真・恋姫†一刀無双 ~初出会は少女仙人-混沌の外史~   作:カメル~ン

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第○➈話

 

 

 

 さて、『悪魔』さまの指示に「はい」と答えてしまった一刀。もはや、やるしかないのであった。実行あるのみである。

 修行なら、たとえ火の中、水の中であっても突き進んで喜んで死ぬのみなのだ。

 討死万歳である!

 しかし……しかし、これは……余りに……状況が状況だった。

 

『一人の少年が、うら若き女の子と、同じ寝所で、一晩一緒に寝て過ごす』

 

 どう表現しようと、どう考えようと、どう取り繕おうとも、疑う余地は皆無と言える。

 

 

 

 そう ―――― 『イカガワシイ』のである! 少年誌エロを超えちゃうかもなのである!

 

 

 

 一刀は考える。

 

(ついに俺のリビドーが、フルに溜まりきったストックが、一気に完全開放されてしまうのだろうか?!

 そして、あの栄光の、部位の――ついにその現物をこの手に……つ、掴んで……握って……触って……あんなことや、こんなことまで……●●してしまうことがデキちゃうんだろうか――――)

 

 今は、全く必要がない状況なのだが、途方もないヨコシマな気が無尽蔵に一刀の周囲へ溢れまくっていた。

 そしてそんな、頭の回りをエンゼルが飛び回るような思考を巡らして、完全に顔面の締まりが崩壊しているだらしない表情の一刀へ、雲華が「これに着替えて上の部屋に上がって来てね……」と告げる。

 それを「ハイハ~イ♪」と言いながら着替えを受け取る一刀。寝間着なのだろうか?

 新しい装飾の服を渡すと、雲華は静々と梯子を上って上の部屋へと消えていった。

 しばらく、呆け続けていた一刀だったが、急に思い出したように「待たせてはイケナイ!」と、無駄にカッコを付けたキリリとしたつもりの表情を作ると、窓の横の洗面所のところで歯を磨く。

 この時代でも、歯ブラシのようなものは存在する。歯磨き粉はさすがにないので、塩などで軽く歯や歯茎を丁寧に一通り擦って口を何度かゆすぐ。一応、雲華と一刀は朝晩二回が習慣になっていた。

 そして、慌てるもウキウキしながら雲華から渡された服に着替え始める。

 だが急いでいても一刀は、脱いだ服をきちんと畳むことを忘れない。『悪魔』さまは基本に厳しいのだ。

 

 

 

 しかし……やはり、何かが変だった。そのことに一刀は、今、身に付けた服で気が付いたのだが、イエスマンにはどうしようもなかった……。

 

 

 

 雲華は、寝るときにはいつも髪を下ろしている。そして、その艶やかな長い髪の毛が、折れたりしないように桃色の生地で出来た長い袋状のものを頭に被り、髪を収めて外からその袋に付いている紐で軽く縛っている。髪を丸く束にすることで折れを防ぐらしい。その髪の袋を、寝るときには背中ではなく、横から上に出して眠るのだ。

 雲華はそんなに意識して作ったわけではないのだが、髪を収めた桃色の袋状のものは後頭部で折れたようになった部分が耳のように見えるので、遠目に見ると実はなにげにちょっと可愛く見えていた。

 服装も、あの鮮やかな紅のチャイナ服から、下に着ている可愛い下着が僅かに透けて見える桃色の生地に、紫のヒラヒラの付いたネグリジェ風の可愛らしい着物に着替えている。

 そしてすでに雲華は、木枠の組まれた女性らしい赤の布で装飾された、古風な中華様式ベッドの端に足を下ろすように座って静かに一刀を待っていた。

 すると、下の食堂から一刀の声が聞こえてくる。

 

「着替えたから、梯子を上がってもいいかな?」

「いいわよ」

 

 一刀は、恐る恐る梯子を一歩一歩上って雲華の部屋へ上がって来た。

 すると、雲華は一刀の姿を見て口を押えて吹き出していた。

 

「ふふふ、スゴく似合ってるわね、一刀」

 

 一刀は、いくらなんでも無理があるよね?と、呆れながら笑い顔で一応抗議する。

 

「嘘つけ! これは、なんなんだよ?!」

 

 みなさん、超凶悪犯の囚人服をご存じだろうか? 猿轡を口にした上で、手や足をベルトのような拘束具で固定して最終的にはまるでミイラのように動けなくするものである。一刀が着ているのはそんな感じの頑強な太い帯が一杯付いており、それらは長く垂れていて気を付けないと踏みそうになる。さすがにサルグツワはしていないが、袖からは手が出る事なく延々と長い。おまけになんで知ってるんだろという、おなじみの囚人柄の横へのボーダー柄が上半身に入っていた……。

