真・恋姫†一刀無双 ~初出会は少女仙人-混沌の外史~ 作:カメル~ン
無事に街で服を売ることが出来、泰山の雲華宅へ帰宅してきた雲華と一刀は、まさに日没の空が赤焼けの中、梯子をゆっくり上がって……上る途中でふと、一刀は倉庫の方に目をやると……木人が、ゆっくりと扉を閉めるところだった。
思わず「ご、ごくろうさん」と声を掛けた。すると……木人は軽く右手を挙げてくれると、扉を内から閉めていた。
(……あいつ、言葉が通じるのかな……)
一刀は首を傾げながら、何とも言えない不気味な気分になっていた。
一刀が食堂に入ると、雲華はすでに剣やマント状の大布を壁に掛けて、窓の横の台で手を洗っているところだった。入ってきた一刀の表情を伺うと、雲華は彼へ少し気を使っているのか聞いてきた。
「どう、やっぱり疲れたかな? すぐご飯にするわね」
そうこちらに少し微笑んだ顔を向けたまま、手を台の横の手ぬぐいで拭きながら言うと、彼女はそのまま調理室に向かって入っていった。
「いや、大丈夫だよ。雲華が最後に気で回復してくれたから」
「そう、ならいいけど」
続いて一刀も手を洗いながら、雲華とやり取りをする。雲華に帰り道の道中は酷い目にあったが、ちゃんとそのあとのフォローやケアはしてくれるのだ。それがあるので憎めない『悪魔』さまなのである。どうやら、あのイライラは収まってくれたようであった。
まもなく、雲華が用意してくれた夕食を食べながら、一刀は今日の気になったことを雲華に聞いてみた。
「雲華は以前、仙人は人と関わってはいけない……と言っていたけれど、今日はお店の人と普通に会話して、商売をしていたよね。これは大丈夫なの?」
「そうね……基本、『仙人は人と関わってはいけない』のは変わらないわ。だから今日もお店の人以外とは会話をしていない。でも、どうしてもというときはある。そのときに許される条件としては、二つ。どちらかを満たせばいい。一つは、仙人である事を相手に気付かれない事。もう一つは、相手も仙人の親族だというとき。これは仙人の配偶者の場合も含むわ」
「えっ? 仙人の親族って仙人だけじゃなくて、人にもいるってこと?」
雲華の回答の中に予想外のものがあり、一刀は思わず聞き返した。それに対して、当然という風に雲華は頷きながら返す。
「元々、仙人の親は人がほとんどなのよ。まあ、仙人が人と結婚して仙人の子供を産むこともあるけどね。自らの直系は一親等、そして二等身までの親兄弟は親族として大丈夫よ。ただし、これ以外に仙人の事を知らせるような親族、仙人は……間違いなく確実にキッチリ消されるわよ」
言葉と共に雲華の指が、自分の首を落とすように、またもシュッと手首を中心に弧を描く。『悪魔』さまに……いや、仙人に容赦はないらしい。まあとりあえず、仙人の掟は大丈夫そうなのでよかったのかな。
「仙人の掟を一度破ると、一度制裁……まあほとんど暗殺専門の仙人による抹殺だけど……これも一応許される例外はあるわ」
なにげなくこちらへ斜めに向いている雲華の顔に、殺気の籠もった笑顔が浮かぶ。一刀は内容を予想するが、恐る恐る聞いてみる。
「……ナニかな?」
「もちろん、己の仙人の力を見せつけて『返り討ち』にするのよ♪」
(やっぱり~?)
予想通りの返答に一刀は呆れていた。
雲華は、ふふふと余裕のある顔をしている……『悪魔』さま、あんた、絶対何度かヤってますよね?
