目が覚めたら難易度ナイトメアの世界です   作:寝る練る錬るね

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 今回もスバル君視点です。


感想、返すの……キツくなってきた……全部見させていただいていはするのですが。流石に60件を超えると、返信するものが限られてしまいます……ご了承くだされば……全部見て、ありがたく頂戴しておりますゆえ……なにとぞ、なにとぞぉ………感想への感謝は、絶対に忘れませんゆえ……最近感想返信しようとして寝落ちする毎日なんだ……




とっとと(こうべ)を垂れて犬のように這いつくばりながら許しを乞い、己の罪深さを自覚して死ね、と神は言った。

 

 

 

 

「へぇ、じゃあリルはその、オットーっつう凡俗な商人に仕えてるわけか?」

 

「嘘だよ」

 

「嘘かよ!?じゃあ本当のところは!?」

 

「単なる従者の格好をしただけの一般人」

 

「それも?」

 

「嘘だよ」

 

「嘘かぁ……」

 

 かっくし、と歩きながら肩を落とす。

 

 行先がどんどんと寂れていく中、騒がしく歩くスバルとリルは、どこか周囲から浮いていた。心強い道連れができて、スバルとしては頼もしいと言わざるを得ないが。

 

「てか、探す人がいるんじゃなかったのかよ」

 

「いるけど、スバルはこのまま一人にしたら死んじゃいそうだからね。せめて、目的地までは付き合ってあげるよ」

 

「行きはよいよい、か。正直助かるわ、ありがとう」

 

「お?もっと褒めてもいいよ?」

 

「おーよしよしよし。偉いな〜リルは」

 

 わしゃー、と軽く頭を撫でるスバルにキャー、と楽しそうに身を任せるリル。……子供とはいえ、ノリで初めて異性の髪を触ってしまった気がする。すごいサラサラ。

 

 そして、これは十数分話していてわかったことだが。

 

「ほんと、ツンデレだよなぁ、お前」

 

「なんか馬鹿にされてるのはわかる」

 

 そう。このリルというメイド。中々ツンに見えて人の良さが溢れているのだ。こうしてなんだかんだと付き合ってくれることもそうだし、レモン汁……レモム汁の件も呆然とするスバルを気遣ってのことだろう。

 

 美少女にこうも優しくされると、女性経験の少ないスバルとしては「あれ?こいつもしかして俺のこと好きなんじゃね?」と簡単に陥落させられそうになるのだが。

 

 侮るなかれ。今のスバルはサテラ(仮名)という相手と触れ合って女性に少しばかりの耐性がついているのだ。そんな幻想はそこまで抱いてはいない。ただ、スバルは歳上派だけど歳下もありな気はしてきている。

 

「結局、俺はお前のことが何一つ知れないというね」

 

「これでも辺境のお貴族様の従者だから。あんまりペラペラ身分を明かすわけにもいかないんだ」

 

「なるほど。ん?たった今明かした?」

 

「………それも嘘だよ」

 

「図星の時の嘘が下手だな!?」

 

 かなり流し目気味にボソボソと呟かれるとスバルでも嘘だとわかる。どうも、本当のことを嘘と言うのが苦手らしい。

 

 そのあたり、サテラとどこか似ているな、と思ってしまったり……

 

 

「スバル。リルより上の目線からものを話さないで」

 

「あ……悪ぃ、そんなつもりは……気をつける」

 

 そんなことをしていると、値踏みするような形になった視線に気が付かれてしまう。子供はどうも、そういう視線に敏感だ。そんなつもりはなかったが、リルからすれば不快だろう。

 

「じゃあとっとと屈めよ」

 

「あ、物理的な話!?」

 

 

 鈍感だった。

 

 というか、スバルは一度たりともリルを上の目線以外から見ていないし。そもそも身長的に向かい合えば自然と上から見下ろす形になるのだから、その台詞は今更すぎるが。

 

 めちゃくちゃなことをいいだしたメイドに何をいえばいいのか迷っていると、少女は不満げにこちらを見る。

 

「何?言いたいことは相手の目を見て言いなよ」

 

「そりゃそうか。よし、じゃあ」

 

「リルより上の目線で話すのをやめて」

 

「これ無限に終わらない選択肢のやつだ!」

 

 理不尽。きっと50Gと銅の剣しかくれないのだろう。

 

