吸血鬼Vtuberになる直前に自分のアバターに襲われて本物の吸血鬼になった   作:稲光結音

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薔薇よりも香しく

 状況を改めて解説しよう。私を除く十九人のアバターモエクスとそれぞれコラボするという企画、通称ブラッディパーティはフネ、パンプキン、アズキ、クライネ、ナハトム、レナとはコラボした事があるので除外。今日から内藤ナインという一期生とコラボする事になり、男含めた様々な相手とコラボしたら最後はお母様。オフコラボになるかは相手による。出来たら男はオフコラボしたくないが状況による。

 更にはその後、アズキにリベンジを仕掛け眷属として迎え入れてやろうという計画である。そのために力を少しでも多く蓄えるために仲間からも出来るなら吸血をさせてもらいたいのだが……

 

「おー、本物じゃ本物じゃ。愛いのうメアリーは」

 

 私に抱き着くこのおっぱい女。なんかメスの臭いが凄い。フェロモンというのだろうか。吸血鬼としての力を回復させて得た強力な嗅覚はくらくらするほど、この女の強い臭いにやられている。なんかもう今日は負ける気がするわ。なにせこいつも一期生。つまりくじらサーバーの一員だ。コラボ終わったら二人でお楽しみという事になる。そこで吸血もさせてもらえればと思うのだが……

 とはいえ、仲間から無理強いするつもりはない。正直に言えば、女は全員眷属にして私と一緒に永遠に配信者をやってもらいたい……だと言うのに、相手に許可を取らねばならないと考えてしまうあたり、私は甘いのだろう。吸血鬼はもっと傍若無人でいいと思うのだが。どうせ眷属にすれば嫌われようが関係ないと言うのに。人間だった頃の倫理観がまだ少しは残っているという事なのだろうか。邪魔な事だ。

 しかし、それももうすぐなんとかなる予感がしている。私の吸血鬼度合が更なる吸血で100%を超えた時こそ、完璧な吸血鬼になれる気がする。その時は誰にも負けない存在になるはずだ。

 だから今は一時的に負けよう。孤栗玖子……内藤ナインの本名。この女の柔らかな胸に顔を埋め、圧倒的なフェロモンに溺れるのを楽しむ。やっぱりでっかいおっぱいは最高だな。

 

「で、今回は雑談でいいんだな?」

 

 ムラムラする気分を抑えながら、玖子と今回の配信の打ち合わせをする。彼女の膝の上に乗せられて、後頭部でおっぱいの感触を味わいながら。

 

「そうじゃのう、妾ゲームが上手いわけでもないからそれでよいぞ」

 

 返事をしながら彼女は私の身体を弄る。それは徐々に敏感なところに近づいていき……

 

「おい、真面目な話をしてる時に――むぐっ」

 

 注意しようとした私に被せられた、フェロモンをたっぷり感じるこの布切れの正体は。

 

「知っておるよ。くじらサーバーの連中もみーんな、妾の香りが好きなんじゃよなあ。妾のブラ、匂いが染みついておるじゃろ?」

 

 抵抗する気を失った私のブラを剥ぎ取ると、彼女は十本の指で私を貪った。取られたブラは彼女の手でしっかりと匂いを嗅がれ、まるで下着の交換会だ。さすがの私も羞恥を感じざるを得ない。

 一方的な性的な悪戯をひとしきり楽しまれた後、彼女は私の唾液がついたブラをそのまま身に着け、私も彼女がしゃぶったブラを身につけさせられた。

 

「ふぅ……いやあ、よかったよかった。それで何の話だったかの?」

 

 まあ、あれだ。ムラムラはしてたから。ちょうどよかった。そう思っておこう。ブラめっちゃ濡らされたけど。

 

「今日の配信内容についてだ……雑談でいいのは分かったがトーク内容はどうする……?」

 

 息も絶え絶えに、私は返事を返す。

 

「この企画、ブラッディパーティについて聞きたいこともあったからのぅ。それと吸血鬼に聞いてみたいことあたりから話を進めればよいのではないかの」

 

 初めからそういう話がしたかったよ。一期生でまともなのはお母様だけか……?

