真・恋姫†一刀無双 ~初出会は少女仙人-混沌の外史~   作:カメル~ン

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第➋➎話 動乱の序幕(熱い夜)

 

 

 

 司隷河南尹(しれいかなんいん)洛陽にある洛陽城後宮の豪奢な食堂広間。後漢の皇帝である霊帝は今日も政務を十常侍や何進へ丸投げし、この後宮に引き籠って一日中美食に耽っていた。そして今夜も贅の限りを尽くした晩餐を、今回に限っては料理の得意な趙忠に三時(六時間)程掛けさせ多種大量に作らせたにもかかわらず、結局霊帝はその豪華な料理群へ一瞥をくれるだけであった。

 

「ふん、やっぱり朕はお菓子が食べたいの。その食台に並んでるのは、もうゴミだからさっさと捨てなさい! まあ時間制限の中で、必死に料理を作って疲弊する黄(ファン:趙忠)の顔が見みれて少しは面白かったわ」

 

 霊帝は席の横に置いてあったお菓子だけをひと口食べるのみであった。

 それから間もなく霊帝は寝所へ趙忠を連れて移動するがそれはまだ寝る為ではなかった。

 

「時間制限を何度も超過したこのノロマめ! ノロマの黄(ファン)の顔を見てるだけでも、朕はそれなりに疲れたんだから!」

 

 等々、無理難題を命じながら分かり切った結果の趙忠を散々に詰(なじ)る霊帝。だが、言葉責めされる趙忠はすでにそれが悦な快楽状態になっていた。

 

「はぁはぁ、もっとお願いします、空丹(クゥタン:霊帝)様ぁぁぁ!」

 

 彼女は詰られ好きな変態体質の性の為、さらなる罵倒を求め続けた。

 人々を統べ良き方へ導く存在であるべき皇帝が、こんな非生産的で無人徳で無駄な日々を送っていた。

 そしてまた、その皇帝を補佐するはずの何進大将軍や十常侍を初め、宮城の皆が自らの富や身分をより良くすることのみに心血を注ぎ、この大陸の行く末や民の生活を考える者など居ないかに思えるほどであった。

 だが、この同じ広大な洛陽の一角でそれらを終わらせる計画が有志らにより静かに進んでいるのであった。

 

夜が更けた一室で再び董卓と賈駆、そして荀攸が会談に及んでいた。ここは洛陽の西端に位置する広大な董卓の屋敷の離れだ。

 三人で食事の後お茶を啜っていたが、賈駆が頃合いとみて計画の最終状況を再確認する。

 

「いよいよ明後日ね。洛陽内の準備はもうとっくに終わっているわ。後は華雄と兵が来れば完璧よ。報告に寄れば、予想通りに宮中の守りは一過的に休暇が増えてかなり手薄になってきてるから、中止の指示が予定の時間に来なければ、そちらも明後日の早朝に各自が事前に伝えた指示通りに独自で動くように伝えて頂戴。でも依然曹操の動きは不透明だわ。宮中で月(ユエ)と一緒に、二度ほど曹操らと顔を合わせたけど、相変わらず今は霊帝の能臣かのように振舞っているわね。その本心は分からないけど……明後日の障害になる可能性は高いと判断しているわ。なのでそのつもりで動くわよ。曹操の駐屯兵数は八千で、洛陽の東側最外郭の外に駐留しているわ。今回こちらが用意しているのは、今洛陽に駐屯している外郭内五千、西側最外郭の外の一万の計一万五千の兵と長安から華雄が率いて来る三万五千の合わせて五万よ。曹操は夏侯淵、夏候惇とも連れて来てるようだけど、こちらも恋や霞や華雄の他にも盧植殿や皇甫嵩将軍らもいるから最終的には圧倒できるはず。でも出来る限り不意を突きたいのよね」

 

 今洛陽に駐屯している董卓軍の兵は、董卓が何進大将軍に贈り物や下手になりつつ袁紹の代わりに是非洛陽の守りをやらせてほしいと、本来袁紹から守備とその負担を押し付けられて曹操が全て引き受けるはずの所に割り込んだ成果だ。そして曹操はその経緯を知らずにいた。曹操はただ兵八千で洛陽に駐屯せよとの命のみを受けたのであった。そして董卓はさらに何進大将軍の許可を取り、補填として追加で三万五千を呼び寄せている。

 だが―――この三万五千という数について、実は何進大将軍へは兵数を大幅に少ない五千と偽っていた。また上意の命に従い能臣的によく働く曹操に一部負担させる事を残したのも何進大将軍を油断させるためであった。

 

「さすがに三万以上も追加が来れば、何進は兎も角、曹操は我々の計画に気が付くはずだわ。だから到着ギリギリで計画を予定通りに実行するわよ」

 

 バレる頃にはもう計画は優位に進んでいることだろう。

 董卓と荀攸も頷く。

 荀攸はすでに霊帝を廃した後の新皇帝の予定である献帝の側近という立ち位置でここに来ているのであった。

 そして今回の計画の首謀者は董卓である。彼女は元来優しい性格で、民衆の側にも立った『優しい政治』をもっとうにしている。だが彼女は優しくはあるが弱い人間ではない。悪政により理不尽に苦境へと立たされ続ける人民をこのまま黙って見過ごせないのであった。だから禁断の計画を行うと決めたのだった。配下となってくれているが親友でもある賈駆にお願いして万全の計画を立てて貰っていた。そんな彼女にまだ一つ気掛かりがあった。

 

「あの……椿花(チュンファ:荀攸)さん、今回曹操の動き次第では実力で排除することになります。ですが曹操陣営にはあなたの叔母に当たる荀彧さんがおられると思います」

「はい。ですが……時間を与えると彼女は間違いなく霊帝を事前に囲う対抗策を考えるでしょう。流石に宮中二千余と曹操の兵でしっかり護衛されるとそう簡単に廃せません。その上、それが囮などという状況も起こりえます。我々は失敗できません。なので彼女へは……開始直前に知らせます」

 

 身内に対して命の危険を知らせないという訳にもいかないのだ。その辛そうな荀攸の表情とギリギリの苦渋な考えから董卓は彼女の思い汲み取る。

 

「……そうですか。ならばもしもの時、荀彧さんについては各将へ可能な限り保護するように通達しましょう」

「いえ、お気遣いなく。身内の私の知らせは兎も角、こちらのその特別扱いな事実が曹操の耳に入れば彼女の立場が揺らぎましょう。それにあの方は、己の才のみで十分身を守るでしょうから」

 

 荀攸は身近で見てきた事がある故、荀彧の才の底無しさを知っていた。正直、今の董卓側の人材と戦力がなければ絶対にこんな計画にも乗らなかっただろう。特にこの目の前にいる恐るべき智謀の軍師がいなければ。

 その賈駆も小さく頷き同意する。

 

「そうね、荀彧殿は危険だわ。それに曹操自身もね。大詰めだし、ここは慎重にいくべきよ。じゃあ、細かい配置と担当と非常時の行動についてもう一度だけ言うわよ―――」

 

 三人は、人払いのされた一室の中でさらに大机の席を互いに少しずつ寄せると、小声で話しを続ける賈駆の言葉に時々了承の意の為か頷いていた。

 

 

 悪政を、この世を憂いて董卓らが起こそうとする『新皇帝擁立』計画が、大陸全体への血で血を洗う動乱の魁になる可能性については、多くの想定の中の一つにまだ小さな存在としてあっただけであった。

 

 

 

 

 今、曹操は洛陽東側最外郭傍の街中に中規模な屋敷を借り受けて当面の滞在場所としていた。しかし曹操はずっとそこで優雅に寝泊りしているわけでは無かった。

 洛陽東側最外郭の外に駐留している曹操軍には曹操、夏侯淵、夏候惇、荀彧、許緒、典韋の内二人が日替わりで詰めるという形になっていた。それも毎日、曹操、夏侯淵、夏候惇のいずれかが必ずいるという。

 当初曹操以外が自分達だけで交代しますのでと提案した。だが……。

 

「ここへは遊びに来ているのではないのよ。戦場の感が鈍るし、兵に示しがつかないから」

 

 曹操自身がそう言うと自ら日替わり要員に加わった。二、三日に一度程度の日替わりとはいえ、主君が傍にある立派な屋敷ではなく兵と同じように幕舎で休むのだ。それゆえすでに曹操軍はここへ駐留して半月以上経過するが、兵らの雰囲気に気の緩みは全く見られなかった。

 今夜はその曹操と典韋が駐留地に詰めている。曹操は天幕内で兵糧や装備の補給についての報告書に確認の目を通していた。すると夜の見回りを終えた典韋が警護の兵が立つ天幕の外から中へ声を掛ける。

 

「華琳さま、失礼します」

「流琉ね。定時報告かしら、入っていいわよ」

 

 典韋は曹操からの了承に天幕の中へ入って行くと、曹操の手前で礼を取り定時報告を行う。主に洛陽へ向かって来る外敵に対しての確認報告である。城内については賊等の監視を行っていた。

 

「東方面各所、北方面各所、南方面各所、いずれも大きな兵団等の動きや異常はありません。西方面に潜ませている者達からも今の所異常の報告は来ていません。外郭内も街中、城内側とも特に異常なしです。この駐屯地内も兵糧、飲料水、兵装、厩舎、兵の配置場所、兵の雰囲気を確認しましたが大丈夫です」

「そう、ご苦労さま。今日は昼間に小規模な模擬戦でも兵達の良い動きを確認できたし、私も半時(一時間)程前に陣中を少し見て来たけど大丈夫そうね。流琉、貴方も今日はもうおやすみなさい」

 

 曹操は、少し前に配下へ于禁、李典、楽進らが加わったとは言え、まだ入ってそれほど長くはないにも関わらず、若いながらも将として立派に務めている典韋を笑顔で労っていた。

 

「はい。華琳さまはまだ?」

「大丈夫よ。これをあと少し確認したら終わるから。すぐ休むわ」

 

 そこへ天幕の外から声が掛る。

 

「華琳さま、桂花です。よろしいでしょうか?」

 

 実は夏侯淵や荀彧らは曹操との組み合わせから外れても、曹操が陣側で寝泊まりする場合、一人を守備として屋敷に残すがそれ以外の者は密かに付いて来て陣側で寝泊まりしていた。曹操自身の実労働時間は、勤勉な曹操陣営の中でも常にトップクラスであった。臣下の良将達はそれを良く見ており、自然と礼を尽くすのであった。

 曹操もその屋敷からの自主的な移動については知っていた。夏候姉妹や荀彧がよく曹操の閨を訪れるからだ。

 だが今の荀彧の声は、よく夜に曹操が閨で聞く甘い声ではなかった。

 その事に曹操の表情が引き締まり、場が少し緊張する。

 

