ゼロの使い魔--ハンテプティ・ダンプティ-- 作:どっとはるか
俺のGショック……とか、
コーヒー飲み逃げとか、
電車ジャックを止めるために助けを借りる相手の家の玄関ドアを、そこは平和な日本なのに急ぐからってだけで鍵ごと爆破するとか、
ああいうの大好きでどうにか入れられないかと四苦八苦。
「……ぶはっ! おう娘っ子、てめえよくもこんなぼろ布で俺様をぐるぐる巻きにしやがって!」
翌朝のこと、繰り返抜剣と納刀の上下運動をしながら一晩中布と格闘していたことで弛みを作り、ようやく布から喋れるほどの隙間を作ったデルフリンガーが、カチカチと金属を鳴らしつつ目覚まし代わりに叫んだことで、ルイズは目を覚ました。
「ふぇあ……んぅ、何? もうあさぁ?」
「もうあさぁ? じゃねぇよ! 昨日突然怯えたと思ったらてめえ一人でどっかに飛び出して行きやがって、厄介ごとなら俺も持っていきやがれってんだ!!」
その言葉でルイズはがばりとベッドから飛び起きる。起こした体を見てみれば、その恰好はやや土の匂いと汚れが残っている。
"あーあ、ルイズのせいで。"
「夢じゃ……ない。」
昨晩、自分がしでかしたことをその姿は雄弁に語っており、ルイズの中で罪悪感が膨れ上がっていく。
「せ、説明に行かなくちゃ……!」
自分のした責任は自分でとらなければならず、嘘や詭弁を用いて目を背けることは許されない。それがルイズの理想の貴族像であり厳しい家の教えだ。未だ彼女自身は些細な事では素直になれなかったり、魔法を失敗した時にその姿勢をとることはできないことが多々あるものの、このような大ごとを前にしてそんな風には居られない。
「おい、だから俺様を置いていくなってんだ!」
土気色の顔をしたままに、彼女は部屋を飛び出していく。はしたないと母に怒られそうな開けたままの部屋から聞こえてくる古い剣の叫びなど、彼女の耳には届いていなかった。
「はあっ……はあ、はあ、はあっ!!」
マントをばさばさと靡かせるほどの速さで必死に走りながら、ルイズは階段すら一段飛ばしで中央塔を駆け上がりきると、現場の壊れた宝物庫へ辿り着く。そこには人は誰もいなかったが、確かにフーケが盗みに入った証が残されていた。
秘蔵の破壊の杖、確かに領収いたしました。 --土くれのフーケ--
壁につちの魔法で書かれたと思われる、精神を逆撫でするふざけた文面を見てルイズは膝をついた。オールド・オスマンが信用され、国の大切な宝を任されていた学院の名誉を傷つけてしまったことに、悔しさから涙がこぼれる。
「わたしの、せいで……。」
今この場所に誰もいないことは、ルイズにとって幸いだったかもしれない。入学以来いくら魔法を失敗しても見せなかった涙と、懺悔の言葉を誰にも聞かれずに済んだのだから。
すんすんと鼻を鳴らし、俯いた彼女が涙を床に零していると、何やら廊下から物音が聞こえてくる。
「……?」
その人々の罵り合いと思えるような声は、上の階へと繋がる階段より漏れていた。この先にはもう、ここの代表であるオスマン学院長の部屋と、彼の資料室や寝室しかない。
「そうよ、報告にいかなくちゃ……。」
乱暴に袖で目元をぬぐいながら、ルイズは階段を上っていく。最上階の廊下へと出て、最奥にあるオスマン学院長の部屋へ近づくほどに、話し声はより鮮明に彼女の耳に届いた。
「フーケを倒し、名をあげようとするものは居らんのか!?」
その言葉を聞いたルイズの心臓が跳ねる。そうだ、汚名は雪げば良い。フーケを捉えて自分の失態を償い、名誉を取り戻す。もう一度足に力をいれて絨毯を踏み込み、勢いよくルイズは学院長室の扉を開いた。
「わたしがいきます!」
扉を開ければ、そこにいたのは教師たちと、ルイズに活を入れた声の主であるオールド・オスマンが揃っていた。
彼らはフーケの反抗を知ると、早朝から蜂の巣をつついたように騒ぎながら、事後処理の対応に追われていた。
その後、敏腕なオールド・オスマンの秘書であるロングビルの尽力により、なんとフーケの居場所を突き止めるまでに至ったものの、それまで責任の擦り付け合いをしていたような人間である彼ら教師は、誰も討伐へ向かおうとしない。そんな教師たちをみたオールド・オスマンは呆れ果て、しびれを切らした彼の叫びが廊下のルイズの耳へ届き、扉から勢いよく駆け込んだのだ。
突如現れた来訪者に、全員の視線がルイズへと向く。しかし多くの教師たちは彼女の無作法を叱責するよりも先に、驚きにのまれていた。いったい何を言い出すのかと。
「ミス・ヴァリエール!? 君は生徒じゃないか!」
