目が覚めたら難易度ナイトメアの世界です   作:寝る練る錬るね

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次回か次次回で一章は終わりです。

なんか相変わらずのgdgdクオリティになってしまった。出先で充電が10%の中書いてるから……許して。次回はちゃんとします。


アンチの感想で傷つくことはないけど心配してくれる感想への申し訳なさでいっぱいになることはある。作者で罪悪感愉悦をしようとするな。

「───兄ちゃん、リンガは?」

 

 もう、聴き慣れた声を聞いた。これといって困惑することもなく、凶悪なスカーフェイスに向き直る。

 

「なぁおっちゃん。俺の顔を見るのって、何回目?」

 

「何回もなにも新顔だろ、兄ちゃん。その目立つ格好なら忘れないぜ?」

 

「今日って何月何日でしたっけ?」

 

「タンムズの月、十四日目だ」

 

「ありがとう。タンムズの月、か」

 

 うん。と一つ頷き、チラリと横の方を見る。そこには、『リンガ』と『レモム』に目を移らせるメイドの姿があった。その目に、スバルに対する悪感情も好感情も感じられない。

 

「───つまり。死ぬたびに、初期状態に戻ってるらしい」

 

 結論を出したのは、四度目の生を拾ってすぐのことだった。

 

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

『死に戻り』と名付けたこの能力。

 

 なんとまぁ、ナツキ・スバルらしいことか。負けることが前提の能力など、ピッタリ以外の言葉の何で表現すればいいものか。

 

 コンテニュー上等。負け犬精神が染み付いた能力とでも形容できよう。

 

「なんにせよ、今は………」

 

「おじさん、リンガをおひとつ、下さいな」

 

 隣でリンゴらしきものを買った少女を、いったいどうするかを考えることが先決か。

 

 一度目は目を配ることもなく。二度目は死に起きにレモン汁をぶっかけられ、スバルを庇って死に。三度目は全く見知らぬスバルの言動に困惑しつつ、最期には助けようとしてくれたお人好し。

 

 ふと、疑問に思ったことがあった。何故彼女は一度たりとも、同じ果物を買わないのか。一度目は何も買わず、二度目はレモン。三度目はレモンとリンゴで、今回はリンゴオンリーだ。

 

 二度目と三度目でレモンを買ったのは、おそらく呆けていたスバルのことを心配して、ちょっかいをかけようとしてくれていたから。逆にレモンを買ったとき以外は、スバルの反応を見て大丈夫だと判断したから………なのだろうか。

 

 つまり。スバルの些細な行動で、未来は変えられる。それは逆にいえば、どれだけ真似ても、恐らく完全に同じ未来を通ることはないということだ。

 

 リルはスバルにレモン汁をかけることはもうしまい。スバルが意識をハッキリとさせ、レモンが不要になったからだ。リルから関係を築きにくる機会は、もう無くなったと考えていい。

 

 ならば。例えばここで、スバルがリルに協力を求めたとして。スバルがリルにお願いして、盗品蔵に来たエルザを早々にとっちめるということも。まぁ、できなくはないわけで。

 

 彼女に助力を乞うか、或いはこのまま知らない人の素振りをするか。

 

「あいよ。兄ちゃん、客っつうのはこういうののことを───」

 

 とんでもない借りのある彼女に、スバルは一体どんな態度を取るべきか。

 

 ───見知らぬ人のフリは、論外だ。かと言って…………

 

「………悪かったな。やっぱ、お前は巻き込めねぇわ」

 

「大丈夫か?兄ちゃん」

 

「あ、心配どうもっす。大丈夫、俺はちょっとこの子に言わなきゃならないことがあって」

 

「?」

 

 首を傾げる少女。当然だ。彼女にとって、スバルは初対面の誰かでしかない。突然こんなことを言われて、意味を理解されても困ってしまう。

 

 だが。スバルは知っている。彼女がどれだけ優しい存在なのかを。他人のために死んでしまえるほどの慈しみの心を持っていることを。

 

 彼女をもう一度巻き込むなんて、そんなことができるものか。

 

 スバルは膝を曲げ、ちょうどリルと真正面から向い合う形になるまで腰を落とす。どう転んでも触れないくらいの距離を置いて。そしてポケットからある一枚の硬貨を手に持ち、リルに向けて差し出した。

 

「お嬢さん、こいつをやろう。これはギザ十と言って、この世界で唯一の──」

 

「リルを子供扱いするなぶっとばすぞ」

 

「あれ今感動的なシーンだったよね!?」

 

 まさかの感動のワンシーンがキャンセル。今までの衝撃が強すぎて忘れていたが、そういえばリルはこんなやつだった。

 

「ついでにリルに目を合わせようとしないで。殺すよ、姉様が」

 

「そこは他人頼りなの!?おかしいな俺、話すときは他人の目を見てって教えてもらったんだけど!?」

 

