真・恋姫†一刀無双 ~初出会は少女仙人-混沌の外史~   作:カメル~ン

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第○➂話 *1

 

 

 

「さてと……北郷、これからも修行が続くわ。その服は汚れるだろうし、この服をあげるから着るといいわ。少し場を外すから着替えなさい」

 

 そう言いながら、雲華は綺麗に畳まれた新しそうな代わりの着物を渡してくれた。そして、「終わったら呼んでね」と言って彼女は上の階に上がって行った。

 雲華からもらった服は、色が紺に近いものだった。上下に別れていて生地が丈夫そうで、少し現代より袖や足周りの生地巾が広い感じのゆったり気味な形だった。襟、袖先、裾には、見た目が華やかになる程よい黄色の糸による刺繍装飾が施してあった。下はズボンに近いもので紐で縛る形で腰から落ちないようになっている。上も前で数か所を紐で結んで留める形だ。服のサイズは少し小さいぐらいだが、余裕がある服なので、それほど問題ではなかった。

 一刀は、その服に着替え、脱いだ服を畳み始める。……そういえば、肌着や下着とかは、今後この時代の代用品になっていくんだなぁと思うのだった。

 一刀は服を畳みながら、ふと色々と別の考えを巡らせる。

 

(この時代といえば……昨日の夕食時とその後に少し、この世界の……この時代の事について雲華から少し話を聞くことが出来たけど。そこで『皇帝は霊帝』と『黄色い布を頭に巻いた農民ら貧しい階級層が中心の大きな乱が起こっている』と聞いてその内容から推察するに、この時代は三国志の三国鼎立よりも結構前で、黄巾党の乱の最中のように思えたんだよな。三国志の英傑たちについて試しに少し聞いてみると、雲華でも曹操の名前はすでに聞いたことがあると言っていたし。

 劉備の名は、まだ聞いたことがないとか。孫権はまだ、孫堅や孫策がいるからそれほど有名じゃないとか。

 だけど、ここで俺が気になったのは、雲華が孫権には『姉』の孫策がいるからと言っていた事だ。「兄じゃないの?」と聞き直すと彼女は「姉よ」と言う。

 俺の知っている孫策、孫権は、男の兄弟で下に妹がいたはずなんだけどと尋ねると、雲華はなんと、「孫策、孫権は三姉妹よ?」とトンデモ情報を何気なく言ってくれた。

 それで、さすがにないだろうと冗談のつもりで、「曹操まで女なわけないよね?」と聞いたら……曹操まで「女よ」ということだった。

 どうなってるんだよ、ここは。

 ありえない……俺の世界の歴史と性別が全然違う。女性が武将って……? 筋力、身体能力的にどうなんだ? ここは、まるで別の世界のような気がしてきた。さらに知るのが怖くなってそこで話は切ったんだけど……。

 それと、余り人の世界に関わらない雲華だが、たまに買い物には行くらしい。……ん? そういえば、彼女はどうやって生計を立ててるんだろ?)

 

「北郷、まだかなー?」

 

 雲華の呼ぶ声が上の部屋から聞こえた。

 おっと、考えに耽ってしまってた……と、すぐに一刀は雲華に返事をした。

 

「ごめん、もういいよ」

 

 上の部屋から梯子を伝って、下を見ながら降りて来た雲華は、一刀の着替えた姿の感想を梯子を降り切る前に言ってくる。

 

「ははっ、北郷、似合ってるわね」

 

 口を押えて、雲華は笑っていた。

 雲華は梯子を降りると、一刀の傍を眺めながら一周ゆっくり回る。一刀はちょっと恥ずかしい感じがした。

 

「うん、いいんじゃない。丈もまあ大丈夫そうね。……んー、すこし小さかった?」

「いや大丈夫。問題ないよ」

 

 これで十分だった。わずかな贅沢も言えない世界にいるのだ。こうやって衣食住あるのは本当にありがたい事だった。本来だったら天涯孤独な上、まず食べる物も住むところも金もなく、そして生きる技術もこの時代の知識もない状態で、現代の殺し屋も真っ青になるぐらい人を殺しまくっている連中がウヨウヨいて、警察もいない無法地帯に放り出されていたところなのだ……。今朝から昼前までの雲華はキツかったが、それも結局は一刀のためにやってくれたことだった。一刀は、雲華には本当に感謝しないといけないなと思った。

 

「それにしても、北郷の服は変わった生地の服ね……」

 