 そんな疑問を抱きつつ、配信予定時間が来る。配信開始だ。

 

「ごきげんよう、家畜共。トリオ・ザ・ハロウィンのメアリーだ。ようこそ、ブラッディパーティへ。今日のゲストはこちらだ」

「こんばんはじゃ、人間諸君。皆の姉、内藤ナインじゃぞ」

 

 ナインの挨拶に違和感を覚えるところだが、これはそういう設定だ。正体を隠した九尾の狐らしい。だから名前が九を意味するナインなのだとか。姉っていうのは勝手に付け足したそうだ。

 

『こんヴァンパイア』

『こんヴァンパイア絶対に流行らすな』

『もう流行ってる』

『ナイン様ー!』

『ぽんこつ様ー!』

 

 誰だぽんこつって言ったやつ。くじらサーバー内でならともかく、視聴者の前で醜態を晒したことは無いはずだが。

 そう訝しんでいると、ナインが補足してくれた。

 

「ぽんこつは妾宛てじゃなあ。いつの間にかそう呼ばれるようになっておって、難儀しておるわ」

「ん? 何かそう呼ばれるようになった理由があるのか?」

「ゲームが下手でのぅ……コントローラーを見ている間に画面が進んでしまって上手くやれんかった」

 

 おばあちゃんレベル……いや、下手とは言っていたがそのレベルか。喋り方も合わせてやれば本当おばあちゃんじゃないか。よくそう呼ばれないものだ。

 

「まあまあ、それはよいじゃろ。今日聞きたいことがあるのは妾の方じゃ。このブラッディパーティというやつは全員オフコラボ前提なのかの?」

「可能な限り、と言ったところか。強制はしない。物理的に距離が遠いという場合もあるしな」

 

 嘘を混ぜた。アバターモエクスは全員都内住みだ。もしくは都内に引っ越してきた者だけが合格となっている。

 

『サイバともオフコラボするの?』

『男と二人きりでオフコラボはちょっと引くわ』

 

 そんなコメントで溢れかえっている。多分、視聴者的に一番聞きたかったことだろう。

 

「男連中はオンラインでいいと思っている。だが、絶対ではない。私はアズキと戦うために吸血を行いたいと思っている。他の女のモエクスメンバーでその協力者が少なければ、彼らに協力を願う場合もあるかもしれない」

 

『ナイン姉協力お願いします!』

『お姉ちゃん!』

『皆の姉なんだからお嬢の姉のはず。妹の頼みぞ?』

 

「まったく、都合のいい奴らじゃのう。こういう時ばかり姉、姉と……さて、メアリー。吸血はなにかこちらにリスクはあるのかの?」

 

 ここは正直に行こう。仲間には誠実に行きたい。

 とはいえ、そう考えられるのも今の内だけかもしれんな。もしかしたら、彼女への吸血が私のトリガーを引くきっかけになって、情け容赦のない邪悪な吸血鬼に変化するかもしれない。

 

「最悪、死ぬ」

 

『ひぇっ』

『駄目でしょ』

『サイバー、出番ー』

 

 そりゃあ、血が少なくなりすぎたら失血死だ。それが人間の常識。だが、吸血鬼は一味違う。

 

「しかし、そうなった場合でも私の眷属として永遠を生きられる。私の命令には絶対服従になるが、それ以外は平和なものだよ」

「ふむ? その割には、この家で見かけたお主が眷属にしているメイド服の娘は妙に喋らんな。眷属は全てああなってしまうのではないか?」

 

 厳しい指摘だ。しかし思い返せばあれにも理由があった。

 