 さすがに、この犯罪者扱いのような服はないのではと、一刀は雲華の顔を見て抗議したのだが……ここで、一刀は雲華の姿に気が付いた……気が付いてしまった。

 一刀は、最後のだよの「よ?!」と言い切った口の形のまま表情ごと固まっている。

 そして自分の服の事などは、もうどうでも良くなって雲華の様子に見入っていた。

 それは、ベッドの端に素足のふくらはぎ以下の足先を下ろすように、膝を合わせてちょこんと座ってこちらを笑顔で見ており、後ろに長く垂れる耳帽を被った、桃色で下着の少し透けたネグリジェ風の可愛らしい着物を着ている姿に。

 

 

 

 『ああ、雲華は、可愛いなぁ♪』

 

 

 

 一刀の脳ミソには、既にその思考しか存在しなかった。

 そして、雲華に「その服はイヤ?」と小首を傾げながら上目使いに可愛く聞かれると、一刀が反論することは、もはやあり得なかった。

 

「もう、これでいいです。思い残す事は何一つありません」

 

 すでに、一刀の言葉は内容が少しおかしく、そして棒読みであった。

 さらに、雲華はベッドがら降りて靴を履くと、一刀の傍へやってくる。

 可愛らしい耳帽の……そしてすぐ傍で近いため、透て見える凝った刺繍の入った胸やお尻の可愛い下着がベッドの位置よりも、大・大・超拡大されて見えてるんですけど?!

 それに裾が……ネグリジェ風の可愛らしい着物の裾が超ミニではないのだが、明らかに短いんですが?股下十センチ無いんですけど!

 一刀はどうしてこうなった?と想像が付かなかった。

 先日の街に持って行ったときに見た雲華の作った多くの服の中に、こんな裾の短い服はなかったと思うんだが……と。

 それは当然、雲華がその後に新しく作ったからに他ならない。誰かさんのために、わざわざである。

 もちろん参考にしたは、昨日、一刀が墨で描いた好きなミニスカメイド服だった。あの木簡は、ミニスカ版も含めてごっそりと屋根裏に保管されているのであった。

 そして、一刀の所へ近づいて来た雲華は、彼の服から垂れている紐や帯を手に取ると……一刀を拘束するのではなく、「ちゃんと結んで留めておかないと危ないでしょ」と、その服の邪魔にならにように帯を畳んで、一つずつ服へ結いつけていった。

 その雲華の所作の間が……ヤバイです。

 生なももが!ふとももが! ムチムチっと、プルプルル~ン♪

 そして―――。

 

 

 

 腰を曲げたら桃(モモ)尻の白い下着が近距離で……直接丸見えです……横からでも!後ろからでも!!

 

 

 

 もう、堪能し過ぎて一刀は完全に放心状態である。ただ、目は標的にロックオンされ、脳は映像記録を逃すことなく焼き付け続けるのは自動的に継続されていたが。

 しかし、雲華は少し顔を赤くしているがそれを隠そうとはしていない。普段通りに振舞おうとしている? いやそれなら早く済ます為に『速気』は使わないのだろうか? 一刀は、モンモンと色々考えていた。

 雲華はゆっくりと一刀へ甲斐甲斐しくその作業を終えると、「はい! これで、帯類は邪魔にならないでしょ?」と言うと、さらにアッサリとトドメの『それ』を提案してくる。

 

「じゃあ、寝ましょうか?」

 

 一刀は、脳ミソが大分混乱気味と言えた。大変興奮気味でもあるが。リビドーが超新星爆発……いや、ビッグ☆バン!しちゃってもいいんでしょうか?そんな感じである。一刀は、思わず雲華に聞き返してしまう。

 

「えっ?! 寝ちゃうの? 俺、このまま自由で寝ちゃっていいの?!」

 

 すると、雲華は一刀の目を普段のように優しく見つめながらこう告げる。

 

 

 

「一刀には……君には、その拘束が本当に必要なの?」

 

 

 

 その雲華の言葉を聞いて、一刀の原子炉のように燃え盛っていたリビドーは、一気に緊急停止した。

 そして、一刀は考える。

 そうである。相手は、大恩ある敬愛する雲華なのだ。……『悪魔』さまは今は関係ない。

 その、雲華にどうこう出来る資格が、今の自分自身にあるのだろうか? 何も成していない、ただ、雲華の厚遇に甘んじているだけの、世話になりっ放しの自分に……。

 もちろん、雲華はそんな傲慢なことは少しも思っていないだろう。

 そう、今の自分に資格なんてあるはずがない……。

 

 

 

 余りの自分のお気楽なバカさ加減と情けなさに―――― 一刀の目から涙がこぼれていた。

 

 

 