「どうかしたの、入りなさい」

 

 荀彧は、入ってくる早々に礼を取りつつ気になる要件を伝えた。

 

「はっ、実は先ほど、ここしばらく董卓配下の将の一人、華雄の姿が見えないという報告が上がって来ました」

「華雄……相当腕が立つ子だそうね」

「はい。現在董卓の陣には将が呂布、張遼、華雄とおり、飛将軍を始めいずれも武芸に秀でているとのこと。で、その華雄ですが、二、三日なら体調を崩しているという処でしょうが、すでに八日程姿を見ないとあります。董卓からは将の移動の報告はこちらへ出ていません」

「……そう、重病なのかしら。でも一応真実を把握しておいた方がいいわね。他の二将は?」

「今日の夕方の段階で呂布は郭内にいるようです。張遼は外ですね。最後に確認された華雄の位置は郭内です。いずれも当初より董卓側からあった将の配置報告の通りです。一応すでにそれとなく周辺に探りを入れていますので、明日には何か分かるかと」

「そう。お願いね」

 

 曹操は、まだ『新皇帝擁立』計画について何も気付けていなかった。いやさすがに気付きようがなかった。

 それは、賈駆と荀攸が曹操を洛陽に駐屯させる前にほぼすべての配置や兵装の準備を終わらせていたため、洛陽内では大きな動きが今日まで全くなかったのが大きい。また、駐留軍の一つに曹操自身が洛陽にいる事で、いつでも外敵に対処できると『安心』していたところがあったのだ。だがこれも現皇帝派について合理的に少数の兵だけにして纏めて叩くという賈駆の深謀な画策の一つであった。

 そして、董卓側と荀攸側でもこの計画を知っているのは兵を指揮する最高幹部達だけだったため全く外に漏れなかったのである。

 何進大将軍へ直接に追加の兵の許可を取ったのも、知っている者をなるべく何進のみに絞るためと、長安から洛陽までのいくつかの城などの検問を抜ける許可証が必要であったためだ。そしてそれはさらに荀攸の協力によって、袁紹軍の兵の代わりの補填と理由は明記されているものの、兵数について書かれていない通行許可証を作成していた。袁紹が三万以上の兵で洛陽に駐留していた事は周辺の軍関係者は知っている話であった。ゆえに中央からの通行許可証を持ち、三万余の兵を率いて洛陽に向かっても咎めるほど不自然ではない形になっていた。

 また賈駆は華雄についても―――呂布との激しい一騎打ちの模擬戦中に腕と腰を軽く痛めたとして、療養していると配下の兵らには伝えているのであった。他の者では華雄の名に大きな傷が付く内容だが、相手が呂布ではそれは大きな物に成ることはない。いや、逆に『箔』が付くと言える。

 黄巾党の乱では数万の大軍をいくつか破った功で将として夏候惇が官位を得ていたが、呂布は洛陽周辺の万に届かない黄巾党のいくつもの兵団に百騎程度で突撃を繰り返し、自慢の方天画戟(ほうてんがげき)と強弓で敵の総指揮官や千人隊長達を狙い撃ちで狩りまくっていた。その中には逸材もいたかもしれないが、呂布の前では皆雑魚と同じ運命を辿っていた。呂布はその戦い全てに無傷で生還した上、前に立った者はほとんどを一撃で屠ったと言われており、彼女の群を抜くその武勇に『人中の呂布』、前漢の李広に準えて『飛将軍』とも呼ばれるようになった。なので呂布と模擬戦をする気になるだけで十分怪物と思われ、実際に行ったとなれば誇れる程のことなのだ。

 その華雄は長安から来た董卓軍の定期補給の終わった部隊に紛れ、通行許可証と共に洛陽を脱出し董卓の本拠地となっている長安へ急ぎ戻ると、長安の守備兵六万三千から直ちに三万五千を率いて即時折り返して来ている途中であった。

 それは明後日の早朝に洛陽へ到着する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 袁術の本拠地、荊州南陽郡魯陽(ろよう)の城には、孫堅配下の将の一人、周泰が精兵五百とともに詰めていた。

 このことは、袁術自身が孫堅へ自身の身辺警護にと最近協力を要請した事であった。それは、孫堅がその気になれば容易に袁術を除くことが出来るということにも繋がるのだが。まさに信用しているという申し出であった。

 孫堅は英雄の才覚を持ち、戦、宝物、酒等に貪欲で、口調や振る舞いは乱暴なところもあるが、非常に義理堅い部分もあった。敵には全く容赦はないが、味方には非常に信頼を寄せ寛容でもあったのだ。

 そのため袁術の要請に対して、孫堅は周泰だけではなく、なんと末娘の孫尚香も友人にと寄越して来たのだ。つまりそれは人質にも等しい人選でもある。

 その際、袁術より間借りし今の孫家の居城と言える棘陽(キョクヨウ)城にて、孫尚香と周泰は孫堅より謁見の間にて命を受けた。

 

「小蓮(シャオレン:孫尚香)には荷が重いかもしれんが、両家の架け橋の一つとして重要な役目となろう。これは袁術殿と年の近いお前にしかできない事だと我は考えている。袁術殿と友好を育み良き関係を頼んだぞ」

「分かりました、大丈夫よお母様。周々(シュウシュウ)と善々(ゼンゼン)も連れて行っていい?」

「ふん、迷惑を掛けないようにな」

「は~い」

「明命(ミンメイ:周泰)よ、相互協力の関係にある袁術殿を常に死守せよ。同時にあの方はまだ弱く幼く、時には進むべき道へ導いてあげるがよい。小蓮の事も頼んだぞ」

「はい!」

 

 周泰はよく気が付き、機転も利き、腕も立ち、そして朗らかでやさしい性格であった。孫堅は人物も見て袁術の為にと送り出していた。孫尚香についても、人懐こい性格と好奇心が強く勇気もあって行動派なところが今の袁術に良い刺激になると考えたのだ。

 一方袁術の元では、この要請の書簡が出されたあとに参謀の張勲が知るところとなり、余りにも危険な行為だと袁術に撤回の書状をしたためて中止するように進言したが、結局は主君である袁術に説得されてしまう。

 張勲には野望などなく、だた袁術が心配なだけなのである。だが自分だけでは肥大してゆく袁紹の勢力には対抗しきれないと考えていたため、孫堅を巻き込んだわけであった。

 そして孫堅は少ない身入りや糧でも数倍する戦果を出しており、予想以上に義理堅いのは確かなようであった。そして今回、周泰は兎も角、娘の孫尚香まで寄越したことが張勲の考えをも徐々に転換させていった。

 袁術は、孫尚香と周泰の二人と五百の兵の到着を歓迎した。流石に虎の周々とパンダの善々には驚いたが、二匹は孫尚香に言われると、袁術の手を舐めて恭順を示すと袁術も二匹の頭をナデナデしてあげた。

 孫尚香には、宮城内の袁術の部屋に近い場所へ自分の城だと思ってくれて構わないと立派な部屋を用意した。このとき袁術は孫尚香と互いに真名を預け合うのだった。

 周泰も城内の場所の良い一角へ屋敷を与えられた。

 そして背中を預ける者として袁術より周泰も真名を呼ぶことを許された。同時に周泰も袁術へ真名を預けていた。

 

 周泰は夜の見回りを欠かさない。その身体能力の高さを使い、堅牢な城壁を超える事も苦ではなかった。今日も袁術や孫尚香の身辺を無事に守れて終われそうであった。今も袁術や孫尚香の寝所の周辺を、中から外からと見回って来たところである。周泰は日々命を賭して過ごしていた。

 ここ数日袁術の様子を窺い話も交わしているが、まだ幼い為か多少我儘なところがあるものの悪い人物ではなさそうである。周泰は人格者でもあった。孫堅の命とは言え、守るのならそれに相応しい人物を望むところであった。だが、その心配はなさそうに思えた。今の所は孫尚香とも仲良く過ごしているので、心置きなく主命を果たせそうである。

 そんなほっとした表情をして城壁の上で休む周泰の前を……一匹の灰色の猫が夜に輝く目線を周泰へくれながらスタスタと歩いて通り過ぎようとしていた。

 すでに仕事の終わった感のある周泰の表情は、もはや『お猫様』に夢中でニッコリと微笑んでいた。そして思わず声を掛けてしまう。

 

「お猫様お猫様。どちらへ行かれますか? 私と少しお話をしませんか?」

 

 猫は周泰の誘いに一瞬足を止める……が、またスタスタと歩いて城壁の矢避け用の壁の上へ飛び上るとそのまま移動を続けた。周泰は歩調を合わせながら、再び声を掛けていた。それは毛並の良さや姿の美しさなど、『お猫様』を褒め称えるものだった。周泰の目的は二つ。仲良くなることと、もう一つは―――モフモフすることである! モフモフしたいのである。それは気に入った人にされない限り、猫にとっては迷惑なことなのだが。

 散々、お世辞やおべっかを猫に送った周泰であったが、ついにその猫の毛並の良さに我慢しきれなくなる。

 

「その……少し……ちょっとでいいので、モフモフさせてもらえませんか?」

 

 その時周泰はお猫様へぺこぺこと手を合わせ、必死にお願いしているのであった。

 

「もちろん、お礼の品も……」

 

 そう言って、懐から煮干しを取り出すのだが―――無情にも猫は「にゃぁ」と小さく『イヤだ』と言うかのように鳴くと、トッと城壁面を伝って城壁から城内の屋敷から伸びる細く高い塀に飛び移るとそれを伝って行き、屋敷の屋根へたどり着くとその上へ登って移動し屋敷のいくつかあるベランダのような場所の一つへ降りて行った。

 周泰はガックリと項垂れるも、ふと思い出す。あの場所は……と。

 そう、そこは先ほどまで安全を確認していた袁術の寝所の窓辺だったのだ。猫はカリカリと窓扉を引っ掻いていた。すると、中から窓扉が開き、袁術が外へ出て来た。

 袁術はその猫の頭を数回撫でると猫の両脇を持ち上げるように抱える。

 周泰は思わず小声で袁術へ声を掛ける。

 

「美羽さま、美羽さま」

 

 夜中に声を掛けられ、一瞬身を縮めて声の方向にビクリとする美羽であったが、それが少し離れた城壁の上に居る周泰だと気が付いた。

 

「なんじゃ、明命か。脅かすな。……どうしたんじゃ?」

「その……お猫様は?」

「おお、こいつか。まだ小さい頃にたまに見かけていたので蜂蜜水をやっていたらそのうちに懐いてのお」

 