 逆に、上から見られると困るものでもあるのか。スバルは少し歩くペースを落として、リルを高い位置から見下ろしてみる。

 

 すると。

 

 ──なんだ?髪の根元が……

 

 元々変わった髪色だとは思っていたが、上から見てみると、生え際のあたりの髪は紫じゃなくて白っぽい。丁度、リルの髪に入っているメッシュと同じ色だ。

 

 はて、何の意味があるのか。と考えていたその時。

 

「スバル、こっち行き止まり」

 

「あぁ、クソ。……実際のところ、地理がイマイチよくわかってないんだよな……」

 

「目的地がわからないって大概酷い………しょうがない。盗品蔵、でいいんでしょ?」

 

「そうだけど、どうするつもりだ?」

 

 ま、そこで見てなって。とウインクをしてキョロキョロと辺りを見渡すリル。訂正。ウインクできてなかった。あれでは薄目まばたきだ。

 

 それから少しして、ゴツめの浮浪者と思われる一人が道を通りかかった。それを呼び止め、何か話し始める。

 

 最初は嫌な顔をしていた男が何かニヤニヤしながら言葉を交わし、最後には満面の笑みでスバルの横を抜けていった。

 

 おわかりいただけただろうか。

 

「え?何が起こった?」

 

「お金で買収したんだよ。金貨一枚渡したらすんなり教えてくれた。金の力は偉大だね。あっちだって。行こ」

 

 子供らしさの欠片も感じられないことを言って、クイクイ、とスバルの手を引いて盗品蔵へと向かおうとするリル。

 

「金貨って……そんな大事なもん、わざわざ俺のために使わなくても!」

 

「大丈夫、うちの主人の金だから。後で返してよ、トイチで」

 

「無一文に期待しすぎだよ。俺、十日後生きてるのかすらもわかんねぇんだぜ」

 

「大丈夫、十分で一割だから」

 

「あまりにも暴利すぎねぇ!?」

 

 どうやら金銭の法整備が進んでいない異世界。違法賭博が横行する一玉4000円パチンコのある世界線かここは。

 

 結局返すなら渡すのは銀貨くらいにしておいて欲しかった。

 

 それから暫く。

 

「到着。思ったより早かったね」

 

「ここまでの道のりが金貨一枚……しっかり記憶しとこう」

 

 固く誓いながら、聳える盗品蔵を眺める。

 

 最初は暗くて大まかな見た目しか把握できなかったが、明るい場所で見ても想像通りのイメージだった。確かに蔵。それ以外の名称が不釣り合いな建物だった。集合住宅ばりの敷地は、その俗称に似合わぬ威厳を保っている。

 

「……この中に、サテラが」

 

「はいはい。リルはここで失礼するね」

 

「……だよな。わかってた。中まで付き合ってくれたらよりありがたかったけど、まぁしゃあねぇか」

 

 どれだけリルが強かったとしても、子供にそこまでの贅沢は望めない。ここまで付き合ってくれただけでも望外の幸福というものだ。

 

 初対面で思い切りスバルを見捨てたフェルトなる少女と比べたら雲泥の差だろう。いや、初対面のインパクトはなかなか彼女とは変わらなかったものの。

 

「……ま、何かしら危なくなったら名前を呼べば?暫くこの辺りをうろついてるつもりだし」

 

「マジか!?助かる!!」

 

 またもよしよしと頭を撫でると、フン、と鼻を鳴らしながら満更でもない表情を見せる。こいつめ。

 

「あとこれ。一応、預けといてあげる」

 

「これは……?」

 

「盗品蔵ってことは、盗品に用があるんでしょ。預けるだけだから、絶対、絶対返すんだよ」

 

 渡されたのは、少し重たいくらいの小袋だった。中には何やら金属が入っているらしい音がする。袋の紐を解き中身を見ると、そこには白っぽい光沢を放つ、いかにも高そうな硬貨がゴチャゴチャと大量に入っていた。およそ50枚近いだろうか。

 

「いや、流石にこれは……」

 

 受け取れない、と返そうとするが。既にメイドは周囲のどこにも見当たらず、盗品蔵で立ち尽くすのはスバルだけだった。

 

「………50G……なんて価値じゃねぇよな。………人が良すぎるだろ、あいつ」

 

 どうやら異世界人の情というのも、捨てたものではないらしい。

 

