真・恋姫†一刀無双 ~初出会は少女仙人-混沌の外史~   作:カメル~ン

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そろそろと始まります。
一応、小話から読んで頂ければ。(振り有)

●司馬八令嬢のおさらい
全員薄緑の髪。ぐるぐるの瞳。司馬懿以外は胸が大きい、おっきいんです
司馬朗 伯達(優華 ヨウファ) ………… 司馬家長女。背の高い優しい子(17話最後に小話)
司馬懿 仲達(明華 ミンファ) ………… 眠そうだが剣の腕も立つ子。胸は並程有
司馬孚 叔達(蘭華 ランファ) ………… 絶世の美女な子
司馬馗 季達(和華 ホウファ) ………… ほわわんな子(19話最後に小話)
司馬恂 顕達(環華 ファンファ)………… ツンデレ眼鏡の子
司馬進 恵達(白華 パイファ)………… ハキハキハッキリな子(19話最後に小話)
司馬通 雅達(思華 フーファ) ………… 優雅で無口な子(29話頭に小話)
司馬敏 幼達(小嵐華 シャオランファ)…… 日焼けしてて元気で剣才有りな子


第➋➒話 小話+ 一刀微動す

 

 

 

司馬八令嬢小話(思華編)『それは、妄想思考の渦を巻く者』

 

 司馬家の八人姉妹の七女は、名を司馬通(しばとう)、字を雅達(がたつ)、真名を思華(フーファ)という。

 優雅なカーブを持つ髪に、優雅な眼差し。背は姉妹の中では二番目に小さい。彼女のその全体の雰囲気が醸し出す、可憐な可愛さは普段着る衣装とも相まって思わず抱き締めたくなるほどだ。

 そんな少女だが、彼女には大きな欠点があった。

 それは他人に対して、上手く話をすることが出来ないのだ。良く言えば無口。

 

「………ぁぅぅ……」

 

 身内であれば、ある程度普通。長年家に仕える者で辛うじて。他人の場合、その人物の前に立つことすら難しい状況になる。

 だが、司馬家は非常に名門で裕福であったので、それでも問題は無かった。仕事をせず、外に出なくても食べて生きていくには全く困ることは無いと言える。

 しかし本人は、実はそのような消極的な人生を考えていなかったのだ。

 もちろん、長姉らに協力するのも吝かではない。身内に囲まれる環境は、気を使わなくて済むため非常に望ましい。しかしそれは、『万が一の場合』。

 彼女は―――『野望』を持っていた。ほんの(ささ)やかだが。

 

 

(自分で見い出した武人に仕え、その軍師になりたい。……主様は、諸侯ぐらいにはなって欲しいな♪)

 

 

 ――いや、案外細やかでは無かった。もはや『自信家』と言える水準だ。

 ここで分かる様に、彼女の思考は普通の者達と変わらない。いや、より活発と言えるかも知れない。

 ある日、一人の若い男が屋敷に運ばれて来たことから『彼女の野望』は『急に』始まろうとしていた。

 

 その男の人は、たった一人でそして無手にて、街内で何人も切り殺した上で逃げようとした凶悪な賊を打倒したと言う。操の固い母が認め、本屋敷に住まわせるらしい。こっそり姉妹らと見に行ったが、その時は姿を拝む事が出来ずに終わる。

 そしてその日の夜に、歓待の宴の席で彼と出会う事に。

 その際、姉の明華(ミンファ)(司馬懿)より実剣を向けられるも平然と苦笑いで受け流していた。

 

(なんて動じない方なの。……以前の事はよく覚えていないと言う方らしいけど、きっと一角の人物に違いない。厳しい雰囲気の母を制してのあの融和な対応。優しい雰囲気。ふふっ、私の『野望』にピッタリ♪ でも……私の事を気に入って認めて頂けるかしら。ヨシ!ここは頑張らなくちゃ)

 

「……ぅ七女……。司馬通(しばとう)雅達(がたつ)ですぅ……。北郷様……ょぅこそ」

 

 挨拶もスゴく頑張った。記録的だ、彼女にしては。やはり『野望』への想いの成せる技なのか。

 ほどなく宴が始まる。

 まず、母からお酒を彼の杯へ注ぎ、一芸を披露し始める。

 そして――母の胸が、揺れる揺れる。

 

(こ、これは……母上様、あざとい。ずっと身持ちの固い母上様が、外の男の方の前で『胸を揺らして』舞うのは見たことがないもの。積極的なのですね。むう、私も胸は結構大きいと思いますけど、母上様には適いませんし、舞にも母上様を上回る自信が……。でもせめて一芸ぐらいは)

 

 自慢ではないが、これまで外からの客人を招いた宴にほぼ出たことがない彼女である。姉の司馬進が、事前に「一緒に演奏でもしましょうか?」と言ってくれてて力強い。これで普通に彼の前へ颯爽と酒を注ぎに立つことが出来る。

 だが、いざ順番が回って来ると体は、思考とは真逆のたどたどしい足取りで若い彼の前へ進み出る。

 

「…ぅぞ」

 

 気迫で声を絞り出す。なんとか言えた……最低限の内容は。

 ヤバかった。喉が鳴らず、無音になるところだ。

 でも、彼の表情は自然な形でにこやかであった。

 中央からの客人らは決まって、彼女のたどたどしい様子に、小馬鹿にした物珍しそうな目線や不快感を表すのだが、彼の表情や優しい視線にそういった様子は見られない。

 思華(フーファ)の妄想は、飛躍し爆発する。

 

(目と目で通じ合う、主従関係~。なんて素敵なんでしょう♪)

 

 その直後の演奏も頑張った。

 彼は笑顔で、家族らに溶け込み盛んに『私だけの為に』拍手してくれている。彼女には、バッチリ『そう見えて』いた。

 

(ああ、北郷様~。この方となら天下も取れそうかも♪ 今宵から大戦略を練らなくちゃ)

 

 彼女も司馬防の娘で、司馬朗らの妹なのだ。気持ちが完全に突っ走っていた。

 

 次の日の早朝から姉妹らと彼の客間前へ押しかけ、思華は長い間モジモジとしていた後に彼へ頑張って告げる。

 

「……ぁぁぅ、ぉはょぅござぃますぅ……」

 

 すると彼は、彼女の頭を優しく撫でながら「おはよう、雅達(がたつ)さん」と笑顔で返事をくれた。

 思華は――蕩けていた。胸中の大戦略と共に。

 

(まず、温県で北郷様の名の元に二千程義勇兵を集め、纏まりのない幷州の上党郡辺りから破竹の如く勢力を伸ばし、幷州を平定。公孫賛と手を結び袁紹領を掠め取っていく。袁紹の勢力を弱めて、この河内を含む司隷に勢力を伸ばして、中央からのお墨付きを得る。そして公孫賛と袁紹を倒す。北方の幽州と冀州の一部を公孫賛に譲り、共同で南方へ進出。余力を残しつつ曹操らと手を組んで青洲を平定。この直後公孫賛と共同して、ここで曹操も倒す。この段階で幷州、冀州、予州、兗州、司隷の一部を平定。そのまま南方へ進み、徐州、揚州、荊州、交州……ああ、百万の兵らと大陸制覇はもう少しです……我が主様♪)

 

 「きゅぅ」と可愛く声を上げて、彼女は『北郷様』へ抱き付いていた―――。

 

 

 

 彼女の『野望』は、まだ始まったばかりである。

 

 

 

小話(思華編)END

 

 

 

 

                 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 時代と事態は、風雲急を告げ転がり始める。

 一刀の滞在する『司馬家』がある司隷河内郡温県へ、洛陽での動乱が伝わって来たのはその日の昼前であった。

 

 『今明朝、司隷京兆尹太守董卓、弘農太守皇甫嵩らが反逆し、皇帝であられる霊帝を武力で廃すと共に、新皇帝として献帝の擁立を行ない候』

 

 それはまず、温県県令の王渙(オウカン)の所へ伝えられた。そして同時に伝達の馬は、この河内郡太守の朱儁将軍の元へも走っていく。

 王渙は温城内宮城の謁見の間にて、その報を受け衝撃に震える。

 彼女にはこの街を守って行く義務がある。

 この温県は、都の洛陽から目と鼻の先にあった。そういう周辺地域は、中央からの影響を強く受けてしまうのだ。今までは黄巾党の乱でも守られ、安定していた都洛陽に近接する良い面を『経済』や『治安』で受けて来たが――今後は『動乱』の影響をまともに受けることから逃れられない。

 ここ河内郡の太守、朱儁将軍は廃された霊帝派側の勢力でもある。

 今の都の献帝を擁立した董卓らとは、敵対することになることは容易く想像出来た。

 

(そして、霊帝は生死不明。曹操軍の東への全面撤退。泥沼……ですね)

 

 まだ董卓軍らが霊帝と曹操まで討ち一方的なら、霊帝派側も諦めて纏まりようもあったかもしれない、だが。

 県令の彼女は、駆けつけてきた文官の長らや県の治安の長(県尉)へ静かに命を発する。

 

「直ちに予備役の招集準備に入りなさい。そして城内の兵糧、武具の急ぎ再確認を。我々は―――朱儁将軍の命を待つ。また、緊急の街会議を招集します、各所へ通達なさい。それと――」

 

 彼女は、もう一つ指示を出していた。

 

 

 

 その衝撃的動乱の知らせは、ここ数日行われている『近隣の街の大英雄【北郷一刀様】』に対して大勢の来客への応対を行っている司馬家にも齎(もたら)される。

 一刀がこの街へ来た際、一人の賊を倒した事で付いた『街の英雄』と言う彼の称号も大分とスケールアップしている感じであったが、そんなことが一気に霞むほどの内容であった。

 

 『董卓らの皇帝陛下への反逆と新皇帝の擁立―――』

 

 都への街道も一時封鎖され、街へ引き返してきた商人らから事情が伝わって来たという。応接屋敷の大広間は徐々に騒然となっていく。

 

 この国、この大陸はどうなるのか。

 明日からの生活は大丈夫なのか。

 都に近いここも戦場になるのだろうか。

 もう平和な日々はないのでは―――。

 

 誰か――――オシエテ、何カ希望ノコトバヲ。

 

 そういった思いからだろう、ふとその場の全員が徐々に―――『大英雄』と呼ばれている一刀の方を向いていったのである。

 一刀もそれに気が付く。

 その中には司馬家の面々、司馬防に司馬朗、そしてその場に偶々いた司馬懿までもが彼を見つめていた。

 

(……えっ?…………この俺に、どうしろと……………?)