 話をしながら袁術は猫を抱きかかえる。その様子に周泰は蕩けそうな顔になり、もはやモフモフへの欲望に我慢できなくなってきていた。

 

「美羽さま、そのお猫様に触ってもいいですか?」

「別に構わんが……」

 

 周泰のいる場所はまだ城壁の上であった。袁術のいる場所は城内の屋敷の三階である。袁術の部屋にぐるりと回って来るのは手間ではないかと思ったのだ。だが周泰は気軽に答える。

 

「では、すぐ行きますね」

 

 そう言うと軽快に垂直な壁を走りながら猫が通ったのと同じ経路で、猫以上にあっという間で袁術のいる場所までやって来た。

 その様子に袁術の口から思わず「おおお」と声が漏れた。

 参謀の張勲も将軍としての腕前はあるが、とても今の周泰のような動きは出来まい。来た時から孫堅の寄越してくれた周泰の腕前を信じてはいたが、その見事な身のこなしに袁術は感心するほかなかった。

 そして同時に共に寄越してくれた五百の兵の大きさも感じていた。間違いなく孫堅の兵の中でも精鋭だろう。孫堅の兵は決して多くはない。どう頑張っても四千程だ。

 その貴重な兵数から割いてくれていた。

 だが今回の袁術の要請に対して孫堅からはその見返りの要望は―――何もなかったのである。

 袁術は孫堅の気遣いを思い『ぐっ』と来ていた。

 周泰は袁術へニッコリと笑って尋ねてきた。

 

「ちょっとだけ、そのお猫様を抱いてもいいですか? モフモフしてもいいですか?」

「あ、ああ。可愛がってやってくれ」

「はい!」

 

 周泰は嬉しそうに袁術からやさしく猫を借り受けると、少し迷惑そうにしている猫を煮干しで交渉しながら宥めつつ袁術の側に座ると猫の体をモフモフするのであった。

 袁術はモフモフに満足でニコニコしている周泰へ静かに尋ねた。

 

「明命は……、そいつも……妾も守ってくれるか?」

「はい! もちろんです。この命を掛けて、美羽さまもこの子も守ります!」

「そうか。頼んだぞ」

 

 周泰はいつまでも猫を笑顔でモフモフし続けていた。

 

 後日、張勲が二千五百の兵と荷駄の隊列を率いて孫堅の本拠地になっている棘陽城を訪れた。張勲は孫堅に謁見すると袁術からの感謝の書状を読み上げ、その『贈り物』について告げる。

 

「孫堅さんには、この度の要請へのお応えにとても感謝いたします。つきましては、美羽様よりこのお貸ししていた棘陽の地と少し南の育陽の地を贈られるとのことです。加えて、兵二千と兵糧一万石を合わせて贈られるとのこと。また宛の城と街の修復が終われば、そちらにも専用のお屋敷を用意する予定ですので、これからもよろしくお願いしますね」

 

 袁術は城付で二県の贈与に加え、兵二千とさらに孫堅軍全軍の半年分以上の兵糧を贈ったのであった。その話に、孫堅は穏やかな笑顔を浮かべ礼を言いい、孫策や周瑜らは目を閉じて微笑んでいた。漸く孫家として自らの永久の安住の地を得たのだ。それも二県も一度に。万感の思いである。そして兵も兵糧の備蓄も一気に増えるのだ。何と言っても、全員が当分飢える事がないのは素晴らしい事であった。

 今後、袁術と孫堅は連合の度合いをより深めていく―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここは青州。今だにここには多くの黄巾党の残党が残っている。そして、中央はここへの討伐の兵を送ることはなかった。それはこの地の黄巾党の兵数が百二十万を超えていたからである。

 現在は張三姉妹を中心に州内の統制が取られていた。

 ただ張三姉妹を中心と言っても、軍事関連は波才を、行政は三女の張梁が中心で、平凡ながら割と多くの武官や文官はいるが、大案を考え、承認印を押すだけでも睡眠不足になるほどの忙しさであった。

 しかしそれでも行政関連は裾野が広く、張梁だけでは正直回し切れない状態だった。何と言っても彼女はコンサートにも出なければいけないのだから。

 そんなとき張梁は文官の中に、すごく手際のいい子を見つけていた。名を孫乾と言った。紫調の美しい少し短かめの髪に猫耳風の髪玉袋と鈴の装りを付け、圧倒的な胸が強調されつつも少し大人びた白と黒と青の色合いの大胆な服装をしている。僅かに赤身掛かった優しい目と表情をしている女の子だ。

 張梁はすぐに孫乾を自分の補佐官へと任命して、コンサート時の不在時には行政代行も任せていた。

 また青州は黄巾党天国を背景に、中央からほぼ独立した状況になっていた。そのため、住民達は後漢の中央からの税についてはほぼ大部分が免除されており、地方の税が幾分大目に課されているのみで、住民達は他の州より幾分余裕のある暮らしが送れていた。そういうこともあり住民達は、州内で略奪を行うことなく農業や水産業を中心に普通の暮らしを営んでいた。

 そしてその労働の合間に、張三姉妹らによる青州の各所でコンサートが開かれるという娯楽があり、多くの戦友であり同志達と共に応援に興じることで、慰労になり連帯感や士気を高める事が出来ていた。

 だが、そんな落ち着いた統制下の中で事変が起こった。

 それは、青州城陽郡の徐州との州境近くの街にて張三姉妹によるコンサートが開かれた際の事だった。その日の為に数日前から、張梁が講演計画の中心となって会場周辺の青州黄巾党数千人も手伝い、皆で広大な会場を整備して用意していた。それは徐州からの黄巾党の同志ら数万が来ることになっており、会場は両州の黄巾党の同志で溢れ返って共に大いに盛り上がるはずであった。

 ところが当日、日が落る頃に開演時間となっても徐州からの同志が全く一人も現れなかったのだ。広大な会場は七割以上が空席となっていた。そしていまひとつの盛り上がりになってしまったコンサートが終わる頃―――傷だらけに変わり果てた徐州からの黄巾党の同志ら数百人が会場へたどり着いたのだ。

 会場は騒然となった。

 張梁がすぐに治療の準備や食事の用意するように指示を出す。

 青州黄巾党百二十万の大将軍でありながら、会場警備の責任者をしていた波才が掛け寄ると、比較的傷の浅かった千人隊長から事情を聴くことが出来た。

 話によると徐州州牧の陶謙の大軍に後方より不意に襲われ、徐州黄巾党のほぼ全軍が壊滅的な状況に陥って散り散りに敗走したという事であった。

 これまでも、大陸の至る所で何十万という同志達が、住んでいた土地も追われ戦いにも敗れ散っていった。だがその時は各地の同志達の大規模な組織軍や、張三姉妹の本隊も官軍の大軍に包囲されて動けない状況だった。救出に行くことも敵(かたき)を討つことも何もできなかったのだ。そして波才自身も予州潁川郡より追われ、兗州の本体に合流し、そして今は青州にいる。

 だが、現在この青州には黄巾党百二十万の同志と、州内各地に整えた城塞と蓄えた十分な兵糧があるのだ。

 

 いつまでも同志を討たれたまま俺達は逃げ回るのか?

 今が……怒りの反撃の時ではないだろうか―――。

 

 波才が静かに周囲を見回すと、黄巾党の同志達の多くの顔は怒りに震え、俯き拳を握って耐えているように見えたのだった。

 話を聞くためにしゃがみ込んでいた波才は静かに立ち上がると、傍に並び負傷した徐州黄巾党の仲間達をじっと見ている首領の張角へ、その昂った思いから言葉に力を込めて声を掛けていた。

 

「天和(てんほー)さま、大陸を獲るのは……今ではないでしょうか?」

 

 それを姉の横で聞いた次女の張宝は「それは私の言った台詞でしょー?」と一応波才に突っ込んでいた。

 波才の提案に、張角は右手の人指し指を軽く顎へ当て、少し考えるようなカワイイ仕草と姿勢を取るとお気楽にニッコリと大きく明るい声で答え始める。

 

 

 

「んー。じゃ~あ、みんなで獲っちゃおうか♪」

 

 

 

 張角の再宣言ともいえる言葉に、波才らが拳を突き上げて雄叫びを上げていく。

 

「うおおおおおーーーー大陸、獲るぞぉぉぉーーーー!」

 

 その声への反響と皆の同意の雄叫びが徐々にコンサート会場全体へ広がって行った。

 

「えっ……? 天和姉さん……(せっかく平和に暮らせて、歌も歌えているのに……)」

 

 治療の指示をしていて、その近くにいなかった張梁がそう絶句していた。

 

「ノリは大事よね」

 

 張角の横にいた次女の張宝は勢いだけで余り考えていない様子だ。

 そして長女の張角は―――

 

「まぁ、いいよね♪」

 

 と、先の事をホントに何も考えていない感じなのだが……。

 黄巾党の乱、第二幕も開演が近いのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 <<以下、R-15版一刀と司馬朗さんの熱い夜♡を含む 完全版はR-18カテゴリへ♪>>

 

 司馬朗は一刀の客間へ向かっていた。

 その頬や顔を真っ赤にしているのだが、それは一刀とのこれからあんな所やこんな場所のサワサワナデナデスリスリなイカガワシイ夜の事を想像しているのではなかった。いや、当然頭の片隅に考えているのだが、それはまだ後の話になるだろう。

 単に非常に恥ずかしいのだ。

 彼女はまだ、ただ廊下を、ひと気のない夜の更けた一刀のいる客間への廊下を、自分の部屋のある母屋から歩いて来ただけなのだが。

 では、なぜ恥ずかしいのか?