「私の無意識が関係している。あいつには喋って欲しくないと私が心の底では思っているからだろう」

「無意識? 無意識下の命令も聞かねばならぬのか」

「そうなるな。私が命令するまでもなく思い通りになる人形であるというのは事実だ」

「ふむ……では、なぜあのメイド服の娘は喋らせたくない?」

 

 理由は単純。

 

「あれは人間だった時代の私だ。あれが喋ると嫌でも昔を思い出す」

「人間だった頃の自分を眷属にしておるのか! そんな事まで出来るのか!?」

「ああ。あれは……つまらない人間だった」

 

 普段、威厳を保つためにあえて低くしているのとは違う。心からの低音が絞り出されたが、リスナーは眷属になるべきかならないべきかという雑談に興じていて気付いていない。

 

『言ってもお嬢なら無茶な命令しないでしょ』

『でも無意識では分からん事もあるだろ』

『気に入らなければなんか黙りっぱなしにさせられるんだろ辛いって』

 

 吸血鬼はいい。力がある。なんなら今自分で決めたルールを破って横に座る女の血を力尽くで吸ってやることだってできる。それは強者だからだ。自分で考え、自分で決める。選択する自由がある。

 正義の味方でもなんでもない、吸血鬼という存在であるが故に。

 だから私は今、とても楽しいのだ。たまに、いや、結構やり込められる事こそあれど、本気で嫌なら首の一つでも折ってやればいい。

 それをしないのは、あくまで女同士の戯れに過ぎないから。子供の遊びで本気で怒り出したりするほど幼くは無いのだ。しかし、気に入らなければ折檻できる立場である。

 それが、堪らなく愛おしい。

 私は強い。それがアイデンティティだとするならば、私を倒すような存在は許されない。

 倉瀬アズキが私に女同士の良さを教えてくれたことには感謝している。だが、私を負かした事は許される事ではないのだ。必ず、全力の吸血鬼となり彼奴を圧倒しなければならない。

 そして、その舞台も用意してある。私と奴に相応しい舞台を。

 

「ふーむ。吸血し過ぎなかった場合、眷属にはならんのか?」

「やろうと思えば出来る。私の匙加減一つと言ったところだよ」

「献血のつもりでやろうとは思えんなあ……」

 

 ふむ、どうにも旗色が良くないか。

 

「ナイン、お前は美しい」

「な、なんじゃいきなり」

「その美しさを永遠に保つつもりはないか? そして私と共に永遠に配信者となるのだ。それは、きっと楽しいぞ」

 

 百合花社長もそうだが、自分の外見に自信のあるような奴にはこういうのが効くようだ。つまり今まで会ってきたアバターモエクスの連中には効く殺し文句だ。しかしなんであいつら配信者やってるんだろうな。アイドルとかやったらいいのに。

 いや、もしかしたらまだ会ったことの無いメンバーにいるかもしれん。アイドル崩れの配信者。

 

「……一晩、考えさせてくれるか?」

 

 よし、いい方向に持っていった。あとは夜、ベッドの中で甘く囁いてやればいいのだ。

 

「構わんさ。私には時間がたっぷりある。人間と違って、ね」

 

 本当はアズキと戦う前に血液補給したいんだが、それを言うのもな。最終的にモエクスの女全員を眷属に出来れば良い。

 

「そうか、では配信もこのあたりにしよう。それでは家畜の諸君、ごきげんよう。良い夢を」

 

『お嬢おやすみ』

『ナイン様大丈夫かね』

『ブラッディパーティ怖杉内』

 

 配信を切った瞬間の事だった。ナインはおもむろにパンツを脱ぎだすと、私の頭に被せてきた。濃厚なフェロモンが脳の奥まで染みついていくような感覚だ。

 

「考えたのじゃがな。お主が無意識化でさえ、妾が妾らしくあって欲しいと願うようになれば、支配されることなく永遠の命を得られるのではないかと思うのじゃよ」

 

 つまり、これはあれだ。

 

「一晩、しっかり考えさせてもらうぞ」

 

 また勝てなかった。

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