――あとは寝るのみとなる。
『司馬家』の夜を迎えるのである。
すでに、司馬馗と司馬恂は湯殿を後にし、一刀にそれぞれお休みの挨拶をすると、別れを惜しみつつも姉妹屋敷の方へ下がっていった。
彼女らも夜の決まりについては、昼食時に司馬孚より通達されていたので知っていた。今日の晩に一刀と夜を共にする可能性があるのは、司馬防だけであるという事を。
ここは南の廊下から『北の屋敷』へ入る辺りの、中庭や西側の広い庭も眺められる広めの廊下的な場所だ。
今、一刀、司馬防、司馬朗、司馬孚が会し、司馬朗によって『確認』が取られている。司馬朗と司馬孚にも希望はある。
「母様……お持ちですか?」
ただ、あくまで可能性であった。一刀から例のお守りが渡っていなければ―――。
「もちろん。はい、これを」
しかし、司馬防は赤い紐の端を指で持って、お守りを吊り下げるように、少し勝ち誇るように司馬防と司馬孚へ見せていた。確かにあのお守りである。
つまり、一刀が司馬防を今日の夜に欲したということだ。そして、その意志を彼がお守りを渡すときに司馬防へ伝えているという事だ。
司馬朗と司馬孚は母を―――羨ましいと思うのであった。
今夜の負けは認めざるを得ない感じで、司馬朗と司馬孚は意気消沈気味であった。
「分かりました。母様、一刀様、おやすみなさいませ……」
今夜はもう多くは語らない。司馬朗に続いて司馬孚も「おやすみなさいませ」と告げ、静かに母屋の方へ去って行くのであった。
司馬朗らを見送ると司馬防が一刀へ頬を染めながら向き直る。
「一刀殿、客間にてお待ちください」
司馬防は準備をするため、一度『北の屋敷』の自分の部屋へ戻るという。
「うん、待ってるから」
一刀もそう言うと見つめ合う二人は、そっと軽いキスをしてその場を別れた。
司馬防は自室に戻ると、いそいそと取り寄せたばかりの悩殺スケスケ夜伽衣装を身に着け始めていた。
そして、赤い紐の宝石の付いたお守りを貰った時の事を思い出した。
それは応接屋敷での一度目の休憩の時だった。司馬朗と司馬恂が広間に残っており、一刀と司馬防が気晴らしに屋敷の裏手に出たときに。「これを……」と一刀は恥ずかしそうに手渡してくれたのだ。とても嬉しかったのと共にその意味に、司馬防は大事なところがジュンと熱くなってしまったのを思い出すのであった。
(一刀殿………あぁ……今夜は……)
その女の熱い想いはもう止められないのである。
一刀は自室に戻り、銀さんを呼んで寝間着に着替えた。銀さんが去った後、寝台の上に大の字に寝転び、司馬防の……夜の到来を……一昨日の晩の事を色々思い出したり、今夜スル事を想像したりしながら、固く「もっこり」しつつ待っていた。
そんな時に、客間の折り畳み戸の扉の外から、急に声が掛る。
「一刀殿、水華です」
一刀はその声を聞いて愕然となった。思わず固まってしまっていた。
(ど、どうなっているんだ……!!?)
そう、それは客間の周囲の接近する『気』を探っていたつもりが……司馬防の接近が捉えられなかったのである―――。
(き、気が……『神気瞬導』が……使えな……い?!!)