 それは生まれて初めて……こんなに淫らな『下着』を付けたからである。

 彼女は今、決して下着のみで歩いているわけではない。綺麗で豪華な刺繍の入った打掛をきちんと着てはいるのだ。

 しかし、恥ずかしいのであった。

 その下着は紫色の透け透けで胸布と腰布は別々であった。透け透けは湯殿で、すでに慣れているのでまだ大丈夫であった。胸布も司馬朗の豊満な部位に対して生地が少ないのもあり、一刀にはイロイロと全部見られてしまうだろうが、それも気持ち的には覚悟が出来ているのでまだ大丈夫。問題は腰布であった。もちろんきちんと履いているのだが。でもそれは……脱がなくても脱いだのと同じ状態に出来る仕組みの腰布なのである。簡単に表現すると中央でパカッと開いてしまうという代物であった。透け透けの意味も余りない感じなのだ。

 ハッキリ言ってしまうと少しじゃないぐらい直接見えている感じに近い。申し訳程度に、パカッと開かないように二ヵ所を紐で結んでいるぐらいなのであった。

 司馬朗は自然に少し内股気味に廊下を歩く形になっていた。しかしそれも微妙にスレスレしてしまい困ってしまう。

 そんなに恥ずかしくても、選んだのは司馬朗だから仕方がないのではと思うのだが……実は選んだのは彼女自身ではなかったのだ。

 使用人は見ていた。司馬朗が一刀から今夜にと選ばれたと知って、司馬防が娘の部屋の前に『夜の男女の有り方、過ごし方』という題名の本と、選りすぐりの取り寄せ下着の入った小箱を置いてソワソワと立ち去るのを……。

 そして司馬朗が、緊張しているのか喉を潤す為に水分を多く摂った所為か、厠へ行こうと部屋の扉を開けた時に、彼女は床へ「頑張りなさい、優華」と書かれた木簡と共に静かに置かれた反応の取り辛い親心を見つけてしまう。

 司馬朗も努力家で勉強家であった。そのため一刀との夜が迫る僅かな時間にも一生懸命勉強してしまった……『夜の男女の有り方、過ごし方』という題名の本を。しっかりと目を通して記憶しまくっていた。

 そして、次に司馬朗は下着の入った小箱を開けたが、斜め上なハレンチさに固まっていた。だが、本の中で睦み合う男女の一例にこれに近い下着を着ていたら……というのが有るのを思い出す。

 

(知識だけではなく実践しなければ身に付かないのだから)

 

 そう自分を言い含めて彼女は眼を瞑ると、勇気を振り絞って……静かに履いた。

 

 一刀の客間が近づいて来る。司馬朗はうっすらと手に汗を掻いているのが分かった。ここは自分の家であり、一刀が来てからも何度も訪れている場所というものの今宵は意味合いが違う。一刀から今宵は自分をと求められたのだ。あの『可愛い』と言われてから慕っている気持ちは昂る一方であった。ずっと共に歩みたい、自分にメロメロになって欲しいのである。そのためには母の行き過ぎと思われる衣装も使っているのであった。

 そして―――『司馬家』にとって重要な仕官の話もある。

 司馬朗に取っての仕官とは何のためなのか。

 その最大の目的は『家を大きくする』ということである。自分の才覚を発揮して仕官先に貢献し、対価として名誉や土地や地位を得て家に還元するのだ。

 彼女個人としては、普段も良く行なっている慈善事業や、人々の平和な生活を守れるようなそんなことに力を使いたいという思いもある。

 しかし、下に七人の妹達と家を背負っている以上、大きな間違いや我儘は許されないのだ。

 そしてその『家を大きくする』目的にはもちろん、一刀も関係があることなのだ。

 正直、一刀が県令から依頼され盗賊集団の対策責任者になった仕事を、その日の晩に片付けてしまうとは考えていなかった。素晴らしい武勇と勲功と言える。だが、司馬朗は司馬懿が手を貸すのなら『数日のうちに』片付くとは予想していたのであった。

 だが彼女が曹操へ出した仕官への返事の書状は月単位での有余を求めるものだ。その有余はもちろん意図的に書いている。

 彼女の目的は三つあった。一つは、もちろん一刀と気持ち的にも肉体的にも熱く固く親密になることだ。次に彼の名を大きくすることである。この時代、有名と無名では扱いに雲泥の差があるのだ。一刀の実力と今の実績でも時間を掛ければ名声を大きくすることは可能だろう。そして最後の一つは、旅に出るのを止めさせ、家族として共に仕官へ引きこむ事である。

 一刀の『街の英雄』としての武の実力は、この街だけの噂ではなく、すでに近隣へ及んだ大きな舞台でも実践実証されているのだ。

 司馬朗は一刀が―――『司馬家』を大きくするのにも必要な人材だと確信している。だから離したくない……いやそれ抜きでも一人の女の子として上背のある自分を『可愛い』と言ってくれる彼と離れたくないのであった。

 今夜はそのための大きな一歩なのである。気合いが違うのであった。心の奥底では激しい子孫繁栄行為をも僅かに期待している想いもある。

 だから容易にパカッと開くスケスケの腰布でも履いているのだ。

 そんな色々な熱い想いと意志を胸に、司馬朗は一刀の客間の前の両開きの折り畳み戸の扉の前まで来ると、緊張気味に中へ声を掛ける。

 

「一刀様、優華です」

「ああ、待ってたよ。入って入って」

 

 一刀の親しみのある明るい声で呼ばれると司馬朗は『いよいよなのね』とゆっくりと扉を開ける。そして恥ずかしさの為か、内股気味に少し目線を床へ落として中に進んで行った。

 

「ちょうどいいところに来てくれたよ。この漢字が分かんなくてさぁ」

「え?」

 

 一刀からの声の位置が予想していた正面の寝台の上からではなく、部屋の壁際にある文机から聞こえて来たのだ。おまけに漢字がどうこうと言う。

 そう、一刀は文机にさらに蝋燭を二本立て手元を明るくし、傍らに木簡を山と積んで漢字の練習に勤しんでいた。

 時刻は子時初刻(午後十一時)を回ったころになる。

 

「いやぁ、今日改めて白華、思華に復習させてもらって、覚えてたはずの漢字を結構忘れるんでヤバいなと……」

「はぁ」

「で、ここなんだけど」

「あ、はい、一刀様」

 

 司馬朗は、期待と大きく違う展開に一瞬呆けたが、自分が少し気負いすぎている事に気が付いた。

 それから二人は司馬朗に後ろ辺りから密着される形で、一刻(十五分)強ほどにこやかに穏やかに漢字の練習をしていた。一刀はこんな勉強も悪くないなと思いつつも、集中力が別の方に行ってしまうので少し考え物ではあった。

 それが終わると、一刀は遅ればせながらちゃんと言ってあげる。

 

「ありがとう、優華さん。助かったよ。それと……その……とても似合ってて可愛いね」

 

 一刀は初めから気付いていた、司馬朗の夜の艶やかさに。しかし、初めから飲まれる訳には行かないのである。待つ間も、漢字の練習はいい気分転換だった。

 司馬朗も熱い夜への想いに逸り過ぎていた自分を時間を掛けて抑えることが出来、自然な形で照れるように自分の服装へ目を落とした。

 

「いえ、一刀様のお役に立てて嬉しいです。そして……気に入って頂けて嬉しいです」

 

 一刀はこの世界へ来て、こっぴどく学んだことの一つに階級と順序がある。

 そう、魔王さまと武術の才能が少し程度な自分、魔王さまと知能が偏差値五十そこそこな自分、なので魔王さまが先で次が自分である。そして座席の位置にしても、それらが乱れると取り返しの付かない事(=死)もあるのだ。

 そのことは、この司馬家に来ても、城での宴会でも、そして応接屋敷での応対にしても社会の常識として当然存在していた。

 司馬家に世話になっている以上、一刀はそれを考慮しなければならないのだ……平和な日常のためにも。

 この家の女の子はみんな可愛いのであった。一刀はもちろん皆気に入っている。司馬懿を除けばとりあえず相思相愛な状況と言えるだろう。

 しかし、『誰をどれくらい好きか』、これへ下手に順番を付けたり適当に考えていると一瞬で破滅に繋がってしまう。血を見るのは確実なのだ(もっぱら一刀が……)。

 ここは当然、階級と順序に従うべきなのだ。では司馬防の次は誰か? 答えは司馬朗となる。

 だが、一刀は階級と順序がなくても次は司馬朗だと考えていた。司馬家へ来てからの関係を考慮しても彼女が選ばれるのだが、それでもやはり―――

 

 

 

 おっぱいである。

 

 

 

 まず、司馬防を凌いでいる。一家の中でナンバーワンと言える。いつもタワワンと揺れるのだ。揺れれば気になるのは当然。そして直接見たい。つまり、サワサワナデナデスリスリもしたいという事。そして――そこはまさに掴むための栄光の部位なのである。

 一刀も四六時中そんなことを考えている訳ではない。それでも漢として気にしない訳にはいかないのだ。

 今の一刀には大きな足枷も付いている。

 だが、その中でも彼には『譲れないモノ』があるのだ!

 一刀は彼女の母、司馬防のタワーワな魔性の胸で、すっかり味を占めてしまっていた……。

 とは言え、無理やりやガッつく事も憚られる。あくまでも自然で、お互いに気持ちの熱くなった『正義』な形でなければならないのだ。

 実はそんなイカガワシさ満載の内心も心の片隅に秘める一刀は、漢字の練習で使った筆などを平常心を保った顔で片付けていたが、その彼へ司馬朗は目的を確認するように聞いてくる。それも回りくどくない内容で。

 

「一刀様、その……私にお守りを渡してくれたのは、今夜私と一緒に夜を共にするためですよね?」

 

 加えて司馬朗は片付けの終わりかけていた一刀へ近寄り、彼の右肘を優しく右手で掴むと、彼の右後ろから身を寄せ左手を背中に回しふんわりとハグハグしてきたのだ。

 一刀は司馬朗の濃厚な女の子の香りに包まれていた。もちろん彼は条件反射でクンカクンカする。

 今日の一刀はお守りを渡すタイミングがほとんどなく、応接屋敷にいる時の少しの合間に手渡していた。一刀から「あの……これを」と周囲の目線から僅かに外れた時間に渡されたため、司馬朗も「わかりました」と頬を染める時間も有る無しな感じで受け取っていた。すぐに次の訪問客を迎えたため『自分へ渡して貰えたことでよし』とその時は考えていた。

 今になって朝の一刀の宣言が気になっていた。この漢字の修練もその一環であろう。昼間の一刀の行動も活力のあるものだった。昨日までのどこか少し影のある弱気な彼から一転して変わったように感じている。

 なので、もしかすると臥所に一緒に入らずに、そのまま健全に朝を迎えるとかもあり得るのだ。

 しかし、一刀は司馬朗へ向き直り、彼女の手を優しく握るとしっかりと考えを伝える。

 

「うん、今夜は優華さんと一緒に過ごしたいと思ったから」

 

 一刀は彼女から想いの籠った熱く優しいハグハグまでされ、すでにイカガワシイ気で満ちていた。だが――それだけでもない。この家へ来た当日からの彼女の行動、性格、表情等、人としても好ましいものだった。また姉妹の柱でもあるからか一緒にいると癒され、落ち着ける存在なのだ。一人の女の子としても、家族としても大事にしてあげたい、守ってあげたいと思っている。

 

「もっと色々話をしたいし、教えてほしいこともあるんだ。それにこれから二人だけで学ぶこともあると思うし……」

 