「要は、暗殺専門の仙人を追い返せばいいのよ。暗殺専門の仙人も、自分の命は惜しいのが多いから引き分けを認めさせてもいいわ」
雲華は、容易く言うが、間違いなくそいつらは武闘派の凄腕仙人だ……普通の人や並みの仙人では万に一つも無理だろう。まあ、雲華の強さならそうなんだろうと一刀も納得して……話を元に戻す。
「で、あのお店の人達は?」
「ああ、若い方の女の人が仙人の奥さんで、もう一人が、仙人の実の母親らしいわ。それに、私が仙人ということは知らないはずだしね。若い方の女の人の旦那は、まだ若い見習い程度の仙人だけどね」
「そうか。まあ、服も無事に売れたようだし、良かったね」
雲華は、そうねと微笑んで話を終わり、二人は食事を続けた。
二人は夕食を終え、一刀は皿等の後片付けが済んで、雲華が調理室から戻って来るまで待つことにする。
夕食後は、読み書きの勉強ということで、一刀は机の上を拭いて、勉強用の竹簡の冊や木簡等の筆記用具を準備して食卓で待っていた。そして竹簡の冊の一つを広げながら、そこに書かれた読めそうで簡単な文章を復習がてら少しだけ読んでいた。
戻ってきた雲華は、長椅子に座ると早速、読み書きの勉強を始める。今日は、いつもと違ってまず質問形式だった。雲華が、これまでの覚えた箇所について口頭で問題を一刀に伝え、一刀は声で回答したり、木簡に文字を書いたりして返答した。二刻(三十分)ほどで終了すると、雲華は「とりあえず、少しは身に付いてきたようね」と言ってくれた。それから、半時(一時間)ほど新しい難しめの文章の勉強を進めていった。
それが終わると「今日は早めに寝ましょうか」ということで、ほどなく就寝した。
十二日目の朝、結構どんよりと曇っていた。ここに来てから雨は、九日目丸一日と十日目の朝に降っただけだ。
起きていつものように寝床を片付け最寄の窓を開けると、しばし外のそんな空模様を見ていた一刀は「今日は天気、持つかな?」と呟いていた。
曇りの日はお日様が見えないので、時間が掴みにくい。日の出辺りは明るくなるので分かるのだが、昼間は完全に曇っているとサッパリ分からない。しかし、雲華には雲など関係なく、太陽からの気で位置はハッキリと分かるらしい。
「おはよう、北郷」
「おはよう、雲華」
後ろからの雲華の挨拶する声に窓際から振り向くと、一刀も笑顔で雲華の顔を見ながら挨拶をする。一刀は、そこで「ん?」となった。雲華がいつもより穏やかな顔をしている気がした。
一刀の方を見ながら上から梯子を降りて来た雲華は、一刀と反対側の窓を開けると、一刀のいる窓横の台へ来て顔を洗う。この時代にも化粧道具はもちろんあるが、雲華は普段、ほとんど化粧をしていない。しかしそれでも、改めて横側より見える目鼻立ちの良さから、美しさや可愛らしさが損なわれることは全くなかった。
思わず見入ってしまった一刀に「どうしたの?」と首を傾げて雲華が聞いてきたので、一刀は少し焦ったが「今日も元気そうでよかった」と、思い付いた当たり前のことを言って誤魔化していた。
二人は食堂で朝食を取る。お皿に乗った食事を運んでくるときに雲華に聞かされたのだが、今日はこれから新しい修行の段階に入るらしい。一刀は一昨日までに、全身の各部について絶からの気の回復は出来るようになっていた。今日から何をするんだろうと食事の間に考えていたが、ふと昨日の事で一つ気になることを思い出す。
「雲華、実は昨日、戦いの最中に相手がすごくゆっくりと見える時があったんだ。それで、相手の剛撃が簡単に避けれたんだけど……。それがなかったら、俺は昨日死んでたかもしれない」
「見てたわよ。と言うか、あんな重要な事なのにやっと思い出してくれたのね? それに、あれは私が君に『速気』の手助けをしてあげてたんだけど?」
「………」
一刀は、『見ていた』という言葉から、そうだったのか、という衝撃を受けていた。そう、雲華はあの状況で一刀を『助ける』という行動ではなく『死にかけのチャンスに何が起こるのか』を選択していたのだ。さすがは『悪魔』さまである。まあ、応えてしまった自分も自分なのだが。雲華は一刀に説明してくれる。