 びっくりしたのは、雲華である。

 

「一刀?! どうしたの?!」

 

 慌てて寄り添ってくると、心配そうに背中に優しく手を回して抱いてくれながら一刀を見上げる雲華に、一刀は急いて涙を拭いながら笑顔を作って答える。

 

「な、なんでもないよ、雲華。ただ、君に……ありがとうって」

 

 その気持ちを量りかねて、雲華は不安そうにつぶやく。

 

「一刀……」

 

 雲華に心配させちゃいけないと、心配顔の雲華の顔を見ながら一刀は笑顔を続けて話をする。

 

「大丈夫、大丈夫。さあ、寝ようか」

「……そう。じゃあ、一刀。こっちに来て」

 

 雲華も一刀の気持ちを汲んでくれたのか、深く追求せずにベッドへ一刀を背中に手を回してくれたまま案内してくれた。

 ベッド脇まで来ると、雲華は一刀から離れて掛け布団を捲ると、靴を脱いでベッドへ上がる。

 一刀は、それでも……それでも思わず思ってしまう……なんかいい匂いがする~~!と。

 どうやら、ヨコシマな感情を完全に消し去ることは不可能なようだ。潔くここは諦めよう。

 敷き布団の下は結構固いのか、雲華が上に載ってもそれほど凹んだ感はない。

 

「さあ、一刀も靴を脱いで、どうぞ」

 

 雲華は笑顔でそう言って、潜りこんだ布団の自分の横の空いた、敷き布団の処をポンと軽く叩きながら一刀を招いた。

 一刀はもう落ち着いていた。雲華の笑顔に少し恥ずかしそうに微笑んで返しながら返事をする。

 

「じゃあ、遠慮なく……おじゃまします」

 

 一刀は、雲華の布団に潜り込むと掛け布団を上に掛けた。うぅん、いい匂いだ……ここにも、まさに極楽があったのだ。

 そして、雲華の布団の中は予想以上に暖かい。一刀は食堂での長椅子には慣れてきていたが、やはり布団はいいなぁと改めて思い直していた。

 布団の下は板張りのようであった。敷き布団の綿があるのでそれほど気にはならない。まあ、この時代にスプリングのようなバネなんてあるはずがない。

 あと一応、枕のようなものもある。木の台に綿が入ったクッションのようなものが上に付いているものだった。雲華は「それを使ってね」と言ってくれたので使わせてもらう。雲華も同じものを使っているのでお揃いであった。

 ベッドの縦は百八十五センチぐらいはあったので横になってもまだ少し余裕があった。足先を伸ばすと板に届くけど。

 

「じゃあ、明かりを消すわよ?」

「いいよ」

 

 一刀は、雲華の言葉に首を横に向けて彼女の方を向いて答える。すると、雲華もこっちを向いていた。ふふっという感じで嬉しそうな顔をしている。

 横に並んで寝ている二人の距離はそれほどない……というか近い。互いの肩は十五センチも離れていないだろう。

 雲華は一刀の返事を聞くと、布団から指を一本出すと、くいっと素早く指を曲げた。すると1本だけ点けていた蝋燭がシュっと消えた。部屋は一気に真っ暗になった。一刀は消した方法が気になって真っ暗な中、雲華に聞いてみる。

 

「今のは、どうやって消したの?」

「消灯用の仙術よ。特定の位置にある蝋燭だけを消せるのよ」

「それ、便利だな」

「じゃあ、今度教えてあげるわ」

 

 一刀は「やったぁ、ありがとう」と言うと、雲華がドキっとするようなことを言って来る。

 

「……じゃあ、お礼を先払いでもらいたいんだけど」

「な、なにかな?」

 

 急に先払いとか……一刀は何を言われるのかと、またしてもドキドキして待っていると、雲華は恥ずかしそうに小声で言ってくる。

 

「……て、手を……一刀の手を握って……眠ってもいい……かな?」

 

 それを聞いて一刀は、そこで雲華が自分が涙を見せてしまった時といい、ずっと家族的な自然体だなぁと気付くのだった。まあ、この突飛な服にはどう言う意味合いが込められているのかは少し謎だが。

 一刀は左側の非常に長い袖を捲っていって手の平を出すと、布団の中で少し雲華寄りへ左手を動かすと答える。

 

「いいよ。俺も……雲華の手を握って眠りたいな」

「……そう。よかった。うれしい」

 

 そういうと、雲華の方から手を……にぎ……って、じゃなく一刀の手の指と指の間に―――雲華の指と一刀の指がしっかり絡み合うように握られていく。

 一刀は、(えぇっ、そっちーーーー?!)といきなりハイレベルな『女の子と手を繋いで』展開に、心の中で叫んでいた。

 雲華が真っ暗な中、こっそり言う。

 

