ゼロの使い魔--ハンテプティ・ダンプティ-- 作:どっとはるか
力が欲しいのなら……
今も昔もこのフレーズ大好きです。
帰還編の三人のところが特に。でも見開きの中にある牛乳に、初見時は飲んでいた牛乳を噴いて単行本をダメにした記憶があります。
最初は今回もこのARMS。
なんて情けない戦法なのかしら。ルイズは自分を嘲笑う。
自分の戦える武器や防具と言えるものは、(恐らく)怪我しても直るのが早い左拳のみ。戦術なんて類いの知識は皆無、女の子だもの。
杖の魔法意外で戦うなんて、貴族のすることじゃないわ。自分のなかでもそんな考えが片隅にある。
それでも、自分の誇りを傷つけられたことが許せなかった。少し頭の冷えた今でも、それは変わらない。あそこで何も言い返せなければ、自分は平民ですと認めるようなものだった。
杖を失ったことは恥、それは認めてあげるけど……。
自身の失敗続きの結果、彼女は杖を失った。この失態は、貴族として責められても仕方がない恥だ。その事でルイズは厳しい叱責を受けることは当然と思っている。
「だからって、平民扱いなんて許せるわけ無いでしょう!」
ルイズはもしも、万が一にもあり得ない話だが、何かの理由でトリステインの王族が自分と同じ状態になったとしても、ギーシュは同じことが言えるのかと問いたかった。
無理に決まっている。彼は、姫に罪を擦り付けもせずに直ぐ、己の行動を懺悔するだろう。
ルイズだから、自分に魔法の才能がないから、ギーシュにも、ツェルプストーからも軽んじられている。
「それでもわたしは貴族よ!!」
断じて平民などではない。力持つものに怯え、力あるものにすがって生きていこうとはしない。侮辱された己の名誉を守るために、敵に後ろなど見せない。
ならば、抗うしかない。己が貴族だと、自分の理想の姿を曲げないために。
「……ワルキューレ。」
魔法を持たないままに迫るルイズの前に、魔法を持つギーシュが杖を振るい応える。
彼の魔法により、青銅の戦乙女を模した三体の銅像が、主を守るようにして現れた。その手に武器は持っておらず、ただ壁となるようにルイズの進路を塞いでいる。
「何よ、こんなのっ……!」
「……。」
迂回しようとするルイズに、されに現れたワルキューレが先回りしてそれを阻む。
右へ逃げればまた一体、左へ逃げてもまた一体後ろへ下がろうとすれば、またそこに一体…。
気がつけば、ルイズは囲まれていた。七体のワルキューレによる牢獄がそこにある。
「くっ……。」
「例え決闘を挑んできた相手だろうと、レディを傷つけるのは忍びない、そこでだルイズ。」
ギーシュはルイズへ杖をまっすぐに構え、戦乙女達をいつでも彼女の動きに対応出来るよう、防御の体制をさせたままに語りかける。
「参ったと言いたまえ。」
「なっ……!?」
「キミが敗北を認めるまで、僕はこの陣形を崩さないよ。」
それが、ヴェストリの広場に着くまでに閃いた、ギーシュの作戦だった。己の名誉を守るために彼もまた、もう決闘は避けられない。あの場に居た仲間達が、やるだけ無駄なことだからと理解を示してくれても、貴族の噂はどこでねじ曲がるのかわからないのだ。捻れに捻くれて、杖を持たない女の子との決闘を逃げた……などという噂へと成り果てれば、彼もまた貴族として大切なものを失ってしまう。
ならば彼女に敗けを認めさせるしかない。傷つけず何とかするのならば、閉じ込めるのが一番だ。牢屋が良いのかもしれないが、自分はそこまで作り慣れていない。結局、もっとも得意なゴーレム操作を用いて、ルイズを包囲するのが最適だと彼は思った。
「誰が……どきなさいよ!」
青銅の戦乙女を無理矢理にでも押し退けて進もうとしても、即座に陣形を動かし、彼女を止める。下を潜ろうとすれば屈み、間を抜けようとすれば隙間を固める。
「――――――っ!」
ルイズはどうあっても詰んでいた。足の止まった彼女を銅像達の隙間から見て、ギーシュは思わず安堵する。これで終われる、周りに集まりつつある野次馬を含めて、全てのものがそう思った。
ルイズ以外は。
直後、彼女はなにかを覚悟したような顔で、全身をひねると、そのままに左拳を繰り出した。
「やあぁっ!」
ゴン、と鈍い音が響く。
「痛うっ……!」
ドットメイジの甘いクオリティで作られたとはいえ、青銅の像を殴ったのだ。、痛く無いはずがない。ルイズの双眸に涙がこぼれる。それでもルイズは止まらない。二打、三打と、何度もギーシュのゴーレムを全力で殴る。一撃で得られるのは、僅かな凹みや少しの軋みだけ。それでもルイズはその手を止めない。
腕が吹き飛ぶ経験をしたのよ。たかが指の骨折や、出血が何よ! そう思って殴った彼女だったが、これは悪手……というよりは誤算だった。ルイズは今、サモン・サーヴァントの時のように、脳が麻痺していない。あの事故の時よりも痛い上に、直ぐに左手が再生するぶん、何度殴ろうと痛みは消えない。