「関係ありません! お願いします、オールド・オスマン……どうかわたしにフーケ捕縛の任をお与えください!」
「待ちたまえ! 今の君は杖すら持っていないじゃないか、危険すぎる!!」
教師である生徒を案じるように、コルベールがルイズを諌めようとする。だが今の彼女は自身の罪を贖うために必死だ。彼の言葉では、ルイズの決意を揺るがすことは出来ない。
「ミスタ・コルベール、確かに今のわたしには杖はありません。ですが……わたしにはこの使い魔がいます!」
杖の代わりと言わんばかりに左腕を
「バカな! 君はその腕ひとつだけで、巨大なゴーレムに立ち向かうつもりなのか!?」
「大丈夫です、考えがあります。」
それに、策もある。
走り回ったことで酸素が身体中に満ちあふれ、やる気と彼女らしさを取り戻したお陰か。彼女の脳は活性し、フーケのゴーレムを倒すべく作戦をたてていた。
「この爪は、ゴーレムとして操っている土にかけられた精神力そのものを裂くことが出来ます。確かに体や腕は裂けませんが、足の繋ぎ目を何度も攻撃すれば動きを封じ、倒すことだって出来るはずです!」
壁の固定化をはっきり引き裂いたのも、掴んで引き裂いたらゴーレムの土がもとに戻らないのも、昨日のうちに体験済みだ。行動の軸となる足の付け根に爪を立てて砕き続ければ、その自重を支えきれずにやがては動けなくなるはずだ。確かに付け根だって決して細いとは言えない。だが、足そのものや腕、本体を砕いたり倒すよりも細く、ぐらつかせるのが目的ならば、最後まで砕ききらなくてすら良い。勝算はゼロではなかった。
「あれだけのゴーレムを、そう昨日今日と何度も作れるはずありません。片足だけでもろくに動けなくしてしまえば、きっと勝機はあります!」
すると、ルイズが気づかずにいた傍に居る二人の女性もまた、片方が杖を掲げると、残りの方も直ぐに掲げて参加を表明した。
「ミス・タバサにミス・ツェルプストー!? まさか、君たちまで行くつもりなのか!」
「ヴァリエールには負けられませんもの。」
ルイズが驚き左右を見れば、そこには昨晩に自分を助けてくれた頼もしい杖と、憎たらしいお隣の女の杖がある。ふたりは気絶したルイズに変わり、ここで聴取を受けていた。もちろん、一番まずいことはしっかりと秘密にしたままだ。
「タバサ、アナタは良いのよ? アタシがルイズに勝手に張り合っているだけなんだから。」
「ふたりが心配……。」
タバサはそのまま昨日のように首を振り、髪を揺らす。その瞳からは頑固に譲ろうとしない彼女の意思が感じ取られ、キュルケだけではなく二人が心配と言ってくれたことに、ルイズはなんだか嬉しくなった。
「そうか……ならば、この三人に頼むとしよう。」
そんなルイズやタバサの瞳から、オールド・オスマンも決意を感じ取ったのか。彼は深く一度目を閉じてから、フーケ捕縛の任務を学生であるはずの三人へと託した。
「正気ですか、オールド・オスマン! 彼女たちに何かあれば……!」
他国の留学生二人に、公爵の娘が一人。彼女たちに何かあれば国際問題や国の権威に関わり、破壊の杖の騒ぎどころではないと一人の教師が抗議の声をあげる。
「ならば君が行くかね?」
だが、そうオスマンが問いかければ教師は言葉を濁し、それ以上のことは何も言おうとはしなかった。
そんな腑抜けた大人たちよりも、オスマンには目の前の三人の女性の方が余程頼もしく見えている。
「それに、あながち実力でも間違っとるとは思っておらんよ儂は。ミス・タバサは若くして
「
その場にいたルイズ、キュルケのふたりは驚きの表情でタバサを見る。
そんな称号を自分達二人よりも幼く、体躯も小さい上に女性であるタバサが持っているのだから、驚かされるのも当然だ。
「また、ミス・ツェルプストーの家は代々軍事に長けた者を輩出しており、彼女自身の炎の魔法も、既に並みのトライアングルメイジよりも優れていると聞いておる。」
教師たちもがタバサに対して唖然とする中で、続けてオスマンはキュルケへと視線を向けて彼女の家系を誉める。
「あー……最後にミス・ヴァリエールじゃが、彼女は優秀な貴族の家の者で……いや、今は杖を持っておらぬのに魔法を語っても意味があるまい。」
「……っ!」
「じゃが……彼女の左腕となっているその使い魔は、ギーシュ・ド・グラモンの青銅のゴーレムをなます切りのように切り刻んだという。その爪の話もさることながら、昨日ゴーレムと相対しても生きておるほどじゃ。二人が魔法で戦う為にも、優れた前衛として欠かせぬ存在であろうて。」
最後にルイズを見たオールド・オスマンは、最初こそ言葉を濁したものの、使い魔のルーンを見るや熱をもった口調で語りだす。