 スバルの不幸と、だいたい等価交換くらいの比率な気がしないでもなかったけれど。

 

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 そこからは、割と順調に進んだと思う。

 

 つい先ほど血を流して倒れていた老人にそっくりな『ロム爺』という盗品蔵の主人と話し合い、この後フェルトが徽章を持ち込む可能性があることを聞かされた。

 

 幸いにも、リルの渡してくれた聖金貨なる高額の硬貨を使うことなく、ガラケーを『ミーティア』として売れば、十二分に徽章を買い取れることを知った。

 

 ついでに、あのメイド少女がどれだけの大金を自分に預けてくれたのかも。

 

 そして、サテラから徽章を盗んだ金髪赤眼の少女フェルト。黒装束に身を包んだスリの依頼人、エルザと交渉し、聖金貨二十枚という積みに積み上げられたレートに何とか勝利して、交渉の末徽章を手に入れたのだった。

 

「よっしゃぁぁ!」

 

「私の依頼人もその徽章が手元にある必要はないから、ゴネることはないの。金を渋ろうとした依頼人のミスね」

 

「聖金貨二十枚で渋ると言われると、流石に可哀想になってくるがのう」

 

 同情的なロム爺の声を後ろに『ミーティア』と化したケータイと引き換えて、フェルトから徽章を受け取る。竜の顎をあしらった中心に宝石の嵌め込まれたバッジはなるほど、高価そうなものではあった。

 

「それじゃ、私は失礼するわ。目的は達成できなかったけれど、依頼自体は成功したわけだし」

 

 黒の外套をはためかせ、エルザはブーツの足音ともに出口へと歩いていく。

 

 そして盗品蔵を出ていく直前に、ふと。

 

「そういえば。買い取ったその徽章、いったいどうするつもりなのかしら」

 

「あぁ、持ち主に返すんだよ」

 

 そしてスバルは、目の前に差し出された凶刃と共に、己の失言を悟った。盗んだ依頼をした相手の目の前でわざわざ、それを無意味にする行動を目的にしていると、明かしてしまったことを。

 

「なんだ、関係者なのね」

 

「う、おぉっ!?」

 

 歪な形をした黒い刃が、奇跡的に目の前を通り過ぎて去っていく。フェルトがスバルの裾を引っ張って尻餅をついたおかげで、間一髪のところで死を免れたのだ。

 

「ちょっ!?どういうことだ、テメー!」

 

「あら、避けられてしまったわ」

 

 先ほどまでとは違い、剣呑、艶やかな殺意を以てスバルを威圧するエルザ。その手には、ククリナイフによく似た刀剣が握られている。

 

「おおおお──ッ!!」

 

 雄叫びを上げ、エルザへと向かうのはロム爺だ。トゲ付きの棍棒という文明を疑う凶器で、エルザを襲う。

 

 見たところ、お互いの実力は互角のように見えるが──

 

「へん!ロム爺が負けるわけねぇ!あの女も終わりだな!」

 

「──食らえい!!」

 

 スバルの不安をそのままに、戦闘に変化が生じた。ロム爺がテーブルをひっくり返し、視界を塞ぐテーブルごと棍棒を振るったのだ。

 

 が、しかし。

 

「ロム爺!!」

 

 フェルトの悲痛な叫びが、起こった事象をそのまま示唆していた。クルクルと、宙を舞うのはロム爺の太い腕。赤黒い血を撒き散らしながら、それは勝負の決着を示す。

 

「言い忘れていたのだけど。ミルク、ご馳走様でした」

 

 そうして、容赦なくロム爺にエルザが凶刃を突き立てる……その寸前。

 

 スバルは、無意識のうちに叫んでいた。

 

「来てくれ!リルっ!」

 

「そうやって他人をすぐに頼れるのは、スバルのいいところだってリルは思う!」

 

「───あら」

 

 窓を突き破って乱入してきたメイドが、ロム爺に致命の一撃を喰らわせようとしていたエルザの体を、文字通り横殴りに弾き飛ばした。

 

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 綺麗な拳の一撃を決めた紫髪のメイドは、華麗にそのまま一回転すると、スバルを見つけて不満げに頬を膨らます。

 

「スバル、リルに何か言うことがあるよね」

 