「愛紗ちゃん……大丈夫かな」
「……心配ない……のだ。……休むのだ……」
力なくつぶやく劉備に、張飛が眠そうに言葉少なく答える。二人とも疲れが溜まり、腹も減っている状況が続いている。
森の中で大木の洞(うろ)を見つけ、薄暗いその中に汚れも酷い服装のまま、そっと潜んで休んでいた。
劉備と張飛は生きていた。
だがそれは当然といえるだろう。張飛も今は一部の地域でしか名が知られていないがその武の力量は関羽に勝るとも劣らず、すでに『人中の呂布』を入れても大陸で上位三人の内の一人に入るであろう実力なのである。空腹ではあるが、手負いも無くまだ戦える状態でもあった。加えて命を掛けて殿を務めている関羽から劉備を頼まれているのだ。
張飛は完全に野獣と化していた。
関羽と別れたあと、急いでその場を離れ森へたどり着くため、張飛は劉備を担いで森を目指した。そして森に入るとそのまま奥へ進むと山を一気に二つ超えた。そこで小さな沢を見つけ、二人は喉を潤してさらに奥へ移動する。ここからは劉備も「自分で歩くから」と二人で歩いての移動となった。このころにはもう日がほとんど落ちていた。
夜中も夜目が聞く張飛に手を引かれ二人は歩き続け、さらに小さい山を二つ超えた辺りで草陰に隠れて後続の様子を伺った。
一時(二時間)程休んでいたが、追手は来ないようだった。その間に、張飛は何か食べられるものはないかと探してみる。野生児なのか、張飛はほぼ真っ暗でもハッキリと周りが見えると言う。鼻も良く利くので、疲れた体ながら色々と探してくれるのだ。
しかし、こんなところにあるのは草類しかなかった。それも少しの量であった。穀類や肉などあるはずもないので劉備は兎も角、張飛には腹の足しになることは余りなかった。
だが、ずっとここで身を隠しているわけにもいかず、劉備と張飛は移動を始める。
しばらくゆっくり移動すると間の悪い事に、張飛は遠目に森の中を走って移動する黄巾党の一隊を見てしまう。奴らは松明で周辺を見回しながら移動していたのだ。それは実は、陶謙の軍に敗走させられ四方に霧散した残党の一隊であった。
劉備と張飛はそれを、自分達を殺しに来ている追手だと勘違いしてしまうことになった。黄巾党の軍は数万はいると思われる大軍であったからだ。他にも何隊か周辺に追手が出されているに違いないと考えるのは自然な事であった。
疲労の大きい劉備を歩かせたことと、二時間休んだことが原因であろう。しかし、もうそれを言っても意味のない事である、この後どうするかだ。
黄巾党の一隊が向かったのは、予州魯国の方角であった。劉備は、黄巾党の討伐が済んでいる地域に脱出しようとしている自分達を、逃がさないように殺そうと追いかけて来ていると予想していた。
そのため、このまま北の魯国ではなく、より中央に近い安全な西へ向かって移動すべきだと、張飛へと提案する。
「鈴々ちゃん……このまま北へ向かっても黄巾党のいっぱいいる青州に近いし、一時安全な予州西部か兗州を抜けよう……そして一度白蓮ちゃんのところに戻ろう」
所持金も糧食も何もないこの地獄のような状況に、全く策もあても浮かんでない劉備は、公孫賛の助力を再度仰ごうと考えるぐらいしか思いつく事が出来なかった。
「……でも、愛紗は?」
「このまま敵に囲まれた状態で再会出来ても、状況は変わらないと思う」
「……分かったのだ……今はお姉ちゃんの安全が大事なのだ」
関羽との再会を危惧する張飛だが、そうもいかない逼迫している事情も理解できた。
ここから、劉備と張飛は西へ進路を変えて移動を始める。
そして日は上りはじめ、周囲の安全を十分確認出来るようになり、大木の洞(うろ)で仮眠を取るのだった。
一時半(三時間)程仮眠を取った後、劉備と張飛は再び山や森の中を進む、途中僅かな食べ物を探しては食べ、沢を見つければ水を飲みと、厳しいの逃避行を続けた。
その後、どうにか黄巾党の残党に出会うことなく、夕方ごろに予州沛国北部の街道傍へ戻って来ることが出来たのである。
劉備と張飛の西への方向転換は大きな分岐点となった。
あるひ、おかあたまがしんじゃった。
そしたら、こわいかっこうをしたオバサンとオジサンがいっぱいきて、あたしがあるじさまだというの。
あるじさまはえらい? ときいたら、いちばんえらいといわれた。
こうていさまよりえらい? ときいたら、それはちがう、そのつぎぐらいといわれた。
でもこのしゅうでは、いちばんえらいみたい。
まあ、それでもいいかな。えらいひとはなにもしなくていいんだから。
このしゅうでは、いちばんえらいんだから。なにもしなくていいんだよね。
だって―――みやこで、こうていさまはなにもしていなかったんだもの――――――。
「雨柳(ユイルー:黄権)、蜜誕(ミータン:劉璋)さまは?」
「今日はまだ奥でお休みになっておられますよ?」
「そうか。朝一の愛らしいご尊顔を拝せなくて残念だ」
張任は、黄権からの答えに美しい顔を曇らせながらそう答えた。