「誰だそんな無責任なこと教えたやつ」

 

 お前だよ!と叫びかけて、やっぱり嫌われたくないので止める。というか、リルに対する彼女の助言がカケラも役に立っていない。上から見下ろすなも目を合わせろも全部リルの助言だったはずなのだが。

 

「…………もういいや。とにかく、これもらってくれる?そうしねぇとなんか俺の気がすまねぇから」

 

「おじさん、追加でレモムください」

 

「聞けよ!」

 

 話を全く聞こうとしないメイド。やはりどの世界線でも、彼女は誰よりも自由で、自分を偽ろうとしない。

 

 果物屋からレモムを受け取ったリル。さては顔に汁をぶっかけるつもりか、と身構えたが。意外にもメイドはそれを潰すことなく、受け取ったソレを差し出してくる。

 

「あげる。交換ね」

 

「………あぁ!交換だ!」

 

 スバルはこの世界では一銭にもならないであろう硬貨を。リルは爆弾にもなる熟れた黄色の果実を。それぞれ、交換しあったのだっ

 

「えい」

 

「おんばさらかんみにはっ!?」

 

 再び眼球をビタミンCが焼いた。握っていた十円が宙を舞い、転がるスバルの腹に着地する。

 

「こいつ目の前で潰しやがった!?」

 

「出会いがしらに変なもの渡されても困る。むしろ顔面を殴らなかっただけ褒めてほしい」

 

「そりゃ警戒するだろうけども!そこは受け取っといてくれよ忘れられない思い出パワー的なアレでさ!」

 

「そのギザジュウが爆発物だったら服が破けて困るし」

 

「俺より服の心配!?ほれ見ろ!レモン汁で若干綺麗になったこの十円玉を!これが爆発物に見えるのか!?」

 

 どこまでもマイペースなメイド。露天の前での一波乱が、またも繰り返されようとしていた。

 

「……このままそっちのペースに巻き込まれるのは癪な気がする……よーし聞け!俺の名前はナツキ・スバル!天下不滅にして傲岸不遜なる一文無し!さぁ、お前の名前を教えろっ!!」

 

「スバルが勝手に名乗ったのに?」

 

「それでも名乗れ!他ならぬ俺自身へのために!」

 

「………わかった。わかったよ。教えてあげる。リルの名前は…」

 

「偽名は!無しで!」

 

 その名前を何とか遮る。今度こそ、スバルは彼女自身の口からその名前を聞きたいのだ。もう二度と、彼女の名前を忘れないように。

 

 やろうとしたことを先回りされ、目をパチクリと瞬きさせた少女。仕方ない、とひとつため息をついて、仕事モードなのか微笑を携えてメイドらしく恭しい一礼をした。

 

「ご機嫌麗しゅう。ナツキ・スバル。とある辺境伯様の屋敷にて従者をやらせていただいております。リルと申します。お気軽に、リル様とお呼びください」

 

「……最後のがなきゃ完璧だったよ、ちくしょうめ」

 

 笑いながら毒を吐き、歌うように毒を吐き。最後には誰かを思うメイドの名は、どうやら今度こそ、偽名ではないようだった。

 

 この世界に来てからの礼儀正しい自己紹介を、会って3回目にしてようやく聞くことができた。

 

 実にスバルが初めて耳にした、異世界人の初めてのフルネームだった。

 

 

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 はい。スバル君をおちょくって遊びました。僕です。

 

 四周目になるとスバル君をいじる以外特にこれといってやることがない。

 

 僕だ。

 

 いやね、そりゃあ考えましたよ僕だって。もう何回か遊べたりするかなぁって。

 

 でも、これ以上殺すと闇落ちしてアヤマツ√行きそうなんだもん。そうなったらもう姉様方でしか愉悦できないし。断念するしかないよ。

 

 とりあえずなんかスバル君が僕に気を遣ってくれてるみたいなので『カドモン』を離れて、人混みに紛れてスバル君を観察することにする。ここで離れられたのは、結構ラッキーだったかもしれない。

 

 というわけで、エミリア様に会うため適当に路地裏へと入っていくスバル君。ハズレなんだよな。まぁ、トンチンカンはスバル君に目をつけてるからどこの路地でもエンカウントするんだけど。

 

「きゃー!誰か!来て〜!!暴漢よ!暴漢に襲われてるわ!!」

 

「なっ、テメェ正気か!?今すぐやめろ!」

 

「あーあー!聞こえなーい!誠意が足りなくて聞こえなーい!」

 

 あ、スバル君が裏声で助けを呼んだ。よーし、それじゃあ隠れますかね……陰魔法使って、人混みの中に全力で。

 

 あの鬼ごっこは二度と体験したくない。四周目にあんなことをする羽目になるなら、僕はもうラインハルトのことを二度と許せなくなる。あいつとは関わらないのが吉。はっきりわかんだね。