 

 司馬防らの不安げな姿を、この場では英雄的な振る舞いを強いられている一刀は、静かに自らも混乱する思考の中で、ただ見つめ返す事しか出来ない。

 丁度その時、その場へ一人の使者が訪れる。

 ――県令からの伝令と言う形で。

 

 司馬家での『近隣の街の大英雄』に対して周辺各地から訪れる、大勢の来客への応対は急遽終了となった。当分それどころではなくなったからだ。

 応接屋敷の大広間とは別の奥の一室にて、直ちに司馬防と司馬朗に司馬懿、そして一刀も、訪れて来た使者よりその伝令を聞かされる。

 使者は静かに木簡を箱から出すと、読み上げる。

 

「司馬家には予備役兵千五百をご準備の上、このあと太守様の援軍も合流する温の街の防衛に協力いただきたい。司馬仲達殿にはその部隊長として二千人隊長をお願いしたい。副長等についてはお任せいたします、と」

 

 伝令と言うよりも協力要請であった。

 司馬家は街の顔役の一つで協力者ではあるが、家ごとに指示系統は独立している。県令の王渙や太守の朱儁将軍の家臣という訳では無いのだ。

 そして、本当に司馬家は一声掛ければ千人単位で人を動員できる模様である。

 

(太守云々言ってたけど……臥所でモミモミペロペロスリスリさせてくれる水華(シェイファ:司馬防)さんも、本気で怒らせるとホントに大変な事になるんだな……ガチで一族、いや区域ごと皆殺しに)

 

 だが、話はそれだけでは終わらない。

 

「また客人の北郷殿には、勝手ながら―――洛陽探索をお願いしたいと、王渙様が」

「「えっ」」「え゛っ」

 

 一刀自身まで、声が出てしまっていた。ただ、想定内なのか司馬懿は沈黙していたが。

 

 司馬家は間もなく『食堂広間』にて、花も飾られた漆黒の円卓を囲み全員揃っての昼食を迎える。(席クジで、朝から一刀の横は司馬恂と司馬敏)

 先の使者からあの後、急遽『街会議』を招集するという事も知らされ、その席で協力の内容と対策を決定するとの事になっている。

 もちろん出席しなければ中立か、敵になるという現状での意志表明にもなってくる。司馬家もよく考えて行動する必要に迫られていた。

 しかし、まずは全ての活力となる食事である。腹が減ってはなんとやら。

 司馬朗の「では、いただきましょう」の声で、皆「いただきます」と食事は始まる。

 司馬家の娘達は、既に全員が字を頂く一人前の扱いである。

 なので、先ほどの使者から伝えられた話は、使用人長ら以外を下がらせているこの場でも行われていた。

 

 董卓側の軍は、非常に強いと言う話だ。

 領土は、膨大な人口と市場を持つ洛陽のある司隷河南尹(かなんいん)も加えたことになり、兵数は総数で二十万以上を優に動員出来るだろう。

 さらに、配下の将軍らも飛将軍呂布を始め、張遼、華雄、長安にも高順。そして、元官軍の皇甫嵩将軍、盧植将軍らもおり非常に精強を誇る。

 緻密な作戦や寡兵であっただろうとはいえ、あの精鋭揃いという曹操軍を一蹴し完全撤退させたと言う実力は本物と考えていいと思われる。

 一方、この司隷河内の朱儁将軍旗下は総兵力は五万強程なのだ。将軍以外の将と言えるのは文官の長女の朱符と次女の武の立つ『あの』朱皓ぐらいか。

 河内は、洛陽に近く平地も多い地で要害は少ない。

 一概に『じゃあ参戦しよう』と気軽にいかないのは当然と言える。

 ただ、董卓軍もこちらへ向けて全軍を出せる訳では無い。

 洛陽から引き上げた曹操の持つ総兵力は陳留を中心に八万を下らないはずだ。また、霊帝派の筆頭と言える袁紹、そして南の袁術らも、それそれが遠征軍だけで十万、五万を優に動かせる規模の諸侯達だ。他にも公孫賛や劉表、陶謙等とこれらが連合を組んで動けば董卓側は劣勢に成りえるはずだ。

 そんな姉妹らの話を一刀は食事をしながら静かに聞いている。

 それは一刀に、『董卓の台頭』が三国志の知識としてあるものだからだ。非情で身勝手な政策から、この後は袁紹らの『反董卓連合』に敗北という流れで、繁栄を極めた広大な都の洛陽も焼き払われるという展開だったはずである。

 

(やっぱり、そういう流れになるのかな)

 

 先日、張角が青洲で生きているということを夜の寝台で司馬朗から聞いて動揺したが、この状況から完全に別物という訳では無さそうに聞こえる。

 そして家族皆での話は進み、意見を姉妹らが出し合い討論した上で、県令の要請に参加すべきかどうかの考えが出され始めていた。

 そんな、司馬家の面々の話を横で聞きつつ、一刀は少しぼんやりと考えていた。

 周辺の街の人達が去り際に、一刀へ向かって言った声が色々あったが、その中で一人の老婆の残した神へ拝むような言葉が思い出された。

 

『ああ英雄様、皆をお守りください。街を家を人を―――皆の幸せを、そして子供や孫達の希望を―――』

 

 その時は自身も動揺があり、「なんとか力になれれば」と咄嗟で返したが……。

 戦乱は全てを飲み込み、丸ごと磨り潰し奪っていく。

 一刀は、この大陸の本当に悲惨な現実の一部を実際に見て知っていた。『強大で理不尽な暴力』により、丸焼けになった先日まで人々の笑顔で溢れていたであろう街一つが呆気なく出来上がってしまうという惨状の跡を。

 

(俺には、命懸けで雲華に授けてもらった『神気瞬導』による結構な力がある。弱い人達を守るために、彼女に助けられた俺も―――何か出来ることがあるんじゃないのか。盗賊団を捉えた時の様に……)

 

 先程、県令の使者から伝えられた『洛陽探索』については聞いた瞬間、「俺がかよ?」と余り乗り気ではなかったが、一刀のその気持ちが静かに、そして大きく変わりつつあった。

 

 そう―――個人的な旅は何時でも出来る。世話になっていて愛すべき『司馬家』のあるこの街が間近で起こった騒乱で丸ごと無くなるかもしれないのだ……。まずここでの戦いが終わるまで、街の平和のメドが付くまでは『皆と頑張ろうか』と。

 

 

 周りの八令嬢の姉妹達の考えが結構出揃っていた。

 司馬孚曰く、「普通に考えれば逆臣の討伐。『大乱』を起こしつつある責任、世論や諸侯は反董卓へ集いましょう。出馬なきは当家の恥かと」

 司馬馗曰く、「董卓らは~長安等の領地内で庶民寄りの~『良い政治』を行なっていると聞き~ます。腐敗していた~中央に鉄槌を下したとも言え~ます。個人的には~董卓側を評価し~ます。ですが~この街を攻撃するのであれば~皆を守るため全力で闘うのみ~です」

 司馬恂曰く、「司馬家の為に―――最終的に勝つ方へ付く。反董卓であるべき」

 司馬進曰く、「どちらに世論が集まるのか……霊帝が生死不明とか。生きていれば反董卓。亡くなっていれば董卓側が有利に。ここは様子見も大事かと」

 司馬通曰く、「………ょぅす見で……(幷州へ進出好機♪)」

 司馬敏曰く、「義というものがあります! 理由はどうあれ『武での強奪』! 正義は董卓らには有りません! 討たれるべくして討つべし!」

 

 この辺りで少し急ぎになったが皆、昼食を終える。円卓上は皿類が速やかに片付けられて、使用人長の銀さんによりお茶が出される。また、床の赤い敷物の上には都洛陽を含む一丈半(三・五メートル)四方の大きな司隷河内の地図が広げられ、その周りを皆で囲んでいく。

 そして落ち着いたところで、長姉司馬朗の意見の前に満を持して司馬家の頭脳、司馬懿が述べる。

 

「司馬孚の意見は普通に考えればもっとも。これは逆臣の討伐だ。周辺の有力な諸侯らが動けば十分勝機がある。緒戦さえ凌げば街は十分守れよう。策もある……だが今回は同時に別の動きへも慎重に様子を見た方がいい、姉さん、母君」

 

「「「「「「「「「えっ?」」」」」」」」」

 

