目が覚めたら難易度ナイトメアの世界です   作:寝る練る錬るね

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Q.『虚飾』ぶっぱせずに素直にロズワールの命令か何かで監視してますって言えばよかったのでは?

A.至近距離に入れる/ある程度会話を成立させた瞬間、暗殺したことがバレる上、万一エミリアに確認されたらそれこそ最悪の事態に。

なお、ラインハルトは非番なのでそれを実行した場合、割とノリノリで監視に付き合ってくれて、後日当番の日にちゃんと逮捕しに来ます。なんだかんだ正直が一番って事だよね。

Q.権能>加護なんだから、加護を全部見間違えにしたら?

A.権能を超える加護が追加されたら目も当てられない上、そこまでの行動をする(魔法で誤魔化せるレベルを超える)とラインハルトが普通に殺しに来る。あくまでリルは、ラインハルトが本気を出さない範疇で逃げ切る必要がありました。最後の大瀑布への移動なんかを初手でやってると本気を出されます。

Q.『真理の加護』って?というか、権能の効果なんだから加護で無効にできないんじゃ?

A.ラインハルトが『記憶がないこの状況をどうにかしたい』と思って得た加護なので、効果は『自分知りたいと思った事象を追体験する』ものとなっています。思い出したとは少し違って、文字通り観直した、というのが正解です。なんだこの後出しジャンケン理論。

Q.レグルスみたいに千日手になるんじゃ……

A.千日手にはなるけど、リスポーンキル(生き返った瞬間権能を使うまでもなく殺される)を延々とされる一方的な千日手。(リルが権能フルブースト&フル活用でラインハルトをやっと殺せるのに対し、ラインハルトは割と簡単にリルを殺せるため)もう一生こいつらで殺しあってればいいんじゃないかな。

Q.権能で疲れを無かったことにすれば……

A.作者がそんな使い方を思いつかなかった。天才か?作者がガバなのか。

Q.頭スッカスカの作者のガバが多いクソ作品な上にそれを指摘したらbadがつく。最悪(原文ママ)

A.頭が木製の籠並みの作者への悪意を創作意欲に変え、作者以上にガバが少ないリゼロ二次創作を書いてください。むしろ作って欲しい。作って(懇願)

Q.『見間違え』にされた事実を斬るってなんだ。

A.作者もそう思います。


 ※当作は二次創作であり、原作が完結していないのもあって独自解釈をある程度含んでいることをご了承の上ご覧ください。そして作者はガバです。

感想……オイシイ……オイシイ……!

お待たせしました。種まきの時間です。





タバコを吸うと人生最後の瞬間に「ツいてねぇぜ……」と言いながら一服できるメリットがある。そんなロマン

 そこに広がっていたのは、『無』の世界だった。

 

 何も見えない。何も感じない。何も、意味がない世界。

 

 そして。この世界に意味をもたらす声が聞こえる。

 

『愛してる』

 

『愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる』

 

 

『愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる』

 

『愛してる』

 

「そう。僕はそうでもないけどね」

 

『…………どうして?』

 

 悲痛な声。今の僕にとっては甘美なものに感じる声。

 

 ああ、でも。

 

 僕の聴きたかった声は。

 

『あなたじゃ、ない』

 

「お前じゃない」

 

 弾かれるようにして、僕の意識は現実へと浮上した。

 

 

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

「───どうしたよ、兄ちゃん。急に呆けた顔して」

 

 目の前に出てきたのは、整然と並ぶ果物の群れだった。

 

 耳に届いたその声は、自分にかけられたものではない。その隣の、黒髪の少年にかけられたものだ。

 

 意識は、ある。肉体は、戻っている。息切れもないし、ダルさもない。

 

 権能……確かにある。胸の中で根付く『虚飾』の権能は、消滅した様子はない。

 

 そして。

 

 

 記憶。

 

 

 ……ラインハルトに追いかけ回され、最後に盗品蔵でナツキ・スバルの最期を見届けた、記憶。

 

「ふひ」

 

 ──成功、した。

 

 成功した成功した!スバル君と同じように、スバル君と全く同じに!今僕は、『死に戻り』を経験したのだ!!