「あったかいね、一刀の手」

「雲華の手も、あったかいよ」

 

 一刀もこっそりと言い返す。

 初めは少し気恥ずかしいのだが……慣れれば周りが見ていようとも、どうと言う事は無くなって来るものである。二人は早くもすでにそういう境地に達しつつあった。

 

「ふふっ、さあ、寝ましょう」

「ああ、おやすみ、雲華」

「おやすみなさい、一刀」

 

 雲華を、ずっと守って行けるように強くなりたいなぁ……一刀は心地よく落ちていく眠りの中で、ふとそう思うのだった。

 

 

 

 

 

 

 次の日、一刀は目を覚ます。

 上を向いた寝ぼけた視線は、薄暗い中、見慣れない赤い感じの四角い小さめな天井とその周りがヒラヒラした赤っぽいい布で周りが飾られている。

 それを見て、急速に一刀は昨晩の事を思い出す。

 そう、雲華の布団で、雲華の隣で寝たんだということを。同時に、手をつないだ左手のことを思い出す。

 そして……まだ手は握られている。

 一刀は仰向けに寝た状態とまま、ピクリと手を動かすと……どうやら、絡められた雲華の右手だけじゃなく、なんと雲華のもう一方の手にも包むように握られているのに気が付いた。

 一刀はゆっくりと左に首を傾けて、雲華の方を見る。

 雲華は綺麗な可愛らしい顔を、体ごと横向きにこちらに向けて、一刀の左手を両手で胸に大事に抱き寄せるようにして、まだ静かに寝息を立てていた。

 一刀はちょっと信じられなかった。

 あの雲華が、完全に気を抜いて横で熟睡してしまっているのだ。

 達人仙人としては、まさに致命的な状況と言えた。

 今の雲華は『悪魔』さまではなく、耳帽のごとく一刀の横で丸くなる『こねこ』さまになっていた。

 そんな可愛い雲華の寝顔を、しばらく一刀は静かに眺めていた。

 そして、再び強く思うのだった。この気を許してくれている隙だらけな状態の雲華は、自分が死んででも絶対に守るんだ!……と。

 ふと、一刀は雲華の頬をぷにぷにっと突っついてみたくなった。よせばいいのにである。

 一刀はゆっくりと左手を動かさないように体を雲華の方に向けて、向かい合うように横になると、そ~っと右手を近づけて雲華の左頬をつんつんと突っついてみた……。

 次の一瞬で、掛け布団がいつの間にか足元に退けられながら、それがまだパサリと倒れ込む前に、一刀がまだ横になっている隣、彼女が今まで横になって静かな寝息を立てて熟睡していた場所に旋風が起こり―――

 

 

 

 双眼が蒼の光を発した雲華が、凄まじい殺気と鋭い構えを取って立っていた。

 

 

 

 薄暗い部屋の中で、目だけが鋭く光っている『悪魔』さまが身構えているという、ホラー顔負けの状況と少し場違いだったが、一刀は思わず普通に声を掛ける。

 

「お、おはよう、雲華」

 

 辺りを凄まじい眼光で忙しく探りながら警戒していた雲華が答えた。

 

「……おはよう、一刀。……もしかして、私……完全に寝ていた?」

 

 雲華の話ぶりから、本人も気が付かない内に完全に意識が落ちてしまっていたらしい。

「ああ、良く寝ていたよ。可愛らしい寝顔でね」

 

 それを聞いて一気に顔が赤くなる雲華であった。

 彼女は、「もうっ」と言う声とともにその場に、ストンと両脹脛を太腿の外にするように膝を曲げて可愛らしく座り込むと、横にまだ寝そべったままの一刀に不機嫌そうな顔を向ける。

 やはり、寝顔を見られるのは恥ずかしいらしいのか、雲華はなにやら小声でつぶやく。

 

「……(ほんとは私が、一刀の寝顔を楽しむつもりだったのにぃ……)」

 

 いや……どうやら、一刀には寝顔を見られても恥ずかしいけれど、すでに納得しているみたいだ。

 

「ん? なに、雲華?」

「そ、そうだ。髪を梳いてよね」

 

 本心を誤魔化すように雲華は、一刀の日課と決めた髪を梳いてもらうことにする。ゆっくりと桃色の耳帽の頭に被った袋の紐を外してゆく。

 一刀は、その前にと提案する。

 

「先に窓を開けるよ」

「そうね、お願い」

 

 雲華も一刀に同意しながら、紐を解きを続けている。

 一刀はベッド脇から降りて靴を履くと、薄暗い中をうろ覚えだがおおよその窓の位置へ向かう。

 この部屋の窓も庇式なので、一刀は下から押すように開く。

 光が部屋に入って来てかなり明るくなる。庇の脇から覗く空は一面青い色をしている。すでに日は上っているようだった。

 

