ゼロの使い魔--ハンテプティ・ダンプティ-- 作:どっとはるか
それは衝撃的だった。
地球とは異なる、魔法という概念の存在するどこかにある世界、ハルケギニア。
その世界の一国、トリステインの若き貴族たちは学び舎に集い、この世界にある魔法を少しでも我が物にしようと切磋琢磨し、自分の理想の貴族へ近づこうとしていた。
そんな彼らの中に、七転八倒している少女がひとりだけ。
彼女の名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。このトリステインにて実質No.2の権力を誇る、ヴァリエール公爵家の末娘である。
そんな苦労とは程遠い身分を持つ者が、一体何に苦しみ、足掻いているのかといえば、彼女はなんとその身分……貴族としてふさわしい魔法の才能を持っていなかった。
この世界では、魔法の力を使える者をメイジと呼び、そのことが貴族の絶対条件である。ところが彼女の魔法は、唱えた呪文や彼女の望む通りに発現した試しが無いのだ。ルイズがこの世に生を受けてから、ただの一度もである。
現に今日も今日とて、彼女は進級のかかった春に行われる魔法の試験、使い魔召の儀式においてサモン・サーヴァントの魔法を成功させられずにいる。彼女の魔法は見当違いの位置で爆発を起こすだけだった。それこそが唯一、ルイズという少女が起こし得る魔法の形だが、魔法であってもそれは進級の条件を満たしていない。
「まだ……まだよ! もう一度、もう一度やります!!」
せっかくの美しいピンクゴールドの髪は煤け、体の至る所に怪我をし、土ぼこりにまみれるルイズの姿は哀愁を誘う。だが、そんな姿になろうと彼女はあきらめない性格だった。七だか八の四字熟語がつくような言葉で例える失敗ごとき、もはや慣れっこだ。同じような意味でも百折不撓の精神を持つルイズは、何事もなかったかのように立ち上がって杖を掲げ、またサモン・サーヴァントの呪文を唱えた。
「宇宙のどこかにいるわたしの使い魔よ! 我が名は『ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール』! 五つの力を司るペンタゴン、我の運命に従いし、使い魔を召喚せよ!!」
貴族の優雅さも忘れ、戦士の怒号のように気合を入れた叫びとともに、両手で持った杖を振り下ろす。
だからこそ、だろうか。それは起こるべくして起こる。寧ろ今まで、こんなことが起きないでいたのが幸いだったのだ。
「きゃああああぁっ!!」
またもや爆発。しかし、位置が悪い。爆発は彼女の肘もとから生まれて、そこから先の左腕を吹き飛ばしたのだ。
「うわあ!?」
「ルイズっ!?」
「いやああああっ!!」
鮮血が飛び、遠巻きに見ていた貴族たちの中には見慣れぬ惨劇に悲鳴を上げ、気絶するものすら現れる。ルイズ自身も、一度も受けたことのない激痛に膝をついていた。今はとっさのことで脳が麻痺し、まだこの程度の痛みで済んでいるが、さらなる苦痛が彼女を襲うのも時間の問題だろう。
「くぁ……え?」
そんな、全身が燃えるような錯覚にとらわれて、きつく目を閉じてうずくまる彼女の前に、聞きなれない金属音が響く。
「あんたが……まさか、そうなの?」
目を開けてそこにあったのは、金属の玉。鉄とも、銀とも取れない鈍色の光を放ちながら、その存在を不思議な音で、まるで生きているように訴えていた。同い年の貴族たちよりも幼く、小さい体を持つルイズの手のひらにさえ収まりそうなソレこそ、彼女の魔法の成果だ。大きな犠牲を伴いながらも、彼女の魔法は成功してくれていた。
「……我が名は『ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール』、五つの力を司るペンタゴン、この者に祝福を与え、我の使い魔と……なせ!」
不気味な何かわからないそれに対し、ルイズは迷わなかった。片腕の代償として召喚された使い魔候補はあまりに小さく、頼りない。結果に対しての悔しさはあるが、それでも彼女はそれへ杖をあてると、痛みの中で契約の呪文を唱えきった。そのまま崩れ落ちるように深く腰を落として屈むと、玉へと唇をつける。
あんたがなんなのか知らないけれど……消し飛んだ左腕分の働きくらいしてよねっ!
そう思った直後、彼女の意識は途切れた。痛みと、疲労と、初めての成功からくる達成感……悲しみも、後から来た喜びも、全てが彼女の意識を奪い去っていく。苦しさをはらむ不思議な表情だが、やり遂げた……そんな顔を金属の玉に押し付けたままに、彼女は目を閉じる。
その直後、ルイズの顔に隠されて、誰も見えないところで不思議なことが起きた。使い魔のルーンが刻まれると、金属の玉が一瞬にして、ルイズの体の中へ溶け合うように吸い込まれていく。それと同時に、失ったはずの彼女の左腕は、もとに戻っていったのだ。その玉に刻まれしルーンと同じものを、ルイズの左腕の甲に浮かび上がらせて。
「これは…一体? いや、今はそんなことより……しっかりしたまえ、ミス・ヴァリエール!!」
現場にいた試験官でもあり、監督官も務めていた教師である男、ジャン・コルベールがルイズに駆け寄る。だが、ルイズの体を抱き起し容体を確かめたところで、彼女が召喚した使い魔の正体も、左腕に起こった現象も、コルベールには何一つわからなかった。彼が生きてきた人生の中でも経験がない事態な上に、ディテクトマジックという、魔力を探知する魔法を用いても、何も反応は無かったのだ。
それも仕方がないこと。彼の知る世界であるハルケギニアには、本来この物体は一つも存在していないし、魔力など何にも含んでいない。
ヒトによって作られた金属生命体、ARMS。それこそルイズが地球より召喚した使い魔の正体である。
ハンプティ・ダンプティ(神の卵)
皆川亮二先生の作品、ARMSに出てくる金属生命体で作中のラスボスが所有する、トンデモARMS(この後のは隠しボスとかトゥルーエンド的な勝ちイベ用のボスと私は思ってます)
窮地になるとその環境に適応して進化するというARMSの中でも、殊更メアリー・スー的なARMSであり、きっとこれから何かあると「その時、不思議なことが起こった!」と、この卵の中にある様々な力が解き放たれることでしょう。
…中に誰もいませんよ? 今度はいません。