誰がって?もう、言わせないでよ!!
ラインハルトのに決まってるでしょ///
──ラインハルト・ヴァン・アストレアとは。
一言で言うなら、農家さんである。
育てているものは野菜じゃなく、才能と加護だけど。しかもそれらが全部完璧に育ちきってるし現在進行形で新種が生えに生えてくる。
騎士の中の騎士。世界から愛された男。英雄にしかなれない男など呼び方は様々だが、共通している価値観は一つ。
すごくつよい。
「ヒッ……」
「ご同行を」
この世界で何度目かになる本気の悲鳴を上げ、目の前の剣聖から距離を取る。……勝ち目が見えない。
多分。多分、だ。僕が『虚飾』を使って角と腕を復活させて瀕死になるくらいにやれば、ラインハルトは
じゃあやればいいじゃないか、と思った君。ラインハルト君には『不死鳥の加護』があるんだ。これはね、
なお、『不死鳥の加護』が消えると『続・不死鳥の加護』が発現し、それが消えると『続続・不死鳥の加護』が発現します。それが消えると?察しろ。
やってられっかぁ!!お前はファイナルファンタジーか!?ファイナル何回使うつもりなんだよファイナルファイナル詐欺がよぉ!!FF15面白かったですねふざけんな!!
その他に。『蒼天の加護』青空の下で強くなる。『涙天の加護』雨空の下で強くなる。
じゃあいつ弱くなるんです!?もう空の下にいる限り強くなってろよ!!なってるんだろうけど!!
ちなみに曇りがあるだろと思ったそこの君。『曇天の加護』があるんだなぁこれが。
とまぁ、理不尽な特殊能力勢揃いなのが目の前のラインハルトという男なのだ。
しかもこの男、恐らく。
………まぁ、実践してみたほうが早い。僅かな希望を胸に、権能の使用を意識する。
「『ラインハルト・ヴァン・アストレアがこんなところにいるはずがない。彼は自分の屋敷で、リルのことを忘れて過ごしている』」
『虚飾』の権能。僕の『ここにいるはずがない』という言葉を肯定するようにラインハルトの姿が、一切の痕跡なく消え去った。
タイマースタート。一秒、二秒、三秒…………十、十一、十二……
「珍しい技だね。少し驚かされたよ」
はい、十三秒でご帰還です。めっちゃなんでもないように帰ってきやがった。
はーやってられん。
「転移ということは陰魔法かな。しかし、『初見の加護』が働かなかった。『闇払いの加護』があるから、相当な使い手なのか。あるいは別の技なのかな」
「………ちなみに、何が起こったか訊いても?」
「少し記憶があやふやだったからね。『真理の加護』で状況を把握して、全力で戻ってきたところさ」
「わぁ、そんな便利なもの持ってたの?」
「いいや、たった今得たところだよ」
はい。これがラインハルト=サンのヤベーところ。望んだ加護をその場で得られる、というものだ。
お前……わざマシンじゃないんだから……勿論加護の上限は四つなわけもなく。伝説でも四つ固定なんだぞ!!アニメ版かよ大概にしろ!!
しかもこれが強さの根源ではなく、ほんの一端でしかないというのがまた恐ろしい。他に挙げるとするなら、『無制限超回復』や『実質魔法無効』などがあったりするのだが。その辺りは割愛。
何にせよ、たった今はっきりしたことが一つ。
コイツには、『虚飾』の権能が通用しない。
例えマグマの中に真っ逆さまだろうが、人間性そのものを『見間違え』にしたとしても、一分足らずでラインハルトは戻ってくる。しかも恐らく、何回かやってたら耐性的なアレが付いて効かなくなる。もうやだ。
勿論、こんなヤベーバケモンではあるがしっかりとした正義感の持ち主であり、ルグニカ王国を守る最高の騎士であるので、通常であるならば彼と相対する必要性はない。
そう。通常で、あったならば。
「それで。今僕を排斥したということは、それに相当する理由があったから、と見て、間違い無いだろうか」
「……お忍びなので見逃してもらいたいです」
「お忍び……どこの家の方だろうか」
メイザース家のメイドです!アイツが!ロズワールが全部悪いんです!!と言うのは簡単だ。というか言いたい。言わせてください。
だが。
チラリ、と下を見る。そこでは未だお互いでお互いを無一文と素寒貧だと理解していない二人と一匹の姿がある。
このまま自分の身元を明かせば、恐らくラインハルトは下のエミリアに確認を取るだろう。そうなればどうなるか。
普通に原作の流れじゃなくなる。ラインハルトが徽章探しに参加するとか、日常アニメにトマホークを持ち出すようなものだ。しかも僕の存在をエミリア様にバラすわけだから、別行動する理由が無くなってしまう。
へ?素直に事情聴取に応じればいいって?