「上等、じゃない……っ。」
自分の鮮血と涙で汚れながら、ルイズは殴り続けた。
代価は痛み、得られるものは少しのダメージ、使える左腕の回数に限りなし。
「下げたくない頭は、下げられないのよ!」
あまりの凄惨な、それでも蛮行をやめないルイズの姿に観客が息を呑む中、やがてほんの少しだけの成果が現れた。関節となっていた脆い箇所が一つだが、使い物にならなくなったのだ。
一体の青銅の右腕が、ルイズを止める動きをとれなくなった。自身の成し得たものをみて、思わずルイズの口もとに笑みが浮かび、逆にギーシュは青ざめる。彼は、敗北の予感を感じたわけではない。その動かなくなった手から見えた、彼女の姿が痛ましすぎたのだ。
「ルイズ、もうやめるんだ!」
七体の銅像の腕関節一つ破壊するために、ルイズの拳は幾度となく砕けていた。今の彼女は、爆発事故の時以上に、自身の血でシャツや肌を再び染め上げている。
「なに、言ってるのよギーシュ。あんたが出せるゴーレムはこれで全部のはずよ。それなら……こいつら全部の全身をこうしてやれば、あんたを守るものは無くなるじゃないの。」
狂ってる。血を流しすぎて頭にまわっていない、そんな人間の妄言としか思えなかった。左手の事情を知らないものからすれば、いや、左手が仮に直るからと知っていても、こんなことをする人間はいかれている。
「あんたを倒すためのこれは、第一歩よ!」
「やめろぉ!」
再びルイズが我が身をかえりみずに拳をつき出すその手を、ギーシュは受け止めようとワルキューレの拳を前に出す。
だが、彼は忘れていた。今回のワルキューレは武器を持たせる形をしていない。なるべく傷つけないように作られたそれには、そもそも指がなかった。木の玩具人形のような、丸い玉だけの手は、確かに指の関節やらある角ばった手よりは、安全だ……動かさないという制約がついていれば。
ギーシュがうっかりやってしまった結果、人の拳撃を金属球でカウンターするという恐ろしい反撃が生まれる。
「う、うわああぁっ!」
「ぎ、いっ……!」
ぐしゃりと、今度こそルイズの拳は砕けた。握っていた指はつぶれ、何本かはあらぬ方向へと反り曲がり、手首の関節は、腕と手を真っ直ぐに繋げていない。
「こ、これは決闘だ、ぼ、僕は悪くない、キミがいつまで経っても意地を張るから……!!」
「ぐっ、ふぐ……くぅ。」
パニックになりながらも、痛みに耐えるルイズを見ていたギーシュだったが、ふと、目の前の後継がおかしいことに気づいた。自分が慌てふためいているせいで、そうあって欲しい幻を見ているのではないか。そう錯覚したほどに、その光景は奇妙なものだった。
「ルイ、ズ……?」
「ええ、あなたは悪くないわ。これは決闘なんだから。」
激しく砕け、骨まで見えていた手が、ルイズの左腕がもとに戻っていく。あり得ないとギーシュが不気味な存在に怯えるのも気づかず、左腕を頼もしい存在のように彼女は右手で撫でていた。
「絶対、このガラクタ達を倒して、あんたに参ったって言わせてやるんだから。」
時を巻き戻すかのように、壊れた腕を直す、血塗られた少女。
その光景は、戦場を知らない若い人間に恐ろしすぎた。
「わ、ワルキューレェ!」
突如としてギーシュは叫び、ワルキューレを守りから攻撃の体勢へ移行させると、己が信念も忘れルイズを殴り始めた。
混乱と、恐怖から彼はルイズを人として見ていることがもう出来なかった。そこにいるのはルイズなんかではない、化け物だ。殴り、倒しきらなければ、こちらがやられる。そんな思考に陥るには十分の出来事だった。
「がふっ……!」
ルイズの作戦は所詮、ギーシュから手を出さないでくれたお陰で、成り立っていたものにすぎない。こうなってはもはや決着がつくのは、時間の問題だった。
前後左右、至る方向から袋叩きにされる彼女の体は、左手のようにはいかずに骨が軋み、意識が揺らぐ。勘違いしたギーシュは、たとえそれでも手を緩めない。
ああ、どうしてよ、どうしてなの? どうして世界はいつもいつも、わたしの願いを一度たりとて叶えてくれないの……?
心がくじけそうになり、彼女が世界を憎んだその時、どこからか声が聞こえてきた。
……力が欲しいか?
誰? ハッキリと聞き取れる、囁くような不思議な声に、ルイズは戸惑う。倒れる寸前の幻聴ではないかと思ったが、殴られながらもルイズの意識は幸か不幸か、ハッキリしたままだ。
周りは自分を攻め続けるワルキューレと、少し離れたところに青ざめた顔のギーシュだけ。今の静かな声を発するには、観客たちはあまりに遠い。
耳元どころかもっと近い、体の内から聞こえてくるような声がもう一度ルイズに届く。
力が欲しいか?
