吸血鬼Vtuberになる直前に自分のアバターに襲われて本物の吸血鬼になった   作:稲光結音

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マネージャーのお説教とスマプラ

 眷属のスマホにマネージャーからの連絡が入った。

 用件としては電脳吸血鬼is何? と言ったところだろうか。

 

『トリックオアトリートなの。トリオ・ザ・ハロウィンのゴースト・フネなの~』

 

 などという同期の配信を聞きながら、私はマネージャーに対応していた。

 

「だからね。配信でも言った通りなんだよ。なんなら直接会って話してもいい。吸血鬼そのものになったんだ。松葉チユリの考えたキャラクター、ブラッディ・メアリーそのものに」

「松葉さんの名前出すのもやめてくださいよ! 今ネットでは怪物を産んだ女とか言われてるんですよ! それにフネさんの配信も見てますけどなんですかトリオ・ザ・ハロウィンって! 勝手にユニット組まないでください! それになんでサイバくんを勝手に切り捨ててるんですか! 仲良くやってくださいよ!」

 

 やかましい女だ。全部が全部、私のせいだと思うなよ。

 

「いいですか! なんなら謹慎させてもいいんですからね!」

 

 くだらない脅し文句。やかましいだけじゃなくつまらん奴だな。

 

「何が謹慎に値するのかね? 私の母が松葉チユリだという一部の人間はとっくに知っていた情報を公開したことかね? それともユニットを組んだことかな? 面白いな。全責任を私に被せるかね。それともデビューしたての五期生が三人とも連帯責任で謹慎させられるのか? 君がそれだけの権限を持っているとは私でも知りえなかった事だよ」

「むむ……とにかく、大人しくしててくださいって事です!」

「君は本当に愚かだ。私がどれだけ大人しくしているか分かっていない。何のためにアナザーブラッドで吸血を我慢していると思っている。なんなら五月蠅いマネージャーの身体から血を一滴残さず搾り取り、静かにしてやっても私としては構わんのだよ」

 

 脅しとはこうするものだ。マネージャーは無言になっている。結局、絞り出せた言葉はこれだ。

 

「……吸血鬼なんて、いるわけないじゃないですか」

 

 まあ、こんな答えになるのも無理はない。結局、アーカイブで服従の魔眼は発動しなかったらしい。正確には、徐々に効果を失っていったようだ。

 おかげで確認の遅れたアバターモエクスの運営は私の魔眼を見ていない。それでも明らかにおかしいであろうこの自由自在な動く立ち絵を見て何か変だとは思わないものかね。とはいえそれと吸血鬼の存在を認める事は別か。

 そして、確認が遅れたというよりは正確にはバズったのでそっちの方が動きが早かったという方が正確かもしれない。

 令和に誕生した吸血鬼。そんなタイトルで駆け巡った私の記事を見て、アーカイブはどんどん消費。魔眼の残り香もすぐに使い切られたというわけだ。

 故に、服従の魔眼の効果を感じた者達は私を吸血鬼だと認めているが、魔眼の効果が無かった者や頭の固い者達は吸血鬼の存在を認めなかった。

 そしてその論争こそが、私の存在を世に知らしめる事となった。大声で喚いていれば注目を浴びるのはネット上でも変わらない。

 野次馬のような、吸血鬼を自分の眼で見定めたい者達がチャンネル登録してくれて、登録者数は一万人を超えた。こういう時、ライバーは一万人突破記念をやるべきなのだろうな。

 

「信じてくれとは言わんよ。やがて、信じざるを得なくなるだけだからね」

「そうやってからかって……前はもっとまともな人だったのに。キャラに引っ張られすぎてるっていうか……」

 

 ぶつくさと言いながらマネージャーはスマホの通話を切った。テレビ電話なら魔眼の一つも使ってやったのだがね。

 結果的に静かになったのでよしとする。楽しそうに配信をするフネを見ていると、ユニットを組んだ甲斐があったというものだ。

 

『トリックオアトリック。トリオ・ザ・ハロウィンのミス・パンプキンだよ』

 

 そんなわけで、私達三人のリレー配信はもう今日から始まっている。実際にコラボするのは金曜の夜にしようと話し合っている。それまでは各自で好きなことをやる。となれば一万人記念もやってしまいたいのだが……そうすると一風変わったことをするのがいいだろう。私はササヤキに今回の配信内容の概要を書き始めた。

 

『今日は一万人記念でオフラインスマプラ。オンラインでやらない理由は見れば分かる』

 

 スマプラとはスマッシュプラスの略で、ダメージを与えて敵を吹っ飛ばす大人気対戦アクションゲームだ。

 今回私はこれで遊んでやろうと思っている。

 パンプキンの雑談を楽しみながら配信準備を整え、22時。私の時間が始まる。

 

「トリックオアブラッド。トリオ・ザ・ハロウィンのブラッディ・メアリーだ」

 

 ちなみにこの挨拶も三人で考えた。とはいえ好きな物言ってるだけなので考えたと言っても秒で考えたようなものだ。

 

『お嬢おはようございます!』

『こんヴァンパイア』

『こんヴァンパイア絶対に流行らすな』

 

「ご機嫌よう、家畜共。さて、今回私がスマプラでやろうと思っていることは、言ってしまえばチートだ」

 

 その発言にリスナーがざわつく。

 

『それはよくない』

『荒れるよそれは』

『吸血鬼の炎上配信か』

 