 司馬懿以外の皆から疑問符な声が返って来る。

 司馬懿の意見を受けて、このあと纏めの発言をしようとしていた司馬朗が尋ねる。

 

「何か、気になることでも?」

 

 司馬懿には『先見の感』があるのだ。皆、何度かソレに助けられている。一刀は知らないが、もはやそれは司馬家全員が無視できないモノに成っている。

 

 

 

「……何か―――もっと大きなことが起こる気がする……これからの戦い、どう転んでもいやなモノしか感じられない」

 

 

 

「「「「「「「「「え゛っ」」」」」」」」」

 

 司馬懿の述べた戦慄の発言に、全員が固まる。

 

 『皇帝が反逆で変わるよりももっと大きなことって?! 一体何が……』

 

 入口等で外を監視する使用人長らまでも固まっている様子だ。彼女らは口が堅い。そして彼女らも、司馬懿の『先見の感』のほどを良く知っているのだ。

 

「何か……それ以上のことが(今の状況でまだ入口と)……そう」

 

 家主の司馬防が、目線を落とし難しい顔をしてそう呟き考え始める。が、すぐに司馬朗を見て促した。

 

「優華、司馬家長子である貴方の意見を聞かせて頂戴」

「はい。この住み慣れた故郷の温の街を守ります。住む人を、子供達を守りたい。明華の言う……如何なる困難が起ころうと。

 そして今一つ。董卓という方は、『悪政』を断とうとしたのかもしれない。でも、最後の結末まできちんと見ていたのでしょうか。この段階で、大きな争いの種が残った以上『失敗』したと言えるのではないかと。もはや大きな戦乱を生み出し、関係のない多くの人々を巻き込みつつあるこの現状の『責任』を取ってもらう必要があると思います。私は―――反董卓を指示(支持)します。では母様」

「ええ。でも、その前に……一刀殿、貴方の意見を聞かせて欲しいわ」

 

 母である司馬防の言葉と、真名を預けた者の意見を、兄と呼ぶ者の意見を聞こうと司馬家家族の皆が一刀の方を向く。

 一刀は静かに皆を見回すと話し出す。

 

「………俺には大局は良く分からない。多分、皆の方が良く分かっているんだと思う。でも、優華の意見は尤もだと思う。この街を、人を戦乱から守らなくちゃ。ここへ来てまだそんなに経っていないけど、皆には世話になったし此処はいい街だと思う。俺もやれることは何でもやるよ。一緒に守ろう?」

 

 一刀はそう言って皆へ微笑んだ。

 司馬防も頷くと、自らの意見を述べる。

 

「これから大陸は、難しい時代になりそうね。様子を見ながら皆で慎重に進みましょう。でも最後に残るのは民や人の意志だと思います。それに助けられる指導者か、それとも利用する指導者か……、それとも――それ以上の何か……か。すでに『賽は投げられた』みたいだけれど、今はこの街を守りましょう。それと、明華の感では優華の仕官先の予定である曹軍の未来は悪くないハズ。ここは反董卓の勝利を信じ、県令の要請に応えようと思います。――いいかしら、私の愛する人達?」

「「「「「「「「はい!」」」」」」」」

 

 一刀も頷く。

 それらを受けた司馬防は指示を出し始める。

 

「和華、直ちに司馬家ゆかりの者達への招集を。各区画の代表へ通達なさい。数は、ひとまず千五百です」

「はい~母上~様」

 

 司馬馗は、直ちに使用人長の開けてくれた出口から『ほわわん』と出ていく。

 

「明華(ミンファ)、今回司馬の兵団、千五百を率いるのは貴方です。副官に環華(ファンファ)を付けます。しっかりなさい」

「はい、母君」「母上様、分かりました」

「優華、今次作戦参謀は貴方です。補佐に白華を付けます。後方の兵站、兵装の準備もしっかりね」

「「はい、母様」」

「蘭華、貴方はこの屋敷の事を思華と頼みます」

「はい、お母(かあ)様」「……はぃ……ぉヵぁさまぁ」

 

 そして司馬防は、残る一刀と司馬敏を見る。

 

(俺とシャオランが、例の『洛陽探索』になるのか……まあ、適役かな)

 

「一刀殿、これ後に街会議へ向かいます。その席で、恐らく依頼された『洛陽探索』の任に就く事になると思います」

「はい」

「その際、同行者をして、小嵐華、そして――――私の予定です」

「は?」

 

 『私』と言われ、一刀は一瞬『良く分からなかった』のだが、その瞬間―――

 

「「異議有りーーーーーーーーーーですっ!!」」

 

 司馬朗と司馬孚が、司馬防へと食って掛かる。母対娘×2での開戦である。

 

「母様、それはイケマセン!」

「そうです、それならば薄布(ベーゼ風)を被ってでも私が洛陽へ行きます!(今夜は私が添い寝の番ですし)」

 

 家主で総大将に当たる母を危険な敵情視察に行かせられない―――のもあるけど、夜が母の連荘になるのではないですか!と両者ともそんなところの方が心配であった。

 だが司馬防も正論と親の威厳で対抗する。

 

「娘達よ、最新の現地を良く知る者が同行する事に、何か問題でも?」

「「ぐっ(そうきますか)」」

「それに、剣の腕で私に勝てますか?」

「「ぐぐっ(確かにお強い……)」」

 

 そう、実は動体視力と言い、剣技といい、司馬防もこの娘二人以上に結構ヤルのである。

 娘達に反論を許さなかったのだ。さすが母である。

 何といってもこれまで、司馬の兵団を率いていたのは彼女なのだから。

 

「優華、私の不在時は貴方が兵団の総指揮をなさい」

「はい……母さ―――」

「水華殿、ちょっと待ってください」

 

 司馬防と落胆気味の娘二人は、声を掛けてきた一刀の方を見る。

 

「俺は、水華殿の同行には反対です」

「………なぜ、です?」

「水華殿、概略でも地図があれば何とかなります。今回は、相当過酷な道中と現場だと思います。小嵐華程の動きが出来るなら大丈夫だと思いますが、出来ますか?」

「………(ああ、彼の気持ちに――今度は私が言い返せないのね)」

「心配なんです、貴方が」

 

 そう言って一刀は、司馬防の手を取って静かに見詰める。

 

「(ズルイ……これではもう何も言い返せないわ……でも嬉しい)わ、分かりましたわ……一刀殿がそう言われるなら、従いましょう」

 

 司馬防は、少女の様に頬を赤く染めながら見詰め合う一刀へ従った。

 司馬朗と司馬孚ら姉妹らも驚く。

 

(あの厳しい母様が、意見を引っ込めるなんて……初めて見るかも)

 

 顔役たちが集う街会議や、太守を前にしても意見を堂々と主張して来た母であった。だが、愛は人を変えるのだろう……そんな思いが垣間見えた。

 という事で場が、ひと段落ついたかに思えた頃、再びひと波乱起こる。

 使用人の一人が知らせを持って広間へ入って来た。

 

「大変です、伯達お嬢様! 守衛の楊(よう)殿が―――『書簡』を持ったまま帰って来ました」

「! ……そうですか」

 

 司馬朗の顔が、右へ目線を外し複雑な表情になる。

 楊は、司馬朗より曹操宛に仕官の返事を記す書簡を託された司馬家使用人きっての武を持つ女性守衛だ。別室で待っていた楊の下へ、司馬朗は食堂広間を抜け出し急ぎやって来た。

 ここ数日余り休んでいないのだろう、楊の表情に疲れが見て取れる。

 

「お嬢様、申し訳ございません。予定通り陳留へ行き、城を預かっていた曹仁将軍へ会うも、現在孟徳様は洛陽駐留とのことで、急ぎ駐留先の洛陽へ向かい今朝到着しましたが―――『事変』を受け曹軍は東へ全軍敗走したとのことで、曹孟徳様に会えておりません。敗走という重大な状況を受け、その場で判断しかねましたので再度ご指示をお願いしたく戻ってまいりました」

「……そうですか。楊、苦労を掛けましたね。書簡は?」

「はっ、こちらに」

 

 司馬朗は、出された書簡の入った箱を受け取ると―――楊へ言葉を伝える。

 

「貴方は、今日はゆっくりと休みなさい」

「しかし―――」

「今は、曹操様側にしろ、こちら側にしろ―――それどころでは無くなりました(洛陽探索から戻られれば、そう、一刀様を高く大きく羽ばたかせる『好機』が来ていますし)」

 

 司馬朗は再度、楊へ休むように伝えると部屋を後にした。

 

 司馬家はすでに次へと動き始めている。

 一刀は食堂から客間へ戻り、使用人長の一人である銀さんに急いで着替えさせてもらっていた。今回も公式の場で着ている、白地に銀糸を織り込まれている形のキラキラした生地の中華風な上着とズボン型の衣装だ。シンプルで動き易いながら贅沢な装いで一刀も気に入っている。

 

(曹操陣営への仕官の件、優華はどうするつもりなんだろうな……)

 

 そのことを考えながら身支度を進める。

 このあと、司馬防、司馬朗、司馬懿と共に『作戦会議』とも言える街会議へ乗り込む予定である。一刀は『龍月の剣』を、飾られていた剣台から掴み上げ腰に帯びる。

 以前の街会議で、剣を帯びた時とは意味合いが違う。前は『お飾りもの』な感じで付帯していたが、今日のは賊退治の時と同じ様に、非常時の完全に『人を倒す為の武器』として帯びているのだ。いつもより気持ち的に少し重たく感じていた。