「あぁ、呼ぶのが遅くなって悪かった!さっきまで床に倒れてる爺さんがあの女と……」

 

「え?助けてくれてありがとうございますじゃなく?」

 

「恩着せがましい!?確かに助かったけども!」

 

 非常時でも余裕綽々な態度。普段なら辟易とするところだが、今となってはその能天気さが心強い。

 

「それで?なんでこの状況?」

 

「俺の目当ての徽章を奪った奴がその金髪!で、依頼したのがさっき吹き飛ばした黒女のエルザで、俺が徽章を持ち主に返すって言ったら殺されかけた!」

 

 なるだけ端的に情報を伝えると、少女は心底呆れ果てたようにスバルを見た。

 

「えぇ……盗ませた本人の目の前で持ち主に返す発言?迂闊過ぎない?」

 

「俺だって自分のミスくらいわかってらぁ!笑いたきゃ笑え!」

 

「ブフォッ」

 

「噴き出すほどとは思わなかったな!?」

 

 自分で言っておいてなんだが、そこまで笑われるとやっぱりムカつく。

 

 しかし、あそこまで救援が早かったということは、リルは多少なりスバルを心配し、近くにいてくれたということだ。

 

 それに礼を言うべきか、はたまた笑ったことを責めるべきか。

 

 だが、礼を言うことを先に実行するより、エルザが起き上がる方が早かった。脆い盗品蔵の壁に穴を開けて突っ込んでいた黒の女は、何でもないように起き上がってくる。

 

 それを見て、リルは少しだけ顔を苦くした。

 

「どうしよう、かなり危ないかも……」

 

「あいつそんなに強いのか!?」

 

「初めて女の人殴ったけど何も感じない」

 

「大変危ない!!」

 

 そういう意味では危なかった。どうかその拳を正しい方向性に活かしてくれるよう祈るしかない。

 

「あらあら……武器や魔法ならともかく、拳を受けたのは久しぶりだわ。それに凄く痛い。年齢の割にいい腕をしているのね。いいわ。あなたの(はらわた)は、きっと素晴らしい色をしているのでしょう」

 

「相手の腹の内を最初から開けっぴろげにしようなんて、随分素人なんだね、()……エルザ。残念だけど、開けても真っ暗で見応えはないと思うよ?」

 

「あら、それはそれで珍しいものよ。今まで後ろ暗い権力者は何人も捌いてきたけれど、本当に黒かったのは肺だけだったもの」

 

「今撤退するなら許してあげなくもなくないけど?」

 

「極上の獲物を目の前に待てだなんて、()()()()()

 

「…………死ね」

 

「あら、口が悪くなったわね。何か気に触れたのかしら」

 

 軽口の応酬は、それで終わりだった。一瞬の間すらも空けず、リルが震脚(しんきゃく)の一撃を踏み込んだからだ。

 

「速──」

 

「遅いよ。足場悪い。ボロっちいな」

 

 先程のトン・チン・カン戦とは比べ物にならない速度。例えエルザが倍速だろうと反応できない速さで、拳の一撃が胸に叩き込まれる。

 

 エルザの胸からべキリ、と骨の折れる音。そして何かが弾けるしてはならない音がして、そのままガラクタだらけの棚へと残った体が飛んでいく。

 

 盛大な音を立てて武器の山に飲まれるエルザ。棚が崩れ、その肢体を潰すように中身が襲い掛かる。

 

 ……数秒が経っても、起き上がってくる気配は一切ない。

 

「はい。心臓潰したから、おしまい」

 

「───うっそぉ」

 

 あんぐり、と口を開け、何度も小柄で華奢なメイドの姿を確認する。いったいその肉体の、どこからあんな速度と力が出ていたというのか。

 

 トン・チン・カンが弱いことは何となくわかっていた。スバルでもトンとカンの二人は少しとはいえど倒せたし、チンが刃物を持っていなかったら倒せもしただろう。

 

 だが、エルザは別格だ。あれはそこいらの不良程度ではどうにもならないのだと、スバルの本能は告げていた。それを、まさかの瞬殺。しかも素手で。

 

「──バケモンじゃねぇか!?」

 

「………いいえ、さっき殴ったのはリルじゃなく別人で、人違いです」

 

「二秒でバレる言い訳しなくても!」

 