 この部屋に二か所あるもう一方の窓も開けて、ずいぶん明るくなった部屋の中を、一刀はベッドまで戻って来る。

 いや、ベッド近くで立ち尽くしてしまっていた。

 一刀は朝の光が差し込む中に、桃色の袋を頭から外して長い艶やかな黒髪を可憐に靡かせ、丁寧な刺繍の入った下着の透けた桃色の生地に紫のヒラヒラの付いたネグリジェ風の着物を着て、ベッドの上で可愛らしく座っている雲華を純粋に綺麗だなぁと見とれていたのだ。

 そんな立ち止まった一刀の姿に気が付き、雲華は小首を傾げて尋ねる。

 

「どうしたの?」

 

 一刀は、自然体でつい正直に答えてしまう。

 

「いや窓から見えた、今日の外はすごくいい天気な青空で綺麗だったけど……朝の光の中の雲華の方がずっと綺麗だなと思ってね」

 

 今度は、それを聞いた雲華の顔の方が超新星爆発を起こしていた……。

 そして、全身の白い肌もほんのり桃色になり、思わず手で口元を隠してしまうほど雲華は動揺してしまっていた。

 しかし、もはやそれは、恥ずかしいのではない。

 

 

 

 ……そう、うれしいのである。たまらなく、嬉しいかったのだ。

 

 

 

 そして、雲華も一刀の言葉に、思ったことを自然に返していた。

 

「うれしい……一刀に、そう想ってもらえることがとても嬉しいわ」

 

 二人は、しばし互いにそのまま静かに見詰め合っていた。

 すると、一羽の鳥が、窓の縁にパタパタと止まると一鳴くする。そこで、漸く二人は我に返ると、窓にいる鳥の方を向いた。その鳥は、部屋の中で人のいる気配に気付くと慌てて飛び去っていった。

 その様子を見終えると、二人は再び顔を合わせて笑う。

 そして、一刀は間を改めて雲華に言う。

 

「じゃあ、雲華。その綺麗な髪を梳くね」

「うん、お願いするわ」

 

 靴を脱いで雲華のベッドに上がると、ちょこんと座る雲華の後ろへと移動する。

 

「……君しか梳く人はないんだから……綺麗に梳いてね」

「わかってるよ」

 

 一刀は振り返った雲華から、櫛を受け取りながら雲華の言葉に軽く返す。まだ彼は分かっていない。

 髪は女の命である。

 雲華はこう「君にしか梳かせないんだから」と言いたかったのだが。

 櫛を渡し終えて前を向きなおした雲華は、それゆえ少し不満顔をしていた。

 でも、一刀だし……次はいつ言おうかしらと、すぐに気を取り直して微笑んでいた。

 一刀は、自身でも気付かぬうちに、とても大切なものを扱う様に、自分の宝物のように丁寧に扱って髪を梳いて行く。

 一刀は、親からもらったり、自分で買ったりした、今までの人生で手に入れたどんな宝物よりも気を遣って扱っていた。

 

 

 

 雲華が、雲華のすべてが大事だ……もう、自分よりも大事かもしれない―――。

 

 

 

 雲華も髪を梳かれながら考えていた。

 一刀に髪を梳かれていると、殺伐としたこれまでの人生にない幸せな気持ちで落ち着いてくる。そして一刀に髪を触られるのがうれしい。一刀と一緒にいるのが楽しい―――。

 ふと、昨晩から今朝に掛けて、完全に寝入ってしまった自分を思い出す。それまでの人生では、常に緊張を持っていた意識が途絶えるなどありえない事だった。

 それは、死に繋がるのだから。

 しかし一刀へは、すでに長時間に渡って自身の死の可能性を晒して見せていたことになるのだ。

 

(そうね……武人だけの私は……昨晩死んでしまったのかもしれないわね)

 

 そして、同時に思う。

 でも気に入っている一刀になら、死の隙を見せたことを後悔することもないわねと。そんな尊い存在は、今までの人生で彼女にはいない。師匠ですらもだ。

 そんな、自分も全然悪くないなと思い、なにげに幸せな雲華は自然と笑顔になっていた。

 

 一刀は、またもや長時間、髪の肌触りや雲華から香る芳香を堪能してしまった。

 おまけに、ちょこんと雲華が座った後ろから見ると、桃尻の下着が着物から透けてる部分と直接見えてる部分が、最大解像度で自由に何度でも好きなだけ閲覧可能であった。

 敬愛する者に対して……一刀は、自分がなさけなく……いやいや……これは役得……いや!この作業は断じて『罰』である!と、思いこむ事にして流した。もはや完全に意味不明だが。

 当然、その間目に飛び込んできた視覚は、最大解像度で脳ミソに全篇が自動録画で焼き付け済であった。

 すでに終わったことは仕方がないのだ。今はどうでもいいのである!