………僕、実はここに来る前に人を何人か暗殺してきている。後ろ暗いところがないわけじゃ無いどころか、ありまくりなのだ。
殺したのはメ、メ……メなんとかさん。文官として名を挙げ、次に賢人会に欠員が出たらこの人が席に座ることは間違い無いだろうとされていた人だ。
ただ、彼はなにかと亜人族……特にエルフへの風当たりが強いところがあり、もし王選中に賢人会にでも入られたらエミリア様の障害となることはまず間違い無いと思われた。
だから、ロズワールの依頼で僕が殺した。何も初めてのことじゃない。もう何人も手にかけた。実感はない。障害になるのだから、仕方のないことだ。
『虚飾』で痕跡の一切を消しておいたので、行方不明で金庫がすっからかん。夜逃げか何かと思われるに違いない。と思えるほどにはしておいたのだが。
──このまま詰所とかに連れて行かれたら、バレそうだよなぁ。
というか、絶対バレる。目の前の『剣聖』はそういう男だ。多分『あれれ?おっかしーぞ?』だとか『おにーさんから血の匂いがするね』とかから始まって最終的には泣きながら自白させられるまで追い詰められるに違いない。
というわけで、呼び出しに応じるとか論外なわけだ。そもそも二人を観察できないなら死んだほうがマシだし。
「たったひとつだけ残った策があったりします」
「へえ、聞かせてもらってもいいかな」
無手ながら全く隙のない構えを見せるラインハルトに、僕は───
「逃げるんだよォォォ!!」
全力で背を向けて、屋根の上を走り抜けた。
無理無理無理。あんなの相手にするほうが悪い。倒す手段が無いわけじゃない。これでも僕はその手の知識を考えるのは好きだ。
ラインハルトを、本当の意味で殺す手段は知っている。
だが、それにはあまりにも準備不足だし、そもそも殺すにしてもデメリットやらやるべきことやらが多過ぎる。
このまま適当に逃げて、最悪スバル君が盗品蔵にいくところだけでも観察する方がよっぽど現実的だ。
「やれやれ。これでも、追いかけっこで負けたことは一度もないんだけど、ね!!」
後ろから凄まじいスピードで追いかけてくるラインハルト。だが、その速さはまだこの世界の人間のレベルだ。鬼化してその力を使えば、逃げきれないということはない。
「これが本当の鬼ごっこ!笑えない!!」
「それなら、お言葉通り捕まえて逮捕させてもらおうか!」
走る。足場の悪い屋根の上を走り、赤髪の化け物から逃げ出す。
目的地は貧民街、及び盗品蔵。時間は日没まで。相手は『剣聖』の家系、ラインハルト・ヴァン・アストレア。
最悪の鬼畜ゲーが今、最悪の気分のまま始まった。
『剣聖』なんかに、絶対負けはしない!!
「はい、これで8回目の逮捕だ」
『剣聖』には勝てなかったよ………
マジでコイツチート過ぎる。何?三時間休みなしで時速60km弱出してるのに息切れ一つしないんだが???こっちは多少なり陰魔法で肉体の負荷軽減して息も汗も絶え絶えなんだが?????
「『どっか行けぇ!!』」
限りなく雑な『虚飾』の使い方。僕ですらどこに行ったかわからないが、一瞬拘束が緩んだので再び走り出す。しんどい。
「ぜひゅ、ふっ…ふぅぅ……ひっ……」
肺が死ぬ。そろそろ夜更けだけど、もういい加減キツい。まさかこの世界でフルマラソンやらトライアスロンをやるハメになるとは。
呼吸が苦しい。いくら体を鍛えても、流石に三時間以上のフル稼動に耐えるのは鬼でも無理だ。
「もうこれを受けるのも九回目か。それにしても、対応ができないな。今度はカララギまで飛ばされてしまったよ」
それに耐えられるお前は本当に人間か?