 本屋敷の立派で広い玄関口へ二頭立ての馬車が回されてくる。朱色をメインにアクセントと車輪周りを黒色で塗られ、金具等に金銀細工が多く使われているいつもの高機能な車が付いている。すでに玄関前に出揃っていた一刀ら四人は、壁板を嵌められた形のその車へ後尾より乗り込む。

 今の時刻は、未時正刻に一刻強程前(午後一時四十分)頃だ。

 司馬朗は、軍師チックで優雅な鳥の羽の扇を持っている。司馬懿も一刀の様に帯剣している。これも司馬家に伝わる名剣だそうだ。

 一方司馬防は……一刀へ桃尻をピッタリとくっ付けて彼の手をサワサワと握っていた。

 向かいにいつもの眠そうな顔の司馬懿と座っている、ヤキモキ顔な司馬朗の扇の木製取っ手が微妙にミシミシと鳴っているのは気の所為ではない。

 一刀は苦笑いのあと、司馬朗へ先ほどの『戻って来た仕官の書簡』の件を尋ねる。すでに司馬防らは、一刀が玄関口へ来る前に聞いている様子だ。一刀の重要な質問にも司馬防らの口許は優しく緩んでいる。

 彼に聞かれた司馬朗は答える。

 

「今はいいのです。それより―――先にすることが出来ましたので」

 

 最終的には彼女自身で決めなければならない事であり「そ、そう」と一刀は返すのみであった。確かに曹操側も現在敗走中らしいし、こちらも強大な董卓軍が大軍で街へ押し寄せて来るかもしれないというトンデモナイ状況ではある。彼女の言葉に納得せざるを得ない。でも『この時期だからこそ、よりチャンスだったんじゃ?』とも彼はふと思った……。

 ほどなく街を抜け県令らが集い『街会議』が開かれる温県城へ到着する。その宮城内屋敷の一つの奥にある広き部屋、すでにコの字に近い形で並べられた大きめな机群が用意されている謁見の間へと進む。

 今日はコの字の位置以外にも机が並べられ、顔役の他にも多くの有力者が集まっているようであった。

 有力者の上位に位置する司馬防達の姿に、集う有力者らから軽い会釈や挨拶の礼を受ける。

 すぐに県令の王渙が、笑顔で近づいて来た。司馬家の戦力は当てになるのだ。戦いになれば、強い味方は多いに越したことはない。

 司馬防が先に軽く礼を取ると司馬朗や一刀らもそれに倣い礼を取る。

 

「おおっ建公殿、良く来られました。お待ちしていましたよ。良い時期に都からこちらへお戻りでしたね」

「ええ。王渙殿もお変わりなく。我が司馬家もお力になれればと」

 

 王渙が、司馬防の言葉と後ろに続く一刀ら三人を一瞬見て頷く。長子司馬朗、奇才司馬懿、客人ながら一族同然と言う若き『街の大英雄』北郷一刀と、司馬家の本気振りがそれで見て取れる面子が来ているのだ。

 司馬家の到着で、体裁が整ったのだろう。王渙が告げる。

 

「そろそろ街会議を始めましょう」

 

 県令の声に、集まっていた街の有力者らが席についてゆく。そして場が鎮まると王渙が話始める。

 

「まず状況確認になりますが―――ここでお一人、ご紹介します」

 

 王渙の言葉と共に、謁見の間の入口傍の銅鑼が鳴り、大きな扉が使用人らにより開かれる。皆の目がそちらへと向いて行く。そこには一人の、肩の辺りで綺麗に切り揃えられた薄い紫の髪を揺らし、淡い紺と黄色の動き易そうな服に鎧を纏った女の子が静かに立っていた。

 それは、あの一刀の賊討伐の宴で中央から来ていたと聞いていた確か、王匡(おうきょう)という何進大将軍に仕える武官の子であった。

 

「朝方まで洛陽におられたという王匡公節(こうせつ)殿です。ご存知の方もおられると思いますが、彼女は何進大将軍の下で地方への軍需物資の補給など、後方担当の役をされていた方であります」

 

 県令の拍手に周りも続き、謁見の間に拍手の輪が広がる。

 彼女は、コの字の形に机が置かれたところも突き抜けるように、足元へ敷かれている赤い絨毯の上を進んで来ると、県令の王渙の前まで進み出て一度礼を取る。

 そして皆へ振り返ると僅かに俯き気味だった顔をゆっくりと上げる。

 

「王渙殿の紹介、痛み入ります。王公節にございます。今朝ほど、逆臣董卓らは総勢五万程の軍で反乱を起こし、宮城等の洛陽内の主要な施設を抑えております。私も城内におり危ない所でしたが、隙を付いて城壁を越えて郭内へ、そして協力者らの助けもあり配下の五十騎程で追手を躱しつつ洛陽の外郭を脱出してまいりました」

「「「おおーー」」」

 

 彼女の武勇と行動力を示す脱出逃避行に声が上がる。彼女は言葉を続ける。

 

「洛陽城内で何進大将軍は飛将軍呂布に切られ、何太后様は捕まり、十常侍の方々も一人夏惲殿が捕まるもそれ以外は抵抗の上、炎上する楼閣と運命を共に。ただ趙忠殿のみが霊帝陛下と共に城外へ脱出されたのではと協力者らに聞きました。また、私と同様に外へ出れた者は、かなり少ないと思います。皆捕まったか切られたかと。私は割と早い段階で外へ出れましたので助かりましたが、外にもその後多くの兵が出て来ていましたので、あの後の突破はかなり難しくなったと考えられます。……勝手ながら私も叶いますなら、皆様とここで何進大将軍への恩を、闘いと言う形で返したいと参上しました」

「貴重な情報に感謝します。さあ、王匡殿こちらへ」

 

 何進は私服を肥やす人物であったが、協力者や部下への気前は悪くなかったのだ。王匡自身は余り賄賂に染まることはなく、堅実に職務を熟す人物であった。武も立ち、仕事も優秀だったので何進は彼女を普通に好遇していた。そのため、王匡は何進には恩を感じていたのだ。人というのは、悪い一面だけでは測れないところもあるのだろう。

 県令の王渙は、正面に並ぶ三つの机の中心に座っているが、王匡へ右側の机の席の一つを勧める。

 司馬家の机が前に有る位置だ。宴で面識のある一刀らは静かに声を掛ける。

 

「大変でしたね」

「追手は大丈夫でしたか、怪我とか」

「幸い、追手は普通の兵達でしたので。将らが率いていれば危なかったでしょうけど」

 

 董卓の配下の将には、三国志を代表する呂布や張遼らがいるという話なのだ。これから洛陽へ探索で乗り込もうと言う一刀らには、まさに他人ごとではない話と言える。

 街会議の話は進む。

 王匡の話を受け、霊帝派の洛陽内の残りは殆ど投獄されていると予想された。事前に董卓側の参謀らは、捕縛する人物らの特定を進めていたのだろう。

 洛陽での内部工作は、ほぼ無理な状況の模様だ。

 そしてこの街自体の対応の話に移ってゆく。

 県令は朱儁将軍の命を待って、この街を防衛すると皆へ告げる。元々温県の街は河内太守の朱儁将軍の支配下なのだ。王渙自身も太守により任命されている。その王渙の呼びかけで集まった有力者達である。異論を唱える声は上がらなかった。

 打って出るとなれば異論もあろうが、自分達の財産のあるこの街を守ることは『当然』の判断である。

 それからしばらくは、現在の兵力、兵糧、装備の現状の確認報告。そして予備役の招集状況。そして担当割。

 県令の王渙が出す兵で二千を超えるほどだ。司馬家の千五百はかなりの数と言える。

 各有力者らの予備役を合わせれば、とりあえず六千を超える兵が街を守ることになる模様だ。予備役といっても街では、このご時勢であり半月、ひと月ごとに区域単位で集団訓練が行われており、日々の農作業等の合間や個別に準備はされていたと言う。

 それに加え「これから太守様からの援軍もあるだろう。また、反董卓の諸侯も近く動き始めよう」と王渙は語気を強め述べる。

 温県は司隷河内でも比較的大きな街であり、朱儁将軍もここを早々に失うと全軍の士気に関わると考えていると見ている。

 そんな感じに話は進んでいるが今の所、司馬家の頭脳である司馬懿からは特に発言は無い。いつも通り眠そうな目で黙って聞いていた。

 一刀がどうなの?と聞いて見ると。

 

「別に………一刀兄さんの洛陽探索の方が気になってる」

 

 そんなマイペースな返事が返って来た。(頼りないから?と)意味合いは分からないが、司馬懿に気に掛けて貰えて彼は少し嬉しい感じだ。

 丁度、そのときに県令からその話が出て来た。

 

「温県での準備はこのように順調に進められると考えています。気になるのは董卓側の動きです。どれほどの規模の軍がこの温県へ、司隷河内へと向けられるのか、それを率いる将軍は誰なのかを早期に掴む必要があります」

 

 当然である。温県の予備役にはまだ余力がある。しかし、敵の規模を想定せずに総動員しても効果は上がらない。動員時期には最良のタイミングがあるのだ。

 そのためには、董卓側の現地で用意される兵団規模を正確に掴めればいいのだ。

 