 

 ラインハルトとスバルの邂逅シーンを逃しつつも、助かったらしいスバル君。しばらくするとのこのこと路地から出てくる。

 

 そうして盗品蔵目指して。とっとこ〜走るよスバル君。だ〜い好きなのは〜美〜少女の膝〜

 

 ほい。なんか途中で美女にぶつかったスバル君。誰であろう。

 

「あら。あなた、私のこと、恐がってるのね」

 

 能登さん(腸狩り)である。

 

 声が大変いやらしくありまして。僕のことを殺しかけてくれて、ついでにスバル君の罪悪感を一層煽ってくれた天使でもある。崇めるわ。

 

 と、スバル君が普通に突っかかりそうな勢いなので、陰魔法使って軽く怒りの感情を麻痺させておく。流石に今やっても勝てないでしょ。能登さんに負けっぞ!

 

 冷静さを取り戻してくれたスバル君。何とか襲いかかることはなく、適当なことを言ってエルザから逃れようとする。エルザとしてもここで騒ぎを起こすのも面倒なはずなので、平和的に解決を………

 

「ところで………後ろにいるあのメイドさんは、あなたのお知り合いかしら?」

 

 …………パードゥン?

 

「リル!?おま、なんでこんな……」

 

 能登ぉぉぉっ!!お前えぇぇぇっ!!余計なことすんなぁぁぁっ!!尾行しづらくなっちまっただろぉぉっ!!

 

 おいこら、ちょっと認識阻害の陰魔法使ってたのにどうしてくれんだよ。魔法に対する耐性くっそペラいんじゃなかったっけ?それともあれか。暗殺者としての勘とかか。

 

「………スバルが何か悪さをしないか気になってたから。人を殺しそうな目をしてたし……」

 

「そんな悪人顔か俺!?そこはもうちょっとこう、『スバルの心配なんてしてなかったんだからね!』みたいなツンデレをさぁ!」

 

「スバルが心配?……ふっ……」

 

「鼻で笑ったよこいつ!?」

 

 嘘です。死なれると普通に困る。

 

 敵の前で随分悠長にしてるよなぁ。うんまぁ、手を出そうとしてきたらいつでも殺せるくらいの準備はしとこう。

 

「だがリル、お前がいるなら話は早え。今すぐこの女を…………って、なんでもねぇや、やっぱ」

 

 おい。今エルザ殺させようとしただろ。今すぐこの女を殺してくれ的なニュアンスの言葉吐こうとしたよな、おい。流石にまだ何もやってないかもしれない容疑者段階だから殺せんぞ。愛しいスバル君がどうしてもというならやってやれなくもないけど。

 

「あらあら、仲がいいのね。それにとてもいい敵意。ゾクゾクしてしまうわ」

 

 男二人で話してるのに恍惚とするとか、もしかしてエルザさん腐ってらっしゃる?ありそうだな。

 

「それじゃ、私はここで失礼するわ。大事な用事があるの」

 

 振り向きざまに手を挙げ、敵意のないことを示してからエルザは去っていく。あのなりで多分スバル君が襲いかかったら返り討ちになるくらいには構えられてるな。

 

 その姿が消えるまでファイティングポーズを取り続け、不意打ちの心配がないことをスバル君に伝えておく。

 

「リル、悪い。助けられちまった」

 

「………探し人がいるから、ついでにスバルを見張ってただけ。この後は、ホントにスバルのこと見てないからね」

 

「あぁ、そうしてくれ。これ以上、お前に迷惑かけるわけにもいかねぇからな」

 

 サムズアップをしてくるスバル君。……うーん、善人だよなこういうとこ。

 

 まぁ、この後はフェルトの寝ぐらに行ったりだし。最後にエミリア様の名前聞く時まで、離れておくのもアリかもしれない。ラインハルト来るし。

 

 ……なんか、すっかりラインハルトが天敵になってしまった。

 

「じゃ、リルはここで」

 

「おう、また会おうぜ」

 

 うーん、ナイスガイ。でも目つきは悪い。

 

 跳躍して、ボロ屋根を渡っていく。今にも崩れそうな足場も、重力を軽減する陰魔法を使えばなんとかなる。ほんと、陰魔法様々だ。

 

 にしても、ホントにどうしようかな、この後。

 

 なんだかんだでスバル君から強奪した懐かしのギザ十を手で弄びながら、そんな考えにふけるのだった。

 

 てか、これってこの世界でオンリーワンの品なわけだよね。くっそレアモノじゃん。

 




という、フラグ。

エミリア→偽名
パック→精霊としての名前で猫
トンチンカン→論外
フェルト→偽名
ロム爺→渾名
エルザ→フルネームは明かしてない。

みんなもっと名前名乗って。


地雷原まであと二話ですかね。

ちなみに、64年のギザ十は存在しないそうな。偽造か?
この作品はフィクションです。

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