 

 仮説は立証され、現実のものとなった。

 

 屋敷で過ごしていた頃、ずっと考えてはいた。

 

『このまま行っても、死に戻りで成功したスバル君しか見れないんじゃね』と。

 

 確かに絶望していくスバル君も見れはするんだろうが、それでも記憶には残らない。記憶に残らないなら、僕にとってそれらは無かったに等しい。

 

 だから、考えた。『虚飾』の権能を使って。『愛し人(パンドラ)(厄災)』を使って、『死に戻り』を経験。或いは、死に戻り前の記憶を取り戻す方法を。

 

 最初の頃はスバル君のソレが『別世界の自分に自我を塗り替える』のか、『本当に時間を巻き戻している』のか。エキドナの抱いた疑問と同じものを抱き、どうなのだろうかと頭を悩ませていた。

 

 だが、そんなものはハッキリ言って無駄だった。

 

 記憶が引き継がれない以上、『死に戻り』できない僕にできることはスバル君の反応を見て『死に戻り前の僕は失敗した』という事実を確認するしかない。

 

 そしてそれは仮説の成立をさせるには十分な根拠でなく、最悪屋敷まで記憶を得られない可能性まであった。

 

 だが。だが。今こうして僕は、ちゃんと『死に戻り』前の記憶を持ってここにいる。それはなぜか。

 

 簡単だ。

 

 サテラの権能の範囲(・・・・・・・・・)に、無理やり僕を巻き込んだ。

 

『死に戻り』がどんな経過を経ていたとしても、必ず言えることがある。嫉妬の魔女の権能は、必ずナツキスバルに干渉すること。

 

 思えば当たり前だが、それさえわかってしまえば簡単なことだ。

 

 ナツキ・スバルが死んで発生した権能の対象を、僕とナツキ・スバルの二人に変える。

 

愛し人(パンドラ)(厄災)』で、『嫉妬の魔女の権能が(リル)に作用しないわけがない』と、権能そのものの効果を書き換えた。

 

 恐らく、加護や魔法ではどれだけ技巧を凝らしてもこんな芸当はできない。そもそもかなりの拡大解釈を含んだ理論。無茶にも限度がある。

 

 しかし。それでも、『死に戻り』は『愛し人(パンドラ)(厄災)』と同じ権能だ。ならば、同じ権能で干渉できない道理はない。

 

 嫉妬の魔女にしてみれば災厄や不幸もいいところだろう。自分の愛しい人に使うはずの権能が、横から割り込まれた謎の第三者にも使わざるを得なかったんだから。二人だけの秘密も、これでは形無しだ。

 

 まぁ、知らないフリ(虚飾)をするんですけどね。

 

 嘘つき、上辺だけは僕の在り方だ。これで周囲に秘密をバラしまくるならサテラもキレて対抗策を考えるかもしれないが、黙っているならわざわざ好きな人以外に興味を向けてどうにかしようなんて気にはならないだろう。

 

 いやぁ、盲目的。助かります。

 

 とまぁ、種明かしも終わったところで。目標が達成されたことは明らか。今後も、スバル君が死ぬ瞬間が大まかにわかったら『死に戻り』に自分を巻き込ませられることがわかった。

 

 

 

 それじゃ。

 

 いい加減、始めようか。

 

 ───スバル君。

 

 

 

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

「───どうしたよ、兄ちゃん。急に呆けた顔して」

 

「…………は?」

 

 一瞬暗くなった視界から現れたのは、厳つい面構えをした中年だった。思わず呆けた声が出てしまい、その返答に男は顔を顰める。

 

「だから!リンガだよリンガ!!食いたいんじゃねぇのかよ?」

 

 彼。ナツキ・スバルはあたりを見回す。蜥蜴が引く馬車らしき乗り物。暗かったはずなのにもう朝になって、周囲は侘しい貧民街から賑やかな王都へと変貌を遂げている。

 

「え? え? ──どゆこと?」

 

 疑問と当惑に、誰へ向けたものでもない問いを吐き出すのが精いっぱいだった。

 

 つい先ほど、スバルは貧民街で腹を裂かれ、盗品蔵の床に倒れ伏したはずだったのに。

 

 そうしてジャージをめくって、なんの傷も負っていない腹を確認していると。隣から、聞き覚えのない声がかかる。

 

「おじさん。レモムの実を一つ、くださいな」

 

「お、まいど。兄ちゃん、客っつうのは、こういうのを言うもんだぜ?」

 

 目の前で銅貨と引き換えに、レモンらしきものを買った者。

 

 その姿は、スバルから今抱くべき疑問やらの全てを吹っ飛ばすには十分な威力を持っていた。

 

「なんとっ!?」

 