 

(……あとで思い出せればいいんだよね♪)

 

 それと一刀は、ここ数日考えていたこの時代での、新しい目標をついに自分に立てたのだった。

 

 

 

 『修行を終え、外に出て早く一人前となって、再びここに帰ってくる』

 

 

 

 だがまだ、外に出て何をするのかを決めていないなど、色々悩んではいた。

 今一刀は、食堂で雲華が作ってくれている朝食が運ばれてくるのを待っている。

 髪梳きが終わった後、お互いに着替える為、一刀は食堂へ降りて窓を開けると、囚人服のような寝間着を着替えて窓の横で顔を洗う。食卓周りを拭いたり床を掃除していると、紅のチャイナ服に着替えた雲華が降りてきて顔を洗うと「じゃあ、朝食にするわね」と笑顔で、今しがた調理室に入って行ったところである。

 ほどなく、朝食が出来、雲華によって手早くお皿が運ばれてくる。

 彼女は手の平だけでなく、雑技団のように腕、二の腕にも並べて載せて来るので大体、二度往復すれば事足りた。「いただきます」と一刀と雲華は食べ始める。

 痛むともったいないのでと、イノシシの肉が朝からだが振舞われる。焼肉はいつ食べてもうまいなぁ。

 一刀は、朝からそれを堪能して食べていた。ご飯なら三杯はいけるなぁと。

 ほどなく朝食が終わり、片付けが済むと修行となった。

 どうやら食堂で、このまま絶気技である『飛加攻害』の続きをやるようだった。

 雲華は一刀へ丁寧に教える。

 

「昨日は、絶気を掛けた周りにまで、勝手に広がっていったわよね?」

「ああ」

「あれは、相手の気の流れが上手く理解出来ていなかったからよ。ただ単純に『気の流れを絶つ』としただけだとああなってしまうの。第一、私が君に絶を行うと、きちんと範囲が絞られていたでしょう?」

 

 一刀は、昨日の毒のような広がりを見せる気の絶に少し恐怖を感じていたが、良く考えると雲華は影響範囲を完全にコントロールしていたのだ。

 そう考えると、自分が未熟なだけだと分かったのでやる気が出てきた。

 

「わかったよ。じゃあ、どうすればいいのかな」

「一刀は自分に絶を掛けるとき、場所を特定してその流れがどうすれば止まるかを考えて絶を掛けていたでしょう?」

「うん、確かに」

「それと同じことを相手の体でもやるのよ。体の構造は基本的に同じなのだから、自分と同じ場所に作用させれば同じ効果が得られるでしょ?」

 

 言うまでもないが、さすが雲華である。説明が分かりやすい。一刀は、納得して笑顔で雲華に答える。

 

「なるほど! よく分かったよ」

 

 それではと、雲華は再び右の人差し指を立てた拳を、昨日と同じように一刀の前に出して来た。

 

「じゃあ、はじめるよ」

 

 一刀は雲華に断ると、雲華は頷いてくれる。それから一刀も昨日と同じように左手の人差し指と中指だけを雲華の右の人差し指の根元に当てる。

 そして、自分の指の気の流れを止めるときと同じように考え、雲華の気の流れの同じ個所に絶にする気を送り込んだ。

 すると、雲華の人差し指の気だけが止まると、その指の気だけが失われていった。そしてそのままの状態で維持されたのである。

 

「やっぱり凄いわね」

 

 雲華が一言告げた。一刀はそれに相槌を打つように言葉を続ける。

 

「ああ、この技はすごいね」

 

 すると、雲華は一刀を見つめると気の絶えた、力のない人差し指を残したままの右手で、一刀の左手を優しく掴む。そして首をゆっくりと左右に振るとこう話はじめる。

 

「君は昨日と含めてこの技をたった二度しか使っていないのに……今のは完璧だったわ。この技は基本に近いゆえに上達は難しい。増して他人の体の気を思い通りに動かすのは並大抵では身に付かないの。理論は分かっても普通は効果が出にくいから。相手の気を制することは上級者の条件だけど……君はすでに第四条の無限の気力の会得といい、順番が少しおかしいと思えるくらいね」

「無限の気力もそうなの?」

「当り前よ、あんな膨大な強い気力を瞬間的に爆発的に生み出しているんだから。……今の私でも……無理よ」

 