 そんな一刀の少し照れた熱い想いも込めながらの期待を裏切らない言葉に、司馬朗は頬を染めながら可愛らしい笑顔で頷き返してくれる。

 それから二人は、仲良く手を繋いで寝台へ並んで……もちろん桃尻をくっつけられる形で腰かけ靴を脱ぐと、落ち着いた感じでしばらく話をし始める。

 いきなり夜の営みへなだれ込む事にはならなかった。雰囲気は結構盛り上がっていたが、一刀は司馬防との夜の営みでも、少し経験値を上げていたからだ。

 一刀はまだ、この時代の、世界のことをよく知らないと言える。また、昨日今日と応接屋敷で街に影響を持つ多くの有力者に会った。その人達との話の中で良くわからない事もあるのだ。

 今日も夕食後に応接屋敷に出向いたり、昨晩も城で宴会だったりと全く落ちついて色々聞いたり話す時間がなかった。

 そのためそれから二刻(三十分)ほど、昨日会った街の有力者らの地位や影響力の話に始まり、この温県の街や外の事になる河内郡の状況や、近くだという都である洛陽の話なども聞かせてもらった。司馬朗も何度か洛陽へ行ったことがあるという。

 そしてその後に――― 一刀はある重大な事実を知る。

 

 この温は大きな街で自衛力も高く比較的富裕な民や商人が多いと言う。昨日応接屋敷に来た人達の多くは、その中でも各種の業種や役所の各部署の長(おさ)格の人達、そして街の区画での長老達や代表者らと言う。そう言えば街会議で会った顔役の人たちも何人か挨拶に来ていたのを思い出した。

 各街の有力者達の影響力は、その街では絶大だという。もちろんこの街でもだ。覚えを損ねるとそれこそその街には住めなくなるのだ。最悪殺されることにもなるほどらしい。それは現代よりも遥かに顕著である。ちなみに司馬朗へ『司馬家』の街への影響力を聞いてみた。

 すると、街会議で七、八割の賛成の意見を司馬防の反対意見で覆した事が何度もあるらしい。『司馬家』が反対すれば賛成派の有力者でも多くが意見を変えるほどらしい。その逆の反対派優勢を覆す場合も然り。伊達に会議の場で県令の近くに席があるわけではないのだ。また、屋敷の普段の私兵(守衛)は五十人ほどだが、街へ一声かければすぐに千人単位で人が集まるという。……恐ろしい。

 司馬防の機嫌を本気で損ねるとどうなるのか、その一部を垣間見た気がする一刀だった。

 そしてこの司隷河内郡は洛陽のある弘農郡に隣接することと、朱儁将軍が太守であったことから黄巾党の乱でもそれほど大きな被害を受けていないという。先日捕縛した神出鬼没な盗賊団の悪行が注目されるぐらいであった。治安でも政治でも概ね安定した地域だと言うことだ。雲華と見た泰山郡の黄巾党に焼き討ちされ尽くした街の惨状を思い出すと、一刀はこの地が恵まれている地域なのだと改めて感じていた。

 また洛陽は皇帝が居住する絢爛豪華で巨大な洛陽城を中心に、この温県の街の二十倍以上も大きいという。最外郭外周は百里(四十キロ)を遥かに超え、数十万人が暮らしているという。大陸各州の商人達が集まり訪れ各地の名産品も揃い、手に入らないものは無いだろうという街の賑わいだと言う。一刀も是非一度は行ってみたいと思った。

 一刀が聞いた話で驚いたのは、洛陽周辺の司隷を統括する役職の司隷校尉に袁紹が就いていることだ。袁紹と言えば確か三公を配した華北の勢力だと思っていたのだ。一刀は黄巾党の乱の辺りまで遡った袁紹の地位の話まで詳しく記憶に留めていなかった。何進の部下のような感覚で捉えていたぐらいである。

 その直後、一刀は話の補足だったのだが途轍もなく大きな衝撃を受ける話を司馬朗から聞く。

 

「黄巾党の首領の張角と本隊の二十万は青州へ移動し、強大な勢力を未だに維持しています」

「えっ……? 張角が生きてる?!」

「はい」

 

 司馬朗には一刀の驚いた意味がよく分かっていない。単に知らなかったことを今知ったと考えていた。

 一刀は固まっていた。明らかに一刀の知る現代に伝わる三国志と違う『展開』なのだ。すでに武将達がみんな女の子という点で大きく異なっているが、『展開』が違うというのは重さが全く違う事であった。シャレにならないのだ。

 

 

 

 つまり、一刀の知っている三国志の『展開』の知識があてにならないということ意味していた。

 

 

 

 もはや、なんでもアリと言える。

 最悪、『三国』に分かれない未来もあるということなのだ。

 それはもう知らないのに近いという事でもある。

 

「孫策伯符か孫権仲謀、それと劉備玄徳って知ってる?」

 

 一刀は思わず掌へ文字を書きながら司馬朗へ訪ねた。

 雲華にも尋ねた事だが、三国志と言えば、曹操、劉備、孫権だろう。すでに曹操は諸侯として確実に存在している。

 黄巾党の乱がとりあえず終わっていることからそれぞれ名を馳せているはずである。すると司馬朗は答えた。

 

「孫策、孫権は荊州南陽郡を治める袁家に協力する孫家の娘でしょうか。あと劉備ですが……私は………聞いたことがありません」

「…………(り、劉備を知らない?! いないってことないよね……というか、三国志なのに、劉備が表に出てこない未来ってどうなるんだよ!)」

 

 一刀は言葉が出なかった。そして背筋が寒くなると同時に思うのである。

 

 

 

(この世界は一体――――どこへ向かって進んでいるんだ?!)

 

 

 

 司馬朗は一刀の考え込んだように押し黙り、動かなくなった様子に思わず声を掛ける。

 

「あの、一刀様……? 一刀様!」

「えっ? ああ……そうか、劉備を知らないか……」

「はい……すみません」

 

 一刀の少し力の入らない声に、力になれなかった、期待に応えられなかったと思い、司馬朗が申し訳なさそうに謝ってきた。

 

「あ、いや、俺の記憶がズレてるだけかもしれないし、謝らなくてもいいよ。(そうだ、劉備はまだ小さな街を任されているだけかもしれない)」

 

 司馬朗を優しい表情で慰めつつ、一刀はこの時代の『展開』に自分の知る三国志との差異が小さいことを願う他なかった。

 すると、司馬朗が気を利かせてくれる。

 

「情報が集まる中央に勤める母様なら何か知っているかもしれません。明日にでも聞いてみます」

「おっ、そうか。都の洛陽なら確かに何か噂が流れてるかもしれないね」

「はい。ですが、その……今、名を挙げた方々は?」

 

 当然な疑問だろう。孫権までならそれなりに知名度はありそうなのだが、劉備は無名なのに知ってるというのは不自然極まりない感がある。一刀は曖昧になる答えを返すしかなかった。

 

「いや、放浪していた時にどこかで聞いた気がして……ね。俺もはっきりとした記憶じゃないんだ」

「そうですか。何かを思い出す手掛かりになるといいですね」

「そうだね、ありがとう。じゃあ、そろそろ休もうか」

 

 一刀は気を少し取り直す。先日司馬防も言っていたように悪く考えても良いことはないだろう。

 時刻は間もなく、子時正刻(午前零時)ごろに差し掛かっていた。明日もまた朝から応接屋敷に詰めることになりそうで睡眠は確保しておきたいところである。

 しかし――――そのまま休むはずもない。お互いに熱い目的があるのだから。

 とは言え、司馬朗にとって男と二人きりで夜を過ごすのは実質今夜が初めてなのだ。一刀の『休もうか』の声に改めて頬が朱に染まる。

 二人は手を繋いだまま、一刀は豪奢な刺繍の施された布団を大きく捲るとその真っ白な布の上を這うように、司馬朗は手を引かれるままお尻を滑らすように大きな寝台の枕のそばまで進むと、再び座った状態で向い合う。

 司馬朗は本で少し学習したが、一刀に先んじて動こうとはせず、彼の次の動きを……そのすべてを受け入れるつもりで待っていた。

 先ほど文机に灯されていた蝋燭はすでに消され、今部屋の中は良い雰囲気の明るさになっている。そこに浮かび上がる表情は、とても幻想的であり綺麗で可愛くもあるが……異様に欲情をそそりエロくもあったのだ。

 一刀は、司馬朗の雰囲気から自分の行動を待っているのだと推察し、彼女の目をじっと見つめる。

 司馬朗は恥ずかしい為か当初チラチラと目線を外すが、最後は一刀とジッと目線を交わし静かに見つめ合う。

 

「大丈夫だから。綺麗で可愛いくて……好きな優華さんに無理強いはしないよ。優しくするから」

「(可愛いって)! とても嬉しいです……その最高の言葉を聞けただけで。構いません、一刀様のお望みのままに。私はそれで幸せなのですから」

 

 蝋燭のほのかな灯りに部屋の壁へ浮かび上がった二人の影は、ゆっくりと互いに近付くと静かに頭の影が重なり合う。

 司馬朗がゆっくりと目を閉じると、一刀は司馬朗へその瑞々しい唇に僅かに優しく触れるようなキスをしてあげる。司馬朗は一度目を開け嬉しそうにほほ笑むと再び瞼を閉じた。一刀は再度唇を寄せ、軽く啄(ついば)むようにキスをする。

 二人の影は、初め僅かな間の重なりであったが、次第にその重なる時間が伸びていった。

 そして数度目のあと最後は一刀が上から被さる様に重なったまま寝台へとゆっくりと倒れこんでいった。

 それからしばらく長い間、熱く激しい接吻を終えると、一刀は司馬朗の恥ずかしいのか顔を真っ赤に染めた彼女の頭や髪を優しくナデナデしてあげた。

 そして一刀は僅かに体を起こすと、司馬朗に優しくキスの感想をささやき掛ける。

 

「とっても、甘いね」

「……はい」

「じゃあ優華さん、打掛を脱がすよ?」

 

 すると、司馬朗は仰向けのまま一刀を改めて見つめ直す。

 

「一刀様、私の事はどうぞ『優華(ヨウファ)』とお呼び捨てください。もう、貴方の妻のつもりなのですから」

「うん、わかったよ。じゃあ優華、打掛を脱がすからね」

「どうぞ」

 

 一刀は司馬朗の腰に巻かれた豪華な腰帯をゆっくりと外していく。外しやすいように司馬朗も体を座る形に起こして向い合う形になって協力してくれる。また腰帯もすぐに外せるよう六尺程(百四十センチ)と少し短いものであった。

 腰帯を外し脇へ置くと、一刀は次に打掛へ手を掛ける。司馬朗はその下のハレンチ極まりない下着のことを思い出し、それを見られてしまうという恥ずかしさにより、思わず一刀から目線を逸らしていた。