 それは、メイドだった。秋葉にいるようななんちゃってコスプレではなく、可愛らしさと機能性、そして厳かさを感じさせるメイド服を着たメイド。

 

 黒を基調としたエプロンドレスに、頭の上に乗せたホワイトプリム。礼節を持ったその佇まいには、萌えではなく別の畏った何かを感じてしまう。

 

 おお、この世界にはメイドと神がいるのだ!!と感動して目を向けると。

 

「えい」

 

 やけに間の抜けた掛け声。

 

 プシャ、という音と共に、視界に大量のレモン汁が広がった。

 

「ほんだらぐじゅればっ!!」

 

 ビタミンCが目を焼き、染みるなんてレベルじゃない痛みが目を襲う。堪らずその場でのたうち回り、意味をなさない悲鳴をあげる。

 

 当然、そんなことをした下手人は慌て、心配と謝罪の声を合わせてスバルを……

 

「…………突然何をしだしたの、この人」

 

「お前のせいだよっ!?」

 

 助けなかった。

 

 冷ややかな声で元凶に見下ろされ、思わずツッコミとともに飛び上がる。

 

「言え!なんで人の前でレモンを絞った!?」

 

「突然レモム汁が飲みたくなったんだよ。ついでにリルをいやらしく見つめた目を潰してやろうかと」

 

「今後育つ俺の視力という芽が潰されそうになったんだけど!?」

 

「やだ、二つの言葉を掛けて喋れたなんて……リルってばもしかしたら詩の才能が?」

 

「今のどこに褒める要素があったよ!?」

 

 喚くスバルにはぁ、と億劫そうにため息をついた小さなメイド。あまりの情緒不安定さに驚きを隠すことができない。

 

 ……しかし。このメイド、よくよく見てみれば、恐ろしいほど顔が整っている。

 

 一番特徴的なのは、その深い()の髪だろう。所々に白金(・・)のメッシュのようなものが入っていて、そのどれもが絹のような光沢を放っている。

 

 否が応でもそこへ目が向き、次にその髪が特徴的なほどに長いことに気がつく。両目を覆い隠すほどに伸ばされた髪には、額の左右で赤いピンで×(バッテン)が付いている。後ろの髪は同じく赤いリボンで一部が括られており、どことなく清潔感を感じさせた。目元こそ隠れているが、それでも隠しきれないほどの端正な顔立ち。

 

「目隠しロリメイドキタコレ!」

 

「おう、坊ちゃん(・・・・)。悪りぃが営業の邪魔なんでこの坊主引き摺ってってくれねぇか」

 

「……承りました。ほら、いくぞ不審者」

 

「誰のせいでこんなことしなくちゃならなかったと思ってんの!?」

 

 叫びながらも腕を引かれ、リンガ売りのおっちゃんの店から離れていく。

 

 五十メートルほど離れたところで掴まれていた手は離され、リルと自分を呼ぶメイドと一対一で向き合うこととなった。

 

「……それで。不審者はなんであんなところにぼうっと突っ立ってたの?」

 

「まずはその醜聞が酷いにも程がある呼び方をやめろ。俺は不審者でもなく坊主でもなくナツキ・スバルっつうお父さんからもらった大事な名前があんだよ」

 

 言い切って、てっきり何かしら軽口を叩かれるかと思ったのだが、意外にもメイドは何も言わず押し黙った。……そのまま目を伏せ、まるで感極まったように何も言わなくなる。

 

「な、なんだ?俺の自己紹介がそんなに衝撃的だったのかよ」

 

「………お父さんから貰った名前をそんな風に誇っているなんて……リルは嬉しいです……」

 

「おかんか!?しかも何を本当に泣いてるんだよ白々しい!」

 

 およよ、と涙ぐみ始めるメイドに、調子を狂わされるスバル。彼女なりのおふざけなのだろうが、どうにもとっつきにくいところがあった。

 

 だが、次第に意識が状況に追いついていくにつれ、自分がやるべき事を思い出す。

 

「じゃねぇ!こんなことしてる場合じゃねぇんだ。俺はサテラに会わなきゃ……」

 

「無駄だと思うけど?」

 

「は?」

 

 そのあまりにもぶっきらぼうな言い捨てに、体が止まる。

 

「サテラ、なんて名乗る相手。少なくとも、自分に関わって欲しくないです感全開じゃん。そんなやつ相手にする方がおかしいんだよ不審者」

 

「不審者じゃ……てか、サテラってそんなに有名なのか?」

 