「そ……こから………十秒弱で戻ってくる……っふぅ………お前っは、ほんと……そういう……とこだ、ぞ……ごぶっ……」
喋るのにすら限界を感じる。いい加減足が止まった。ラインハルト、若干楽しんでないだろうか。いや、楽しんでるな。本気出せばもっと早く捕まえられる筈だ。
「さて、そろそろ日も暮れるし、終わりにしようか。最後に、名前くらいは聞かせてもらってもいいだろうか」
「………リィ……ルっ……げぼっ……あ゛ぁ、じんどい……しんどいよぅ……」
「リィルッだね。覚えておこう」
「リルなんだけど!?……うべふっ……」
天然か。いや、天然だったな。
ツッコミすらもう疲れる。『虚飾』ももう限界が近い。あともう2、3回で、この男は『見間違えにした事実』を斬るだろう。
もうわけがわからないが、ラインハルトはそんな規格外なのだ。概念くらい、こいつに斬れないわけがない。
だが。だが。
「……追いかけっこには負けた……でも、勝った……勝ったぞ、綺礼……この戦い、我々の勝利……うぇっほっ!」
むせた。
迷言くらい最後まで言わせてくれませんかねぇ……
「何を言っているのかわからないけれど、流石にそろそろ厳しいだろう?肉体的にも、精神的にも」
元凶誰だと思ってんだ!?
「……いーのいーの。どうせ、全部……戻るからさ……」
「戻る……?それは、この場所と何か関係があるのかな」
今僕らがいるのは、貧民街の隅の倉庫。貧民街にしては大きく門を構えた店の、丁度裏手である。
そして、表には人の気配。たった二人ばかしだが、今にでも血の匂いがムンムンする蔵の中へ入ろうとしている。
「あぁ、もう……最後の最後なんだから、気張ってよ、『虚飾』の権能……名前、思い付いたからさ……」
「『虚飾』……権能、だって?まさか、君は──」
そもそも、
───ただ、それは誰にとっても同じだろ。
この権能で、今まで僕は誰かを幸せにしたことなんて一度もない。自分自身の私利私欲のために使ってきたし、それも自分の不幸と合わせたらチャラみたいなもんだ。
下姉様も、上姉様も、師匠も、エキドナも、エミリア様も、その他大勢も。この権能で、あの女で、誰もがいい思いをしてこなかった。
ならば、僕は。
「──僕はこの権能を『
この権能に、
「『ラインハルト・ヴァン・アストレアがここにいるはずがない』」
「シッ!」
読み上げられるは、他人の
それに反応し、光の速さで手刀を振るったラインハルト。その刀は、人の首を断ち切るのに十分過ぎる威力を孕んでいる。だが、甘い。首を落とした程度では、『虚飾』の持ち主を殺すことは、絶対にできない。
僕は言葉を紡ぐことなく、『体が傷ついた』ことを『何かの見間違え』にする。
そうだ。そんな事実があっていいわけがない。そんな事実を『僕は認めない』。認めてなるものか。
だって。
「『彼は今頃、大瀑布に呑まれているのだから!!』」
瞬間。
ラインハルトの姿が、またもかき消える。
喜んでいる余裕はない。時間は一刻を争う。急いで盗品蔵の表へと回り、エミリア様がいないのを確認する。
ラインハルトが駆けつけ、全員の命を救ってはならない。ナツキ・スバルの命が救われることなど、あってはならない。
扉を開く。中には、月光に照らされる、黒の少年と白の少女。血の池に溺れて、それでもなお、醜く足掻こうとする男の姿が。
「……っていろ───」
「ぁ…………」
それは、何よりも待ちわびていた光景。
他の誰でもない。ナツキ・スバルだけが見せる、鮮やかな世界。
こちらを向く黒装束の女など、目に入るわけもない。
───そう、だよね。君は、そう言うんだ。
決まって、そう言うよ。
ナツキ・スバルの掌が、既に助からない少女の手を掴む。
全く意味のない行いは、今。英雄に、力を与えて。
「俺が、必ず───」
「君は、必ず」
───
そして。次の瞬間に。
ナツキ・スバルは、命を落とした。
さぁ、ここからだ。
ここから、ゼロから、何度でも繰り返して、全てを始めよう!
愛する者の力を、全て使い尽くして!!
よーやくここまでこれました。いやー長かった。