「あれが、『速気』よ。ハッキリと体験出来たでしょ? あんな風に相手がかなりゆっくりに見えて、相手に一撃するも逃げるも避けるもやりたい放題の状況になるのよ。速気を長時間持続できるようになれば、四方から一度に何十人に襲われても消えるように躱せるし、同時に相手もすべて倒せるわ」
「………」
改めて聞いても圧倒的過ぎる話だ。雲華の話はまだ続く。
「『速気』と同じように『剛気』もあるわ。普段、もともと体の筋肉は全力でも三割も使われていない。その筋肉を剛気で強化した上で十割以上まで持っていく。そうね……君でも四十石ほど(約一トン)は普通に持ち上げられるようになると思うわよ……片手で」
それで片手かよ……一石辺り確か、二十五、六キロほどなので合計が四桁キロとかおかしい重さに……トンと言う単位が思いつくも、何故か豚が頭に浮かぶほど唖然として固まっていた一刀だった。
「例え、敵に捕らわれて鎖で繋がれても、手足を縛られ牛に引っ張られて八つ裂きになりそうになっても、『剛気』が使えればその状態から十分逃げられると思うわよ。あと、『剛気』は硬気功にも繋がっている。強く丈夫にという気は、筋肉と皮膚組織を鋼以上の強度に強化するわ……ま、でもそれは第二条の話ね。北郷、君はまだ第一条を習得し終えていないから。ということで、今日から第一条の完全習得を目指すわよ」
「……はい」
『悪魔』さまの話は漸く終わった。そして、一刀の返事は小さかった。本当にそんなところまでいけるのか? この段階まででもかなり苦労して進んで来たこともあり、一刀の頭へこの先に浮かぶイメージは、修行と言う名の『悪魔』さまによる地獄ショーしか想像出来なかったのだ。
雲華は「さて、まず食事を終わらせましょう」と、考え込んで箸を握ったまま目線を食卓に落とし食の進みが止まっていた一刀を動かした。二人が食事を終え、机等を端に片付けると食堂の真ん中に長椅子を一脚置いた。
そして、始めるわよと、一刀をそこに仰向けにさせる。すると、雲華は一刀に言った。
「北郷、絶の状態を覚えている?……そうね、確か君は目の絶が出来たわよね?」
ニヤリと少し怖い笑顔を、雲華は一刀に向けている。もはやバレている事実なので、一刀は素直に答える。
「ああ、出来るけど?」
「じゃあ、その絶を右腕に対しても出来るかな?……やってみて」
「……わかったよ」
いつものように逆らうのは無意味。一刀はやるだけである。そう、『悪魔』さまに言われればやるしかないのだ。
まず、右腕の気が通っている箇所を感じる……今はもう慣れてきていて、それを感覚的につかめている。これまではいつも、絶の状態からそれに気を通していた。それを肩のところから右手全体へ、今は止める意志を込める……強く込める。
すると、右手から気の流れが少なくなり、流れが止まる。一刀の意識から右手の感覚は失われていた。それを静かに見ていた雲華は一刀に確認する。
「ふうん、北郷、これ、初めて試してみたの?」
「うん、これが初めてだよ」
「……分かったわ、じゃあ、右手の気の流れを戻してみて」
一刀は右手の気の絶の状態を、通常の流れがある状態へ戻す。まあ、戻すのはもうほぼ一瞬だ。雲華はその様子を、目を閉じて笑い気味な表情で気の流れを伺っているように見えた。
そのあと、雲華は一刀に再び右手に同様の事を二十回ほど繰り返させる。それが終わると、同様の事を順次、左手、右足、左足、胴体へと行ってゆく。
ここまでで午前中が終わり、昼食を挟んで、そのあとさらに内臓、肺、心臓、頭部へと移してゆく。申時正刻(午後四時)ごろで、すべてが一通り終わった……。肺、心臓、頭部の脳はかなりキツかったが、すでに感覚は掴めているので、なんとか最初の数回に少し苦戦するだけで他はうまくできたと思えるものだった。
雲華から、起き上がっていいわよと声を掛けられ、一刀は椅子から起きて立ち上がる。
一刀は無事に終わったのかと、ふうと息を吐きほっとしていると、急に背中側の脇の下から雲華の手が胸の前へ回って来て、背中越しに――
ぎゅうっとハグ……抱きしめられていた!!!
雲華の……む、胸が背中に強烈に当たってるんですけど?! あの可憐で立派な柔らかい感触が、二つもこれでもかと押し付けられてるんですけど!?