「他の人の前じゃ言わない方がいいね。世間一般の常識が欠如してるとしか思えないから。もしかして素面じゃなかったりする?」

 

「生憎と未成年で酒は飲めねぇよ。……他の人の前でっつうのは」

 

「その嫉妬の魔女以外のことをほとんど知らない世間知らずな方の教育係を務めていたことがあったからね。ま、蒙昧な無知の相手は慣れてるってことだよ」

 

「嫉妬の……魔女?」

 

 聞き覚えのない名前。だが、話の文脈から察するに……

 

「その嫉妬の魔女ってのが、サテラなのかよ」

 

「多分君が探してる人とは別人だろうけどね。嫉妬の魔女サテラ自体は、大昔に封印されちゃってるから。……ただ、400年経ってもその恐怖は語り継がれてる。大方、その名前を騙るってことは、君に関わって欲しくなかったとかじゃないのかな」

 

「……俺に………関わって欲しくなかった?」

 

 そんなはずはない……と思う。少なくとも、そこまで信頼されていないはずはなかった。けれど、サテラが……そう名乗っていた彼女が、別人であることは確かで。

 

「わからねぇ………わからねぇよ!」

 

「あ、こら。どこ行くの」

 

「……とりあえず盗品蔵だ……あそこに、まだサテラが……」

 

 物騒な名前に物騒な場所だなぁ、とかかる背後からの茶々を無視して、スバルは路地へと足を踏み入れる。……だが。目の前に立ちはだかる、見覚えのある三人の影が。

 

「おう兄ちゃん。ついでにそこの使用人服。こっから先通るなら、荷物と有り金全部置いてきやがれ」

 

「またお前らかよ……サテラにやられて懲りたんじゃなかったのか?」

 

「あん?なんのことだよ」

 

 一番小さいの、中くらい、大きいのの三人揃った、トン・チン・カン(スバル命名)の三人組だ。

 

 下品な笑みを浮かべる男たち。そのネトついた視線の対象が誰なのかわかったスバルは、後ろ手に控える少女に声をかける。

 

「おい、ここは俺がどうにか説得するから、お前は……」

 

「お前みたいな対人能力0の役立たずにまかせる?へそで茶が沸いて鼻が大爆笑しちゃう。ウルガルムの方がよっぽどマシだよ」

 

「それさっきの俺のセリフ!?」

 

 ついさっきサテラに裏声で話した内容をそっくりそのまま繰り返され、さしものスバルも声を荒らげざるを得ない。

 

 そんなやりとりをそこそこに、小さなメイドは何をするでもなくスバルとトンチンカンの三人の間を割った。

 

「おい、危ないって!」

 

「ははは、嬢ちゃん!俺達と遊んでくれんのか!?さっすがお偉いさんに仕える仕事の奴は気前がいいねぇ!」

 

 ギャハハハ、と下品な笑い声をあげる三人に、メイドは少しの感心と呆れのため息をつく。

 

「………しょうがないなぁ。ここは一つ、残念で無一文で無能なスバルに、リルが魔法の力を見せてあげましょう」

 

「おぉ、そうか魔法!言い過ぎだと思うがよし、やっちまえ!」

 

 そうだ。この世界にはファンタジーらしい魔法の概念がある。それなら、この小さな子供でも大人三人の相手が………

 

 と、思ったその瞬間。

 

 メイドの姿が一瞬でかき消える。次に(まばた)きをしたときには、メイドは一番の巨漢の付近まで移動していて。

 

()ッ!」

 

「ほぶっ……!?」

 

 特に魔法と関係のない左拳の一撃が、トンチンカンのトンの腹を襲った。

 

「お、げぇ……」

 

 人体など容易に破壊しそうな拳をモロに受けたトンは、くの字に体を曲げながら苦悶の表情を浮かべる。そして数メートルほど吹っ飛んだのち煉瓦へと激突して、生じた石の破片と共に地面へと崩れ落ちた。

 

「魔法の鉄拳、マジカル☆パ〜ンチ……」

 

「えぇ……」

 

 シュゥゥ、と拳から煙のようなものをあげつつ、振り切った姿勢でファンタジーなど欠片も感じさせない言葉を発するメイド。明らかに棒読みであり、神秘よりも覇気を感じさせる声音だ。

 

 一同が困惑を隠せない間に、次なる一撃がチンを襲う。

 

「魔法の……鉄脚?」

 

「わ、悪かった!悪かったからやめてくれっ!!」

 