「そこで、洛陽内での董卓軍側戦力の準備動向について探索が必要となります。非常に困難な役目となるでしょう。また洛陽からはこの街は距離が近いので、対応の期間を考えるとすぐに情報が欲しいところなのです」

 

 そう、予備役を招集するにも時間が多少は掛かる。

 情報を掴んで、出来るだけ早く戻ってくる必要があった。

 

「―――北郷一刀殿。この難しいお役目を、董卓側へ顔の知られていないであろう貴方を中心にお願いしたい」

「「「「「「おおーーー」」」」」」

「武勇も申し分なし」

「確かに適任ですなぁ」

 

 この謁見の間に居る多くの有力者から、『街の大英雄』への期待の声が上がる。

 

「北郷殿、どうでしょうか?」

 

 皆は当然知らない事だが、その気になれば馬よりも断然早くここへ伝えられる一刀なのだ。『神気瞬導』は武術だけではないのである。それに、一刀にはまだ『奥の手』もあった。

 そして……『どうでしょうか?』……以前は、内容を完全に聞き漏らした時に聞かされた、王渙からの苦い確認の言葉だ。その時はマヌケ同然に答えてしまっていた。

 だが今回は違う。一刀は全ての内容とリスクを把握した上で――答えた。

 

 

 

「もちろん、喜んで!」

 

 

 

「おおぉ、さすがだ!!」

「「「わぁ!」」」

「助かりますぞ!」

 

 回りの顔役らや有力者達からは『英雄』を称えるような感謝や歓声の声が上がる。

 その中に司馬家の面々の「お願いしますね、一刀殿」「頑張ってください」「一刀兄さん頼むわよ」という声も聞こえてくる。

 広い洛陽ので状況把握に、後ほど配下を用意し紹介する事と、副官等の必要については「北郷殿にお任せする」ということになった。

 そして、そろそろ一度全体休憩を取ろうかと王渙が動こうかとした時、一人の武官が彼女の下へ近付くと耳元で囁く。

 すると、王渙の表情が驚きの表情へ。

 そして入口扉付近の銅鑼が鳴ると、ゆっくり大扉が開いていき―――

 

「どうも~皆様、太守朱儁の次女、朱皓です~。援軍の第一陣、二千を連れて来ました~」

「「「「「おおおーーーー」」」」」

「太守様が早くも動かれるかぁ」

「これで、さらに安心だな」

 

 周囲から、太守からの援軍へ歓喜の声が上がる。

 これに司馬懿が横で一言呟く。

 

「……急報とは言え、やけに動きが早いな。あと、兵数も中途半端な感じだが」

「え?(確かに……それに、あの子が帰ったのは昨日だよなぁ)」

 

 一刀が聞き返していると、県令への挨拶も早々に朱皓が司馬家の席の後ろへ。

 援軍を含めた内容の会議は一旦休憩の後と県令が伝え、周りは一刻(十五分)程の全体休憩に入った。

 

「これは司馬家の方々~。また当分、一緒ですねぇ~♪ ふふっ」

 

 何やら彼女の一刀を見る視線が熱い。

 それを見た司馬朗が、条件反射的に発言する。

 

「北郷様は、近々に洛陽へ行かれますので」

「へ?」

 

 予想外の知らせに一瞬、動揺し掛ける朱皓だが、ポンと軽やかに掌を軽くたたく。

 

「私も~洛陽に急な用事が~♪」

 

 しかし、それは彼女の後ろにスッと現れた副官の女史に否定される。確か張(ちょう)と言ったはずだ。

 

「姫様、何て勝手な事を仰せなのですかぁー? この二千の兵も太守様への置手紙で引っ張って来てると言うのにですぞぉー」

「どっちみちここへ送る兵なんだから、後か先かの問題よ~。それに張、私が戻るまで指揮を頼むわ~」

「無茶を言わんでください! 勝手に兵を動かしたのを見過ごした挙句、姫様は敵地の洛陽です、なんて報告したら太守様に私が切られてしまいますから」

「大丈夫~、大丈夫~、北郷殿について行けって言われてるんだから~」

 

 ピクリ。

 司馬防動く。

 自分も我慢してこの地へ残るのである。『小娘』を易々と彼と共に行かせるわけにはいかない。

 

「朱皓殿、念のため早馬で太守殿へ確認されればいかがか? 一時半(三時間)もあれば十分かと。なんでしたら当家から伺いを出しましょうか?」

 

 結構トーンの低いドスの利いた声である。太守へ一歩も引かない意見をする時の迫力であった。

 朱皓の笑いの表情に余裕がなくなる。そして――

 

「い、いや~、冗談はこれぐらいにしておきましょうか~」

「それが宜しいでしょう」

 

 司馬防は、ニッコリと朱皓をたしなめるように横目で微笑んだ。

 

 休憩を合わせ、街会議は二時(四時間)に渡って行われた。

 戦時下における、外からの人の出入りや物資の検査やその基準、キツくしすぎると物価の高騰や物資不足なども起こるため調整には皆でかなりの時間を掛けた。

 そして明後日中には予備役らも揃い、太守軍を加えた総勢八千以上になる兵らが、街の各所の配置へ付き臨戦態勢へ入ることになっている。県令の王渙が纏めているがここの旗頭はすでに、太守軍の軍団長として来ている朱皓となっていた。前の宴会では太守の使者の一人であったが、今回は立場が全く違うのだ。なので、休憩後の後半は中央の席に彼女が座って進められていた。

 また街の手前等での防衛線についても検討が始まり、明日も作戦について一部の知恵者らが城へ集まり検討することになって今日の街会議は終了する。

 一刀はその後、さらに半時(一時間)城内へ居残りとなる。司馬防らへは迎えを頼み、先に屋敷へ戻ってもらった。彼女らもやることは山積みなのだ。

 城内の一室へ通された一刀へは、配下として商人姿に身を変えた、洛陽の地理に明るい精鋭の兵二十人が紹介される。さすがに十キロ四方以上もある広大な洛陽を、司馬敏と二人だけではキツイかなぁとは思っていたところで、助かったと言えた。ただ誰にも言えないが、一刀は人を使うのが初めてと言える。それもあり、今少し変な緊張ある気持ちになっていた。また直接その者達を見回すが、精鋭といっても気の大きさは十人隊長ほどの者が殆どなので無理は絶対しないようにとだけは伝え、情報の受け渡しについてを皆へ簡単に指示した。ただなぜか――朱皓が部屋の片隅にいて聞いてるんだけど……。おまけに時折、一刀の方を見てニッコリしていたりする。

 そして、かなりの額の活動資金もその後に皆へ渡された。司馬敏も連れていく旨を伝えていたので、それも合わせて一刀は預かる。隊長になる一刀には特に、都で半年は優に過ごせるほど金の粒の入った袋が渡された。おそらく一刀については二月といないだろうが、資金面で困ることは絶対にさせないと言う。大きな協力をしてくれている司馬家への礼の一つということだろう。

 配下の二十人はその日の内から順次、洛陽へと個別に別れて出発して行く。

 顔合わせと前準備の要件を終え、彼は県令の王渙らへ報告する。白髪が髪に混じる県令だが凛としている。

 

「北郷殿、よろしくお願いします。もたらされる情報はこの街の命運に大きく影響します。非常に危険で重要な役目ですが、貴殿の力ならきっと。御武運を」

「ありがとうございます。では行って来ます」

 

 一刀は、城内にあった役所の外へと出る。

 すでに時刻は戌時を一刻強ほど過ぎた(午後七時十五分)頃。すでに日は落ちて真っ暗に。ただ、城内の各所は監視用にある篝火で、視界だけでもなんとか歩ける明るさだ。

 出口近くには、司馬敏が自ら馬車で迎えに来てくれていた。一刀の姿を確認すると元気に笑顔で手を振ってくれる。

 

「待たしたか? ありがとう……悪いな、シャオランまで危ない洛陽まで行く事なった」

「ニハハッ、私は兄上様と一緒ですから、とても楽しみです!」

 

 彼が馬車に乗り込むと、彼女は軽快に手綱を捌き方向転換させると馬車を走らせる。一刀よりも全然上手い。

 一刀と司馬敏は明日、早朝の出発予定である。

 彼女も何度か洛陽へは行ったことがあるので、初めて行く一刀にとっては、即戦力として心強い相棒である。

 司馬敏は、本当に嬉しそうにニッコリと笑っていた。

 彼女は上の姉妹達が良く出来過ぎて結構暇なのだ。このような大役は初めてと言える。

 

「確かに、私一人でしたら不安も大きかったと思います。でも、兄上様がいますので全然危ない気がしないのです!」

「そうか、でも油断はするなよ。俺自身も気を付けるけど(もっと言いたい事はあるけど、俺が守らないと―――絶対に)」

「はい、もちろんです!」

 

 間もなく司馬家の屋敷へ到着する。すでに司馬防や司馬朗、司馬敏達は一刀を待たず先に食事を終えている。一刀がそのことも、帰る司馬防らへ告げていた。

 特に司馬朗は参謀としていろんな事態を想定しながら、事前に対応する作戦を考えなければならない。いくら時間があっても足らないはずだ。明日もある。他の姉妹達も手が空いた者は手伝っている様子だ。

 一刀は通路脇で手を洗うと『食堂広間』へ入り、一人遅れて食事を取るため漆黒の円卓へと向かう。

 そこには司馬懿が座ってお茶を飲んでいた。

 

「お帰り、一刀兄さん」

「ただいま。あれ、寛ぎの広間へは?」

「ああ、さっきまでいたよ」

 