 一刀は自らの手で、彼女の打掛の前を開(はだ)けさせていった。そしてついに一刀の待ち焦がれていた司馬朗の見事にタワワンなおっぱいが、紫色の薄い生地を通してスッケスケの状態で彼の目前にその全貌を現したのである。

 

「おおお……」

 

 その圧倒的にタワワンな状態にもかかわらず、それは重さに負けることなく美しいフォルムを維持していた。さらに、司馬朗も熱くなっていることを表すように白かった瑞々しい肌は全体に僅かに朱に染まり、それぞれ中心やや上にあるポッチはツンと生地を持ち上げる程見事に大きく上を向いて存在を主張していたのであった。その周囲は少し広めに美しいピーンクな光景が広がっている。

 その一部始終を捉えようと、少し血走りかけたイヤラシい一刀の目によって最高解像度での脳内記憶録画がフル稼働していた。

 しっかりじっくりその豊満な光景を脳に焼き付けると(この間十五秒程)、一刀はさらに目線をゆっくりと、彼女のおへそのさらに下へと向けていった。

 

「……………」

 

 一刀はその下の美しい絶景に声が出なかった。

 司馬朗は一刀から目線を逸らしたまま動くことはなく、彼に視姦されるままであった。司馬朗は気が付いていなかったのだ。内股でスリスリと歩いていた事が、思わぬ事態を引き起こしていたのである。

 

 

 

 そう―――例の紐がほどけてしまっていたのだ。(パカリ)

 

 

 

 一刀はそれをしっかりじっくりと見てしまう。透けた湯浴み着越しとかではなく、正面から『生』で、そしてパ●パーンで~♪

 司馬朗にとって僅かに救いであったのがまだ座って足を崩した状態で、外れた紐は二本のうち前の紐だけだった為に『丸見え』ではなかったことだろう。

 一刀は、目線を逸らしたまま顔が真っ赤な司馬朗へ心に浮かんだ言葉をそのまま伝えていた。

 

 

 

「……ありがとう」

「えっ?」

 

 

 

 司馬朗は一刀の掛けてくれた言葉の意味が良くわからず、疑問の声を口から漏らすと彼へと目線を戻した。

 本当なら、『綺麗だね』『美しいね』『(胸が)大きいね』『触ってもいい?』等を想定していたのだが、その『ありがとう』は何に対してかと気になった。

 だが、その一刀の目線は彼女の下腹部に固定されたままだったのだ。(この間先ほどから二十秒程。もちろん脳髄の持てる総力を上げての多重記憶録画中です♪)

 司馬朗の目線も自然と自分の下腹部へ……その光景はほどけた紐が見えての『パカリ』。

 

「きゃぁ!」

 

 司馬朗は思わず小さく可愛い声を上げて足を閉じ、打掛の前を隠してしまう。

 その声と動作に一刀は慌てて目線を外し謝罪する。

 

「えっ? あ、ご、ごめん!」

 

 一刀はここで漸く、腰布の閉じていた紐がほどけていて大事な所を隠すための布が開いて無毛な女の子の絶対領域を露わにしていたことが、司馬朗の一刀へのサービスではなかった事に気付くのであった。

 正直、彼はガン見しずぎていた。真に羨ま……ゲッフングフン、けしからん事である!

 司馬朗は一刀へ困ったような少し怒ったような顔を向ける。

 彼女としては今夜にも見せてしまう所であったかもしれないが、ソコは絶対に一番最後になるはずの箇所であったのだ。

 彼女は恥ずかしさ一杯の控えめな小さな声で、一刀へ確認するように聞いてくる。

 

「一刀様……み、見ちゃいましたか?」

「優華、ごめん。み、見ちゃいました。てっきり君が見せてくれてるんだと思って……興味があったし……綺麗だったから……ホントにごめん」

 

 一刀は正直に答えるしかなかった。

 司馬朗は、今日一番に顔を真っ赤に染めて上目づかいで眉を寄せ困った表情をする。確かに恥ずかしくて目線を逸らせながら、自分が一刀に見てもらっていた状況である。一刀がそう思うのも無理はない。そして、彼女はいろいろと思うのだ。

 

(一刀様には、いずれ必ず見られちゃうところだし……興味を持ってもらえてるし、綺麗だって言ってもらえてるし……あぁ、でもなんて恥ずかしい! だけどここで立ち止まれない。大体母様に女として大きく遅れを取ってるんだから、これは一刀様とより親密になって巻き返す好機だと思うべきだわ。それにすべての事を覚悟してきたはず!)

 

 一方、一刀はここで痛恨のミスのを犯してしまったのではないかと考えていた。せっかく良い雰囲気だったにも関わらず、調子に乗り過ぎたのではないかと。正直、記憶録画のし過ぎで司馬朗の衝撃のエロ下着と半見えであった絶対領域の光景が、今も幻覚のように眼前にチラついていた。

 困った風な表情ながらも意を決した司馬朗は、そんな思いの一刀へ予想外の事を尋ねてきた。

 

「一刀様、その……も、もっと私の……女の子の秘所を見たいですか?」

 

 『喜んで!』と思わず言いそうになった一刀だが、『ちょっと待った!』のだった。今日の目的を当初のものに絞るべきだと考えた。調子に乗ってはロクなことがないのだ。それは雲華といるときに散々思い知ったことではないかと。もし司馬朗にニタリとされた日には……一刀は背中に少し鳥肌が立つのを感じていた。ここは謙虚に行くべきだろう。

 

 

 

 そう、おっぱいで!

 

 

 

 謙虚でもなんでもないのである。

 あのビッグサイズの掴むべき栄光の双丘をサワサワナデナデスリスリと、さらにもっとエスカレートしてイロイロしたいのだ!

 ホントに司馬防で味を占めすぎなのであった……。

 

「今日は、もう遅いし、きっと優華の大事な所を見せてもらうと、絶対夢中になっちゃうと思うんだ。だから今夜はまずその……君の綺麗な胸を……よく見せてほしいんだ。いいかな?」

 

 少し控えめに尋ねる一刀の両手の指が司馬朗に見えない位置で自然と空気を揉むようにワキワキと動いていた。

 そんなヨコシマな思いも行為も知らない司馬朗は、自分を求めてくれる一刀に気を取り直すように微笑むと答えてあげる。

 

「はい……私の……この胸は一刀様の物です。お好きなようにお楽しみください……」

 

 そう言うと司馬朗は両手で隠した打掛を肩からゆっくりと下へと落とし、その豊満で透け透けの僅かな胸布にまだツンと上に向かって美しい形の先っぽが立ち上がったままの双丘を一刀の前へ露わにしてあげていた。

 

 「じゃあ」と言いつつ、一刀は司馬朗の胸へ両手を広げるように外側の横から回り込むように遠回りに控えめに近づける。そして、ビッグサイズな双丘を下から掬うようにそっと触れつつ軽く持ち上げてみる。胸布が少ないので肌に直接触れる形になった。

 

 ―――スバラスィィィィイ感触であった。

 

 重厚でそして若く大きな分、司馬防以上ではないだろうか。マシュマロのように柔らかで滑らかな肌は程よい弾力も持っていた。指を滑らしサワサワナデナデすると非常にきめ細かい肌だと改めて思い感じていた。

 一刀はさらに堪能する。つまり、モミモミである。

 そしてモミモミへ円運動も加わり夜の営みは加速していく―――。

 

 司馬朗は快楽的な天国を迎え、クタリとしていた。呼吸も少し荒いものになっていた。

 それはやがて徐々に収まっていく。

 一刀はそのエロい情景を、司馬朗の頭や髪をゆっくりとナデナデしながら眺めていた。

 そして落ち着いた頃に、横になったまま天国初体験を終え少し不安そうな表情の司馬朗へ顔を寄せると穏やかな優しい表情で言ってあげる。

 

「とても、素敵で可愛かったよ。優華の胸は大きさや形や肌触りがとてもいいし、俺は好きだよ」

「ぁあ……」

 

 そして、一刀はその想いを伝えるように彼女の唇に優しくキスをしてあげた。

 司馬朗は本当に自分のすべてを一刀へ見られてしまった思いでとてつもなく恥ずかしかったのだが、一刀から貰ったその言葉への喜びの方が勝っているのを感じた。

 彼女は改めて思いを強くしていた。一刀と共に人生を歩んで行きたいと。それは女としての恥ずかしいところを一杯見られてしまっても、許してしまえる只一人の男の人だと今まさに実体験して理解出来たのだから。

 

 だが……彼女の恥ずかしいところはまだ終わっていないのであった。

 

 司馬朗は股間に違和感を覚えた。何か水っぽい僅かに冷たい感じがしたのである。

 

(えぇっ、まさか私……お、お漏らし……を!?)

 

 司馬朗は横になったままであったが思わず、両足を特に太腿を寄せる気持ちで閉じていた。するとやはり女の子の絶対領域の周辺に水気を感じ、自然と僅かに太もも辺りがモジモジスリスリの動作になっていた。

 すると一刀がその動きから彼女の状況に気が付いた。そして寝台の脇に用意していたのか何枚かある白い綺麗な手拭き用の布の一枚を司馬朗へ渡す。

 

「はい、優華これを使って。大丈夫だよ、俺は―――この香りが嫌いじゃないし……」

 

 余計な変態の一言が漏れているが、司馬朗はそれどころではない。本で少し勉強していたが、男女の営みで女の子の大事な所から、お小水でないモノが出るともあったが『こんなに出てしまうの?』という気持ちなのだ。いや、今はどちらかまだ判断がつかないでいた。好きな人の前でお漏らしなんて耐えられないのであった。

 しかし司馬朗は、ここで一刀の(変態な)一言を思い出す。今はお小水独特の匂いは感じない。それに代わってどこか淫靡な香りがしているのであった。

 

(と、とりあえず、お漏らしではないのね……)

 

 司馬朗は少し安心するが、この濡れた状態を処理したいところである。

 だが、今は手拭き用の布を受け取ったが仰向けで横になり、傍らで一刀が見ているのだ。この状況で絶対領域に布を当てがい拭き取る動作をするのは余りにも恥ずかしいかった。

 

 ちなみに司馬防はどうしていたのかというと……彼女は一刀がこの香りにニヤけた表情で盛んに鼻を鳴らしていたのに気が付いていたのだ。そこから一刀がこれを気に入っていると判断したのである。なので―――絶対領域についてはほぼ拭き取らずに一刀と夜を過ごしていた。

 計算高いが……エロ過ぎである。まあ一刀も一刀と言えるが。

 

 司馬朗は起き上がり、白い布を腰下へ隠すように置くと、一刀へ上目使いにお願いする。

 