 必死の命乞いに耳を貸すことなく、しなるように繰り出された技名すらあやふやな蹴りが………あろうことか、目的とは遠い場所にいたカンを標的として放たれる。

 

「へけぇっ!?」

 

「マジカル☆キ〜ック」

 

「ほぶぇ!?」

 

 脚を振り切る前についでとばかりに膝でチンを巻き込み、カンと同じ方向に蹴り飛ばす。動き辛いと思われるロングスカートのメイド服だが、それを全く感じさせない武術の心得。

 

 白のニーズソックスをスカートの端から覗かせつつも、華麗な足捌きで蹴りを披露して見せた。

 

 三人をものの数秒でノックアウトさせたメイドは、三人の死屍累々ぷりをみて、満足そうに頷いた。

 

 そして(おもむろ)にスバルの方を向き……

 

「魔法の頭突き……」

 

「こっちにまで向かってくるの!?」

 

 すわマジカル☆ヘッドかと慌てて構えたところ、数秒してメイドが破顔する。

 

「冗談だよ。どうだった?リルの魔法は」

 

「え、今の魔法関係あったの?」

 

「特に?」

 

「えぇ……」

 

 本日何度目になるかわからない困惑のため息を吐き、この惨状を引き起こした元凶を若干の恐れを含んだ目で見る。

 

「あれ、死んだの?」

 

「このまま放置してたら死ぬと思うよ」

 

「ヤっベェじゃねぇか!この人殺しっ!!」

 

「嘘。気絶させただけ。全治一週間ってところだね」

 

「充分重症だよ……」

 

 それでも命があるだけマシなのだろうが。ファンタジーの恐ろしさと殺伐さを目の前で味わった気分だ。

 

「こんなことしなくても、衛兵さん呼べばカタはつくんだけどね。ここは王都だから、呼べば駆けつけてくれるよ。次に絡まれたら参考にするんだね」

 

「なるほどその手が……ってならなんで暴力に訴えたの!?」

 

「リルの鬱憤ばらし……じゃなく、八つ当たり」

 

「言い繕ったつもりかもしれないけど意味変わってないからね!?」

 

 それにしても。まさか戦闘ができる系の従者だったとは恐れ入る。流石ファンタジー。美少女に格闘術とはなかなかありだ。これで口が悪くなければよりよいのだろうが。口が悪いというか、言動が悪い。

 

「さて。それじゃ、リルはこの辺で失礼しようかな。探さなきゃならない人がいるから」

 

「おぉい待て待て!!俺は名乗ったけど、俺はお前の名前を聞いてねぇぞ!」

 

「え?スバルが勝手に名乗っただけなのにリルが名乗らなくちゃならないの?」

 

「ド正論が耳に痛い……!」

 

 確かに名乗る義務は無いけれども。人の出会いは一期一会。度胸も一文も無いスバルにとっては、この世界の人間関係というものは何よりの武器になるというものだ。

 

「でも名乗れ!大方予想はついてるが名乗るくらいはしていけ!他ならぬ俺の為にっ…!頼む……!」

 

「最後の情けない懇願がなかったら言ってあげなくもなかったかなぁ……」

 

「なんちゃるプレイミスだよ俺!?」

 

 折角得かけた縁を〜!と嘆くスバルをみて、一層憐れなものを見る表情を作ったメイドは、嘆息と共に路地から出ようとする脚を止めた。

 

「しょうがない、教えてあげる」

 

「おお、助かる!」

 

 メイドらしくスカートの裾を摘み、優雅に一礼してから、少女は名前を名乗る。

 

「リルの名前は、リ……ロズワールと申します」

 

「嘘が下手だなぁ!?わかったよ!お前の名前はリルだな!?」

 

 隠す気すらないのではないかという一人称と乖離した偽名に、またも声を荒らげるスバルだった。

 

「なんで嘘ってバレたんだろ」

 

「まずは一人称を変えろ」

 

「………レムの名前はロズワールだよ」

 

「そういうことじゃないんだよな」

 

 どうやらこのメイド、改めリルは、中々に天然を極めためんどくさいやつらしい。

 

 




『嫉妬の魔女の権能が(リル)を干渉しないわけがない』
『黙っているならそうそうどうにかしようなんて気にはならないだろう』

 ↑この二つを覚えておきましょう。

 リルと出会ったことは、ぶっちゃけスバル君にとってはエキドナの手を取ってしまったくらいの不幸。

あ、本当に明日はお休みなので、期待しないでください。
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