 そう言って、雲華は食卓の上に畳んで置いた白いポリエステル生地の服を見ていた。

 

「ははっ、確かにこの時代の技術じゃ作れないものだからね」

 

 軽く一刀は受け流す。

 

「じゃあ、この服は預かってしまっておくわね」

 

 彼女はそう言って畳んでおいた一刀の服を、壁にある引き戸の中の大きめの桐箱ような箱に丁寧に仕舞ってくれた。

 

 

 

「さてと……」

 

 腰に手を当てて一刀を見て言う雲華の、そんな『そろそろ地獄を再開しましょうか?』みたいな『鬼』の掛け声に聞こえた一刀は、もうちょっと休みたいなーと、時間を稼ぐ気持ちで質問を仕掛ける。

 

「神気瞬導は仙人に人気が無いっていってたけど、人気のある仙術ってどんなのがあるの?」

 

 雲華はふむ……と考えると、まあいいかなと話を始めた。休憩延長に同意してくれた模様だ。

 

「言ったかもしれないけど、神気瞬導っていうのは術としては少し人臭いところもあるのよね……。なので、仙人たちの間では余計に人気がないわ。仙人ってのは幻術とかの方がそれらしいから。飛翔術とかは特に人気あるわね。あと、消えたりして場所が変わる移動術とか」

「すごいな……ほんとに出来るものなの? 飛翔術とか。」

 

 一刀は思わず、気になる術の名を言ってみる。

 すると雲華はその場に立ったまま目を閉じ、両肘を曲げ肘を胴側面に付け、手の平を上に向けて精神を集中する。二言、三言、術語を発し、上に向けていた手の平を胸の前で合わせると、足で床を軽く蹴る。すると、すうぅぅと蹴った力の分だけ空中に上がって……止まった。イメージは氷の上を滑る感じで、ゆっくりと減速しながら空中に進むように見えた。

 

「どう?」

 

 その状態から彼女は自慢な表情で、にっこりと一刀を見ていた。

 

「おおっ、ほんとに浮いて止まってる!! どうなってるんだ?」

「空気上に足場となるところを形成出来れば、落ちることはないわ。物には重さがあって、仙術でそれを下から釣り合わすことが出来れば、足場が出来る。足場は基本足の裏付近になるけど、当然着点を変えることもできる。こんな感じでね」

 

 そう言って雲華は、五尺(百二十センチ弱)ほどの空中で、肘を曲げた手の平の上に頭を載せて、左肘を付く形で横に寝そべってみせた。

 

「ひええっ、めちゃくちゃ便利そう!」

「慣れてくれば、空中で寝ることもできるわよ?」

 

 雲華は空中で立ち上がると、術をゆっくり解いて床へ舞うように着地する。一刀はそれをパチパチと拍手で迎えた。

 

「仙人らしい術は、確かに便利ではあるけど、私的にはどうなの? という感じなの」

「良さそうだけど、そうなんだ。でも、これって人でも修行を積めば出来そうな気もするけど……どうなのかな?」

「そうね……簡単にやってるように見えるわよね? でも、仙人と人では気と体の作りそのものが違うのよ。だから、素質と力そのものが違う。しかし、たまに仙人に近い質の気を持ってる人がいるにはいるのよ。まあ、それが人達の世界で言う怪物武将の類ね」

 

 怪物武将……? 一刀はこの段階では、ちょっと想像することが出来ていなかった。雲華は話を続ける。

 

「あと仙術には、強力な念という概念もあるけれど、本当に強い気を極めたものには念術は通じないのよ。最終的に『気』を破るものは、形は違えども『気』だけよ。神気瞬導は仙術としては地味だけど……万物の無限なる気と、遥かなる高みの術を極めれば、万里離れていようと仙造装備で遮られていようとも、標的のみを捉えて、それを討つことが出来るのよ。しかし、この最後辺りは段違いに難しいわ。加えて邪気も取り込んでしまわないようにしないといけないしね。それで私もまだ、一歩踏み込んで二歩目の足場を探してる感じなのよ」

 

 すさまじく凄そうな話ではあるが、どう凄いのか知りたくなった一刀は雲華に聞いてみる。

 

「第五条ってどんな感じなの?」

 

 一刀の表情から、難しさが余り分かっていなさそうな感じだったこともあり、雲華はその疑問に答えようと告げる。

 