「一刀様、その、少し背中を向いていてもらえますか? まだ、恥ずかしくて……」

「あ、ごめん。うん、そうだよね、分かったよ」

 

 女の子には細かくても気を使わなければならないのは当然と言える。

 一刀は、爽やかな笑顔で司馬朗へ背中を向けた。

 彼は何も残念なことも気落ちもしていない。なぜなら布こすれの音は聞こえてくるし……気と読めばそのあられもない姿を完璧に捉えられるのだから。

 ――最低変態紳士と言えよう。

 だが、今は彼女の気持ちを察してあげ、そこまではしなかった。日本男児の真心である。

 じきに自然と見せてくれるようになる時に、じっくりその様子を楽しもうと熱く期待して。

 でも、音だけであれこれ妄想して十分楽しんでいた………ある意味、最低には変わりなかった。

 

 すでに子時も終わりに近付き(午前一時前)二人は共に布団へ入り休む事にする。

 司馬朗は腰布と胸布を付けた姿であった。胸布は下腹部の水気を拭き取るときに付け直していた。やはりまだ少し恥ずかしいのだ。

 だが、二人は手を繋いでいた。

 そして互いに向い合うように横を向いて寄り添って横になっていた。一刀は時々司馬朗の胸へ顔を埋めるように僅かにスリスリする。もちろん、布団の中に湧き上がる麗しい女の子の濃厚な匂いをクンカクンカしつつ。

 そして、互いにお休みの挨拶の優しいキスを数度も交わしていた。

 だが、間もなく心地よさと気持ちよさと匂いの良さから、またも一刀から寝入ってしまっていた。

 そんな一刀の頭を司馬朗は彼の寝顔を眺めながら、優しくナデナデしていた。

 

(ずっと共に歩みますからね、一刀様。よろしくお願いします)

 

 最後は一刀の頭へそっと自分の顔を寄せると司馬朗も安らかな眠りへと落ちていった。

 

 <<以上、R-15版一刀と司馬朗さんの熱い夜♡を含む 完全版はR-18カテゴリへ♪>>

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ほどなく『司馬家』は朝を迎える。

 一刀が司馬家へ来て六日目の朝だった。そして――殆ど誰も知らないが、曲がりなりにも安定していた後漢帝国最後の朝である。

 今日も一刀は卯時(午前五時)過ぎから起き出し、庭の竹林で朝の鍛錬を司馬敏と行った。

 その寝床から起きる際には、司馬朗も一緒に起きていた。

 彼女は今の司馬家の内々をすべて預かっている立場である。仕事は山のようにあり毎朝早くに起きているのだ。

 お互いに『眠いね。でも今日も頑張ろう』と声を掛け合い、一刀の客間の前で軽くハグハグすると笑顔で別れた。

 

 そして早くも、朝食の時間を迎える。

 その直前に居た『寛ぎの広間』では、昨夜一刀の客間からの『きゃぁ』という声はナンダという事で話が盛り上がっていた。

 一刀としては、まず『ナゼに知っている?』と言いたい。

 もちろん発言者は司馬孚だ……。何やら恐ろしい……日頃から司馬孚とは仲良くしていなければいけないなと、一刀は思いを強くする。

 司馬防は内心は不明だがにこやかに傍観していた。

 司馬懿は片隅の敷物に寝転んで我関せずと本を読んでいた。

 当然、一刀は『黙秘』するしかない。

 だがそのために『きっと一刀様が逞しい体で激しく――』と下の五人の姉妹達から、より姦しく色々な熱い憶測が述べられていた。

 それは朝食の席へまでも続いていた。

 家内への差配のためそんな事情を知らない司馬朗が、家族の中で最後に一刀の横の席へニコニコしながら座る。昨晩を一刀と共に過ごし、自分を求められた事がずっと嬉しいのであった。

 そんな司馬朗だが食前に皆の前できちんと、今日もすでに応接屋敷に客が多数来ていることを告げ、家族皆の協力を呼びかけていた。ただ今日の来客は昨日程ではないので午後の未時(午後一時から三時)は休憩になるということだった。

 他、今日はお風呂があるなど伝達事項の後、いただきますの挨拶で食事が始まる。

 和やかに食事が進む中で、いきなり司馬進がハキハキと朝の熱い疑問に終止符を打つためかハッキリと尋ねてくる。

 

「優華姉様、昨晩の『きゃぁ』とは何かあったのですか?」

 

 一刀は聞いた。その瞬間に右側に座り、音も静かで上品に食事をする司馬朗から『ゴポッ』っと吹く音を。

 驚いた一刀は小さく何度も咳き込む司馬朗の背中を優しく擦って介抱する。

 それを見かねた司馬防がついに代わりに動いた。

 

「白華、先ほどから優華の一刀殿へ向ける明るい表情を見れば、小さな事だと分かるでしょう? 皆も初めて経験することに驚くこともあるはずですよ? それに夜の事を一々聞くというのは『野暮』と言うものですよ。覚えておきなさい、いいですね」

「「「「「「「は(ぁ)い(~)」」」」」」」

 

 まさに鶴の一声で決着する。

 司馬朗もほどなく無事に回復し、その後は和やかに皆での朝食を終了した。

 続いて間もなく一刀と司馬防と司馬朗は着替えをすると応接屋敷へ移動し、今日もすでに来訪していた客人達への応対に追われ始める。

 最初の辰時正刻(午前八時)からの半時(一時間)分の来客らへの応対を終えると、一刀は昨日から始めた通りに今日も午前中二度有る休憩の時間を、母屋での勉強会にて漢字の修練に充てていた。それの一回目を終えて再び応接屋敷に帰ってくると……また彼女が来ていたのだ。

 そう、朱皓である。

 

「あはは♪ また来ましたぁ~。今日も頑張ってますね。北郷殿、体調の方はどうですかぁ?」

 

 彼女が暇なのは良く分かった。

 しかし、こう度々来られると監視されているようで落ち着かない。本当に彼女には何か目的があるのかもしれない。

 でもまあ、雰囲気から行き当たりばったりで、全く計画性が無い気もしないでもないが。

 とりあえず、一刀は無難な対応をする。

 

「気遣ってくれてありがとう。幸いこうやって文明殿らお客人へお礼の挨拶をする分には大丈夫だよ」

「そう、良かったぁ。そうそう、昨日よりお客人も減っているし、時間があれば街を一緒に見て回らない? 馬で回れば短い時間でも結構回れるよ~」

 

 一刀は『街を回る』と『馬で』と言う言葉がちょっと面白そうに思えた。それに『短い時間でも』という所も興味を引いた。

 確か午後に一時(二時間)の休みがあったはず。厩舎で馬を借りれば半時(一時間)ちょっとなら行けそうに思えた。

 

「未時(午後一時)過ぎからで半時ほどなら時間があるけど……? それと俺一人じゃないかもしれないけど、それでもいいなら」

 

 一応保険も付けておくが、朱皓は全く気にしていないようだ。

 

「あは、いいわよ未時ね、分かったわ。じゃあその頃にまた寄せてもらうね~♪」

 

 そう言うと朱皓は、嬉しそうに笑顔で去って行く。本当に暇なんだなと思う一刀であった。

 するとその様子を少し離れた場所で見ていた司馬朗が近寄ってきた。

 

「一刀様、何故すぐに受けたのです?」

「えっ、何か不味かった? 休憩時間中には戻れると思うし、大丈夫だと思ったんだけど。あと街に不慣れな俺一人だと何か有るかもしれないから、腕の立つ小嵐華も一応一緒に誘おうと思っていたんだけどな」

「今すぐに問題という事はありません。ですが、あの方はこの河内郡の太守である朱儁将軍の娘だという事を忘れないでください。何か有れば太守様が出てくるのです。朱儁将軍の私兵は数万に上ると思います。お気を付けください」

「分かったよ。つまらない問題を起こさないように気を付けるよ。ありがとう」

 

 一刀は優しく司馬朗のスベスベな頬を右手で優しく撫でてあげる。

 

「い、いえ……」

 

 一刀の自然な優しい行為に司馬朗の頬が染まる。

 司馬朗は心配なのだ。もしかすると朱儁将軍が一刀の武力を欲しがっているのではないかという事に。大事な人を取られる訳には行かないと。

 

 それから特に何事もなく昼を迎える。

 今日は来客は絞られていたようだが、お祝いや贈り物、寄付金の一件当たりの額は増えていた。総額はすでにとんでもない額になってきているみたいだが、一刀としては特に関心はなかった。世話になっている司馬家に恩返しが出来て良かったと思うぐらいであった。

 一刀は無難に接客を熟し、二回目の休憩時間にも司馬進、司馬通から漢字の修練を受ける。昨日、そして今日も、総ざらいによる千五百字から二千字中で知らないものや忘れている漢字の割り出しを進めている。

 そして漢字の修練が終わると再び応接屋敷へ戻り、一刀は昼食を訪問客らと共に頂くのであった。

 乾杯や食事が終わり、来客への挨拶も一通り終わって落ち着いた頃、朱皓と約束した刻限の未時を迎える。

 ここで一刀は気付く。またもや飲酒乗馬になるということに。しかも今度は公道である。この時代、そんなことで馬に乗るほどの人物が咎められることはなかったが、司馬朗の言葉を思い出し不安要素を取り除こうと、一刀は数分の短い時間ながら水分を取った上で、体内の気を高めて代謝を促進し、可能な限りアルコールを体外へ排除した。

 一刀は少し早めに客間へ引き上げると、銀さんに動き易い服装へと着替えさせてもらった。一応、愛剣は持っていくことにする。如何なる時も油断は出来ないのだ。

 また司馬敏へは午前の二回目の漢字の修練の合間に、一刀から街への同行を依頼していた。すると二つ返事で返してくれた。もちろん朱皓に付き添っての行動ということは伝えている。

 

「兄上様からのお誘いですから喜んで!」

 

 司馬家の中でも実は、彼女は割と暇をしている。末っ子の特権と言うべきか、良い姉達を持ったというべきか、仕事は出来る姉達がみんな片付けてしまうのだ。

 司馬敏もやれば出来る子なのだが、少々甘やかされていると言えるかもしれない。

 ともかく、この街に詳しくて腕の立つ司馬敏が傍にいれば、大抵の問題は解決できるだろう。

 

 厩舎から馬が表の玄関へ回される頃、朱皓も馬に乗ってやって来た。

 一緒について行く司馬敏の紹介も県令の城での宴会で顔を合わせているのでスムーズに進む。

 

「幼達殿ね。もし迷ったらよろしく~」

「はい、文明様! この街は庭のようなものですから大丈夫です!」

「じゃあ、文明殿行こうか」

 