当たり前よ、わたしは欲しい! 負けない力が、名誉を守る力が、敵を打ち倒すための力が―――
力が欲しいのなら……
わたしは欲しい!!
くれてやる!!
ルイズについたルーンが激しく輝き、鈍い音と共にその左腕の形を変えていく。髪と同じような桃色へ肘近くまでの腕を変色させ、金属的な質感を帯びていくと、精密機械の基盤のような模様が一部に浮かび上がった。
硬質化したその腕からは、長い刃のようなものが生えて、手の方へと真っ直ぐと伸びていく。手の一部を巻き込み鋭い刃を形成したそれは、もとの腕の三倍近くの長さがあり、剣と斧を合わせた形にも見える。肘もとからならば、ルイズの胴体よりも長いだろう。
輝く使い魔のルーンが、最後に刃へ銘柄のように刻まれた。その光を受けたルイズの体は痛みが消え、燃え上がるように力が沸いてくる。
「こ、これってもしかして……あなたなの?」
人の形ではなくなったその腕を、ルイズは驚きこそすれど恐怖は無かった。その腕が何であり、どう振るえば良いのか……不思議と今の彼女には理解できたから。
「……
ルイズは異形と化した腕を振るうと、その刃はまるで、バターのようにギーシュのゴーレムを切り裂いた。人の肉体から出たものとは思えない鋭さと硬度だ。目の前にある自身の腕がもたらした光景へ、ルイズは満足の笑みを浮かべながら、更に剣を振るう。
「はああぁっ!」
がむしゃらに、構えも剣術も何も知らないルイズが、その左腕をただ動かす。型も、踏み込みも何もないというのに、それだけで青銅のゴーレムはその身を削り取られ、ギーシュが息を飲む。七体のゴーレムはルイズ相手に数秒と保たず、ギーシュも腰を抜かし、もはや立っているものはルイズだけとなっていた。
「何よ、ちゃんと居たのならもっと早く出てきなさいよね。」
主かこんなにぼこぼこにされるまで出て来ないなんて、何てしつけのなってない使い魔なんだと思いつつも、ルイズは歓喜していた。
「ねえギーシュ。」
「ひいっ!?」
覚醒した少女の視線が向けられて、男は思わず後ずさる。血まみれのまま微笑む彼女の顔は、相手であるギーシュには、悪魔の笑みにしか見えなかった。
「続ける?」
「は……?」
「だから、決闘をよ。どうなの、降参なの? それともまだやるの?」
右手を腰にあて、左腕の刃をギーシュへと剣のように向けるルイズの姿は、決着を雄弁に語っている。だが、彼女と回りで認識はずれていた。誰一人とその勝利に喝采を送るものはなく、異怖だけがその場を支配していた。周りの人間には、これから惨劇が起きるのではないかという不安が消えないままだ。
「ま、参った……だから頼む、命だけは!」
「はぁ? あんた何言ってるの? 決闘は殺し合いじゃないでしょ。」
「き、キミは本当にルイズなのかい!?」
「当たり前でしょう!!」
「だってその腕!」
「これはわたしの使い魔よ!」
「つ、使い魔……? そんな人にくっついた使い魔なんて見たことがない、どうみても化け物じゃないか。」
「ふうん。あんた……次はこの子を侮辱する気? 第2ラウンドをお望みなのかしら。」
「め、めめめ滅相もない! 負け、ボクの負けだ。平民などと言って申し訳無かった!!」
「はぁ、次にまたそんなことを言ったら、あんたの腕を切っちゃうんだからね。」
ルイズがその左腕をもとの腕に戻す。漫才じみたやり取りと、刃を納めたルイズの姿をみて、今度こそ全員の心に決着がついた。周りの張りつめた空気は消え、興奮に包まれていく。
「全く、何を言って――あれ?」
安堵したルイズの腕から、突如としてルーンの光が消えて視界が揺らいだ。世界が回り、傾いていくなかで、彼女は昨日のように意識を闇に飲まれた。
グリフォン(幻獣)
ARMS序盤の大ボス、キース・レッドが持つARMS。両腕の刃や手から繰り出す超振動を用いた近接戦と、全身を超音波兵器にした無差別範囲攻撃を得意とする。
その刃は、教室規模の粉塵爆発を耐えたチタン合金のサイボーグを振るうだけで容易く切断し、ほんの数秒(吹き出し数個の会話程度)の時間手のひらを当てて振動波を送るだけで、同機をバラバラに破砕する。
登場時は第一部とはいえ、現代の日本に生きる学生が相手をするにはあまりに無理がある強さで、主人公達を震え上がらせた。
ここまで書くととてつもなく強く見えるが、終盤では量産型のサイボーグが同じことを可能としており、インフレに取り残された。
現にキースシリーズと呼ばれる兄弟達から彼の持つARMSは弱いとみなされ、欠陥品扱いされている。
ハンプティ・ダンプティの持つ能力は、触れた相手の情報を読み取り、それを自分のものとする。
作中のほとんどのARMSの能力を取り込んでおり、発現させることが可能である。
簡単に言えばロックマンや写輪眼。