「んー、そうね。百聞は一見に如かずだし見てみる?」

 

 気を僅かしか持たないものは目標として難しいんだけど……といいながら、雲華は一刀に一枚の木簡を手渡す。

 

「それを胸元に立てて持って、窓の方を向いて、窓の手前まで移動して」

 

 一刀は体を窓の方向に向け言われた通りに窓際まで移動する。「次はどうするの?」と振り向いて雲華へ聞くと――ギョっとした。

 

 

 

 彼女の漆黒だった二つの瞳が、今は蒼い光を放っていたのだ。

 

 

 

 一刀は、その綺麗な輝きと異質な状況に思わず見入って動きが固まってしまった。

 

「これだけ近ければ難易度はそうでもないかな。……さて、いくわよ~」

 

 彼女は両手に拳を握り、肘を軽く曲げ、左肩と左足を前に出す形で、余裕のある構えを取っていた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 そして……ほのかに光る感じがした右拳が打ち出される―――一刀の背中目掛けて?!

 『パンッ』と乾いた音が響く。

 それは一刀の指先にて木が一瞬で砕ける衝撃と同時だった。反射的に前を向くと、胸元に立てていた一尺(二十三センチ)ほどの小さめの木簡は指先に握った欠片を残して吹き飛び、すでにバラバラに床へ落ちてゆくところだった。

 一刀の背中や胸には何の変化も衝撃も感じなかった……。

 

「こんな感じよ?……どう? 北郷、そろそろ修行をやる気になった? 面白そうでしょ?」

(難なくやってのける雲華だが、この技術……すげぇ……さっき聞いたのをよく考えると、距離や障害は関係なく、気が突然に突き抜けて来る感じなんだろ……? 防ぐの無理じゃないのか?)

 

 一刀はそう思うと寒気がしてきた。

 

 

 

 休憩は終わりということで、一刀はそれからさらに一時(二時間)ほど、また雲華により強制的に全身の感覚を奪われ……朝に行った肺部分の気の絶修行の復習と、新たに右腕の気の絶状態からの復元までを力の限り行うことになった。

 おかげで一刀は、とりあえず、肺と右腕の絶気からの復元までは出来るようになった。軽快に進んでいるが……まあ、普通の人間の進捗ではありえない状況である。

 そして、ここで次の休憩となった。

 

 一刀は雲華が入れてくれたお茶を、彼女と共に食堂の机で長椅子に座り飲んでいた。

 すでに申時(午後三時)前頃だろうか。この部屋は普通の二階建てよりも高いところにある。その窓から入ってくる陽射しは、少し傾きかけてはいたが、まだ太陽は地平線からそこそこ高い位置にあるのが分かる。

 これから、どうするんだろうと思っていた一刀に雲華が話しかけてきた。

 

「さて、ちょっと家の外に出ましょうか」

「外で何をするの?」

「いいからいいから」

 

 そんな雲華に従って、二人は食堂を外へ出ると梯子を伝って下へ降りた。梯子を降りた辺りのこの巨木の周りは、伸びた大枝からもさらに三メートルほどぐるりと森が後退していて平らな広場みたいになっている。雲華は部屋から持ってきたのか肩から袋を下げていた。そして、梯子の裏の奥に進むと、巨木に一体化した物置みたいな倉庫小屋の扉を開けて、中から大きめの背負い籠と、背負い紐のついた大きな水瓶を出してきた。水瓶はどう見ても五十キロはあるだろう。子供が入れそうな大きさだった。それを雲華は軽くひょいと背負うと、一刀は籠をお願いという。

 

「これから山菜取りと水を汲みにいくわ」

 

 雲華の提案に、一刀は確かに食べ物ぐらい自分も探さないとなと、了解して雲華について森の中の獣道を進んで行った。

 一刀は、何も知識がないので、雲華に「それ洗って食べられるから、これは焼くと美味しいのよ」など、種類や名前と食べ方とサバイバルな知識を教えてもらいながら、半時(一時間)弱ほど森の中の草木が繁る道をゆっくり歩いて進んだ。彼女も一緒に集めていたので、すでに一刀の大きめの背負い籠は結構一杯になってきていた。満杯だとかなりの重さになるのだ。だが雲華の背負う水瓶はその比ではないので、一刀は黙って慣れない山道を雲華の後を遅れないようにとついて行った。

 すると、道の先の木々の間からバチャバチャと水の音が聞こえてきた。雲華が前にどんどん出る形でさらに進むと……二人は森の中だが、かなり開けた場所に出る。

 