 これが最凶系メイド。なるほど、流石異世界ファンタジー。それにしても目隠しメッシュロリ最強系ツンデレメイドとは属性過多すぎないか。制作陣の悪意を感じる。

 

 と、一旦の幕引きが済んだところで。

 

「ロム爺!ロム爺!」

 

 フェルトの悲鳴を聴いて、一人エルザの犠牲者が出ていたことを思い出す。

 

「……そうだ!ロム爺!リル、このハゲの爺さん何とかならねぇか!?」

 

「誰が……ハゲじゃ……」

 

「喋んなロム爺!怪我が悪化……あぁもう!止まれよ血!」

 

 必死にフェルトが傷口を抑えて止血を試みているが、体が大きい分傷口も大きく、結果は芳しくない。泣き叫ぶフェルト。まだロム爺の息はあるが、この出血量では時間の問題だろう。

 

「水のマナの適性は欠片もないんだけど。しょうがない。ジジイ、めっちゃ痛くするけど我慢して歯を食いしばって心の中で五回土下座してよ」

 

「歳の割に口が随分悪いの!?せめて老体にもうちょっと気遣いを……」

 

「エルゴーア」

 

「うぼぁぁぁっ!?」

 

 途端、唱えられた魔法を合図にロム爺が悶絶する。下手人の手についているのは、ここからでも感じる熱量。かなり高熱の炎だ。

 

 この治療法は、ダークファンタジーやらの世界線でお馴染みの……

 

「おいテメェ!ロム爺にいったい何を!?」

 

「待てフェルト!焼いて血を止めてんだよ!緊急手段にも程があるが死ぬよかマシだ!黙って見てろ!」

 

「な……くそっ!後でシメっからな餓鬼!」

 

「治療費は聖金貨二十万枚にマケとくからその支払い方法を考えといて。……終わった」

 

 法外な値段を吹っかける間に、ロム爺が強靭な忍耐力で悶えが最低限だったこともあり、応急処置は完成する。かなり強引な手ではあったが、目的の止血自体はほぼ完璧に行われている。

 

「近衛騎士団の『青』を頼れば腕もくっつくと思うけど、それまで我慢しとくこと。それと土下座がまだ済んで……」

 

「そこそんなに重要!?いま病み上がり真っ盛りだから後にしたげて!」

 

 後生だから!と願うスバルに、渋々といった風に立ち上がるリル。やっぱり心根が優しい割に、言動は天衣無縫、自由奔放すぎる。

 

「あ、今更だけど凍らせればよかった」

 

「おせぇよ!?」

 

 もっとマシな治療法があったことに気がつく畜生メイド。それはそれで壊死が怖かったりもするけど。

 

「………てか、エルザさんは本当に死んだの?」

 

「心臓潰したって言ったでしょ。まぁ、それで死なない可能性もあるかもだから、あんまり近寄らない方が……」

 

「え?」

 

 その忠告は、あまりにも遅かった。

 

 否。それ以上に、スバルは油断し過ぎていた。

 

 忠告されるよりも早く、スバルは吹き飛んだエルザの方向へ足を踏み出していたのだから。

 

 迂闊すぎる。つい2分前に言われた言葉が、脳裏を過った。

 

 

 

「───スバ」

 

「は?」

 

 

 土煙。何かが蹴られる音と、瓦礫から飛び出してくる血塗れの美女。その頬には微笑みを湛えて、最も近い男へと走る。

 

 心臓を潰しても、死なない女。

 

 エルザは一番弱々しく、一番近くにいたその腸へと狙いを定める。

 

 その思いは、これ以上ない昂りを見せていた。

 

 ──彼を殺したら、あの少女はどんな反応を見せるのだろうか。

 

 より強く、より感情のある相手の方が、腸の中身は温かい。もし、怒らせたことで死んだとしても、それはそれで本望だ。

 

 腸狩りの女は欲望のまま。

 

 

 一切の容赦なく、ガラ空きのその腹に向けて一閃を───

 

 

 

 

「────あら。本当に、連れないのね」

 

 

「ご、ぶっ……!」

 

 

 

 その純白の肌から、真っ赤な鮮血を迸らせたのは。

 

 

 

 

「……………リル……?」

 

 

 

 足を引っ張る最弱の荷物を庇った、紫の少女だった。

 




もちろん、わざとですよ!

さぁ、はいぱーリル君タイムの始まりだ。
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