 司馬敏も一刀について食堂広間へ入ってきて、漆黒の円卓に彼のすぐ横へと座る。一刀が席に着くと銀さんがお茶を先に運んでくれた。順次料理もやってくる。

 

「とりあえず、配下になってくれる二十人に会って個々に洛陽へ向かい始めてもらってる。そっちは順調?」

「まあ、姉さんがやってるから大丈夫。蘭華も手伝ってるしね」

「仲達は手伝わないの?」

 

 一刀にそう言われ、彼女は苦笑いをする。

 

「私の作戦は効率第一で、味方に対しても非情になる。私自身は、自分の作戦が気に入らない。だから気が乗らないんだ。姉さんは作戦を立てるのに時間が少し掛かる。それが唯一の欠点。でも姉さんの作戦は優しさがある。私は姉さんの立てる作戦が好きだ。私が作戦を考える時は―――先日の盗賊団ような『人間性の無い相手』の時が相応しい」

「そうか……。(周りは完璧超人と思ってるけど、本人にしか分からないことも当然あるよな)でも」

「ん?」

 

 箸を止めて、彼女へ顔を向ける一刀へ、司馬懿も目線を合わせ向く。

 

「きっと出来るよ、仲達にも。優華のような優しい作戦が。俺はそう思う」

 

 一刀にそう言われ、司馬懿は少し驚いた顔をする。そして些か照れるように小さく笑うと、頬を染めるように彼女は返事を返した。

 

「ありがとう、兄さん。そうかな……じゃあ、ちょっと試してくるかな」

 

 そう言って、司馬懿は円卓の席を立つと食堂から退出する。『寛ぎの広間』へ手伝いに行くのだろう。まあ、今の顔を一刀に見られているのが照れくさいのもあったのだが。

 

「兄上様、凄いですね!」

「なに、シャオラン?」

 

 一刀と司馬懿とのやり取りを静かに見ていた司馬敏が義兄を褒めた。

 

「だって、明華姉上様を本気にさせちゃうんですから!」

「本気?」

「はい、明華姉上様が作戦を考えるのは本気の時だけです。それも母上様に言われるか、優華姉上様に頼まれた時くらいで……今の様に自分からやってみようと言うのは余り見たことがありませんから!」

「そうか、ありがとう。でも俺は大したことは言ってない。凄いのは仲達だから」

「まあ、確かに姉上様はすごいですけど」

 

 本気になった司馬懿が防衛戦を考えると―――あの孔明でも破るのは難しいのだ。

 

(その時確かに、防衛側の魏は三倍以上の兵力があったけど……そんな歴史もあるんだよな)

 

 一刀はそんなことを考えていた。

 

 食事を終えた一刀も司馬敏と共に『寛ぎの広間』へ移動する。七人の令嬢と母親の司馬防はいくつかの組に分かれて作業を行なっていた。その中で司馬防は都にて黄巾党の乱での資料を垣間見た内容から、娘らと献帝派の将軍たちの戦力を想定していた。だが盧植と皇甫嵩は優秀、張遼や華雄らの戦績は凄まじく、その中でも呂布に至っては「これは本当?!」というおかしなことになっていた。「相手が雑兵らであったとしても、百人の騎馬兵とはいえ、こう何度も一万近い軍を正面から撃破出来るものなのか?」と。明らかに戦略を戦術のみで容易に破れる将だという事だった。だが司馬防はそれが真実だと言う。

 司馬朗を、いや軍師たちを悩ませる存在と言えるだろう。司馬進と司馬懿と司馬孚も巻き込んで対応を捻り出そうとしていた。

 それらの邪魔をしないように一刀は端っこで漢字の修練を始めていた。司馬敏と……そして司馬通がいつの間にか可愛く横に来て手伝ってくれる。

 司馬家全員が、亥時正刻(午後十時)過ぎまで『寛ぎの広間』に集まっていたが、明日もあるし、頭を結構使ったので今日はそろそろ休もうということになった。

 それぞれ、おやすみの挨拶を行なって自室へと引き上げていく。

 

 しかしその中で―――彼女の今日はまだ終わらないのだ。

 朝も早くから、彼の客間の周辺を徘徊して待っていたりしていた。

 そして、あのお守りをやっと朝食の後すぐに(自ら奪うようにだが)渡される。

 

 

 

 その『イケナイ』少女の名は、もちろん―――司馬孚である!

 

 

 

 彼女の想いは、ただただ『熱い』ものに変わって来ていた。

 速攻で自分の部屋に戻り、朝から万全の用意していたものへと着替える。

 雅な刺繍の色打掛を纏い、もちろん中も『自ら選んだ』欲情的な雰囲気の下着を身に着け済である。

 母と姉への分、自分の立場からこの日まで『静かに』耐え忍び、どれだけこの時を待っていた事か。一刀が今夜を屋敷へ戻らず、洛陽に立つと言うのなら薄布を頭へ被ってでもコッソリ付いて行って夜だけは一緒に迎えようと思っていたぐらいであった。

 臥所を愛しの彼と共にしたいのだ。母も優華姉様もイロイロ触ってもらってモミモミサワサワスリスリペロペロチュッチュチュッチュしてもらってるはずなのだ。

 

(今夜は、私の番なんだからぁぁァァァーーーー! ハァハァ……)

 

 彼女は心の中で絶叫していた。『激しい運動』をしたわけではないが、すでに呼吸が乱れ気味にある。母屋から一刀の客間へと向かう廊下の途中で、彼女は壁に手を付き暫し呼吸を整える。

 

(激しく仕掛けましょう、私から―――♪)

 

 彼女は一刀の部屋へと静かに近付いて行く。

 そして、客間の前へ着くと彼女は美しい声を上げる。

 

「一刀様、蘭華(ランファ)です。今、参りますからーーー!」

 

 そう言い放つと、その両開きな折り畳み戸の扉を開き、愛しい彼の横になっている布団が少し盛り上がった寝台手前で飛び上がると、彼へ向けて体を踊り込ませた。布団ごとギュッと抱き締めると左右へゴロゴロと甘えるように「一刀様~、一刀様~」と声掛けしつつ横へ往復しながら転がるのであった。

 だが、気が付いた。愛する彼ごと抱き締めているはずの布団が―――『軽い』事に。

 

(…………?!)

 

 すると、部屋の入り口から無情な声が。

 

「あの……蘭華さん? ゴロゴロして………俺の寝床なのに何て事してるの?」

 

 そう、一刀は一度布団に入ったが寝る前にと厠へ行っていて、部屋に、もちろん寝台にも居なかったのだ。

 

「あ……えっと………(まさか私……き、嫌われちゃった?)」

 

 無様に寝台の上をゴロゴロ往復している姿を思いっきり見られてしまい、司馬孚は赤面状態に陥り、思考と体が固まっていた。

 すると、一刀は固まっていた司馬孚の横へ―――寝台の手前から司馬孚がしたように体を寝台へと飛び込ませてきた。

 

「あはははっ、偶にはこれも楽しいね」

 

 そう、一刀は気で司馬孚の行動が丸々見えていたのだ。厠に行っていたのは偶然だが、ちょっと追いつめて少し『からかった』のだ。

 その事に司馬孚も気が付く。

 

「も、もう、一刀様、酷いです。貴方の機嫌を損ねてしまったのかと――」

「ゴメン、ゴメン。ちょっと蘭華が綺麗で可愛かったから」

「!――――」

 

 司馬孚、二度目の赤面フリーズ。

 

「そうそう、その顔が綺麗で可愛いよ」

「も、もう! 今夜中に今度は一刀様にこんな顔を倍はさせてあげますからね」

「ははっ、期待してるよ」

 

 司馬孚との楽しい?熱い夜が始まった―――。(後日熱い夜追加)

 

 

 

 そして、洛陽への出発の早朝を迎える。

 今の時刻は卯時(午前五時)頃。

 司馬孚は、一刀の横で満足気な表情をして静かに寝息を立てている。彼女の好ましい女の子な匂いが部屋に満ちている中、何やらまだ新しい淫靡な香りも混ざっていた。

 昨晩の子時(午後十一時)前から始まった二人の睦み合いは、寅時正刻を一刻過ぎる(午前四時十五分)程まで熱く続いたのだ。

 一刀は―――『絶世な美女』の司馬孚に蕩かされていた……。

 彼女は、持久力といい、耐久力といい、奉仕力といい、女性として最高の完全体なのだ。その事を平凡な少年(だが絶倫さでは負けない)は思い知らされていた。

 一刀は起き上がる。『へろへろ』な体で。

 『へろへろ』なまま銀さんを呼び、着替えて庭へ日課の修練に出かけた。

 とりあえず、司馬孚からのエロスにより『無限の気力』で体力はあるが、『精神的』には睡魔へ加え浮ついてへろへろフラフラなのだ。

 『無限の気力』が回復出来るのは、あくまでも疲労損傷した身体や体力的なものだけだ。眠気や気怠さや浮ついた気持ち等が回復することはない。

 出立は卯時正刻から三刻強程後(午前六時四十五分)頃を予定している。そのため修練も二刻(三十分)程で切り上げる。すでに昨日の内に出立の準備はされている。街側から提供された馬や馬具、必要品等は使用人らによって手入れと馬へ積み纏められ、いつでも出立できる状態だ。

 今日は、卯時正刻(午前六時)前からと早めの朝食になる。司馬家の面々が一刀と末妹の司馬敏の出陣とも言える出立を見送るためにと『食堂広間』へ集まってくれての朝食になっていた。