「おおー、すごいなー!」

 

 一刀は思わず疲れを忘れて、喜びの混じった驚きの声を上げる。

 

 多くの岩で周りを囲まれた、直径五メートルぐらいの広めの温泉が湧いて溜まっていた。深いところは一メートル以上の結構な深さがありそうな雰囲気だった。

 一刀は邪魔にならない端の方へ籠を置いて、少し湯気が上がるお湯に触ってみるとちょうど良い感じの湯加減である。

 雲華は、背負っていた大きめの水瓶を下す。どうやら、温泉のお湯が水替わりのようだ。

 一刀は、良く考えるとどうやって水を汲むんだろうと考えた。すくって水を入れる容器はパッと見、見当たらないんだが……。

 すると、温泉の溜まってるところは、広いところと別に、奥にもう一つ直径二メートルぐらいのお湯が溜まっているところがあった。

 

 雲華は、奥の溜まりへと慣れた足取りで進む。そして水瓶の大きめの蓋をボンッと重い空気音をさせながら外すと、そのまま湯溜まりへ水瓶をゆっくり倒し、お湯が水瓶に満水になった状態でザッと素早く、水瓶を満水のお湯ごと高々と汲み上げた……それも片手で。

 それ……一体何キロあるんだよ。一刀は目が点になっていた。

 

 雲華は、満水の水瓶に水漏れしないようにとしっかり蓋をする。

 一刀は、もう帰るのかな……せっかくだから温泉入りたいけど……と思っていると、雲華に気持ちが伝わったようだ。

 

「せっかくだから、温泉に入る?」

 

 一刀は、ヨシ!と思ったが……。

 

(ここ、着替えるところどうするんだろ?)

 

 周りを何気なく見ながら思っていると、雲華は肩に掛けていた袋から、手ぬぐいのようなものを出して渡してくれた。

 

「北郷、はい。これを使いなさい。あと、温泉は広い方を使いなさいね。小さい方は飲み水用にしているから」

「あの、雲華。ここって着替えるところないよね……?」

「ないわね」

「あの~見えちゃうんじゃない?」

「……そうね……じゃあ、これで大丈夫でしょ?」

 

 雲華の手が……指先が、一刀の額の間に触れた。

 もう、おわかりいただけただろうか?

 

 

 

 視覚が絶にされた! 俺の楽しみがぁーーーーー!!

 

 

 

 しゅーん。

 一刀は入浴後、とぼとぼと雲華の家へ来た道を戻っていった……。

 

 でも、雲華はやさしい。

 一刀は、温泉の端で視覚が絶な状態で服を脱いで、前を手ぬぐいで隠した……情けない状態で見えない足場の恐怖に狼狽えながら岩場に立ち尽くしていた。

 そこへ雲華が来てくれて、視覚が絶な彼の手をゆっくり引いて、湯船に一緒に入ってくれたのだ。

 一刀は泣いた。

 もちろん、生まれて初めて裸の女の子のすぐ横で風呂に入れたからだ。

 

(クソッ……何も見えなかったけどな!)

 

 

 

 

 ……さて、天国もあれば地獄もある。

 雲華の巨木の家へ帰ってくると、もう夕暮れが迫っていた。昨晩は特別だったが、本来、夜は照明用の油やろうそくがもったいないということで、雲華はいつも早めに寝ているらしい。

 一刀もそれに従うべく夕餉を雲華と取ると、すぐに……寝させてはもらえなかった。

 

 一刀の『鬼』からの修行はまだ続いていた。

 肺、右腕の復習と左腕の絶気からの復元まで進んで、やっと就寝させてもらえたのだった。

 

 修行が終了し、雲華は上の部屋への梯子を上がっていく途中で、「おやすみ」と長椅子でヘタばって横になっている一刀に優しく声を掛けてくれる。

 そして、追い打ちも忘れない。

 

 「北郷、明日もがんばろうね♪」

 

 しかし、天国はあるのか、地獄のみ待つのか。一刀の……明日はどっちだ?

 

 

 

つづく

 

 

 




2014年03月27日 投稿
2014年03月31日 一部修正
2014年04月10日 見直し加筆修正
2014年04月17日 文章修正&挿絵追加
2014年04月28日 文章修正
2014年11月03日 文章見直し
2015年03月01日 文章修正(時間表現含む)
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