 一刀の掛け声を合図に出発する。しかし、さすがに馬三頭が横に並ぶと大変なので司馬敏には悪いが後ろについてもらい、前を一刀と朱皓が並んで進んで行った。

 朱皓は暇だったのかすでにこの街の大通りはもう大抵、馬や自分で歩いて回ったと話してくれた。その中で美味しい食べ物屋や、珍しい物が並ぶ店や大きな本屋辺りを今日は見て回ろうと言うのだ。一刀としても半時(一時間)程と限られた時間でもある。先に目的がはっきりしている方が計画や時間の配分がしやすいと思えた。

 さっそく朱皓が僅かに前へ出て先導し一刀らはそれに従い本格的に移動を開始する。

 馬なので人気のないところは少し駆け足で軽快に進めるため、牛車よりも断然早く移動が出来た。

 司馬家の屋敷がある邸宅区画を抜け、少しずつ人通りのある住宅地域を抜けると人通りの多い商業区画へと到達する。ここまでの所要時間は一刀の体感で十分も掛かっていないぐらいか。ここではさすがに駆け足だと危険なので、ゆっくりと馬の歩を進める。

 すると、あちこちから一刀へお礼の声が掛かってきた。どうやら乗ってきた馬の司馬家独特の馬具の飾りと、牛車で通った時に多くの人に顔を覚えられているらしい。同時に司馬家のただの客人ではなく、すでに連なる者という話も伝わっており、おいそれと気軽に話をしてくる感じではなかった。おまけにその横には太守の朱家の馬具の飾りの馬も並んでいるのだ。

 そうするうちに間もなく目的の店へ到着した。傍にある馬止へ馬を繋いでさっそくお店に入ろうと近付いた。どうやら甘味処のお店のようであった。

 

「ここですよぉ。北郷殿は甘い物は大丈夫ですよね~?」

「ああ、好きだよ」

「幼達殿は……大丈夫そうですね~」

 

 司馬敏はすでに店の前に漂う甘い香りにうっとりして中を伺いつつあった。

 

「はははっ、早く入ろうか」

 

 三人は早速お店に入っていく。だが一刀らが入ると店の中は『街の大英雄』がやって来たとお祭り騒ぎに変わる。

 外の作りも中の作りも立派なお店だ。店中でお礼の声を掛けられつつ、二階の個室へ急遽丁寧に初老の店の男主人自らが先導して三人は通された。

 朱皓は「急に悪いねぇ。ちょっと寄っただけだから」と軽い感じに、司馬敏も当然といった感じで歩いていくが、当の一刀は少し恐縮気味だ。

 その個室は一番作りの良い部屋のように見える。立派な座卓の奥に朱皓が座りその左に司馬敏が座り朱皓の前に一刀が座る。

 店の主人自らお茶を出し、注文を受け下がっていった。

 一刀としては元いた現代のノリで、もっと普通に街中を楽しむかと思っていたのだが、現状はまさに貴族やVIP扱いと言える。

 

「シャオランもこんな感じで時々街の店に来るのか?」

 

 一刀は普段どうしているのか気になり司馬敏へ聞いた。

 

「いえ、美味しそうなお店を見つけるところまではしますが、屋敷まで運んで来て貰いますね。お店に入って食べるのは、久しぶりですよ!」

 

 よく考えると、当然そうなるかと思う一刀だったが、朱皓は少し違った。

 

「私は良く自分でお店に入って食べるかな~。だって、早く食べたいんだものぉ。それに冷めてしまうものも多いんだから~」

 

 お嬢様でも色々いるという事だろう。だが太守の娘が街中をこうフラフラしていて大丈夫なのだろうか。彼女の気を探ってみるとそれほど大きくないのだ。横に座るほぼ同じ背丈の司馬敏と比べると一目瞭然である。朱皓のちんまりした胸と司馬敏のプルンプリンな胸の差の如くだ。

 気の大きさから、おそらく良くて十人隊長ぐらいの腕しかない感じに思えた。

 ……まあ太守の娘をどうこうすれば、ソイツとその一族郎党は破滅しかないわけだが。

 ここはそんな時代なのだ。

 

 そうしていると早くも、甘味が運ばれて来たので三人は頂くとする。井戸水で冷やされているのか、果物等がひんやりとしていて旨かった。納得の味わいを楽しめた。

 サービスなのか結構な量が盛られていたように思う。

 お代わりと言われて再度待たせると、店側も冷や汗ものと言う事だろうか。

 三人とも完食し、残り時間もそう多くないので満足のうちに店を出る。

 だが、ちょっと待てと思い一刀は朱皓に尋ねた。

 

「文明殿、代金は?」

「え~? 母上に請求するんじゃない?」

「……(おいおいお嬢さん、だだの店の主人が太守の将軍様に向かって請求できるわけないだろう)……ちょっと待ってて」

 

 一刀は店へ戻ると、銀の粒を一応持って来ていた立派な財布から取り出し、店の主人に渡そうとした。この財布は司馬朗が何かの時にと持たせてくれたものだ。金の粒も入っている。しかし店の主人は笑顔で受け取らなかった。

 

「ありがとうございます。ですが、街の皆を救った大英雄様から代金を頂いたら、この街に住めなくなってしまいます。それに北郷様が来てくださっただけで、大きな宣伝になりますのでご心配いりませんです、はい」

 

 そこまで言われては、一刀も笑顔で引き上げるしかなかった。店の主人は「またいつでも来てくださいませ」と言って店の前まで一刀ら三人を見送ってくれる。

 確かに、そのあと馬上からそのお店を振り返るとすでに長い行列が出来ていた……。

 皆逞しいものだと感心し店を後にする。

 

 そのあと、珍しい物が並ぶ雑貨店に寄り、大きな本屋にも寄った。

 三人とも各店で数点品ずつ品物をゲットしたが、揃いも揃ってどのお店も初めの店と同じ様に代金は受け取らなかった。

 三人が去ると大勢の人が集まるので、それが代金だと納得するしかない感じだ。

 朱皓は、お遊び入りな風で過剰な表現で言ってくる。

 

「北郷殿……いや、北郷さまさまのおかげよねぇ~」

「はい! 兄上様大人気です!」

「いやはや……」

 

 一刀も調子に乗るわけではないが、当然悪い気分ではなかった。

 さて、そろそろ予定の半時(一時間)も終わりが近付き三人は帰路につこうとしていた。

 

「さて、そろそろ時間かなぁ~。 ねぇ宿の傍へ送って欲しいかも♪」

 

 朱皓の申し出に、時間もまだ少しあるし太守のお嬢さんの安全を考えれば、まあ当然であろうか。

 

「いいよ、文明殿。幼達もいいかな?」

「はい、大丈夫です!」

「じゃあ、こっちだよぉ」

 

 先ほどと同じように朱皓と一刀が馬を並へ、司馬敏の馬が後ろに続いていく。

 そして、一刀の感覚で一行は三、四分ほど馬を進めると――何故か人気のないところへ出て来ていた。

 そこは幅が広めで四歩(五メートル五十センチ)の一本道だった。

 

 

 

 一刀はその前方に大きな気を持つ一人の人物を見つける。

 

 

 

「兄上様!」

 

 司馬敏は後方へ目を向けていた。すでに後方にも数名がいるようだ。

 一刀は気の捉える範囲を広げてみる。

 どうやら他にも人が配置されていて周辺を封鎖している様子が感じられた。

 一刀は……まんまと油断していた。

 

「文明殿……これは何かなぁ?」

「北郷殿、今日最後のお楽しみでぇ~す♪」

 

 朱皓はとても嬉しそうな笑顔で右に轡を並べる一刀へそう答えた。

 

 

 

 どうやらつまらない問題が起こりそうであった……。

 

 

 

つづく

 

 

 




2014年10月22日 投稿
2014年10月23日 文章見直し
2014年11月01日 文章見直し
2015年03月21日 文章修正(時間表現含む)
2015年03月22日 八令嬢の真名変更
2015年03月30日 文章修正



 解説)霊帝
 先帝の桓帝の実子ではなく、同じ河間王家出身。
 彼の治世の開始当初から、羌や鮮卑等の異民族の侵攻が活発化する一方、度重なる天災により地方での反乱も頻発した。後漢へ古きから仕える地方の将軍らがそれらの鎮圧に尽力する間も霊帝本人は宮殿内で商人風な事をしたり、酒池肉林に興じて朝政を顧みず、政治の実権は徐々に十常侍と呼ばれる宦官らが行うことになっていく。
 中央が機能不全に陥り社会が不安定に向かうと黄巾の乱が発生。すでに中央だけでは処理しきれず、地方の力を借りて乱を平定するも中央とはほぼ独立した地方軍閥の台頭を許すこととなった。
 その後も売官を行うなど「銅臭政治」と呼ばれる、賄賂が横行する悪政を行ったため、同時に治安の悪化も進み後漢の国勢はますます衰退した。
 国内がさらに乱れる中でも宮城にて崩御。
 ……ヤリたい放題です、酷いですね。



 解説)霊帝の売官
 曹操の父曹嵩が、三公の一つ太尉の位を1億銭で買った。
 崔烈も500万銭で、三公の一つ司徒を買ったとか。



 解説)後漢のお金
 五銖銭というのがありました。
 後漢末期の穀物1斛(石)の価格が、通常期に100~200銭位。
 1石26kg=13000円=130銭 とすると1銭100円感覚ぐらいでしょうか。
 まあ、貨幣や物の価値には年代差がありますし単純比較は難しいですけど。
 でも、上の1億銭がどれほどの額かですねぇ。流石金持ちの曹家。



 解説)人中に呂布あり、馬中に赤兎あり
 こう言われるようになったのは呂布が中央で行き場が無くなり、袁術に身を寄せたが受け入れられず、次に袁紹を頼って行き共に常山の張燕を攻撃した辺りとか。
 あと、董卓の傍にいたころから飛将軍とは呼ばれていたようです。



 解説)周々(シュウシュウ)と善々(ゼンゼン)
 周々は孫尚香のペットの白い虎で「ガウガウ」と吠える。
 善々はパンダで「グルルルルルルッ」と唸る。
 真恋姫の呉√に登場。



 栄光)おっぱいである。
 漢にとっての永遠の双丘である。なぜ、目指すのか? それはそこに双丘があるからだぁぁぁ。
 ……改めて書くと最低やなぁ。(笑)



 挑戦?)司馬朗さんの熱い夜♡
 『時刻は間もなく、子時正刻(午前零時)ごろに差し掛かっていた。』これ以前の文はR-15とR-18は同じ文章です。R-18部分だけだと文が繋がらず読みにくいところがあるので丸ごと入れてます。
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