しかし、そんなヨコシマなその思いも吹っ飛ぶ感じで、一刀は女の子に抱き付かれてるという、人生の中で全く経験のない余りの事態に何事か?!と慌てて、首を左肩越しに後ろを見ると、雲華はその顔を…右の頬を一刀の左肩下部に当てて、振り返った一刀の顔に寄せて見上げながら自分の事のように最高の笑顔で喜んで告げる。
「北郷、すごいじゃない! 自分自身で絶にするのは回復させるよりも相当難しい技術なのに、最初の日より全然早いなんて! 素晴らしいわ! 私が仙人になってから一番驚いた事かも」
「そ、そう?」
(……そうなのか? まあ、俺の人生でも今日が一番の驚きかもしれない!……女の子とハグハグ♪)
雲華は喜びの表現に気が済んだのか、あっさりと一刀から離れる。背中から雲華の柔らかな感触……もとい、温もりが離れていったのが少し寂しい一刀だった。
だが彼は動けず、まだ動かず……一刀は目を閉じ噛み締めながらその場で一人、背中の『二度とないかも』的な余韻を『まだ』楽しんでいた……。
それから雲華は、水汲みと食糧調達に行くと伝えてきた。朝からずっと酷い……そして、今度は一時的に最高の感動的な桃源郷を垣間見るなど、精神の安定にはほど遠くやや疲弊気味な様子なので、一刀はのんびり温泉でも浸かろうかなと支度に取り掛かった。
すでに、これで六回目の食糧探しになり、一刀も慣れてきたことで自生して食せる植物について、判断し易いものは採取出来るようになってきていた。もちろん、雲華もいつものようにガンガン籠に突っ込んでくれる。なので、一刀の背負った籠の埋まりも回数を追うごとに早くなって来ていた。いつもの温泉の場所までは、こなれた手際と道筋に慣れてきたこともあって二刻強(三十分)と徐々に縮まっている。そして最後はのんびりと景色だけを楽しみながら歩いて到着するようになっていた。
雲華はいつものように、まず奥の岩場の湯溜まりへ軽快に進み、サクッと水瓶にお湯を豪快に確保し蓋を閉めていた。もうすでに、前回とその前から水汲みに来たら、温泉は決定事項になっているので「入る?」という確認は無くなっている。
そして、前回、前々回も雲華は紺の湯あみ着を着て入浴し、一刀の横に並んで入ってくれるのだが、上がるときは一刀から離れてもっとも遠いところから、そして背中を向けてお湯から上がる。雲華の正面からの胸元がお湯で張り付いた最高の湯あみ着の姿は拝めなかった。それは寂しいのである。一刀のリビドーは満たされないのである!
だが――
雲華の背中からの湯で張り付いた、美しいクビレのある湯あみ着の姿は……桃尻の形はシッカリと拝めているのだった!
一刀はこれだけでも、多少のリビドーは満たされ……神に感謝するのであった。しかし、毎回そこで、雲華に後ろを振り返えられ厳しい目で睨まれるため、僅か数秒で目線を外さざるを得なかった……。少し寂しい。
さて、話は戻って……今回も、雲華は一刀の所まで来て、肩に掛けた袋から手ぬぐいを出して渡してくれた。そして、雲華はいつものごとく岩陰で服を脱ぐべく離れていった。一刀は手際よく服を脱ぐと畳んで下着も服の間に挟むと、手ぬぐいで前を隠しながら、湯船の脇まで行くと、この場に置きっ放しにしてある太い竹の手桶でお湯を浴びると、先に湯船に入っていつもの浅瀬の位置でのんびりしていた。まもなく雲華も岩陰から出て湯船の脇で背中を向けて竹の手桶でお湯を浴びる。そして――
歴史は動いた?!……何かがおかしい。
そう、雲華はいつも湯船への入退出時は背中からなのだが……今日は、横を向いていらっしゃるではないか!! なんと言うことでしょう!
さらにお湯を浴びて、お湯で張り付いた胸のふくらみが、二の腕で一部隠れているが…見えるではありませんか! そしてさらに、湯あみ着の紺の色が……薄い? 明らかに薄いんですけどと、一刀は自分の目の色彩に異常が発生したのかと、辺りの景色を見回して見比べてみたがやはり……薄い。
そう、もうおわかりいただけただろうか?
湯あみ着の下が透けて見えそうなのだぁぁーー☆☆☆!!!!!