 その雲華の顔はなぜか、とても……とても嬉しそうだった。

 それから、雲華が一応と、一刀は雲華の右手の指、右腕、左手の指、左腕の順に気を絶する修行を行った。いずれも、一回で成功させることが出来た。

 この飛加攻害という技の要点は、相手の気の流れを正確に把握すること。そして、絶にするときに相手の気を上回る必要があること。この二点である。

 今回の修行の際は、その箇所に触れて気を絶にするのだが……『雲華は俺の体より、やはり柔らかいなぁ……』と、一刀はまたしてもヨコシマな思いに浸っていた。

 同時に回復訓練も兼ねて、雲華の絶にした体の箇所、右手の指、右腕、左手の指、左腕を一気に一刀は瞬間完全回復させる。回復までを1回にして計十回行った。

 雲華はもはや笑っていた。

 

「君の瞬間回復は……本当にすごいわね。どうやら、疲れも一気に飛んじゃうみたいだし。もしかすると、すでに第三条は習得しかけているのかもね」

「そうなの? ずっと絶を一気に回復させるという気持ちで掛けているだけなんだけどなぁ。あ、でも最近はとにかく元気になればいいなぁという気で掛けてるかな」

 

 一刀は自分ではよく分かっていないので、そんな感じなんだけどと考えを言ってみる。

 すると、雲華はこう答えてくれた。

 

「普通はこう一気には回復しないものなのよ。一度閉じた気の通り道は気を送って通してあげないと……そうね、先導する気が必要なのよ。閉じていた通り道にその人の気を、気功の達人の気が引っ張って通してあげるの。だから普通は腕、足と部分的にしか出来ないと思う。私もそうよ。早くすることで、全身回復でも早いけど。君みたいに同時に進行させて一気に回復なんて……出来るとすれば、そうね……師匠ぐらいかも」

「えぇ? そうなの」

 

 さすがに、一刀も驚く。なんとなくやってる事なのに、大事過ぎるんですけど?と。

 

「そうよ、それぐらい驚異なのよ。うーん、君の気の持つ力は、神気瞬導を通すと絶大な効果があるようね」

「そうかぁ。でも、よかった。それなら雲華の役にも立てそうだ」

 

 「え?」っと雲華が一刀に向かって首を傾げる。一刀は嬉しそうに答える。

 

「今の俺では、武術じゃ足手まといにしかならないけれど、もし雲華が一人で直せないような怪我や病気をしても、俺が力を貸せば直せるかもしれないじゃないか」

 

 雲華は嬉しそうにやさしく笑う。そして一刀に答える。

 

「ありがとう。きっとそうね」

 

 ここで、休憩のお茶になった。

 食卓に座って雲華の入れてくれたお茶を、彼女と食卓越しに向かい合って飲んでいる。

 ああ、お茶がうまい。

 雲華へ顔を向けると、ニッコリと優しく微笑んでくれる。

 綺麗で可愛い女の子と過ごす時間……ああ、極楽である。

 今はまだ、巳時正刻(午前十時)ぐらいだろうか。窓から快晴の明るい光が食堂を明るくしている。

 一刀はさて、この後はどうするんだろうと、雲華へ聞いてみる。

 

「次は何するの?」

「そうね、昼食の前に体を動かしましょうか」

「はーい」

 

 どうやら、広場で修行のようである。木人が出るのか、それとも『悪魔』さまが出るのかであろう。そして、時間は一時(二時間)もある。

 まもなくお茶が終わり、一刀と雲華は梯子を下りて広場まで出てきた。

 そこには木人が一人、すでに立っていた。そして……なにか、昨日までと明らかに雰囲気が違ったのだ。

 どっしりと構えている。貫禄があり過ぎだった。

 一刀は、雲華にまずは聞いておかなければならないことがあった。

 

「雲華……あのさぁ、木人くんを……どんだけ強くしたの?」

「え? ああ、千人隊長じゃ力不足かなと思ったから、とりあえず、五千人隊長ぐらいの強さにしてみたけれど?」

「えぇっ!? とりあえずって……それ、もう将軍ぐらいの強さでしょ?」

「そうね。準将軍ぐらい?かな」

「………」

 

 一刀は沈黙する。二時間もあるのだ。

 そして、五千人隊長である。準将軍並みと言える。ゲームで言えば、少なくとも武力30ぐらい?はありそうな地位だ。

 千人隊長では出来たけれど、今の木人を相手にそうそう温泉タイムや寝間着姿について、超解像度閲覧の思考を満喫している余裕があるとは一刀も思えなかった。いやまあ、毎回満喫するまで見続けてしまう彼もどうかと思うが。

 これは少し厳しいのではないか……と一刀は雲華の方をそっと見てみる。

 ニヤリとして、こちらが見るのを待っていたようだった……『悪魔』さまはお喜びのようである。

 

 「くっ」

 