 司馬孚は、寝不足からかハイであり、肌はツヤツヤした感があった。

 すでに一刀と寝所を共にした間柄ということで、彼女にも母や長姉に劣らない立場との自負からか余裕が出来ていた。

 

「おはようございます、一刀様♪」

「ははっ。おはよう、蘭華。おっ、ありがと」

 

 さり気ない彼への朝の挨拶と、その彼の襟元を自然に直してあげる仕草など、司馬防も「ほほう」と落ち着いた美しい娘の成長を喜んでいる。

 朝食も済み、一刀は客間で銀さんの手伝いにより、少し使い古された街人風の上下の衣装へ着替える。一応、剣は持っていくが一般の剣を持って行く事になっている。

 司馬敏も自室で同様に着替え中である。これらも県令側から支給されてきた物である。あくまで目立ってはいけないという形だ。

 間もなく、家族や使用人長らの皆に見送られる一刀と司馬敏の一行である。邪魔になる可能性を考慮して今回、相談の上で使用人は誰も同行しない。

 彼は屋敷の玄関外へ元気な姿を見せ、司馬敏と二人は其々馬にまたがる。

 一刀は、事前に使用人長の銀さんへ『鐙(あぶみ)』を木簡に絵で描いてみせ、木製にてそれを司馬敏の分と予備でも数個作ってもらっていた。

 それを馬具の装備に加えた馬であった。やはり足裏を乗せれるので乗りやすい。

 

「兄上様! これは楽でいいですね!」

 

 司馬敏も『鐙』を気に入ってくれたようだ。

 

「じゃあ、行きます。急変あればすぐ帰って来ますので」

「「「「「「「「「いってらっしゃいませ」」」」」」」」」

「シャオもしっかり、そして気を付けてね」

「はい、母上様!」

 

 司馬家の皆に送り出され、颯爽と一刀は司馬敏を従えて共に司馬家を後にする。

 現地対策として、結構細かい地図も揃えてもらっていた。

 大きな巻物型は目立つので折りたたんでいる形のものだ。外ではなるべく広げずに宿で見て確認して覚えてから探索することに決めている。幸い司馬敏の記憶力も相当良いので本人も「ハッキリクッキリ記憶しました」とすでに覚えている様子で心強い。

 そうして司馬家から最初の角を曲がり、皆の姿が見えなくなったところで……一刀は気持ちグッタリとする。

 一刀は、精神的にはへろへろフラフラのままで出発していたのだ。

 だが、この街に取っての重要な役目で今洛陽へ行こうとしている時に、散々楽しんだ司馬孚との熱い夜を理由には出来るはずがない。

 『重要な日の睡眠時間が三十分とかありえないだろ?』とそんな心境だが、自分で撒いた種といえる。いやまあ、『ナカには』撒いていないのだが。なのでここは漢らしく、黙って空元気で行くしかない。

 司馬敏が少し心配そうに、横へ並んで進む馬上から声を掛けて来る。

 

「大丈夫ですか、兄上様……寝不足ですよね? 蘭華姉上様は綺麗ですからしょうがないですけど」

「ま、まあ……そのゴメン」

 

 誰と一緒に寝たのかは、もはや姉妹の間では公表されている感じで隠しようもない。それに、それが受け入れられている雰囲気と言える。

 

「ニハハッ、兄上様は男の方ですから。……そのぉ、兄上様?……不束ものですが、私も今夜からよろしくお願いいたします!」

「!………」

 

 司馬敏は初めから一刀との同行を喜んでいた。それは皆の役に立てるというだけでは無かったのだ。自分も一刀に『夜の寝所で可愛がってもらえる』という淡い想いも入っていたから――。

 

「嬉しいです! 二人きりですし♪」

 

 フラフラだが一刀はすでに何やら熱いのだ、若いと言えよう。一刀は思い出す、この子の入浴時の白スク風の透けた湯浴み着越しな日焼け箇所と、していない白い瑞々しい肌のコントラスト、そしてコンパクトな体に豊満で形の良い若々しい掴む為の栄光の双丘――――滑らかな肌はケの存在しない絶対領域へと続いて降りてゆく……。

 小柄で少し年下だが、すでにエロイ体付きなのだ、この子も。

 今夜も楽しみぃ。

 

(はっ! イカンイカン。これから知識の無い初めてな敵地へ向かい、命の危険もある敵の軍団の内情を探ろうと言うのだ、遊び気分で熟せる訳がない!)

 

 一刀は気を引き締め直す。―――が、今一刀の横に馬が『二頭』いるんだが。

 一頭はもちろん司馬敏の馬だ。

 そしてなぜか、いつの間にか……朱皓が? さも初めから決まっていたように馬に乗ってニッコリと横をコイツは進んでいる。

 

「……なぜ、貴方がいるんです?」

「まあまあ、いいじゃないですか~」

「……冗談はやめたんじゃないんですか?」

 

 一刀は、司馬防へ昨日彼女が言った言葉を突き付ける。

 すると笑顔の顔のままだが、彼女は言った。

 

「もちろん―――冗談ではないからですよ、これが~。太守の母へ事情を書いた手紙を送りました~。早めに私の代わりの者を温へ送ってくれるでしょう~」

 

 温県の街にいる兵団の最高指揮官がコツゼンと消えたのだ。どうなるのだろうか。

 

(あの張と言う人、大丈夫かなぁ?)

 

 多分、朱皓の代わりに対応するのはあの人だろうと一刀は思うが、その狼狽と混乱っぷりが想像に難くない。

 

「ふふふ~、張はああ見えて、先代から朱家に仕えている家の者ですから~、私以上に振る舞えますよ~。だから大丈夫なんです~」

 

 『出来る』と『やらされる』は別の事だと思うのだが……一方で、ついて来てるこの現状はすでに変わりそうにない。彼女は決意を持ってここに来ているようであるし。

 

「それに、北郷殿の力になれると思って来てるんだから~」

 

 まあ、彼女も確かに腕はかなり立つ。あの気功の拳の威力は、かなりのものだ。常人であれば、受けると致命傷だろう。

 

「あの一つだけ確認が。董卓側への面識は大丈夫ですか? 会った瞬間にバレると困るので(あれば帰ってもらおう)」

「母は有名だから皆知ってるし、姉も長女だから面識あると思うけど~、次女の私は直接は無いから安心して~。洛陽へは小さいころから結構来てるし、お役に立つわよ~」

「そうですか。じゃあ……しょうがないですね。いいでしょう」

「ホント? やった~。あ、もちろんここでは北郷殿の指示に従うから~『何でも』言ってね~♪」

 

 不思議とその言葉と視線に『熱い』ものを感じさせていた。

 

「……そう願います」

 

 さすがに、この状況で指揮権を取られるのは困るところだった。一人オマケが付くぐらいは諦めよう。

 そんなここまで二人のやり取りを静かに聞いていた司馬敏だったが、ここで「むん」と構えるように朱皓へ問いかける。

 

「朱皓殿、その……もう兄上様を後ろから襲わないですよね?」

「あはは~、もうしない、もうしないから~。あの時は遊びが過ぎてゴメンね~、幼達殿もよろしく~」

「なら、良いです。よろしくです!」

 

 次は私が相手をしますと言うポーズであったが、朱皓の返事を受けて構えを解いていた。兄思いの可愛い末妹である。

 さて、一人増えた一刀一行だが、このまま南下し黄河を渡る。

 

 黄河。大陸を流れる二大大河の一つ。全長約5千464キロにも及び、一万里を軽く越えている。

 本来『河』という漢字は、固有名詞であったりする。

 大陸では『河』と書いたときはこの『黄河』を指すのだ。

 それほどの川である。

 温県の南の辺りは、それほど川幅は広くない。だが、それでも水が流れている部分の幅だけで軽く五百メートル以上はあった。その流れは結構荒く早い。

 広い部分は二キロ以上もある。少し上流や下流へ行けば実に四キロ(十里)ほどの川幅がある箇所もいくつかあるほどだ。

 温県の街に取っては一つの大きな要害といえるだろう。だが同時に、範囲が広すぎるためすべての箇所を守ることは出来ない所でもある。

 

 そんな河を船で渡る。しかし、一行は温県に近い東門から洛陽の中へは向かわない。用心して、洛陽の北の山中を人知れず大きく迂回して西門から、長安方面から来た者を装って入る予定である。温県から東門までは八十里(三十二キロ)程、西門までの道程は百二十里(四十八キロ)程とみている。そのために獣道のような余り人の通らない山中を多少時間を掛けて慎重に通ることになる。

 洛陽潜入も明日朝になる予定であった。

 一刀は黄河を渡って少し進むと、近隣周辺の気を広く捉え、人通りのない所と状況で山中を通る西向きのルートの獣道へと三人は消えるように全力で進んだ。

 

 

 

 

 

 

 一昨日から泰山麓の森にある巨木の家を出て、愛しの彼氏……いや『夫(決定済)』である一刀の行方を探しに動き始めた『魔王』さまであるワクワク顔の雲華と、それに従う少々呆れ顔の木人『ジンメ』の一行。

 今朝のような一刀のタダレタ実情を見た時の、彼女の堪忍袋が砕け散った後の豹変ぶりが見物……イヤ楽しみ―――ゲッフングッフン、きっと悲しみに打ち震える彼女の姿を見るに忍びない気もするがソレはそれとして。