なんだか
「ぜ、前衛……。」
乙女なのに、公爵家の娘なのに、前衛。確かに今の自分はそんな戦いかたしか出来ないが、いざ誰かに口にして言われてみると、なんとも貴族の淑女らしくない気がした。
「当たり前でしょ、杖のないあんたが後ろに下がってどうすんのよ。」
「わ、わかってるわよ! あんたこそ、ちゃんとしなさいよね!!」
いつものルイズとキュルケによる喧嘩が始まりそうになったのを、タバサが止めるかのように彼女たち二人の間へ入ると、その大きな杖を掲げた。
「……杖にかけて、破壊の杖を取り戻します。」
「うむ、魔法学院は君たちの努力と献身に期待する!」
オスマンとタバサ、二人のやり取りにはっとしたキュルケとルイズがその左腕と杖を、タバサの杖に重ねるように慌てて掲げる。
「つ、杖にかけて!」
「杖……ほ、誇りにかけて!」
一人だけ杖ではないのがもどかしいルイズだったが、その目はやる気と勇気に溢れていた。
「うむ、ではミス・ロングビルよ。彼女たちの案内を。」
「承知しております、オールド・オスマン。」
「頼んだぞ。そして君たち三人は、彼女の手配する馬車で向かうのだ。現地にたどり着くまでの精神力と体力を温存したまえ。」
ロングビルとルイズ、タバサ、キュルケの四人は一度解散してそれぞれの部屋に戻り、準備を整えることになった。
「おう娘っ子、いや相棒……頼むから今度は俺もつれていってくれよ。」
部屋に戻るや否や、開口一番にボロい剣がルイズに向かって拗ねたような口調で語りかける。
「……頑丈ってあんた言ってたわね。」
出発の準備をしながらに、ルイズはデルフリンガーを睨む。手元に欲しいと思ったことも昨晩は確かにあった。平民の武器で戦うのは癪だが、破壊の杖はなんとしても取り戻さなければならないし、フーケだって捕まえたい。
だが、はたしてこの剣でゴーレムの一撃を防げるのだろうか。
「じゃあテストしてあげる。これに耐えられるのなら、盾にくらいは使ってあげるわ。」
「ムカつくがとりあえずは良いや、何でも来やがれってんだ!」
そうデルフリンガーが答えると、その刀身を右腕で抜いたルイズは自分の左腕を
「……嘘!?」
「いっ……てええぇっ!! おいおいなんだ今のは!? 意識がぶっ飛ぶかと思ったじゃねーか!!」
精神力を裂くような爪を受けてもデルフリンガーは意識を残しており、相変わらず刀身も錆び一つ落とせなかった。むしろ傷ついたのはこちら側だ。
「折れ、ちゃった。わたしの爪……ってぇ! ああああぁっ!?」
折れた爪は回転するブーメランのような軌跡を描くと、ベッドのかけ布団を引き裂いていった。つい最近世界地図を作り、
「わ、わたしのベッド……これで全損じゃない。」
「へっ、このデルフリンガーさまにそんなもんで挑むからだ。娘っ子、約束通りつれていけよ!」
「ふんぬっ!」
腹立つ態度に戻ってしまったデルフリンガーを鞘に納め、布でまたぐるぐる巻きにしてから仕方なしにルイズはそれを背負い……きれなかったので腰にほぼ水平にして横につけ……たら今度はドアから出られそうにない。仕方なく出るときは引きずって持ち歩くことにするが、どうやら持っていくようである。
うるさい剣を黙らせて準備を進めながらルイズは思う。
確かに腹は立つが、この固さは本物だ。左腕で構えて攻撃を受け止めさえすれば、昨日のように撥ね飛ばされることにはなるだろうが、上からの攻撃以外なら防ぎきれるだろう。潰されたり骨折するような攻撃を主である生身はしないで済むし、後は吹き飛ぶ自分を二人の
青銅をぶん殴り、ぶん殴られる事に始まり、近接戦で戦うことにどんどん慣れていくルイズの思考回路は、着実に物騒なものへと変わり始めていた。
「左腕だし……直ぐ治るわよね?」
準備を終えると、彼女は自分の左腕を見つめた。親指を残して残りの指には爪が残っておらず、正直すごく痛い。ARMSの状態にすれば痛みは消えるものの、
「……昨日のボロ剣のこともあるし、念のために持っていくべきかしら。」
もしも、フーケと合い見えたときも折れたままだったらと不安に刈られたルイズは、肩にかけられる程度の小さな鞄へ折れた爪を何本か投げ入れてから、部屋を出た。
今度はちゃんと行儀正しく、部屋の鍵も閉めて。
会議してる場所はアニメ版のように宝物庫じゃないどこか。
装備品、
ゲーム的選択肢の結果得られたもの。
そう考えるのなら分岐アイテム。
だけど、どこまで意味をもつか正直少しプロットが乱雑で解りません。一発だけで終わらないようにできればと思います。