雲華のあの美しいスタイルの体が、張り付いた湯あみ着越しに……ヤバイのである。ある意味、素肌よりエロい事この上ないのだ。
一刀の下半身は圧倒的に強大なリビドーの高まりを受けて、湯船の中ながら非常にデンジャラスでモッコリな状況に陥ってた。
雲華は、首まで湯船に浸かってゆっくりとこちらへ近づいて来る。一刀がいるところは浅い。雲華と一緒に並んで、そこで温まるのがいつものパターンになりつつあった。浅いので、一刀のヨコシマな想いとモッコリな状況は即バレてしまうのだ。
一刀はもはや、究極奥義的な苦渋の決断をせざるを得ない状況に追い込まれていた。
状況的に、リビドーの赴くままに行動を起こした場合……「生(なま)」か「死」かである。現状、おそらく比率は、1:99……さらに1は限りなく0に近そうであった。
しかし一刀は、すでに苦労して本日、わずかな合間に神の御業を習得していた……。解決法はすぐそこにあるのだ。
雲華はというと、横向きに一刀へ背中側を少し向けて、浅瀬になった一刀の傍へ這い寄るように近づいており、もはや目の前まで来ていた。
一刀は目を瞑ると、男としての溢れんばかりの悲しみの表情を浮かべた。そして……彼の神技は一瞬でついに『炸裂』していた。
雲華の背が岩に寄り掛かるように、一刀の右横に並んで湯船の中で足を延ばして座る。
……一刀の下半身はすでに、その類まれな力を失い……クッタリしていた。自身による一気な絶によってである。
(はぁぁぁぁぁ……)
一刀の何とも言えない表情に気付いた雲華が、一刀に声を掛ける。
「どうしたの? なんか表情が辛そうね?」
「いや、気にしないでくれ……」
雲華に聞かれた質問に、目を閉じてそう答えるのがやっとな一刀だった。
少しして一刀は目を開くのだが……当然一刀はすぐに気が付いてしまう。自分のモッコリな状況がバレてしまうこの距離である。横に並んでいる雲華の、紺の色が薄い湯あみ着越しに……二つの胸の膨らみのその中に薄っすらと……すると、雲華の左手が横からサッと伸びて来て一刀の眉間に当てられる。何か刺さった感触が?と同時に一刀の視覚が暗転する。
「見ちゃダメ!」
雲華は一刀の目線に気付いたらしい。雲華の台詞に対して、一刀的には『でも、その恰好はどうなの?』と聞きたいが、『悪魔』さまにはとても聞けない。
そして雲華から、どうやら視覚の絶を食らったらしいのだが、驚いたことに得意な視覚への瞬間回復を何度掛けても気道が回復しなかったのだ! 視覚が落ちたままなのだ。
「物理的に絶えず『絶』にされれば、君の得意技でもそう簡単には見えないわよ?」
どうやら雲華は何か鋭いものを一刀の眉間に突き刺して視覚を常時絶っているらしい。
でも、思い出す。しっかりと一刀は見た。雲華の湯あみ着越しの、二つの胸の膨らみのその中に……真ん中辺りに薄っすらとピ……すると、雲華の声が聞こえた。
「思い出してもダメ!」
一刀はビクリと驚いた。なぜ?! このドンピシャなタイミングで指摘されたんだ? まさか、雲華の仙術は相手の思考も筒抜けなのか?!
……でも一刀は理由がすぐに分かった……分かってしまった。まあ、バレるだろうね♪
そう、一刀の下半身が一気に『瞬間回復』していたからだった!
一刀は恐怖した。ヤバイ、これはヤバイと……命を消されるか?それとも記憶を消されるのか?それとも……アソコを消されるか?と。
しかし、なんと異変はまだ続いていたのであった。
よく分からない。雲華がそのあとに発した言葉が一刀にはよく理解できなかった。完全に想定外だった文言が並んでいた。
「しょうがないわね」
そのあと、雲華がすぐ横にいる一刀に何か罰らしき事をすることはなかった。一刀も雲華の理解外の言葉の意味に対しての解読に全力を上げて固まったまま時間は過ぎていった。
そして、一刀の答えが出ぬまま、充分温泉を堪能した雲華が湯船から上がるときに一刀へ「もう、いいわよ。眉間に刺さったのを取って捨てておきなさい」と言って着替えるために湯船を後にした。
そのあと、一刀は眉間に刺さったものを抜くと、瞬間回復を掛けて視覚を回復する。ふと、抜いた物体に目をやる。そしてじっと見つめる。それの先は鋭く、気功によって強化されてなのか、まっすぐ三センチほどで細く短く黒い……。
ふと雲華の頭部を思い出す。後頭部で大玉に括っているけど長いよな……。目元や眉はもっと短いし。
そして一刀はまた、ヨコシマな事がいろいろと頭に充満し、それが超新星爆発して思わずツブやいていた――
「……これってどこのケだろう……?」
その瞬間、なにか竹製の桶のようなものが、俯(うつむ)いて『細く短く黒い』それをじっと見ていた一刀のおでこに神速で直撃し粉々に砕け散っていた。一刀はそのあとの……この日の記憶がない。もちろん晩飯を食べたという記憶すらカケラも残っていない。……また、当然晩飯抜きですよね……? でも、ありがとうございました。
これでも今日は、結構幸せな一刀であった。
つづく
2014年04月10日 投稿
2014年04月19日 文章修正
2014年05月03日 文章修正
2015年03月05日 文章修正(時間表現含む)