 『何も知らない』彼女達は、大陸の内陸に向けて木馬にて移動中であった。

 もともと彼女らには、一刀を襲う謎の仙人集団である『辿り着けるもの』達らの排除という荒事があるのだが、十名ほどいる構成仙人の内、すでに弧炉と蛇蝎の組、計七仙人を屠り、残りは左慈と于吉の組のみとなっていたが、ヤツらの動きは正攻法では掴めなくなっていた。

 

(そんな時だからこそ―――今、一刀を探しに行くわよ♪ ニヤリ)

 

 事の発端は、雲華が占い師である管輅から一刀関連の占いの中に『無視できない』内容の単語が並んでいるのを聞いたからであった。それは―――

 

『おっぱいおっぱいおっぱいおっぱ……』

 

 つまり『おっぱい×8』というイカガワシイものが、一刀の傍にあるという事について、「実際どうなのよ?」とハッキリさせるために立ち上がったのである―――正妻/制裁として。

 そうしてネグラを出てきたわけだが、本題の『さて一刀は何処に』ということである。

 もちろんその手掛かりは管輅から得ていた。

 

『大陸の海側にはいない……かと』

 

 つまり内陸にいるということになる。

 そして雲華なりに一刀の動きを予測してみていた。

 巨木の家を去った後、彼は何をしようとしたのか。それも彼が去ったのは翌日という早さ。また彼女がずっと蓄えていた結構な額のお金や、保存食はそのままであった。

 旅立ちの日に持たせた日持ちのいい食料とお金、そして『龍月の剣』だけが無くなっていた。

 冷静さを欠いていたとしか思えない動きだ。

 さらにあれから彼がここへ戻って来た形跡もない。

 

(きっと……私と同じことを―――カタキを探しに行ったのでは? ああ、私の為に♪)

 

 伴侶として嬉しい限りの行動である。

 その得体の知れないカタキの連中らと戦おうというその気持ちに彼女は、グッと来ていた。僅かにほんの少し堪忍袋の強度が増した……。(すでに緒という話では済まない……)

 とはいえ、一刀には彼らの動向を知る術がないように思われる。そうすると、ただ一つだけ仙人の知り合いと言うべきなのは、以前に外へ一緒に行った時の服を売りに行った街のお店が思い出される。

 

(きっと場所を正確に覚えていなくて、あの場所を探しに大陸内を彷徨ってるんだわ……。でも……なんでおっぱいなのかしら)

 

 女らが彼の周りを囲う状況への接点が、まるで思い浮かばないでいた。

 それに、そんなに体を許す女が居る場所として思いつくのは娼館ぐらいしか思いつかない。

 

(うーん、腕を見込まれて用心棒でもしているとか……)

 

 この時代、女奴隷や街を移動する荷車隊の娼館も当然あったりする。不思議ではない事だ。

 一刀が『女スキー』で、サワサワスリスリが好きなのも知っているが強引に行くタイプでも無い。また、特に名を聞くわけでもないから『英傑色を好む』訳にも行かないだろう。だから、そんな多くの女に好かれるわけでもない……と思っている。

 

(でも、孔明や士元の件もあるし……油断は禁物かな)

 

 そんな色々な思いで移動し始めたところであったが、出発した次の日、昨日の朝方になるが思わぬ人物と彼女らは遭遇接近していた。

 近付いて来る一つの気に雲華と、そしてジンメも気が付いた。それは僅かに仙人のような気も交じっている。

 場所は、泰山を出て少し南への街道を選んで通った予州魯国でのことだ。

 その少女は一人、馬に跨り北を目指して向かいから道を進んで来た。美しい黒髪の左サイドポニーな姿に少し汚れの見える白地に縦線の入った上着に青緑の服、裾の短い黒のプリーツ状なスカート風の服装。それに業物な偃月刀を右手に握っていた。

 表情は冴えない風だが、隙の無い常人離れした巨大な気を纏っている。

 雲華らはその気に見覚えがあった。

 

(この気……確か『カンウ』と言われていた娘だったはず)

 

 彼女らは、そのまま無関心で互いに静かにすれ違う。雲華らは、それから次の日の今日までさらに大陸内部の西を目指して街道を進んで行った。

 

 

 

 

 

 

(どこにもいない……鈴々と桃香さまは一体どこに行ってしまわれたのか)

 

 正直関羽は途方に暮れていた。

 黄巾党の大軍に五連続で襲われ、劉備率いる義勇軍が壊滅……あれから早五日経つ。

 まず血まみれの服を、山間の沢で何度も丁寧に洗いとりあえず身形をマシにすると、昨日までの数日間、見つけた村や街で「桃色の髪の美しい娘か、小柄で元気な赤髪の子を知らないか」と聞き込みをして歩いていた。しかし、全くそれらしい二人連れや一人旅の娘も見ていないと言う。

 そのことから関羽は、劉備らが山野を抜けて、一気により北の地域へと向かったのだと判断し、昨日で予州魯国を後にしていた。

 今は兗州泰山郡へ入っており、街道を北へと進んでいる。

 彼女は、すでにその先の事を考え始めていた。

 

(もしこの周辺でも二人の情報が得られないとなると、より北へ―――もしかすると公孫賛殿の元を目指して先を急がれたのかも)

 

 そんなことが彼女の頭へ過っていた。

 ――だがそこは、すでに豹変した異質で強勢な仮面の将らが支配し住まい、安住の地では無くなっている事を関羽はまだ知らない。

 

 

 

 

 

 

 一刀は、常に周辺の広い範囲の人の気を探っていた。そして人に見られないように、三人の騎馬隊は山中の草木の生い茂る獣道を西へと進んでいく。

 助かったのは、司馬敏は本能で、そして朱皓もこれに近い気配を探る事が少し出来るということだ。なので交代で監視が出来る感じだ。

 昼頃になり山中の北側の傾斜に小さめな沢を見つけると、ちょうどいいのでそこで食事にすることにした。

 天気も良く、ちょっとした木陰を見つけて入り、具合のいい石を皆それぞれ尻へ敷き、司馬敏と朱皓の三人で司馬家を出る時に多めに持たせてもらった弁当を頂く。朱皓も干し肉や蒸したイモの入った弁当や食料を持って来ていた。

 早めに飯を食べ終わる。すると司馬敏がお願いをしてくる。

 

「あの……兄上様、この沢で少し体を拭きたいのですが」

「ん? まあ、いいけど」

「じゃあ、サッと拭きますね」

「それじゃ、私も~」

 

 そう朱皓までもが言うと、一刀の見てる脇へ行き二人の少女は―――ナント服を脱ぎ始める。

 実は司馬家のお風呂が、昨日は無い日だったのだ。今夜の事を考えて司馬敏は、乙女として体を綺麗にしたかったのである。

 『見えちゃうからちょっと待て』と言う感じで一刀は手を広げて目線を隠しつつ、そんな女心に『何も気が付かない』彼は、馬が繋いである少し離れた南側の傾斜の道のところまで移動した。

 この辺りは丁度、洛陽の東側外郭端の北側辺りの位置であった。傾斜の木々の間から長大な外郭の壁と巨大な洛陽の街の一部が見えている。

 一刀はこの休憩の間に、朱皓の馬へも例の『鐙』を付けておいてやろうと考えた。だが、ちょうど良い強度の紐が無いことに気が付く。

 そこで、強度のある木か草の蔓(つる)を利用しようと考えると、少し周りの森を探し始めた。

 僅かに獣道からも外れた山の斜面に蔓のある植物を見つけると、彼はそこへと寄って行く。

 すると一刀は、その木々の茂る中の奥へまるで投げ捨てる感じで置き去りにされたような、人が入るほどの長さと幅のある朱塗りの大きな箱を見かける。それはまだ綺麗で新しいものに見えた。

 

(なんだあれ?)

 

 放り出された衝撃でだろうか、その『蓋』はすでにズレていた。

 それは―――朱い棺桶のようにも見える。

 

(なんだろう……ま、まさか本当に……棺桶なのか?)

 

 よせばいいのに、彼は一歩一歩とそれへ吸い寄せられるように近付いていった―――。

 

 

 

つづく

 

 

 

 

 

 次回、ついにキます(笑

 

 題して『究極の木人』

 

 その出来映えは最高を越えていた……。

 細密精巧無双な素体に、至高の素材(三大英傑のケ)、それへ仙術により究極な気の要素を付加された木人。

 最高の木人である『聖仙木人』は、普通の木人に比べ十倍は強いと言われている。

 『究極の木人』―――はたしてその正体は?(バレバレ)それは、どこまで届くのか。

 新しい『何か』が始まる。

 

 『究極』とは最高を超える……その最後の到達点である―――。

 

 

 




2015年03月27日 投稿
2015年03月28日 文言修正
2015年03月30日 小話ルビ化
2015年04月07日 文言修正



 失敗)重要な日の睡眠時間が三十分とかありえないだろ?
 現実には結構ありますよね……?
 結構前になりますが、仕事で徹夜して朝を迎え、そのまま朝一に予約していた健康診断へ行こうとしたことがあります(笑
 しかし朝七時頃、一度家に戻りシャワーを浴びた後、ごろんと横になって手足を伸ばしていると………寝てしまい、目が覚めたら午後一時だったというムチャクチャな日がありました(爆
 もちろん、病院へは再予約の電話を入れて、そのまま再び会社へ仕事の続きをしに行きましたとさ。
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