「だからオフラインだ。オンラインでは頼まれても絶対にやらん。専用部屋でもだ。

 そして慌てないでもらいたい。私にしかやれない事をやるだけだ。スターハンドを使えるようにだとかそういうレベルのものではない」

 

 スターハンドとは初代ラスボスの事だ。最近はインフレでただのオリジナルの敵くらいまで価値が下がっている。

 

『でもチートはなあ』

『そこまで言うなら内容聞くだけ聞く』

『お嬢にも考えがあるんだろう』

 

「とりあえずスウィッチの画面に切り替えるぞ」

 

 真ん中に映るゲーム画面と、右下に私の立ち絵があり、ゲーム画面とは被らないように配置されている。

 乱闘モードで対戦相手をスタービィ一体にして自分のキャラクターは選ばない。

 

「さて、話したことがあるかもしれないな。私は電脳吸血鬼。スマホやパソコンの中に入り込むことができる。そこを電脳空間と言い、電脳世界という広い場所に繋がっているのだが……それはまあ、今は関係ない。今大切なのはゲームの中に入る事ができるという事だ」

 

『そんな夢のようなことが』

『まさか』

『やりたい事わかったわ』

 

 察しのいい家畜もいるようだ。私は僅かに笑みを浮かべた。

 

「そう、今から私はスウィッチの中に入り、このスタービィと戦って見せようじゃないか」

 

『マジでか!』

『そりゃすげえや』

『吸血鬼感はないけどすげえ』

 

 吸血鬼の戦いを見せるのだから、この上なく吸血鬼らしいと思うのだが……そうでもないらしい。いや、見れば分かるか。

 意識を集中させ、ゲームの中に侵入する。1Pのキャラクター選択画面に私が存在している。ルールはアイテム無し、エンドラインと呼ばれる直線状のステージ。

 カウントダウンがゼロになり、今、戦いが始まる。

 私は速攻でスタービィに近づき、殴りかかった。

 

『速い!』

 

 しかし、スタービィは一頭身ボディのくせに私より腕が長いらしく、リーチで負けて一発を貰ってしまった。いや、私の腕が短いのか。

 脳内スマホで自分の配信画面を見てみると、ダメージが12%入っている。そしてある事に気が付いた。

 

『お嬢、専用ゲージ持ってる!』

『20%ってなってるな!』

『何のゲージだろうな?』

 

 しかし考えても分からない。とりあえず近距離がダメなら遠距離だろう。私は影を操作すると、スタービィの傍まで伸ばしてから実体化させて、槍のように突き刺すがジャンプされてしまう。

 

『ゲージ減った!』

『必殺技使用で減るタイプか』

 

 ゲージ19%。単純計算だとあと19回何かをすると使い切るのだろう。意識を切り替えて空中のスタービィを迎撃するために跳躍。突撃した。

 

「もっちり……」

 

 直撃したスタービィは柔らかかった。その感触にうっとりとしたものだが、その隙を突かれて吸い込まれてしまった。

 そして排出。スタービィは黒マントを身に付けていた。スタービィの能力コピーだ。

 

『スタービィの方ゲージ100%だぞ!』

『普通100%スタートなんじゃねえか!?』

『なんでお嬢そんなに初期値低いんだよ!』

 

 私に聞かれても困る。いや、むしろ私が知らなかったら誰が知ってるんだって話だ。実際知らんが。

 そこからのスタービィの攻撃は凄まじかった。凝固した血液で槍を作り斧を作りの猛攻撃。伸ばしてきた影はこっちも影を伸ばして対処したが、同じ分だけゲージを消費するのでこっちが不利。

 結局攻撃は全部躱したり防いだりしたが、スタービィの持っているゲージは80%以上だ。私のゲージ燃費いいな。

 と、ここでスタービィがワイングラスで飲み物を飲み始める。この隙に私はスタービィに殴りかかり、22%のダメージを与えた。しかし……

 

『スタービィのゲージ回復してるぞ!』

『飲み物で回復か』

 

 なるほど、つまり。

 

「あれは吸血ゲージか! 私はアナザーブラッドしか飲まないから20%しか溜まらんのか!」

 

『あー』

『やっぱ本物の血液飲まない吸血鬼は駄目だな』

『まあ飲まれても困るけど』

 

 とはいえ、CPUの行動パターンは理解した。あとは攻撃をガンガン避けて、吸血ゲージを回復させようとしたところを殴る。

 それを繰り返してスタービィのダメージが100%を超えた。

 

『やっぱ運動性能高い方がつええわ』

『お嬢めっちゃ回避上手い』

『一撃の威力も地味に重いよな』

『握力強かったもんね……』

 

 そして最後の一撃は、最初に入れようとしたのと同じ攻撃……ただのダッシュ攻撃。

 

『それは駄目だってわかってる筈だぜお嬢!』

『無茶しやがって……』

 

 に、見せかけた大人化。ゲージを10%消費し、リーチが伸びた事でスタービィの腕よりも長くなったこちらの攻撃で吹っ飛ばしてフィニッシュだ。

 

 

 

「と、まあこんな感じだ。苦戦したのはさすがスタービィと言ったところか」

 

『面白かった』

『俺もお嬢と戦ってみたい』

『でもこれアバターモエクスが許諾受けてるとはいえチートは大丈夫なん』

 

 ……ふむ。駄目かもしれんね。

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