 思わず、一刀の口から苦しい吐息が漏れた。

 木人が、ずぃっと一刀へ木刀風の棒を差し出して来る。木人の顎が少し上がっているようで、雰囲気が「おい、小僧。相手をしてやろう」……そんな風格を感じさせる所作であった。

 小僧として、それを両手でありがたく受け取る一刀だった。すると、雲華が待ちかねていたように声を掛ける。

 

「木人くん。遠慮はいらないからね~♪」

「おぅい!」

 

 一刀は声を出して、雲華へ煽るなぁぁという目線を断固として送る! 雲華はそれをニッコリと受け止めると。

 

「じゃあ、始めて」

 

 と、あっさり気味に、ついに声が掛ってしまった。

 木人がゆっくりと間合いを詰めながら軽く棒を振ると、剛剣が風を切る音が聞こえてきた。

 一刀は、すでに軽く『速気』を掛けている。まだ十分に対応できる……そう考えていた。

 木人が動いた。

 なんと、まっすぐに五千人隊長が最速で突いて来たのだ。

 一刀は『速気』の速度を上げざるを得ない。上げながらスロー気味な木人を木人から見て向かって右側へ避ける。

 そう、木人がもう目前まで踏み込んで来ていたのだ。すると早くも、一刀が避けた方に木人の首が向く。木人の後ろに回ろうとした一刀は動きが捉えられているようだった。

 木人は一刀が移動したのに気が付くと、すぐに足を踏ん張って一刀側へ向きを変えると右手で棒を横に払ってきた。

 『速気』中でもややゆっくりぐらいで動いている。相当剣速が出ているのだろう。こんな一撃を普通に受けたら間違いなくお陀仏だろう。

 しかし、見ているだけでは勝負にならないのだ。一刀は一つ合わせてみることにする。『速気』に『剛気』を合わせて行くことにした。

 ただ、まともには受けない。流すのである。木人が棒を振ってくる、そして抜けて行く方向へ上から擦り打つように一刀は棒に『速気』と『剛気』を合わせて打ち込んだ。

振っている方向とは少し違う角度からの打ち込みに木人の剣先が揺らぐ。

 すなわち、木人の体制が崩れていた。しかし、木人はその崩れた体制からも返す棒でさらに一刀を打とうとして来る。

 一刀は、予想以上の五千人隊長水準の持つの対応力に汗が出てきた。一刀は悟る。この相手は小手先では崩せないと。決意せざるを得ないと。

 

 

 

 そう、倒される前に倒しに行くしかない。

 

 

 

 千人隊長クラスの時に一刀は、常に避けて躱して流してほぼ逃げ回っていたのだ。スローな相手から逃げ続ける。たまにチャンスがあれば何度かは打ち込んだが、自分から積極的に『止め』を刺しに行こうとはしなかった。それで十五分間逃げ回っていて結局、気の消耗からピンチになっていた。

 しかし、この五千人隊長クラスは完全には躱しきれないし逃げられない。そして、今の『速気』の状態だと、弱めに使っているが二、三十分で気が尽きそうな感じだ。

 そして、そのあとはヒキニク祭りが待っていそうである……。

 ブルッと寒気のする一刀だった。

 一刀の様子を見ていた雲華は「ん?」と彼の変化に気が付いた。一刀の気の流れに鋭さが加わっていた。

 

 決意した一刀は迷わない。『速気』を十分に使って五千人隊長クラスの木人から一旦距離を取る。そして、正眼に構える。一刀に気が満ちてくる。

 木人も一刀の先ほどまでの避け続けていた動きが変わり、正面から対するようだと構えを取った。

 一刀から仕掛ける。

 『速気』で踏み込む。かなりの速度のはずだが、木人も反応してゆるりと動き出す。それでも一刀の方が早い。そしてお返しの突き技だ。木人の喉の位置を突く!

 木人も前に出かけていたのでカウンターで炸裂した。木人の体が大きく仰け反る。二人の激突に太目の棒が一瞬僅かにたわんで軋む。そして一刀は『剛気』で突き切った。木人はバランスを崩して仰向けに倒れる。一刀は木人の首元に棒を当てる。

 そこで、雲華が声を掛けた。

 

「とりあえず、一刀が一本ね」

「ああ」

 

 五千人隊長クラスを倒しながら、一刀は淡々と答える。なぜなら、まだ始まったばかりなのだ。次は死んでるかもしれない……いや冗談じゃなく。

 そして、突きが次も決まるかは分からない。木人は明らかに反応していたのだから。

 

「さあ、じゃあ、次いくわよ」

 

 木人もケロリと起き上がった来ていた。『悪魔』さまのお楽しみはまだまだ続くのである。

 

 

 

つづく

 




2014年04月26日 投稿
2014年05月03日 文章修正
2015年03月09日 文章修正(時間表現含む)
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