ここは、益州蜀郡成都県の成都城内の宮殿表廊下。豪華な金銀の装飾のされた天井は高く二丈半(五メートル七十五センチ)程もある。
この城は三里(一・二キロ)四方の宮城を中心に、さらに二重の高い城壁を巡らした三重の外郭を有し、第二外郭内、第三外郭内を二本の川が流れる広大な領域を誇り、最外郭の外周は四十里(十六キロ)に達する。城壁内には住居や街並みも多く内包している、西方ではもっとも栄えている城塞都市である。
秘境とも言える険しい天然の要害の山々に囲まれる蜀郡を中心とした地域は、母であった劉焉が長い間治めていたが亡くなり、最近劉璋が継いだばかりだ。
劉璋は、延々と言いくるめてくる者や説教を言う者がキライなのであった。
母が亡くなったおり、代わりに偉くなったのでこれからは何もしないでノンビリ出来ると思っていた劉璋のところへ、多くの家臣が進言にやって来ていた。
厳顔、呉懿らは「母上様は、ああされた、こうされた、劉璋さまはなぜ手本にされないのじゃ?」と叱るように言ってきた。
また、法正、張松、孟達らは「こうなれると良い、こうこうこういう理由でこうされるべきです!」と無理に押し付けてくるようなのだ。
「みんな、うるさいのよ、うるさいのよ、うるさいのよ! あたしはえらいのよ!」と劉璋は言い放ち逃げるように後宮に閉じこもるのであった。
そのためにそれ以後、側近は非常に限られていた。現在の主な側近は黄権、張任、王累であった。
黄権は、字を公衡(こうしょう)と言い、若い少女の文官である。劉璋に気に入られて主簿(公文書を作成)を担当しているが、おっとりとしており、怒ることも無く知識は割と豊富で助言も的確ため、傍にいる事も多いのだった。
そして張任は、字を奉宗(ほうそう)といい、見た目は長い黒髪の美しい清楚な女性武将である。腰には装飾のされた日本刀のような細い剣を帯びている。劉璋の近衛隊も指揮しているが、成都城周辺全軍七万の兵権も統率している。劉璋にとっての攻守のかなめと言えた。
「変態ですね。蓮風(リンフー:張任)様は」
「なんだと、雨柳? かわぃぃモノは『宝』ではないか!」
「―――でも、朝、昼、晩と日に三回も、それに毎日ここへ来るのはどうかと思いますが?」
張任に対してそう言って、宮殿奥への入口から王累が出て来たのであった。
「紅余(ホンユイ:王累)か」
王累は、字を伯忠(はくちゅう)と言い、近衛隊の少女隊長である。背丈は六尺四寸(百四十八センチ)ほどしかなく、まだ支給された正規の鎧や武器が大きいようで、体に合っていない。それでも、戦うには問題ないらしい。腕は相当立つのであった。
加えて王累は、劉璋にその小柄で背中ほどまで伸びるふんわりした赤毛の可愛らしい姿がとても気に入られているため、奥の寝室のある後宮まで入る事が許されているのだった。
劉璋としては、張任は『しつこい』のが難点だが、言う事は大体聞いてくれるし、戦いには強いので頼りにはしているのである。
「いいではないか。わが主の元気でかわぃぃお姿を確認して何が悪い?」
「絶対、お姿を堪能してますよね?」
「してる、してる」
張任のもっともだという言葉に、王累は鋭くツッコむのであった。黄権も王累に激しく頷いて同意した。
劉璋は字を季玉(きぎょく)という。前漢の皇族の血を引いている。皇族は代々幼女時代から成人までが抜群にかわぃぃのであった。それは劉璋にも受け継がれていた。愛くるしさは、子猫が如く、子犬が如く、お人形が如くであるのだ。
それは、黄権も王累も認めているが、張任は病的だった。中毒と言えるだろう。劉璋症候群と言ってもいい。一日三回の処方が必要な模様だ。
「ああ、蜜誕さま、ミータンさま、ミータンさま、ミータンさま――――」
「う~~~~~っ、うるさいのよ、蓮風(リンフー)! むこうまで、きこえてくるんだからっ」
「はぁぁぁぁぁ、蜜誕さまぁぁぁ♪」
怒りの主の登場にも、張任は思わず満面の笑みで破顔していた。
これが、この外史の………………忠臣張任であった。
つづく
2014年09月26日 投稿
2014年10月24日 投稿
2015年03月19日 文章修正(時間表現含む)
2015年03月22日 八令嬢の真名変更
2015年03月29日 文章修正
解説)県における警察署長的な役職
いまさら感ですが、県尉というようです。
県・侯国の武官で盗賊などを取り締まる。
解説)太守からの使いの席順。
上意下達であるので、使者として県令に伝えに来た昼前の謁見時には、県令の王渙が下座にて礼をとり通達を受けていたが、それが済んでいる夜の宴では客人の一人という立場となっている。
解説)リバース
往年の人達には懐かしい響き。
これ以外に前兆の無い「オートリバース」、二回目以降や二人同時も指す「ダブルリバース」という言い方もあるとかないとか……。
予想)立て膝の●イパン姿
●の部分には、きっと「か」「き」「く」「け」「こ」が入るんだと……(笑
解説)王累の字
史上では伝わっていないので「ねつ造」です。